暗くて、隙間がなくて、みっしりと詰まった壁の中。
暖かくもなくて、冷たくもなくて、とても落ち着くひとりだけの空間。
でもここは密度が高いから――――空気よりも、水の中よりも、音がずっと耳にとどく。
「ねえマリア……どうして転校生になったの?」
「家に居づらかったのか?」
そんなことはない。私はお姉ちゃんも、お兄ちゃんも、大好きだ。
家族と一緒でさえあるなら、外になんて出なくてもいいって思うくらい。
私には壁と、家族があって――――でも、ひとつだけ足りないものがあったんだ。
「他人には興味ないって言ってたのに、生贄を欲しがるなんて……」
「生贄ってアレだろ?自分の世界の住人にするってヤツ?その子が気に入ったのか」
違う。だから、私には壁と、家族以外の他人は正直どうだっていい。
だから、生贄だって、別にミス・ダンゲロスでなくたってよかった。
ただ、ただ私は――――
~~Wall Need Is Love 徹夜話小噺~~
◆◆交流会◆◆
ジャラジャラ――ジャラジャラ――
ハルマゲドンに備え、人の少ない校舎に、麻雀牌のぶつかりあう音が鳴りひびく。
麻雀卓にむかいあうのは真壁マリア、真壁ロゼ子、日下部碧子、姦崎姦&お嫁さん。
「それじゃあ麻雀はじめるよー!」
先日、マリアを壁から引っぱりだすことに失敗してからしばらく経った本日。
その後も引きこもっていたマリアだが、最終的に天岩戸作戦によって外へと現れた。
今日は転校生との親睦を深めるために、壁好きの碧子をまじえて麻雀開始となっていた。
「ん……」
「マリアと麻雀するのも久しぶりだね」
「いやあ、こうして壁を作れる転校生と交流できるなんて嬉しいねえ」
麻雀が趣味だというマリア。ジャージ姿に冴えない顔で、それでも黙々と牌を切る。
その様子を眺めて顔をほころばせるロゼ子。
壁好きがために壁を作るマリアに親近感をよせる碧子。
「牌は全部で13枚、山から牌を取って……」
「姦君がんばって!」
そして、麻雀のルールもおぼつかない姦。なぜか参加することになっていた。
はたしてそんな姦にまっとうな勝負ができるのか?お嫁さんはできると信じていた。
触手の中でも天才と言われる性技をもつ姦。その手先の繊細さをもってすれば……
「(牌の裏側の手触りだけで全部の牌が区別できるよね!)」
女性の身体の敏感なところを自在に察知する手先をもってすればガン牌もたやすいのだ。
こうして皆々の思惑を乗せ、イカサマ上等、仁義なき雀戦の火蓋が切って落とされた。
† † † † † † †
東一局、東:碧子、南:姦、西:マリア、北:ロゼ子
東:碧子の自摸番
「よっと……ふふふツルツルしてるうふふ」
「「「(白だ)」」」
南:姦の自摸番
「(仕込んでおいたから今回は丸の3を引いて)……あれ?(牌が違う!?)」
「……あなた動きが怪しかったから私もやることやったわ」
「!(牌がわかっても慣れてないから動きがたどたどしかった!)」
西:マリアの自摸番
「……ふふっ(サンピンは4枚とも私の手の内。これぞ『壁』を自在に生み出す能力、
――『CALLING WALL』!牌の操作はお手の物よ)」
北:ロゼ子の自摸番
「(マリア……活き活きとして……あっ目頭が……)」
※壁:ある数牌が4枚見えているときに使える守りの手法。詳しくはグーグル先生参照。
† † † † † † †
姦の仕込みもむなしく、魔人能力によるイカサマ応酬の戦い。
知識の足りない姦には手の打ちようもなく、このまま勝負は決するかに見えたが――
そのときである。
「どうしよう、かなめちゃん……勝負にならないよ!」
「姦君……誰か代わりの助っ人がいれば……」
「どうやら私の出番のようですな」
「「こ、この甘い声は!カベクイグソクムシさん!」」
「目には目を、壁には壁をと申します。私が卓の上で触覚を一振りすれば――この通り」
「私の『CALLING WALL』で作った『壁』が!?『壁破壊』能力……!」
「あっ……欲しかった牌がきた!?」
「駄目よ!壁を壊すなんて!『ウォールライ』!『壁』蘇生!」
「えっ……手牌が変わっちゃった!?」
「やりますなお嬢さん!これは私も『壁』の食べがいがあるというもの!」
カベクイグソクムシの乱入により、イカサマ合戦がいっそう過熱したのであった。
「……み、みんな、もっと普通に麻雀しない?」
ロゼ子の提案により、イカサマなしの麻雀勝負が始まるまで、しばしの時間がかかった。
こうして緊張感に欠ける転校生戦は続いていく。
青空に浮かぶちぎれ雲が、麻雀に興じる面々を穏やかに見下ろしていた。