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   ――― <黎明> 紅魔館 一階 廊下 ―――

C-3エリアに大きく広がる霧の湖、その畔に聳え立つのは幻想に住まう吸血鬼の根城『紅魔館』。
全容が紅の色に包まれているというその奇妙な館に足を踏み入れたシーザー・ツェペリは厨房を探していた。
先の強敵、黒騎士ブラフォードとの戦いにおいて自身の本来の戦闘スタイル『波紋のシャボン』を発揮できず、
苦戦を強いられた事は彼にとって軽くは見られない結果。
シャボン無しでこの先の戦いを生き抜いていくには厳しいと判断した彼は、
まずはシャボンの原材料である水と石鹸を調達する為にこの館へ潜り込む事にした。

館内は薄暗く、人の気配も全く無い。シーザーはまずは食堂を探した。
厨房というのは大抵の場合、食堂と隣接された場所にあるからだ。
廊下に点々と設置された照明の光を頼りに進んで行く内にシーザーはこの館のもう一つの奇妙な事に気が付く。

(さっきから…『窓』が全く見当たらないな…。これだけ立派な洋館だというのにかなり不自然だ。
 まるで何か意図あって日の光を遮断しているようだが…)

シーザーは先程確認した名簿に記載されていた名前を思い出す。
ワムウやカーズ等の柱の男達、そして50年前にジョジョの祖父、ジョナサン・ジョースターと共に散ったと言う吸血鬼『ディオ』…
この会場には奴らのように日光を苦手とする人外の生物が数多存在する。
奴らのような人外が日中の間を過ごすのに、この館は最高の『物件』だった。今この瞬間にも奴らがこの館の闇に紛れているのかもしれない…
そう思うとシーザーの顔に緊張が走る。

そしてこの名簿そのものにも疑問が生じる。

(黒騎士ブラフォードは何かのきっかけでまた屍生人として蘇ったものかと思っていたが、
 ジョジョの野郎が倒した筈のサンタナやエシディシ、そして50年前のディオ・ブランドーが名簿にあるのはおかしい…)

色々と腑に落ちない点を抱えたままシーザーは何事も無く食堂広間に辿り着き、
そして無事厨房からシャボン液の材料である水と石鹸、ついでに先程消化したペットボトルの水を補給することが出来た。


シャボン液を作成しながらシーザーはこれからの自分の身の振り方を考える。


(もしも柱の男達がこの会場に居ると言うのなら、俺たち波紋の戦士が必ず倒さなくてはならない。
ジョジョやリサリサ先生もそう思うだろう…
俺やジョジョのじいさん…ウィル・A・ツェペリとジョナサン・ジョースター、それにスピードワゴンさんなど会っておきたい人物も居る。
…まずは仲間に会いに行こう。柱の男の力は強大だ。戦力を増やしておかねば…)


このゲームが開始されてから3時間余りが過ぎた。
既に犠牲者は出ただろうか…。ジョジョの奴はあれでタフな男だし、俺より遥かに強い先生も心配無用だろう。
うかうかしてられない、これといった当ては無いが、とにかく外へ出て人を探すか…

そう思いながらシーザーは完成したたっぷりのシャボン液を手袋に込める。
これで戦闘の準備は万端だ。いつ戦いになっても100%の力で戦える。


補給したペットボトルの水をデイパックにしまおうとした時、シーザーはふと気付いた。



ペットボトル内の水に『波紋』が拡がっている。



シーザーはリサリサの元で30日間の厳しい修行を終え、操る波紋の力も数倍にまで膨れ上がっていた。
そして修行の間装着していた『呼吸法矯正マスク』のおかげで、普段の生活からも常に波紋の呼吸を行うという習慣が身に付いている。

ペットボトルを手に取った時、無意識的に水に微弱な波紋を流し簡易的な『波紋探知機』が完成した事はシーザーにとって幸運だった。


(何者かの気配ッ!背後かッ!)



ギラリッ…



シーザーは瞬間!後ろを振り向く事も無く、身体を捻りながら前方に跳躍するッ!

同時に首筋に鈍い風切り音が通り過ぎた。コンマ1秒でも反応が遅れていたらシーザーの首と胴体は互いにオサラバしていたろう。
ほんの一瞬の差でかろうじて身をかわす事に成功し、シーザーは空中を飛びながら体を反転させ、着地して襲撃者と向かい合う。

「…背後から有無を言わさず急所狙うとは…卑怯なりッ!どうやら聞くまでも無くゲームに『乗った者』らしいな…
貴様ッ!名を名乗れィッ!」


「……人様に名前を聞く時はまず自分からってな。オレが無礼と言うのならそれはお互い様だぜ?」


シーザーは目の前の男を見やる。
網目模様の服を着ており、髪は金髪、そして何故か乗馬用のヘルメットを被っており、そのメットには『Dio』という文字の装飾がデカデカと飾り付けられていた。
そして何より男の眼は鋭く尖った眼光をシーザーに向けて放っていた。
その眼は酷く冷酷!残忍!そして隠す気の無い殺気がシーザーを捕らえる!

男の眼を見た時、シーザーは最初に「この眼は…どこかで見たことがある…」と感想を抱いた。

(そうだ…俺が青春と未来の全てを捨ててやさぐれていたあの頃…ローマの『貧民街』でクソッタレな日々を過ごした時代。
コイツの眼と臭いは『あの頃』の俺と似ている。貧民街で育ってきた眼だ…
それだけではない…昔、スピードワゴンさんから見せてもらった事がある『写真』…。
50年前に確かに死んだはずの男、『ディオ』に似ている…似すぎている。というか、メットに思い切り『Dio』と書かれているが…)

「貴様…もしや『ディオ』か」

シーザーは己の疑問の確信を取る為に目の前の男に尋ねた。

「ん…?おや…。どこかで知り合った事があったか?オレはお前の事を知らないと思うんだが…いや、待てよ?
オレもお前を見たことがある気がするな。どこだったか…あぁ!思い出したぜ、最初の会場でオレの前にアホみたいに突っ立ってた野郎だ。
そのダサいバンダナを見て思い出したぜ。そうかそうか、成る程…ならば『都合が良い』な」

なにやらわけのわからぬ事を言って軽く笑う目の前の男は、この殺し合いの会場においても随分余裕があるように見える。

(何だ…コイツ?ムカつく笑みを浮かべやがって…。だが、皮膚にビリビリ刺さるこの感覚、奴の『殺気』は依然解かれていない。警戒を怠るな…)

「そうだな…これからくたばるお前に名乗る必要は全く無いが、確かにオレは『Dio』だ。『ディエゴ・ブランドー』。これでお気に召したかい?」

(『ディエゴ』…名簿の『DIO』(ディオ・ブランドー)とは似ているが別人か。だが、コイツが誰だろうが関係ない!敵ならば倒すだけだッ!)

「成る程、Dio…。俺の名は『シーザー・アントニオ・ツェペリ』ッ!どうやらかなりクレイジーな奴みたいだが、向かってくるなら返り討ちにしてくれるッ!」


シーザーはすかさず戦闘態勢をとる。先程攻撃された時は何か鋭い得物のような物で攻撃してきた。見たところ刃物などは持ってないようだが、油断は出来ない。
一方ディエゴは腰を少し低く落としただけで、腕をプランとだらしなく下げているのみ。これから一戦交えようとしている様には見えない。
その態勢のまま今度はディエゴがシーザーのことを思案する。


(シーザー・ツェペリ…こいつはジャイロの奴の親戚か何かか?だとすると一応『鉄球』には気をつけておくか。見たところ素手でこのオレと戦る気のようだが…
それにオレの能力『スケアリー・モンスターズ』にどこまで制限が加えられているか…コイツで実験してみるのも良い機会だ。
最初に出会った敵がコイツで『丁度良かった』ってとこだな)


心の中でニタリと笑ったディエゴは次にシーザーに対してとんでもない事を言った。

「シーザーとか言ったな。予告するぜ。これからオレはお前に『触れずして』倒して見せよう。勿論、武器も使わずにな。
さぁどうした?かかってこいよシーザー・ツェペリ」

そう言ってディエゴは人指し指をチョイチョイと曲げ、シーザーを挑発する。これにはさしもの波紋戦士シーザーも意表を突かれた。

「触れずに俺を倒す…だと?ハッ!ナメられたものだ。不意打ちで人を攻撃してきた奴の言う台詞じゃあないな!
後で負けた時にそれを言い訳にするんじゃねえぜッ!いくぞッ!必殺ゥ~~…ッ!
奥義波紋『シャボン・ランチャー』ッ!!」

シーザーはパシンッ!と勢いよく両手を合わせ、たった今生成したばかりのシャボン液を手袋内で混ぜ合わせ、幾多ものシャボンの玉を発射したッ!
波紋のエネルギーを包み込んだその無数のシャボン玉はディエゴに向かって突進していくッ!

「…シャボン玉?ほぉ、是非カメラに一枚収めておきたい妙技だが、そんなねむっちまいそうなのろい技でこのDioを捕らえられるか?」

シーザーの鮮やかなるシャボンの奥義を目の当たりにしながらもディエゴは余裕な態度を崩さない。
次の瞬間、ディエゴの顔の皮膚の一部がパリパリと崩れ落ち、ヒビが入る。その口には牙までが光っていた。

「『スケアリー・モンスターズ』。恐竜の動体視力の前ではどれほど瞬速の攻撃も意味を成さない。
アクビが出そうだな。ネムくて死にそうだぜ」

ディエゴはそう言って自身のスタンド能力を発現させ、『恐竜』の動体視力を持ってシャボンの群れを難なくかわした。
その身体能力を目の当たりにしたシーザーは、しかし自分の攻撃が全て避けられた事よりもディエゴの『異様』な姿の方に驚きを隠せない。


(な…なんだあの野郎の姿は!?皮膚は割れ、牙が生え、尻尾まで伸ばしているぞッ!?
まるで図鑑で見るような太古の恐竜そのもの…屍生人や吸血鬼とはまた違う生物!
俺のシャボン・ランチャーをあの場から一歩も動かずに全て回避しただとッ!さっき俺を攻撃したのはあの鋭利な爪かッ!
果たして俺の波紋は効くのか…!?)


シーザーの動揺した姿を見て気を良くしたのか、ディエゴは更にニヤついた顔を見せて相手を煽った。


「おいおい、まさかもう終わりではないだろう?
水芸ってのは人を楽しませる為にあるんだぜ。もっとオレを楽しませて見せろよ、曲芸師」

「……!…フフフ。俺の自慢の波紋シャボンを『水芸』扱いか。
確かに、あながち的外れではないかも知れぬ表現だ。『波紋』と『水』は相性が良い。
ならば次の攻撃はどうだッ!『シャボン・カッター』ッ!!」

シャボン・ランチャーに続いてシーザーが繰り出した次なる奥義は『シャボン・カッター』。
シーザーが先のブラフォード戦において使用した『波紋カッター』とシャボンの応用技である。
高速回転による遠心力を利用し、シャボンと融合した円盤状の波紋カッターが相手を切り裂きッ!更にその傷口から波紋を直接流す攻撃だッ!
シャボン・ランチャーよりも格段に強く、疾い波紋を纏った高速のカッターがディエゴを襲うッ!


だがディエゴはッ!その至近距離からの無数の高速攻撃すらも嘲り笑うッ!


「どうやらお前はシャボン玉を飛ばすぐらいしか能の無いスカタン野郎みたいだな。無駄だ。無駄。
銃弾だろうが何だろうが、恐竜の動体視力には……むッ?」

「気付いたようだなッ!だがもう遅いぜッ!波紋を纏ったシャボンは『そう簡単に割れはしない』ッ!
前と後ろからの同時攻撃の秘殺技!サンドウィッチのハムになりなッ!Dioッ!!」

ディエゴの余裕をあざ笑うかのようにシーザーは指を立てて挑発する。
見るとディエゴの背後からも無数のシャボンがディエゴに向かって襲ってきているッ!
シーザーがさっき撃ったシャボン・ランチャーが壁を反射してきたのだッ!波紋のシャボンは割れる事は無く、まるでビリヤードの玉の様にその全てが背後から再びディエゴに牙を剥くッ!


前方からはシャボン・カッター!後方からはシャボン・ランチャーの同時二方攻撃!


「成る程。攻撃の更なる『先』を読みつつ、相手をハメる…。どうやらそれなりに場数を踏んだ手練の戦士らしいな。
…だが、フフ…。言った筈だぞ、『無駄』だと。恐竜の身体能力をナメるなよ」

ディエゴはこの期に及んでまで白い牙を光らせニタリと笑うと、次の瞬間目にも止まらぬスピードを持って『跳躍』したッ!
その跳躍の疾さと高さはおよそ人間とは思えない程の動きだった。

ディエゴは跳びながら宙を回転しつつ、鮮やかに離れた床に着地してシーザーに向きなおす。
シーザーの奥義と策はまたしてもディエゴに軽く躱され、シャボンは空しく部屋中に舞うのみ。



しかし、余裕の表情を崩さないのは今度はシーザーだった。


「やはりな……。『避けてくれる』と思ったよ。
お前が人間なのかどうかは分からんが、その卓越した身体能力は俺にとっても脅威。あの『柱の男』にも引けをとらないかも知れない。
だがお前にためになる事を教えてやるぜ。2500年前の中国の兵法書の『孫子』の格言にもある。
『虞(ぐ)をもって不虞(ふぐ)を待つものは勝つ』…。つまりだ、説明するとDio…
『万全の態勢を整えて油断している敵に当たれば勝つ』。
このシーザー・ツェペリをナメてかかった貴様の負けだッ!足元を見なッ!」


その時、ディエゴは着地した自分の足元の床がヌルヌルと滑っている事に気付いた。
誇らかに叫んだシーザーの手には空になった『油の容器』が握られている。


「お前が大道芸をお披露目してる間に床に撒かせて貰ったぜッ!ここは『厨房』!油なんて捨てるほど置いてあるッ!」

「…それで?コイツでオレを滑らせて頭を打たせようって魂胆か?」


ディエゴにはシーザーの意図が見えないでいた。
油を撒いたから何だと言うのだ。まさか本当に足を滑らせようという作戦ならば幼稚を通り越して陳腐とも言える。


だがディエゴは知らない。『波紋』の事を。
波紋は水や油などの液体を伝わり、波紋エネルギーを保つ。
そして特に、油は波紋伝導率100%となるッ!『波紋』と『油』は非常に相性が良いのだッ!


「頭を打つならコイツを浴びて気絶した後だぜッ!喰らってイナカへ帰りなッ!
液体を駆け巡る波紋!青緑の波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライブ)!!」

バチバチと電気のような波紋を腕に纏わせ、シーザーは勢い良く床面目がけてその右腕を打ち付けるッ!
その鋭く磨かれた強力な波紋はまるで地面を走る雷の様に油を伝わり、ディエゴを襲ったッ!


バ チ ィ ッ !



「――――ッッ!!??ガッ…ハッ……ッ!!!」


波紋を知らないディエゴはシーザーの行動にいちアクション遅れてしまった。
一瞬で身体の隅々を駆け巡るシーザーの波紋。
生まれて初めて味わう『波紋』の感覚にディエゴは堪らず両膝を突く。


「……っ!!かっ、ハァーーッ…ハァーーッ…クッ!お、前…さっきから…妙な技を使う…な…」
(波紋…だと…。コイツはスタンド使いではなさそうだが、未知の力を使う…。ジャイロ・ツェペリの『鉄球』の様な『技術』の進化ってとこか…?)


ここまで戦闘を優位に立っていたディエゴはその内心、少し焦っていた。
己のスタンド能力『スケアリー・モンスターズ』にどこまで制限が掛かっているかを調べる為にこの男を『実験台』に決めたのは良いが、波紋戦士シーザー・ツェペリは思った以上に『強敵』であった。
この紅魔館に一人でノコノコ近づいてくる者の『ニオイ』を感じ取り館内で待ち伏せするという選択をしたというのに、このままでは『返り討ち』というマヌケな結果を残してしまう。


(やれやれ…大統領の奴と同盟を組んだ出だしからこれじゃあ、この先が思いやられるな。こんな奴らが90人も集められてるってのか?
…だが最後にこのゲームの『頂点』に立つのはこのディエゴ・ブランドーだ…ッ!お前らじゃあないッ!)


ディエゴがその深い野心をメラメラと煮え滾らせているとは知らぬ風のシーザーは、波紋を喰らわせた相手が未だ意識を持ってこちらを睨めつけてる事に半ば呆気にとられつつも、すぐさま追撃の構えを取る。

「…!俺の波紋を喰らって意識があるとは…だがッ!もうしばらくは動けまいッ!
これでトドメといかせて貰うッ!シャボン・ランチャーッ!」

シーザーがディエゴにとどめとして対して放った技は再びシャボン・ランチャー!
驚異的な身体能力と『恐竜』を思わせる異様な姿から、接近戦は不利だと判断したシーザーはあくまで『遠距離攻撃』を選ぶ。
しばらくはマトモに動けないであろうディエゴには今度こそシャボンの攻撃を回避することは不可能だ。

喰らえば数時間は昏睡状態を免れない無数のシャボン玉がディエゴの眼前まで迫るッ!




「フン…こんなものは避ける必要は全然無いな。行けッ!我が『恐竜共』よッ!」


そう叫んだ直後、すかさずディエゴの背後から何かが飛び出す!
ディエゴの『恐竜』だッ!翼を持った小さな『翼竜』が十数匹、突然ディエゴの背から滑空して来る!

その恐竜はシャボン玉の一つ一つに向けて突進していき、ディエゴの『盾』となって主人を守った。
シャボンの波紋を喰らった恐竜は「バチッ!」と音をたてて1匹、また1匹と次々と床へ撃ち落されてゆく。
そして、波紋のショックで気絶した恐竜達が次第に『別の生物』へとその姿を変えてゆく…

「な…何ィッ!?これはッ!!」

シーザーが驚くのも無理は無い。
何故ならさっきまで翼竜だった生き物が、『ミツバチ』へと変貌していったのだから。


(これは!さっきのブラフォードとの戦いで俺が使用したミツバチが恐竜にッ!?
Dio…奴は自分だけでなく、他の生物までをも恐竜に変化させて操る事が出来るのかッ!?)


シーザーはまだ記憶に新しい、先の黒騎士ブラフォードとの熾烈な戦いを脳裏に思い出す。
彼との戦闘において使用した『波紋ミツバチ』戦法だが、この時C-3エリア中に数千匹のミツバチが逃げ出した。
そしてそのミツバチをまんまとDioに盾として利用されてしまったッ!


「ん?何を驚く?…あぁ、もしかしてこの蜂はお前の『支給品』か何かだったのか?
どうやらこの会場には小動物どころか虫の1匹も居ないみたいで、操れる『ペット』が見つからなくてな…。いや、ほとほと困ってたんだ。
そこへこの館周辺までミツバチが何匹か飛んで来たんでな。迷わず『恐竜化』して捕らえてやったわけだ。礼を言うぜ、シーザー」


皮肉めいた目でディエゴはニタリと笑う。
自分に危機が迫っていたとはいえ、一瞬の躊躇もせずに部下の恐竜を盾にするその無情の判断力にシーザーは戦慄する。
だが、今のディエゴはシーザーの流れる波紋を喰らってしばらく身体は動かせないハズ。


(だと言うのに何だ?奴のあの『余裕』は…?)


シャボン・ランチャーを全て防御しきったとはいえ、ディエゴの恐竜にも限りはあるハズ。
シーザーの次なる攻撃には耐えられないかもしれない。いや、敵の恐竜はもう殆ど『使い切った』可能性の方が高い。
状況的には既にシーザーの絶対有利。だというのにシーザーにはディエゴの不敵な表情に不安が拭い切れないでいた。




―――奴にはまだ、こちらに見せていない『切り札』がある―――




シーザーの過酷な戦闘の経験から来る『カン』が、彼の心に警鐘を与えていた。


(俺は最初コイツを見た時、かつての俺の眼と『似ている』と感じたが…俺が思った以上にコイツの『闇』は深い。
コイツの眼は世界中の全てを『見下した』眼だ…ッ!社会の全てを憎んでいる眼ッ!
この男は何を考えているのか分からない。危険だッ!)


シーザーは目の前の男を今この場で『排除』すると決めた!


「コオオオォォォォ~~~………ッ!」


精神を研ぎ澄まし、体の隅々まで波紋のエネルギーを巡らせる。毎日のように鍛錬してきた波紋の呼吸法だ。
水に波紋を起こす様に『呼吸法』によって『肉体』に波紋を起こしてエネルギーを作り出す。
体中の血液は『酸素』と共に全身の体細胞に凄まじいパワーを送り、その全てがシーザーの両手に集まる事で『最大のシャボンパワー』を磨き出したッ!

その究極に研ぎ澄まされた波紋を包んだシャボンを喰らえば、どんな者だろうと立ち上がることなど出来ないだろう。
シーザーは最後の攻撃を未だ膝を突いたままのディエゴに対して、最大限解き放つッ!!


「これが最後だDioォォオオーーーーッ!!!『究極』のシャボン・ラン…………ッッ!!??」



ガクリッ!



「……ッッッッ!!?」



パ チ ィ ン ッ !



―――シーザーの最大のシャボン玉は、ディエゴに届く事叶わず、無残に割れ散った。



(……ッ!?な…に……?何だ…体が……思う様に、動かん…………っ)

シーザーの体が崩れ落ちるように、しかしスローモーションにも見えるように、ゆっくり倒れてゆく。
だが、寸での所で崩れゆく体を片膝で支えた。



何をされた。体に力が入らない。


俺は、何をされたんだ。波紋が思う様に練れない。


『毒』でも使われたか。意識が段々薄れてゆく。




いや、こいつは俺に『触れてもいない』筈だ。


シーザーはとうとう膝で支える力すらも失い、地面に倒れ伏した。
眼前のディエゴは不気味に微笑み、波紋の衝撃が抜け切らないまま、ヨタつきながらも立ち上がろうとする。

「波紋…か。恐ろしい力だ…まだ全身がビリビリするぜ。いや、マジに恐れ入ったよ、シーザー。
人間というものは修行次第でそういう不思議な力を体得できるものかってね。
だがなシーザー。スタンド使いって奴も中々どうして凄い事が出来るんだよ。頑張ったお前に特別に教えるぜ。
オレのスタンド『スケアリー・モンスターズ』は虫や動物だけじゃあない。『人間』だって恐竜に出来るんだ。
相手の体にチョイと傷を付けてやれば、時間は掛かるが次第に『恐竜化』が拡がっていくんだよ」


(段々と呼吸が苦しくなってきた…。スタンド使い……人間の恐竜化だと?)
(Dioの言っている意味が分からない。俺はいつ『奴』に触れられタ?)
(そんなタイミングなどナカッタ…)

(奴の奇襲を受けた最初の時も攻撃はギリギリ避わシタ筈だ…)
(『最初』の……サイショ……)




―――シーザーとか言ったな。予告するぜ。これからオレはお前に『触れずして』倒して見せよう。勿論、武器も使わずにな。
さぁどうした?かかってこいよシーザー・ツェペリ―――




(――――――ッ!!)




―――ん…?おや…。どこかで知り合った事があったか?オレはお前の事を知らないと思うんだが…いや、待てよ?
オレもお前を見たことがある気がするな。どこだったか…あぁ!思い出したぜ、最初の会場でオレの前にアホみたいに突っ立ってた野郎だ。
そのダサいバンダナを見て思い出したぜ。そうかそうか、成る程…ならば『都合が良い』な―――




「まさカ……ッ!『最初』か…ッ!Dio…貴様…!最初ノ…『アノ会場』か……ッ!
アノ時、スデに………ッ」

「…お前、さっき『孫子』とかをひき合いに出したな。それならオレも知ってるぜ。例えばこんな言葉もある。
『勝利というのは戦う前に全て既に決定されている』…つまりだ、説明するとシーザー…。
『真の戦闘』ってのは、戦う前に敵に気付かれないよう色んな作戦を練っとくのさ。
最初に集められたあの会場で『念のため』目の前の男の身体に傷をちょっぴりだけ付けておいた。
『たまたま』だよ。お前が『たまたま』選ばれただけさ。運が悪かったなシーザー?」




(リサリサ…センセイ…………………………ジョ………ジョ………………………………)




白くモヤがかかったシーザーの頭の中で、最後にディエゴの妖しい囁きが聴こえた







―――感謝するよ……シーザーさようなら。お前は『こうするために』このバトル・ロワイヤルに来たと考えろ―――


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――― <黎明> 紅魔館 二階 主の間 ―――

………
……

『……もしもし。ヴァレンタインだ。聴こえるか?Dio』

「おぉ。マジで聴こえるな。電話線も無いのに一体どういう技術なんだ?」

『…イタズラ電話なら切るぞ』

「待ったっ。待てって切るなよ。定期連絡だよ、定期連絡」

『…その後、館に近づいてくるニオイの持ち主とかいうのはどうなった?』

「あぁ、名簿にあった『シーザー・ツェペリ』という男だった。妙な技を使う奴だったが、オレの『ペット』にさせてもらったさ。
しばらくはコイツを利用させてもらう事にした。そっちはどうなんだ?」

『…つい今しがた、『ジョースター邸』の側で参加者に遭遇した。名簿の『ブラフォード』、そして『火焔猫燐』の2名だ。
ブラフォードは葬ってやったが、火焔猫燐は私の部下として動いてもらう事になった。彼女には手を出さないで貰いたい』

「『火焔猫』…?確かあの『幻想郷縁起』の書物に載っていたな。『火車』とかいう猫の姿をした妖怪だったか?
…どうしてまたそんな奴を部下に?」

『…なに、使える手駒は増やしておいた方が良いだろう。それよりも次は『支給品』の情報だ。まずは私の得た支給品から教えようか。
ブラフォードの支給品は楼観剣という長刀だ。東洋の武器にはさほど詳しくない私だが、かなりの名剣だろうという事は感じるよ』

「『剣』ね…じゃあ次はオレだ。こっちはシーザーから奪った物だが2つある。まずは『馬』だ。
あの憎きジョニィ・ジョースターの愛馬…『スロー・ダンサー』だっけ?」

『ジョニィ・ジョースターの…?』

「あぁ。持ち主に似て知性も無さそうで、ロバよりすっトロいんじゃあないのか?
おっと、その馬だが大統領。先程アンタの所へひとっぱしり走らせたぜ。オレからの『餞別』だと思って自由に乗り回してくれ」

『…良いのか?』

「せっかくの同盟関係だ。オレには可愛いペットが居るし、いざとなったら恐竜の姿で走れるからな。
ここから近いし、馬は『恐竜化』させてアンタのニオイを追跡しているから迷う事も無いだろう。だが気をつけろよ大統領。
馬や人間の様に知性が高い生物は恐竜化できる『射程距離』に制限が掛けられているみたいだ。
おおよそエリア一つ分、つまりオレから半径1km以上離れると恐竜化が解ける。さっき色々実験してみて分かった事だ」

『成る程な。有難く受け取らせて頂こう。…それでもう一つの支給品とは?』

「蜂だ。大量の『ミツバチ』を手に入れた。オレからすればこっちのほうが『アタリ』だな。
コイツもさっき、この紅魔館から数十匹程『翼竜化』させてあちこちに飛ばしてきた。
ミニサイズだが情報収集にはかなり役に立つだろう」

『ほお…そいつらを上手く活用すればこのゲーム、相当有利に立ち回れるな』

「そこでオレからの提案だ、大統領。
これからオレはこの会場のあらゆる『情報』を恐竜共から聞き、そして今居る紅魔館からこの『通信機』を通してお前に伝える。
誰々が何処のエリアに居るとか、何処で誰が戦っているとかだ。お前にはその指示を受けて動いて欲しいんだが、どうだろう?」

『…大統領であるこの私がお前の命令に従って動けと?自分は物見櫓の上から動かず指示だけ出すとは、随分偉い立場になれたな…Dio?』

「おいおい、そう怒らなくても良いだろう?司令塔としてはお前の方が優秀なのかも知れないが、お前は恐竜の言葉が分かるってのかい?
それにこれから先、この紅魔館にはゾクゾクお客さんがやって来るかも知れないんだ。そいつらをオレは全員おもてなししなければいけないんだぜ。
なに、腹が減ったら恐竜を使ってピッツァの1枚でも配達させてやるよ。アメリカでは今流行りらしいからな」

『ここはアメリカではないんだが…まぁ良いだろう。だが情報というのはこのゲームを大きく左右する。頼んだぞ、Dio』

「…仰せのままに。大統領閣下殿」


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紅魔館の二階、西洋風の造りを装った薄暗い部屋の中央。
普段はこの館の主である吸血鬼『レミリア・スカーレット』がその権威とカリスマを以って部下達を屈服させるためにある高貴なる椅子に、現在はディエゴが足を組み、座していた。



(ここは『紅魔館』…吸血鬼である『レミリア・スカーレット』の住まう館…。ならばその主はいずれこの場所に戻ってくる可能性が高い…。
吸血鬼とやらがどれほどの力を持っているかは定かじゃあないが、『用心』しておかなければならないだろう。
この館の周りには特に厳重な『警備』を常に敷いておき、誰かが近づけばすぐに対応するべきだな…)

(そしてオレの能力『スケアリー・モンスターズ』の制限については大体『理解』した…
①傷を付けて恐竜化させる場合、オレが近くに居ないと『感染化』が始まらない。何キロも離れた相手を恐竜化させるのは不可能ってワケだ。
(あらかじめ最初に傷付けておいたシーザーはオレが接近した直後から『感染』が始まった)
②半径1km以上離れると恐竜化は解かれるが、小動物や虫などの『小型』には距離の制限は殆ど無い)

(フン…忌々しい枷だ。荒木と太田め…このDioにナメた真似をしてくれる。
…だが、奴らとはいずれ会わなければいけない。『ブッ殺す』にしても『利用する』にしてもだ。
そうだ。全て利用してやる。全ての参加者とあの主催者共すらも踏み台にしてオレは登り詰めてやろう…)

(大統領にも全ての情報を渡すつもりは無い。奴に適当な情報を渡しつつ、オレはオレでやらせてもらうぜ。奴もその事を承知の上だろう…
全員出し抜いてやる…。最後にこの世界の『頂点』に立つ者は、この『Dio』だッ!)




―――お前も、そう思うだろう…?シーザー・ツェペリ―――


腹の底にドス黒い『野望』を抱えながら、ディエゴは足元に跪く-最早全ての自我を失った―恐竜をその足で踏みつける。

シーザーの眼には既に光は無かった。あるのは主人であるディエゴへの『忠誠』と、血を求め、獲物を殺す肉食の『野生』の眼。

『傀儡人形』となったシーザーは、もう声を発する事も出来ない。戦友のために戦う事も出来ない。


―――シーザー・ツェペリは『敗北』した。







かつて世界の全てを恨んだ男は 『略奪者』となって栄光を奪うか

幻想郷に聳えた『悪魔の館』は 今や『恐竜の王国』となりて 世界を蹂躙し始める

『88の生贄の羊』を礎に ディエゴ・ブランドーは静かに笑う

『帝王』への道を ただ静かに 這いずる様に 登り詰める



Side.Diego Brando…END


【C-3 紅魔館/黎明】

【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康(波紋の攻撃は既に回復)
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り80%)
スロー・ダンサー@ジョジョ第7部(現在恐竜化して大統領に派遣中)基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
2:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
3:紅魔館で篭城しながら恐竜を使い、会場中の情報を入手する。大統領にも随時伝えていく。
4:レミリア・スカーレットには警戒しておこう
5:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。

[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
※この時間より、ディエゴの翼竜が会場全体の情報偵察に飛び立ちました。特に紅魔館周辺の警備は厳重です。

○『ディエゴの恐竜』について
ディエゴは数十匹のミツバチを小型の翼竜に変化させ、紅魔館から会場全体に飛ばしています。
会場に居る人物の動向等を覗き、ディエゴ本体の所まで戻って主人に伝えます。
また、小さくて重量が軽い支給品が落ちていた場合、その回収の命令も受けています。
この小型恐竜に射程距離の制限はありませんが、攻撃能力も殆ど無く、相手を感染させる能力もありません。
ディエゴ自身が傷を付けて感染化させる事は出来ますが、ディエゴが近くに居ないと恐竜化が始まりません。
ディエゴ本体が死亡または意識不明になれば全ての恐竜化は解除されます。
また、『死体』は恐竜化出来ません。

【シーザー・アントニオ・ツェペリ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に軽い火傷と切り傷、現在恐竜化
[装備]:なし
[道具]:シャボンの手袋以外ディエゴに奪われる
[思考・状況]
基本行動方針:ディエゴの支配を受ける。
1: …………。
※参戦時期はスイスのサンモリッツ到着直後です。
※火焔猫燐の黒猫形態を、人間形態と別個体だと思っています。


○スロー・ダンサー@ジョジョ第7部
元天才騎手ジョニィ・ジョースターの愛馬。
他の参加者の馬に比べ高齢だが、老いた馬は経験があるので未知の地形で無茶をしない。
平地騎手のジョニィの技に耐えており、体力でも他の馬に劣らない。

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最終更新:2013年12月29日 20:43