嘆きの森

レミリア達がレストラン『トラサルディ』から出ると、外の様子はすっかり変わっていた。
薄暗い暁から、清々しく感じるほど明るい朝へと変化し、朝もや煙る空気は鮮烈に澄んでいる。
普通の人間がこの晴天を見上げれば、今まであった嫌なことを全て忘れられるかもしれない。
しかし、その日の下にいるレミリアの表情は、この晴天に似つかわしくないほど歪んでいた。

「大丈夫かい、レミィ?やっぱりその……ユニークな傘を使うのは嫌かい?
 でも、これだけ日差しが強ければ使わないわけにも……」

ジョナサンはレミリアの不機嫌の理由をナンセンスな傘のせいだと思い、香霖堂から拝借したワイングラスで波紋探知機を作りながらも、
慎重に気遣う。が、レミリアは首を横に振って否定する。

「じゃあこの日差しか?確かに、人間だってちょっと参っちまうような日差しだ。
 吸血鬼だったら尚更……」

今度はブチャラティも落ちていた鉄パイプを回収しながら、思い当たることで気遣おうとするが、レミリアはこれにも首を横に振って否定した。

「「じゃあ一体?」」

最終的に二人の言葉が被った瞬間、レミリアは「ぎゃおーっ!」と叫んで、傘を持ったまま諸手を上げて、動物の威嚇のようなポーズを取った。
二人はレミリアの豹変に驚き、それぞれ持っていたものを落としかけ、少しだけ後ずさる。
そしてレミリアは怒りの表情を変えぬまま、一気に感情を爆発させた。

「確かに!こんなダサい傘を使うのも最悪の気分だし、この日差しも忌々しいったらありゃしないわ!
 でもそうじゃない!そうじゃなくって、何が一番ムカつくかって言ったら私!
 私は私にムカついてるの!あと私の大切な従者達を殺した下手人共!」

叫ぶレミリアの姿からは、先程までジョナサンに抱きしめられていた時のしおらしさは一片もない。
わがままで気分屋なツェペシュの末裔(自称)は、感情豊かなのだ。
悲しみの感情は一転し、今度は自分への激しい怒りへと変わっていた。

「従者が死んで、取り乱して、泣きじゃくって!……その上ジョジョに抱きしめられるなんてゴニョゴニョ……
 とにかく!自分で自分に腹が立つ……!」

いきり立つレミリアに、ジョナサンはどう言葉を掛けるべきかと考えていたが、先にブチャラティがレミリアに問いかけた。
その眼差しは真剣だ。

「そうか……で、どうするんだ?キレるだけキレてそれで終わりか?レミリア、君の『覚悟』を確認したい。
 俺も部下を殺された、俺はその落とし前は必ずつける。例え相手が誰であってもな……それで、君はどうする?
 怒りに任せて暴れるか?復讐を忘れて合理的に生きるか?どちらにせよ口だけじゃマンモーニ止まりだがな」

そう言い終えると、ブチャラティはレミリアを試すように、その瞳を覗きこんだ。
対するレミリアはふぅっと息を一つ吐き、ブチャラティの眼差しに応えるように、纏う気配と眼光を鋭くし語り始めた。



「そうね、確かにブチャラティの言う通り、億泰を追いかける前に、『覚悟』をはっきりさせておかなきゃね。
 私は、復讐するわ……紅魔の誇りを傷つけた者に、私の家族に仇なした者に……」

「レミィ……」

その言葉を聞くジョナサンは、心中複雑であった。彼は幼い頃から紳士として躾けられてきて、復讐は恥ずべきものだと認識している。
だが、彼自身、ディオの魔手により友を失い、父を失い、師を失った時、確かに復讐心を原動力にしたことがあった。
例え吸血鬼による支配を防ぐという建前があっても、その気持ちは正真正銘ジョナサンの意思だった。
故にレミリアに復讐は駄目だと言う権利はないと自覚していた。
実際今でも、ディオに対する戦意は変わらないし、師を二度目の眠りに就かせた者や友を殺した者に対して、やりきれない感情を抱いている。
だがそれでも、ジョナサンはレミリアにはそんな悲しい生き方をしてほしくないと思っていた。

そんなジョナサンに対して、レミリアは少し呆れるような微笑みを浮かべて、また話し始める。

「勘違いしないで、ジョジョ。別にあなたが気に病むことでもないし、そんなに悲しいことでもないわ。
 それに私は大切な家族を失って死の恐怖を知った……自分から死ににいくような馬鹿な真似はしない。
 私は決してあなたの考えているような不毛で愚かな殺し合いをしたいわけじゃないの」

レミリアはジョナサンに向き直り、言葉を続けた。

「誇りある者にとっての復讐とは、傷つけた誇りのそのツケの高さを、その身を以って思い知らせること。
 それに私は淑女である前に王なの。臣下を殺されて、何もしなければそれは乞食以下の王。
 応報出来なければ私は私でなくなってしまう。だから……王の誇りに誓って、私は正々堂々復讐を果たすわ」

勿論ジョジョ、あなたとの友情を裏切らない範囲でね、とレミリアは付け加えた。
そして前を向き、宣言するように誓いを声にする。

「咲夜、美鈴……あなた達の仇は必ず取る、あなた達の、私への忠義に誓って。そして下手人共……
 私の涙の一滴は、その何倍もの血で以って贖わせてやる。何滴も流したからその万倍、億倍ね。
 何故私がスカーレットデビルと呼ばれるのか、自らの血で紅色に染まった幻想郷を見て、知ることになる」

宣言する悪魔の表情は、この晴れ渡る青空のように澄み、照りつける太陽のように熱く輝いていた。
その瞳には一切の卑屈さも狂気もない。
あるのは真っ直ぐな意志と、黄金のような精神だけだった。

「なるほど……いいだろう。思った以上に冷静なようで助かる。失礼なことを言って悪かった。
 君の『覚悟』は俺がとやかく言えることではないようだ」

ブチャラティが軽く頭を下げてレミリアに謝罪の握手を差し出し、レミリアは「いいのよ、分かってもらえれば」と返し握手に応じた。
ジョナサンもレミリアの言葉を聞き、その表情を見たことで、レミリアが決して怒りや憎しみのまま復讐に生きようとしているのではないと悟り、
レミリアに笑顔を向けた。

「よしっ!これで一切の問題は無いわね!じゃあさっさと行くわよ!遅れないように付いてきなさい!」

レミリアはそう叫ぶと、後ろの二人を確認することもなく走って行ってしまった。
一瞬のことである。
ジョナサンとブチャラティは、レミリアの変化の早さに呆気にとられたが、すぐに走り出し後を追う。
呆れたような顔になり、走りながらブチャラティはジョナサンに「出会った時から彼女はこうなのか?」と問いかけると、
ジョナサンは「うん、でもそれが彼女のいいところだよ」と笑顔で返し、ブチャラティはやれやれと首を振り、「お似合いだな……この二人」
とジョナサンに聞こえないように小さな声で呟いた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆



深い深い魔法の森。ここでは激しい陽光も濃く茂る木々に阻まれ、差し込む木漏れ日もまばらだ。
朝ではあるが爽やかさは無く、重苦しい湿気と、多少薄らいでいるとはいえ確かに立ちこめる瘴気が歩く者の足取りを重くする。
そしてそこを歩く者は、そうでなくとも憔悴し、その歩みの遅さは牛にも劣るものだった。
それもそのはず、その男は少女とはいえ人間を抱えて長い距離を走り回り、その上左半身に大きな火傷を負っている。
本来なら適切な治療を受け、安静にしていなければ命にも関わる重症だ。
ジョナサンの手で波紋治療を受けているものの、動き続ければ当然治りは遅い。
男の名は虹村億泰。彼を動かすもの、それは――

「あっちゃならねェんだよ……大切な家族がいるのに罪を犯すなんてことはよォ~~ッ!
 止めなきゃなんねェ……止めなきゃ……さとりは……あの空ってコは……俺と兄貴みたいになっちまう……ッ!」

――『後悔』と『信念』だ。億泰はかつての後悔と自分が正しいと信じる信念を杖とし、辛うじてその足を動かしていた。
億泰の双肩には、自身の過去への責任と、二人の少女の幸せな未来が乗っている。
故に、億泰の精神力は尽きない。そしてその精神力が尽きぬ限り、その歩みを止めることはない。
それが心に思ったことだけをする彼の信じる生き方だった。

そうして億泰が少しづつでありながらも歩を進めていると、唐突に場違いな声が響き渡り始めた。

『マイクテスト、マイクテスト…… ――』

おぼろげな意識で歩いていた億泰だったが、その内容を聞いているうちにそれが一回目の放送であることに気づき、
歩みを止めて耳を傾けた。誰も死んでいないことを願いながら。

『――以上、18名だ』

やがて死者の読み上げが終わる。願い虚しく18人。知り合いが誰一人として死んでいなかったとは言え、すでに18人もの死者が出ていることに、
億泰はショックと怒りを禁じ得なかった。
自分の住む街に殺人鬼がいることを知った時以上に、その衝撃は大きかった。
その上主催者はその結果を素晴らしいなどと言って悦んでいる。
吉良以上にイカれたその物言いに、怒った億泰は自らの負傷を忘れて寄りかかる木に拳をぶつけた。
拳から血が流れる。しかし、この会場内にはこの血と比べ物にもならない量の血が流れていることを思い、
億泰はやりきれない感情をただ一言「ちくしょォ……」と声に変える。
しかしそうであっても、ここで歩みを止める訳にはいかない。
ここで歩みを止めてしまえば、防げる不幸も防げなくなってしまう。
例え全てを救えずとも、自分の手が届く範囲だけでも、億泰は何とかしたかった。
そして少しだけ休憩し、思いを新たにした億泰はまた歩き出した。
その行く先には、不幸の元凶が二人。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆



森の闇に人影二つ。柱の男の末席サンタナと、帝王の忠臣ドッピオだ。
その内サンタナは人間と吸血鬼に負わされた負傷の影響と、差し込む木漏れ日で茂みの中から大きな身動きを取れず、
ドッピオはこの状況で漁夫の利を得るべく、思索と体力回復の為木陰に隠れ、時折エピタフで未来予知をしながらサンタナの様子を窺っていた。
痛む頭を抑えながら、ドッピオはバックの中から時計を取り出す。時刻は5時58分、第一回放送が間もなく行われる。
誰が死のうとドッピオは特に知ったことではなかったが、敬愛するボスであるディアボロの障害になるブチャラティチームや暗殺チームのプロシュート、
ボスの娘であるトリッシュ、またボスの天敵である古明地さとりと兎耳の女などの死を期待しつつ、
ドッピオは今はまだ帰ってこれないボスのため、放送内容をメモするべくバックの中から紙と筆記用具を取り出した。やがて放送が始まる……。

――先ずはこれまでに脱落した者たちの発表だ。
  名簿片手によく聞いてくれよ。一度しか言う気はないからねェ。
  では、ゲーム開始からこの放送までの脱落者は、
  グイード・ミスタ――

主催者のくだらない前置きに辟易していると、目当てである死亡者の読み上げで、いきなり死んで欲しい人間の名が読み上げられた。
グイード・ミスタ。拳銃のスタンド『セックス・ピストルズ』の使い手の下っ端のカス。
ボスにとって死の優先順位は低いが、死んだだけでも良しとする。

――アリス・マーガトロイド
  幽谷響子
  プロシュート
  ウィル・A・ツェペリ
  シーザー・アントニオ・ツェペリ

以上、18名だ。 ――

そして更に読み上げられた中には、自身が拷問・尋問をした女と思われるアリスと、暗殺チームのプロシュートがいた。
最も死んでいて欲しいジョルノ・ジョバーナやブチャラティが居なかったことは残念だったが、18人はまずまずの人数だと満足する。

――追加禁止エリアは「B-4」だ――

次に追加禁止エリアの発表。2つ隣のB-4だった。ドッピオは自身に大きな影響は無いことを確認しメモを終えた。
後は茂みに隠れた化け物を注意深く観察しつつ、体力回復に努めるだけだ。
そうして暫くの間じっとしていると、エピタフの未来予知に、大きな変化があった。
未来のビジョンには揺らめく影が見える。

(人が近づいてくるな……)

数秒すると、森の奥から揺れる影が見えてきた。

「人が近づいてくるな……」

ドッピオはかねてからの考え通り、この状況で最も得をする立ち回りをするため、気配を殺しまずは様子を窺った。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆



サンタナはなにもかもどうでもよかった。放送も、死亡者も、禁止エリアも。
唯一つ、己がアイデンティティを取り戻せさえすれば。
鳥が空を飛ぶように、魚が水を泳ぐように、柱の闇の一族にとって人や吸血鬼は支配して捕食することが当然であった。
例え一族の末席とはいえ、絶対に揺るぐことのない自負をサンタナは無意識的に持っていた。
しかしその当然が支配して当たり前だった者共に敗れたことで崩れ去り、皮肉にも敗北により、初めて自分の感情で行動することを覚えた。
だが状況は最悪だった。遅々として進まない回復に加え、不注意により片足の石化。
感情だけが先走り、体は碌に動かない。故にサンタナは初めて覚えた激情に飲まれ、半ば正気を失いつつあった。

「ち、がう……違う……っ!オレは……GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」  

隠れこんだ茂みの枝をバキバキと折り散らかす。
自己の喪失の恐怖と敗北への怒りによるストレスは、サンタナを着実に追い詰めていた。
早く、この精神的苦境を解消しなければと考えを張り巡らすが、この深い森を抜け出せば、
耐えることもままならない忌まわしい日光が降り注いでいる。どうすることも出来ない。

ザッ……ザッ…

しかしその時、サンタナは何者かが近づいてくる足音を察知した。
そのことでサンタナは一時的に冷静になる。激情は覚めることは無いが、自身の絶対性を証明するための得物を前に、
捕食者としての理性を取り戻したのだ。絶好のチャンスを逃さぬため、サンタナは近づいてくるものの様子を窺う。

「今……確かにあそこの茂みから音がしたよな……動物?いやでも今の今まで一匹も見てねぇしな……
 まさか、空か?」

来訪者は虹村億泰であった。サンタナの枝を折る音と叫びの残滓を聞き、近づいてきたのだ。
億泰はそこに自らの追いかける霊烏路空と古明地さとりがいるのではないかと考え、恐る恐る歩み寄る。
サンタナはそれを待ち構え、確実に捕食するため声を殺し待ち受ける。
じり、じりと億泰が茂みに近付く。サンタナは今にも飛び掛かりたくなる衝動を抑え忍ぶ。
5メートル、4メートル、3メートル……!サンタナはいざ吸収と身構えたが、茂みから3メートルまで近づいた時点で億泰はふと足を止めた。
憤りに身を震わせることを抑え、サンタナは歯を食いしばり目を血走らせて待つ。しかし少し待てども近づいてくる様子がない。

(UGOOOOOOOOAHAAAAAAAA!!!近づけッ!近づけッ!人間は吸血鬼になり、このオレに喰われるためにいるのだッ!
 近づきオレの贄になれいいいいいいいいいいいいいッッ!!!)

サンタナの激情は臨界点に達する。理性を手放しかけ、今すぐにでも飛び掛かっておかしくない。
対する億泰は何故立ち止まったのかというと――

(待てよ……隠れてるのがお空とは限らねェ……もしかしたらやべぇ奴が急に襲いかかって来るかも知れねぇ……
 例えばさっきブチャラティに任せた化け物のオッサンみてぇな……でも確かめねぇわけにもいかねえしな……
 どうすっかなぁ~)

珍しく慎重であった。しかも偶然想定した敵まで一致している。(といっても後方でブチャラティと戦っていると思っているため、
本当にサンタナがいると思ってはいないが)
もし慎重でなければ、今頃億泰はサンタナの貴重なタンパク源として喰われていただろう。
だが一度気になった以上確認しないわけにもいかない。億泰はどうにか近づかず茂みに隠れた何者かを確かめるため、
あまり得意ではない考え事に耽る。



「拳銃……はもし空達だった時に危ねぇし、木の枝でつつくってのもアラレちゃんじゃねーんだからよ……
 いっそあの茂みが無ければなぁ~……ん?茂みが無ければ?そうだ!俺には『ザ・ハンド』があるじゃねーか!!
 『ザ・ハンド』で茂みだけ削り取ればいい!そうすりゃ俺が近づかなくっても茂みの中身がわかるしな。
 俺って頭イイ~~!」

普通真っ先に自分のスタンドを利用することを考えつくものだが、答えに辿りつけただけ億泰にしてはマシだった。

「ザ・ハンド!!」

億泰の掛け声とともに、ロボット様な顔をした全身の各所に$と¥の模様の付いた長身の人型スタンド、『ザ・ハンド』が現れる。
能力は主に右手で薙いだ空間を削り取る能力。億泰はその能力を今、茂みに向けて使用した。

ガオオーーンッ!!

奇妙な音が響き茂みの中が白日の下に晒される。その時――

ザシュッッ!

――赤い刀身が茂みのあった場所から伸び、ザ・ハンドの胴を切り裂いた。サンタナの不意打ち、スタンドをも切り裂く天界の宝剣・緋想の剣だ。

「なっ……あっ……ッ!」

億泰はスタンドから自身にフィードバックされた腹の傷を抑え、呻きながら後退する。
幸運なことに、一瞬早く身を引いたため、傷は浅かった。

「NUUUUUUUUUUUU!!」

一方サンタナは最大のチャンスとも言えたカウンターの不意打ちに失敗し焦る。
このままでは、日の差し方によっては石化してしまう。いや、その前に不意に差し込んだ木漏れ日で再起不能になってしまうかもしれない。
考えられる手段は二つ。このまま日差しを無視して突撃し、目の前の人間を体の内側から乗っ取り肉の傘とするか、
一旦今の茂みのように隠れられる場所を探し態勢を立て直すかだ。
だが、サンタナは一瞬考えただけで、すでに体は動き出していた。
当然、前者。それが今のサンタナの答えだ。
相対する人間は先程戦った『スティッキィ・フィンガーズ』の『ブチャラティ』と同じ、人型のビジョンを操る人間。
サンタナにとっては自らの力を証明する千載一遇のチャンスだった。
故にここでサンタナが『逃げ』を選ぶことはない。
彼は既に追い詰められた極限状況で、『受け身の対応者』でなくなったのだから。

「うっ……おおおおおおおおおッ!コイツはッ!この『化け物』はッ!ザ・ハンドォォォォォッ!」

対する億泰は、自分の冗談じみた想像が当たっていたことに驚きながら、サンタナの突撃を防ぐためザ・ハンドで反撃を仕掛ける。
一瞬ブチャラティは負けてしまったのだろうか、と考えたが、考えている余裕はなかった。

ギャオオオオオオオンッッ!!

サンタナの振り下ろした緋想の剣の刀身が、ザ・ハンドに削られる!
億泰は攻撃手段を断ったと確信したが、瞬間!蘇った緋想の剣の緋色の斬撃に右足を切られていたッ!

「なッ……なにいいいいいいいいッ!」

「まず、足を奪った……!」

何故、緋想の剣の刀身は消え去らなかったのか。それは、億泰が削ったのは緋想の剣の刀身ではなく緋想の剣が纏った『気質』だったからだ。
緋想の剣は振るう相手に応じてその弱点となる気質を纏う。それは剣固有の能力として何度でも発動することが出来、故に一瞬その気質だけ
削ったとしても、再発動するのは容易だった。
サンタナはザ・ハンドを歯牙にも掛けず、確実に仕留める為億泰の右足を切り、逃げる術を奪った。



「やはり……オレが上だッ!吸血鬼も人間も、オレは超越しているッ!『柱の闇の一族』こそが……頂点!
 貴様達原始人は……家畜以下の存在だ……!」

そう言いながらサンタナは億泰に止めを刺すため剣を振りかざし突貫する。
幸運なことにまだこの時間帯では日陰が多く、サンタナは十分行動できた。

「人間が……『家畜以下』だぁ?ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞこんスッタコがぁぁぁーッッ!
 俺は頭わりーから難しいことはわかんねーがよぉー、俺やブチャラティがテメェに劣ってるとは一ミリも思わねーぜッ!
 暴れることしか出来ねーくせに何が『原始人』だこのタコッ!そりゃテメーのことじゃねーかッ!」

「うるさい……ぞ……人間風情が……ッ!!

億泰は臆すること無く真っ向から立ち向かう。死ぬわけにも、この化け物を野放しにするわけにもいかない。
確かな決意を宿して、ザ・ハンドを構える。

「ザ・ハンドォォォォッッ!」

ザ・ハンドの右腕がサンタナに向かって突き進む。
だが先程の攻防により、サンタナは億泰のスタンドの削り取る能力の特性や動きを見極めている。
ザ・ハンドはその削り取る動作がある故どうしても攻撃が大振りになってしまうのだ。
なのでサンタナは防御すること無く体を変形させ回避した……かに思ったが!

ゴ ッ ッ !

「グッ……ヌッ!?」

突如、サンタナの背後からその背骨を折らんばかりの勢いで苔むした岩が飛んできた。
当たったサンタナは不意を疲れたことで一瞬怯む。

「ざまーみやがれッ!俺のザ・ハンドはこういうことも出来るんだぜッ!」

サンタナにはまだ見せていなかった億泰の隠し球が炸裂する。
ザ・ハンドの応用、物体の瞬間移動能力だ。

「フッ……」

だが、サンタナはニヤリと笑った。そして笑ったまま次の瞬間、なんと体をくの字に曲げたまま、その勢いを利用して億泰に突っ込む!
人間ならば痛みに悶え行動不能になるような攻撃だったが、曲がりなりにも柱の男であるサンタナにとっては小石同然のダメージだったのだ!

「クソッ!マジかよッ!こうなりゃ一旦距離を取るしかねぇ、ザ・ハンドッ!」

サンタナの攻撃が命中する直前、億泰はザ・ハンドの能力で瞬間移動し距離を取ろうとした。
しかしそれを読んでいたサンタナは、自身の肉片を億泰に向け発射した。
ミート・インベイド(別名 憎き肉片)だ!

「なっなんじゃこりゃあああーッッ!!!すっ吸われるッ!」

攻撃は億泰が瞬間移動するまさにその時に命中した。
瞬間移動自体は成功したが、億泰の体にはサンタナの肉片がくっつき、その生命力を吸い取ろうとしてくる。
億泰はザ・ハンドで肉片を削り取ろうとするが、蠢き逃げ延びようと肉片が動きまわり、狙いを定めることが出来ない。
だが、決してサンタナが一方的に有利になったわけではなかった。
サンタナが陽の光に焼かれるのが早いか、億泰がミート・インベイドに吸い殺されるのが早いか、だ。
戦いは完全に持久戦になりつつあった。



(ちくしょおお……ヤバイぜ……このままじゃやられちまう……でもザ・ハンドの攻撃は通用しねぇしどうすれば……ッ!)

(どうする……奴を逃すわけにはいかない……しかし奴には逃げる能力がある。時をかければ自ずとオレの勝ちだが、
 その間に太陽がこの場に差しこむやも知れぬ……決着を急がねば……)

このように当人たちにとっては抜き差しならぬ状況であった。お互いに攻め手を欠き、しかし急がねば命の危機だ。
が、そんな中、この光景を隠れ見つめほくそ笑む者がいる。
そう、ドッピオだ。彼は参加者の潰し合いと安全の確保の一石二鳥を前に、その拳を握りしめていた。

(いいぞ、いいぞ潰し合え……しかし、あの馬鹿そうなスタンド使い……あの能力はまさか、古明地さとりを殺す際、
 邪魔をしてきた奴じゃないのか?古明地さとりがいないのは気になるが、面倒なスタンド使いが減るのは凄くいい……)

ドッピオは未だ隠れ様子を窺っていた。何故サンタナと億泰が戦い始めた時点で逃げなかったかというと、
二人とも手負いであり、勝者が決まった時点で乱入し漁夫の利を得ることが容易だと判断したからだ。
このままうまく行けば二人分の支給品を奪い取ることが出来る。
もちろん帝王のスタンド、キングクリムゾンにとって生半可な支給品など無価値なものだが、体力を回復出来るものなどあるかも知れないので、
奪う価値はある。その皮算用を浮かべながら、ドッピオは早くそれを実行するため、戦いの決着を見守った。
億泰にも、サンタナにも、勝っても負けても最悪が約束されている。
まさに絶望的な状況だった。だが、エピタフを見たドッピオの表情が驚愕に変わった、その時――

「安心するのよ!虹村億泰!」

――紅い悪魔が、真の紳士が、信義のギャングが、そこに現れた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「億泰ッ!」

ジョナサンは現れるやいなや億泰に近づき、波紋でサンタナの肉片を焼ききった。

「ジョッ……ジョナサンッ!ブチャラティッ!それにレミリアの嬢ちゃんもッ!!」


「誰が嬢ちゃんよ!これでも私は500歳……って言ってる場合じゃないわね……まーたあいつね、しつこいったらありゃしない……
でも最早これまでよ、フラン流に言うなら、『あなたはコンティニュー出来ないのさ!』ってところね。
 じゃあ……ジョジョッ!ブチャラティッ!行くわよ!」

「ああ……それにしても億泰、無事で何よりだ。だが気を抜くのはまだ早いぜ……ジョナサンッ!合わせるぞ!スティッキィ・フィンガーズッ!」

「よし分かった!億泰は後ろに下がっていてくれ!コイツの相手は僕達がする!……波紋!」

三人は乱入するやいなや、サンタナへの攻撃を開始した。
まずレミリアが高速で突撃、サンタナを撹乱する。
次に先程回収した鉄パイプをスティッキー・フィンガーズが構え、その鉄パイプにジョナサンが波紋を流し込む。
そしてスティッキィ・フィンガーズの能力でその拳を高速で飛ばし、サンタナへと突撃させた。
移動中、ブチャラティとレミリアがジョナサンにサンタナの能力、特性を話していた際、
ジョナサンはサンタナが吸血鬼、またそれに類する何かではないかと推察したため、
三人で波紋を利用したコンビネーションを考えていたのだ。またそれ以外でも対吸血鬼戦で活用できる。

対するサンタナは混乱していた。ただでさえ不利な戦場で、先程敗れた吸血鬼と人間に加え、
ジョセフ・ジョースターによく似た波紋使いと思われる者さえいる。
最早逃げることすら敵わない。将棋やチェスでいう詰みの状態だった。

またドッピオも混乱していた。突然の乱入者達により算段は崩れ、動転する。
しかも乱入者の中にはあの裏切り者のブチャラティまでいる。
未だボスからの応答もなく、逃げるにも回復しきらない体調から気づかれればすぐ追いつかれてしまう。
無害を装って輪に入る手もあるが、兎耳の女に見つかった場合や行動制限のリスクが大きい。
幸い今はまだ自分の存在は誰にも気づかれていないので、ドッピオはこの場での最善策を取るため焦りながら思案した。

そうしてサンタナとドッピオが混乱しているうちに、戦いは動く。
放たれた連携攻撃をなんとか回避しようとサンタナは体をひねったが、レミリアに牽制され大きく動くことが出来ず、
その右腕にスティッキィ・フィンガーズの一撃を受ける。威力自体は大したことはなかったが波紋が流れ込み、その腕を焼き始めた。
かつて戦ったジョセフ・ジョースターの波紋とは比べ物にならないその威力にサンタナは驚愕しつつも、
波紋が全身に回る前にその腕を切り落とす。
だがその間にブチャラティとジョナサンも距離を詰め、一気に攻撃を繰り広げた。
左右から迫る攻撃に、なんとしても波紋だけは回避しようとサンタナはあえてブチャラティの方へと回避した。

「そうか……俺の方でいいんだな?いくぞッ!
 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ
 アリーヴェデルチ!(さよならだ)」

「UOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!」

なんとか波紋だけは回避することが出来た。しかしその代償にスティッキィ・フィンガーズのラッシュを受け、
サンタナの体は思考もできぬほどバラバラに分割されてしまった。



「よし、ジョナサン!君の波紋でとどめを!」

ブチャラティはジョナサンに向き直り、止めを促した。だが、ジョナサンはワイングラスを持ったまま、止まっていた。
そこにレミリアも近づいてきて、怪訝そうな顔でジョナサンに問いかける。

「ジョジョ、何をしてるの?早く止めを刺さなきゃしぶといあいつのことだからまた悪さし始めるわよ?」

「ああ……だが気になることがある。あそこの木陰から生命反応があるんだ……誰かがいる」

ジョナサンがそうつぶやくと、レミリアとブチャラティもその木陰に目を向けた。

「……確かなことなのか?」

ブチャラティがジョナサンに小声で耳打ちする。

「ああ、確かにこの波紋探知機に反応がある。それに戦っている最中もあの木陰は視界に映っていたから、後から来たわけでないことも確かだ。
 つまり先程からそこにいたようだ……」

サンタナの肉片に気を配りながらも、ジョナサンは答えた。

「成る程……考えられるのは、ただ単に臆病な奴、何らかの理由で動けなくなってしまった者、
 もしくはコソコソと様子見をして機を窺っているゲス野郎ってところか。
 よし、とりあえず探りを入れてみるか……」

そう言って、ブチャラティは不審者が隠れていると思われる木に向かって、声をかけた。

「俺達はある手段によって君がそこに隠れていることを分かっている!だが安心して欲しい、俺達は殺し合いに乗っていない。
 信じるのは難しいかもしれないが、君が出てきてくれるなら、荷物を捨て、両手を挙げよう。
 動けない身体的な理由があるならば言ってくれ。10秒以内に何の返答もなければこちらからそっちに行く、いいな?」

そう言い、ブチャラティはカウントを始めた。
それを聞く不審者――ドッピオは、窮地に立たされた混乱で、粗暴で口汚い性質になり、必死に打開策を考えていた。

(何でここがバレちまってるんだよチクショォォォォッ!十秒後の映像ッ!確かに奴らが近づいてきている……!
 近づいてくるならキングクリムゾンで確実に一人は始末できる……しかしその後が問題だ……
 二対一、しかもキングクリムゾンの連続発動は出来ない……だが逃げるにしても回復しきらないこの体調では逃げ切れないッ!
 どうするッ!?最善策を考えるんだ!)

焦りながらも窮地を脱するため、ドッピオは何か使えるものがないかと周囲に目を見やる。
そして、ある支給品が目についた。

(もしこれが説明書通りのものならば……いや、考えている暇はない……やるしか無いッ!)

ドッピオが覚悟を決めた瞬間、ブチャラティからタイムリミットを告げる声が届く。

「オット、ノーヴェ、ディエーチ。時間だ。約束通り、こちらからそっちにいかせてもらうッ!
 ジョナサン、レミリア、気を抜かず付いてきてくれ。億泰はそこで待っていろ」

「……うん」

「ええ」

「ああ……」

三人は臨戦態勢で近づいていく。
その瞬間――



「――キングクリムゾン」

――時間は吹き飛んだ。
ドッピオは一気に走りだす。

(まず何とか走って距離を取る……全員を相手している余裕はないからな……
 そして!)

ドッピオは支給品から鉄筋を一本取り出す。そして能力の効果が終わると同時に、キングクリムゾンを使い、投げた。
何も知らずに自分が元いた場所へ進む、ブチャラティに対して。

「始末するのはお前からだ、ブローノ・ブチャラティ。ボスにとってこの場で一番邪魔なのはお前だからな……」

鉄筋は高速でブチャラティに向かっていき、一瞬でその背に突き刺さった。

「なッ……これはッ!ブチャラティィィィィィィ!!!」

「どうなってるのよ一体ッ!!早く!早くその鉄塊を抜くのよッーーーー!」

三人にとっては突然の事だった。気づかぬうちに多く歩んでいたかと思った矢先、前を行くブチャラティの背中に鉄筋が投げつけられ、その体を貫いたのだ。
レミリアとジョナサンは周囲を見渡し、逃げ去るドッピオの姿を確認したが、ブチャラティの治療のため追うことが出来ない。
歯噛みしつつもブチャラティを救うため処置を始める。
一方ドッピオは後ろを振り返り、追ってこない連中を見てニヤリと笑う。

(追って……こないか……ならそれでいい。甘い奴らばかりのようでよかった……。
 "コレ"を使うまでも無かったが、安全を期す為にも――何ッ!?)

全てが上手く言ったと確信して、念のためエピタフを確認すると、
予知に、全く予期せぬ光景があった。自身は何故か動きを止めうろたえている。
想定に入れていなかった死にぞこないが、自分を引き止めている。
そして数瞬後、予知通りドッピオは動けなくなった。死にぞこない――虹村億泰に、その背にあるカバンを掴まれている。
ザ・ハンドの瞬間移動能力により、一瞬でドッピオに追いついたのだ。



「どこに……行こうってんだ?なあオイッ!」

引き止める力は万力のように強く、とても瀕死の人間には思えない。
完全に安心しきっていたドッピオは再び窮地に立ったことを認識し、焦る。

(クソッ!クソッ!死にぞこないがよぉぉぉぉ!ふざけやがって……!だがどうする?……キングクリムゾンの連続発動は出来ない……
 単純なスタンドパワーで殴り飛ばすしかないが、距離が近すぎるッ!クソ……どうにか誤魔化すしか……)

「わっうわああああひィィィ!!なんなんですかァあああ~~~ッあなたァ!!?
 ぼくが何したっていうんだよぉおおおお!ぼくはただ、ここを通りすがっただけなんだよォおおお……
 さっきから気分は悪いし足はふらつくしさぁッ!!」

ドッピオは目眩をこらえ、どこまでも情けなく、非力な弱者を装いキングクリムゾンを再発動するまでの時間稼ぎを試みた。

「信じると……思ってんのかこんガキャア!俺は見てんだよッ!テメェがスタンド使ってさとりを殺そうとしてとこをよォおおおおッ!!
 テメーみてぇな自分の為なら誰が不幸になろうが構わねぇような奴がいるからッ!俺や兄貴やおやじも……!」

そう言い、億泰はザ・ハンドを出現させる。
億泰には確信があった。この男がさとりを殺そうとした犯人だと。
故に、最早演技による騙せる可能性も、交渉の余地も、どこにもなかった。

「空も……テメェのせいで消えない悲しみを背負っちまうとこだったんだッ!
 テメェみたいな不幸の元凶はこの俺の『ザ・ハンド』で削りとってやるッ!」

「うおおおおおうるせええええこのクソがァあああああああああッ!!調子に乗ってんじゃねえぞッ!
 離せボケッ!離せェえええええええええええええッ!!」

打つ手がなくなり、ドッピオは本性を露わにして暴れるが、逃れられはしない。
ザ・ハンドの右手が今、ドッピオの体を捉えた。

ガオオーーンッ!!

「ぎゃあああああああああああああああああッ!!」

ドッピオの右肩の肉がゴッソリと削り飛ばされ、尋常ではない痛みが濁流のように押し寄せる。
その影響で肩にかけていた二つのデイパックは外れ落ちた。

「ああああああああああやめろぉおおおおおおおお!!」

ドッピオはいつまで続くか判らない痛みに耐え続ける。最早何も考えることが出来なかった。
だが、痛みに耐え続けていても、中々次の痛みが来ない。
ドッピオは不審に思い、後ろを振り返ると――



「ち……くしょおお……」

――襲われていた。化け物に、新手のスタンド使いが。
そう、サンタナだった。
彼はブチャラティが鉄骨の攻撃によって意識を失った時、スティッキィ・フィンガーズの効果が切れ、復活していたのだ。
復活した際状況の変化に驚いたサンタナであったが、それでも彼の中にあったのは自らの汚名返上のことだけであった。
故にサンタナは彼我の状況を鑑み、厄介な吸血鬼と波紋使いの前に、瀕死の守護霊使いを確実に仕留める道を選んだのであった。
その結果、億泰がドッピオを削り飛ばそうとする瞬間億泰を襲ったため、踏み込みがあと一歩足りずドッピオは致命傷を免れたのだ。
全ては一瞬のことだった。

(チャッ……チャンスか?逃げるしか無い……!クソッ)

これが最後のチャンスと思い、ドッピオはフラフラになりながらも駆け出し、手に持っていた『壁抜けののみ』を使って、
土中に逃走経路を切り拓いていった。
そして開けた穴へと飛び込んでいく。
ドッピオが当てにしていた支給品は壁抜けののみだった。

(や、やった!どうやらこの道具は本物だった!こ、これで一先ず逃げれる……!)

だがしかし、億泰を相手にしていたはずのサンタナは何を思ったのか、急にドッピオに狙いを変え追ってきた。
猛烈なスピードで、開けた穴が塞がる前に穴に入ろうと爆進してくる。

「テッ……テメェエエエエエエエエッ!!なに近づいてきてやがる!いいかッ!俺はいつでもお前をぶち殺すことが出来るッ!
 分かったなら穴に入るんじゃねェえええええええ!!!」

ドッピオは凄み威嚇し全力で追跡を拒む。だがサンタナは臆すること無く入ってきた。
サンタナにも事情があった。このまま森にいてもいずれ日の差し方が変わり死ぬか、今の自分の状態では波紋使いに殺される。
故に億泰の体を乗っ取り肉の傘にしようと試みたが、億泰は抵抗し、余力で自分のスタンドで自分を削り取りサンタナの支配を逃れようとした。
爆弾などと違い、ザ・ハンドに削られればサンタナもどうなるか分からないので、仕方なく支配を諦めた。
その代わりに足と右腕を奪い取り自らのものとし、致命傷を与えた後今度は代案として、一か八かドッピオが切り開いていた地下に逃げる道を選んだのだ。
可能ならばドッピオを殺し、その手にある道具を奪うことも視野に入れて。
逆に殺られる可能性もあったが、それでも地上に残るより生き残れる可能性は高いと判断した。
億泰を倒せど未だ満たされぬアイデンティティを埋めるべく、熾火のように静かに熱く燃える感情を宿し柱の末席は突き進む。

(皆……殺しだ……人間も吸血鬼も……!まだ足りない……あの吸血鬼も目の前の人間も必ず始末する……そしてオレはオレを証明する……!)

対するドッピオは気が気でない。凄んでいるが体調は最悪。肩からの出血もあり余裕が無い。
キングクリムゾンを使えばどうにかなるとも思ったが、この体調では能力を使えるのは精々一回、それに使えば気を失ってもおかしくない。
どうも時間を吹き飛ばす能力を使用すると消耗が激しい。スタンドが精神の力で、兎耳の女に精神をやられてしまったからかもしれない・
そして背後にいる化け物が確実に仕留められる相手とも限らない。故に現状この状態を打破する手段は思い浮かばなかった。
なので、仕方がないので現状を認め、しばらくの間は警戒しつつ適当な距離を逃げ、地上に上がるタイミングを見計らうことにした。

(ボスぅ……すみません……こんなことになるなんて……ボスに任されたというのに……!
 ブチャラティ一人を始末した程度では釣りが合わないッ!
 絶対に……絶対にこのままでは終われないッ!ボスの絶頂は絶対なんだッ!
 二度とこんな轍は踏まないッ!今度こそ完全に完璧にボスの邪魔をする奴らを全て始末するッ!)

ドッピオは未だ目覚めないボス――ディアボロに誓いを立てた。
そして覚悟を新たにし、今はただ暗き土中を突き進む。

こうして、魔力を含む土の下、悪魔と柱は実に奇妙な呉越同舟を征く。
先の見えぬ暗黒の先にあるのは光か、闇か。



【D-4 魔法の森(土中)/朝】
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:首に小さな切り傷、体力消費(極大)、右肩の一部を欠損(出血中)、ドッピオの人格で行動中、
  ディアボロの人格が気絶中、酷い頭痛と平衡感覚の不調
[装備]:壁抜けののみ(原作でローマに到着した際のドッピオの服装)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:『ボス』が帰ってくるまで、何としても生き残る。それまで無理はしない。
2:二度と愚かな失敗をしない。そのためにも慎重に行動する。
3:後ろにいる化け物を何とかしたい。
4:新手と共に逃げた古明地さとりを探し出し、この手で殺す。でも無理はしない。
5:『兎耳の女』は、いずれ必ず始末する。でも無理そうなら避ける。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
※ルナティックレッドアイズのダメージにより、ディアボロの人格が気絶しました。
ドッピオの人格で行動中も、酷い頭痛と平衡感覚の不調があります。時間により徐々に回復します。
回復の速度は後の書き手さんにお任せします。
※ブチャラティを始末したと思っています。

【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(極大)、全身ダメージ(大)、全身に打撲(大)、左脇腹に裂傷(大)、
足と右腕を億泰のものと交換(まだ馴染んでいないがいずれ馴染む)、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天
[道具]:基本支給品×2、不明支給品(確認済、ジョジョ東方0~1)、鎖@現実
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:機会を窺い、目の前の守護霊使い(ドッピオ)を殺して道具を奪い取る。
2:カーズ、エシディシと合流し、指示を仰ぐ。
3:ジョセフ、シーザーに加え、吸血鬼の小娘(レミリア)やスタンド使いに警戒。
4:同胞以外の参加者は殺す。
5:人間と吸血鬼は特に積極的に殺す。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
※緋想の剣は「気質を操る能力」によって弱点となる気質を突くことでスタンドに干渉することが可能です。

※二人はD-4土中を北上しています。



一方その頃、ジョナサンとレミリアはブチャラティの治療に奔走していた。
ブチャラティは幸運なことに、急所を狙ったはずの鉄筋が急所を僅かに外れ、即死していなかった。
因幡てゐにもたらされた幸運が未だ効果を発揮していたからかもしれないし、そうでないかもしれない。
それでもブチャラティは確かに幸運により九死に一生を得た。
だがそれでも瀕死であることに変わりはない。
なのでまず波紋で出血を抑え鉄筋を抜き、すかさず傷口に河童の秘薬を塗りこんだ。
薬の残量に構うこと無く一心不乱に塗りこむ。
すると、残っていた秘薬の殆どを消費してしまったが、医者ですらさじを投げそうな巨大な傷口はみるみる塞がり、
ブチャラティは一命を取り留めたのだった。
そしてしばらくすると、意識を取り戻した。

「ぐっ……うぅ……俺は、一体どうなった……?」

「ブチャラティッ!」

「ブチャラティ……よかった……」

意識を取り戻したブチャラティに二人は安堵する。
だが当のブチャラティは状況を理解した後、不審げに周りを見渡し、怪訝そうな顔をする。

「どうしたのブチャラティ?まだどこか痛むの?」

レミリアがブチャラティを気遣う。
だがブチャラティは首を横に振り、二人に尋ねる。

「億泰は……億泰はどこにいる?」

言われたジョナサンとレミリアはハッとしブチャラティと同じく億泰が居たはずの辺りを見渡すが、どこにも居ない。
ついでのようにサンタナも周囲から姿を消していた。
二人がブチャラティの治療をしていた少しの間に。

「気付かなかった……まさか……一人で敵を追って……!?」

ジョナサンは走りだし、周囲を探索し始めた。

「ジョジョッ!待って私達も……!」

レミリアとブチャラティもそれに続く。
全員は必死に探し回る。誰も、楽観的な考えはしていなかった。
皆拭い去れない不安感を抱え、襲撃者が逃走したと思われる方角へとひた走った。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「こっ……これは……億泰ッ!!」

三人は発見した。億泰の変わり果てた姿を。

「ジョナ……サン……レミリア……それにブチャラティも……助かったみてぇだな……よかった……」

億泰は、辛うじて生きていた。
消える間際の蝋燭のように、その残り少ない命を燃やして、億泰は口を開く。

「追おうとしたんだけどな……あいつ、さとりを襲ったのと同じやつだった。だから……だから許せなくてよ……
 でも、化け物野郎の邪魔が入っちまって……ゴホッ……このザマだ……すまねぇ……」

「ぼ、僕のせいだ………僕があの時あの魔物にとどめを刺していれば……
 億泰、喋るんじゃない……今、今波紋で手当をするから……」

ジョナサンはそう言い近付く。だが億泰の状態は、誰が見ても助かるものではなかった。
両足も、右腕もなく。左半身の一部が消失している。
生きているのが不思議なほどの重傷だった。

「いいんだよ……ジョナサン。俺が勝手にやったことだ……おめーが気に病むことなんて無いぜ……
 それに俺はもう助かんねぇ……余計な力は使わない方がいいぜ……
 それよりも伝えなきゃなんねー事がある……ゴホッゴホッ……」

助けようがなかった。既に河童の秘薬は無いに等しく、波紋も消えかけの命を救えるほど万能ではない。
三人は聞くことしか出来ない己の無力感を前に、ただ拳を握りしめることしか出来なかった。
それでも億泰の言葉は続く。

「ブチャラティを攻撃したのは……中坊くれぇで紫色の髪したやつだ……能力は分かんねぇが邪悪なやつだった……
 一撃喰らわすことだけは出来たが……再起不能に出来なかった……一応あいつの道具だけは奪っといたぜ……」

億泰は自分のすぐ近くに落ちていたデイパックを指さす。

「そして、どうやったのか知らねーが……そのガキは地面に穴を開けて掘り進んで行っちまった……
 化け物も一緒にガキに付いていった……穴は消えちまっているが、確かにあっちの方に行った……」



その方角は北だった。億泰の話通りであれば、乱入者と化物は北に向かって進んでいる。

「俺から言えんのはこれぐらいか……すまねぇ……勝手に追っておきながらこのザマで……」

「……そんなことはねぇさ。億泰のお陰で俺は重要な事を知ることが出来た。
 それに、お前は自分が正しいと思ったことしたんだ……
 恥じることなど何一つ無い」

「ヘヘッ……そうかな……ブチャラティ、ありがとよ……
 そうだ……最後に三人に頼みてぇことがあんだけどよォ……聞いてくれるかい?」

億泰は三人の顔をそれぞれ見て、訊いた。

「勿論、聞くに決まっているさ……」

「ええ、なんでも言いなさい」

「ああ、いいぞ」

三人共、それぞれの言葉で億泰の願いを受け止める。
億泰は目礼で三人に感謝しつつ、残された力で言葉を振り絞った。

「空を……さとりを頼む……大切な家族がいるのに罪を犯そうとしているあのコを……その家族を頼む……
 それと……よ……東方仗助って奴と……広瀬康一って奴に…………もし会ったら……言っといて……くれ……『すまねぇ』って……」

「ああ、分かった。君のその信念に誓って、絶対に約束する。だから……安心して休んでくれ……億泰」

ジョナサンは分かっていた。頼みを言い終えると同時に、億泰が息を引き取ったのを。
それでも、ジョナサンは確かに億泰に誓った。億泰の魂と誇りの安寧のため。
すると一瞬だけ不思議な光景が見えた。
億泰の魂が、こちらを見て、はにかんだような笑顔を浮かべて空に昇っていくのを。
幻だったかもしれない。しかし確かにその意志は三人に伝わった。
虹村億泰の意志は、滅ぶこと無く受け継がれたのだ。

(億泰……君の願いは確かに聞き入れた……許せないのはこれらの願いを踏みにじる『邪悪』ッ!
 絶対に止めてみせる。空も、邪悪も……!)

(バカガラスのことなんてどうでも良かったけど、一度誓ったからにはこのレミリア・スカーレット、
 必ず約束は果たすわ……そして咲夜や美鈴と同じように、あなたの敵も絶対に取る。絶対にね)

(億泰の頼みは当然果たすとして、どうやら億泰の仇の一人は俺と無関係じゃねぇ……
 それどころか確信に近づいた……ボスッ!どうやらあんたを殺す理由が更に増えたようだぜッ!)

億泰の最後の願いを聞き、三人は三者三様の思いを抱く。
一つの命が終われど戦いは終わらない。
三人は同様に怒りと憤りを抱えつつも、それぞれの思いのため、前を向いた。

【虹村億泰@第4部 ダイヤモンドは砕けない】 死亡
【残り68/90】



【D-4 魔法の森/朝】

【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、妖力消費(中)、右腕欠損、頭部及び顔面に打撲(小)、胴体に裂傷(小)、再生中
[装備]:妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達
[道具]:「ピンクダークの少年」1部~3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、
    制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:億泰の敵を追うか、空達を追うか話し合う。
2:咲夜と美鈴の敵を絶対にとる。
3:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
4:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
5:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
6:億泰との誓いを果たす。
7:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
8:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。

[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
 どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことのある懐かしさを感じたようです。
※右腕が欠損していますが、十分な妖力が回復すれば再生出来るかもしれません。
※スタンドについての情報を得ました。



【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(小)、肋骨損傷(小)、疲労(小)、悲しみ、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)、ワイングラス@現地調達
[道具]:河童の秘薬(9割消費)@東方茨歌仙、
    命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品(水少量消費)、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:億泰を埋葬する。
2:これからの行動についてレミリアとブチャラティと話し合う。
3:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
4:レミリアの知り合いを捜す。
5:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
6:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
7:スピードワゴン、ウィル・A・ツェペリ、虹村億泰、三人の敵をとる
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。
4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。
※スタンドについての情報を得ました。
※ワイングラスで波紋探知機を作りました。


【ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、左腕に裂傷(小)、胴体や両足に補食痕複数、幸運(?)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、鉄パイプ@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:ボス(と思われる人物)を追う。
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:億泰の頼みは果たす。
5:DIO、サンタナ(名前は知らない)を危険視。いつか必ず倒す。
6:ミスタ…
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷についての情報を得ました。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします
※波紋についての情報を得ました。
※ジョナサンの波紋で左腕の裂傷・腹部に刺傷複数、胴体や両足に補食痕複数、内臓損傷を回復しました

※D-4億泰の死体の近くに支給品の入ったデイパック(億泰とディアボロとさとりのもの)が落ちています。
中身はそれぞれ基本支給品×3、マカロフ(8/8)@現実、予備弾倉×3、香霖堂で回収した物資、鉄筋(残量90%)
   不明支給品×0~1(古明地さとりに支給されたもの。ジョジョ・東方に登場する物品の可能性あり。確認済)です。

099:幻葬事変/竹取幻葬 投下順 101:Strawberry Fields??
099:幻葬事変/竹取幻葬 時系列順 101:Strawberry Fields??
083:デッドパロッツQ ディアボロ 126:『BOTTOMs ~最低野郎たち、地の底で~』
083:デッドパロッツQ サンタナ 126:『BOTTOMs ~最低野郎たち、地の底で~』
098:深淵なる悲哀 ジョナサン・ジョースター 112:Bloody Tears
098:深淵なる悲哀 レミリア・スカーレット 112:Bloody Tears
098:深淵なる悲哀 ブローノ・ブチャラティ 112:Bloody Tears
065:Roundabout -Into The Night 虹村億泰 死亡

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最終更新:2021年01月08日 21:33