潮血潮--熱い血のルーツ--2


 俺、潮血潮が停学になって早一週間が経過した頃から、妙な噂を耳にする様になった。

「番長四天王が内部抗争………」

 この情報を持って来たのは小学校からの悪友であるキヤウ・シフだった。彼女はこう言った噂話やゴシップ、スキャンダルな話題が大好きなのだ。

「まぁ、お前が持って来る情報や噂話は正確だからな」
「えへへ〜♪」

 得意げそうにしている彼女に、現在学校はどうなっているのかを聴いてみた。

「あっ、潮ちゃんが停学になってから大変だったんだよ!!」

 彼女曰く、不良上級生病院送り騒動は瞬く間に学校全域に広まり、それに伴い番長四天王の報復に怯え出す生徒達、その場景は宛らパニック映画の様相だったらしい。

「そいつは大変だったな」「原因は潮ちゃんだけどね」

 はい、ごめんなさい。

「それにしても可笑しいと思わない?」

 キヤウが言うには、番長四天王が報復行為に移る事は有れ、内部分裂を起こし抗争に発展するとは思えないとの事だ。

「その違和感は俺も感じた、いつ襲撃されても良い様にしてたんだけどな」

 そう言って俺は、ポケットに忍ばせたメリケンサックを取り出した。それを見たキヤウは大きな溜め息を吐くと私にこう言ったのだ。

「潮ちゃん、もう少し女の子らしくしなよ」

 ほっとけ。

 一方その頃、潮によって病院送りになった不良上級生は……………。

「ひっ、た…助けっ!!」

 その短い人生に幕が降りようとしていた。

「お前さんには悪いけど、依頼を請けちまった以上きっちり殺らないと……」

 何者かは前置きを述べ、恐怖で動けなくなった相手の頭部にアイアン・クローを掛けていく。

「ぎぃ!!」

 アイアン・クローはまるで万力のように、ゆっくり、ゆっくりと頭蓋を締め上げていく。それは宛ら、絶命する直前まで苦しみを与え続ける遅凌刑の様。

「お前はこれからゆっくりと苦しみながら死んでいく」

 ミシミシと頭蓋は軋み、過度の激痛に上級生は意味不明な叫びを上げるが、それも数秒後には声すら上がらなくなった。

 やがて身体が弛緩し、ビクビクと痙攣を始めだす。

「やれやれ、苦しみを与えながら殺すのも手加減が難しくて困るな」

 そう言って何者が力を軽く入れると、ぐちゃ!!っと粘着質を含む嫌な音を鳴らし、不良上級生だった"物"の頭は砕けていた。

「さてと、見つかると厄介だしバックレるとしますか〜♪」

 この事件はその日の内に大きく報道され、警視庁は捜査本部を設置し、真っ先に俺へ任意同行を求めたのが停学8日目の事。

 とりあえず昨日は家に居た事がキヤウや家族の証言でアリバイは実証され、何より俺自身が"魔人"で無い事で捜査線上から外された。

「まったく……」

 警察の尋問から解放された俺は、やるせない怒りのやり場をどう発散するか迷いながら歩いていた……。
ドンっ!!

「おっ!!」
「痛っ……」

 下を向きながら歩いてた俺は、人とぶつかって尻餅を着いてしまった。痛さで思わず相手を睨み付けたのだが………。

「いやぁ〜ごめんごめん」
 そいつは美術彫刻の様に整えられた美貌に、漆塗りの様な黒く艶の有る長髪、トップモデル並のスタイルをした女性だった。

 その美しさに同性ながらも呆気に取られていると、彼女が手を差し伸べて来たので、その手に掴まり立ち上がった。

「あ、ありがと……」

 改めて見ると、身長も高く、何よりも胸!!

「(お、おぅ……orz)」

 例え様の無い敗北感が去来する。

「ケガが無くて良かった、本当は御詫びに缶ジュースでもと思ったんだけど、急いでるからごめんね〜♪」

 彼女は矢継ぎ早にそれだけ告げ、俺の右肩を"ポン"と叩いて走り出していた。

「!!」

 彼女が走り去った方を向くと、その姿は何処にも見え無なくなっていた。ただ去り際に意味深な言葉を残して…………。

「ボソボソ(命には気をつける事だよ、潮血潮♪)」

 番長四天王の分裂、不良上級生の殺害、そして謎の女性…………。

「(俺の知らない所で何が起きてんだ………)」

 今頃になって俺は、言葉にならない焦燥感を覚えるのだった。

〜〜〜〜〜<完>〜〜〜〜〜



最終更新:2013年06月19日 06:59