No.5



『この物語は皆がハッピーエンドを迎える王道なんだ』



『だから、誰も死なないし不幸になんてならないよ』



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大切な人を取り戻す。その願いはオレには何よりも代えがたい強いものだ。
例え、仲間を欺いても。
例え、友達が自分の吐いた嘘で死んでしまったとしても。
例え、心が軋みを上げてもう逃げ出したいと声を張り上げようとも。
オレには、諦めることなんてできやしない。

受け継いだ。こんなウソ吐きでしかないオレを助ける為に命を散らした洋兄からは力と命をもらった。
力と命は一方的に押し付けられたものだったけど、受け継がなければならかった。
そうしなければ、洋兄の意志が、犠牲が無駄になってしまうから。
手を差し伸べ、行くなと言ってくれた洋兄。誓った、オレは忘れない。
何が起ころうとも武部洋平という人間がオレのかけがえのない日常にいたことを忘れない。
その為にオレは死ねなかった。

戦った。元は人間でオレと同様に大切な人がいたバケモノ――棺守共を切り捨てた。
殺して、殺して、殺して。殺した返り血で染まった自分の手に恐怖を抱きながらもオレは前を見続けた。
嫌だ、もう止めたい。何度も弱音を吐いて座っていたかった。歩くのをやめて休みたかった。
だけどそんな甘えは許されない。オレは一つの命を背負ってしまったから。

今まで駆け抜けてきた日々が脳裏を走馬灯のように浮かんでくる。
喜んで、怒って、哀しんで、楽しんで。
濃密だった数ヶ月は今もオレの胸に収まっている。

その中心だったネーネ。ネーネとの日常はとても眩しくて、かけがえがなくて、優しくて……。
色を失っていた日常に再び鮮やかな色が塗りこまれる。

「そうだ……救われたんだ」

あの子がいたから受け継ぐことができた。
あの子がいたか戦うことができた。
最初は無くなった絆へと至るみちしるべ。それ以上でもそれ以下でもないって思っていたのに。
オレは……。

「彼女もまた、宝物だって思ってしまった」

彼女と一緒にいたのは絆へと至る為? 彼女と一緒に大人になる為?
どっちが本当のオレの思いだったのだろう。
だけどそれはもはや結論づけても意味がない問題であるのと同時に今まで目を背けていた事実だ。
そうだ、目を背けていたばっかりに。






ネーネを失った。






死んだ。オレを護って死んだ。

「あ、ああっああああァァあああアアああぁぁぁぁあああぁあっ、がはっごほっ……ああっ、あああァあああぁあああ!!!!!!」

獣の遠吠えのような声が生まれる。感情を吐き出すだけの汚い声。
だけど、吐かずにはいられなかった。
ウソをついたから。オレのせいで。何もしなかったから。
強く握りしめた手からは血がにじむ。痛い。だけど、ネーネはもっと痛かったはずだ。悲しかったはずだ。苦しかったはずだ……!

“また”護れなかった。

オレはいつだって……大切な人を護れない。そして、二度と戻らないんだ。
諦めずに足掻いてもダメなんだ。天音姉も、ネーネも。
もう、いないんだ。

「だから……いないから、取り戻す。あの日常を終わらせは、しない!」

何でも願いを叶える夢の様な盃である聖杯。
それは普段のオレが聞けば眉唾ものであり単なる冗談の延長線上だとしか思えなかっただろう。
だが、今のオレはその言葉をウソだと認定する余裕なんてなかった。
もしかすると。ひょっとしたら。



やり直せるんじゃないか、あの日常を。天音姉とネーネの二人を取り戻せるんじゃないか。



そんな夢想が頭に浮かび、頬が釣り上がる。
ああ、面白いくらいに笑ってしまう。
くつくつ、くつくつと歓喜の笑い声が思わず漏れ出してしまった。
なんだよ、宝物を取り戻すチャンスはまだあるじゃないか。
ネーネと天音姉に会えるのか? あの笑顔を取り戻すことが出来るのか?
この聖杯戦争に参加し、勝ち抜くことでもう一度オレの世界に光が灯るのなら。

『もう迷いなんてしない』

だから、絶対に最後まで生き残るんだ。この手で人を殺めてでも叶えたい願いがあるから。
たった一つの醜いエゴの為に再び両手を血に染める……!

「で、いつまでへたり込んでるのさ。考え事の時間はもう十分だよね? さっさと立ちなよ」
「あぁ? っと、うわあっ!? ア、アンタは何だよ!」

オレの重い体を立ち上がらせる為なのか力強く握られた右手。その力強さを受けて意識が現実に戻っていく。
クリアになった視界に映るのは黒髪の青年。
目を細めてバカにしたような目つき。肉がついていない痩せ過ぎな身体。
上から下までさっと見る。背丈と顔つきからしてオレと同年代だろう。

「はぁ……まだ現実を認識できていないのかい? 君が僕のマスターなんだろう、しっかりしてくれないと困るよ。 
 イスラ・レヴィノス、クラスはセイバー。君は?」
「天海陸……」
「リク、ね。この闘いで優勝する為に今後とも宜しくってとこかな」

僕の手を掴んだ四人目の男――イスラ・レヴィノス。
イスラはニヤリと笑って僕の手を振りほどく。
それが、イスラと僕の長い戦いのはじまり。
最初に僕が思ったのは彼は洋兄、タカオ、有栖川とは違って。
同じ嘘つきの匂いがしたことだった。



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これはウソの終わり。
世界を包む苦くて優しいウソ。
その終わりの始まりからズレた物語。



【参加者No.5天海陸@ワールドエンブリオ】
【サーヴァント:セイバー(イスラ・レヴィノス)@サモンナイト3】




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