「景気が悪いのは政治のせい」
「政治家には無能しか居ない」
「最近の若いもんは、ゆとり世代は、団塊世代は、老害は」
「あの企業のトップは無能だ」
「先代と違って二代目はダメだ」
「あの有名人は会った事ないけどクズ」
「こいつのせいでこの試合は負けた」
「あの国のせいで」
「この子が死んだのはあの医者のせいだ」
「俺の生活が苦しいのは上司が無能なせいだ」
「親のせいで」
「子のせいで」
「だって、俺は悪くない」

人類全てが内包する悪性の果てに生まれた都市伝説。
正確には都市伝説と同質の噂の集合体にて成り立つ人類そのものの寿命。

ありとあらゆる出来事を多くの人々が『他人のせい』にすることで生まれるもの。
人はそれが事実であるかどうかに関わらず、見ず知らずの人間を悪人と断定する。
それが自分に都合のいいものであるのなら、その断定は事実として無意識の内に定着するものだ。

この世界で、見ず知らずの人間を悪人と断定した事のない大人なんて居ないだろう。
ニュース、ネット、友達の又聞き、雑誌の特集、風のうわさ、ネガティブキャンペーン。
実際に悪人であるかどうかに関わらず、人はそうやって無責任に人を悪に仕立て上げる。

「自分のせいじゃない」という無責任と責任転嫁が、誰かを悪へと押し上げる。

あくまで例えば、の話ではあるが。
民主主義で責任を誰かに押し付けようとした時点で、その国は既にどうしようもなくなってしまうのではないだろうか。


これはそうやって、ありとあらゆる悲劇と理不尽に満ちた現実のはけ口とされたもののための都市伝説。
事実はそうではない。これはただ誰かのせいにしたい愚か者の責任転嫁と八つ当たりでしかない。
しかし口にする者は皆、それが唯一無二の真実だと信じているのだ、

「なにもかも、あいつが悪い」

政治家を、有名人を、見知らぬ人を、偉い人を。
そうやって、今日もこの世界のどこかで人は誰かのせいにする。


正義の人柱と対を成す、人に望まれそう在り続ける悪としての人柱。



初出は二十三話終了後の閑話。大沼秋一郎が保有する都市伝説。

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最終更新:2013年09月08日 21:47