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全てを呑み込んで熱を帯びていく(前編)



「おっ、あったあった」

アレックスとの自己紹介を終えた後、陽介とアレックスは突然夜の街の路地裏と思しき場所に跳ばされた。(テレビの中の世界で似たような現象を何度も経験したので、驚きはしても慌てはしなかったが)
アレックスが言うには、これはムーンセルによる強制移動で、自分たちが今いる場所は冬木市の新都という所らしい。また、それらに関する知識も、気がついたら頭の中に入っていたらしい。
ムーンセルという聞き慣れない単語や、テレビの中の世界でもないのに何度もワープするという不可思議な現象について聞きたい事、知りたい事はいくらでもあったが、まずは戦いに向けた準備と、具体的な戦略を練るために行動を開始した。
そして最初に立ち寄ったのが今、陽介の目の前にあるコンビニである。

『なるほどな。時間的に殆どの店は閉まっているが、確かにここなら合法的に物資の調達が出来るだろう』

「だろ?何かいくらでも使えるキャッシュカードもあるみたいだし……って、ちょ、今どこから喋った!?」

返事をしようとして振り返ると、そこにはアレックスの姿は全く無かった。しかし彼の声は聞こえてくるという怪奇現象に、陽介は思わず声を荒らげた。

『落ち着け、これは霊体化だ。どうやらこれはサーヴァント特有の技能らしい。
この街で私のような風体の男は目立つだろうから当面はこの状態でいさせてもらうぞ』

言われてみれば確かに最初に見たアレックスの服装はどこかの軍服のような服(というか多分そうだろう)だったので、悪目立ちするのを避ける意味でもその方が良いのかもしれない。

「そ、そうなんだ………。とりあえず、姿は見えねえけど、傍にはいてくれてるってことだよな?」

『ああ。それと私自身、まだサーヴァントとしての自分に慣れていない部分がある。
それに、頭に入ってきた聖杯戦争に関する知識も完全には咀嚼できていない。
正直、一度どこかでお互いの考えやこれからの戦略について話し合いたいところだな』

「そっか。それなら俺に良い考えがあるんだ。
買い物終わったらちょっと付き合ってくれねえ?」

『それは構わんが……どうする気だ?』

「いいからいいから。とりあえず任しとけって」

そう言うと、陽介は店の中に入っていった。
ミネラルウォーターやカロリーメイトといった携帯できる食糧や飲料、ガーゼやバンドエイド等の医薬品、大学ノートと筆記用具一式、そして携帯電話の充電器と電池を手際良く買い物かごに入れていき、そのままレジで精算を済ませる。(安くはない買い物をしたので、カードで精算をする際の陽介はやや緊張した面持ちだったが)
そしてコンビニを後にすると、人通りの多い駅前に出て、キョロキョロと何かを探し始めた。

「マスター、何を探しているのだ?」

「教会だよ。あの胡散臭い神父にはもっと聞いておきたい事が山ほどあるし、中立地帯ってことならゆっくり作戦も立てられるだろ?
そうだアレックス、あんた、教会の場所とか知らねえか?」

『一応場所は分かる。というかマスター、土地勘も無い場所で当てずっぽうで探すつもりだったのか?』

アレックスの指摘に、陽介は露骨に目を逸らして口笛を吹き始めた。これで誤魔化しているつもりらしい。
あまり深く考えていなかった様子のマスターに、アレックスは心中で溜め息をついた。
生前の自分は他人の世話を焼く性格では断じてなかったはずだが、どうにも調子が狂う。
しかし、今の自分は戦闘生命、キース・シルバーではなく、アレックスという一人の人間だ。ならば、こんなやり取りも悪くないのかもしれない。
ちなみに、陽介は最初に出会った時から一貫してアレックスを真名で呼び続けているが、アレックスの方も特に訂正する気は無かった。
通常、サーヴァントはクラス名を用いて真名を秘するのが聖杯戦争の暗黙のルールだが、アレックスの宝具や戦闘スタイルは、槍兵のクラスにはそぐわない特殊なものだ。
故に、敢えて真名を晒して敵の油断を誘い、クラスを隠蔽する方が戦略的に有効だとアレックスは判断した。(彼自身、自らの真名を知られるリスクに頓着していないというのもあるが)
ただし、アレックスはこうした考えをマスターである陽介に伝える気も無かった。
この妙なところで残念さを発揮する少年は、ここぞという場面でこちらの作戦を台無しにしそうな気がしたからだ。



教会への道中、陽介はずっと考え込んでいた。
最初は新手の詐欺か何かだと思った聖杯戦争の誘い。
しかし、結局は願いを叶えるという誘惑に耐え切れずこの電子の世界(先ほどアレックスにも聞いて確認したので恐らく間違いないだろう)に足を踏み入れた自分。
そして、脳裏に浮かぶのは元の世界に残してきた家族や、自称特別捜査隊の仲間たちの事。

(あいつらには悪い事しちまったよなぁ…。せめて悠か直斗には相談しとけば良かった…)

生田目の件もあり、最近は学校以外であまり顔を合わせることは無かったが、それでも事前に知らせるくらいの事はするべきだった。また一人で空回りし、先走ってしまった。
元の世界での自分はどうなっているのだろうか。失踪扱いにでもなっているのかもしれない。だとすれば、家族や友人たちには心配をかけてしまうだろう。

(でもまあ、悠なら上手いこと皆をまとめてくれるだろ。
ってか、家出と思われた挙句、「そっとしておこう」なんて流れになったりしてねえだろうな……)

一瞬脳裏に浮かんだ地味に嫌な想像に思わず顔を顰める。

『マスター』

と、それまで沈黙していたアレックスが声をかけてきた。

『教会に入る前に聞いておきたいことがある。これから他のマスターに出会った時、貴様はどうするつもりだ?』

曖昧な返答は許さない、といわんばかりの強い語気で問われ、陽介は一瞬たじろいだ。

「……そりゃあ、殺し合いなんてやめろって呼びかけるさ。俺らは人を殺すために戦うわけじゃねえからな」

『それを相手が聞き入れず、我々を攻撃してきたら?』

「……その時は戦うしかないだろ。けど、殺すのはなしだ。そんなことしたら、それこそ本末転倒じゃねえか」

『その考えは危険だ。相手もサーヴァントを従えているのだから下手に手心を加えればこちらが危うい。
それに、首尾よく相手を殺さずに済んだとしても、戦った相手が別のマスターやサーヴァントに殺されることも有り得る。そして、これが殺し合いである以上そういった瞬間は必ず来る。
積極的に他人を殺せとは言わんが、聖杯を破壊する過程で他人の死を受け容れる覚悟ぐらいはしておけ』

「………それは」

アレックスの言葉に、陽介は俯いた。
それは、聖杯を破壊し、殺し合いを打破するという大義名分の下、陽介が無意識のうちに目を逸らしていた事実だった。
本当の意味で誰も傷つかずに殺し合いを終わらせられると心底信じられるほど、陽介は戦いというものを軽く見てはいない。
それでも、他人の命を奪う、あるいは、見捨てるという行為を素直に許容することは出来ない。それは、単に彼が現代日本人としての倫理観を持っているから、というだけの理由ではない。
身近な人を理不尽に殺された被害者としての悲しみと、人の命を奪った加害者としての苦しみを身をもって知っているからこそ、陽介は未だアレックスの言う覚悟を固めることができない。
それでもアレックスに反論しようと必死に頭を回転させようとしたが、その思考は突然実体化した当のアレックスによって中断させられた。

「マスター、サーヴァントの気配だ。こちらに接近してくるぞ」

「えっ!?」

思わずぎょっとして周囲を見渡して、自分の視界に教会を捉えて、またも驚く。
どうやらいつの間にか教会のすぐ近くまで来ていたらしい。
そして、自分たちの正面から、四人組の男女が歩いてくるのに気づいた。






銀髪の青年とランサーとの戦闘の後、無事(?)に合流した雪輝、由乃、キャスター、アーチャーの四人は、再び教会へと歩き始めていた。
もっとも、先ほどの戦闘の余波で周囲の道路や電柱等が大きく破壊され、ランサーが去ったことで人払いの結界も解除されたために野次馬が集まりはじめ、急いでその場を立ち去らなければならなかったという事情もあるが。
そして現在、彼らは四人連れ立って歩いている。そう、四人である。

「………あの、」

「どうかしましたかご主人様?」

「ユッキー、どこか具合でも悪いの?」

具合が悪いといえば悪い。しかし今、そんなことは口に出せない。
なぜなら、由乃とキャスターが雪輝の右腕と左腕にそれぞれ絡み合い、肉眼で捉えられそうなほど火花を散らしあっているからだ。
しかもお互い胸を押し付けながら密着してくるため、雪輝の胃と心臓が緊張とストレスでマッハである。人目を避けるという配慮はどこへ行ったのだろう。
涙目になりながら視線でアーチャーに助けを求めたりもしたが、無情にも軽くスルーされた。彼曰く、「折角だから今のうちに楽しんどけ。どっちも泣かすなよ?」とのこと。
そんなアーチャーも、由乃の注意が逸れているのをいいことに実体化した状態で歩いている。おかげで先ほどから通行人(といってもほとんどいないが)からの視線が痛い。

「ところでご主人様、さっきのランサーとイケメン眼鏡のことですけど」

「えっ?う、うん、何?」

密着されているせいもあるが、あまりにおっかなびっくりな返事をする雪輝にキャスターは若干呆れた素振りを見せた。

「何じゃありませんよご主人様。ご主人様もそこのヤンデレっ娘も聖杯戦争初心者なんですから、戦った相手のことはきちんと分析しておかないと」

「ご、ごめん」

聖杯戦争に熟練者なんているんだろうかと疑問に思ったが、口には出さずに素直にキャスターに謝る。

「何か言いたそうな顔ですけど、まあ良いです。
実はさっきのムキムキ蒼タイツランサーは、自分の真名を暴露したに等しい事を行なったんです。それが何かわかりますか?」

頭を捻って考える。
ちなみに、サーヴァントの真名に関する知識については、道中、キャスターから聞かされているのである程度は知っている。(キャスター自身の真名については教えてもらえなかったが)

「えっと……あ!もしかして、あの槍かな?
確か、“ゲイ・ボルク”とか言ってた気がするけど……あれがあのランサーの真名のヒントってこと?」

「大正解!さっすが“私の”ご主人様です♪」

褒めてくれるのは嬉しいが、妙な強調はやめてほしい。
由乃が怒りや殺意を通り越して感情が消えた表情で睨んでいるから。
そんな由乃に気づいているのかいないのか、キャスターは構わず説明を始めた。

「まあ先にぶっちゃけちゃいますと、あのランサーの真名はクー・フーリン。
アイルランド出身の英雄ですね。ルーン魔術を使ってましたし間違いないでしょう」

「……ごめん。僕、クー・フーリンの事ってあまり知らないんだ。
名前ぐらいは聞いたことあるんだけど……」


「まあケルト神話は日本じゃあまりメジャーじゃないからしょうがないですね。
クー・フーリンといったら色々な伝説がありますが、それを全部話すとこのssの文字数が大変な事になってしまいますので、ここでは割愛しますね」

「ちょ、ちょっと待った!ssとか文字数って何なのさ!?」

「そこはまあ、偉い人の都合という事で」

キャスターの口から飛び出した不穏な単語に対する雪輝のツッコミは軽くスルーされた。

「それはさておき、あのランサーの宝具というのががさっきご主人様に放たれた“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク」。因果を逆転させて“既に槍が標的の心臓に命中している”という結果を先に弾き出してから攻撃を仕掛けるというトンデモな魔槍です。
これを防ぐ方法は二つ。一つはさっき私が行なったように魔槍の攻撃力を上回る防御力の防御結界を張ること。
もう一つはサーヴァントのステータスに換算してランクA以上の幸運の持ち主であることです。それだけの幸運を持ってるサーヴァントはそういないでしょうけど、持っていれば魔槍の因果を歪めて通常の回避行動だけで魔槍を躱すことができます」

「えーっと、それって……すごく防ぎにくい攻撃ってこと?」

「はい。なので、戦うなら発動する隙を与えずに一息に仕留めるか、マスターを狙うべきでしょうね。まあ、マスターを優先して狙う方が確実ですね」

確かにその通りだと思う。
単純な戦力面において、マスターとサーヴァントでは隔絶した差があることは先ほど思い知らされたばかりだ。
あの時ランサーと相対した時、威圧感で身が竦んで動けなかった時の恐怖は今も鮮明に思い出せる。
加えて今はこちらに二騎のサーヴァントがいるのだから、他のマスターに比べて格段に優位に立てたといえるだろう。
しかし、雪輝にはそれでも不安があった。

「でも、さっきのあの人……何かサーヴァントみたいなのを出してたみたいだけど、あれって何なの?」

先ほど銀髪の青年が呼び出した戦士の像を思い出す。
ひと昔前の番長ルックのような姿のあの像は、身動きできない状態だったとはいえ由乃とアーチャーが駆けつけるまでほぼ一方的にキャスターを打ちのめしていた。
少なくとも雪輝一人では未来日記があっても対抗できるとは思えなかった。由乃と連携して未来日記をフル活用してやっと互角というところだろう。

「あれは多分心象具現化の魔術でしょうね。ぶっちゃけサーヴァントに比べればずっと相手しやすいですけど、さっきみたいに足止め目的とかで使われるとちょーっと厄介ですね」

「大丈夫だよユッキー。ユッキーは“私が”守るから。
それに、私たちの日記があればどんな奴だって……!?」

雪輝を励まそうとした由乃の言葉が途中で止まる。
未来が変わった事を示すノイズ音が聞こえたからだ。
雪輝は由乃とほぼ同時に自分の携帯を取り出した。

【××:×× 剣と炎の波に飲み込まれる。 DEAD END】

「うっ!?」

そこには、雪輝への死の宣告が記されていた。
しかも、相変わらず詳しい時間が分からないのが痛い。

「ご主人様、サーヴァントの気配です!ここまで来て……!」

更に息つく間もなくキャスターが敵の接近を告げる。
すると、雪輝たちの正面約百メートル先の曲がり角から、茶髪の青年と軍服を着た大柄な男性が現れた。

「ユッキー、きっとあいつらだよ!ユッキーを殺そうとしてるのは!」

視線は正面の二人組に向けたまま、由乃の言葉に内心で頷く。
普段、雪輝絡みで暴走しやすい由乃だが、流石に今回は早とちりとは思えなかった。
また、茶髪の青年が先ほどの銀髪の青年と同じものと思われる学生服を着ていたことも、雪輝が由乃の判断を肯定する後押しになっていた。

「アーチャー!あいつらを殺しなさい!!」

「キャ、キャスター!」

雪輝と由乃の指示に従って、アーチャーとキャスターが攻撃態勢に入る。
特にアーチャーは先ほどまで暇を持て余していたせいか、妙に楽しげに見える。

「行きますよ、アーチャー!見敵必殺(サーチアンドデストロイ)です!」

「おう!2対1だが、初めてのまともな戦闘だ。この程度でくたばってくれるなよ!!」

キャスターの呪術と、アーチャーの血液の弾丸が青年とそのサーヴァントと思しき男性に一直線に向かっていった。
サーヴァントの男性がマスターである青年を庇うように二人の攻撃を受け止め、周囲には轟音が響き渡った。

(―――あ、俺死んだ)

自らに迫る二つの攻撃を前に、花村陽介はそんなことを思った。
正面に見えた四人組に声を掛けようとした瞬間の不意打ちで、その攻撃はペルソナを出していない生身の自分を消し飛ばすには充分すぎる威力だということを否応なく理解させられた。
しかし、正面の二人のサーヴァントから放たれた攻撃は陽介に命中することはなかった。
咄嗟にアレックスが陽介の前に出て、攻撃を受け止めたからだ。

「無事か、マスター」

煙でよく姿が見えないが、アレックスが声を掛けてきた。

「え、俺生きてる?」

「当たり前だ。そうそうすぐに死なれては困る」

「そ、そうか。悪い、助かっ……っていいいいっ!?」

アレックスに礼を言おうとしたが、その言葉は自身の驚愕によって遮られた。
先ほどの攻撃による煙が晴れ、再び陽介の視界に映ったアレックスの姿は、以前よりもふた回りほど大きな異形のそれに変わっていた。
何かの金属のような身体は、サーヴァントの攻撃を受け止めた代償に、いくらか欠損しているようだった。

「ちょ、アレックス、おまっ!?」

「落ち着け。私の全身をARMS化させただけだ。
それよりも前を見ろ。あちらは完全にやる気だぞ」

アレックスに言われて前方を見れば、先ほどの攻撃を仕掛けたサーヴァントたちは臨戦態勢のまま油断なくこちらを見据え、その後ろにいるマスターと思しき少年と少女もどこか必死な形相でこちらを睨みつけている。
恐らく自分を敵マスターと認識して攻撃してきたのだろうが、不殺を掲げる陽介はそれでも何とか説得しようと試みた。

「おい、ちょっと待てよお前ら!俺らは殺し合いになんか乗ってねえよ!」

「嘘をつくな!ユッキーを殺そうとしてるくせに!!」

「誤解だっての!どんだけ被害妄想だよ!?」

「アーチャー!キャスター!早くあいつらを殺して!!」

訂正。陽介が落ち着けていないせいか、話の噛み合わない言い争いと化していた。
そしてアーチャーと呼ばれたガラの悪そうな大男が獰猛な笑みを浮かべて前に出る。
恐らくあの男が前衛、そして狐耳のキャスターが後衛でアーチャーの援護、あるいはマスターである陽介を直接狙うのだろう、とアレックスは判断した。

「ここまでだ、マスター。話しの通じる相手でないことはもうわかっただろう。
応戦するぞ」

自らのサーヴァントの最後通牒に等しい言葉に、陽介はまだ暫しの間逡巡を見せたが、ついに決断を下した。
人を殺したくはないが、ここで死ぬわけにもいかないのだ。

「……わかった。頼むぜ、アレックス」

学生服のポケットから馴染み深く、そして、ここ最近無意識のうちに避けていたものを取り出す。
自称特別捜査隊として活動していた時に使用していたメンバーの証のオレンジ色の眼鏡。
それを掛け、精神を集中させる。
ここはテレビの中の世界ではない。しかし、この世界に足を踏み入れた時から心のどこかで「できる」という確信があった。
それを証明するかのように、目の前に魔術師が描かれたタロットカードが現れた。
そして、迷うことなくそれを砕く。

「ペルソナ!!」

陽介の声に応えるように赤いマフラーを首に巻いた、まるでアメコミから抜け出てきたかのような忍者の像が光とともに現れた。
それは彼の心の具現にして、覚悟の仮面。

(もう一度頼むぜ、ジライヤ)

心中でもう一人の自分の名を呼び、正面を見据える。
すると、アーチャーが文字通り目にも映らないほどの速さで襲いかかり、それをいつの間にか身体を修復させたアレックスが事もなげに受け止めた。
戦闘開始だ。陽介は教会の敷地内ギリギリまで避難し、塀の影に隠れつつジライヤの操作に集中することにした。






茶髪の青年にアレックスと呼ばれた敵サーヴァントと戦うにあたって、キャスターとアーチャーが取った策は正攻法、つまり二人がかりでアレックスを確実に仕留めることだった。
マスターである青年を狙う方が早いだろうが、なにしろ相手は雪輝にDEAD ENDフラグを立てているサーヴァントだ。どちらか一方の相手をしつつ、マスターを直接攻撃する切り札を持っている可能性が高い。
そうである以上、マスターを狙う隙を一切与えないほどにアレックスを拘束しておく必要があった。
それに、茶髪の青年が教会の敷地内に退避してしまった事も理由のひとつではある。
教会が非戦闘地域に定められている以上、敷地内に大規模な攻撃を仕掛ければそれだけでこちらがペナルティを被る可能性がある。それでは旨みがない。
だからこそのサーヴァントへの集中攻撃。しかし、ここで誤算があった。
茶髪の青年が先ほど呼び出した忍者の像だ。(恐らくあの銀髪のマスターが呼び出した戦士の像と同種のものだろう)
それにより、形だけではあるが戦況は2対2の様相を呈していた。

「行け、ジライヤ!“マハスクカジャ”!」

青年の指示を受けたジライヤと呼ばれた忍者の像がアレックスに魔術をかけた。
すると、アレックスの敏捷値がB+からA+に変化し、キャスターとアーチャーの攻撃を捌いていた彼の動きが目に見えて素早くなった。

「キャスター、気をつけて!あのサーヴァントの敏捷値が上がったみたいだ!」

「はい、ご主人様。それにしてもあのオー○ーマンもどき、身体強化魔術(フィジカルエンチャント)とは味な真似をしてくれますね」

雪輝の忠告を聞きつつ、キャスターは策を練り直す。
現状、アレックスに対する集中砲火は、彼をその場に釘付けにする以上の効果を発揮していないと言わざるを得ない。
その原因は、ジライヤによって引き上げられた敏捷値よりもむしろ―――

「チッ、またか!」

アーチャーの舌打ちに心中で同意する。
見れば、今しがたアーチャーの血液の弾丸によってつけられた傷が文字通り一瞬のうちに修復されていた。
通常のサーヴァントの回復能力から大きく逸脱した再生能力。それこそがあの異形のサーヴァント・アレックスの宝具のひとつなのだろう。加えて、Bランクもの対魔力スキルによって、キャスターの呪術も無効化こそされないものの大きく威力を削がれていた。
その尋常でないタフネスの前に、キャスターとアーチャーの攻撃はまるで決定打を与えられずにいた。

「それで打ち止めか?ならば今度はこちらから行かせてもらうぞ」

to be Continued……



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全てを呑み込んで熱を帯びていく(後編)
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