wanna be strong

歩く、歩く。答えのない悩みを抱えながら歩く。
さきほどのエシディシとの戦いにより、心は折られ、生殺与奪も握られた秋静葉は、
死人のような覇気なき足取りで、ほの暗く湿った魔法の森を歩き続けていた。
何をすればいいのかも分からずに。

――一度しか言わんから、よく聞けよ?
 きさまはあと『33時間』で死ぬ――

エシディシの言葉が脳内で何度も再生される。
そうだ、自分はあと30数時間経つまでにあの恐ろしいエシディシという男を殺し、解毒剤のピアスを奪わなければ死ぬ、死ぬのだ。
死ねば穣子を生き返らせることなど出来ない……。
だがどうやってあの男を殺せばいい……どうすれば強くなれる……強さとは何だろう……。
終わりなき問いが静葉を苛み続ける。

そんな時である。歩き続ける静葉の視界に、大きな建造物が見えた。
どうやらうつむきながら歩いていたからか、接近するまで気づけなかったようだ。
それは塔、しかも鉄塔だ。既にここでは柱と鬼の凄惨な闘争が繰り広げられた後だが、静葉が知る由もない。
まじまじと鉄塔を眺めるが、静葉が知るかぎりでは、魔法の森にこんなものはなかった。
これも主催者の能力なのだろうか、と訝しみながらも近づいてみると、その近くに誰かが倒れていた。

しまった!と思い距離を取ろうとしたその時、倒れている人物の姿がはっきりと目に写る。その眼を見た瞬間、静葉は強烈な親近感を覚えた。
似ている、似すぎているのだ。
地べたを這いずり血反吐を吐き、腕が落ちながらも死ぬことも出来ず、うつろな目をしてただ生きながらえている。
そんな彼女が今の自分と。
まるでさっきまでの、いや、今の自分と全く同じ目をしている。

彼女の名は寅丸星。部下を失い、片腕を失い、自らの正義さえ失い彷徨う毘沙門天の化身だ。
命からがら逃げ延びたものの、体力も精神も限界を迎え倒れていた。
当然静葉は、彼女に何があったのか一切知らない。
それどころか幻想郷でさえ一度も話したことさえない。
だが“奇妙”な感覚が、彼女が同類であると静葉に強く訴えかけていた。
そして気づけば静葉は、引力に導かれるようにふらふらと星に近づき、話しかけていた。

「ねえ……そこのあなた……私と話をしない?」


☆☆☆☆☆


唐突な静葉の出現に、最初は驚き身構えた星であったが、敵意も見えず、抵抗する力もないのでおとなしく話をすることにした。
そして情報交換をし、お互いこれまで何があったのかを語り合った。
男たちの決闘のことを、大男との死闘のことを、一方的な簒奪のことを、部下と片腕の消失のことを、そして互いに、全てを失ったことを……。

「成る程……やっぱり私の思った通りね……私達は事情は違えど、似たような境遇。
同じく誰かのために覚悟したけど、圧倒的な力にねじ伏せられたもの同士ってわけね……ふふ……」

自嘲の笑みを浮かべながら静葉は月の沈みつつある空を仰いだ。
寅丸はそんな静葉を気にするでもなく、これからどうするのかを尋ねた。

「私達が似ているのは分かりました。
それで、どうするのです?お互い満身創痍で、最早これから何をすればいいのかもわからない二人です。
例え徒党を組もうが何も出来ません……!」

寅丸はそんな自分を情けなく思い、強く歯ぎしりをする。

「ねえ、寅丸さん……“強さ”って何かしら?」

寅丸の質問に対し、静葉はまた質問で返した。

「……何が言いたいのですか?」

「私ね、強くなるには“感情”を克服しなければならないと気づいたの……
私達は恐怖や怒り、そんな感情に左右されて身の程もわきまえず戦い、死人も同然の有り様となった……」

「……」

「本当に成したいことがあるなら、そんなものあっても意味が無い。
私達は殺すと思ったら既に行動は終わっているぐらい冷徹にならなければならなかった……」

「でね、こんな状態になったからこそ気づけたけど、死人も同然ならもうきっと何も怖くないと思うの……
だって、何をしてもしなくても死ぬんだもの……だから怖くない、だからなんでもできる。
そこで提案なのだけれど、私達手を組まない?」

「手を組む?今言ったばかりではないですか、死に体の私達が組もうが何も出来ないと。
しかも生き残れるのは一人、そんな契約、端から破綻しています!」

反論する寅丸に対し、静葉首を横に振りながら語った。

「違うわ、寅丸さん。死に体の私達だからこそ、よ。
最早私達に感情はない。弱者で罪人で死人なら、それに見合った戦いをすればいい……
どんな非人道的なことをしようが、どんな常識外れなことをしようが心は傷まない、いうなれば死に物狂いの強さ……
私達ならそれが出来る。だって、そこにあるのは純粋な願いだけなのだから……」


「ただ、それだけじゃだめということも同時に知った。
私個人の力には限界があり、何をしても敵わない相手がいる。
でも二人なら、そんなやつを殺せる可能性が増える。
きっと私達の仇にも弱点はあるはずだしね。だって、もしあいつが何の弱点もないのなら、ゲームとして破綻しているもの。
それに、どんなに小さな可能性だろうと、今の私には十分だから……
きっとあなたなら、今私の言ったことわかってくれると思う。私達が組めば強くなれる。
確証はないけれど、そんな予感がするの。だから、こんなことを言ったの……」

そう言いながら静葉は手持ちの支給品を探り、一枚のディスクのようなものを寅丸に手渡した。エシディシから施されたものだ。

「……これは?」

「これは私からの盟約の証、もし組まないとしても、プレゼントとして受け取ってもらっても構わないわ。
それに私じゃうまく使えないみたいだしね。
それと……もしあなたが、部下を死なせてしまったことやゲームに乗ったことを罪と思い、死んでしまいたいと考えているなら
、この私が、八百万神の名において断言するわ……あなたは悪くない、と。
そう、あなたは悪くない、悪いのはこの場を創った主催者共よ……まあこんな私の赦しじゃ、大した効力はないと思うけど……ふふ」

静葉の話を聞き、寅丸はしばらく俯いたままだったが、ようやく顔を上げ、静葉に答えを返した。

「分かりました、その盟約、受けましょう」

その言葉を聞き、静葉は小さく微笑みありがとうと答えた。

「実を言うと、私もあなたを初めてみた時驚いたのです……まるで私だと。
月並みな言葉ですが、これも“運命”なのでしょう。
二度とは戻れぬ血塗られた運命ですが、こんな二人が出会ったのはきっと偶然ではないはず。
それと、静葉さんの言葉、嬉しかったですよ……」

静葉のほほ笑みに対し寅丸はまたほほ笑みで返し、そして互いに、瞳に“漆黒の殺意”をたぎらせた。
今ここに、半死人同士のチームが誕生したのであった。

だが、そんな二人の近くに、また新たな影が近づきつつあった。
二人のことなど、知るはずもなく……。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


魔法の森を進む影二つ、『皇帝』のホル・ホースと山彦の幽谷響子だ。
色々な勘違いによりシュトロハイムから逃げてきた二人は、焦って闇雲に逃げたことで、現在位置を把握できないまま、彷徨っていた。

「ねー?」

「……」

「ねえったらぁー?」

「だあーーーっっ!うるせえ!今おれは考え事してんだ!それにさっきのおっさんみたいなのに見つかったらどーすんだ!」

「おじさんの声のほうがおっきいよ」

「ぐぐぐぐぐ……」

(あーもうめんどくせえ事になっちまったなぁ……あんなイカれた軍人野郎を狙うんじゃなかったぜ……
DIO暗殺で、柄にもなくハイになっちまってたのか?その結果がガキのお守りと遭難とは、全く泣けてくるぜ……)

「……で、なんだ?」

「うーんとねぇ……さっきからずっと歩いてるけど、これからどうするのかなーって思ってさ、
おじさんは行きたいとことか会いたい人とか居ないの?」

響子のもっともな疑問だ。
ホル・ホースの提案により真っ先に情報交換と状況整理は済ませたが、互いに目的と行動指針は定まっていなかった。

(会いたい奴に行きたいとこ……ねぇ……地図にはDIOの館があったが、ホントかどうか定かじゃねぇし、
それにDIOの野郎に会ったところで、こんなところじゃ金貰っても意味ねえし、利用されて殺されるのがオチってもんだ。
ここはどっか、扱いやすくて強え奴に取り入るってのが賢い生き方ってもんだぜ)

「あー?そうだなぁ……今ん所、どっか目印になるとこ探して迷子解消が目的っちゃあ目的だが、
そういうお前は会いてぇ奴とか行きてぇ場所はねぇのか?」

「私?私はねぇ、とりあえず命蓮寺に行って、寺のみんなに会いたいかなー、特に聖様さえいれば百人力だもの!親分も星様も凄いけどね」

そう言う響子は誇らしげで、その者たちに対する信頼の深さが伺えた。

「命蓮寺か、たしかお前が住んでるとこだったな。で、その聖様とか言う奴はそんなに強いのか?」

ホル・ホースは響子の言う幻想郷のことを完全に信じてはいないが、とりあえず訊くだけ聞いておく。

「もちろん!聖様は阿修羅みたいに強くって、お釈迦様みたいに優しいんだから!それにね、それにね!――」

響子は、聞いてもないのに利他行がどうとか挨拶は心のオアシスがどうとかどうでもいい身内自慢を次々続けていた。
ホル・ホースはそれを話半分に聞き流しながら、目下の目標を思案する。


(ふーん……じゃあとりあえず、こいつの言う聖様とか言う奴を探してみるか。
早いとここいつを引き取ってもらいてぇし、うまくいけば利用できるかもしれねぇしなぁ……ひひっ)

「よし!じゃああれだ。とりあえずお前の言う聖様を探して……ってどうした?」

さっきまでかしましく喋っていた響子が、今は黙ってどこかを見つめていた。
響子に習ってその方向に目を凝らしてみると、鉄塔らしきものがあった。

「おお!?ありゃあ鉄塔か?確か地図にあったような……おおここだ、エリアC-4、現在地はここか」

少し遠くに見える鉄塔を発見し、ホル・ホースは歓喜した。
現在地さえ分かれば同時に目的地への方角も分かる。
しかも目的地である命蓮寺と割りと近い。
このまま真っ直ぐ北東に向かえばすぐに辿り着くはずだ。

「やっと俺たちにも運が向いてきたみたいだな、命蓮寺は鉄塔の先の方にあるみてぇだから、さっさと突っ切って行くぜ。
こんな不気味でじめじめした森とはおさらばだ」

「おじさんも一緒に付いてきてくれるの!?」

「ああもちろんだぜ、なんせ俺は、女なら老若問わず宇宙一優しいホル・ホース様だからな、
それにお前の言う聖様にも会って見てぇしなぁ……ひひっ」

「ありがとう!!おじさんって優しいんだね。
あーあ、おじさんとか聖様みたいな人がたくさん居たら、きっと殺し合いなんてしなくて済むのになー」

(世の中俺みてぇな奴ばっかだったら、そりゃあ世も末だぜ……)

「声がでけぇよ……ま、そんじゃ命蓮寺目指してレッツゴー、だな」

「レッツゴー!!!!」

響子の発する大音量に耳を塞ぎながら、ホル・ホースは命蓮寺に向かって歩き出した。
その先に、壮絶な覚悟を固めた、二人の修羅がいることを知らずに。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


『皇帝』を撃つ、撃つ、撃ちまくる。だがそんなもの屁でもねーと言わんばかりに、撃った先からその倍殺到する“足跡”。
この俺ホル・ホースと連れのガキンチョ幽谷響子は、何者かからスタンド攻撃を受けていた。
響子は敵が何者か知ってたようだが、今俺達が攻撃されている事実から、そいつが殺し合いに乗った奴だってのはどうしようもなく明らかだ。
しかも響子は真っ先に攻撃され、俺の背中で絶賛瀕死のお荷物中。
考えろ……どうしてこうなっちまった……考えろ……どうすればこのヘヴィな状況を切り抜けられる!

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


順調に思われたホル・ホースの命蓮寺道中は、鉄塔目前にして早くも止まった。
居る。明らかに参加者が、それも二人。
ホル・ホースは響子を手で制し、小声で止まれと言い木陰から鉄塔を覗いた。

「鉄塔の下に女が二人、しかも誰かに襲われた後みてぇだな……
ひでぇ奴が居たもんだ。あの落ち着いた様子だと、今は周りには他に誰もいねーようだが……」

様子を探るホル・ホースに習って、響子もひっそり木陰から顔を出した。
そして幾ばくもせずに、あっーーーーー!っと大声を上げそうになったので、ホル・ホースは急いで響子の口を塞いだ。
幸いバレてはいないようで、何やら会話を続けているようだ。
それを確認してホル・ホースは最大限の小声で響子を叱責する。

「テメェーーーーーー!!何声上げようとしてんだ!バレちまうだろうが!」


響子は言われたことを半分も理解していないぐらい混乱している様子で、
特徴的な獣耳を犬のようにしきりにパタパタさせて言葉をまとめようとしていた。

「落ち着け、いいから落ち着け。こーいう時はあれだ、深呼吸だ。ほら深く吸って深く吐け、簡単だろ」

ホル・ホースがそう言うと、響子は何回か深呼吸をしてようやく落ち着いた。
そして今まで声に出せなかった全てを、小声ながらも一気にまくしたてた。

「どどどどどどうしようっ!?寅丸様がいて、でもものすごい怪我してて、隣にいる人は知らなくて、ととととりあえず手当!手当しなきゃ!」

訂正、全然落ち着いていなかった。
ホル・ホースは鉄塔に向かって走りだそうとする響子の首根っこを捕まえて、再度深呼吸させ、今度こそ落ち着かせた。


「いーか、いくらお前の知り合いだからって完全にシロとは言い切れねぇ、お前は納得しねぇかもしれねぇが、ここはそういう場だ。
だからここはひとまず様子を伺う。確かお前耳がいいって言ってたな、ここからあいつらの会話は聞き取れるか?」

ホル・ホース落ち着いた響子を何とか諭し、先の情報交換で得た情報を思い出し響子に提案した。
しぶしぶだが響子は言われたとおりに聞き耳を立て始めた。
どんな遠方からの声をも返す山彦は耳がいいのだ。


――これはスタンドDISCと言うらしいわ、頭に挿すことで特殊能力を得られるそうよ。
ただ相性があるみたいで、さっき言ったけど私は駄目だった。あなたはどう?――

響子は会話をやまびこする。ただ今の会話の内容だけではシロクロ判断がつかない。
ホル・ホースは顎をしゃくって続けるよう促した。

だがその時、先程までもう片方の女と向き合っていた隻腕の女が、確かにこちらに顔を向けた。
偶然か?いや偶然ではない。それを確証付けるように、一瞬間が空いた後、向こうから無数の“足跡”が迫ってきたのだから。

「ニャ!?ニャニイイイイイイッ!!?」

即座に『皇帝』を発動させぶっ放す。だが効かない!数が多すぎて一体一体潰してもきりがないのだ!。
そうこうしているうちに足跡は目前まで近づき、呆然としている響子に襲いかかりつつあった。

「おいっ!何ボサッとしてんだ!逃げろっ!!」

『皇帝』を撃ちながら響子を助けようとするが間に合わない!

「え……あ……なんで……」

足跡が響子に殺到し、響子は倒れた。

「くそっ!」

ホル・ホースは足跡を撃ちながら響子に走り寄り、急いでなんとか背に乗せた。
そして逃げようとするが逃げる方向は後ろではない。
なんと敵に向かって走りだしたのだ。

一見無謀に見えるが、もちろんヤケになったわけでも、立ち向かうつもりでもない。
ホル・ホースは先程の会話から、敵がこの能力を手にして間もないことを見抜いた。
スタンドは精神の具現。精神的動揺は即ちスタンドの不調に繋がる。
故に後ろに逃げて追いつかれるより、前に向かい不慣れな能力に揺さぶりをかけて正面突破を狙う方が、勝算が高いと判断したのだ。
そしてこの策は功を奏する。
まさかのホル・ホースの突撃に動揺し、星はスタンド『ハイウェイスター』を引っ込めてしまった。
静葉が咄嗟に猫草の空気弾を放って止めようとするが、『皇帝』の牽制射撃に阻まれ狙いが定まらない。
ホル・ホースは見事向かいの森まで逃げおおせることに成功したのだ。

しかし、逃したはずの二人が目に宿す暗い輝きは、衰えない。

「寅丸さん……さっきの会話を思い出して。私達はもう後戻りはできない。殺すと思ったら既に行動は終わっていなければならない」

「分かっています……次は確実に仕留める……例え相手が誰であれ、聖のためならば……」

そう言う寅丸は体力を回復し、立ち上がり既にスタンドを再発動させていた。
『ハイウェイスター』の養分吸収能力の力だ。
そして『ハイウェイスター』のもう一つの能力、匂いによる自動追尾が発動し、ホル・ホース達が逃げた森の方へと一直線に進んでいく。
ネコ科の動物は人間の何倍もの嗅覚を持つ。そして手負いである星は、『ハイウェイスター』の使い手としてこれ以上とない適正を持っていた。
逃げられたと安心するホル・ホースの元へ、魔手ならぬ魔足が迫る――。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


そして最初に戻る。回想したところで状況は何も変わらない。
敵のスタンドは遠隔自動操縦型だったのだ。
彼我の距離差はどんどん縮まり、もう後少しもしないうちに追いつかれるだろう。

「ちくしょうクソッタレめっ!やっぱり全然ツイてねーじゃねーか!
俺はシュワルツネッガーやスタローンじゃねぇ!一騎当千も出来ねえし死ぬときゃ死ぬ!どうしろってんだよこんな状況!」

愚痴を叫びながらも手と足は動かす。
だがいよいよもって限界だ。
ホル・ホースの中で黒い考えが鎌首をもたげ始める。

(こいつを放って逃げれば、敵のスタンドはこいつに食いついて俺を追う数は減る。
おまけに背中の重石も減って逃げる速度も上がって、この場は凌げるかもしれねぇ……
だがよぉ……だが女は見殺しに出来ねぇ……どうする?どうするよホル・ホース!)

ポリシーを捨てるか命を捨てるか、ホル・ホースの中で天秤が揺れる。
敵スタンドと距離が近づくごとに命に軍配が上がりかける。
そしてそんな中、響子もまた朦朧とする意識の中で、色々な考えが浮かんでは消えていた。


(おじさんの背中あったかい……寅丸様……どうしてこんなこと……私、このまま死ぬのかな……
でもそれじゃおじさんも死んじゃう……けど力が全然入らないや……)

響子は静葉と寅丸から逃げる際、一瞬だけ寅丸と目が合った。
その瞳はなんの光も宿さず、ただ黒い何かが煌々と燃えていた。
自分の中の優しい寅丸の思い出が、黒い炎に焼きつくされていく。
最早響子には絶望しかなく、死の忘却を迎え入れようとしていた。


だがそんな時、響子は空に光り輝く何かを見た。
それは昇りかけの朝日だったかもしれない。
それは霊烏路空が香霖堂に放った砲撃の光だったかもしれない。
だが響子は確かに見た。天に昇りゆきながらも、いつもの笑顔でこちらに檄を飛ばす、二ッ岩マミゾウの姿を。

(お……親分……!)

マミゾウの姿を見た響子は、自分の中に残された最後の力の爆発を感じた。
おじさんを助ける。そう決意した響子の瞳には、もう絶望は映っていなかった。


「おじさん、私を降ろして逃げて!」

「お前、目が覚めてたのか!馬鹿なこと言ってねぇで逃げるぞ!」

「ううん、それじゃきっと二人とも死んじゃう。私はもう駄目だから、おじさんだけでも逃げて!」

図らずとも響子の方から提案された意見に、ホル・ホース、は迷いを感じながらも頷くことが出来なかった。

「そんなこと……出来る訳ねえだろ!俺は女って生き物のことを尊敬している。てめぇの命惜しさに……そんなことは出来ねぇ!!」

本心では未だに天秤が揺れている。だが女のほうからそんなことを言われれば、男としてうんと頷く訳にはいかない。


「おじさんはやっぱり優しいね……でもお願い……もう私にできることはこれしかないの……ごめんね」

そう言って響子は自らホル・ホースから離れ、敵スタンドに向かい合った。

「何してやがる!早くこっちに来い!」

響子は振り向こうともせず、覚悟に満ちた声でホル・ホースに言葉をかけた。

「私も出来る限りやってみる。だからおじさんは急いで逃げて……
私だって、最後にドカンと決めちゃうんだから!それと、聖様によろしくね……」


「くそおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

ホル・ホースは耳を塞ぎ、振り向かずにただがむしゃらに走った。
走るしかなかった。


ホル・ホースが逃げきったのを確認し、響子は笑みを浮かべて大きく深呼吸する。
先程ホル・ホースから何度も言われた、落ち着くための方法だ。
そして響子は、自分に出せる限りの最大音量で叫んだ。

「寅丸様……正気に戻ってーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

――大声「チャージドヤッホー」

極大の音量が収束し反響空間を形作った。
そして指向性を持ち、寅丸の居る鉄塔まで一気に直進する。
響子の前面に存在する木々が次々となぎ倒されるほどの衝撃だ。

だが、肝心の寅丸にこの声が響くことは……なかった。
『ハイウェイスター』は一瞬だけその動きを止めたが、すぐまた襲いかかってきた。
無数の『ハイウェイスター』に囲まれながらも、それでも響子の心は晴れやかだった。
こんな私でも、おじさんを助けることが出来た。その一心だ。
命蓮寺の利他行の精神は、たしかにここで守られたのだ。
それでも一つだけ心残りはある。寅丸様がどうしてこうなったかは知らないが、どうか正気に戻って聖様と共に正しい道を歩んでほしい。
それだけが心残りだが、自分じゃない誰かが寅丸を正気に戻してくれることを祈り、幽谷響子は永い眠りについた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「……やりました」

「……そう」

二人はなんの感慨もなく、ただ響子を殺した事実を認識する。

「知ってる子だったんでしょう?」

「はい」

「いよいよもって、後戻りは出来ない。それでも、私は穣子のため……」

「私は聖のため……」

「「この闘いに勝ち残る」」

誰かのために強くなる。その思いは変わらぬはずなのに、二人は殺し、響子は守った。
二人は響子の見せた、その異なる“強さ”に気づくことはない。

昇りかけの太陽が、決意を新たにする二人を照らす。
その光は、これからされるだろう第一回放送を予期させた。


【幽谷響子@東方神霊廟】 死亡
【残り 75/90】


【D-4 魔法の森/早朝】

【ホル・ホース@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:顔面強打、鼻骨折、顔面骨折、胴体に打撲(小)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品×2(一つは響子のもの)、スレッジハンマー(エニグマの紙に戻してある)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残る。
1:響子を死なせたことを後悔。襲ってきた二人といつか決着をつけたい。
2:響子の望み通り白蓮を探して謝る。出来れば手助けもする。
3:あのイカレたターミネーターみてーな軍人(シュトロハイム)とは二度と会いたくねー。
4:死なないように立ち回る。
5:誰かを殺すとしても直接戦闘は極力避ける。漁父の利か暗殺を狙う。
6:使えるものは何でも利用するが、女を傷つけるのは主義に反する。とはいえ、場合によってはやむを得ない…か?
7:DIOとの接触は出来れば避けたいが、確実な勝機があれば隙を突いて殺したい。
[備考]
※参戦時期はDIOの暗殺を目論み背後から引き金を引いた直後です。
※響子から支給品を預かっていました。
※現在命蓮寺の方向へ走っています。
※白蓮の容姿に関して、響子から聞いた程度の知識しかありません。


【C-4 鉄塔前/早朝】
【秋静葉@東方風神録】
[状態]:覚悟、主催者への恐怖(現在は抑え込んでいる)、エシディシへの恐怖、みぞおちに打撲、右足に小さな貫通傷(痛みはあるが、行動には支障ない)
エシディシの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の正午に毒で死ぬ)
[装備]:猫草(ストレイ・キャット)@ジョジョ第4部、上着の一部が破かれた
[道具]:基本支給品、不明支給品@現実×1(エシディシのもの、確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:穣子を生き返らせる為に戦う。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。寅丸と共に強くなる。
3:放送間近なのでとりあえず放送を聞く
4:エシディシを二日目の正午までに倒し、鼻ピアスの中の解毒剤を奪う。
5:二人の主催者、特に太田順也に恐怖。だけど、あの二人には必ず復讐する。
6:寅丸と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
【寅丸星@東方星蓮船】
[状態]:左腕欠損
[装備]:スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼、スタンドDISC『ハイウェイスター』
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を護る。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。静葉と共に強くなる。
3:放送間近なのでとりあえず放送を聞く。
4:誰であろうと聖以外容赦しない。
5:静葉と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※能力の制限の度合いは不明です。

※二人が放送を聞いた後、どこに向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※響子の叫びが鉄塔の方向へ響き渡りました。他のエリアにも届いているかもしれません。


○支給品説明

スタンドDISC『ハイウェイスター』
破壊力:C スピード:B→C 射程距離:A→B 持続力:A 精密動作性:E 成長性:C

エシディシに支給

バイク事故を起こした少年「噴上裕也」が、バイク事故の経験と負った怪我を治したい気持ちにより形作ったスタンド。
人型にもなれるが基本は足跡の形をした遠隔自動操縦型スタンドであり、においを探知して標的を時速60kmで追いかけ養分を吸収する。
このロワでは制限として
1:使用者の居るエリアを超えて追尾は出来ない。
2:速度は30km固定。
を受けている。
なおにおいから大方の位置を予測してワープする能力もあるが、
現在装備している寅丸星は説明書を読んでいないので能力に気づいていない。何かがきっかけで知るかもしれない。

065:Roundabout -Into The Night 投下順 067:弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて
065:Roundabout -Into The Night 時系列順 067:弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて
053:Kindle Fire【焚きつける怪炎】 秋静葉 090:金色乱れし修羅となりて
017:魔王 寅丸星 090:金色乱れし修羅となりて
025:始まりのヒットマン ホル・ホース 104:カゴノトリ ~寵鳥耽々~
025:始まりのヒットマン 幽谷響子 死亡

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最終更新:2014年11月05日 11:57