狐狸大戦争、そして

どこまで言っても同じ道、
そう思えてしまうほど変わり映えのしない竹林の景色の中を、
うんざりした眼でため息を吐きながら、二ッ岩マミゾウは歩いていた。

「うーむ、迷った……」

現在、マミゾウは迷っていた。
ここは迷いの竹林。
広い上に少しの傾斜があり、
斜めに茂る竹が歩く者の平衡感覚を狂わせ迷わせる、
幻想郷でも指折りの遭難スポットだ。
ただでさえ幻想郷に来て日も浅く、
土地勘もないマミゾウが迷うのは当然だった。

「おーい鈴仙殿―、居たら返事をせんかーい、
儂は悪いたぬきじゃないぞー!」

叫びは虚しく竹林の闇に消えていく。
そう、マミゾウは、先ほど偶然出会い、
自分の過失によって錯乱しながら逃げ去っていった、
鈴仙・優曇華院・イナバを探していた。
彼女はどこか追い詰められているようで、
この殺し合いの中では誰がどう見ても危険な状況だった。
多少の責任も感じていたし、
何よりいつ誰に狙われてもおかしくない彼女を放って置けるほど、
マミゾウの情は薄くなかった。
故に彼女を追ってみたのだが、土地勘と運動能力の差、
おまけに何やら術でも使われたか、追っている間に姿が消えてしまい。
見失い、今に至る。

「そりゃーおらんよなぁ……。
まったく初っ端からついとらんのー、幸先が悪いどころの話じゃないわい」

先程からかれこれ数十分は捜索しているが、
鈴仙どころか兎の一匹も見つかりはしない。
伝え聞いた話では、
竹林には妖怪兎や月に縁のある妖怪が多数生息しているはずなのにだ。
やはりここは幻想郷ではない、よく似た何処か別の場所。
もしくは主催者の荒木と太田が、
参加者を一人も気づかせずに拉致したように、
人知どころか妖怪すら上回る、
その尋常ならざる力によって“創造”したのだろう。


「どうしたものかのぉ……
なんとか主催者の奴らに仕返ししてやりたいが、
今は先に鈴仙殿を見つけなければならん。
どこに行ったのかのぉ……ん?あれは」

幾度目になるかわからないぼやきをしながら
見飽きた竹林の景色を再度見渡すと、
ひとつの小さな変化を見つけることができた。

「ほほう、竹の花か、珍しい。
確か六十年かそこらに一回しか咲かんもんじゃないか。
ついとらんと思とったが儂の運もまだ捨てたもんじゃないかものう」

青々とした竹の中で、小さく可憐に咲く竹の花を見て、マミゾウは呟く。
マミゾウの言う通り、竹の花は非常に珍しく、
その開花周期は種類により六十年とも百二十年とも言われている。
妖怪とはいえ、
常に竹林に住んででもいない限りなかなか見れるものではない。

そしてまさに竹の花の力か、
マミゾウが呟いたその時、同時に新たな変化、
付近から何かが走るような音が聞こえてきた。
思考を切り替え即座に頭を地面につけ耳を凝らすと、
足音から判断して二人いるようだ。
一人は必死に走っているのか、一歩一歩の音が大きく歩調も安定していない。
もう一人は、まるで機械のように一定の間隔を崩さず走り続けている。
対照的な二つの足音から判断するに、誰かが追われているのだろう。
そして理由は分からないが、
追う側は速力を完全制御し、相手の速度に合わせて走っている。
この点だけを見ても相当の実力差があるようだ


「となると、どうやら抜き差しならん状況のようじゃ。
竹の花は良し悪しは別として、変化はもたらしてくれたようじゃの。
さて、鈴仙殿かもしれんし、儂もいっちょ追いかけっこに加わるとするか」

そう言いマミゾウは、音が聞こえてきた方向へと、足を向かわせた。
その後ろでは、竹の花が手を振るように、
小さく揺れてマミゾウを見送っていた。

☆☆☆☆☆


黎明の竹林を走る、二つの影があった。
逃げる氷精・チルノと、追う式・八雲藍。
殺し合いの真っ只中だ。
しかし一見すると、一向にチルノと藍の距離は縮まっておらず、
とても殺し合いには見えない。
だがそれは、この殺し合いの場でも発揮される、
藍の計算能力によって導き出された、最も効率的な狩りの手段であった。
まだ殺さなければならない対象の多い藍は、
妖精相手に余計な消耗を防ぐため、
チルノと付かず離れずの距離を保ち体力と精神を摩耗させ、
抵抗する力を失わせた上で確実に殺す、という手段を選んでいたのだった。

抵抗しなければこんな思いをしなくて済んだのにな、と藍は無感情に呟く。
対するチルノは藍の思惑通り、心身ともに消耗し、
最早抵抗する気力も失いつつあった。
だがそれでも、チルノの中にある最強というプライドが、
諦めまいと必死にチルノを動かしていた。

だがそのチルノの気勢も、今まさに折れんとした時であった。
突如として現れた人影が藍に奇襲を仕掛けたことにより
、均衡が崩れ去ったのだ。
藍は奇襲の弾幕をギリギリで回避し、
新たな乱入者――二ッ岩マミゾウに目を向けた。


「お前は確か、二ッ岩マミゾウだったか。何をする」

「何をするも何も、弱いものいじめを見過ごせるほど非道ではないのでな。
お主も妖精相手に何をしておる。
主から弱いものいじめをしろとでも命じられたのか?」

「弱い強いは関係ない。種族実力の差別なく、
紫様以外のすべての参加者を殺すのが私の使命だ。
紫様もきっとそれをお望みになっているだろうしな。
それにお前とて例外ではない、邪魔をするならまずお前から殺す」

そう言いつつ藍は薙刀を構えた。

「やれやれ……そこの妖精!
ちょっと面倒なことになるかもしれんから少し離れておれ!
体力が戻り次第ここから逃げるんじゃ!」

内心まずいことになったのう、
と思いながらもマミゾウの思考と判断は冷静だった。
そしてマミゾウがそう言うと、満身創痍のチルノはコクリと頷き、
よろよろと後ろに下がっていった。

「さて、これで準備はおーけーじゃの。
でも儂あんましやる気せんのじゃが、やるのか?」

「殺る」

「なんか字が違う気がするのじゃが……仕方ない、
狐七化け狸八化け、ぐうの音も出んほどこてんぱんにしてやるわい!」

「背中を燃やされるのが望みか?
それとも茶釜にして二度と戻れないようにしてやるか?
どちらにせよお前は確実に殺す。そしてお前を殺した後にあの氷精も殺す」

「全くしょうがない奴じゃ……」

「いざ」

「……尋常に」

「「勝負!!」」

こうして、月が沈みかける竹林で、狐狸大戦争が始まった。


まず初撃、藍が大上段に構えた薙刀を殺意を込めて振り下ろす。
一撃必殺による短期決着が狙いだ。
対するマミゾウは咥えていた煙管を瞬時に刀に変化させて、
藍の一撃を受け止めた。
双方の得物がぶつかり合い、竹林に赤い火花が散る。

「ぐうう……なんちゅう馬鹿力じゃ、もっと加減せんかい!」

「今ので五割程度だ、次は本気で行く」

藍が一気に距離を詰めようとするが、マミゾウは弾幕を放って距離をとる。
接近戦では藍に分があった。

「馬鹿力に正直に戦ったら体が持たんわい。
やはり儂の十八番でやらんとな……まずこいつはどうじゃ!」

壱番勝負「霊長化弾幕変化」

マミゾウの宣言とともに周囲の竹の葉が人型に変化し、
次々と藍に向かって襲いかかる。
藍はそれを何とか躱そうとするが、
幾重にも襲ってくる人型は尽きることなく向かってきて、
避けても避けてもきりがない。
何度か躱した時点で藍は思考を切り替え、同じくスペルカードを宣言した。

式輝「狐狸妖怪レーザー」

輝く光条が次々にマミゾウの弾幕を焼き払う。
制限なしの戦いだからこそ出来る、手加減なし、美しさ皆無の弾幕だ。
あらかた弾幕を焼き払い、道が開けた所で藍が突進する。
薙刀はマミゾウを捉え一刀両断、
かに思われたが切ったはずのマミゾウから木の葉が舞い、
変わり身を使われたことを藍は理解した。
そして後ろを振り向くと、マミゾウが肩で息をして立っていた。

「ぜぇぜぇ、無茶苦茶な奴じゃ、竹林を吹き飛ばすつもりか!」

「まさか、さすがの私もそこまでの力はない。
紫様なら可能だろうがな。
それにもしそんな力があったとしても、
この竹林に紫様がいたら、ご迷惑をお掛けするからな、
あとお前程度にそんな本気は必要ない」

鼻で笑いながら藍は言う。やすい挑発だ。

「くうぅ!つくづく鼻持ちならんやつじゃ!これだから狐は好かん。
しかしそこまで言うならその挑発乗ってやろう。
儂も奥の手を出してやる、後悔するなよ……」

そう言いながらマミゾウは、
懐のエニグマの紙から一枚の円盤上のものを取り出し、
自然な動作で頭に“挿入”した。
そう、二ツ岩マミゾウに支給されたアイテムはスタンドディスクだったのだ!。


だが、マミゾウが使用してしばらくしても何の変化も訪れない。
ハズレのスタンドディスクを引いてしまったのだろうか。
そして警戒して様子を見ていた藍も、
目下の所脅威なしと判断しまたもやマミゾウに襲いかかる。
それでもマミゾウは不敵な笑みを絶やさず攻撃を避ける素振りすら見せない。
最早直撃は免れないほど藍が接近した時点で、
マミゾウは、成る程こっちか……と小さく呟き、ほんの少しだけ動いた。
もちろん躱せるほどの動きではない、藍の一撃がマミゾウに迫る。
が、マミゾウまで後ほんの少しのところで、
薙刀がありえない動きをし、マミゾウを避けた。
繰り返すがマミゾウが避けたのではなく、薙刀がマミゾウを避けたのだ。
藍はなにか不穏な気配を察知し、マミゾウから飛び退った。

「そっちは危ないぞい」

マミゾウがそう言うと同時に、
藍は飛び退いた着地地点に“偶然”あった石につまずき体制を崩した。
そしてつまずいた先にはまたもや“偶然”斜めに切られ鋭利に尖った竹が群生しており、
藍はなんとか体制を立て直そうとしたが、回避しきれなかった左足が竹に切り裂かれ鮮血が飛び散った。

「な、言ったじゃろ、そっちは危ないってな」

(これは何だ、いったい何が起こっている!?)
藍はそう思いながらも思考を高速で張り巡らす。
しかし、ここに藍の弱点があった。
式神として八雲紫から強大な知慧と力を与えられた藍だが、
その思考能力は既存の考えや定石等には強いが、
不測の事態や理解できないものに対する対応力が低い。
故に理解し難いものと直面すると、思考の処理能力が大幅に低下するのだ。
それでも藍は優秀な式神、
なんとか思考を立て直し状況分析に移ろうとする程には冷静だった。
だがいくら冷静だろうと、現在の状況分析は藍の能力の範囲外。
超能力や瞬間移動などちゃちな考えしか浮かんでこなかった。
そしてその隙を見逃すマミゾウではない。
考える暇を与えず次の攻撃に移った。


弐番勝負「肉食化弾幕変化」

先ほどの人型が今度は肉食動物に変化し、右から左から藍に襲いかかる。
マミゾウの能力の秘密を解かない限り、防戦一方にならざるを得ない。
藍は弾幕を避けながらも、
試験終了チャイム直前まで問題を解いている受験生のように必死に状況を観察・分析した。
その結果、ひとつ不自然な点を発見することができた。
マミゾウの近くに何かが浮いている。
少なくともマミゾウがディスクを挿入する直前まであんなものはなかったはずだ。
藍はそこにマミゾウの能力の秘密があると判断し、マミゾウの近くに弾幕を放った。
すると、

「ヤメロー、ヤメロッテバ。オレハ中立ダッツーの!
攻撃は通り抜けて行くダケダ。
ソレヨリ前ミロ前!
マミゾウの攻撃は既に決定シテイルンダカラ防御シネーと危ナイゼ」

そこにはドラゴンのような奴が居て、何やら忠告めいた事を言っている。
藍は無視して弾幕を撃ち続けた。

「人の話をキカネーヤツバッカダナ、現在オマエのいる位置は凶、
ラッキーカラーはオレンジでヘビ柄の財布は吉だ、あればだけど……」

ドラゴンがそういった瞬間、
藍は死角から現れたカラカッサ変化の攻撃を受け弾き飛ばされ、
そこに動物弾が殺到した。
爆煙が吹き上がる。


「フッフッフッ、これで儂の勝ちじゃろう。
ドラゴンが余計なことを言った時はどうなることかと思ったがの」

「ウルセーナ!俺はアンタの手下じゃナインダゼ、
風水はミンナが知るべきことダ」

「まったく……便利な能力じゃがうるさくてかなわんわい」

そう、マミゾウが手に入れた能力は『ドラゴンズ・ドリーム』。
風水の力で吉と凶の方角を教えてくれるスタンドだ。
先ほどのマミゾウの不可思議な回避や攻撃は、
この吉凶を利用することで行われていた。

「さーて狐はどんな具合かの、手加減はしたはずじゃがさすがに無事ってこともないじゃろう」

マミゾウが爆煙に近づく、すると突然煙の中から薙刀が突き出された!。
躱しきれずマミゾウは脇腹を切り裂かれる。

「なっ……何ぃぃーっ!戻ってこいドラゴンーーーッ!!」

マミゾウは脇腹を抑えながらドラゴンを呼び戻し再び吉の方角に入る。
が、受けたダメージは決して小さくはなかった。
マミゾウは藍の力を甘く見てしまったのだ。
爆煙は晴れ、藍の姿がはっきりと見えた。
たしかに多少のダメージは受けているがピンピンしている。

「なるほどな……払った代償はなかなか大きかったが、
今のお前の動き、そしてそのドラゴンとやらの言ったことでだいたい分かった。
お前のその能力、風水を占い利用する力だな」

そして藍はマミゾウの能力を見破った。
必要な情報さえ揃えば藍はその頭脳を遺憾なく発揮できるのだ。
それに風水は大陸から伝わりし秘術だが、
長い時を生き、賢者の式をしてきた藍が、
その程度のことを知らない道理がなかった。


「タネが分かってしまえば、二度と私には通じない。覚悟しろ」

式神「憑依荼吉尼天」

藍はスペルカードを発動し身体能力を強化、マミゾウに接近する。
高速戦闘に持ち込みドラゴンから引き剥がし近づかせない、
それがドラゴン対策に藍が考えだした戦法だった。

(油断してしまったのう……じゃがっ!)

対するマミゾウも藍を迎え撃つため術を発動、
すると周囲に大量のドラゴンが出現した。
どれが本物のドラゴンか分からなくし、
攻撃を避けながらチャンスを伺って本物のドラゴンに入り、
一撃必殺を狙う、その戦法にマミゾウは賭けた。

「今ばかしは黙っておれよ、ドラゴン!」

「ワイルドカーペット!」

更にマミゾウはドラゴンに釘を差しスペルカードを発動、
大量の肉食動物が鳥獣を追うような弾幕が、藍の行動を阻害するため藍に向かっていく。
だが藍は増えたドラゴンも弾幕も気にせず、
高速で弾幕を回避し、マミゾウに攻撃を仕掛け続ける。
チャンスを与えず速攻で勝負を決める考えか。
攻める藍と守るマミゾウ、一進一退の攻防が繰り広げられる。


そしてその攻防を一心に見つめる一つの影があった。
先ほど逃げたはずのチルノだった。
なぜチルノがここにいるのか、
それはここで逃げだしてしまうのは最強じゃないと思ったし、
また二人の戦いが気になったから戻ってきてしまっていたのだった。
次元の違う二人の大妖怪の攻防を見て、チルノは放心する。
その手元には、黒い何かが鈍く光っていた。


そしてついに状況が動く。
先にチャンスを掴んだのはマミゾウだった。

「マミゾウ化弾幕十変化」

チャンスを掴んだマミゾウはすかさずスペルカードを発動。
分身しそれぞれドラゴンに向かっていく。
藍はそれを止めようとするが、
身体強化の式を使っている藍は先程のレーザーのような大規模攻撃はできず、
一人ひとり狙っていくしかない。
故に藍が先に本物に当てるか、
マミゾウが先にドラゴンにたどり着くかの勝負になった。
そしてその勝負に勝ったのは、

「やったぞ!賭けに勝ったのはどうやらワシの方みたいじゃな!
お前は凶、儂は吉、これで儂の勝ちじゃーーーッ!!」

マミゾウだった。ドラゴンに入り藍に攻撃を仕掛けようとする。

「たしかに今の勝負はお前の勝ちだ、だが……」

マミゾウは気づいていなかった。
激しい攻防の中、守る側だったマミゾウは、
守ることに精一杯で、藍が策を仕掛けていることに。
そしていつの間にか自分が本物のドラゴンの死角に誘導されていたことに。

藍はマミゾウの狙いに気がついていたので本物ドラゴンの位置を覚えていた。
それを利用してマミゾウが本物のドラゴンを見失うよう立ちまわったのだ。
もちろんマミゾウも馬鹿ではない、
見失わないよう偽物は少しだけ本物と違う目印をつけていた。
だがその変化は藍に気づかれていた、そしてさらにそこを利用された。
藍は支給されていた水をマミゾウに悟られないよう鏡に変化させ、
本物とは逆の位置、つまり凶の方角に設置したのだ。
故にマミゾウがたどり着いたのは、本物ではなく水の鏡だった。

「こっこれは!?お主いつの間に!」

「言っただろう、二度と通じないと、既に対策済みだ!」

動揺するマミゾウに藍は薙刀を投げつけた。
マミゾウは回避できず腹部に薙刀が突き刺さり、
後ろにあった大きな竹に縫い付けられた。
そして、マミゾウが力を失ったことでドラゴンズ・ドリームのヴィジョンも消失した。
狐狸大戦争は、狐の勝利で幕を閉じた。


「ぐうっ!」

「私の勝ちだ、今楽にしてやる」

とどめを刺すため藍がマミゾウに近寄る。

「あー、参った参った、わ、儂の負けじゃ……じゃがちょっと待て」

「どうした、命乞いか?時間稼ぎか?それとも辞世の句でも詠むか?」

「そうしたいのは山々じゃがのう、もう煙も出んわい。
それにお主にはそんなことしても無駄じゃろう。
そうではなく、死にゆく者の勝者に対する忠告のようなもんじゃ、聞いて損はないと思うぞ」

「私は情け深いからな、いいだろう、いってみろ、
殺すことに変わりはないがな」

「まったく情け容赦ないじゃないか……そうじゃのう、
これは儂がお前と戦っている時に気づいたことじゃが、
お主、本当に式としての命令で動いておるのか?儂にはそうは見えん。
お主は式としてではなく、八雲藍という個として動いておる。
いくら八雲紫すら危機にさらされる現状とて、
追加の命令もなく全参加者を殺そうとするか?普通しないはずじゃ。
つまりお主は八雲紫の望まぬことをしているのかもしれんのだぞ?」

藍の眉がピクリと動く。

「……そんなことはない」

「いやある。それによく考えてみろ、
儂は幻想郷に来て日が浅いが幻想郷のことを気に入っておる。
妖怪と人間の共生が危ういバランスながらも成り立っている幻想郷をな。
そしてそんな慈悲深い郷の賢者をやっておる八雲紫が、
お主のやっているようなことを望むと思うのか?
お主の中の八雲紫はそんな自分勝手で無慈悲な奴なのか?違うじゃろ?」

「黙れ!死にぞこないは潔く死ね!」

マミゾウの言葉に藍は動揺し、逆上してマミゾウにとどめを刺さんとする。
だがその時、突然乾いた炸裂音がしたかと思うと、
藍の右腕に幾つもの穴が空き、血が噴出した。

「ぐうっあ!」

音のした場所を見ると、先ほど逃げたはずのチルノが銃を抱えて立っていた。
そしてマミゾウは藍が混乱している間に、
死力を振り絞りなんとか薙刀を引き抜いた。
突如現れたイレギュラーにより、またも状況は一変したのだった

だがいかに混乱しているとはいえ、藍は優秀だった。
戦況を分析し不利を悟ると、薙刀を拾い竹林の奥へと消えていった。

☆☆☆☆☆

竹林を走る、走る。
だがいくら走っても、藍の中に生まれた疑念は消えなかった。

「私は……紫様のため……自分のため?違う!でも……」

藍のその疑念は、式として最も危険な思考だった。
式神は、主の命令によって動くことで、最大限の力を発揮することが出来る。
しかし命令外のことをすれば、その力は元の化け狐だった頃と大差ないのだ。
もちろんそれでも十分な力ではある。
だがそれより問題なのは、
自分が主の思惑に背いているかもしれないという考えだ。
思考の袋小路に迷い込んでしまった藍の夜は明けない。




☆☆☆☆☆

【D-6 迷いの竹林(中央近辺)/早朝】

【八雲藍@東方妖々夢】
[状態]:左足に裂傷、右腕に銃創、霊力消費(中)、疲労(中)、軽度の混乱
[装備]:秦こころの薙刀@東方心綺楼
[道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:紫様を生き残らせる
1:マサクゥル! 皆殺しだ!……果たして本当に正しいのか?……
2:橙への褒美の用意する
3:私自身の意志……だと?そんなはずは……
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※第一回放送時に香霖堂で橙と待ち合わせをしています。


「ふー助かったわい、感謝するぞ、そう言えばお主名は何と言う?」

腹部をさすりながらマミゾウが尋ねる。
なんとか致命傷を免れたようだ。

「……チルノ」

銃の反動がきつかったのか、
それとも先ほどのダメージが残っているのか、
どこか放心したような表情でチルノが答える。

「そーかチルノか、ありがとな、チルノは儂の命の恩人じゃ。
しかし思い切ったことをするもんじゃのう、
どこでそんなもんの使い方を習ったんじゃ?」

マミゾウはチルノの頭を撫でながら、
チルノの持つ黒光りする銃をチラと見て訊く。

「説明書がついてたの……」

そう言いチルノは、一枚の説明書を取り出した。
渡されたマミゾウは説明書を読み、
その誰でも人を殺せるように出来るような、
やけに薀蓄の書かれた無駄に読みやすい文章を見て、
嫌悪と同時に恐怖を覚えた。
これは素人すら殺人者に仕立てあげてしまうシロモノだ。
もしこんなものがこれ一つだけではなく他にも支給されていれば、
間違いなく殺し合いは加速するだろう。
主催者たちはまるで冗談のように冗談じゃないことをやっている。
思ったよりも事態は深刻なようだ。
だが今は、とにかくどこか安全な場所で状況を整えなければならない。


「よし、とりあえず落ち着けるところを探すか……
お、そうだ、その前にチルノ、その鉄砲は危ないから儂が預かろう。
何、悪いようにはせん、お主が危なくなっても儂が守ってやろう」

そう言いながら、マミゾウはチルノから銃を預かろうとした。
こんなものを持っていれば、
この哀れな妖精がまたいつ争いに巻き込まれてもおかしくないと判断したからだ。


しかしその時、タタタッ!と炸裂音がした。

「えっ?」

マミゾウはチルノから至近弾を幾つも喰らい、
何が起こったかも分からぬまま地面に倒れ伏した。

そう、マミゾウはこの時チルノに対して無警戒に過ぎた。
チルノが放心していたのは、銃を撃った反動でもなく、
抜け切らないダメージでもなかった。
ただひとつの理由、
それはあの最強と思っていた藍を、このマミゾウにすら勝つ藍を、
銃の力とはいえ自分が追い詰めたという愉悦、それだけだ。
そしてそんな状態のチルノから銃を取ろうとすれば、
こうなってしまうことは自然な話だった。
マミゾウがチルノのその変化に気づけていれば、結果は変わっていたかもしれない。

「ぁ……ああ……あたい、こんなはずじゃ……違う、違うの!」

そう言いながらチルノは走りだした。
その心の中は、後悔と混乱、そして、未だに疼き続ける暗い愉悦が渦巻いていた。
狐狸大戦争は終わり、そして、チルノの孤独な妖精大戦争が、始まろうとしていた。


☆☆☆☆☆

【D-6 迷いの竹林(中央近辺)/早朝】

【チルノ@東方紅魔郷】
[状態]:胸部に裂傷、疲労(小)、霊力消費(小)、混乱
[装備]:霊撃札×2@東方心綺楼 9mm機関けん銃(残弾0)@現実
[道具]:、基本支給品、予備弾倉(25発)×9
[思考・状況]
基本行動方針:どうしよう……
1:あたい……最強……
2:あたい……人を……殺しちゃった……
3:銃って最強。銃さえあればあのキツネにも勝てるかもしれない
4:マミゾウと藍の戦いでなんとなくスタンドを理解
[備考]
※参戦時期は未定です。
※藍とは別の方へ走りだしました。行った方向は次の書き手さんにお任せします。


チルノが走り去った後、一人竹林に残されたマミゾウは、
まだかすかに一命を取り留めていた。
しかしその生命の灯火が燃え尽きるのも、最早時間の問題だった。

「ドジを、踏んだのう……ふふ……何百年も生きたが、
死ぬときは思った以上に呆気無いもんじゃ」

マミゾウは弱々しく自嘲する。
だが、竹林に仰向けに倒れながら、
沈みつつある月を見るマミゾウの顔は、未だ不敵さを失っていなかった。

「じゃが、じゃがのう、ただでは死なん。
儂を殺したのはチルノじゃない、あの胸くそ悪い主催者共の悪意じゃ。
だから絶対に、あいつらに一杯食わしてやる!」

マミゾウは最後の力を振り絞り、
自分から取り出した『ドラゴンズ・ドリーム』のスタンドディスクを鳥に変化させ、
月沈む空に羽ばたかせた。

鳥はぐんぐん高度を上げていき、そして見えなくなった。

「なんとか行ったか……これは一か八かの賭けじゃ、
あれは使い方を間違わなければ頼りになる道具、
正しい心を持ったものが使えばきっと役に立つ。
ふふ……寺にいながら仏を信じぬ儂も、
今ばかしはあれが正しい心を持った者の元へ行くことを仏に祈ろう」

寺のことを思い出し、寺の皆の顔が頭に浮かんだ。
(すまん、どうやら儂は先に逝くようじゃ、だがただでは死なん。
儂は賭けに勝ってみせる。お主たちは儂より長く生きろ!)

「よく聞け!邪知暴虐の糞主催者共!
儂は佐渡の、いや、幻想郷の二ッ岩、二ツ岩マミゾウじゃ!
儂はお主たちの負けにこの生命を賭ける!いざ勝負じゃ!」

最後にそう言い残し、二ツ岩マミゾウは永遠の眠りについた。
空には、もう月は浮かんでいなかった。







【二ツ岩マミゾウ@東方神霊廟】 死亡
【残り 80/90】

※C-6とD-6の間付近、竹林中央にマミゾウの死体と基本支給品が落ちています。
※空に『ドラゴンズ・ドリーム』のスタンドDISKが鳥に変化したものが飛んでいます。
しばらくしても誰の手元にもわたらなければ、術が解けてどこかに落ちます。


○支給品説明


『スタンドDISC ドラゴンズ・ドリーム』
破壊力:なし スピード:なし 射程距離:なし 持続力:A→C 精密動作性:なし 成長性:なし

頭に挿入することでスタンド「ドラゴンズ・ドリーム」を使用できる。
ドラゴンが吉凶の方角を教えてくれるスタンド。その運勢は絶対。
使用者がドラゴンを通して攻撃を行えば、その時点で攻撃の運命を決定させることも出来る。
このロワでは持続性の制限(連続十数分程度で再使用にはまた十数分かかる)を受けており、
長い間発動する事はできない。
また起こりうる幸運も不幸も、
直接命にかかわるレベルではない程度に制限されている。
現在は鳥に変化させられ空を飛んでいる。誰のもとに行き着くかは不明。


『9mm機関けん銃』
チルノに支給。
1999年に日本の自衛隊が採用した9mm口径の短機関銃。
性能はあまり良くない。
装弾数25発。有効射程約25m。
様々な政治的配慮により拳銃として扱われているが、性能はほぼ短機関銃。
発射速度は高速だが、銃床がないのでフルオート時の保持射撃は難しい。
狙って撃つというより至近距離で弾をばらまくのに適した性能と言われている。
本来の9mm機関けん銃のセレクターの各ポジションには、
安全/単射/連射の頭文字である「ア/タ/レ」が記されているが、
チルノの持っているものには、
あんぜん/たまにうつ/いっぱいうつの頭文字である「あ/た/い」が記されている。
主催者の遊び心かもしれない。

053:Kindle Fire【焚きつける怪炎】 投下順 055:世界を惑わす愚かなる髪型よ
051:廻る運命の輪 時系列順 057:黒い夜に紅く ~Battle Tendency
045:Strong World チルノ 072:Trickster ーゲームの達人ー
045:Strong World 八雲藍 086:羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄
038:途方も無い夜に集う 二ッ岩マミゾウ 死亡

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最終更新:2014年10月22日 15:18