■虎子エピローグSS■ そして、


「やっと……やっと……。」

遮光カーテンで閉ざされた一戸建て住宅のリビングに、枯れた低い男の声。

昼間だというのに薄暗い室内。
その中央に置かれた52インチの薄型テレビに映し出される「劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影(ファントム・ルージュ)」。

テレビの前のくたびれた虎柄のハイセンスな1人掛けソファーに、脱力した様子で体を預けていた男性はリモコンを手にし―――――

―――――テレビの電源を切った。
―――――2年間休むことなく、1万回視聴したその映画との決別。

そして男は立ち上がる。

「昨日辺りから頭が冷静になってきて、今日の“敗退”で遂に完全に目が覚めた気がする。この数年私は何をやっていたんだろう。悪い夢を見ていたようだ。」

“敗退”とは何のことであろうか。
前後不覚に陥っているのか、それとも彼は精神世界で何かと戦っていたのか……?

そんな男の背後に、虎のような奇天烈な出で立ちをした少女が―――――

―――――いない。

「涙子さん……? 都子さん……?」

最愛の妻と娘の名を呼ぶ。
返事は無い。

ちらかり放題のリビングを、ゴミを避けるように窓際まで移動し遮光カーテンを引いた男。
数年ぶりにその部屋に日光が差し込む。
明るくなった部屋を改めて見渡し、その雑然とした様子に男は首をひねる。

「これは一体……。」

陽に照らされた凛々しい表情は、前日までの曇ったものではない。
そこにあるのは魔人犯罪者達が名を耳にすることすら忌避する鬼の魔人公安、“炎の赤”の姿であった。




■虎子エピローグSS■

そして、

■“炎の赤(スカーレット)”プロローグSS■



最終更新:2013年06月25日 23:24