魔王

傍で穏やかに川が流れる、E-3の平原。
周辺から薄暗く見えるものは蓮の浮かぶ小さな池、そしてぽつんと畔に存在する小さな祠のみ。

川の流れる音に紛れるように、カチャリと金属音が静かに響き渡る。
長い鞘から、ゆっくりと剣を引き抜かれる。
鞘から引き抜かれた剣から、銀色に鈍く光る刃が露となる。
これが、私に支給された『武器』。
「LUCK&PLUCKの剣」。大柄な西洋剣が白く細い手に握り締められる。
殺し合いにおける自身の相棒となるであろう。
そう。ここから先、戦い抜く為の…刃。

されど、他者を殺すのは自分の意思。
手に握り締められた剣は殺人の為の『手段』―――『道具』に過ぎない。
この剣で誰かを斬り捨てることは、私自身の意思が決めることだ。

殺すのは己の殺意。誰かをこの手で殺めるのは、己の殺意。

剣をその手に握りしめ、立ち尽くす少女―――毘沙門天の化身「寅丸星」。
凛々しい表情とは裏腹に、瞳には殺意と決意を宿す。
彼女は、覚悟を決めていた。
自らが住まう命蓮寺の僧侶であり、同時に自身を仏教の道へと誘ってくれた師のような存在―――聖白蓮を護る覚悟を。

「聖、私は…貴女に許しを乞うつもりはありません」

剣を両手に握り締め、彼女は真剣な表情で呟く。
その瞳に宿るものは―――覚悟の表明。

「貴女だけは、もう…喪いたくない」

―――そう。あの時と同じように。
聖が封印されるのを『見殺し』にした時と同じように。
彼女が再び傍から喪われることなど…あってはならない。
私達が巻き込まれているのは「たった一人しか生き残れない殺し合い」。
主催者は…数多の妖怪の、異変解決を生業とする巫女の、八百万の神々の生殺与奪を平然と握れる程の存在。
死から程遠い我々に対し、『死』を刷り込ませた強大な存在。
最初の会場で、見せしめに秋の神が殺された。あの主催者は、神々をも簡単に殺すことが出来るのだ。

あの男達は、神をも超える『化物』。

それほどの力を見せつけられた以上、恐らくは多くの参加者がこの殺し合いに乗るだろう。
いや、乗らないとしても…参加者が彼らに反抗することなど、不可能に近い。


私は、怖い。聖がこの場でも誰かの為に奔走するかもしれないということが。
かつて、人間から裏切られ封印された時のように騙されて。
あるいは凶悪な参加者と相対して、殺されるかもしれない。
聖は誰よりも優しい。―――だからこそ、悪意ある者に利用され…踏み躙られるかもしれない。
そうして再び彼女を…いや、本当の意味で彼女を喪うことが。
どうしようもなく、怖い。

だから私は決意した。―――『汚れ役』を担う覚悟を。
これは自分の意思。聖を護る為、自らの手を血に染めるのは…自分の意思だ。
毘沙門天の化身としてではない。命蓮寺の一員としてでもない。一匹の妖怪…寅丸星としての意思。
宝塔や毘沙門天の加護など、今は無い。だが…それでも、やらなくてはならない。




「私が、全ての罪を担います… 聖。貴女だけは、生きて下さい」


―――私は聖を護る為に、他の参加者を殺す。
彼女だけは、二度と喪いたくない。せめて彼女だけは、生きていてほしい。
そして…罪を背負うのは、私一人でいい。これは、私の私闘。
聖の為ならば…私は、『魔王』のような存在にだってなってみせる。

彼女は、ゆっくりと背後を振り返る。
他者がこちらへと近づいてくる『気配』を感じ取ったのだ。
その歩行音はどこか地響きの如く大きい。相当の体格の持ち主と見受けられる。
目を細めつつ、星は剣を握り締めて構えていた…。





「―――ほう、何かと思えば…小娘か」


星が睨む草原の方向から歩いて姿を現したのは、まるで山のような巨躯を持つ大男。
全身に甲冑を身に纏い、その姿は騎士を連想させる。
瞳に宿るのは『殺意』。…星はすぐに理解出来た。この男は、殺し合いに乗っている。
恐らく、人間ですらない。そう思える程の異常な気配を醸し出していたのだ。
男は右手に見覚えのあるアンカーを握り締めながら、剣を構える星を見下ろしてきた…

「………。」
「だが、小娘にしては中々の『殺意』を持っている…それにその剣は我が盟友ブラフォードの物ではないか。
 クク…楽しみ甲斐がありそうだ」

剣を握り締めながら無言を貫き通す星とは対照的に、男は不敵な笑みを浮かべながら呟く。
どこか興味を抱いているかのような、愉悦を求めているような…そんな様子だ。
そして右手に握り締めたアンカーを構えるような体勢を取り。


「さて、本番と行こうじゃないか」

「…………。」


「――我が名はタルカス。『貴様ら』を、殺し尽くす者だ」


男は、『タルカス』は名乗りを上げる。
その様はまさに中世に名を馳せる騎士だ。
だが、その表情に浮かべるのは邪悪とも取れる笑み。
彼は残忍な殺戮のエキスパート。―――目的は『皆殺し』だ。
DIO以外の全ての参加者を血祭りに上げること。それがタルカスの方針。
『たった一人』の為に他の『全て』を殺す。ある意味では、星と同じ。
しかし、その胸に抱くモノは違う。タルカスは、殺戮を『楽しんでいた』。
心より殺し合いを楽しもうと―――期待を抱いていたのだ。
そんな彼の感情に星が気付いているのかは定かではない。
名乗りを上げたタルカスを見上げつつ…こちらも、言葉を発した。


「…私は、寅丸星」


ブン、と握り締めていた剣を下ろすように構え。




「ただの『妖怪』だ」



―――星は一言、そう呟いた。
そして疾風の如き素早さで、勢いよく地を蹴る。
それは戦いの火蓋が切って落とされた、戦場の合図。
彼女は駆け抜けた。黒騎士の『LUCK&PLUCKの剣』を構え―――タルカスへと向かっていった。




◆◆◆◆◆◆






さて…
この私に与えられた支給品は、一体何だ?
…ふむ…これは、『銃』…か。
型は少し違うが、我々を監視していた軍人共が使っていたのを見たことがある。
数千年前にはこのような道具は無かったからな…記憶に残っている。
人類もほんの少しは進歩している、と言うことなのだろうな。
尤も、大した威力でもない恐るるに足りぬ長物であったが。
解析してみた限り…長身の形状、それにこの構造…成る程、遠距離射撃に特化した銃器ということか。
弓矢を超える射程距離を持つ飛び道具。確かに『厄介』ではある。
だが、私からすれば玩具のような物だ。
こんなもの―――必要は無い。

…………ふむ。
分解は容易いな。やはり機械的なものは構造が解りやすい。
所詮はガラクタだ。弾丸を発射する道具など私には不要だ。

だが…
『弾丸』にはまだ使い道がある、な。
長距離射撃を目的としている弾丸だ。遠方まで弾丸を届かせるとなれば、威力は信頼出来るはず。
人間程度なら恐らく容易く仕留められるだろう。

利用するに越したことは無い。





◆◆◆◆◆◆





毘沙門天の化身。
屍生人の騎士。
二人の『人ならざるもの』が、闘いを繰り広げていた。
始まりから、暫しの時間が経っていた頃か―――



――鋭利な刃と重々しい鉄塊が打ち合う音が響き渡る。
星のLUCK&PLUCKの剣とタルカスの握るアンカーが衝突したのだ。
周囲に強大な波紋が広がるかのような重圧。
勢いと力を乗せた、二人の重い一撃がぶつかり合った――。

「―――ッ!」

――競り合いで大きく仰け反ったのは星の方だった。
単純なパワーの差、そして技量の差で彼女は打ち負けた。
生前より騎士として戦場を駆け抜けてきたタルカス。
「88の輝輪」の試練を乗り越えた勇者の一人である、百戦錬磨の騎士だ。
対して星は、宝塔の加護による能力増強で大きな力を発揮する。
しかし…今の星の手元に、その宝塔は無い。


「そォらァァァッ――――!!!」


星の耳に入ったのは…風を斬る音!
そう、間髪入れずに振り下ろされるアンカーが―――星に迫っていた!
星はそれをギリギリで横に跳んで回避し、アンカーはそのまま地面に叩き付けられた。

ガァン、と鈍い破壊音が響き渡る。

アンカーの叩き込まれた地面に入ったのは大きな亀裂。
巨大な鉄塊を落下させたような凄まじい衝撃であることは、一目で分かる。


―――無論、それを暢気に眺めている暇など星にはない。


「はっ―――!」

アンカーを回避した星の手から放たれたのは、輝く無数の弾幕。
幻想郷の住民が得意とする『霊力の弾丸』。
星も例外ではない。宝塔を持たぬ状態とはいえ、単独の戦闘自体は可能だ。
彼女は回避した直後に距離をとるように後方へ下がりながら弾幕を放ったのだ!
幾つもに連なる弾丸は、攻撃を放ち終えた直後のタルカスに迫る―――!

しかし、その攻撃は彼の前では意味を成さなかった。



「―――失せよォッ!!」



――タルカスは、地面にめり込ませていたアンカーを『力づく』で引き抜いたッ!
そのまま引き抜いた勢いを乗せたアンカーを振るい、強引に弾幕を散らしたのだ!
少ない霊力で形成した弾幕は、いとも容易く消滅させられる。
タルカスの強靭なパワーはそれを可能とした。


「どうした、小娘!?貴様の力はそんなものかッ…!」


――タルカスが言葉を吐き出すと同時に、獣のような脚で地を蹴る!
地響きのような音と共にタルカスは星に迫る!
目の前の敵を仕留めるべく、巨躯の騎士は躊躇い無く迫るッ!
星はギリ、と歯軋りをしながら…タルカスを睨んでいた。
このタルカスという男は―――予想以上に強い。
見た目通りの腕力だけではない。単純な技量も相当に高い。
あのアンカーを手足のように自在に扱っている。
タルカスが百戦錬磨の戦士だということは、直接闘って『理解』することが出来た!

どうやらこの場には、自分も知らないような実力者が存在するようだ。
そう、目の前のタルカスのような…殺戮を望む『実力者』が!
ならば尚更、私は負けるわけにはいかない。
勝ち目がどこまであるかは解らない。だが、やるしかない―――!





「まだまだ、こんなものじゃない―――ッ!」


剣を握り締め、寅丸星は立ち上がる!
こんな所では終わらない!聖を護る為に闘うと誓った以上―――ここで死ぬつもりなど無い!
雄叫びのような声を上げながら、彼女は構える。
そう、目の前のタルカスを全力で仕留める!
奴は必ず危険となる。ならば、今此処で…あらゆる手段を使ってでも!
迫り来るあの騎士を、この手で『殺す』――――!














「捜符、」


その直後のことである。
聞き覚えのある声が、どこからか聞こえてきた。
――え、と星は唐突に耳に入った声に驚きを隠せずにそちらの方を向く。
そう、それは彼女にとっても聞き覚えのある声。
忘れることなど決してない、一人の妖怪の少女の声。
当然のことだ。この声の主は、彼女にとって縁のある人物なのだから。
―――そして、それは迫り来るタルカスもその声に気付いた瞬間のことだった。





「――――『レアメタルディレクター』!!」




側面から突如タルカスに向けて放たれたのは―――無数の氷結弾!
まるで鋭い氷柱のような無数の弾幕が次々と放たれてくる!
怒濤の勢いで放たれるそれは、獣の如しタルカスの突進を大きく阻む!
防御の体勢を取らざるを得ない程の攻撃の勢いが、タルカスの行動を阻害したのだ――!

「ぬぅっ…!?」

タルカスは突然の奇襲に堪らず仰け反り、防御をして何とか防ぎつつ後方に下がる。
幾ら百戦錬磨の騎士と言えど、唐突な乱入にすぐさま対処は出来なかった。
そう―――突然の新手の出現。彼は驚きを隠せず、舌打ちをしながら攻撃が放たれた方角を向いた。
一体何者だ…!?この小娘のような弾丸を放つ術を使ってきた者は―――






「…おい、ご主人」

ひょこっと星の傍に近づいていたのは。
―――『鼠のような大きな耳』を持つ、一人の少女。
少女である星よりも更に小さい、子供のように小柄な体格だ。
星は、目を丸くするように彼女を見ていた。驚きを隠せぬ様子で、彼女を見ていた。
タルカスに向けてスペルを放ち、星を助けたのは―――



「大丈夫かい?…どうやら、厄介なことになってるようだな」


「―――ナズーリン…」


―――それは、毘沙門天の化身である寅丸星の部下であり…監視役。
彼女と同じ、命蓮寺の一員で毘沙門天の弟子である妖怪。
小さな小さな賢将。そう。彼女の名は、『ナズーリン』。




◆◆◆◆◆◆







しかし、ここは一体何処だというのだ?
周囲一体に見えるのは精々だだっ広い草原くらいだ。
今まで見てきたような大規模な都市らしきものは一切見当たらない。
文明も行き届いていない程の辺境の土地で『殺し合い』が開催されているのか。
それとも、この会場自体が『殺し合いの為に用意された盤上』に過ぎないのか。
此処が一体何処なのかは…会場を動いて、少しばかり調査してみる必要がありそうだな。

…あの太田順也に、荒木飛呂彦という男は一体何を企んでいるのだろうか?
総勢90名もの人間をこの地に呼び寄せ、殺し合いをさせる。優勝者には褒美がある、と…
奴らの意図が読めない。わざわざこれ程までの人数を呼び寄せて殺し合いを開き、何の益があると言うのだ?
殺し合い自体に何らかの意味があるのか、あるいは単なる余興に過ぎないのか…
ふむ、こればかりはまだ解らないな…あの二人について知っている参加者が居ればいいが。
それに気になるのはもう一つ。名簿には死者の名前が記載されていたのだ。
彼らは確かに『死んだはず』。―――なのに何故、名簿に名が載っている?

まさか死者蘇生の類い?
それほどまでの力をあの主催者共は手にしていると言うのか?
…推測すれば推測するだけ、謎が浮かび上がってくる。埒が明かないな…。
暫くは保留としよう。そもそも、彼らが本当に蘇っているのかも疑わしい。
まずはこの会場の探索からだ。生きているかどうか…それはこの目で確かめる他ない。
そして――――『虫けら共の始末』も、行わなければな。




…それにしても、何かが聞こえてくる。

これは戦闘の音か。

どうやら…あちらの方角が、少々『騒がしい』ようだな。





◆◆◆◆◆◆






腰に手を当てながら、ナズーリンは星を横目で見る。
タルカスへの警戒を解かずに、いつでも交戦に入れる体勢だ。
そんなナズーリンを、星はぽかんとしたように見ていた…


「まだ開始からさほど時間も経っていないというのに、既に殺し合いが始まっているとはね…」
「ナズーリン…、貴女は…」
「―――解っている、ご主人。私は別に殺し合いに乗るつもりはない。
 あの荒木に太田とか言うのに従う気なんて、更々無いさ」


星の言葉を察するようにナズーリンは先に言葉を発する。
彼女は当然の如く、きっぱりと言ってのけた。「殺し合いに乗るつもりは無い」と。
その言葉を聞いた星の心に渦巻くのは…罪の意識。
罪を背負う覚悟は出来ている。―――だが、こうして面と向かって部下と会ってしまった。
そしてその部下は自分とは違い、主催に抗う決意をしている。


――私は、『聖を護る為に他者を殺すことを決意した』。
殺し合いに乗り、聖一人を生き残らせる為に。私は、この手を血に染める決意を固めていた。
それはある意味で…主催に立ち向かう自身の部下を裏切るような行為でもある。
覚悟はとうに決めているはずだった。だが、星の心に沸き上がっていたのは…罪悪感のような感情。

…私は、ナズーリンに何と言えばいいのだろうか。
彼女に私の方針を知られたら、もはや主人ではないと失望されるのかもしれない。
恐怖に屈した臆病者と軽蔑されるのかもしれない。


…でも。

それでも、私に手を差し伸べてくれた聖を護る為に。

私は―――――――





「と、ご主人。話は後みたいだ」


星の思考をよそに、ナズーリンはさっと身構える。
キッと睨むような彼女の視線に先にいるのは―――巨躯の騎士。
その身から強大な殺気を放つ、凶暴な殺戮のエリート。
弾幕に怯んでいたタルカスが、体勢を立て直して星とナズーリンを見据えたのだ。






「…よもや仲間が居たとはな、小娘…!だが、まぁいい…数が増えた所で変わらんわ…!」


右手のアンカーを引き摺るように持ち上げ、忌々しげに言葉を吐き捨てる。
先程の弾幕を受けたとはいえ…その身には殆どダメージを受けている様子はない。
小さな裂傷を身体の至る所に負っているが、全く消耗を感じさせない。
威風堂々と、猛々しく。彼は力強く、武器を構えていた―――!


「……、」
「…来るぞ、ご主人!」

すぐさま身構え、ナズーリンは星に向けて声を発する。
ナズーリンを見ていた星も、タルカスの行動に気付き急いでその手の剣を握り締める。
そしてタルカスは、アンカーを握り締め―――強靭な筋肉をバネに、地面を凄まじい勢いで蹴った。
まるで戦車のように大地を震わせ、突撃を開始する――!


「纏めて貴様らの生き血を喰らい尽くしてくれるわァァァーーーーーッ!!!!!!!」


至近距離まで接近してきたタルカスが、アンカーを横に薙ぎ払うように振るう!
強烈な暴風の如し勢いと共に、二人に巨大な鉄塊が迫る。
星とナズーリンは咄嗟に左右に跳んで回避し、ナズーリンが空中で両手を構える――




「―――そらッ!」

跳躍から落下するナズーリンの手から放たれたのは無数の弾幕。
牽制程度に霊力を込めて放たれたもの。当然の如くタルカスにはアンカーで容易く防がれるが―――
地面に着地した星が、その隙を見逃さなかった!
そう。剣を握り締めた星が、アンカーで弾幕を防ぐタルカスに接近していたのだ!
獣の如き眼光で、星は剣を振るう―――!

「はァァァァーーーーッ!!!!」

「ぬ、うッ…!」

―――タルカスの左脚が、剣の刃によって切り裂かれる。
勢いよく鮮血を吹き出し、負傷により一瞬怯むも―――
屍生人であり、かつての英雄であるタルカスはその程度で動きを止めることはなかった。

直後のこと。
タルカスが、弾幕を防いでいた『アンカー』を振るった。
その身に弾幕を次々と喰らいながらも、力づくでアンカーで薙ぎ払い―――

「―――ぐ、あァッ…!?」

アンカーが、星の身を勢いよく吹き飛ばした。
剣による一撃を叩き込んだ隙を見て、タルカスは弾幕への防御を捨てて攻撃しにかかったのだ。
元より頑丈な肉体に加え、屍生人と化したことにより更なる肉体の強度を得ているタルカス。
弾幕や剣の一撃を、容易く持ちこたえ―――星にカウンターを叩き込んだ!


「ご主人っ…!!」

地面に着地したナズーリンが、吹き飛ばされた星に向かって叫ぶ。
だが、タルカスは間髪入れずに右腕のアンカーを構えていた―――!
ナズーリンはハッとしたように、正面のタルカスの方へと向いた。


「クハハハハハハッ!!!余所見している暇があると思ったかッ―――!?」


ナズーリンの小さな身体目掛け、再びアンカーが振り下ろされる――!
避けようとするも、星が吹き飛ばされそちらに注意が引かれてしまったことにより…彼女は『一手』遅れた。
回避が、間に合わない―――!
振り下ろされるアンカーが、ナズーリンの身に叩き込まれようとした直前。




―――タルカスが、左目を抑えて転倒した。



断末魔のような絶叫を上げ、左目から出血し――仰向けに倒れ込んだ。
突然の出来事に、ナズーリンはぽかんとしたような表情を浮かべる。
倒れ込むタルカスの左目に異変が起こっていた。
いや、異変なんてものではない。直接的な攻撃。
―――LUCK&PLUCKの剣が、左目に突き刺さっていたのだ。
幾ら強靭な肉体を持つタルカスと言えど、目を貫かれればひとたまりも無い。
その刃が脳の近くにまで達すれば、尚更。



「はぁっ―――、はぁっ――――……」


先程吹き飛ばされ、転倒していた星が腹部を抑えながらタルカスの方を見ていた。
ナズーリンが隙を突かれて攻撃を喰らいそうになった直前、LUCK&PLUCKの剣を咄嗟に投げた。
狙いは当然、タルカスに向けて。
投げられた剣は彼の左目に突き刺さり、行動を阻害することに成功したのだ。



「…ご主人、」
「―――ナズーリン、まだです!」

星に助けられたことに気付いたナズーリンは言葉を発しようとするも、星はすぐに声を上げた。
そう、悶え苦しみながらも―――タルカスがまだ生きている。
そのことに気付き、すぐさまナズーリンに伝えたのだ。
ナズーリンは咄嗟にタルカスの方を向き、彼と距離を取るように後ろに下がった。

左目に突き刺さった剣を強引に引き抜いたタルカスが―――動いた!


「―――URRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!!!!!」


咆哮を上げながら、憤怒のままに星の方へと突撃する!
まさに怪物の如き、圧倒的なまでの殺意を身に纏い。
先程までとは比べ物にならない暴風のような勢いで―――迫り来る!
星は身構える。迫り来る『怪物』を前に、霊力を高める。



「―――寅符」


星は―――その身に霊力を身に纏い、球体のような姿と化し。


「『ハングリータイガー』ッ――――!!!」


そして、七つの大型の弾幕と共に―――タルカス目掛け突撃する!
その姿は、飢えた獣の如し。身を投げ出した人間に喰らいつく、獣の如し。
毘沙門天の化身としてではなく、一人の妖怪としての矜持。
目の前の化物目掛け、突撃した―――!!


「ぬ、おおおおおォォォォォォーーーーーーッ!!!!!」


タルカスは、真正面から星の突撃を受け止める!
決して一歩も退かぬ勢いで、アンカーで星と弾幕を受け止めるッ!
両腕の力を最大限に込め、押し勝とうとする―――!
星も同じだ。このままタルカスのガードを押し抜けようと、渾身の力を込めている!
互いに一歩も――動けぬ状況。
一歩も退けぬ、そんな状況。

―――主人の生み出した隙を、ナズーリンは見逃さなかった。




「ご主人、感謝するよ」


咄嗟に懐から取り出したのは――一枚の紙。
支給品を封じ込めている、エニグマの紙。
そう、ナズーリンは勢いよくその紙を『開いたのだ』。
飛び出すのは、一つの支給品。
それはもはや『幻想の道具』とすら言えるかも怪しい、近代的な武装。
河童の技術力が生み出した、強力な重火器。
―――もはや兵器と言っても差し支えのない、暴力的な火砲!


「――――!?」


タルカスは気付いた。
ナズーリンが何かを取り出し、構えたことに!
だが―――動くことは出来ない。
防御体勢を取る事も出来ない!対処する事も出来ない!
星との競り合いにより、動きを封じられているのだから―――!





「―――終わりだ」



――――ナズーリンの支給品『スーパースコープ3D』より、砲弾が放たれる。

狙いは当然、タルカス目掛けて。

近代兵器と比類しても遜色のない火力が―――タルカスに襲いかかる。

爆炎と同時に、タルカスの身を吹き飛ばした――――



◆◆◆◆◆◆






「……終わった…のか…?」

「…多分、そのはずだよ…多分ね」


星とナズーリンは、倒れたタルカスを見ていた。
タルカスは、右腕の部分が大きく焼け焦げており重傷は間違いないだろう。
だが…二人の表情は少し強ばり、警戒の色は抜けていない。
多少の距離は取ったままだ。あのしぶとさは油断出来ないが故に、警戒は怠らない。
もしかすれば、また立ち上がるかもしれない。
そんな予感さえ、した。
だが、星は一先ずナズーリンの方を向く。

「…ナズーリン…此度は、ありがとうございます」

「ご主人?」

「貴女の援護が無ければ、あのタルカスという男に負けていたかもしれませんから」

「……。こちらこそ、だよ。ご主人」

星の言葉と共に、二人は互いに言葉を交わす。
そう、星は改めて礼を言わねばならないと思ったのだ。
―――今は少なくとも、ナズーリンの援護で助けられた。
そのことに関しては、純粋に感謝を抱いていた。
だからこそ礼を言った。…これから、自分達が相容れるかは別だ。
私はあくまで聖を護るという願いの為に戦うことを決意した。
だが、ナズーリンは殺し合いに反抗すると言っていた。
主従と言えど―――私達の願いは、相反している。
これから、どうするべきなのか。まだ私には――――


「―――ぐ、うゥッ……………」


――呻き声が耳に入ってきた。
星とナズーリンは、はっとすぐさま身構える。
そう、倒れていたはずのタルカスが声を上げたのだ。
その瞳からはまだ殺意が抜けていない。まだ敗北を認めていない。
あの一撃を受けて尚―――彼はまだ生きていたのだ。

「―――まだ、…終わらん…ぞ……!」

とはいえ…その身は満身創痍だ。
恐らく無事では済んでいないだろう。トドメを刺すことも、容易いはずだ。
星は真っ直ぐにタルカスを見据えた。
…これから奴を、どうするか。
このまま―――仕留めるべきなのだろう。そう思い、拳をグッと握りしめていた。
ナズーリンも、ゆっくりと口を開く。


「…ご主人、もう奴はそう長くないだろう。惨いことになるが――――」






その時だった。







パァン。




乾いた破裂音のような銃声が、響き渡る。



それは何の脈絡もなく、唐突に訪れた。




「―――え?」




後方から聞こえてきた音に振り返る星。


タルカスも気付いた。唐突に響き渡る銃声に。


刹那。星は唖然と―――驚愕の表情を見せる。


自身が振り返った先。彼女の瞳に写ったもの。


それは―――






鮮血。

まるで潰された果実のように、無数の紅が飛び散る。



タルカスを見据えていた、ナズーリンが。



頭部を撃ち抜かれていた。



ナズーリンの小さな身体が、壊れた人形のように崩れ落ちる。



即死だ。―――ナズーリンの命は、たった一瞬の一撃で奪われた。






「ナズー、リン―――」

星の顔が――絶望の色に染まる。
何が、何が起こったというのか。
どうして…ナズーリンが、倒れているんだ?
どうして、ぴくりとも動かない?
どうして、また起き上がってくれない?
どうして、どうして―――――
今の状況が、理解できなかった。




「何かと思えば…」



―――低く威圧的な声が、静かに響き渡ってくる。
倒れたナズーリンの後方。距離にして10歩程度離れた位置に立つ、一人の男の影が見えた。
それは逞しい筋肉に覆われた、どこか美しささえ感じる妖艶な男。
そして、その身体から放つのは―――幻想郷の大妖怪にすら匹敵する、圧倒的なプレッシャー。
傍にいるだけで感じ取れる、肌がピリピリするような凄まじい威圧感。
唖然とする星だけではない。タルカスですら、この男に言い様の無い『畏れ』を心中で抱いていた。

あらゆる悪を超越する―――『魔王』が、そこには君臨していた。

その男は、真っ直ぐ前に突き出した指先から硝煙を発しながら―――星と、タルカスを見据える。



「この『カーズ』にとって、雑作もない虫ケラ共か」


フン、とつまらなそうにナズーリンの『死体』を見て…男は、カーズは呟く。
瞬間。星は即座に理解した。
ナズーリンを殺したのは、この男だと。
私の部下の命を奪ったのは、この男だと。
大切な仲間を虫けらのように踏み躙ったのは――――この男だ。
私の中で、何かがぷつりと切れる音がした。
動き出していた。







「―――――貴、様ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!!!」


まるで慟哭のような咆哮を上げ、星はカーズに向かい―――駆け抜ける。
渦巻くものは、激昂。憎悪。
部下を殺されたことへの、強い怒り―――それが星の身体を動かしていた。
もはや疲労すらも忘れて、全身の筋肉を躍動させる。
激情が、彼女の身を強引に動かしていた―――――!!


だが、




―――パァン。



「な、―――」

再び響き渡る破裂音――銃声。
突撃する星の脇腹が、勢いよく貫かれる。
大きくバランスを崩した星は吐血し――転倒する。
彼女の身を襲ったのは弾丸。先程ナズーリンの命を奪ったものと同じ。
カーズの支給品「ジョンガリ・Aの狙撃銃」の弾薬。
しかし彼は銃など構えていない。行っていた行動は「指を星に向けただけ」。
そう―――彼は狙撃銃の弾丸をその身に『取り込んでいたのだ』。
取り込んだ銃弾を自らの指先に移動させ、放つ。
それは柱の男の中でも最下位の階級の者である「サンタナ」も行っていた攻撃。
彼よりも遥かに上位の存在であるカーズにとって、雑作もなく行えることだった。


「このカスが…」


崩れ落ちた星を見下ろし――その左腕から『刃』を生やす。
カーズの能力『輝彩滑刀の流法』。
あらゆるものを自在に切断する、輝く光の刃。
脇腹を銃撃されて尚何とか立ち上がろうと膝をついた星が、その刃に気付いた時には―――
既に遅かった。


星の目の前に、一瞬のようなスピードでカーズが迫る。



「―――騒ぐじゃあない」



一瞬の交差。

刹那に響く、鋭利に切り裂かれる音。

直後に飛び散ったのは、真紅の鮮血。

そして、焼けるような―――激痛。




「が、ああぁァァァァァァァッ―――――――!!!!?」



――星の左腕が、『吹き飛んだ』。
悶え苦しみ、叫び声を上げながら星は左腕の切断部を抑え込んで倒れる。
それは輝彩滑刀による瞬時の一閃。
凄まじい切れ味を誇るその一撃が、彼女の左腕の肘から先を切断したのだ。
激痛に悶える星を流し見るカーズの瞳は――冷徹そのもの。




「激情に身を任せ、突撃し…そして返り討ちか。フン、下らん茶番だ」


倒れ込んでいる星に、ゆっくりと…男は近づく。
その腕より光り輝く刃を生やしながら、余裕に不敵な笑みを浮かべる。
どこまでも傲岸に、彼は一歩一歩を踏みしめる。
力の差は歴然だった。―――このカーズという男は、圧倒的な『強者』だったのだから。
疲弊した今の星の命を奪うことなど、容易い。




「一瞬でその命―――刈り取ってやろう」

「が、ァ…ッ……――――」


カーズが、腕を振り翳した。
左腕から生やす刃を―――『輝彩滑刀の流法』を。
転がる星の命を文字通り一瞬で奪う一撃。
それは、星の首に向けて振り下ろされる――――







―――――だが、その一閃が星の命を奪うことはなかった。

何故ならば。



カーズの身体が、宙を舞っていたからだ。

そう、カーズが『吹き飛ばされていた』。

星が顔を上げた先、その瞳に写ったのは―――


満身創痍の身体を押し、カーズを突進で吹き飛ばしたタルカスの姿だった。
星は、目を丸くして驚愕の表情を浮かべた。


「―――タル…カス……どう、して………」

「はァーッ……はぁー、ッ…………!」


カーズを吹き飛ばしたタルカスの息は荒く、乱れている。
その表情には必死さが現れている。
あれほどの傷を受けながらも、無理矢理立ち上がったのだから。
彼は―――星を助けたのだ。

「勘違い……するな……寅丸星、とやら…!貴様に…肩入れしたのではない…」
「……………。」
「おれは……あのような、男の……思い通りに……事が進むのが―――」


そして、タルカスは―――その右腕に、再びアンカーを握り締める。


「―――気に入らんだけだッ……!!」


タルカスは、アンカーを右手で構え。
その屈強な両足で、猛々しく立って見せる。
鋭い視線で見据えるのは―――ゆっくりと立ち上がったカーズの方向。

これほどまでの傷を負った。もはや自分は満身創痍だろう。
―――そんなことは解っている。だからどうしたというのだ。
片目が見えぬ。この腕に、胴に焼けるような激痛が走る。
だから、何だと言うのだ。
それがあのような男に屈する理由になど。あのような男におめおめと殺される理由になど―――ならぬ。
あのような男の好きになど、させてたまるか。




「此処は俺が引き受けよう、寅丸星」
「……タルカス、」
「―――あの男は、俺が殺す」

タルカスは、屍生人の騎士は宣言した。
目の前の男を、カーズを―――『柱の男』を、この手で殺すと。
時間稼ぎや身代わりではない。殺してみせると言ってのけたのだ。
―――駄目だ。タルカス、お前も逃げるべきだ。
星は動揺しつつも、そう言おうとしたが―――

「貴様は早く逃げろッ!!」
「…………っ、」

声を荒らげながらタルカスが凄まじい気迫と共にそう叫ぶ。
星は感じた。タルカスは…本気で闘うつもりだ。
本気で――あの男に、立ち向かうつもりだ!
私は、驚いていた。まさか敵として闘っていた相手に…助けられるとは、思ってなかった。
一瞬、迷いすら抱いていた。だけど―――今の私では、勝つ事も出来ない。
それ理解していた。だから私は、立ち上がった。

すぐさま、その場から走り出したのだ。
私は―――逃げ出した。


◆◆◆◆◆◆



草原で相対し合う二人の男。
巨漢の騎士は、先の戦闘で重傷を負いながらもその両足で立っていた。
対する長髪の男は―――余裕の態度で、両腕を組んでいた。傲岸不遜な笑みを浮かべながら。

「…ほう。貴様…屍生人か」
「………………。」
「吸血鬼にも劣るような搾りカスが、この私を殺すだと?」
「………………。」
「それに女子供を逃がし、自らが撃って出るか。成る程成る程、勇ましいことじゃないか」



その直後のこと。
カーズの表情が、冷徹なモノへと―――変わった。




「―――図に乗るのも大概にしろよ、ウジ虫が」


長髪の男―――カーズが、駆け抜けた。
疾風怒濤と表現するに相応しい、圧倒的な瞬発力で走る。
地を駆け抜けながら、その右腕から刃を発現させる。

タルカスは、その男に対し…ある種の恐怖すら感じていた。
それはまるで。獣を前にした羊のような。圧倒的な化物を前にした人間のような。
魂が記憶しているかのような、本能的な畏れ。
だが―――屈するつもりはなかった。口元には、笑みが浮かんでいた。
ああ、やってやるさ。
この目の前の男を、この手で殺してやるさ―――――!!




「『輝彩滑刀の流法』ッ!!」

「う、おおおおおおォォォォォォォォォォォ――――――――――ッ!!!!!!」





雄叫びを上げ、タルカスもその両足で奔った。
右腕にアンカーを握り締めながら。全身の筋肉を躍動させながら。
この一撃で仕留めんばかりの全力を、魂に込めて。
恐怖に屈することなど無い。
強大な恐怖に挑む、騎士としての誇り高き魂が―――その瞳には宿っていた!





そして、駆け抜けた二人の男が―――

すれ違い様に、ほぼ同時に放った一撃が。

一瞬の交差を起こす。






吹き荒れるのは、大量の鮮血。


次の瞬間に崩れ落ちたのは――――




「――――が、はッ―――――」



巨漢の騎士が、膝をつき―――倒れた。
その胴体には大きな裂傷を負い、血を流していた。
刃による一撃が、タルカスの身に大きな傷を負わせたのだ。
此処まで戦い抜いた男と言えど、もはや助かる術など無いだろう。

――対するカーズの右腕の刃から、多量の血が滴っていた。

それは当然の如く、タルカスの血だ。

邪悪な笑みを浮かべながら、カーズは…タルカスの方へと振り返り、歩み寄って行った。




「…理解出来ただろう?貴様如きの虫けらでは、何も出来ないと」

嘲笑うように、弱者を見下すように…カーズは言い放つ。
彼にとって、屍生人など『餌が生み出す家畜』程度の存在でしかない。
その屍生人が、究極の生物を目指すこの私を殺す?私を倒す?
あれ程の大口を叩いたからには、どれほどのものかと思ったが…所詮は身の程も解らない阿呆だったか。
フン、自信過剰もいい所だ…クズが。
―――カーズは、タルカスのすぐ傍まで歩み寄る。
彼は心底冷たい瞳で、這い蹲るように倒れるタルカスを見下ろしていた。


「さあ、命乞いをしてみせろ」

カーズは、タルカスの頭を容赦なく踏み躙った。
この程度の虫けらを殺すことなど、雑作もない。ならばせめて最大限の屈辱を与えてやろう。
私に屈服してみせろ。恐怖に戦いてみせろ。貴様の誇りを捨ててみせろ。
―――絶望の表情を見届けてやる、ゴミが。
だが、―――タルカスからの返答は。カーズの予想とまるで違うものだった。

タルカスは、嗤っていた。

「………ッ…く、はは…はははっ………」
「…何が可笑しい」

恐怖で頭が狂ったか?カーズはそんな思考すらよぎった。
それほどまでにタルカスは、嗤い続けていた。
どこまでも、不敵に――――不遜に。

そしてタルカスが、口の端を吊り上げ。

言い放つ。


「…地獄で遭える日を、楽しみにしているぞ」


「…………」


「待っているぜ、」


「…………」


「この『虫ケラ』が」




――――タルカスの首が、跳ね飛ばされた。

輝彩滑刀の流法による一撃が、彼の首を刈り取った。



◆◆◆◆◆◆





「…剣に、錨…か。まぁ、どうでもいいな」

カーズは、タルカスとナズーリンの支給品を回収していた。
とはいえ、見つかったものは西洋剣と巨大な錨のみ。後は基本支給品だけだ。
どちらも自分にとってはどうでもいいもの。武器は流法だけで十分だ。
故にランダムアイテムは放置することにした。
一先ず彼らの基本支給品だけは一応調達することにした。
闇の一族である自分たちがこのようなモノに頼るかは解らないが、念の為だ。


「さて…」

カーズは、首を喪った騎士の死体を見下ろす。
この男は最後まで屈しなかった。どこまでも傲岸に、言葉を吐き捨てた。
…気に入らんヤツだ。忌々しい。
心底苛立つ。だが、まぁいい。結局死んだのはあの男だ。
そう、勝ったのはこのカーズなのだから―――関係ない。
小娘一匹にも逃げられたが…既に満身創痍の身であったし、今は放っておいてもいい。

今は死体になど構っている暇は無い。
このカーズの目的は生き残ること。殺し合いで生還すること。
最終的にあの荒木と太田とやらも抹殺する。それだけだ。


柱の男は、ゆっくりと歩き出す。
全てはこの場で生き残る為に。この場での情報を得る為に。
邪魔な連中を、これから始末する為に。




◆◆◆◆◆◆



「はぁ―――はぁ――――っ………」


星は、逃げ続けていた。
必死で、逃げ続けていた。
その右腕に抱えているのはナズーリンが使っていた支給品「スーパースコープ3D」。
逃げる直前に回収したモノだ。ナズーリンの、形見のような物。
彼女は何も考えられなかった。
ただ今は、逃げることだけを考えていた。

聖を護れるのか。死んだナズーリンを裏切ってでも戦い続けるのか。
覚悟を決めて、闘い続けるのか。それとも。
―――今の彼女に、そんなことを考えられる余裕すらなかった。

必死で必死で、彼女は走り続けた。
どこへ向かうのかさえ、解らずに。



【ナズーリン@東方星蓮船】死亡
【タルカス@第1部 ファントムブラッド】死亡
【残り 87/90】




【E-3 大蝦蟇の池付近/深夜】

【寅丸星@東方星蓮船】
[状態]:左腕欠損、右脇腹に銃創(出血中)、肋骨骨折(複数)、ダメージ(大)、霊力消費(大)、疲労(大)、精神疲労(中)、迷い
[装備]:スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を護る。
1:???
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※能力の制限の度合いは不明です。
※ナズーリンのランダムアイテム「スーパースコープ3D@東方心綺楼」を回収しました。
※彼女がどこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。

【カーズ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(小)、全身打撲(軽傷)、再生中
[装備]:狙撃銃の予備弾薬(7発)
[道具]:基本支給品×3
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。最終的に荒木と太田を始末。
1:どんな手を使ってでも勝ち残る。
2:この空間及び主催者に関しての情報を集める。
3:ワムウとエシディシ、それにあのシーザーという小僧の名が何故記載されている…?
4:あの小娘(寅丸星)は放っておいてもいい。
[備考]
※参戦時期はワムウが風になった直後です。
※ワムウとエシディシ、シーザーの生存に関しては半信半疑です。
※ランダムアイテム「ジョンガリ・Aの狙撃銃@ジョジョ第6部」はE-2の川辺でバラバラに分解して破棄しました。
※ナズーリンとタルカスのデイパックはカーズに回収されました。
※彼がどこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。

※「村紗水蜜のアンカー@東方星蓮船」「LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部」はタルカスの遺体の傍に放置されています。


<LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部>
寅丸星に支給。
ディオの僕となった黒騎士ブラフォードが使用していた西洋剣。
ブラフォードが敗北し消滅する直後、人の心を取り戻した彼によってジョナサンに託された。

<村紗水蜜のアンカー@東方星蓮船>
タルカスに支給。
命蓮寺の信者である妖怪、村紗水蜜が立ち絵で所有していた大きなアンカー。
振り回せば武器にはなるが、癖が強く重量もあるので扱いは難しい。

<スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼>
ナズーリンに支給。
河城にとりがラストワードで使用していた重火器。
バズーカに似た銃身を持ち、高威力の砲弾を発射する。
どこか幻想郷らしからぬ近代的な武器だが、河童の科学技術の賜物なのだろう。
予備弾薬は支給されていない。

<ジョンガリ・Aの狙撃銃@ジョジョ第6部>
カーズに支給。
元・DIOの忠実な部下であり囚人である盲目の狙撃手「ジョンガリ・A」が使用するライフル。
パーツを分解することで杖に偽装することが可能。
弾丸のみを必要としたカーズによって不要と判断され、文字通りバラバラに分解されてしまった。
バラバラに分解された狙撃銃はE-2の川沿いに捨てられている。

016:プラスチックハート? 投下順 018:愛し君へ
016:プラスチックハート? 時系列順 018:愛し君へ
遊戯開始 寅丸星 066:wanna be strong
遊戯開始 カーズ 068:ゆめみみっくす
遊戯開始 ナズーリン 死亡
遊戯開始 タルカス 死亡
最終更新:2014年01月22日 01:06