探偵Gの事件簿~新入生編~


「すみません、少しいいですか?」
おどおどとした少女、にそう尋ねるのはバニーガール服を着たダンテ探偵事務所の秘書である【菱夜良子】こと通称【秘書E子】だ。
「ははは、はいなんでででしょう!」
「学校の昇降口前である事件が起こりまして、その情報をですね……あっ!その前に私は菱夜良子といいます。貴方のお名前お伺いしてもよろしいですか?」
話しかけられるのになれていないのか、あちこちに視線を動かす彼女は何度か喋ろうとするも、やっぱり言葉を飲み込むという動作を行いやっとのことで自分の名前を告げた。
「と、十薬シブキです!」



「おい、クソ淫乱ビッチ!情報収集は終わったか?」
ガムを噛みながらイライラした様子で知ってる人だとしても近寄りたくない雰囲気を醸し出している男【石井ダンテ】こと【探偵G】にE子は話しかける。
「はいダンテさん!シブキさん私達探偵だから困ったことがあったらなんでも言って下さいね!」
「は、はい……(話しかけられた……!)」
初っ端から暴言を言われているものの慣れているのか気にもしていない様子だ。
「えー、被害者は芹沢増男さん。男の人ですね。学年は一年生で趣味は筋トレ友人はあまり多くはないようですね」
「お前と一緒だな!」
「ダンテさんよりかは多いですよ!」
E子はエヘン!と自慢気に胸を張るがその様子が気に食わなかったのか探偵Gは睨みつける。
その様子ににんまりと満足げでたちの悪い笑顔を隠さずに追い打ちをかける。
「あらあら図星でしたぁ?」
「早く続き言えよこのメス豚淫乱クソビッチが!!」
逆ギレですかと呆れた様子を見せつつも話を戻す。
「はいはい、続きですね。被害者の増田さんは昇降口前のグラウンドにて5メートルほどの落とし穴に落とされた姿で上半身裸で発見されました。意識不明の重体とのことです」
「容疑者は」
「増男さんの発見時刻は比較的早い時間帯なので、それから考えるとあんな大規模な落とし穴を作れた人間かつアリバイの無い人間は四人に絞れます!」
「容疑者は四人か、昨日から落とし穴があった可能性は?」
「ありません。8時の職員会議前には無かったのに8時20分の職員会議後には落とし穴ができていたと複数の先生が証言しています。」
「ふむ……裸と言ったな、どんな様子だった?」
「ビリビリに破けてたみたいです!外傷は上半身に大きな打撲跡だけで、切り傷はありませんでした」
「うーむ態々服を破くとはそんなに遺恨のある人間なのか……」
「容疑者は今から集まってもらいますが、増男さんとの関係も薄くあまり情報はなさそうです」
「分かった、まずは容疑者が揃ってからだな。
ああ、それとさっきの件は給料に反映させてもらう!」
「そんなぁ!」

「容疑者はこちらの四名です。」
そういうとバニーガール服から露出度の高いキャミソールに着替えたE子が容疑者四人の前で紹介を始める。
「まずは二年生の機動乙女アストレアさんです。アリバイが無かったのですが動機もなさそうですね。」
「早く帰りたいんだけどぉ~!」
「次は二年生の多田さんです。無口で少し怖いですね。」
「……」
「二年生の近藤くんです。スマホ依存性らしいです。
そして、最後は一年生の田中さん五郎さんです」
「は?田中さん五郎さん?」
「はい、名前が田中さん五郎なので、田中さん五郎さんです。生きがいは落とし穴作りだそうです」
それを聞いた探偵Gはキリッとした表情で宣告する!
「犯人は田中さん五郎!お前だ!!スコップで殴り殺したのだ!」
「そ、そんな!私じゃないですよ!落とし穴を一瞬で作る能力を持ってますけど私じゃないですよ!」
「お前だああああ!!!」
田中さん五郎の両手を掴もうとする警察二人をE子慌てながら抑える。
「待ってください!ダンテさん!田中さん五郎さんはアリバイがあります!その時間はフジキさんが闇討ちした他校の生徒を一緒に埋めていたそうです!」
「それはそれで違う罪になるだろうが!」
チッと舌打ちをしながら離れる警察二人を見て安心し容疑者に向き直る。
「コホンッ!では改めてアストレアさん8時頃何をやっていましたか?」
「その時間帯はぁロボ部でぇ充電してたし~」
「それを見ていた人は?」
「充電してるときはぁ居なかったけどぉ充電中はわからないし~」
「被害者との面識は?」
「はぁ?会ったことないし!呼ばれてる理由マジ分からないんだけど!」
「えぇ、では次は多田さんお願いします」
「8時頃は、図書室で一人で本読んでました。被害者の増男?さんはちょっと知らないですね。」
「では、近藤さん」
「……」
近藤はスマホから目を離さない。
「あの!近藤さん?」
「知らない……」
「嘘だっ!俺は知ってるぞ!増男のことをヒョロヒョロしててウザイって呟いてただろ!お前が犯人だ!」
田中が声を荒げる!近藤が睨みつけその場は一触即発となる!
「落ち着いてください!落ち着いてください!」
「ふむ、本当なのか童貞根暗野郎」
腕を組みながら暴言を放つ探偵Gに近藤は驚き戸惑いつつも頷く。
「でも、何で知って……」
「俺のTwitterアカウント名はPITfall56です」
「じゃ、じゃあアカウントが炎上しそうになった時慰めてくれたのは……」
「俺……です……」
ネットでのことを現実で明かすことほど恥ずかしいことは無い。
それを証明するかのごとく恥ずかしげに顔を真っ赤にする田中さんに近藤さんは感激しつつ反論する。
「でもっ!俺は違うんだ!確かにあいつは嫌いだけど落とし穴を作る体力なんてないんだ!」
「たしかに5メートルの落とし穴は並大抵では出来ませんね。能力も関係内容ですし……」
E子の独り言で探偵Gは考え込む……
「ふむ、たしかにこれが出来るのはかなり絞られる。近藤には無理かもしれんな……」
その時!
ムラッ……
「うっ!うおおおおおおお!!シコシコシコシコシコシコ」
探偵Gが突如オナニーを始めたのだ!!
「E子ぉ!俺がオナニーしている間に希望崎病院に行くんだ!早く!」
「は、はい!」
「むぅ……このオナニーは……」
「し知っているのですか、巡査部長!」
「うむ、聞いた事がある。ベルリンで名を上げた腕利きのまるだし探偵で「ヴァイザー・ツァイト(賢者の時間)」とも呼ばれていた!
容疑者の前でオナニーを行い多くの事件を丸裸にしてきた。
業界では「奴がチンコを握ると、ホシが焦り出す」とも言われるほどだ!」
「なるほど……」
「ちょぉ~小さいしぃ……」
「な、なんという……」
「目の前でオナニーしてるやつがいるなう……と」
「な、何が始まるんです!?」
「あっ!くぅっ!あぁっ!シコシコシコシコ」

「うっ!あっ!!!ドピュッ」

「奴がオナニーを終えた!?犯人はわかったのか?」
「ふぅ……はい、犯人がわかりました。容疑者を全員集めてください」

探偵Gは萎えかけた股間と共に容疑者を指す!
「犯人はあなたです!!多田さん!」
「あ、あたしじゃないわよ!第一死体は落とし穴の中にあったんでしょ!田中さん五郎が犯人よ!」
警察二人が多田さんを挟み警戒を始める。
探偵Gは落ち着いた様子で多田さんを追い詰める。
「あなたでも土の中に沈める事はできます。
あなたの能力で鉄球を落とし、そしてその威力で増男さんを土の中に沈めたのです……ふぅ……」
「動機が無いわ!!」
呆れた様子で探偵Gは多田の前で行ったり来たりを繰り返す。
「あなたは新入生を嫌っていました。それは多くの人が知っていることです。」
多田の全身からは汗が流れ気が狂わんばかりに目を泳がせる!
「しょ……証拠は……!」
「証拠はこれです。」
そう言うと探偵Gは掌の上にある鉄片をみせる。
「何よそれ!そんな欠片なんの証拠にもならないわ!」
だが、探偵Gは焦った様子もなく多田に告げる。
「この証拠を手に入れた証人が居ます。E子さん来てください!」
「はい!被害者の増男さんです!」
な、なんだって!!!
E子は本当に増男を連れてきたのだ!
集まった全員の視線が増男に集まる。
「増男さん、説明してください」
そうダンテが促すと嬉しそうな笑顔を携えた増男はどこから話したらいいのかしばし思案したあとぽつぽつと話しだした。
「朝、いつもはご飯なんですけど今日はパンにしようと思って、ベーコンエッグで……
「増男さん事件前後の話をお願いします!手短に!順序良く!」
探偵Gはイライラした様子で険しく増男にそう告げ、増男は戸惑いながら話を続ける。
「え、えっと学校に登校した時何故か空が暗くなったように感じました。雨かな?天気予報は晴れだったのにな、と思いながら空を見上げたら大きな鉄球が落ちてくるじゃないですか!
ああ、もうダメだ!お父さんお母さんごめんなさい!と思ったらボクの体が夢にまで見たあのボディビルダーみたいに筋肉ムキムキの素敵な肉体になって鉄球を気絶しながら全身で受け止めたのです。
あの身体は自分のことながら凄く美しかったですね!目が覚めたら元に戻っていたのが残念でしたよ。
その時、鉄球を抑えていた右手の方からその鉄片がポロリと落ちてきたんですが、いやー本当にあの時のボクの筋肉みんなに見せてあげたかったですね!!!」
「とのことです。上半身裸だったのは恐らく能力が発動し筋肉質な体になったとき破れたのでしょう。
多田さん宜しければあなたの鉄球を見せてもらえませんか?」
その一言で多田は絶望したように顔を伏せ、探偵Gは多田を慰めるように肩を叩いた。
――ストン――
彼女の心の鎧が剥がれるかのごとく多田の服が剥がれ落ちる。
「あなたは年下を憎んでいた。
ですがあなたのおかげで夢を叶えられた人間がここにいるのです。
確かにあなたの行ったことは許されることではありません!ですが、あなたはきっと罪を償えます。その証人もここに居ますよ」
多田はその言葉に驚き顔を上げる。
「ありがとうございます。多田さん!あなたのおかげで夢にみていた美しい肉体になれました!
あの肉体になれるようにこれからも筋トレに励めます!」


ごめんなさいと幾度も呟きながら連行される犯人を見つめ、助手E子は探偵Gに語りかける。
「悲しい、とても悲しい事件でしたね。」
「これが最後の悲しい事件になってくれればいいのですがね……」
裸に直接コートを羽織りながら一仕事を終えた探偵Gは、まだ見ぬ事件に備え事務所に戻るのであった。

探偵Gの事件簿~新入生編~(完)



最終更新:2013年06月18日 18:41