【カベクイグソクムシvs聖槍院九鈴】


「ねえ、九鈴。雨弓君ってやっぱり胸が大きな子の方が好きかなぁ……?」
「さあどうでしょう? ぺったんこの雨雫としては気になるよねえ」
「なっ……! キミだって似たようなモノの癖に!」
時を遡ること十年前。高校時代の雨竜院雨雫と聖槍院九鈴。
二人は親友であり……貧乳であった。

【カベクイグソクムシvs聖槍院九鈴】

今日の九鈴の掃除は、大仕事だった。
なにしろ、放置された違法建築の廃屋を丸ごと掃除する予定だったのだから。
だが、別の清掃者とニッチが衝突していたことは誤算だった。
競合相手は深海の清掃者であるはずのグソクムシ……!
人呼んで標準和名カベクイグソクムシ! 当時体長2.5m!
その偉容に敬意を表し、以下、グソク様と記させて頂きます!
グソク様カッコイイヤッター! 甲殻類ヤッター!

グソク様は上体を起こし、七対十四本ある歩脚のうち前三対六本で攻撃しているが、そのうち一本は既に中ほどから先がない。
二本のトングで戦う九鈴にへし折られたか? 否、グソク様が自ら切断なされたのだ!
九鈴の能力は、トングで挟んだ物体を永遠に掴み続ける『タフグリップ』。
右第二歩脚を挟んだ九鈴は、タフグリップによってグソク様を死ぬまで投げ飛ばし続けるつもりだった。
だが、グソク様はその狙いを一瞬で見破り、脚を自切してお逃れになったのだ!
なんたる的確な決断的状況判断! 脚は脱皮すればまたはえてくる。

「貴女……お強いですね」
グソク様がしゃべられたーーーッ!?
「そして……フフフ、なかなか美味しそうな壁でいらっしゃる」
トングに挟まれぬよう気をつけながら攻撃しつつ、グソク様は紳士的な複眼で九鈴の無い胸をお見つめになられた。
「少々遊びすぎました――『スタイリッシュ虫食い』――さらば壁の少女よ。汝の未来が実り多からんことを」
そして、グソク様はウィスパーボイスで歌い出した。美声!
グソク様の体がふわりと浮かび上がり九鈴から離れ、空中で丸まった。
その触角が徐々に光を放ち出す。神秘的光景!

胸に迫る美しい歌声に、九鈴は戦いを忘れ聴き入っていた。
「……むねが……くるしい……?」
それは物理的な苦しさだった。
いつしか九鈴の胸は、かなり豊満になっていたのだ。服がきつい。

「アディオス……!」
そう言い残し、グソク様は廃屋目掛けて回転しながら飛んでいった。
ガオン! ガオン!
グソク様の触角が触れるやいなや廃屋の壁が消えてゆく!
――九鈴が我に返った時には既にグソク様と廃屋は消え失せており、そこには平坦な更地と豊満な胸だけがあった。

時は流れ、九鈴の胸は普通よりちょっと大きいかな、ぐらいに落ち着いた。
ここはSS3の世界ではないので、九鈴は家族と共に平和な日々を過ごしている。
そして、雨竜院雨雫は……?
SS2の世界のような不幸な最期を迎えることなく、雨弓と結ばれ幸福を手に入れたのだった。
だが、雨雫のところにグソク様は現れず、平坦で平穏な一生をおくったとのことです。

(よかったね!)



最終更新:2013年06月15日 19:02