戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ

―――私は走っていた。

いや、気づいていたら既に走っている状態だった、と言った方が正しいか。
なぜ走っているって?そんなの私だって知りたいくらい…
でも立ち止まったらマズい、振り向くなんて以ての外。
今はひたすら、背後にいるであろう存在から逃れるために走ることで精一杯だ。 

それでも、私は一体何をしていたのか、という疑問が脳裏にチラついた。
目が覚めたら走っているなんて、異常な状況を無視することはできないもの。
私は必死に走る傍ら、記憶の糸を手繰り寄せてみることにしたわ。




一人の青年と二人組の男女が竹林にて相対していた。
青年は箒のように逆立った奇妙な髪形をした、ジャン・ピエール・ポルナレフ。
二人組の一人は紳士風の装いをした壮年の男性、ウィル・A・ツェペリ。
そのツェペリの傍で傘を抱えて不安そうな表情を浮かべる少女、マエリベリー・ハーンだ。

「ジョースターという名に聞き覚えは?」
箒頭の男、ポルナレフはツェペリの殺し合いに乗っているかどうかの問いを無視し、
開口一番そう尋ねてきた。

「ジョースター、か。君は殺し合いの場に呼ばれたにも関わらず、人探しとはどういうつもりなんじゃ?
 そいつとはどういう関係なのかね?」
「因縁の相手としか言えないな。もう一度言うぞ、ジョースターという名に聞き覚えは?」

ツェペリは首を左右に振り、やれやれだといわんばかりに両手を挙げた。
「わたしの名前はウィル・A・ツェペリ。
 お嬢ちゃん、彼に名前を明かしてくれるかね?」
「え? は、はい。私はマエリベリー・ハーンって言います…」

その答えにポルナレフはやや不満そうに様子で口を開く。

「二人がジョースターではない、ということは分かった。
 だが私はあまり暇ではない、そろそろ質問に答えてくれないだろうか?」
「まあ、待つんじゃ。いきなり一方的に質問するとは虫がいいとは思わんかね?」
「重ねて言うが、私はそんなことを気にしている場合じゃあ…!」
「まず殺し合いに乗っているかどうか、そこから教えてくれんとわたしたちから話せることは何もないぞ?」
「だが、私は急いで…」
「それとも、君は無暗に他人を怯えさせるような人間なのかね?
 ほれ、お主が怖い顔しとるからメリー君もわたしの後ろに隠れておるじゃないか。」

マエリベリーはハッとし、前に出て抗議の声を上げる。
「わ、私はべ、別にかまいませ…」

「…むむ、そこまで言うなら仕方ない。
 貴方たちが偽名を使っていない、そしてDIO様に手を出さない、
 この2つを約束するなら、私はあなた方を襲わない。…これでいいか?」

  (エッ!?)
  (ディオ…じゃと!?)




予想だにしない名前を聞き2人は内心驚いていた。思わずそれを声に出さそうとしたが何とか堪える。

「どうした?」
「いやいや、なんでもないぞ、その2つを約束しよう。良いかな、メリー君?」
「は…はい。私は平気です…けど。」

 まさか、こやつの口からディオの名前を聞くとは。
 そして『ジョースター』家を探している、か…。厄介なのに出くわしたようじゃな。

 ディオって確かツェペリさんが探していた『石仮面』を被って吸血鬼になった人…
 そしてツェペリさんの弟子のジョナサンさんの元『友人』、その人を様付け?

「さて、他に私は何を答えたら教えてくれるのだ、ツェペリ殿?」
「そうじゃな、まずは…
 そこにいる馬、触らせてもらっても構わんかな?」


「「はあぁ!?」」


「ツェ、ツェペリさん!いくら何でもそんなことしている場合じゃあ…」
「分からんぞ、メリー君。この馬に何か仕込んであるか分からんからな、
 ちょっと前にいきなり馬の首が取れて、中から屍生人が出てきたことがあってじゃな…。」
「お、脅かさないでくださいよ! それに、彼だって許すわけが…」

「全く以てその通りだ―――
 と言いたいが、それで済むなら好きにしろ。ただし手早く終わらせてくれ。」

「―――って許すんですか!?」

マエリベリーが呆気にとられるのを他所に、ツェペリはとうに馬に近づいていた。
彼女もその後をササッと追った。

「ツェペリさん、一体何をするつもりなんですか?まさか、乗り逃げするつもりじゃあ…」
マエリベリーはポルナレフに聞こえないように小声で尋ねる。

「ほっほ、そんなつもりはないよ。…むしろ奴を止めることも視野に入れんといかんかもしれん。」
「…ジョナサンさんが危険ですものね、私も力になれたら…」
「戦う力がないことを悔いる必要はないぞ、メリー君。無くていいんじゃ、
 有るから争いは起きる。あの『石仮面』のようにな。」

 私にはツェペリさんから悔しさが滲んでいるように見えたわ。
 だって『石仮面』の力で振り回されている人をこの殺し合いの場で、
 早速目の当たりにしたんだもの。

その後ツェペリは馬を撫でたり、騎乗しようとするも、何故か噛まれたり、
振り落とされたりして、随分嫌がられている様子だった。




その間ポルナレフは二人の様子を窺いつつも、ツェペリとは違う方を向き、
声を少し張っておもむろに告げる。

「そこに隠れている2人、敵意がないなら出てきてもらおうか?」

「………」

「それとも、ジョースターの内の誰かか?違うなら出てきた方が身のためだ。
 逆に出てこないというなら―――。」


「…分かったわよ、でもなんでバレっちゃったのかしら?」
そう言いながら、桃色の髪に水色の着物のようなものを着た女性、
その後に続くように紫色のおかっぱ髪に花飾りをあしらい、こちらも着物を着た少女が出てきた。

「君たちはジョースターの名を知らないか?
 それとよかったら名前を窺いたい。」
「ジョースターねぇ…生憎知らないし見てないわ。貴女はどう、阿求?」
「私もこれといって聞かない名前ですね。
 あっ、私は稗田阿求、彼女は西行寺幽々子と言います。」

「…そうか。まったく、奴らは竹林にはいないとみるべきか…」
一人呟くポルナレフに、幽々子は不満そうに声を上げる。

「ところで、人を脅しといて自分から名乗り上げないつもり?変な髪型も合わさって印象悪いわよ?」

「向こうの用事が済んだらまとめて話す。それまで待ってもらおう。」

ポルナレフはあくまで事務的に伝える。後ろで幽々子が箒頭がどうだこうだ悪態をつき、
阿求がそれを諌めていたが気にせずツェペリたちを見遣った。



「ツェペリ殿、もう気は済んだだろうか?」
「やれやれ、ちょいと躾がなってない馬じゃな。それに後ろの女性方はどうしたんじゃ?」
「近くで隠れていたようだったからな、用心のために話を付けた、それだけだ。」

こちらを見ている二人に幽々子はニコニコして手を振る。
場違いな反応に少々面食らう二人であったが、慌てて阿求が謝罪の弁を述べた。

「隠れていたのが不快だったのでしたら、申し訳なかったと思います。
 でも決して悪意があったわけではないんです。」
「そう、そう。隠れていたのは自衛のため。
 それに折をみてお話をするつもりだったもの。ねぇ?」

そう言うと、幽々子がマエリベリーと目が合うと小さくウィンクした。
「…?」
「とにかく、敵意がないのなら歓迎しよう。わたしはウィル・A・ツェペリ、
 この娘はマエリベリー・ハーンじゃ。」
「…よろしくお願いします、友達からはメリーって呼ばれてます。」

マエリベリーは自己紹介し、軽くお辞儀した。その様子に幽々子は友人―――八雲紫の姿と比較する。

 うーん、見た目は紫に似てはいるけど、違うわねぇ。付き合いは長いけど、
 あの子って出会ってからもほとんど変わらないし(あっ、私もか)。
 強いて言うなら、私に出会う遥か昔の紫って感じかしら。見た感じ若いものね。
 まぁ、そっくりさんってところかしら?

幽々子はとりあえずは考えるのをそこで止め、同じように自己紹介をする。


「さてと、貴方もいい加減に自己紹介してもらえないかしら、箒頭さん?」

ふむ、分かった、と言うと堂々と自己紹介をする。
「私の名前はジャン・ピエール・ポルナレフ!
 無念のまま死んだ妹の仇を討つ為にッ!
 そして私が忠誠を誓ったDIO様のためにッ!
 憎き『ジョースター』の名を持つ者とその一行をッ!
 この手で殺めることだッ!理解してもらえただろうか、諸君?」

 …やはりあのディオのようじゃな、しかしこやつからは屍生人特有の腐敗臭がしない、
 純粋に忠誠を誓っているのか?

 やっぱりこの人、危険だ。ジョナサンさんのために止めたいけど、どうしたら?

 私たちには無関係とはいえ殺し合いに乗っている方でしたか…

 主人の為に相手を殺すか…あの娘も馬鹿な真似してないといいんだけどねぇ。




各人様々な疑問や考えが駆け巡るが、ポルナレフはさらに続ける。

「ツェペリ殿、マエリベリー君、改めて尋ねるぞ。
 貴方たちはジョースターという名に聞き覚えはないか?」

「残念じゃがジョースターの名前を持つ者なら、わたしもメリー君も会っておらんよ。
 ここで人と会うのはお前さんと幽々子君そして阿求君が初めてでな。」

ツェペリはそこで一旦区切って、気になった話について問いただしてみる。
「一つ聞きたい。妹を殺されたと言ったが、それは本当にジョースターの仕業でよいのか?」

「DIO様がそう仰ったのだ、間違いとは思えんな。」
「そうか…ならば犯人の特徴についてお主は何か知らないのか?」
「もちろん、知っているとも。確か……」

ポルナレフはもう一度「確か…」とつぶやくと頭を抱え込んだ。


「何故だッ?思い出せないッ!?特徴は、特徴は………」
ブツブツと何か呟きながらポルナレフは思い悩むが、やがてハッとする。

「いや、必要ないな。犯人はジョースターとその一行。
DIO様の言う通りにしていれば、いずれ尻尾を掴めるはずだ。」

 こやつ様子がちとおかしい気がしてきたぞ。
 ディオはもしや屍生人にせずとも吸血鬼の力だけで相手を支配できるのか?
 自身で考えるのを放棄するまでディオに心酔しておる。
 こやつを放っておけばジョジョにも危害を加えるじゃろうし、ほっとくわけにいかんか。

「さて用は済んだ、私はこれにて失礼する。
 もし、奴らに出くわしたら私に伝えてくれると助かる。それでは。」

「…待ってもらおうかの、ポルナレフ君。」
「どうしましたか、ツェペリ殿?」
ヴァルキリーに近寄っていたポルナレフは足を止め、振り返る。




「君は吸血鬼の存在を知っておるかね?」
「吸血鬼?なんですか藪から棒に…」
「君の言うディオ様は日中、日の差すところで行動したところを見たことがあるか?」
「いや。DIO様は訳は存じないが、日に当たることのできない身と言っていたな。それがどうかしたか?」

ツェペリは小さくため息を漏らし、口を開く。
「簡単に言うぞ。わたしは『石仮面』という人間を吸血鬼に変えてしまう仮面を追っておる。
 そしてお前さんの主、ディオ・ブランドーは石仮面の力で吸血鬼になり多くの人間を殺したのじゃ。
 わたしとジョジョは奴をこの世から消し去るために行動しておる。」
「DIO様を消し去るだと…!?」
「奴の力に惹かれているというなら、悪いことは言わん。今すぐに―――
「聞き捨てならないぞ…!ウィル・A・ツェペリッ!黙って聞いていればヌケヌケと…!」
ポルナレフは怒りに震えながら、静かに怒気を含んだ声を漏らしていた。 

「石仮面に吸血鬼、ファンタジーやSFじゃあるまいし世迷言を抜かすな!
 挙げ句、我が主を消し去るとか言ったな!
 覚悟はいいか!『シルバー・チャリオッツ』!!」

怒りを露わに自らのスタンドの名を宣言する。
すると、ポルナレフの傍にまるで、最初からその場にいたようかのように佇む騎士の姿がいた。
騎士は銀の甲冑を纏い、細見の剣を構えており、その視線は手にした刃と同じく鋭い。
突然の出来事にツェペリを含む4人とも驚きを隠せなかった。

「な、なんじゃあッ!こいつは、いつの間に…!?」
「う、嘘。どうして…?」

「スタンドを見るのは初めてのようだな。それでDIO様に楯突こうというのならお笑い種も甚だしい。
 だが、このポルナレフ容赦せん!」

そう言うが早いが、ポルナレフはスタンドと共に駆け出す。
ポルナレフは偽りの忠義のため、戦いをけしかけてきたのだった。


「―――ッ!速いッ!!」
間合いを詰めるスピードもさることながら、さらに恐ろしいのは熟達した技術も合わさった剣速!

それでも相手の速度を鑑みて後方に飛び退くことで、わずかに掠めるだけでツェペリは事なきを得る。

「お返しにくれてやるわいッ!」

着地した瞬間に退いた勢いを180度転換。逆襲にとチャリオッツ目掛け、
パウッと波紋の呼吸と共に膝蹴りを見舞わせる!

「仙道波蹴ーッ!」

膝蹴りは的確にチャリオッツの胸を捕え、波紋を全身に流すことに成功する。
ツェペリは後方に着地する、鎧越しだが確かな手ごたえを感じ、
チャリオッツを気絶へ追い込んだと思っていた。しかし―――

「無駄だ!スタンドにはそのような攻撃は通用しないッ!」

ツェペリの攻撃が意味を成さないと言わんばかりに、チャリオッツは突撃を再開していた。

「ば、馬鹿な…!?」

そして距離は完全に詰められ完全な射程圏内、逃げ場はない。

「覚悟してもらうぞ、ツェペリ!『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」
「くっ、腹を括るしか、ないようじゃな…!」

さっきと同じように後方に逃れれば、次こそはスピードの速いチャリオッツが振るう刃から逃れられない。
ならば応戦するほかない、ツェペリはそう判断し、チャリオッツを睨み片手を突き出し構えた。



「うーん、なんだか私達、置いてきぼりにされちゃったわね?」
「幽々子さん、そんな呑気な…」

幽々子がのんびりとした感じで話す様子に、ツェペリの連れであるマエリベリーに対して
失礼だと感じた阿求は幽々子を窘めた。
「でもねぇ、阿求。あの二人は当人同士でけりをつけたいはずよ。
 現に私達になーんにも教えてくれないんですもの。」
「確かに、そうですけど…」

でもねぇ、と付け足しマエリベリーをチラッと見て幽々子はさらに続ける。
「誰かに教えてもらえれば、私達も無関係ではないわね。誰かいないかしらー?」
「…!力になって頂けるんですか!?」

幽々子の言葉の意味が分からないほどマエリベリーは愚鈍ではない。
驚きながらもすぐに幽々子へと視線を移した。

「ふふ、説明してもらえるかしら、メリー?」

幽々子はメリーの期待のまなざしを、いつもの余裕を持った笑みで返した。


マエリベリーはどうしてツェペリがポルナレフと戦わなければならないのか、要点を押さえ手短に説明した。

「石仮面を追うツェペリさん、石仮面によって吸血鬼となったディオさん、
 彼を止めるべく立ち上がったジョナサンさん…」
「―――で、何故かディオに従っている箒頭ね。まあ、概ね理解できたわ。」

「…信じてもらえるのですか?」
あっさり今までの話を飲み込んだ二人に却って驚くマエリベリー。
自分だって聞かされた当初は多少なりと疑ったのにも係らずだ。
しかし、真摯な態度を以て接してくれたツェペリの言葉だからこそ突拍子もない話でも信じられたのだ。

「ああ、説明してなかったわね?私達もちょっとだけ普通じゃないのよ、ちょっとだけね。」
「私の知識と合致しないところもありますが、外の世界では吸血鬼ってそんな風にできるんですか。
 興味深いですね…」
ふむふむ、と頷きながらマエリベリーが話した内容を租借する阿求に幽々子が水を差す。

「あらら、あなただってこんな時に呑気過ぎないかしら、阿求?」
「うっ…す、すみません。職業柄というか、つい…」
申し訳なさそうに返す阿求にコロコロと笑う幽々子だが、
さてと、と発すると話を切り替えるべく表情を引き締める。

「ちょっとふざけ過ぎちゃってごめんね、メリー。まぁ、安心なさい。阿求、メリーを任せるわね。」
「はい、でも決して無理なさらないで下さい。」
「頼んだ手前にアレですけど…本当に大丈夫なんですか?」
本当に今更だが、マエリベリーは不安に、いや心配していた。
買って出てくれたとはいえ、自分と同じ女性に頼むことに尻込みするのは当然ともいえる。
幽々子はマエリベリーに近づくと片頬をつまみ上げる。




「ふぁにふるんでふか!?」

「いやねー、ひょっとしたらあの娘の昔ってこんなに可愛かったかしらって考えてね♪」
そう言うと、パッと手を離してあげた。マエリベリーは首を傾げるが、
ふと思い立つと自身の手に握っている物を差し出す。

「…そうだ、素手では危ないしこれでよかったらこれを使ってください!」
「悪いけど受け取れないわ、メリー。だってそれは私の友達の物だし、
 今は貴方の手に持ってたほうがよーく似合うもの。」
ピシャリと断る幽々子だが、その顔はにこやかだ。
「そんな理由で―――」
「それに、ちゃんと獲物はあるわ、とっても大事な物が…ね。」
幽々子は腰に下げた少し小ぶりの刀を見せると、続きは後で話ましょうねー、
と言って対峙する二人へと向かって行った。

マエリベリーの表情はそれでも少し暗かった。阿求は何か自分でできることはないかと考えた結果、
彼女の不安を取り除こうと話しかけることにした。
「呑気な雰囲気の方ですけど、あれで凄腕の剣士の庭師をお持ちなんです。
 きっとお強いはずです、きっと…?」

マエリベリーを元気づけようとした阿求だったが、逆に話していて自分も心配になってきた。
彼女とて幽々子が戦っている姿を見たことはない、異変を起こす力は持っているが
直接的な戦闘はどこまでできるのか、見当もつかなかった。


「………あ、そうだ。さっき幽々子さんが普通じゃないって言っていたのは何故ですか?」
気まずい空気が流れそうになるのを感じたのか、マエリベリーは話題を振った。

 なんだか安心させるどころか、気遣われたような…
ひそかに心の中で自分の情けなさに涙しながら答える。
「ええと、そうですね。まず、私たちは『幻想郷』の住人なんです。
 逆にメリーさんは私たちからすると『外の世界』の方になりますね。」

「幻、想郷…!?」

「はい、それで先ほど幽々子さんが言っていた御友人の名前は『八雲紫』様と言って
 その『幻想郷』を管理されているお方なんですよ。」

「八、雲…ゆか、り!?」

―――マエリベリーの内側で二つの言葉が反響する、『幻想郷』と『八雲紫』
―――懐かしく、遥か昔から知っていたような感覚に襲われる
―――ふと対峙するツェペリとポルナレフが視界に入る
―――その途端、急に瞼が重くなるのを感じた
―――近くで阿求が声をかけるも空しく、彼女の意識は静かに混濁していった




そして話は冒頭へと戻る―――

思い出したわ…!私は確かに阿求さんの話を聞いていた。で、急に気が遠くなって、それからは…!?

  ツェペリさん達の戦いはどうなったの?
  私はどうしていきなり気を失ったの?
  誰が追いかけてきているの?

一通り今までの記憶を思い出すも、未解決の問題があることに愕然とする私だった。
「はぁッ、はぁー……はぁ…」

もう10分以上は走っているだろうか。追跡してくる相手はしつこく、なかなか逃がしてくれそうにない。
体力に自信があるわけでもない私は、いよいよ走り続けるのが難しくなってきた。
それでも振り向くわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない。
追手が誰か分からないからか、私は2つの選択肢のどちらも選べなかった。
せめて誰か分からないと安心できなかった。

一体誰が追ってきているの?あの場にいた誰かって考えるのが自然だけど。
だってここはさっきいた竹林だもの………ん?竹林って、そういえば…!?


マエリベリーはハッとした。彼女はこの自分の状況に強烈な既視感を覚えているからだ。


―――そう、そうよッ!
竹林で追いかけられるシチュエーションって、
私が前に蓮子に話した夢の出来事とぴったりじゃない…! 
それじゃ、まさか!?
ここは私の夢の中?
意識を失ったのも、つまり―――今寝てるからなの!?

マエリベリーは『境目』を見る力を持っている。この力で蓮子と一緒に、
結界の切れ目を探しては、別の世界に足を運ぶといったことをしている。
それが原因かどうかは分からないが、夢を見るときにも別世界を彷徨うようになってしまったのだ。

だからなのかしら?私が走るのを止めないのは。
だって、夢と現は同じもの。最近の常識では同意語なのよ。
夢であろうと現であろうと、得体の知れない物からは逃げなきゃいけないわ。
そこにある真実は決して変わらないのだから。



「ホラホラホラホラホラぁーッ!」
「ぬおおぉぉおおーーッ!」

戦況はポルナレフが有利に動かしていた。チャリオッツのスピードを活かした、
剣の突きによるラッシュでツェペリを攻め立てる。

対するツェペリはそれをなんとか避けようとするも、そのスピードに苦戦していた。

 速いッ!さっきからかなりのスピードで動いているというのに全く衰えておらん!

勿論ツェペリもただ避けているだけではない。しかし最初に食らわせた波紋蹴りと同じように、
チャリオッツに波紋が一切通じないのだ。

 わたしの波紋を受けても『スタンド』とやらには効かない…!
 なら、本体を―――ポルナレフ叩くしかない…が!

当然ポルナレフがそれを許すはずもなかった。近づこうにもチャリオッツを引き留めなくてはならない、
だがチャリオッツに波紋が効かないのではダメージは与えられない。
さらにスピードも相手の方が上、スタンドの猛攻を振り切ってポルナレフへ攻撃するのは不可能。
ツェペリの状況は積みに等しかった。

 わたしは諦めるわけにはいかん…!こやつの後ろに控えている『石仮面』のその邪悪から解き放つために! 

「どうした、ツェペリ!避けているだけでは私には勝てんぞッ!」

しかし反撃のチャンスを窺うも、避けきれなかった刃がまたも体を走る。
一つ一つは深くはないが、全身のいたるところに斬りつけられた後が残っていた。

「ぐうぅッ、そういうことは!わたしに、一撃食らわせてから、言うんじゃなッ!」

ツェペリは避ける。払ってくる刃に大きく身を屈め、そこから振り下そうとするなら地面を転がり、
突いてくるなら身を反らして凌いだ。
だがいずれも完全には避けきれず、掠り傷を生み出していた。



しかしここに来て、ようやく戦況が動く。

突如チャリオッツが攻撃が止め、ポルナレフの元へ戻る。
その直後ツェペリの背後からチャリオッツに向けて紫色をした光が三本差さっていた。
ツェペリは一瞬攻めるか、退くか悩むが一旦距離を取るべく走る。


「ハァーッ、ハァー、君がしたのか…幽々子君。」
「ええ、あの娘に頼まれたのよ、貴方を助けてくれってね。」

助け舟を出した幽々子は小さく笑う。

「さっきの光は一体何をしたんじゃ?」
「後で説明するわ。今はあの男を片すのが先でしょう?」




幽々子はポルナレフを指差して言う。
「やれやれ、まさかこのような女性から横槍を入れられるとはな…。」

レーザー状の弾幕をチャリオッツで受け止めたポルナレフは静かに口を開く。
「まあいい、こちらも戦いを止めようと思っていたところだ。」
「どういうつもりじゃ?」
「スタンドを持たない貴方では万に一つも勝ち目はない、貴方自身それがよぉーく分かったはずだ。」
「確かに手こずらせてくれる、ちーっと骨が折れそうじゃわい。」

「それに、我がスタンドは取るに足りない相手を嬲るためのものではない。」
従って、とポルナレフは言い、スタンドを戻すとツェペリに向けて一つの提案を持ち掛ける。

「ジョースターの情報を吐くこと、
 貴方がDIO様を侮辱したことを撤回すること、
 手を出さないことを誓え…!
 そうすれば見逃すことを約束しよう。」

「ほう?ずいぶん親切じゃな、わたしはディオの敵だということを忘れておらんか?」
                「だがッ!」

ポルナレフはツェペリの言葉を遮る。
「一つ言っておくッ!我が主DIO様もスタンドを所持し、その力は私を遥かに凌駕していることをッ!
 私に傷一つ負わせることが出来ない貴様に勝利など、絵空事に過ぎないッ!」

しばし二人の間に沈黙が流れ、ツェペリがその静寂をゆっくりと破る。

「少し話をさせてもらうかの、ご清聴願えるかな、ポルナレフ君?」
「いいだろう、話してみろ。ツェペリ。」

「わたしはなあ、ポルナレフ君。人は困難に衝突した際に『立ち向かう』か、
『立ち止まる』か、この2つがあると思っておる。」

「じゃが、『立ち向かう』のも『立ち止まる』のも自由じゃとわたしは考えておるよ。
 真に『立ち向かう』のに必要なものは『勇気』。
『恐怖』を我が物とし、乗り越えられるのなら困難に打ち克つことが出来る。」

「もし『立ち止まる』なら、『恐怖』に飲まれ呼吸を乱すようなら、
 無理に挑むのはノミのすることじゃ。そんなもの『勇気』ではない。
 自身を『卑怯者』と感じても、『勇気』を持つために足を止めることは決して間違いではない。
 大事なのは永遠に『立ち止まらない』ことじゃ。」

「では貴方の持論通りならばここで『立ち止まる』べきではないか、ツェペリ?」
ツェペリはポルナレフの言葉を無視して、さらに話す。

「お主のディオはな、ある困難に衝突した時、人間を辞めることで『立ち向かう』ことを選んだ。
 じゃがわたしからすれば、そんなものは『立ち向かう』とは言わん、絶対にな。
 奴の行為は『人間』の『可能性』、『勇気』を持とうすることから
 永遠に『立ち止まる』行為にすぎん。」


「………」
「話が長くなったな、ポルナレフ君。わたしは当然『立ち向かう』ことを選ばせてもらうぞ。
 なぜなら、わたしの持つ『可能性』はこの困難を乗り越えられることを知っているからじゃッ!
『スタンド』を持たぬわたしが、人間の持つ『勇気』と『可能性』見せてやろう―――
 それこそが『人間賛歌』というものッ!」

「あくまで、私と戦うことを望むか…。ならば是非もない、受けて立とうッ!
 ただしその命を貰い受ける!」

「あの~、私も忘れないでほしいわ。まったく二人揃って、勝手に話を進めて…」
二人が話している輪に入れず幽々子は少し困っていた。



「はぁッ、はぁッはぁッ、はぁー、……はぁ…」

あれから、私はさらに走り続けていたわ。
いい加減に限界が近づいているのが分かる、そして違和感を感じ始めたのよ。
足も痛いし、呼吸も乱れて、私の走る速さはとっくに落ちているはずなのに、
追跡者は追いつこうとする気配がないの。

それに周りの景色もおかしいわ、辺りの色合いはまるで白黒テレビみたいなモノクロ調になっているし、
竹林を回り続けているのか、同じ景色を延々と見ているようだったの。

私にとって夢も現も一括りなんだけど、蓮子のように言うなら
やっぱりここは私が見ている夢の世界なんでしょうね。
私はこの竹林でのとびっくらを体験したことがあるし。

なんにせよ、そろそろこの夢を終わらせないといけない。
殺し合いの場で眠っている場合ではないもの。だとすると、どうやれば目覚めるのかしら?
あの時は―――そう、走っている位置より先の竹林が紅く光ったのよね。
それで走るのを止めて、その先は…うーん、覚えてないわね。まあそこで終わったとしましょうか。

でもさっきから一向にそんなことは起きない、同じようにして終わるとは限らないってこと?
なら…後ろで追って来ている人に尋ねてみようかしら?
何のために逃げてきたか分からなくなるけど、
もうそれ以外で解決する手段が思い付かないわ。
いい加減疲れ過ぎて、恐怖心が麻痺してるわね、私

今、あの時と違って明らかに疲れている。あの時は走っていたのか、
はたまた空を飛んでいたのか覚えていないけど、必死に逃げてはいたのに疲れはなかったはず。

このまま延々と走り続けるぐらいなら―――腹を括るしかないかしら?
括るのが首じゃないといいけど……


あれから3分ほど経ったわ、負け犬ムードだったし疲労も限界。
私はついに観念したわ…、意を決して振り向いたのよ。


そこにいたのはある意味で予想の範疇だったわ、一瞬見たときわね。
私を追っていたのは、竹林でツェペリさんと戦っていた
ジャン・ピエール・ポルナレフさん『らしき』人だったわ。
『らしき』って言うのはちゃんと意味があるのよ。だってそこにいたのは、
どんな表情しているのか分からないシルエットみたいな感じだったもの。
白と黒色のみの世界でも彼の見た目は異質だったわ。全身が白で彩られているかと思ったら、
前髪の付け根辺りからドス黒い何かがあるのが見えたのよ。
そして私はそこを見た瞬間、声が聞こえたわ。





「きさま!見ているなッ!」



その言葉を境に、ポルナレフさんのドス黒い何かが彼を黒に染め上げていったの。
挙げ句そのそれだけじゃ終わらず黒は、空間にも及んでいって―――
最後には何もかも真っ黒よ。もちろん私も逃げようかしたけど、黒色に飲み込まれていったわ。
ほんと、夢みたいな話でしょう?でもまだ終わりじゃなかったのよ。

そこで意識は途切れることなかったの。目を覚ますと、そこにはポルナレフさんはいなかったわ。
代わりに立っていたのは金色の髪にハートの髪飾りを身に着け、黄色を基調とした服を纏った男性。
いや、見た目よりもその男の雰囲気というか空気が異質だったわ。
私は一目見ただけで今まで出会ってきたことのないタイプの存在だと感じたのよ。
その男は気さくに話しかけてきたわ。
「やあ、お嬢さん。名前はマエリベリー・ハーン、メリー君で良かったかな?」

私は条件反射のように返事をしていたわ。私の名前を知っていることよりも、
自然と私が返事をしていることに驚いてね。
その時気づいたわ。この男の纏う空気に圧されていることに。
「しかし、驚いたな。こんな形で私の領域に踏み込んできたのは君が初めてだ。
 一体どうやって入り込んだか教えてくれないか?」

私は夢の中の出来事だと答えるかどうか一瞬悩んだわ。でも口はあっさり開いちゃったのよ。
簡単にだけど説明したの。まるで操られているみたいで気持ち悪かったわ。
「非常に興味深いな。君の話が本当なら、
 夢の中を自分の意志で体験できる。なかなか素敵じゃあないか!
 おっと失礼、まだ名乗っていなかったね、私の名前はDIOだ。
 よろしく、メリー君。折角来てもらったんだ、何か聞きたいことはあるかな?」

ディオ。ツェペリさんが話していた男の名前、そして今彼が戦っているであろうポルナレフさんの主。
その男が目の前にいるというのに、私は妙に納得していたわ。
この奇妙な雰囲気の存在を生む『石仮面』だからツェペリさんは戦うのだと。
相手を従わせるカリスマを持つゆえにポルナレフさんは従う、私もつい答えてしまうのだとね。

私はここから出たかったわ。親切にしてくれるけど、本能は逃げろと言ってるもの。
だから私は尋ねたわ。ここがどこなのかって。
「ん?君はさっき夢の中の出来事だと話してくれたじゃないか?」

夢の世界にいるのはとっくに理解できたわ、でも私の力は夢を見て別世界を彷徨うためのものじゃない。
『結界』や『境目』を観測できる、それが本来の力。
夢での体験は言ってしまえば、二次的な副産物にすぎないのよ。
まして、私はついさっきまで起きていたのだから、きっかけはもっと別にあるって考えたわ。
例えばそう、何かしら『結界』や『境目』をこの目で観測した、とか…



「フフフ。まあいい、意地悪せず答えよう。私も初めての体験でね、正直に言って明確には分からない。
 だが、おそらくここは私が与えたポルナレフの肉の芽の中だ。」

ポルナレフに与えた肉の芽?と私は気になる言葉をオウム返ししたわ。
「君もさっき見ただろう?彼の額より少し上の部分にあるモノを、
 あれのことだ。君はそのあたりにいるだろう。
 しかし物理的に侵入した感じではない、夢の世界というのは実に奇妙なものだな。」

あのドス『黒』い何かってディオが生み出したもの?
そしてあの場に立っていた『白』のポルナレフさん。
そこまで聞いてハッとしたわ。私はあの時見たのよ『境目』をね。
「さて、今度はこちらからちょっとした提案がある、メリー。
 私と友達になってもらえないだろうか?」

私は予想外の言葉を聞いて、一瞬呆気にとられたわ。それでもディオは続けたのよ。
「君は今この殺し合いの場で少なからず『恐怖』を抱いているはずだ。
 だが、私の友達となってくれれば君に『勇気』を与えることができる。」

私は断るかどうか悩んでいたわ。今度は即答せずに済んだけど、
「はい」って返事しそうになりそうだったの。
ツェペリさんから危険だと教えられたのにどうして?
「君はツェペリという老人から、私の話を聞かされているから不安に感じるかもしれない。
 だが誤解なのだよ。私は吸血鬼などといった存在ではないんだ。」

そうなんですか?って私は明るい声で返していたわ。
どうして?理由も根拠もないディオの言葉を私は信じようとするの?
このままじゃいけない、強く感じたわ。

「では、友達の証として君にプレゼントだよ。受け取ってくれ。」

ディオの髪が独りでに蠢き出したのよ。少しすると髪の毛から見覚えのあるものが見えたわ。
それはポルナレフさんの額辺りにあった肉の芽。私の目にはここでもその色は『黒』かったわ。
流石にその様子を見て、私はようやくハッとしたわ。
彼が生み出した肉の芽は人を操るためのものだということに。

私は一目散に逃げ出したわ。操り人形にされるのが分かってしまったから。
でも、いつの間にか私の前にディオが立っていて、なのに誰かが私を後ろから羽交い絞めにしたの。
「安心するといい、痛いのは最初だけだ。すぐに私に従う快楽を与えてやろう。」

そう言うと、肉の芽が私目掛けて飛んできたの。
確かにそれは私の額へと向かって行ったわ。私は迫りくるそれを眺めるしかできなかったわ…



ポルナレフはスタンドを発現させるとそのスピードに任せて一気に近寄る。
「ようはスタンドではなく、お主に近づくそれだけができればいい。」

ツェペリは何をするでもなくただ立っていた。
「どうしたッ!『立ち止まる』だけでは何も変わらんぞ、『立ち向かって』みせろ!ツェペリッ!」

「焦ってはいかんぞ、ポルナレフ君。待つこともまた『勇気』がいること、
 大事なのはタイミング、機を逃すわけにはいかんのでな。」

ついにチャリオッツはツェペリとの距離をほんの数瞬まで近寄っていたが、
ツェペリは動じず、前を見据えていた。

ここでツェペリから見て前方に置いてある星熊杯に変化が起きる、
ポルナレフに向かっていた波紋がわずかに揺らぎ始めたのだ。

 何を狙っているか分からんが臆するわけにはいかない。切り伏せてやるッ!

ついにチャリオッツの刃がツェペリの頭上を捉え、振り降ろされようかした瞬間。



ポルナレフは気づかない、背後から駆けつけている存在を―――

ツェペリの一挙一動に集中した、彼の耳には届かない―――

数多のレースを股に掛けた存在が大地を力強く蹴りつける音を―――



両者の間に割って入る一つの影が現れ、ポルナレフは思わず驚愕する。

「バカなッ!なぜここにッ!?」
ツェペリの口角がわずかに上がり、笑みを浮かべる―――勝利の笑みを。






「ヒヒイィィ~~ンッ!」

意外!それは馬ッ!

そう、二人の間に立ったのはヴァルキリー、
ポルナレフの支給品にしてジャイロ・ツェペリの相棒が突如二人の間に割って入ったのだ。

「うおおおおお!?」
まさか、ヴァルキリーが邪魔をしてくると流石のポルナレフも予想だにしていなかった。
ヴァルキリーを斬ったところでツェペリには当たらない。
ならば傷つけぬようにと刃の勢いを殺してしまった。

そのような絶好の機会を逃すほどツェペリは甘くない。
この展開を予知していたかのように、疾うに駆け出していたのだから。

進むはポルナレフへと至る『直線』の道筋!
強い『覚悟』を秘めた者だけが決断できる『勇気』のロード!

加速した勢いを維持し、低い姿勢でヴァルキリーの股をすり抜ける。
チャリオッツが刃を止めていた時には、その脇を走り抜けていた。

「ようやく、近づけたな…!石仮面が招いた悪意よ!」
ポルナレフはハッとしたときにはツェペリの拳は迫っていた。

「くッ!『シルバー・チャリオ―――
「ノロいぞーッ!ポルナレフーーッ!山吹き色の波紋疾走ッ!!」

ポルナレフはチャリオッツで応戦しようとするも、それより先にツェペリの波紋疾走が腹部を捉えた。

「うぐおッ!?」
「まだまだ、行くぞぉ!波紋疾走連打じゃあッ!」

ツェペリは追撃にと、さらに攻勢を強める。
殴り抜いた拳は更なる拳を呼び寄せるかのように、加速に加速を重ねる。
太陽の輝きを纏った拳の嵐は、まさに驟雨の如く降り注ぐゲリラ的集中豪雨。

ポルナレフはチャリオッツを出そうとするも、波紋による痺れのせいで、
ツェペリの猛攻を腕で防ぐのがやっとだった。

しかし、何故ヴァルキリーが都合良く二人の間に割って入ったのか。
懐いているわけでもないというのに、まるでツェペリを守るような行為をとった、これは何故か。
答えは簡単でツェペリが事前にヴァルキリーに流した波紋を操作したからだ。
最初に馬を確認させてほしい、というのは建前で、真の狙いは相手に隙を生み出せるのではないか、
という思惑からとった行動であった。
加えてポルナレフが操る『シルバー・チャリオッツ』の剣捌きから
ヴァルキリーに刃が当たるような雑な攻撃はしない、という判断もあった。
それらは全て的中し、ポルナレフに大きな隙を生み出したのだ。

「……私、助ける必要あったのかしら?」
最終的にツェペリ一人でポルナレフを追い込むという結果に、幽々子はなんとも言えない表情で立っていた。



迫りくる肉の芽は私の額に侵食する寸前―――太陽の光を発し消えていったわ。
「なにぃッ!?は、波紋か?まさか老いぼれの波紋ごときに!うおぉおぉおおおッ!!」

背後で私を捉えていた何かも私から離れる。もちろん私は逃げ出したわ、彼と距離を置くために。
私が一体どうしてここにいるのか、理解できたというよりは思い出したわ。
私は『境目』見たんだわ、正しき『白』と悪しき『黒』のいわば、ねずみ色の『境目』を。
ポルナレフさんの額近くにある肉の芽を見て、私はそう。
あまりにもドス『黒』くて『吐き気を催す邪悪』というか、そんな恐ろしいものをイメージしたのよ。
対してポルナレフさん自身は『正しいことの白』っていうか、そんな正しさが見えたわ。
そしてその善悪の『境目』に入り込んでしまった。

でも、なんで急に意識が失ったのか。何がきっかけになったかは分からないわ、でもそんなことは後回し。
とにかく今は逃げる。『黒』である肉の芽から離れて、
もう一度『白』と『黒』で彩られた『境目』の竹林へ戻れば、きっと出られるはず。
今はディオ自身も弱っているし、私もどこにいるか認識している今なら。

幸いディオは追ってこなかったわ。彼から離れ、視界が闇に染められたけどそれでも走り続ける。
少しすると、またいつの間にか景色が変わっていたわ。白黒テレビ色の竹林にね。
でもなかなか覚めない。だから私は叫んでやったの。

「さぁ、目を覚ますのよ!
 夢は現実に変わるものッ!
 夢の世界を現実に変えるのよッ!!」

肉の芽なんかとは違う、私の友達―――宇佐見蓮子の言葉を。

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最終更新:2014年10月29日 19:31