『真壁次男、発つ!』


~あらすじ~
なんかどうしても仕事したくない真壁次男が部長の人情敦のリーゼントに耐え切ったので今があります。大体そんな感じです。
(著名な粗筋専門家の手記より)


「うし。じゃあ、おめーもわかってるだろ。これからやらねーとなんねー事があるから、ついてこい」

廊下を突き進む人情と次男。突き当たりのエレベータへ入ると、人情はすぐ横に備えられたボタンを押し始めた。
一階、八階、二階、四階、一階、七階、七階。そして、非常呼び出しボタン。
壁の一部が展開しスリットが現れる。次男の休職届をそこへ挿し入れると、一瞬のノイズの後、女性のアナウンスが入った。

『認証が完了しました。これより本艦は、7214階・休職届対策室サの八拾壱番窓口へ向かいます。GOODLUCK!』

赤い非常灯が明滅し、エレベータ内に轟音が響く。
素早くその場に伏せる人情と次男! 直後、通常およそ考えられない程のGがかかる!
やがてエレベータは、
音を





































… … …




ドアが開く。
その先に続くのは、どこまでも一様に続く、長い長い廊下。

歩いて行く。
歩いて行く。

長い廊下。

歩いて行く。
歩いて行く。

歩いている?
止まっているのだろうか。
いや、歩いている。

歩いて行く。
歩いて行く。

いつの間にか、前を歩いていた人情敦はいなくなっている。
いつの間にか、下にあったはずの床はなくなっている。

歩いて行く。
歩いて行く。

ただそこに在るだけのアーチが見えてくる。
ただ、そこに在るだけ。ただそこに在るだけだが、それだけでそれは完結される。

アーチをくぐる。
行き止まり。

そして振り返れば――


◆◆◆


「ようこそ、世に遍く存在する建造物の7214階、休職届対策室サの八拾壱番窓口へ! ここは、ありとあらゆる理由で休職を願う人々の為に設けられた休職届対策室のうちイロハニなんちゃら的なサのうちの、更に八拾壱番目の窓口です。お疲れになったでしょう? どうぞこちらへ、ごゆるりとお掛けください。ああ申し遅れました、私、立会人のサクラバという者です。よろしくドージョー」

360度、一筋の水平線が支配する世界。
サクラバと名乗った男が腕を振ると、次男の隣に小振りのソファーが現れた。

「…………」
「どうしました? さ、早く」
「あ、ああ」

戸惑いを露わに、次男が腰を下ろす。
と同時に、ソファーが消える。水平線も消える。
落ちる。
落ちる落ちる落ちる!

「なーんちゃってね☆ このまま落ちながらとなりますが、これより早速倍速亜光速で説明を始めさせていただきます。[◎∀¬¶ゐΥΡΘυп┫╋ΘヴヵヶΓヮ♭‰∬∵⌒┳┫ХМΘヶΒΔΞΨΨ。はい、わかりましたか? わかりましたね? 以上を以て説明を終了させていただきます。続いて、二十秒後に審問を始めますので、それまでに準備を進めておいてください」
「!? ま、待ってくれ、何だコレは! 今なんて言った!?」
「待ちませんよ。貴方、休職するんでしょう? 家族のために。生き別れた妹のために。泣ける話じゃないですか。貴方の幸せのために、貴方の会社は損を被ります。素敵な話じゃないですか。貴方が望んだんでしょう? これから臨むのでしょう?」

声は次男の頭の中に直接響いてくる!
サクラバの姿が消え、いや、現れ、現れ、現れ!
幾筋もの光が光が次男の身体を喰い貫いてゆく!

「ぐ、ガフッ!! な、なんだ畜生……!」
「さて、審問を開始しましょうか」

「かん、かん、かん。せーしゅくに、せーしゅくにー。これより、しんもんをはじめたいとおもいます。さんせーのひとー」
「はーい」
「はーい」

声の主は三つの発光体である!
光の槍で中空に固定された次男の周りを、発光体が飛び回る。
それは次第にスピードを上げ、熱気が肌を、光が視界を焼き付ける!

「よーし。じゃあはじめちゃおっかなー。これよりしんもんを……あれ? しんもんってなんだっけ。んーと、これよりしんもんとはなにかをといます。ひこくにん、まえへ。しんもんってなんですか」
「……!? ひ、被告だと!?」
「あー……すみませんが裁判官」

サクラバが裁判官発光体を呼び止める。

「はいなんでしょう、さくらば」
「彼は被告ではないよ」
「わたしはさいばんかんなのに?」
「そうあのこはさいばんかん」
「だのにー」
「あ、そうですね。んーでもなんかどうもなあ。あ、じゃあ彼を休職患者と呼ぶのはどうですかね。なんかイカしません?」
「わかりました。ではここではきゅうしょくかんじゃとします。……聞こえたか? 休職患者」
「お、おお?」
「聞こえているようだな、それならよい。審問とは何だ? 何故お前は審問されている。答えよ」
「ま、待てよ! なんで俺は……あァーくそっ、どこから聞きゃあいいんだかさっぱりわかンねえ!」
「今聞かれてるのは、貴方ですよ。解答をお願いします。我々の気が変わらないうちに」
「ああ!? ……ええと、審問っつったら……そりゃあ」
「はいブブー、気が変わりました。やっぱ審問とかいいです、よくわかんないし。やめ、やめー」

サクラバが指を鳴らす。一回、二回、三回。発光体は光を失い消え失せる。

「おっとそうだ」

更に指を鳴らす。
すると、次男の身体に突き刺さった光が立ち消える。
急に支えを失い、次男は身を強かに打ち付けた。
いつの間にか、地面がある。水平線のある世界に帰ってきていた。

「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。失礼失礼。貴方のお名前は?」
「……!? ま、真壁次男だ」
「……おや? そうでしたか。いやこれまた失礼、どうやら私間違えていたようですね、申し訳ない。今正しい担当の者に替わります」

そう言うと、サクラバは姿を消した。と思えば、また現れる。

「ただいま替わりました!真壁次男様ですね? こちらの不手際でご迷惑をお掛けして申し訳ありません。お疲れになったでしょう? どうぞこちらへ、ごゆるりとお掛けください。ああ申し遅れました、私、立会人のサクラバという者です。よろしくドージョー」
「!?」

サクラバが腕を振ると、次男の隣に小降りのソファーが現れた。
次男は、座らない。
沈黙が流れる。

「どうしました?」
「ふざけやがって……座ろうとしたら、消えンじゃねーのか。また、地面と一緒に」
「んなもん、座らずとも消せますよ?」
「消すのか?」
「消しません。少なくとも、私の気の変わらないうちは」
「…………」

「アンタは」
「はい?」
「アンタがたは、俺の動機が休職に足るものかどうか、そういうのを見てンじゃねえのか」
「あ、そういうのを見てンじゃねえですね。そのあたりの判断は既に、貴方の上司がなさったのでしょう? 人情敦様、でしたっけ」
「……じゃあ、一体何を見てンだ?」
「我々が見ようというのは……いやだなあ、そんな怖い顔しないでくださいよ。まあつまるところ、貴方には」

腕を一振り。パチンと小気味いい音を立て、二人の人間が現れる。
人情敦。
そして、真壁マリア。

「簡単な確認、ってやつをしておこうかと」


◆◆◆


「へ、あっ……? ……お、お兄ちゃん?」

いきなりそこへ現れた真壁マリアは狼狽する。
それは、

「マリちゃん!?」

真壁次男も同様であった。

「お、オイオイなんだよこれ……いつの間にか職場に戻ってたかと思えばよ、全くとんでもねえなあ(ビヨンビヨン)」

一方、次男に同行していたところを転送された人情敦は比較的平静を保っていた。

「ハイ、今はここまで」

サクラバが例の如く指を鳴らすと、マリアと人情の動きが静止する。

「さて、真壁次男様! このお二方には、少々時間停止していただきました。後ですぐ元に戻しますので、ご安心ください。そこで本題なんですが、貴方は『このお二方のどちらかに“死んでいただかなければならない”としたら人情様を切り捨てる』、と考えてよろしいですね?」
「は!?」
「いやだなー、たとえ話ですよ。そんな恐ろしい顔しないでください。だって、マリア様を見殺しにするはずはないでしょう? 今回貴方は、人情様――大事な職場の方々を犠牲になげうってこちらへ参ったのですから。どちらかを選ぶんでしたら、そうなるという事でよろしいですよね?」

ぺらぺらと喋りながら、サクラバは人情の方へと歩いて行く。にこやかな笑顔を次男へ向けたまま。
その右腕が閃くと、小さな手斧が現れる。人一人の頭をかち割るには十分すぎる、小さな手斧。たとえ話?

「て、てめェ! 何の理由があってそんな真似……」
「何の理由もないですよ」

サクラバは即答する。その歩は依然人情の方へ進められ、あと数mというところまで来ていた。

「ああいや、無いわけではないか。ただ、そうですね。これさっきも言いましたが、確認したいんですよ。わかります?」
「!? ……この野郎ッ!」

次男がサクラバを止めんと追いかける!
それに気付いたサクラバに急ぐ気配はない。どころか彼は、

「あ、そうだ」

何かを思い出したように振り返る。

「すみません、確認するならこうでしたね」

その瞬間、サクラバの姿がぶれて見える。
そして、もう一人のサクラバが現れる。マリアの目の前に。その右手には、やはり手斧が握られていた。

「「私これからこのお二方を殺すので、どちらか好きな方、助けてください。処理は同時に行われるので、片方だけになっちゃいますが」」

それだけ告げると、サクラバは手斧を振り上げる。
人情、マリア、共に次男からは等距離にある。成る程これは、どちらか片方を選ぶしかないようだ。
真壁次男が動く。

「このクソ野郎……! くっ……! CALLING WALL!」

どちらか片方を選ぶしかない――彼が、魔人でなければ。

壁出現能力、CALLING WALL。
彼等真壁一族の魔人としての認識は、個人差はあれど根幹は同じものである。
“自分は壁使いである”という事。
それ故に彼等は壁に対する様々なアプローチ方法を持っており、『CALLING WALL』はその基礎体系の一部である。
人情とサクラバの間に壁を出現させ、マリアとサクラバの間に壁を出現させる。
手斧程度であれば、一撃では崩されないだろう――そう踏んでの行動である。

けれど、どうした事だろう。
今この場に於いて、そんなものは関係ないようだった。

「壁が……出現しない」

振り下ろされる手斧を遮るものは、何も無い。
無情にも手斧は弧を描き、やがて頭頂に達し

いや。
達することなく、停止する。

「ああ、先に言っておけばよかったのかな。ちょっと邪魔なので、ここで魔人能力は禁止させていただいてるんですよー。私五秒だけこのまま待っているので、好きな方選んで止めてください。その時はぶん殴るなりなんなり、力尽くでやっていただいて全然構わないので。いきまーす。ごーお、」

カウントが始まる。
この男は恐らく本気でやるだろう。どちらかを止めなければ両者が死ぬ。
次男の全身の毛がぶわりと逆立ち、脂汗がだらだらと流れ始める。次男の頭が、慌てて回転を開始する。

俺は、どちらを選べばいい。

「よーん、」

カウントは続く。思考は続く。

そんなもん決まってる、マリアを助ければいい。マリアは助けなければいけない。俺は兄貴だ。マリアは大事だ。助ける。助けるんだ。一緒に麻雀をやるんだ。またあいつの平和和了りに笑って文句を飛ばしたい。ロゼ子と三人で映画を観たり、美味い飯を作ったり、たまには無理矢理遊園地にでも連れ出してやりたい。色々な事をしてきた。色々な事をしたい。俺はあの子の笑顔が見たい。それだけで元気が出るんだ。マリアを守らなければならない。

「さーん、」

カウントは続く。思考は続く。

けれど、いいのか? 他に方法はないのか? 人情さんには散々世話になったんだ。今回だけではない、今までヘマした時はいつだって助けてくれた。マリアがいなくなった時もそうだ。俺はあの時にも迷惑を掛けて、それでもここへ置いてくれた。嫌な顔ひとつしなかった。帰りにラーメンだって奢ってくれた。嫌だ。あの人を見捨てるのは嫌だ。一方的に巻き込んで、俺のせいで死なれるのは嫌なんだ。

「にーい、」

カウントは続く。思考は続く。

じゃあどうすればいい? 時間がない。時間がない。二人とも助ける道は。マリアと麻雀を打って、人情さんに詫びのトッピング全乗せラーメンを奢らされる道は。無いのか。無いのか。何か。何か湧いてこないのか。ああ、早くしないと間に合わないのに。出てこい。出てこないのか。方法は。やり方は無いのか。馬鹿め馬鹿め馬鹿め。俺はそんなの嫌なのに。

「いーち、」

カウントは続く。思考は続く。

決めろ。決めろ。決まってる、そんなのマリアだ。けれど、けれど、けれど。選ばないと。今決めないと。そうしないと。でも、本当にないのか。人情さん。俺、あんたを見捨てたくねえよ。ごめん。すみません。でも、ああ! マリアだ。マリアを助けないと。そうだ。動け。間に合うか。間に合え! クソッ、俺、ああ、人情さん! 違う! 今はマリアを守るんだ! それだけ考えろ! 届け! 届

「ぜろ。」

サクラバの腕は改めて振り下ろされる。斧はようやくかとばかりに眼前の頭蓋を砕き、下顎を引っ掻けて地面へと叩きつける。
接地の瞬間、ぴしゃりと広がる真っ赤な紅。
やがて黒ずみ、濁りを作る。

二つの、即死体が出来上がった。
その一つを前にして、次男が力無く崩れ伏す。

「あー……結局、二人とも間に合いませんでしたねえ」

白々しくも悲しげな顔のサクラバが告げる。
次男は、死体を抱きかかえて言葉を無くしている。
サクラバは斧を放り捨てると、その腕をゆっくり掲げ、ぱちりと鳴らす。

「ま、勿論ジョークですよ。うそ、うそ。いやあちょっと悪趣味でしたね、すみません」

何の痕跡もなく死体は掻き消える。
向こうで打ち棄てられた人情も。こちらで抱えられた妹マリアも。
次男の腕の中には、何もない。最初から何も無い。

「ハイ、というわけでね! ちゃっちゃと切り替えますよー。えー、ありがとうございました!」

一転、陽気な声を上げて次男の手を取る。
引っ張り上げようとするが、次男自身に立ち上がる気がないのがわかると、その手を放し一歩退く。

「我々が見るべきものは全て見させていただきました、お疲れさまです。まあ何でしょうね、貴方は精神の根っこの部分が単細胞です。ただの馬鹿ですね、馬鹿! 的確に守るべきものを選び取り、切り捨てるものを切り捨てる! 状況判断ってやつですね、そういう力が皆無です。次男様は恐らく、実際職場の経営が傾いたら気が気でなくて休職も手につかないでしょう。すぐ戻るとか言ってマリア様たちの下を離れて、急に現れて仕事場を引っかき回して逆に迷惑を掛けた挙げ句、ここぞというところで家族の助けになれず、全部が全部なあなあの、最悪で最高に役立たずな存在になるでしょう。言っちゃあなんですがそんなもんですよ、貴方。ですがご安心ください。我々休職届対策室が、貴方の休職を全力でサポート致します。ああ、ああ、いいんです、感謝の涙なんて流さなくていいんですよ。仕事ですから。我々は、休職者のワンダフルな休職ライフを支えるために存在するのです。休職者に甘い人種なのです。そこだけは不変の事実なのです。あそうだ、もし次男様が管理職に就き、厚顔にも休職を届け出る部下が現れたなら! エレベータに乗り込んでぴぽぱぽ、テキトーにそれっぽく階層ボタンを押してから呼び出しボタン! ですよ。ご用命の際はいつでもどこでも駆けつけます。どうぞお忘れなく。それでは、ワンダフルな休職ライフを! よろしくドージョー!」

ひとしきりまくし立てると、サクラバは恭しく一礼した。
そしてようやく、次男が覚束ない足で立ち上がる。

「お帰りはそちらへどうぞ」

サクラバが腕を振るうと、例の如くエレベータが現れる。
しかし次男は目もくれない。焦点を合わせるのがやっとといったところだが、サクラバを睨みつける。

「……ふむ」

一瞬困ったような顔をする。サクラバは、改めて口を開いた。

「まあ、なんですかね。私が思うにね、究極の選択を迫られる時って、やっぱりあると思いますよ。今回がそれでなくって、よかったじゃないですか」

無言でただ、睨み続ける次男。

「うーん。今殴り損ねた分、一発ぶん殴らせろ、って顔してますね」
「……そうかもな」
「困ったなあ……わかりましたよ、煙に巻いたりしませんから、どうぞ最後に一発」

次男がゆっくりと近づき、サクラバの目の前で歩みを止める。
両脚を開き、腰を捻り。

「…………」

拳を、思い切りサクラバの左頬へ叩き込む。
サクラバが2m程吹っ飛ぶ。

「げっ、がへっ! い、痛ってえええ……。わ、私こんなバカ正直に殴られんのなんて初めてですよ……あッ! いてて……うあー、あー。痛い」
「…………」

立ち上がろうとし尻餅をつくサクラバをよそに、殴った右拳を見つめる次男。
暫しの沈黙を破り、言葉を紡ぐ。

「なァ、サクラバさんよ」
「は、ハイ、なんでしょうか……? あ、つつ」

何もない、何も無い空間。
あまりにも澄んだ、遮蔽物のない世界。
真壁次男の精神性を、そのままに洗い出した場所。

「……その、あれだ。あんたも殴ってくれねえか」

サクラバを、真っ直ぐに見据

「えっ! いいんですか! やったー!」

サクラバはがばりと立ち上がり、というか浮き上がり、超加速を開始した!
両手をグーで突き出して次男の腹部に体当たり!

「え、ちょ、ぐえッ!?」

水平になんかめっちゃ吹っ飛ぶ次男! だいじょうぶか! しんでないか!

「うわー! すっきりしたー!」

見るからにすっきりするサクラバ! 本日一番のスマイルである!
そして、そのまま次男はエレベータの中へと叩き込まれた! グッバーイ!


◆◆◆


「い、いちちち……」

立ち上がる真壁。そこは、休職届対策室へ向かう際に人情と入ったエレベータであった。扉上部の表示には「1F」の文字。
何事も無かったかのように、ドアが開かれる。

「く、くそったれ……頭おかしいんじゃねェかアイツ……」

次男はふらつく足をなんとか動かして、外へ出る。

ロゼ子たちと合流した後は、すぐに番長小屋へと向かった。
ロゼ子の友人は少々個性的でガバガバ言っていたが、生徒会との戦いへ向けて必死にオナ禁しているため、取り敢えずは無害らしかった。
まあ害は無いなら気にしない事とする。気にしない。全然気にしない。
そして懸念していた番長グループの応対だったが、ガバガバの協力もあってか、無事つつがなく受け入れられた。
交戦前の番長グループとあって警戒していたが、何事も無くて良かったものだ。
また、先程職場の方からも『いやあ意外とどうにかなってるな! お前いなくても全然問題ねーわ!』という何とも言えない近況連絡が入っていた。
要するに、俺達は、マリアの事だけに集中できるというわけだ。

いや、こいつァ全く。
なんか知らんが、ツイてるぜ。


◆◆◆


ここは、7214階・休職届対策室サの八拾壱番窓口。
一条伸びる水平線、ひどくシンプルなその世界。不敵な男がただ一人。

「それでは、真壁次男様。ワンダフルな休職ライフを」

天命を操りただ休職者を援助をする、休職届対策室執務係・サクラバ。
右手の中には一本の奥歯。彼自身のものだ。
その気になれば、それは一瞬で治るだろう。けれどサクラバは治さない。

「……あー、痛ってー」

――彼の気が、変わらないうちは。



最終更新:2013年06月19日 00:57