布教ロワイアル@ ウィキ

ぜつぼう色のパラダイム

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hukyourowa

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「はっ」

彼、十神白夜は今広がる現実に対して鼻で笑った。
先ほどまで、あってはならない現実を前にしていたというのに。
どうとも形容しがたい惨状を前に立ち尽くしていたというのに。
彼は依然としてその堂々たる様を崩すことはない。
ただ、ただ。
いつもの如く周りを見下したような、そんな冷たい目で辺り周辺を見渡している。
それだけの光景である。

傍から見たら、いつも通りの光景である。
鼻につく様な態度も。
鼻にかける様な自信も。
鼻であしらう様な言葉も。
そう、傍から見たら――――いつもの光景なのである。

では。
傍からでは無かったら、どのようなものなのか。
彼から見て、今の状態は何だというのか。
その瞳で。
その心で。
見つめた先に何があったのか。
見つけた先に何があったのか。

答えは簡潔。極めて単純。
それ故に、恐ろしい。


殺し合いに乗る。ということは行動指針極めて、恐ろしい。


拳に握る、怪しく黒光りする鉄でできた物体。
――――拳銃を手に、彼はようやくのところで歩き始めた。


 ○


十神白夜がこのバトルロワイアルに乗った理由は、金だ。
金、幾億もの大金。
“超高校級の御曹司”たる彼が金のために動くというのはなんとも皮肉なのだが、
考えても見れば、その御曹司たる所以の十神財閥自体が既に滅びているのだ。

あの時は。
最後の裁判の時は、希望がもてた。
俺一人でも、立て直せる、と。

しかしいざ表舞台に立って見ると、うまくことが運んだかと聞かれたら、首を振る他選択肢はない。
圧倒的に、力が不足していたのだ。
人材にしろ、資源にしろ、時間にしろ。
なにからなにまで足りなかった。

絶望の果ての世界には、絶望しかなく。


そんな中舞い下りた、一つの選択肢。
バトルロワイアル。


「――――はん」


笑う。もしくは自身に嗤う。
既に彼にとってコロシアイはただのおもちゃでもなく、しかし憎むべき所業でもなく。


たった一つの救いの手と化していた。



「十神の血――――いや、白夜の名の元に」



彼は、一つの目的のために、修羅となる。



 ○


「――――ち」

知弦は静かに舌打ちを打つ。
現在状況をまとめると、鬼ごっこである。
逃亡者は紅葉知弦、鬼を十神白夜。
むろん互いにお遊びの鬼ごっこをやっているつもりはない。

生と死を賭けた、鬼ごっこ。

「まったくどこのリアル鬼ごっこよ」

知弦は悪態付くが、そもそも山田姓で無い上に冗談を言っている場合ではない。
片や素手。
片や拳銃。
どう足掻いても、素手の知弦が鬼に成りあがることも難しく、ただ逃げ回っているのが現状である。


一方で。

「――――チッ」

同じく舌打ちを打つのはやはり十神白夜。
銃を右手に、知弦を追っている。

出会い方はいたって普通で、ばったり。
こう描写するほかない。そういえるぐらいにまでばったり出会った。
咄嗟に十神は反応できなかった。
否、理解はできた。
ただ、それだけである。

重かった。
銃が。
命が。
咄嗟に、銃を撃つことが、できなかった。

ただの塊である。
銃とは、ただ人を殺すことが出来るだけの、鉄の塊である。

分かっている。
分かっている。
分かっている。

十神白夜。
そんなことも知らずにのうのうと生きてきたほど甘い男ではない。
今まで、人が人を殺した場面を見てきた。
今まで、人死体を弄り回してみたりもした。
今まで、黒幕を裁いてきたことだってあった。

けれども、直接的に手を下したことは、ない。
人を、この手で殺めたことなぞ――――たった一度としてなかった。
もちろんのこと、何時だって彼は人を踏み台にしてサクセスストーリーを歩んできている。
その踏み台だって、時にはその人の人生を無下にするものだってあったのかもしれない。
理解してるし、そんなこと知ったことではなかった。

けれど、彼は過去の彼ではない。
帝王学の身で生き抜いてきただけの彼ではない。

既に、変わってしまった。
覚悟だってあろう。
決意だってあろう。
けれども、躊躇うほどには、躊躇するほどには、彼の性格はまるくなった。
人間的に成長した。

だがそれは、この場。
バトルロワイアルに置いて、枷でしかなかった、ということだ。

実際、十神白夜の動きが、とまった。
紅葉知弦も、そんな隙を見逃すほど、覚悟は甘くはない。
武器も持たない彼女は、逃げた。

背中を見せて。
曲がれるところは曲るように。
複雑に森の中を駆け巡る。

十神白夜も、それから数秒遅れて、意識が再度舞い下りた。
始めのうちは、銃を構えつつ追い掛けていたが、些か効率が悪いことに気がつくと、腕を振るようにして走りだす。

そこから鬼ごっこは始まった。


「はあ、はあ」
「……………」


それは無限に続くと思われるほど、差が詰まらなかった。


鬼ごっこは続く、続く。
徐々に逃亡者も追跡者も疲労の色を見せながら。
それでも、続く。鬼ごっこは続いた。



「そこの貴女、どいてくださいどいてください。メイドの救援ですよー!」


しかし。
ここで、一人の人間が現れた。
名を、アンジェリーナ・菜夏・シーウェル。通称アンジェの声が聞こえるまでは。


 ○


十神白夜の動きが止まった。
今起こっている事実を受け入れ難く、止まる。
紅葉知弦も同じく、突如舞い下りた一人の参加者に、戸惑った。



まさか空から、人が降ってくるなど、露ほども思うまい。
まさかまさか、自分の頭上から人が落ちてくるなんて――――思うまい。



結論から言って。

「――――――がっ!?」
「ふっふっふ、このアンジェリーナ・菜夏・シーウェルのメイド作法を舐めてもらっちゃ困りますねー」

一瞬の出来事だった。
呆けている十神白夜に着地と同時に飛び込んだと思ったら、既に地に伏せられていた。
実際は足払いしてから、ただ腕を固定するように寝わざをしているだけで、変哲もない行為である。
その際に、十神の手にかたく握られていた拳銃は、衝撃からか、手から離れ、一メートルにも満たないところに飛んでいく。
その際に幸にも暴発などはしなく、持ち主の消えたものいわぬ拳銃は、静かにそこに在り続けた。
手を伸ばせば届きそう。されど握るに至れない。そんなもどかしい距離に十神を歯軋りをする。

「…………」

傍から見ている紅葉知弦。
三秒ぐらいしたころか、アンジェの方から、知弦に向けて声をかけてきた。

「これで安心していいですよ、えーと……」
「紅葉知弦よ」
「アンジェリーナ・菜夏・シーウェル。アンジェで構いません、知弦さん」
「そう」

実に素っ気なく返すが、それでもやはり助かったというものは事実でもあり、
いつもの妖艶な笑みの中にも安堵や、感謝の念が募っている(ように見える)。
次第に心拍数も収まり始め、冷静に対応できるようになったかと思うと、ツカツカと知弦は二人の元へ。
正確には、拳銃の元へと歩き始めて、拾った。

「知弦さん、それ危ないですよ……?」

至極もっともなことを言うアンジェを傍目に、知弦は動かない。
何かに取り憑かれたように、拾った銃を見つめたかと思うと。


次の瞬間。


「ええ、勿論知ってるわ」




――――――銃声が、轟いた。






 ○



「ふっ」

彼女、紅葉知弦は今広がる現実に対して自嘲気味に蔑んだ。
こんな場にいても、いつもの様な妖艶な笑みをぶらさげて。

これまでの平和な生活を返してほしいと願いつつ。
これからの醜悪な時間が消えてほしいと想いつつ。
しかしそれでも変わらない現実に、どうしようもなく憤りを感じていた。
瞳を閉じて、考えてみる。
今までの思い出を、足跡を振り返ることもなく。
これからどうするべきか。そして、この事態をどのように打破するか。
黙々と、坦々と。

一秒、考える。
結論は出ず。

二秒、考える。
結論は出ず。

三秒、考える。
結論は出ず。

四秒、考える。
結論は出ず。


五秒、――――考え、至る。


この間、僅か五秒。
何を思い、何を感じ、何をしたかったのか。
知るのは彼女だけである。

されど確かなる意思がここにある。



人を殺す。そんな誓いを、胸に刻んで。



 ○


紅葉知弦が殺し合いに乗った理由は、申し訳ないぐらいに簡単で。
言うなれば、仲間の為だ。いや、こういうと責任転嫁な心地もするので、言い改めてもらうと。

自己満足のためである。

椎名深夏、椎名真冬ももちろんだが、大きな割合を占めるとなれば、桜野くりむと、杉崎鍵という存在が大きいだろう。
それらを守りたい、ならばどうするべきか。
こんなことを考えて、どうすればいいか思案して、辿りついた

彼女らの手は染めやしない。
そんな歪んだ愛情の様な、意思表示。

元より彼女には自らの「キャラクター」、「立場」というものを理解している。
杉崎鍵。彼が殺し合いに歩むなんて、考えられない。そもそも女の子を傷つけるという行為自体拒否反応を起こすだろう。
桜野くりむ。論外。
椎名深夏。正義の彼女が、殺人を起こすなんてよっぽどだ。
椎名真冬。夢見がちなことを言ってなければ無理な話。
以下省略。
ともあれだ。
知り合いに、碧陽学園の生徒の中に、殺し合いに乗るような人物などいないということ。
それならそれでいい。
必要もないのに、黒く染まることはなくていい。

しかし、だ。
ただそれだけだと、いけないのだ。

誰かが殺さないと、終わるのだ。
誰かが殺さないと、殺されるのだ。

自身も。仲間も。
友達も。親友も。

さっきのおしおきを見て、狂わない人間がいない。そんなご都合主義はありやしない――――事実、彼女自身がそうなのだから。
既に、彼女たちの中で命の重さというものは一段階繰り下がっている。

死というものが、身近なものだと、理解できて。理解させられて。
現実逃避が意味のない逃避行だということに、気付いてしまう。それこそ、桜野くりむ並みに精神が幼くない限り。

だから彼女は決心する。
汚れ役は、私が受け入れよう。
そして、さっさと現実に帰るんだ、と。
ありもしない、受け入れ難い現実を変えるんだ、と。

「…………」


故に彼女は、狂い始める。



 ○



「――――――ッガ……ォ……」

十神白夜が、呻いたかと思ったら、直ぐに沈んだ。
アンジェにはその光景が、幸にも不幸にも、見せつけられている。

嫌に冷静に分析できている脳をフル稼働して、
アンジェは今現在の自ら周辺の状況を整理した。


今、何故だか殺し合いというものに参加させられている。
そこには知り合いの名前も幾つかあった。

すると早速殺し合っている、加害者であろう男性と、被害者であろう女性がいた。
だから救援を試みて、不意打ちをしたはずだ。
最終的には、それも成功し。

馬乗りをするかのように、跨るように十神白夜の背中に乗るアンジェ。
紅葉知弦の姿だって、真っ正面に捉えている。

この形に至っている。
問題ない。いや、最初の大前提からしておかしいのだけれど、今この場に置ける状況に問題なかった。

けれど。

「まあ、アンジェさん。貴女に関しては見逃しておいてあげる。
 私だって鬼じゃないもの。なんだかんだいって命の恩人であるところの貴女の命を奪おうと何て、今は思わないわ」

なんで。
なんで、目の前で両手で未だ煙く銃を構える紅葉知弦の姿があって。
なんで、自らの下にいる十神白夜の、十神白夜だったモノの頭から、血がだらしなく流れているのだろう。


「――――え? ――――え? ――――ふえ?」

分からない。
何もかもが分からない。

今起こった事件が、理解できない。
どうして死人が出ている? 自分のやっていた仕事は、言うのは憚れるが割と上出来だと思っていたのに。
わからない。
わからない。
わからない。
絶叫するには、あまりに現実を理解できない。受け入れられない。

「…………ど、どう……して?」

挙句の果てに、出てきた言葉は、単純な疑問だった。
人を殺したことに対する苛みでもなく、怒りでもなく。
疑問だった。

けれど、その疑問をぶつける相手は既にいない。
何時の間にか消え去っていた。

気付くと、スカートの裾が、血濡れていた。
温かかった。でもそれは決して心地のいい温かさではなかった。
気味の悪い。心地の悪い、そんな温かさ。温い、と称した方が、まだ的確である。

「…………」

言葉すら、感情すら吐き出せない。
泣き出すことすら、叫び出すことすらかなわない。
理解の範疇なんて、とっくに超えていた。

なんで、一日にこんな二人の死体を見なければならないのだろう。
なんで、一日に狂気の笑みを二度も見なければならないのだろう。

ふらふらとした足取りで、彼女は立つ。
足元がおぼつかない。脳内が落ち着かない。
けれども立った。

そう、理由なんて無いけれど。
立った。

ここを早く立ち去りたかったから。
メイドとしてあるまじき姿だとも思うけれど。

早々と、この場を立ち去った。
既に、バトルロワイアルは、始まっていたのであった。


絶対に死なない、と豪語していた少年は。
人を殺してやろう、と決意していた少年は。


今ここに沈み、メイドに大きな傷を負わせた一因を買うこととなった。
静かに。ただ静かに。
――――終わっていく。
――――続かない。

一人、否。一体の血液は、まだ止まっていなかった。
それを、見届ける人物は、既に何処にもいなかった。




【十神白夜@ダンガンロンパ-希望の学園と絶望の高校生- 死亡】



【E-4 森/朝】
【アンジェリーナ・菜夏・シーウェル@ましろ色シンフォニー】
【装備:描写なし】
【所持品:基本支給品(1)、ランダム支給品(1~3)】
【状態:精神疲労(中)】
【思考】
基本:殺し合いには乗らない
1:………………?
【備考】
※参戦時期は未定です


【全体備考】
※十神白夜の支給品は死体と共に放置されています。


【紅葉知弦@生徒会の一存シリーズ】
【装備:グロック17(17/18)@AngelBeat!】
【所持品:基本支給品(1)、ランダム支給品(1~3・武器はない)】
【状態:健康】
【思考】
基本:殺し合いに乗る
1:とりあえずうろつく
2:知り合いとは出来れば接触したくない


【グロック17@AngelBeat!】
装弾数は複列弾倉(ダブルカラム・マガジン)による17+1発。
作中では、音無結弦が使っていた。



ハイテンションシンドローム 時系列順 [[]]
ハイテンションシンドローム 投下順 [[]]
START 紅葉知弦 [[]]
START 十神白夜 GAME OVER
START アンジェリーナ・菜夏・シーウェル [[]]

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