~~Wall Need Is Love 徹夜話小噺~~3


「なんだってのよ……なんであたしがこんな目に……」

何処とも知れぬ壁の中。忌々しげな少女のため息がこぼれる。
此処は転校生しか知らぬ壁の中。誰もいないその空間で、少女はひとり、待っていた。

「アイツ、どうしてんのかしら。まさかあたしのことほっといて他のヤツと……」

少女の名は埴井葦菜。今年のミス・ダンゲロスであり、転校生の生贄である。
浮気症との噂が絶えない恋人とも引き離され、今はただ待つ身。ふたたびため息がこぼれた。

「……帰ったら、ガツンと言ってやるんだから」

しかし、ため息とは裏腹に、彼女の瞳に宿る輝きは決して曇らない。
それは彼女自身がもつ炎のような性質ゆえか、あるいは信じる人がいるからか。


~~Wall Need Is Love 徹夜話小噺~~


◆◆そして徹夜明け◆◆

ジャラジャラ――ジャラジャラ――
徹マンの夜は明けて、ほの白む空を仰ぐ、四名の雀鬼。
真壁マリア、真壁ロゼ子、日下部碧子、そしてカベクイグソクムシ。

「……ツモ」

船をこぐ触手を背景に、マリアは静かに、だが力強く宣言した。
これにてお開き。夜を徹して行われた麻雀勝負のピリオドが、マリアによって打たれた。
ロゼ子、碧子、カベクイグソクムシの三名は万感を胸に、厳粛な顔でマリアを見返した。

「…………平和(ピンフ)!」

マリアは重々しく宣言し、手牌を倒した。
  ___________________________  __
 │二│三│四│二│三│四│二│三│四│八│八│二│三│|四|
 │索│索│索│索│索│索│索│索│索│索│索│索│索│|索|

バアァ――z__ン!!!

平和主義者、真壁マリア。全てを終える今。よくぞ、よくぞこの場で平和宣言を!
その崇高なる平和主義に、敬意を表し――皆、厳かにサムズ(&歩脚1本)アップした。
皆の心はひとつ。

「「それは四暗刻!!!」」「ルール次第では緑一色も、ですな」

――死闘の夜は明けた。皆の背に、朝日が降りそそぐ。
戦いを終えた者たちの表情は皆、窓から差すその光と同じくらいに晴れやかであった。

※平和・四暗刻・緑一色:それぞれ麻雀の役。詳しくはグーグル先生参照。

† † † † † † †

「それじゃあね!今度はマリアがくつろげるツヤッツヤの壁を作ってあげるよ!」
「貴女の壁に良き風が吹きますよう――アディオス!」

壁へと戻るマリアを見送り、そして戦いを終えた戦士たちはそれぞれの陣営へと帰る。
そこに残ったのはふたつの影。朝日に影をのばすロゼ子に、目をさました姦が歩みよった。

「マリアさん……生贄の開放に応じてくれますかね……」
「うーん……実は生贄は誰でもよかったそうなんだけど……」

そして、話は全ての始まり――葦菜が生贄になった理由へとたどり着く。

「そういえば、マリアさんってどうして生贄を欲しがったんですか?
 平和主義者で、しかも普段は壁の中で誰とも会わないんですよね?」
「うん……」
「好きじゃない戦闘の場に出てまで、なんで一人でいるのが好きな人が生贄を……?」
「それがね……あたしも聞いたんだけど……その、怒らないでね?」

† † † † † † †

「やーっと帰ったわね!マリア!あたしを放っておいてどこに行ってたのよ!」
「あ、ご、ごめんなさい……」

何処とも知れぬ壁の中。腹を立てた少女の怒声が轟きわたる。
此処は転校生しか知らぬ壁の中。転校生とふたりきり、少女は臆することもない。

「どうせどっかで麻雀してたんでしょ!そうでしょ!ほらやっぱり!
 あたしをアンタの世界に連れていくって理由が“三人兄妹だと四人麻雀の面子が足りないから”
 だなんて言っておいて!そのあたしを放置して麻雀ってどういうことよ!」
「あ、あの……」
「だいたい引きこもり続けたいけど麻雀の面子も欲しいとか贅沢言ってんじゃないわよ!
 あたしの都合ってもんを考えなさいよ!あたしだってこの世界でずっと一緒に――」
「えっと、その、ちょっといいですか?」
「なによ!」(バンッ)
「ひっ!」(ビクッ)

少女の名は埴井葦菜。今年のミス・ダンゲロスであり、火の玉のように元気な少女である。
そして転校生、真壁マリアは平和主義者であり、あまり自分に自信がない少女であり――
押しにとても弱い少女であった。

「(この人こわいから生贄チェンジとか……できないかなあ……)」

西暦20XX年、希望崎学園――
気炎をあげる生徒会陣営・番長Gとは対照的に――
どこまでも平和な転校生陣営であったとさ。



最終更新:2013年06月19日 10:19