かぜなきし

雨が、しきりに降っている。
まるで、流れた血を全て洗い流すように。

曇り空が、また一層深まってゆく。
まるで、誰かの決意を晴れ晴れとさせないように。


そして、風が、啼いている。

まるで、神々の想いを拾ったかのように。


大気は色々な想いを反響し、呼応させてゆく。
先程までそこに居た、若く気高き勇者達はもう居ない。
先程まで荒れていた、異常気象はもう止んだ。

ただそこには、張り詰めた空気が。殺陣があるだけ。


これは血の流れる、所詮ありふれた戦い。
狂ってしまったこの世界では当たり前の話でしかない。

されど。人と人もしくは神と神の、それぞれの想いが交錯しているのもまた事実。
家族を愛する、その一心があるからこそ。
皆が皆、死を覚悟する。



―だから、人は、かくも必死になれるのだ。





─────────────────────────────



【昼】D-2 猫の隠れ里






隠れ里に建っている家々の内の一軒。その屋根の上に、ウェス・ブルーマリンは座していた。
兄という家族を殺し、妹という家族をとの生活の再来を望み守らんとする……至って普通な目的を持ったスタンド使い。
しかし、さも退屈げに欠伸を浮かべる様は先程二柱に吼えていた様相とは似ても似つかない。


「あんだけ大口叩いておきながら……結局は同士討ちか。
 『神』ってヤツもつくづく難儀なものだな……」


「大口叩いておきながら、はこちらのセリフよ。あれだけ喧嘩売っておきながらあの二人の戦闘を傍観に徹するだなんて」


ウェスの座す家の丁度隣の家の屋根で立ち構えているのはリサリサ。
その表情は凛々しく見えるが、彼女も息子という家族を守らんとする者。

家族を排す者と家族を守る者が、ここで血で血を洗わんとしていた。


こうなった理由はごくごく単純。
諏訪子と神奈子が、ウェスとリサリサも混じえた二対一対一という構図で対峙した直後に駆け抜けで一対一で戦闘を始めたのだ。
それを機にウェスが方向性を漁夫の利にシフト。それをリサリサが追った形となる。


「あぁ?知るかよ。あんなバカ騒ぎに巻き込まれてぇヤツがどこに居る。
 それともなんだ、お前……死に急いでるのか?」


「……大した殺気ね。そんな年端も行かぬ様相で家族の血を見る覚悟なんて、中々出来るものじゃないと思うけど」


挑発も、リサリサにはさしたる影響すら見えない。
ウェスは一回、溜息と深呼吸を同時に行うかのように呼吸をする。



自分のペルラを想う気持ちと、向かう相手の家族を想う気持ち、それはどちらも同じような物だろう。
ただそこには既に死んでいる人物と、未だに生きている人物という明確な違いがある。
だから、蘇生という手段に縋るしかない。未だに守るという選択肢がある相手が羨ましい。

この戦いは、盲で泥濘を進んでいる最中に見付けた一筋の光明なのだ。
妹の為なら、復讐に身を堕として参加者を狩る事も決して厭わない。


故に。

未だ守る家族が存在している相手を見て、殺意が収まらない。



「グチグチ煩わしいな……他人の命なんて、ここじゃ虫ケラみてぇなモンだろ。
 血が繋がってろうがなかろうが、所詮は儚い命に過ぎねぇ。家族だから、なんてのはただの言い訳だ」


「そう、ね……。私なんて、今更『家族だから』という言い訳だけで母親振舞いをしようとしている。
 五十路入って、漸くよ。今までロクに家庭を鑑みていなかったクセに、今更。」


「ほう?五十には見えねぇがな」


「女は秘密だらけなのよ」


「……そうか」


空気が、凍てつき始めた。
殺意が刻一刻と増していく。呼吸を整えていく。
二人が臨戦態勢へと移る。
互いの双眸が見据え合い、逃げる隙を与えない。

最早衝突は避けられぬ。


「遺言はそれで充分か?若作りバァさんよ」


「若作りってのは間違ってないから敢えて訂正しないけど……そうね。老婆心で言わせてもらうわ。
 家族は失う物だと分かった上で愛を注がなければ、いつか身を滅ぼして後悔に苛まれるハメになるわよ」


「ハッ、それは殊勝な心がけだな。尤も、あのクソ兄貴に愛なんて注げるワケがねぇんだが。
 そして俺からも一言付け加えておく」


ウェスがスタンドの像を顕にさせる。
怒りが、彼の嫌う『神』の怒りに代替わりされて放たれんとしている。
スタンド使いと波紋使いの戦いの火蓋が切って落とされるまで、あと数秒。

―そして、吼える。




「失った後は藁にも縋るとなァッ!」



─────────────────────────────


【昼】D-2 猫の隠れ里 入り口付近





隠れ里の内部からですらくっきり見えるレベルで規格外な応酬。
その発生源は八坂神奈子と洩矢諏訪子の2名。
神と神。そのどちらもがが決死の様相で行うは、意地の張り合い。


「諏訪子ォ?アンタは曲りなりにも高位の祟神、土着神の頂点じゃなかったかしら!」


「神奈子……!アンタは一体何がしたいのさ……!」


左腕で。まだ完全に接合出来ていない右腕で。洩矢諏訪子は生成した鉄輪を投げる。
しかし、諏訪子の投げる鉄輪は如何に速く投げても、如何に穹窿形を描いても、神奈子には全く届かない。
風が、神奈子の意思が、阻まれる事を許さない。
神奈子に対する苦渋が、家族への想いが諏訪子に殺意を抱かせるに至らない。

両掌を合わせ、信仰に身を委ね。八坂神奈子は生成した御柱を放つ。
しかし、神奈子の放つ御柱は如何に速く放っても、如何に逃げ道を塞ごうとしても、諏訪子には全く届かない。
大地が、諏訪子の早苗への想いが、道を譲る事を許さない。
諏訪大戦の再来への高揚が、家族に対する愛情が、神奈子に殺意を増幅させるに至らない。


それは奇しくも、正常な幻想郷(セカイ)での金科玉条。
力任せでも純粋な殺意でもなく、優雅さに重きを置いた『命名決闘法』を彷彿とさせる戦い。

片や、奇祭「目処梃子乱舞」。
片や、鉄輪「ミシカルリング」。

今や機能していない詔が、そこでは微かに回帰している。


それでも、彼女達を取り巻く環境は変わらず。
互いを知り尽くしたハズなのに、すれ違っていたヘビとカエルが一柱ずつ。
喩え世界のしきたりが戻ってきたとしても、世界線までが戻ってくる訳ではない。

殺意は抱けず。されど怒りは収まらず。
海千山千の仲だった自信があったからこそ目の前の敵を弑する覚悟が出来ない。

―理由が、必要だった。


「なんで……なんでアンタは……!早苗を殺すだなんて……!」


土着神の慟哭が響く。
それでも、風は掴めない。


「神は、しきたりに生かされる者。郷に入っては郷に従え、なんて諺もあるじゃない?」


「本気でそれを……世界の為に早苗を殺すって言うのか……!」


「あの子は幼い。互いに支え合える仲間を見つけたとしてもそれは時間稼ぎに過ぎない。
 家族は三人。だけど、勝者は一人のみ。変えられない理には抗えない。
 早苗が自分の手を汚さずに生き残る道は、無い。
 だから……私が。親である私が愛情を以て苦痛を祓うしかない。……所詮は、正当化の理由なのかもしれないけどね」



自嘲気味な笑い。
驚きを、隠せなかった。
隔靴掻痒、それが悔しかった。
家族とはそんな繋がりだっただろうか。
いつから神奈子は、そんな歪んだ愛情を抱えてしまったのだろうか。

信仰を失い、私達は幻想郷にやって来た。早苗から両親や友人を奪ってなお、その行為が正しかったと信じて。
だからこそ『家族の絆』は強まった。強固で、崩れない物であると思っていた。
幻想郷での生活は、私達を大いに成長させてくれていた。
色んな人妖との繋がりが出来た。酒の宴も更に楽しくなった。早苗に友人と呼べるような存在が再び出来た。

純粋に、楽しかった。
三人で力を出し合えば、どんな難題だって解決できる。そうも思えるほど。


なのに。

なのにどうして。


どうして神奈子は、暗々裏にそんな事を抱えて。独りだけ違う道を選んで。

そして、独断で早苗を殺すだなんて―



心に引っ掛かっていた枷が一つ、地面に落ちる音が耳に残った。



「言いたい事は山ほどある。でも今は一つだけにしてやるよ」


先程の声色と、何かが違う。
魔理沙と徐倫が居なければ、もっと早く出ていたであろうその声。


カエルが、ナメクジへと。

ヘビが、居竦まる側へと。


最早隠せない程の瘴気。
後戸から漏れる後光すら隠すような、ドス黒い殺意。
神奈子にはそれが何であるか、否応が無しに伝わった。

昔時にも見たあの顔は今でも忘れられない。
侵略者としての自分を迎え撃った、『あの時』の顔だ。
自分に向けられた牙を飄々と受け流しつつも、はやる期待に高揚を隠しきれない。


両者の感傷も感情も、際限なく漏れ続けている。



「いつから早苗に自分の考えを押し付けるようになったぁあぁぁあぁ!!!」


鬨の声、ここに極まれり。


「いつからだろうねぇ。でも……早苗にこんな血生臭い光景見せられる訳が無いよなァ!」


歪んでいても、愛は愛。
形が違えども、根底にある物は一緒だ。


神秘「葛井の清水」。
源符「諏訪清水」。

底無しの感情を携えて、涸れぬ神水を象ったスペルカード。
二人の思惑と思惑がぶつかり合い、そして―




耳を引き裂くような轟音が響く。
地面が震える。
地の底から何か得体の知れぬ感覚が這い上がってくる。







―其れは水。
会場の地下を走り廻る、大動脈の息吹。

諏訪子は懐かしい光景を呼び起こす。
忘れはしない。自分と神奈子が発端となった数個の異変の断章と似たソレを。



さながら間欠泉の様相で、地下水脈を流れる水が隠れ里の入口で溢れ始めていた。




─────────────────────────────



【昼】D-2 猫の隠れ里 入り口付近の樹上







(なっっっっっっっっにコレ!!!!!こんなのが山に居ただなんて信じられない!!!)





度肝を、抜かれた。
後にも先にも続く言葉は存在し得ない、ともさえ。
これが神代より生きてきた神と神の戦い。
これが守矢神社に座す神、八坂神奈子と洩矢諏訪子の衝突。

幻想郷という世界の中では、『命名決闘法』というルールの中では、起こることさえ叶わない。
先程までの戦いは、美しいという印象さえ抱けた。まだ、幻想郷でも起こり得る部類だった。

それが今となっては殺意に塗れている。
死への恐怖が無い世界に身を置いていたのに、気付けばそれが顔を覗かせている。
片や軍神。片や祟神。今となってはどちらもその本質をスペルカード以外で伺わせなくなって久しい。
なのに、たかが半日。されど半日。
彼女達に牙を剥いた幻想郷は、取り巻く環境を激変させたのだ。



「こんっっっっなに美味しいネタが獲れるだなんて思ってなかった……!
 ウェスの方も始めちゃったみたいだけど、こっちなんて特上モンよ!黙って見過ごすわけにはいかないじゃない!!」



はたてにとって、守矢の二柱は近所に住んでいる神という認識しかなかった。
山を利用して信仰を得ようと画策する八坂神奈子。
神奈子の保存食である蛙……っぽい洩矢諏訪子。
どちらも取材の対象としては申し分無かったし、面白い写真も撮れた。
だが、彼女達の関係性など露知らず。
友好そうに見えた二人が、何故対立しているのかさえ分からない。


しかし、そんな事は最早どうでもいい。
『魅力』という一点において、そんな情報は目ヤニ程の価値しかない。
逆にそれさえあれば記事はウケるという絶対的な信頼がはたてにはあった。
事実、正午に予定していた記事の執筆や岸辺露伴との対決を忘れる程に、彼女を熱中させる程の魅力がそこに存在しているのだ。
彼女の網膜は忙しなく動き続ける。



心のどこかで、彼女の何かがこれ以上死体を見たくないと叫んでいる。
災いがいつ自分の身に降りかかるのだろうか、という恐怖がこれ以上戦場に居たくないと叫んでいる。
それらの感情にブレーキを掛けているのが、他ならぬ知的探究心だと気付かない。
新聞記者としての自分が興奮を抑えきれず、一介の少女としての自分を押し殺す。


喩え脳に焼き付いた情報が、上澄みだけでも構わない。
所詮、新聞記者は汚い物から目を背けて、煌びやかな写真を撮って、それを記事に書いていれば満足出来る職業。
そこに対戦相手が居るという状況を加えても、対して変わらない。









それでも。

あぁ。




もし許されるのなら。






「―途中で逃げ出すって選択肢も、ありだよね?」





─────────────────────────────




神と神の衝突は生半可な物ではない。
神代まで遡れば、地形は大蛇の脈動だけですら変動していたし、ましては神同士である。
見る者にまで威圧を感じさせるその戦いぶりは、力に制限がかかるこの土地でも未だ健在。

現に噴出した水の形成する物はは最早間欠泉だけに留まらず。
その水量は池とまで呼称できるまでに拡大していた。


それでも、二柱は明くる日の決着へと歩を進めんとして。

水面より上に構えるのは八坂神奈子。
水面より下から攻撃を放つは洩矢諏訪子。
諏訪子は水中を泳ぎ回り、水上に居る神奈子を鉄輪や石礫、蹴りで奇襲する。
神奈子は御神渡りの要領で水面に立ち、水中からの諏訪子の攻撃を迎撃しつつも動きを読んで御柱をさながら魚雷のように発射する。
二人共激情に身を任せて苛烈な攻撃を加えているが、互いの手を知り尽くしているが故にまともな一撃を与える事が出来ていない。

刎頸の交わりがあったからこそ神奈子は無痛ガンを使わない手に出て、
また諏訪子もそれによって自身の祟神としての本質、即ち神奈子への殺意を引き出せずにいる。
威勢良く鬨の声を鳴らしたはいいが、根底にある『家族』としての記憶が殺意を邪魔してしまうのだ。


その友誼故に、相手は頸を落とさせてくれないとはなんたる矛盾か。


しかし、ここは戦場と化したのだ。既に二人は決死圏に突入している。
水面より上が神奈子の領域。水面より下は諏訪子の独壇場。

ならば、水面で激戦が起こるのは道理。

猫の隠れ里の入口に忽然と顕れた池は、成立と同時に血に染まる事が確定していたのだ。



「まだまだ甘ちゃんねぇ、諏訪子は。一体どうしたのさ。
 あの時みたいに私を撃退する心意気……いや、私を殺さんとする圧を出せば良いじゃないか」


「……長い間一緒に過ごしてきたのに、そんな事出来るわけがないでしょ!
 それに、そんな……早苗を殺すだなんてそれこそタガが外れても無理に決まってる……!
 アンタこそどうしたのさ!!」


「別にどうもしてないわよ。親心故に、守りたいが故に早苗を殺す。
 それとも何、アンタはあの子に殺意と悪意に塗れた場所で生き抜いて欲しいって願ってるのかい?」


「神奈子、アンタ……!」



弾幕と弾幕の応酬、体術と体術のせめぎ合い。
神奈子と諏訪子はどちらもが相手に食われる予感を抱えながら、一触即発の吹き矢を放ち続けていた。



早苗への愛が食い違っている事を、神奈子は当然ながら承知している。だから、際を攻める。
しかし、神奈子は知らないのだ。諏訪子が『早苗は既に殺されている』と知ってしまった事に。
大事な家族への愛情は、注げば注ぐほどに弱点と化す。
際を攻めているハズなのに、気付けばド真ん中を突いているのだ。

相対する諏訪子は、『守る為に殺す』などと豪語しておいたクセに期を逃した神奈子に対して怒りを抱いている。
剰えその役目は、家族ですらないドス黒い悪意に奪われたのだ。
殺意まで抱いては今までの関係が水泡に帰するが故に抑えているが、本当は憎み睨みたくて叶わない。
早苗が既に殺されている事を神奈子に伝えてしまえればこの状況を打破出来るかもしれない。だから、暗にでも良いから伝えてしまいたい。



蛇の道は蛇とは本当に良く言った物。どう着飾ろうとも、最終的には愛情と殺意に帰結する事に変わりはなかった。
互いに互いの状況を知ってしまえば、一瞬で瓦解する砂上の楼閣。
信頼の重さ故に自滅するのが結末だ。




嗚呼、それでも。

信頼している、という一点があるだけで人は愚行を晒してしまう。



「お前、早苗は……もう……」


空気が重みを増していく。口を開くのが億劫になる。呼吸に合わせて肩が揺れる。
御柱を鉄輪で相殺しながら、音を繋げる。

この一言さえあれば、この怒りを鎮めてしまえるかもしれない。
まだ引き返せる、まだやり直しは利く。
そう思えるほど、神奈子に対しての信頼は厚かった。
何故かと聞かれても、答えは一つしかない。

―家族なのだから。


だからこそ。


「もう……殺されているんだぞ?」



言葉が、するりと滑り落ちた。





「……え?」


「さっきさ、悪意の塊みたいなヤツに言われたのよ。……『私が殺しました』ってさ」


神奈子の動きが、止まった。
信じられない、と言うかのような様相で。はやる気持ちを全て押し戻させて。
顔に浮かぶは怒りよりも悲しみ。沸騰していた血液が急激に収縮していく。



「はは。冗談でしょ?」


「私が、あの時早苗を殺せなかったから?」

「あんな所で気の迷いが生じてしまったから?」「家族を喪う事が怖かったから?」

「そんな事も露知らず、私はこんなところで諏訪子と会って」「意気揚々として」「あの時の再来だと喜んで」

「諏訪子を殺してしまえば、心の中にある安堵も戸惑いも全て消してしまえると意気込んで」




「―何やってんだ、私は」



全ての言葉を、一句一句辿るように、繋ぐように。
絞り出された嘆きは自責の念を込めて目の前の諏訪子に届く。


『家族の愛』という物は部外者には不可侵であれ、と。
それを引き裂いて良いのは家族だけだと。
そう思っていた、ハズなのに。

早苗とあの時相対した時点で、家族という殻を完全に破り捨ててしまった。
元の関係には戻れないと知っていても、やった。
だからこそ、それを理解したからこそ。私は家族を手に掛ける事を決めたと言うのに。
純粋な悪意から早苗を守ってやらなければならないと決めたのに。
人は、神に愛されるべきだというのに。


―これでは、何の為に『幻想郷』に溶け込もうとしたのだろう。


雨が神奈子の頬を伝う。
其は神の慈悲かそれとも悲哀か。



「……もう良いでしょ神奈子。私達には殺し合うだけの理由なんて物、一つも無いって。
 せいぜい、喧嘩してから杯交わすくらいが関の山さ」



諏訪子は、それでも、家族の輪から外れた私を引き戻そうとしている。
なんてお人好し。なんて家族に優しいのか。
友の怒りを全て飲み込んで平らげ、平らぎを為さんとするのが蛇でなくて蛙だとはなんたる皮肉か。


そんな諏訪子に対して、神奈子は―




「―!?」


諏訪子の脳髄まで、目から伝わった情報が一瞬で走った。
放たれるは高速の御柱。信仰の顕現が、諏訪子の足元スレスレを通過していく。
咄嗟の判断で難を逃れるも、跳ねた水飛沫までもを回避出来る程の距離を置くことは叶わない。
まさに間一髪。けたたましくグレイズ音が響く程の、紙一重の回避。



「因遁姑息ってのも分かってるけどさ……今更どうこうできる訳でも無くてね」


「神奈子、アンタ……気でも違えたかッ……!」



諏訪子は、結局のところ神奈子という蛇の本心までもを理解出来ていなかったのだ。
信頼と聞くと響きは良いが……所詮はいずれ崩れる砂の城。
『崩れる事はないだろう』という宙吊りの期待で存続していたに過ぎず、故に失策を演じてしまった。
神奈子が殺意を一度抑えた事により、今なら御せるという淡い期待を負った結果がこのザマだ。

千年以上は培った信頼なんてそう簡単に潰れない、なんて誰が決めたのか。
千年以上に渡って互いを顧眄してきたのだから相手の内面まで把握出来ている、だなんて幻想は誰が植え付けたのか。
それがただただ、諏訪子にとって悔しかった。
殺意を神奈子に向けられぬほど、自分が恨めしかった。


尤も、諏訪子と神奈子には『幻想郷で暮らした時間』という避けられぬ程の明確な差があった。
その期間で早苗は成長し、二柱もまた幻想郷に染まり、家族愛は一層深まった。

……悪く言えば、『毒を抜かれた』とさえ言っても良いほどに。




(悪いね、諏訪子……。この『儀式』を制する事が私にとっちゃ必要なのよ。早苗が死んでも、それは生憎変えられないさ……)



自分が恨めしいのは、神奈子も同じ。
今からどれだけ相手を見逃しても、今から如何にして戦いを避けようとも、『人を殺した』という烙印は一生付いて回るのだ。
更に加えて『家族殺し』という宿業さえもを得ようとしている。
自分の行為をどんなに美化しても正当化の理由に過ぎない。結局のところ、殺人はそれ以上それ以下の何物でもない。

幻想郷に来てしまったからには、避けられぬ運命。
『儀式』を勝ち上がる事までも否定してしまっては、何の為に外の世界での生活を捨てたのか。
何の為に自ら罪を背負いにいったのか。

何の為に、早苗に全てを捨てさせてしまったのか。
それすら分からなくなってしまう。

しかし肯定したとしても、待っているのは諏訪子との友誼の棄却。
ヒビを修復するのはまず不可能だと知っておきながら、それでもなお道を進んでいかねばならない。
どちらの信条を選んだとしても、待っているのは後悔と喪ったモノへの悲しみだけ。


それでもなお。何かを捨てる事の重さを知っておきながら。
神奈子は諏訪子との決別を選ぶのだ。
これより先は杯を酌み交わし、酒を御猪口に注ぎ合い、なんて事はもう叶わない。
それでも良いのだろうか、と自分に問いただしながら苦渋の決断を下した。



この時点で、神奈子は諏訪子を殺さざるを得なくなったと言ってもいい。



弾幕が宙を飛び交う。
殺意を携え、関係を無理矢理壊しに行くかのように、乱雑とした弾の群れ。



「もう昔の関係にゃ戻れないってのはさ、アンタも分かってるんだろ?
 愛する家族ももうお互いだけなんだ、いい加減あの時のリターンマッチと洒落込もうじゃないか!」


「……そっか、神奈子には私達の関係よりも大事な物があったんだ」


「……どうだろう、ねぇ」



本心までもは分かっていなかったが、それでも長年連れ添ってきた仲だ。
神奈子が何かを背負ってここに立っている事を、諏訪子は直感的に自覚する事ができた。

『最後の決断までしたのに、後ろを振り向くなんてのはまっぴらごめんだ』と言いたげな自嘲を風に乗せ、神奈子は構えていた。
ここまで来てしまったら、後に残る物は何もない。
空気の流れと、神奈子の表情。それだけで何を為せば良いのか諏訪子には伝わった。
全力でぶつかって、神奈子の覚悟に応えなければならない。
そう思えば、自然と恐怖心が薄れていく。
殺意も使命感も引っ提げて、己が意志をぶつけに行く。

文字通りの刎頸の交わりがそこにはあった。


今から始まるのは勝った負けたの死合舞台。生きるか死ぬかの大喧嘩。



「行かせてもらうよ――繰石『ジェイドブレイク』!」


「良いねぇ……アンタはそうでなくっちゃ! 『神の御威光』!」




ただ、生きるために。風に乗せた思いが集う。





─────────────────────────────





(コイツは面倒クセェな……早いところケリを付けねぇとダメだってのにッ……!)



時を同じくして猫の隠れ里内部。
ウェスとリサリサの戦闘真っ只中、こちらもまた死中に活を求める二人が居た。


殺意を幽雅に避けつつウェスの隙を突いて、波紋を応用した多種多様な攻撃を繰り出すリサリサ。
天候や空気の変動を利用しつつ徹底的に相手を追い詰めていくウェス。

回避しつつ攻撃に転ずる戦闘スタイルと、攻撃を繰り出しつつ相手に的確に対処する戦闘スタイルはどう見ても対照的。
その噛み合わなさは結果として両者の体力を削り続けるだけの根気比べと化していた。


能力差だけ見れば、明らかにウェスの方が有利である。
例を挙げれば、小傘の本体を貫く程の雹や魔理沙の人形を一瞬で燃やすような摩擦熱、猫の隠れ里一帯を覆うほどの怪雨。
攻撃手段の多様性、そして何よりも攻撃に籠った殺意。広い会場の中でもこの二点において勝てる者が居るかは怪しい。


かと言ってリサリサが不利、という訳でもない。
まず場数から違う。その分戦場に於ける感情の制御について分がある。
次に、雨が降っている事によってそこら中に液体がある。お陰で波紋を使った攻撃手段には事欠かないし、体の身の熟しも磨きが掛かっている。

更に波紋呼吸法によって体力の回復も微々たる量ながら行える。
攻撃に専念するより回避に専念した方が長期戦に向いているのは明白だし、我慢比べとなると体力は必要不可欠だ。
異常な体の柔らかさとはじく波紋による瞬発力で回避がギリギリながら出来ている以上、体力勝負に持っていくだけ。


事実、ウェスは致命傷を与えられない事に痺れを切らしていた。



残る支給品が役に立つ物なのかは分からない、ワルサーの弾は何故か髪の毛如きに弾かれる。
その上、氷柱を降らせても突風を起こしても人外じみた動きで回避される始末。
体内で雨を降らせるのも、照準が合わない以上不可能。
それに漁夫の利を狙う以上、体力の無駄な消費は避けなければならない。
なのにそうは問屋がなんとやら、というヤツだ。

一応遠目に見える二人を先に始末するという考えも無くはない。出来なくもない。
が、それでは目の前に居るコイツに競り負ける。
最終的にはどれだけ相手を殺したか、ではなく如何に生き残るのかが問われるのだ。
元も子もないような真似は死んでも御免、あの世で笑い者にされるのがオチ。


何より、こんな所で死んではあのクソ兄貴を自分の手で殺せなくなる。



(―それは何があろうとも許容できるわけがねェ。必ず、この手で聖職者気取りの巫山戯たヤローを地獄に送ってやる。必ずだ……!)



自分の中で燻っていた撃鉄を弾く。
体力切れによる疲れを使命感と執念で上書きしていく。
攻撃は一向に通らない。だがそれがなんだと言うのだ。
地獄の果てまでとことん追い詰めてやればいい。
相手の体力が尽きるまで、相手に致命傷を与えるまでこの前座に付き合ってやればいい。


諦めない闘志。目標まで一直線に走る姿。それが彼女の強さだった。

風はもう啼いてはくれないが、あの数刻の戦いで改めて実感する事ができた。



―迷いはもう、吹っ切れていたのだと。





リサリサもまた、痺れを切らしている。


まず、回避の合間に繰り出す攻撃。これがまず当たらない。
何かよく分からない原理で、攻撃の方向を意図的に曲げられる。曲がらない、と思ったら何故か炎が出ている。
幸い火傷を治す事は出来るが、そちらにリソースを割いていれば体力が持たない。
これでは回避だけで既に精一杯。

しかし、攻撃をひたすらに避けているだけでも相手の折れる気配が見えない。
肩で息をしているように見えても、次の瞬間には素早い拳が飛んでくる。
今はまだ擦り傷だけで済んでいるが、この後どうなるかは言わずもがな分かってしまう。


良く言ってジリ貧、悪く言えば手詰まり。
この先、相手を叩きのめせるような算段が全く見えないのだ。
それでも愛しき子を想えば、親類を殺すなどという思想と対する事に俄然勇気が湧いてくる。

ジョセフからは波紋戦士の師匠としか思われていないが、それで構わない。
むしろそうでなくてはならない。今更母親面なんて出来るワケがない。
ジョセフが守るべき息子である、という事は譲れない事実として依然存在しているのに。
もどかしくともそれが現状だ。


今一度、波紋の呼吸を整える。
赤の他人を気取っているだけでも、息子と再会する事が出来たのだ。更に、成長を見届ける事も出来た。
家庭を顧みなくなってから久しいが、親としてこれ以上に喜ばしい事はないというのは素人目でも分かる。
この会場でまた再会できるかどうかは分からないが、それを憂うほどのやわな人生は生憎だが送っていない。

攻撃に転ずる覚悟を決める。
この手は一度きりしか使えない。あくまで不意打ちの手であるが故に、二度目は通用しない。
だが、僅かな隙さえあればあとは手練手管で押し倒せる強力な技。


今はただ、家族への愛を分かっていない不埒者を成敗するのみという覚悟。




一瞬だった。
ウェスが『ウェザー・リポート』の拳の軌道を修正するその僅かな間に、目に止まらぬ速さでリサリサは何かを投げたのだ。
空気を巻き込んで回転しているその何かの軌道を突風やら空気の層やらで変えることは容易い。
冷静に、ゴミを捨てるかのような呆気なさでそれの動きを逸らして、スタンドの拳を叩き込む。
しかし、ウェスの拳をリサリサは跳躍によって回避。
それと同時にウェスの脇腹の方向へ回し蹴りが放たれる。

そのまま体術の応酬が続く。
投げられた何かの事をすっかり忘れ、ただ目の前の敵を斃す事のみに一点集中するのみ。
それこそ風塵によって相手の動きを遮ったり氷筍を落として相手の動きを塞いだりはしているが、相手の行動を一々覚えていられる訳がない。

リサリサが投擲した物の存在を気に留めさせない程に苛烈な攻撃を加えていたからでもあるが、余りに愚直。



蹴り上げを突風であしらおうとした刹那。
それもまた驚く程の僅かな間に起きた出来事だった。


ウェスは肩に、鋭い痛みを覚える。

何が起こったのか、頭の処理が追いつくまでの余裕はない。
しかし、現に体勢が崩れている。足を躱せるだけの時間すら、リサリサは与えてくれない。

研ぎ澄まされた戦闘のテクニックが。風の邪魔が入らずに放たれるその美しい軌道が。歴戦の波紋戦士のその技が。
執念を浮かべた表情に僅かな驚きを添えて。


ウェスの体躯を隠れ里の外まで悠々と吹き飛ばした。





(なんだアレは……!後方からの攻撃の素振りなんて、全く見えなかったッ……!
 それにあの蹴りはヤバい……!威力は徐倫の拳と同じくらいだが、喰らっただけで電気が走ったみたいに意識が軽くトんだ!
 もう一回喰らって意識を保っていれるかどうか……!)



考えを巡らせど、正体は掴めない。だが、弱音を吐いている場合ではないのだ。
震える体を奮わして、もう一度戦場に立つ。
左肩の肉が軽く抉れているが、レーザーの貫通痕と重なったお陰で痛手という訳でもない。
天候を主に置いた戦法は未だ健在。
復讐者の脅威は少しばかりの損傷では決して潰えない。


リサリサも済ました表情の裏に驚愕の色を隠せない。
向かう相手の執念は波紋で打ち倒せる程の物ではなかった。
ジョセフがかつて編み出したクラッカーブーメランの技と自身の波紋、親子の力を合わせた技を食らってもまだ立ち上がれる程の根気。
確かに、アメリカンクラッカーに回転をかけていた時間が短かったというのもあるかもしれない。
しかしそれ以上に家族の愛を上回るほどの復讐心が影響している。
まさに修羅。手負いの獣ほど力が増す。



気付けば二人が対峙している場所は、先程出来たばかりの池の畔。
いよいよ守矢の二柱からの余波も避けられなくなってくる。
ここまで来てしまえば四つ巴の戦闘だって考慮せざるを得なくなるが、それでもなお気高い覚悟は崩れない。


再び相対する、赤の他人同士の『家族愛』。









だが、こういう時に限って、水を差されるのだ。


甲高く、喧しく、人の精神を逆撫でするような音。
それはもう二度と味わいたくもないと思っていても、この会場であるが故に流れてしまう。

人の死が福音であるはずがない。
あって良いわけがないのに。

悪趣味な声が次いで流れてしまう。
仲間の死を。それぞれの生き様の終わりを。
味わいたくもないそれらを、自分勝手に、意気揚々かつ喜ぶかのように話す忌々しいその声が。




―第二回放送が始まった。





─────────────────────────────



放送が流れ始めても、二柱の激突は止まらない。
これは家族間の問題だ。赤の他人の生き死になんかでは決して妨害できない。
大地を操る神々の、一世一代の大遊びに水を差すなんてあべこべもいい所である。

速く濃い弾幕を、二柱はそれぞれの手法で避けつ迎撃しつつ相手に一撃を加える。
互いを良く知っていると言えど決して簡単ではないそれらの事を、如何にも余裕ありげにこなす点は流石神だと言うべきだろう。

軍神と祟神。司る物は似て非なるが、根底に有る物は同じ。
戦闘に身を委ねていても結局は家族故の行動に繋がっている。
互いに意見が食い違っていたとしても、最終的には家族に良い影響を与えてくれると信じているのだ。
だからこそ、ここでこうして濛気を奮って戦えている。


気付けば、脱落者の読み上げが始まろうとしていた。
諏訪子は無意識の内に自分の手が緩んでいる事に気付く。

理由は明白だった。
戦闘の最中とは言えど、ここで早苗の名前が読み上げられるのだ。
想いを馳せるくらいなら許されはしないだろうか、なんて浅はかな幻想を抱きたいという一途な願い。
家族としての最後の願いになるかもしれない。この場所が戦場だとは百も承知している。
それでも諏訪子は、耳の意識だけを静かに傾ける。



―霊烏路空。
私と神奈子が八咫烏の力を与えた地獄鴉。あれ程強い力を持った者でも、命を落としてしまうのか。

―河城にとり。
同じ山に住む、謂わば隣人。ダムの時は幾許か世話になったが、死んでしまえばそこで終わり。

―多々良小傘。
一時ばかり行動を共にした化け傘。あの後は分からなかったけど、結局あの子も凶刃に倒れてしまった。

―トリッシュ・ウナ。
彼女とも暫くの間行動を共にしていた。……そして、実の親に殺された。それも目の前で。


以上、18名。
宴会以外でも特筆すべき接点があったのはあの4人位か。
18名の人妖の名前が、嫌味や高揚といった感情を覗かせながら呼ばれ……





……あれ?



心に引っ掛かった、大きな違和感。


確かに私はあの邪仙の口から聞いたハズだ。


それなのに。しっかりと耳は傾けていたハズなのに。
私の耳に、その名前は入ってきていない。



長年一緒に歩いてきた、家族の、遠き我が子の、聞き間違えるなんて事は有り得ない名前。

夢ではない。神奈子の弾幕を避けている。風を切る感触が肌に伝わっている。
現実味のある夢なんて物は矛盾している。







――早苗の名前が、そこには無かった。





では、なんだ?

早苗は死んでいない?

あの邪仙が言ったあの命乞い紛いは嘘だとでも言うのか?



呼ばれていないのに死んでいるなんて事は流石に無いだろう。
「あの」霍青娥の言葉より、主催共の言葉の方が癪だが信用できる。

となれば、残された選択肢は一つしかない。




早苗はまだ生きている。



嬉し涙と歓喜の声が啖呵を切って流れそうになる。
全身の血の気が少しずつ引いていくのがなんとなく分かる。
攻撃の手が更に緩くなっている事も自ずと分かっていた。
神奈子との戦闘中だ、という事は理解している。
それでも家族として、遠い先祖として、喜ばずには居られない。

血は、余りにも濃すぎた。
その体に流れる「血」という因縁は、時として命取りになる。
感情の変化は悪手だと、先の霍青娥との戦闘で再確認したはずだった。
だが、親としての感情など自制出来るわけがない。



腹に、力が籠った。
突然の挙動に、何が起きたのか分からずに。
後方に吹っ飛ばされたかと思いきや、すぐ止まった事だけは辛うじて理解できる。
言うならば、空中で固定された感触。

衝撃で気を失う前に目に入ってきた光景は、御柱が腹を支えている物だった。



ビチョッ、と雫が落ちる音が静寂の中に響く。

こうなった原因は明白。



油断。
その一端の感情が、諏訪子の口から血を零させたのだ。





「さては諏訪子、アンタ早苗の名前が放送になくて、つい油断したんじゃないかしらねぇ?」



対する神奈子の表情は、歓喜と悲哀の入り混じった複雑なモノ。
神奈子だって早苗が生きていた事を喜ぶことはできる。
しかしあの時の決着はもう過ぎてしまった。であらば、勝者は敗者を弑するのみ。
そしてその諏訪子の血に塗れた手で、今度は早苗を殺すのだ。


生きているから殺すことが出来るなんて、堂々巡りな考えだとも思う。
それでも家族を殺す決心は重い。
重いが故に、いざ殺すという段階まで来てしまうと躊躇が邪魔をしに来てしまう。




「安心しな。私がちょっと動けば、アンタの心臓を一瞬で掻っ捌く事が出来る。
 ……アンタが苦しまないようにやってやるから、さ」



神奈子は発射した御柱に釣り糸を垂らし、同時に『ビーチ・ボーイ』のスイッチにしていた。
相手が自発的に触らずとも命中するだけで相手の心臓まで針を持っていける。
諏訪子の動きが鈍った数秒で、ここが狙いどきだと踏み込んだのだ。

決心を固めるかのように言葉を捻り出す。
腹から刺したのだ。もう針が心臓に辿り着いている頃合だろう。
ここで殺せなければ、恐らく早苗に再会しても殺すことは出来ない。
だから悔いが無いように、最期の言葉を聞いて死に際を見届けておく必要がある。
そうありたくないという願いを込めて。なるべく苦しまないように殺すことが、せめてもの救いになると信じているから。






「どうやら向こうは終わったみてェだな」


「諏訪子……!」


二柱の激突が終わっても、ウェスとリサリサの戦いはまだ終わらない。

先の反省を踏まえて、ウェスは相手の攻撃を逸らす事を重視している。
執念で持ち堪える事は出来たが、リサリサの波紋エネルギーは確かに強力。次食らってまた耐えれるとは思い難い。
優勝の為に勝ち残る。その為には死に様を晒すなんてできやしない。だから攻撃の手も緩める事はない。
回避に専念して攻撃頻度を増やすなんて、理論が破綻している。
それでも愛故の執念を抱えて。愛する家族の為にその輝きを燃やすのだ。

だが、リサリサの方も中々崩れない。
池の水面に波紋を通して立っている以上、周りは波紋が通る物質だらけだ。
蹴り上げた水に波紋を流せばたちまち即席の防護壁になるし、アメリカンクラッカーの表面を濡らせばもう一度波紋を流すことだって出来る。
体力勝負になれば勝てる自信があるが、それでは諏訪子を助けに行く時間が無い。
クラッカーブーメランの技は見切られている可能性があるから使い辛いが、だからと言ってこちらも攻撃の手を緩める事は叶わず。
家族愛を反故にする者は断じて許しておけない。その一心で相手を対処する。


二人の戦闘はまさしく一心不乱。
ある意味、二柱の激突が終了したという事に気付たのは幸運だったのかもしれない。
敵以外をほぼ見ていない。敵以外の情報を与さない。全く考慮しない。
血の激流に身を任せず、ただ己が使命を以て相手を打ち倒す事のみ。
先程まで赤の他人だったのに、今では互いを双眸で睨み付け合っている。
気と気の鍔迫り合い。


弾幕のように塊が押し寄せる。
リサリサが波紋で非晶質のようにした水の一群を、ウェスは造作もないように摩擦熱で燃やし尽くす。

丁度、その時だった。
ウェスの頭にアイデアが浮かんだのは。


ここで起死回生の策を生み出せたのは、偶然か。
それとも、もしかしたら運命だったのかもしれない。

水という舞台さえ無ければ。二柱の決着を見てさえいなければ。
そもそも先の徐倫との戦闘でこの方法を思い付きさえしなければ。
この状況に対して、非常に効果覿面な苦肉の策なんて決して思い浮かばなかっただろう。






予備動作は長く。しかしこの会場では反則級の威力を誇る天災。

自分さえ陸地に居れば、絶対に喰らうことはない。

それでいてリサリサ以外にも、神奈子や諏訪子でさえも攻撃範囲に入れてしまう程、強力無慈悲な神の力。





ゴ  ロ  ッ  ―――!




空気が震える。

音が、風が、流れている緊張が。互いの波長が干渉し合う。




その血に。
その地に。
その池に。
その痴に。
その霊に。
その鉤に。



捷急たる雷霆が。
そして神が、裁きを下すのだ。





その流れにいち早く気付いたのは神奈子だった。
風雨の神としての本質が、変化した風向きに敏感に働いた。


―この池に、雷が落ちる。


自分に降りかかってくる禍を避けるだけなら造作もない。
だが辺りは一面の水。あの目付きの悪い少年の仕業であれば、間違いなく感電狙いだ。どこに落ちるかは皆目見当も付かない。
どこに落ちるかも分からぬ雷をピンポイントで一点操作するのは至難の業。
山勘が当たればラッキー、外してしまえば死のリスクがかなり高まる。

そして、落雷の後に死ぬ可能性があるのは諏訪子も同じだ。
自分が殺すならまだしも、赤の他人の悪意に滅ぼされてしまうのは許せない。
家族間の問題は当事者とその家族以外が関わって良いものではない。
神聖な領域を犯されるのは、それこそ神として裁きを下さねばならない問題だ。

だが、あの少年は天候を操っただけ。喩え殺したとしても神罰は落ちてしまう。
かと言って、逃げる事はそれ即ち諏訪子の首を他人に委ねる事となる。家族としてその行動は取れない。
今すぐ諏訪子を殺すという選択肢もあるが、急ぎで無造作に殺すのは家族としてどうなのか。
それに、殺すまでの間に雷は落ちる。それでは自分も死ぬリスクが出てくる。



時間は刻一刻と迫っている。
陸上まで、あと数mの位置。

背に腹は変えられない。
この方法なら成功するという淡い期待を背負って、神奈子は行動を起こす。

もしかしたら、心のどこかでは家族を、諏訪子を殺したくないと思っていたのかもしれない。



「うぉらぁっ!!」



『ビーチ・ボーイ』の竿を大きく振る。
衝撃を倍にして返すその糸も、何にもぶつからなければ諏訪子を苦しませることはない。
重心を下ろして、なるべく飛距離が稼げるように構える。

これで諏訪子を陸に揚げたら、後は風に乗って自分の体が水に触れないようにすれば良い。
まだ雷が落ちるまで1,2秒はある。感電を免れられるはずだ。

だが、そこからすぐに諏訪子を殺してしまうのは惜しい。
さっきまで抱いていた殺意は気付けば薄れていた。こんな状態で幕引きを迎える、というのは何故か忍びない気がする。


(諏訪子との決着はまた延期になるのかねぇ……つくづく悪運が強いよ、アンタは)


諏訪子が生きているからか、それとも雷を避けれたからか。
はたまた、愛する家族を自分の手に掛けずに済んだからか。

自分が嬉しそうな顔を浮かべている事に神奈子は気付いていない。









ウェスもまた、口角が釣り上がるような感触があった。
3人纏めて始末する体勢が整ったのだ。


「じゃ、仕舞いだ」


雷が間もなく落ちてくる。
相手は今手刀を放ったところだ。これを空気の層で逸らしてしまえば共倒れになる事はない。
感電して気絶した相手を殺すのはとても簡単だ。
そして、逃がさない為にもウェスは超局所的な結氷でリサリサの足元を凍らせる。
相手の手刀は止まらないが、それでも構わない。

あとはワンアクション起こすだけ。

いざ、空気の層を生成して手刀を逸らして……



ビリッ、とした感触が体を伝わった。



「なッ……」


空気の層で手刀を逸らした。そこまでは良い。
だがその直後、首筋に水か何か、冷えたものが当たったのだ。
何故当たったのか理解ができない。手刀はしっかりと方向は逸らしたし、他の挙動は見ていない。

充分な思考も出来ぬまま立ち尽くすウェスの体に雷の物とは違う痺れが走る。


彼にとって本日二度目の波紋。
それは漸くウェスの執念を上回り、彼を気絶させるに至ったのだ。




「なんとか、相討ちに持っていけたわね……」


リサリサは波紋を使って、指に水の塊をくっつけていた。
さながら、カーズの流法(モード)である『輝彩滑刀』のような攻撃法。
軌道が逸れてもそれさえ当たれば波紋を流して相手を無効化出来るかもしれない、という無謀な賭け。
結局成就したから良かったものの、これ以外の選択肢が浮かばなかった以上失敗したら確実に死んでいた。


しかし、リサリサの方も動くにはもう遅い。
雷が落ちるまでに足元の氷から抜け出すのは不可能。







そして、豪快な音と共に。

雲と雲の隙間から、神の鉄槌が下るのだ。




─────────────────────────────







瞼が軽い。

恐る恐る目を開ける。倒れる直前と一致する光景に安堵する。


寝ている間に雨で冷えた体を、奮い立たせて起こす。


この場所で何が起こったのは分からないが、惨状は眼に伝わってくる。


ならば進むのみなのだろう。




使命がある。使命を持って、行動する。

その重要性を分かって行動する事は、常に大切だ。



倒れる直前に、使命を持って大きな事を成し遂げた。

喪った物もあったが、必要な犠牲だった。


それは確かに大躍進となったが、まだ歩数は足りない。




まだ、やるべき事は沢山残っている。


ゆっくりと、寝惚け眼を起こしつつ、歩みを進める。








─────────────────────────────




【真昼】D-2 猫の隠れ里 とある日本家屋







「……結局、あのまま殺すのは癪だと思っちゃったけど。実際どうなんだろうねぇ……」



諏訪子とは絶対に決別しなければならないと思っていた。
戦っていた時は勿論決別する気でいたし、殺すつもりでもいた。

なのに、躊躇してしまった。
心臓を捉えた時、心が葛藤していた。切り捨てられない迷いがあった。
諏訪子が最期に何をするかを見届けなければ、引き金を絶対に引けなかった。
だから、外からの悪意という名目で、諏訪子を自分で殺す事から無意識の内に遠ざかった。

雷から逃れたあと興醒めしてしまったが、あれも殺したくなかったからなのかもしれない。
自分の手で家族を殺さなければならないと決めたのは私自身なのに、こうして諏訪子を寝台の上に運んで来てしまっている。


私は自分の事を、諏訪子の事を、早苗の事を……果たしてどう思っているのだろう。


この『儀式』に身を投じた以上、殺さなければならない間柄なのは明白だった。
だからこそ諏訪子とはあの頃のように殺意剥き出しで戦えると思っていたし、早苗を悪意から守る為に殺さなくてはならないとも思っていた。
なのに、諏訪子も早苗も。漸く殺せるという段階で、何かがどうしようもなく怖くなって……結局殺すに至れなかった。


自分の手で苦しませずに殺さなければならない。愛情や家族愛を持って諏訪子や早苗を殺せるのは自分だけ。
それは他の誰よりも分かっていたはずなのに。
だからこそ、既に人殺しの烙印を背負っているはずなのに。


この身の行く道は、信仰の中に在り。
それを露ほども疑いもせずに。

そうして来た自分の道のりが、今となっては分からない。




「……そう、だ。ディアボロ……だったか。」


子を自分の手に掛ける様をありありと見せ付けてきた、その男。
根元にあった感情は一緒だったのかもしれないが、今となってはどうなのか皆目検討も付かない。

だから、話を聞けば自分の気持ちに整理が付くかもしれない。
何か光明が見えるかもしれない。



四畳間の部屋で意識を失っている諏訪子にもやもやした感情を抱きながら、神奈子は屋敷の外を見る。
未だに雨は降っているが、風雨の神たる神奈子にはそんな事関係ない。


向かうは、ディアボロの事を知っているであろう紫毛の少年。

……諏訪子を、愛する家族を殺せるか否かは、それからなのだろう。



───────────────────────────────────────────────――


【真昼】D-2 猫の隠れ里 とある日本家屋



【八坂神奈子@東方風神録】
[状態]:体力消費(中)、霊力消費(大)、右腕損傷、早苗に対する深い愛情
[装備]:ガトリング銃(残弾70%)、スタンドDISC「ビーチ・ボーイ」@ジョジョ第5部
[道具]:不明現実支給品(ヴァニラの物)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:主催者への捧げ物として恥じない戦いをする。
1:『愛する家族』を殺せなかった。……私が殺さなければならないのに。
2:あの少年から話を聞く必要がある。(ディアボロとは?)
3:DIO様、ねえ……
[備考]
※参戦時期は東方風神録、オープニング後です。
※参戦時期の関係で、幻想郷の面々の殆どと面識がありません。
 東風谷早苗、洩矢諏訪子の他、彼女が知っている可能性があるのは、妖怪の山の住人、結界の管理者です。
 (該当者は、秋静葉、秋穣子、河城にとり、射命丸文、姫海棠はたて、博麗霊夢、八雲紫、八雲藍、橙)


【洩矢諏訪子@東方風神録】
[状態]:霊力消費(大)、右腕・右脚を糸で縫合(神力で完全に回復するかもしれません。現状含め後続の書き手さんにお任せします)
    体力消費(中)、内蔵を少し破損、気絶中(意識不明)、濡れている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田に祟りを。
1:神奈子が何を思って行動しているのか、知らなければ。
2:早苗が、生きている……?
3:守矢神社へ向かいたいが、今は保留とする。
4:信仰と戦力集めのついでに、リサリサのことは気にかけてやる。
5:プッチ、ディアボロを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降。
※制限についてはお任せしますが、少なくとも長時間の間地中に隠れ潜むようなことはできないようです。
※聖白蓮、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。


───────────────────────────────────────────────――


【真昼】D-2 猫の隠れ里 入り口付近の樹上




指を忙しなく動かしていく。
頭の中の理想の記事像を捻り出して、際限なく形にしていく。
ウェスを地表まで送り届けてやってから早くも30分以上が経過しているが、その間ネタが溢れに溢れているせいで記事を書く手が止まらない。
それに放送直後に来た更新分リストの内容もネタの宝庫で、こちらも健啖せざるを得ない。



「でも凄かったわ……!!守矢の二柱の激突、ウェスと長髪の女の攻防、そして落雷!シャッターチャンスに困らなさすぎる!!」


もう既に怪雨の辺りの内容は書き終えているが、博麗の巫女を追跡しなかった結果がこのネタの大嵐だ。
場面ごとの切り取りを考え、記事の文章を推敲し、一つの見出しを作るという長い作業が、いつもより楽しく感じる。
現に文字キーを打つ手が止まらない。八雲紫の記事を書いた時以上の興奮すら覚えている。

それは実地に赴き記事を書く事の楽しさを知ってしまった故の興奮か。


……でもやはり、生で見た殺人事件は衝撃的で。



「やっぱり、あんなのは記事に書けないでしょ……どう見たって不可解過ぎるし……」


否、違う。
不可解だからという理由で正当化しているが、本当は書けるけど書けないだけだ。
余りにも生々しいその死に方は、直接脳裏に焼き付いてしまった。
肝心の殺人の瞬間こそ見ていないがあんな死体を見せ付けられてしまっては、誰だって寒気立つ。
こればかりはネタを取り逃がして良かった、とさえも思えてしまうほど。



「……駄目ね、私。『過程』を取って『結果』に行き着けないよりはマシよ。大丈夫、私は平気なんだから」


ちらりとウェスの方向に顔を向ける。
まだ長髪の女と仲良く寝ているが、幸いどちらも生きていた。

ネタを自ら生み出してくれるウェスが気を失っている以上、今は大人しく記事を書くに限る。
ウェスを即刻起こせるような劇薬があれば早速それを使って記事探しに向かうのだろうが、生憎とそんな持ち合わせはない。
はたては仕方なく、次の記事のレイアウトを考える。



そんな折だった。
変わり映えのしない眼前の光景に、一人の来訪者が現れたのは。





「なんだろ。確かあの少年ってトリッシュって呼ばてれた少女が惨殺された辺りで地べたに寝転がってたけど……」


その少年の足取りは、目的をしっかりと見定めた動きをしていた。
それこそ、ウェスかあっちの女の知り合いであるかのような動き。

……感動の再会なんて物は記事にする程の物でもないな、とはたては思った。
そんなクサい記事なんかどこの誰にもウケない。よって書く必要もない。
とは言えど、ウェスの弱みを握る貴重なチャンスかもしれないのだ。
一応目はそちらの光景に集中させておく事にする。



「もしかしてアレが『手を出すな』ってウェスが言ってた人間かな?」


そう思った矢先だった。


その少年は長髪の女の方に歩み寄ると、少ししゃがんだ。




そして、何かを拾い上げて――



「ちょ、ちょっと……!いやそんな、えっ」




――女の頭に、力一杯振り下ろした。


何度も。執拗に。
血が撥ねても全く気にせず、機械的に。

殺意よりも、むしろ冷酷さの方が強く滲み出た顔で。






歴戦の波紋戦士は、最愛の家族に愛を打ち明けられず。

家族とも、吸血鬼とも、柱の男とも関係ない悪意によってその幕を閉じた。





【リサリサ@第2部 戦闘潮流】死亡
【残り51/90】

─────────────────────────────







気持ちが逆流しそうになる。
胃の中身は幸い無かったが、それでも精神的に負った傷は深い。


『遊び感覚』で殺された秋穣子。
『残忍性』や『無邪気』で殺された多々良小傘。


この二パターンの殺人を見ていても、それらとはまた別格の恐ろしさを感じる。
人が機械に殺されるような。感情移入もなしに、突然幕が開けた殺人シーンは見るに耐えなかった。
それも、年端も行かぬ少年があんな無表情で。



「何よ、あれ……あんなの、人の、人の命をそこら辺の雑草みたいに扱って……!」



シャッターチャンスではあった。だがあれは記事として許されない。あんな物が、世にあっていいはずがない。
他人を殺すのは当然という雰囲気で殺人を行う人間なんて、道徳的にあってはならない。
余りの惨さに、精神がどうにかなりそうだった。

小傘の死の時も味わったが、誰かの死によって妖怪の精神が抉られるなんて、尋常ではない。
あろうことがそれも、妖怪より格下であるはずの人間によってだ。



ふと我に返ると、襲撃者は遺骸の頭が形を留めなくなるまで叩いていた。

そして、その矛先は今度はウェスの方へと。



もう、人の殺される様を直で見たくない。
はたての心が、またしても警鐘を鳴らしている。
殺害現場を止めるのは新聞記者としてあるまじき事。それでも、あんな死に様は二度と見たくない。
ウェスがここで起きてくれれば、全てが解決する。
でもそんな幻想は起こるはずもないと肌で感じている。

こんな現場からとっとと逃げ出したいが、新聞記者としての自分がその感情にストップを掛けている。
耳障りな音がすると思えば、自分の奥歯がガタガタと震えている。

何をするのが正解なのか。
逸る気持ちはその答えを瞬時に出せるほど落ち着いてはいない。




「うわぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああっっっっっっ!!!!」


気付けば、襲撃者の方向に駆け出していた。
ウェスを助けようという良心が働いたのか。
それとも、ウェスが死ねばネタを生み出してくれるヤツが居なくなるという我が身可愛さな理由で動いたのか。



「遠写―『ラピッドショット』!!」


鱗弾を縦横無尽に撃ち出していく。
無我夢中だった。襲撃者に立ち向かう事がたまらなく怖い。
でも、あんな殺人がもう一度行われる方がもっと怖かった。









――そこから先は、あまり覚えていない。
気付けば襲撃者は居なくなっていた。

残っていたのは、私と、まだ目を覚まさないウェスと、顔が潰れるまで殴られた女の遺骸。
脅威が去ったとしても人が死んだという事実は不変だ。



「……うぇっ、ひっ、っく、ぅあああ……っ!!」



声を上げて、泣いていた。
新聞記者としての身を投げ出して、一介の少女として。
水面に映るぐしゃぐしゃな顔が目に入ってきても、今はただひたすらに泣くしかなかった。




───────────────────────────────────────────────――


【真昼】D-2 猫の隠れ里 入り口



【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)
[状態]:霊力消費(中)、人の死を目撃する事への大きな嫌悪、雨と見紛わない程の涙、濡れている
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:今はずっと泣いていたい。
2:レイアウトが決まったら続報を配信予定。
3:岸辺露伴のスポイラー(対抗コンテンツ)として勝負し、目にもの見せてやる。
4:『殺人事件』って、想像以上に気分が悪いわね……。
5:ウェスを利用し、事件をどんどん取材する。
6:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※リストには第二回放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
 次回のリスト受信は第三回放送直前です。
※花果子念報マガジン第4誌『【速報】博麗霊夢・空条承太郎再起不能か!?』を発刊しました。


【ウェス・ブルーマリン@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:気絶中、体力消費(極大)、精神疲労(中)、肋骨・内臓の損傷(中)、左肩に抉れた痕、服に少し切れ込み(腹部)、濡れている
[装備]:ワルサーP38(0/8)@現実
[道具]:タブレットPC@現実、手榴弾×2@現実、不明支給品(ジョジョor東方)、ワルサーP38の予備弾倉×1、ワルサーP38の予備弾×7、救急箱、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:この戦いに勝ち残る。どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも。
2:はたてを利用し、参加者を狩る。
3:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
4:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
 星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
 「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
※主催者のどちらかが『時間を超越するスタンド』を持っている可能性を推測しました。
※人間の里の電子掲示板ではたての新聞記事第四誌までを読みました。
※ディアボロの容姿・スタンド能力の情報を得ました。


※猫の隠れ里 入り口の付近に、地下水脈を汲み上げた池が出現しました。

───────────────────────────────────────────────――


【真昼】D-2 猫の隠れ里 外れ






高揚感は無かった。
ただ、ボスの為を思って邪魔者を一人消しただけだ。そこに与する感情は何もない。

強いて言えば、目的達成への一歩を踏めた事への喜びか。



「ボス、ぼくはまた腹心として帝王に還り咲いたあなたの手助けをしたい―」


その為の道のりは、長い。
これは使命だ。ジョルノ・ジョバァーナのスタンドの影響を脱したのが運命なら、再び帝王の座に戻るのは必然。
ならばその為の手助けをするだけのこと。



しかし邪魔が入ってもう一人を消せなかったのは申し訳が付かない。

あの羽を生やした女の攻撃は『エピタフ』の予知で簡単に避ける事が出来た。
更にあそこからアメリカンクラッカーを投げれば、一気に二人始末出来たかもしれない。
だが相手の能力が『グリーン・デイ』のように広範囲に及ぶかもしれない以上、長居は『勇気』ではなく『無謀』となる。
『エピタフ』を使っていても、相手の攻撃が目視不可能であれば簡単に負けてしまう。
それ故に見逃した。遺体から紙を奪取した以上、また体勢を立て直して不意打ちすれば良いだけの話なのだから。



少年は雨模様を陽気に進んでいく。

胸には使命を、腕には血濡れた凶器を携えて。



───────────────────────────────────────────────――


【真昼】D-2 猫の隠れ里 外れ


【ヴィネガー・ドッピオ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、精神力消費(中)、濡れている
[装備]:アメリカンクラッカー@ジョジョ第2部
[道具]:メリーさんの電話@東方深秘録、不明支給品(現代、リサリサの物。本人未確認)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ボスの腹心として、期待に沿える。
1:ボスの為に、参加者をブチ殺す。
2:ボス……ぼくはあなたの役に立ちましたか?
3:ボスを守る立ち回りをする。
[備考]
※ディアボロの人格とは完全に分離しました。よって『キング・クリムゾン』は持っていません。




176: 投下順 178:虹の先に何があるか
176: 時系列順 178:虹の先に何があるか
155:この子に流れる血の色も 八坂神奈子 204:ビターにはなりきれない
155:この子に流れる血の色も 洩矢諏訪子 202:貴方にこの血が流れずとも
155:この子に流れる血の色も リサリサ 死亡
155:この子に流れる血の色も 姫海棠はたて 192:雨を越えて
155:この子に流れる血の色も ウェザー・リポート 192:雨を越えて
155:この子に流れる血の色も ヴィネガー・ドッピオ 204:ビターにはなりきれない

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年11月05日 18:15