上海総領事館事件


中国側、機密執拗に要求…自殺上海領事館員の遺書入手

http://blog.goo.ne.jp/think_pod/e/924f986744a6745a3dd113a1e3d45ff1
 2004年5月、在上海日本総領事館の館員(当時46歳)が自殺した問題で、館員が中国の情報当局から外交機密などの提供を強要され、自殺するまでの経緯をつづった総領事あての遺書の全容が30日判明した。
本紙が入手した遺書には、情報当局者が全館員の出身省庁を聞き出したり、「館員が会っている中国人の名前を言え」と詰め寄るなど、巧妙かつ執拗(しつよう)に迫る手口が詳述されている。
中国側が館員を取り込むために用いた中国語の文書も存在しており、これが、日本政府が「領事関係に関するウィーン条約違反」と断定した重要な根拠となったこともわかった。
中国政府は「館員自殺と中国当局者はいかなる関係もない」と表明しているが、遺書と文書はそれを否定する内容だ。
 自殺した館員は、総領事館と外務省本省との間でやり取りされる機密性の高い文書の通信を担当する「電信官」。
遺書は総領事と家族、同僚にあてた計5通があり、パソコンで作成されていた。総領事あての遺書は計5枚の長文で、中国側の接近から自殺を決意するまでの経緯が個条書きで記され、最後に「2004年5月5日」の日付と名前が自筆で書き込まれている。
 それによると、情報当局は、まず03年6月、館員と交際していたカラオケ店の女性を売春容疑で拘束。処罰をせずに釈放し、館員への連絡役に仕立てた。館員は同年12月以降、女性関係の負い目から当局者との接触を余儀なくされた。接触してきたのは「公安の隊長」を名乗る男性と、通訳の女性の2人だった。館員は差し障りのない話しかしなかったが、04年2月20日、自宅に届いた中国語の文書が関係を一変させた。文書は、スパイの監視に当たる「国家安全省の者」を名乗り、「あなたか総領事、首席領事のいずれかと連絡を取りたい」と要求。携帯電話番号を記し、「〈1〉必ず公衆電話を使う〈2〉金曜か日曜の19時?20時の間に連絡せよ」と指定してあった。
 館員は「隊長」に相談。すると約2週間後、「犯人を逮捕した」と返事がきた。文書を作った者を捕まえたので、問題は解決した、との意味だった。館員はこの時初めて文書は「隊長」らが作った可能性が高く、自分を取り込むためのでっちあげと気付いた。
遺書には、「(文書は)彼らが仕組んだ」と悟った、と書いている。
 「犯人逮捕」を期に、「隊長」は態度を急変。サハリンへの異動が決まった直後の同年5月2日には「なぜ(異動を)黙っていたんだ」と恫喝(どうかつ)した。「隊長」は、総領事館の館員全員が載っている中国語の名簿を出し、「全員の出身省庁を答えろ」と詰め寄った。「あなたは電信官だろう。報告が全部あなたの所を通るのを知っている。館員が会っている中国人の名前を言え」と追い打ちをかけた。
 最後には、「今度会うとき持ってこられるものはなんだ」と尋ね、「私たちが興味あるものだ。分かるだろう」と迫った。
約3時間、恫喝された館員は協力に同意し、同月6日午後7時の再会を約束した。
館員は、「隊長」は次には必ず暗号電文の情報をやりとりする「通信システム」のことを聞いてくると考え、面会前日の5日に遺書をつづり、6日未明、総領事館内で自殺した。
遺書には「日本を売らない限り私は出国できそうにありませんので、この道を選びました」などとも記している。
「領事関係に関するウィーン条約」は第40条で、領事官の身体や自由、尊厳に対する侵害防止のため、受け入れ国が「すべての適当な措置」を取るとしている。遺書の内容は具体的で、それを裏付ける中国語文書も存在しているため、中国側の条約違反の疑いが濃厚だ。
 外務省の鹿取克章外務報道官は30日夜、上海総領事館員の遺書の内容が判明したことについて「本件は、館員のプライバシーにかかわるので、コメントは差し控えたい」と述べた。
(2006年3月31日3時2分??読売新聞)

○○総領事殿

 お世話をおかけして申し訳ございません。

1 カラオケの女性が去年6月、「そのての罪」で公安に捕まるということがありました。後で聞いたところ、不思議なことに1日で釈放されたとのことでした。ただし、その女性が勤めるカラオケの情報を毎日報告するというのが条件だったようです。その際、客に××【電信官の姓】というのがいるだろうとも言われたと言っていました。また、公安に捕まったことは誰にも公言するなとも言われたそうです。

2(1)7月位に私に「その話」をしただろうと、詰問され否定したところ、留置場に入れられたと、相当おびえておりました。 (2)8月に入りその女性が勤める店で「スパイ行為」をはたらいていることを私が他言しないとの確約が欲しいので、私に会って直接話をしたいと言っている。1度だけ会ってくれないだろうかとその女性から言われました。 (3)もちろん私は断った上で、絶対に他言はしないと伝えて欲しい旨その女性に言いました。 (4)略

3 私は、断り続けましたが、弱みもあり、1度だけという約束で、12月の14日に、その女性と一緒に市内の喫茶店で公安と称する彼らに会いました。 (1)彼らは2人で現れ1人は唐(隊長)(40歳位)だと名乗り、他の1名は20代前半の女性で陸と名乗り通訳でした。 (2)まず彼らは、その女性が「スパイ行為」をしていることを絶対に他言しないことを約束して下さいと言いました。私はそれに同意しましたが、彼らは私の行っている行為は中国では違法だが、私の総領事館員の立場を考えて、不問にするとのことでした。 (3)特に彼らは、高圧的でもなくむしろ、低姿勢でした。そして、外国人の意見を聞いて、「上海の発展に役立たせたい」様のことを言い、これから友達としてつき合ってくれないかと言ってきました。 (4)私は、それは断ると言ったところ、返事は今でなくても良いから、考えてみてくれと、立ち去りました。

4 その後も、返事を聞きたいので会って欲しいと、その女性(カラオケの)を通じて執拗【しつよう】に言って来ました。あまりの執拗さに、「弱み」もあり、根負けして、再び会い(12月の末頃だと思います)、私が答えたくないと言うことには答えないという約束で、その後も会うことに同意してしまいました。 (1)はじめは会っても、日本と中国の習慣の違いとか、上海の悪いところはどんなところだろうといった、とりとめのない話に終始しました。 (2)略 (3)略

5 2月20日、私のアパートのフロントに手紙が置かれるということがありました。内容は、国安【国家安全省の意味】だが、総領事か首席【首席領事の意味】か私のいずれかに会いたい、誰が会うかはお前が決めろと、携帯電話の番号と電話をする時間等が書かれていました。 (1)今考えるとその時、既に完全に彼らの術にはまっていたのですが、うかつにもなんとか館の皆さんに知られずに事を済まそうと、彼らに相談しました。 (2)彼らは外国人を守るのは我々の仕事だし、今までも同様のケースが有ったし、心配することはないと、すぐ解決する様なことを言っていました。 (3)それから、急に彼らと会う機会(「解決」するため)が多くなり、2週間後に「犯人」を逮捕したと言ってきました。 (4)この時、初めてこの「事件」【文書が届けられたこと】は彼らが「仕組んだ」と気づきました。

6 略

7 また、その後3~4週間会いませんでしたが、女性(カラオケの)を呼び出し、「××は事態を理解していないようだが、大変なことになるぞ」と脅してきたと、彼女から「会った方が良い。心配だ」と言ってきました。4月25日にやはり、市内の喫茶店で会いましたが、私が「礼儀をわきまえていない」、中国では世話になったら、礼を尽くすべきだ等と穏やかに言っていました。「事件解決」の事を指していると思いました。私が、何が目的なんだと聞くと(今までも何度も聞いてました)、やはり外国人の考え方を知りたいなどと、いつものように言っていました。

8 5月2日陸から電話が来て会いたいと言ってきました。この日は、私は素直に会うことを承諾しました。私の転勤をどこかで知ったのだと思いました。 
(1)一番に、唐は総領事館の転勤はどの位であるのかと聞いてきました。私は通常2~3年だと答えました。あなたはいつ異動するんだと、聞かれたので、来年じゃないかと答えたところ、私(唐)はあなたが、転勤するのは知っている、なぜ黙っていたんだと言って来ました。知っているのなら、聞かなくてもいいではないかと言ったところ、あなたの口から聞きたいと言いました。 
(2)私は5月28日、日本に帰ると言ったところ、転勤だろうと言われ知っているのなら、聞かなくてもいいじゃないかと言う私に、再度あなたの口から聞きたいと言いました。サハリンだと答えると、これからもこのまま「友達」でいたいと言い、いいですかと念を押してきました。私は「断る」とはっきり言いました。 
(3)すると唐の態度が豹変【ひょうへん】し、あなたがやって来たことは中国では、法律に違反する。あなたは領事館員という立場で、そういうことをして、ただですむと思っているのか、我々と会っていると言うこと自体、総領事館に知られたら困るのではないか、国と国の問題になるぞと恫喝【どうかつ】してきました。仕事を失い、家族はどうなる。あなたが「協力する」と言えば、家族とも一緒に暮らせるし、その女性も幸せに過ごせる。全ては円満に収まるではないか。私達(唐)はあなたが「不幸」になる姿を見たくない等と言い続けました。3時間を経過したとき、私は「承諾する」と言いました。 
(4)そうすると、いきなり唐は当館の館員全員が載っている中文の名簿を出し、この全ての出身省庁を答えろと言いました。 私は、答えました。すると、当館の館員で「情報収集」(ママ)の課の出身はだれだと言ってきました。私は、全員がここの館で初めて会った人なので知らないと答えると、そんなはずはないと執拗に聞いてきましたが、本当に知らないと言い続けるとあきらめたようでした。 
(5)私たち(唐)はあなたのことは、全て知っている、電信官だろうと言い「あなたの部屋に他の館員は入れないだろう」とまで言いました。私の仕事はPCの管理だと言い張りましたが、報告が全部あなたの所を通るのを知っている、館員が会っている中国人の名前を言えと言われました。皆パスワードで保護しているので、絶対に見られないと言うと、そんなはずはないが、今日はいいと言い話題を変えました。 
(6)あなたが、私たちに今度会うときに持ってこられるものはなんだと聞かれました。どういうものなのかと聞くと、私たちが、興味のあるものだ、解るだろうと言われました。私は行嚢【こうのう】送付のフライトナンバーなら次回持ってこられると言うと、次に持って来るようにということで、解放されました。

彼らが、私が通信の担当だと知っている以上、これから必ずシステムのことを聞いてくるのは明らかだと思われます。明日6日午後7時にまた会う約束をさせられており、もし会ったら私は日本を裏切ることになりかねません。私がこういう形で、自分の責任を取ろうとしても、もはや手遅れなのは承知しておりますが、一生あの中国人達に国を売って苦しまされることを考えると、こういう形しかありませんでした。ご迷惑は承知の上ですがお許しください。


 総領事本当に、いろいろお気遣い頂いたにもかかわらず、裏切ってしまい本当に申し訳ありません。異動も決まって楽しみにしていたのですが、日本を売らない限り私は出国できそうにありませんので、この道を選びました。

 ご迷惑をおかけしますが、何卒【なにとぞ】よろしくお願い致します。この2年間本当にありがとうございました。


2004、5、5   ×××× 【本人署名】  ??


【 】内は本紙の注。○○は総領事の姓。


164 - 衆 - 予算委員会第三分科会 - 2号 平成18年03月01日
稲田分科員 
 自由民主党の稲田朋美でございます。本日は、平成十六年五月六日、上海総領事館の電信官が領事館の中で自殺をしたという事件について、お伺いをいたしたいと存じております。
 この問題が私たち国民の知るところとなりましたのは、昨年十二月二十七日発売の週刊文春でしたが、
衝撃的だったのは電信官自殺の理由でございます。その理由が、中国人女性と親しくなり、そのことを理由に中国公安から卑劣な脅迫を受け、暗号システムを教えろと強要されたことにあった
と報じられたことです。
 さらに、我が国の情報の危機管理のお粗末さ、また外交の不可解さは、このような
重大な事件、ウィーン条約に違反する行為が中国からなされ、その結果、一人の人の命が奪われたことについて、
外務省がまともな抗議もせず、首相官邸に報告もせず、外務省どまりで対応された
ということにあらわれていると思います。
 この事件以前でも、平成十四年、瀋陽の日本総領事館に北朝鮮の男女五人が保護を求めて駆け込んだということがありました。そのとき、中国の武装警察官がそれを追って領事館に侵入し、男女を連れ去るという、中国から我が国に対する主権侵害がなされたことがあったのですけれども、これに対する外務省の対応もほとんど有効な抗議がなされず、幕引きがなされたと記憶しております。
 一体日本の外交はどうなっているのか、また情報防衛はどのようになっているのかというのが、私を含めた国民の正直な感想ではないかというふうに思います。
 そこで、まず外務大臣にお伺いいたします。
 麻生外務大臣は、流暢な英語はもちろんのこと、御就任後、本当に毅然とした態度で外交に臨まれていて、大変頼もしく、また尊敬いたしております。
 今回の中国が行った行為、外務省がおっしゃるところの領事関係に関するウィーン条約上の接受国の義務に反する遺憾な行為、さらにはそれに対する今までの外務省の対応について、大臣の御感想、御所見を伺いたいと存じます。
麻生国務大臣 
 これは、現地の中国側公安当局者によります、ウィーン条約接受国の義務に反する遺憾な行為が正確な法律用語だと思いますが、日本の外務省職員が自殺に追い込まれたというようなことは、これは、当然のこととして、話としては非常に深刻な話なんだと私どもは思っております。
 発生後、いろいろなことを調査をさせて、いろいろなことをして、また同時にさまざまなレベルで抗議も行ったということが事実で、細かく全部知っているわけではありませんけれども、その中にあって、本人の無念なところもさることながら、基本的には、そこのところの重大な話が官邸まで上がっていかなかったというところが一点。
 もう一点は、大事なところは、この方の決意、覚悟のおかげで、少なくとも機密に関するところは保たれたというところは、私どもとしてはそれなりに感謝をせにゃいかぬところ。この人が自分の身の保全を図って漏らしていたら、話はもっと込み入っていたことになったろうと思っておりますので。
 私どもとしては、この種の話というのは、今後とも起こり得る話と覚悟しておかなければいけませんから、そういった意味では、この種の話が二度とないように、まず任地に赴くに当たってはそれ相当の覚悟が要る、そういったときの接触は必ずある、それに対してどう対応するか。かつ、それでも対応し切れず、気がついたらはめられていたというときには、妙にそれを隠し立てしないで、さっさと上に失敗しましたと言った方が早い。その方がよっぽど国全体としての被害が少なくて済むということも考えて対応をしなけりゃいかぬというような話を官房長ともども含めてしたところでもあります。
 この種の話は、何もここだけの話じゃありません。今後とも、情報をとろうとする側の立場に立てば、ある面、当然のアプローチの仕方といえばアプローチの仕方として覚悟しておかなければいけませんから、そういったところも、何もこの国に限っただけの話じゃないので、いろいろな形のアプローチの仕方はあろうと思いますので、少なくとも外交官たるものという覚悟が要るんだという点なんだと思っております。
稲田分科員 ありがとうございます。
 それでは、外務省に今回の事件についての事実関係についてお伺いしたいと思います。
 まず、電信官が自殺した理由についてですけれども、外務省の御見解は資料二のとおりですね。「現地の中国側公安当局関係者による、領事関係に関するウィーン条約上の接受国の義務に反する遺憾な行為」というふうに表現されているんですけれども、それは具体的にどのような事実を指すのでしょうか。
塩尻政府参考人 
 遺憾な行為の内容でございますけれども、これは、

現地の中国側公安当局関係者による脅迫、恫喝ないしそれに類する行為があった

というふうに判断しております。
稲田分科員 
 その背後に女性関係、いわゆるハニートラップであったという点についてはいかがでしょうか。
塩尻政府参考人 
 具体的な背後関係については、インテリジェンスの関係の話もございますので差し控えさせていただきたいと思いますけれども、いずれにしましても、現地における公安当局関係者による恫喝、脅迫ないしそれに類する行為があったということでございます。
稲田分科員 
 それ以上具体的にはお答えいただけないんだと思いますので、それ以上は聞きませんけれども、もう既に報道では、背後に女性関係があったというふうに報道されておりますし、またお手元の資料三でございますけれども、
麻生大臣が、「外務省主催のタウンミーティングで、一昨年五月に在上海日本総領事館員が自殺した問題に言及。
中国側から女性問題に付け込まれ、領事館員が「暗号の乱数表を渡せ」と強要されたと明かした。その上で「追い込みをかけたみたいなもの。断固対応するのは当然だ」と述べた。」
というふうに新聞にも報道されているところでございますので、大臣自身が既に、背後に女性関係がある、ハニートラップの事件であるというふうに述べられているところでもございます。
 したがいまして、インテリジェンスの問題というふうにおっしゃいましたけれども、もう既にその問題は国民の中で知るところになっているのではないかというふうに思います。また、国益また国民の知る権利からも、こういった問題の具体的な背後関係についてはきちんと外務省の方で発表されるべきではないかというふうに私は思います。
 次に進みます。この事件についての中国側の見解は資料一のとおりでございます。これについては訳文をつけておりますので、その訳文を見ていただきたいんですが、「二〇〇四年五月、日本国駐上海総領事館で館員の自殺事件が起こった。事後、日中双方は外交ルートを通じ、数回にわたり、やり取りを行った。日本側は、仕事上の重圧により自殺に至ったと表し、ご遺族の意思により中国側に公開しないよう要求した。中国側としては、人道主義に立ち、日本側及び遺族に協力し、善後策について適切な処理をした。」というふうに書かれているわけでございますが、この中の「日本側は、仕事上の重圧により自殺に至ったと表明した」というのは真実でしょうか。
塩尻政府参考人 
 今委員が御指摘されましたように、中国側は死亡の原因として職務の重圧によりというふうに論じておりますけれども、我が方の判断は、先ほどお話ししたとおり、中国側関係者による脅迫、恫喝ないしそれに類する行為によって自殺に至ったというふうに判断しております。
稲田分科員 
 そうしますと、この「日本側は、仕事上の重圧により自殺に至ったと表明した」という部分はうそということでお伺いいたしておきます。よろしいですね。
塩尻政府参考人 
 まさにそのとおりでございます。
稲田分科員 
 それでは、次の「ご遺族の意思により中国側に公開しないよう要求した。」という点については真実でしょうか、それともうそでしょうか。
塩尻政府参考人 
 本件につきましては、御遺族の強い御意向もありまして、昨年十二月に我が方で公表するまで公表を差し控えたというのはそのとおりでございます。
稲田分科員 
 私が聞きたいのは、中国側に公表しないように日本が要求したということが真実であるか否かの点でございます。
塩尻政府参考人 
 失礼いたしました。他方、中国側に対して公表を差し控えるようにという要請をしたことはございません。
稲田分科員 
 この点につきましても、私は国家の名誉にかかわることだというふうに思います。つまり、日本側はこの件についていかなる意味におきましても被害者であり、そして中国側は加害者であるわけでございまして、被害者側から加害者側に公表しないように要求したなどというふうに中国側が表明していることについて、ぜひその点は真実に反するというふうに抗議をしていただきたいと思います。
 次に、本件のように、他国、中国からウィーン条約違反行為があり、それにより外務省職員の命が奪われるというような重大な結果を生じた国益侵害行為について、当然、相手国に対し厳重な抗議をし、場合によっては何らかの報復処置も辞さないという強い姿勢で臨むべきであると思いますが、外務省が事件直後にとった対応が、資料四の質問主意書に対する答弁でございますけれども、この二枚目の答弁の三項を見てわかるんですが、「平成十六年五月中旬に、在中国大使館公使から中国外交部アジア司副司長に対し、また、在上海総領事から現地当局の関係者に対し、それぞれ申し入れた。」という二回だけというのは余りにも抗議としては軽過ぎるのではないかと思いますが、その点、外務省の見解をお伺いいたします。
梅田政府参考人 お答え申し上げます。
 本件につきましては、先生御指摘のとおり、中国側によるウィーン条約上の義務に違反する遺憾な行為があったということで、厳重な抗議を行うとともに、事実関係の究明、真相の究明を求めております。
 実際に、今御説明のありましたように、事件直後の平成十六年五月に在中国大使館の公使から外交部副司長に、また上海総領事からも現地の公安関係者に、それぞれ申し入れを行っております。また、昨年の十二月に三回、外務省の在中国大使館から中国外交部それから在京中国大使館にも申し入れを行っております。それから、ことしになりまして、一月に行われました局長レベルの日中非公式協議におきましても、アジア局長から先方のカウンターパートに申し入れを行っているところでございます。
稲田分科員 
 私が言いたいのは、昨年の十二月は、文春による事件公表の前後に至るまでの間で、事件直後に二回しか抗議をしない、それをもって外務省が厳重な抗議を行ったと考えていることが、非常に私は国民の意識からもずれているのではないかなというふうに思うわけでございます。
 また、昨年の暮れないしことしに入ってから、おっしゃいますように数回にわたって抗議をなさっているわけですけれども、その申し入れに対して中国は何ら誠実な対応をとっていないというふうに思います。
反対に中国は、日本政府の悪質な行為に強烈な憤慨を表明する、既に結論づけた問題を意図を持って誇張し、中国のイメージを損なっている、日本にわずかな道理もない、中国警察当局は当時、日本の上海領事館関係職員から事情聴取し、事実を確認した、聴取記録や日本の職員の署名もあるなどと事実を全面否定した上で、日本を悪質だと非難しているわけでございます。
 このような対応に対し、外務省は今後どのように対応なさるつもりでしょうか。単に真相究明を求めても私は平行線になるのではないかというふうに思っているわけでございます。
 私は、二十年間弁護士をしておりましたけれども、交渉において最も重要なことは背後の恐怖であるというふうに教えられていました。交渉が決裂したときの対抗手段なしで交渉するなということでございます。外務省はいわば日本国の弁護士のようなものだと思います。仮に中国が非を認めようとせず、現在のように反対に日本を非難するという立場を変えない場合には、どのような対抗手段を講ずるつもりなのかをお聞かせください。
梅田政府参考人 
 初めに先生から御指摘のありました、一年七カ月の間、間があったではないかという点につきましては、これは我々も反省すべき点はあったのではないかというふうに思っております。
 それから、二点目につきましては、これは、引き続き中国側に対して遺憾の意を表明し続けるとともに、真相の究明について回答を求め続けるということではないかと考えております。
稲田分科員 
 私が言いたかったのは、そういう平行線の場合に何らかの報復処置を考えていらっしゃるかどうかという点なんですけれども、その点もぜひ考えていただきたいと思います。
 次に、複数あると聞きますこの電信官の遺書をなぜ公開されないのか、その理由についてお伺いいたします。
塩尻政府参考人 
 死亡した館員の遺書につきましては、複数存在しております。ただ、その内容というのは、インテリジェンスの問題があります。それから当該職員のプライバシーにかかわる問題もあります。それから御家族の意向もあるということを考えなければいけないというふうに思います。他方、
遺書には、現地の中国側公安当局関係者による脅迫、恫喝ないしそれに類する行為があったという趣旨のことが書かれております。
稲田分科員 
 しかし、中国側は何の関係もないというふうに主張して、現在も平行線の様相を呈しているわけでございますので、遺書を公表することは非常に重要なのではないかというふうに思います。
 また、プライバシーとおっしゃいましたけれども、一体どなたのプライバシーをおっしゃっているのでしょうか。
私は、亡くなった本人が遺書を複数残されたということの意味は、また領事館内で自殺されたということの意味は、それを公表することを望んでいらっしゃるのではないかというふうに思います。
 もちろん、プライバシー、インテリジェンスは守らなければならないし、遺族の人格権も守らなければならないと思いますけれども、一方で、国益というもの、また国民の知る権利、また世界に向けて日本の正当性を表明するという意味からも、真実究明の手段としてこの遺書しかない場合、私は遺書を公表すべきであるというふうに思います。
 次の質問に参りますが、外務省はなぜこの問題を首相官邸に上げずに外務省で処理しようとされたのでしょうか、その理由についてお伺いいたします。
塩尻政府参考人 
 先ほど来から御説明申し上げておりますとおり、外務省の方で種々調査をいたしております。それから、中国政府に対してもさまざまなレベルで抗議を行った、あるいは事実究明を求めたということです。それから、機密漏えいもないことを確認しております。他方、再発防止のために必要な措置をとってきたということで、そういう中で、官邸に報告しなかったということでございます。
稲田分科員 
 今の外務省の答弁を聞いておりますと、官邸に報告しなかったことが正当であったというふうに聞こえるわけでございますが、小泉総理自身も不快感を表明されておりましたし、今大臣の方からも、官邸の方もこういった情報については把握すべきであるというような感想を述べられたと思うんですが、それでも、現時点で振り返って、外務省で処理しようとして官邸に上げなかったという判断は誤っていたと思われるのか思われないのか、その点についてお伺いいたします。
塩尻政府参考人 
 これは大臣も国会で一度答弁されておられるかと思いますけれども、現時点で振り返って考えてみますと、官邸に報告しておいてもよかったのではないかというふうに考えております。
 今回のこの経験を踏まえまして、官邸への連絡については、主管部局長が必ず外務大臣に報告、相談し、その上で対応策を決定するということが現在外務省の中で徹底されているということでございます。
稲田分科員 ありがとうございます。
 さらに、当時の川口順子大臣には報告したということでございますが、どの範囲で報告されたのでしょうか。自殺の背景、動機まで報告されたのでしょうか。
塩尻政府参考人 
当日、平成十六年五月六日ですけれども、上海総領事館から電報の形で本省に報告されております。その報告が川口大臣にも上がっております。
それから、その後の中国に対する厳重な抗議あるいは事実関係の究明、こういったことについても川口大臣に報告、相談をして対応してきたところでございます。
稲田分科員 
そうしますと、川口順子大臣も自殺の背景までも御存じであったというふうに伺っておきます。
 さて、お聞きしましたところによりますと、昭和五十五年以降、国内で三人、国外で五人の外務省の職員が自殺されたというふうに聞いております。その背景についてはまたきちんと調べていただきたいと思うんですけれども、本件のようなハニートラップという古典的な諜報活動に対し、電信官の命を守れなかった外務省についての批判もあるところだと思うんですが、今後、外務省として、そういったことに対する外務省の内部での教育についてどのように考えていらっしゃるのか、お伺いしたいと思います。
塩尻政府参考人 
 これまでもそういった体制をとり、研修、研さんをやっておりますけれども、今回の経験に立ってもう一度組み立て直すということで、情報防護について再確認をする、対処方針というものがありますけれども、それを再度徹底するということでございます。それと、必要な研修、研さんをさらに強化するということで対応したいというふうに思っております。
稲田分科員 ぜひよろしくお願い申し上げます。
 最後に、インテリジェンス機関の設置の必要について外務大臣にお伺いいたします。
 元内閣情報調査室長であり、昨年九月十三日に「対外情報機能の強化に向けて」という提言を出した対外情報機能強化に関する懇談会の座長である大森義夫氏が、ウイルの三月号に、上海領事自殺事件はインテリジェンス戦争における一つの敗北であり、一個人を超えて日本として国家が敗北したのだというふうに述べられております。
 今回の事件を教訓として、日本でも専門のインテリジェンス組織をつくることが必要であるという意見がありますが、この点についての大臣の御所見をお伺いいたします。
麻生国務大臣 
 これがいわゆる機密保護法とかいろいろな法律と関係してくるところなんだとは思いますけれども、稲田先生、この種の話というのは、私は、今後さらに考えていかなければいかぬという雰囲気が少しずつおかげさまででき上がりつつあるんだと思うんですね。
私は、いいことだと正直思っております。
少なくとも、ついこの間まで北朝鮮の拉致はないという話だったんだから。そう言う方もいっぱい野党にもいらっしゃいました、その当時は。しかし、今は、やった本人がおれのところでやったと、国家元首が国家犯罪を自分のところで認めておるわけですから、それは随分おかげで時代は変わったんだと思っております。
 この種の話というのは、やはり長いこと忘れられている話なんですけれども、これは日露戦争にさかのぼってずうっと諜報というのはやってきたんですけれども、ただ、稲田先生、諜報とか情報とか謀略とかいう話は、何となく日本の世界じゃ余り評価は高くないんですよね。MI5とかMI6とか、あれはみんなサーがつくんですよ。サー何々。こちらは大体らっぱとか草とか、大名のお目見え以下みたいな形で、もともと地位が低いんですよ。こういう話を全然評価しない。だから、情報というのは暗い話になるんですよ。
 これこそが国家の大問題なんだという意識というのは、やはり日露戦争の明石元二郎初め、やはりすごく大事なところなんだ、私もそう思っていますし、おかげさまで、やっと防衛庁も情報関係の人は佐官じゃなくて将官までいけるようになったのもつい最近の話ですから。
 そういった意味では、この種の話に関してもう少し理解というものと大切さというものを外務省以外の人たちにもよくよく理解をさせるようにしないと、この種の話はいつまでたっても何となくスパイ小説の域を出ないみたいな話じゃこの国にとってはためにならぬと思いますので、今言われましたように、今後十分に検討されてしかるべき問題なんだと思っております。
稲田分科員 
 大変力強いお言葉、ありがとうございます。
 今回の事件は、自殺された電信官にとっても不幸な出来事ですし、また我が国にとってもインテリジェンス戦争の敗北というべき不名誉な出来事だったと思うんですけれども、せっかく麻生大臣のような国益を守るという立場で外交を考えていらっしゃる大臣に恵まれているわけですから、この機会に日本としても専門のインテリジェンス組織をつくって、国家としての情報機能を真剣に考えるべきときではないかというふうに思います。
 本日はどうもありがとうございました。

「自分はどうしても国を売ることはできない」とA領事は自殺した。

http://www2s.biglobe.ne.jp/%257Enippon/jogdb_h18/jog436.html
1.「A君は卑劣な脅迫によって、死に追い込まれた」
これ以上のことをすると国を売らなければならない。・・・自分はどうしても国を売ることはできない。
 こんな悲痛な遺書を残して、上海の日本領事館でA領事が首をつって死んだのは、平成16(2004)年5月6日の事だった。この遺書を読んだ杉本総領事は翌日、館員全員を集めて、涙ながらにこう語った。
「A君は卑劣な脅迫によって、死に追い込まれた」
 Aさんは国鉄に勤めていたが、分割民営化に伴い、外務省で再雇用された。アンカレッジやロシアで勤務した後、本省を経て、平成14(2002)年3月に上海総領事館に単身赴任した。
 着任後数ヶ月して、同僚に連れられて、上海市内の日本人目当てのカラオケ「かぐや姫」に行った。そこで一人のホステスと親しくなった。
 平成15(2003)年6月、そのホステスが「私を助けて。私を助けると思って、私の『友人』に会って、、、」と必死に懇願した。ただならぬものを感じたAさんは、懇願に応じて、『友人』に会った。
その一人が「唐」という中国情報機関のエージェントだった。
彼らは日本人と親しくしているホステスたちを売春の罪で摘発し、「客の名前を言え。でなければ辺境に送って、強制労働させる」と恫喝したのである。
彼らはA領事の名前を聞いて、これだとばかり狙いを定め、そのホステスをさらに脅して、Aさんに紹介させたのである。
2.「我々は一生の『友人』だからな」
 唐らははじめのうちは極めて紳士的にAさんに接した。おそらく「領事館の要員表が手に入らないだろうか」といった、当たり障りのない情報を求めたのだろう。
領事館の現地人スタッフは、みな中国政府から派遣されており、この程度の情報は筒抜けになっている
のだが、
まずは当たり障りのない情報から聞き出して、徐々に機密性の高い情報に迫っていくというのが、彼らの常套手段である。
 Aさんは唐とこれ以上つきあっているのは、まずいと思ったのだろう。平成16(2004)年4月に本省人事課に転属願いを出し、すぐにロシア・サハリン州の在ユジノサハリンスク総領事館に異動が決まったのである。
Aさんは異動の件をつい、なじみのホステスに話してしまい、彼女を通じて、それを知った唐は、掌を返したようにAさんを数日にわたって脅迫した。
 我々に協力しなければ、ホステスとの関係を領事館員だけでなく、本国にバラす。お前とホステスとの関係は、わが国の犯罪に該当する。まぁ、いい。お前がユジノサハリンスクに行っても付き合おう。我々はロシアについては色々知りたい。我々は一生の「友人」だからな。
3.「国を売ること」はできない
こう脅しながら、唐がAさんに要求したのは、日本の暗号システムだった。
Aさんは、領事館と本省との通信を担当するただ一人の「電信官」だった。業務の中でもっとも重要なのが、「秘」「厳秘」の公電にかける暗号の組立と解除だった。電文を「暗号コード」で変換し、衛星を経由して日本に送る。逆に日本からの電文をその「暗号コード」で解読する。
中国の情報機関は、衛星経由でやりとりされる通信を傍受しており、その「暗号コード」が入手できれば、領事館と外務省とのやりとりをすべて把握できる。
 Aさんが異動すると聞いた唐は焦り、執拗に脅迫した。
電信官として暗号コードを渡すことは、「国を売ること」になる。それをAさんは自らの命を絶つことで、拒否したのである。
 Aさんの死を確認した杉本総領事は外務省本省に報告するとともに、館員をすぐに「かぐや姫」に向かわせた。しかし、すでに唐はもちろん、ホステスも姿を消していた。
4.「ハニー・トラップ(蜜の罠)」
 Aさんを脅迫した中国情報機関の手口は、「ハニー・トラップ(蜜の罠)」と呼ばれる古典的なものである。冷戦初期にソ連のKGB(国家保安委員会)や、中国情報機関が使った常套的な手段で、欧米の外交官や政治家が自殺する事件が起きた。
 アメリカやヨーロッパ諸国は、60年代にその対策として、ハニー・トラップで脅された場合、直ちに担当機関に届け出るようにした。アメリカであれば、大使館や領事館にFBI(連邦捜査局)やCIA(中央情報局)のセキュリティ担当官を置き、ハニー・トラップに引っ掛かった外交官は、彼らに届け出て、包み隠さず事態を話せばよい。
 セキュリティ担当官は、醜聞は公開せず、処分もしないという事を前提に、対策を指示する。ときには、その外交官に脅迫に従う振りをさせて、相手がどんな情報を欲しがっているのか探らせることもある。さらには、わざと真実の情報を渡して、相手の信頼を掴んでおき、ここという時に虚偽の情報を流して、相手国の政策を誤らせる。
70年代に入ると、欧米諸国ではこうした防諜システムが当たり前になって、ハニー・トラップは効果がないとして使われなくなった。
こんな古典的な手口に乗るような国は、今や日本ぐらいしかない。
欧米諸国で30年も前に実施している「ハニー・トラップ」対策が実施されていれば、Aさんが自殺する事もなかったのである。
5.「諜報戦争の備えを怠れば、、、」
 Aさんの例は氷山の一角に過ぎない。内閣情報調査室室長だった大森義夫氏は、こう語っている。
 私は1963年に東京大学を出て警察庁に入り、警視庁に配属されました。その頃、大学のクラスメイトだったH君が自殺しました。H君は外交官の名門出で、自身も外務省に入りました。ドイツ語は教授よりもうまく、とても優秀でした。
 彼も諜報工作、今回の事案と同じく女性を使った「ハニー・トラップ」に引っかかったと我々は聞かされました。場所は当時、東西冷戦が火花を散らすベルリンでした。
 あれから四十年余の歳月が流れました。私は友の死を想うと同時に、彼が外交官として順調に出世していたらどうなっていたか? と思います。諜報戦争の備えを怠れば有為な人材の生命だけでなく、国家利益の長期にわたる流出につながるのです。
 H君以外にも、あるいは自殺に至らなくとも、旧ソ連東欧圏を中心に、日本人の「被害」は私の聞いているだけでも何件もあります。旧ソ連KGB要員で1979年に日本を経由して米国に亡命したスタニスラフ・レフチェンコの米国議会における公式証言によっても、日本人公務員、政党関係者、ジャーナリストなど多数が「獲得」され、金銭報酬と引きかえに日本の機密を売り渡していたのです。
6.国を売った「ミーシャ」
一国の中枢に潜り込んで、出世し、外国に機密を売ったり、場合によっては政策までねじ曲げてしまう人間を、イギリス情報部の言葉で「モグラ」と呼ぶ。
AさんやH君が自殺せずに、そのまま国家機密を売り渡していたら、その「モグラ」になっていた処である。
 最近、公開された旧ソ連時代の公文書では、KGB史上、最も特筆されるべき「ハニー・トラップの成功事例」が明かされているが、それも日本外交官が「モグラ」となったケースであった。
「ミーシャ」というコード・ネームで呼ばれている、日本人外交官は1970年代にモスクワの日本大使館で、Aさんと同様、電信官を勤めていた。そして、ハニー・トラップに引っかかり、モスクワ時代にKGBに機密情報を流し続けた。
 ミーシャは、その後、帰国して、本省で電信暗号関係のより重要なポストについた。KGB東京支局は、何人ものKGB部員を専属としてつけた。この頃には、ミーシャは大金を報酬として受け取り、積極的に情報提供を行うようになっていた。
 東京の外務省本省と全世界の在外公館との文書が、全てKGB側に流れた。さらにミーシャは日本の暗号システムもKGBに知らせていた。ミーシャのもたらす情報は、常にクレムリンのトップまで報告されていた。特に重要なのは、ワシントンの日本大使館が本省に送ってくる情報で、アメリカ高官の情報や、米ソ関係、NATO関連の情報がソ連に漏れていた。AさんやH君と違って、ミーシャは金目当てに国を売ったのである。
 前述のレフチェンコ証言でKGBの東京支局は機能停止に陥ったが、ミーシャの存在は暴露されなかったので、闇から闇に葬られてしまった。今頃は、多額の退職金と年金を貰って、幸福な晩年を送っているかもしれない。
7.「外務省としては何も手を打っていない」
「モグラ」は現在の日本にも大量に生息しているようだ。
 昨・平成17(2003)年、中国のシドニー総領事館の一等書記官がオーストラリアに亡命する事件が起きた。

彼は日本国内にも現在1千人を優に超える中国のスパイが活動していると証言している。

 また、ある外務省職員は匿名で次のような内部告発をしている。

彼が自殺したからこうして発覚したのですが、こういう「ハニー・トラップ」を受けている大使館員はけっこういると聞きます。氷山の一角なんです。何度も中国に勤務しているキャリアで工作を受けていると噂されている人はいます。でも外務省としては何も手を打っていない。
ましてや、今回のことはノンキャリアの身に起こったことで、面倒くさいなくらいが、上の感覚じゃないんですか、正直なところ。
 そういうことにたいして、チャイナ・スクールの若手やノン・チャイナスクールの人たち、われわれノンキャリアのなかには、猛烈な不満を持っている人たちが多いことは確かです。私だってそのうちの一人です。
 いずれにせよ、早急に求められているのは、カンウンター・インテリジェンスのルール確立です。でなければ、自殺までした彼が浮かばれないと思います。
8.事件を握りつぶそうとした外務省
「何も手を打っていない」外務省は、今回のAさん自殺事件でも、まさに「面倒くさいな」とでも言いたげな対応しかしていない。
 A領事自殺の数日後、調査チームが派遣され、約1週間にわたって、事情聴取を行った。電信システムに異常は見られなかったが、念のために、暗号システムを変更した。そして、最終的に、「A領事の自殺の原因が、中国の情報機関当局の脅迫によることは揺るがしがたい事実である」と結論づけた。
 そして中国政府幹部に、川口外相の名前で「厳重に抗議する」と申し入れたが、相手は「調査する」という回答のみで、いまだにまともな返事が返ってきていない。
川口順子外相は、本件を小泉首相に報告もせず、また中国政府からまともな回答もないのに、後任の町村外相に引き継ぎもしなかった。
外務省内でも厳重な箝口令が敷かれ、Aさんの名前は翌年の外務省職員録から静かに外された。外務省は明らかにこの事件を秘密裏に葬り去ろうとしたのである。
「文春」のスクープで、事件が発覚すると、中国大使館は次のようなコメントをそのホームページに掲載した。
 中日双方はこの事件の性格についてつとに結論を出している。1年半たったいま、日本側が古いことを改めて持ち出し、さらに館員の自殺を中国側関係者と結びつけているのは、完全に下心をもったものだ。われわれは、なんとかして中国のイメージを落とそうとする日本政府の悪質な行為に強い憤りを表明する。
9.異常な外務省の姿勢
 日中両国が加盟する「領事関係に関するウィーン条約」は第四十条で「領事館の保護」に関して、次のように定めている。
 接受国は、相応の敬意をもって領事館を待遇するとともに、領事官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害も防止するためすべての適当な措置をとる。
今回のAさんへの脅迫は、ウィーン条約の明白な違反である。
それが「日本政府の悪質な行為」とされてしまっているのである。
中国の厚顔無恥な姿勢は今更驚くべき事ではないが、それにもまして、問題なのは外務省の対応である。
 本来なら外務省は事件直後に、Aさんの遺書を公開して、世界に対して「中国はこうした野蛮な工作をする国である」とアピールするとともに、東京で諜報活動をしている中国外交官を何人か名指しにして国外追放にするのが、外交の世界ではスタンダードな報復措置である。それを、おざなりな抗議で納めてしまっては、中国は「日本はこの件で事を荒立てたくないのだ」というシグナルとして受け取ってしまう。諸外国は「日本は与しやすい。日本の外交官にハニー・トラップをかけても、リスクはない」と見るだろう。この異様な外務省の姿勢は、官僚的な事なかれ主義から来るのだろうか。あるいは、日本国内で千人を超えるという中国の「モグラ」の一部が外務省に巣くっていて、その政策をねじ曲げているのだろうか。
いずれにしろ、外務省の体質にメスを入れなければならない。

明らかになった上海領事館員の遺書 ~国を守った人物の残した意思~

http://ameblo.jp/lancer1/entry-10010785295.html
「国を売ることはできない」と言って自殺をされた領事館員が、自らの受けた工作活動を、証拠の文書と共に、わざわざ詳細に遺書に記したのはなぜでしょうか。
それは祖国日本に対して警鐘を鳴らし、そして中国の不当な工作活動を世に知らしめたかったからではないでしょうか。
工作機関の要望通りの情報を渡していれば、死ぬことはなかった。むしろ大金を受け取っていたかもしれない。そして何も公になることなく、後の人生をい歩むことができた。
しかし日本という国を愛していたが為、祖国を売らない為に彼にはそれができなかった。誰しもができる行為ではありません。
そんな人物が最後に残した遺書と証拠文書とは、何を思い、何を願いながら作られたものかは、想像に難くありません。
 日本政府は、彼の残した”意思”を無駄にするべきではありません。中国の逆抗議に対して黙っているのではなく、今からでも全容を証拠と共に中国に突きつけ、全世界に中国のウィーン条約違反の実態を知らしめる程度のことは少なくともすべきです。日本政府は、彼の残した意思まで殺し、結果として彼を”二度”殺すことをしないで欲しい。事を荒立てないように穏便に済ます。自らの命と引き換えに国を守った彼がそんなことを望んでいるとは思えません。
http://megalodon.jp/2013-0817-2152-24/ameblo.jp/lancer1/entry-10010785295.html

上海総領事館職員自殺「これは日本の国権への攻撃」 - 佐藤優氏

http://cuttingedge.blog18.fc2.com/blog-entry-34.html
 在上海領事館の男性職員(電信官)が「女性問題」をネタに中国公安当局に情報提供を迫られ、自殺した事件が日中関係に激震を走らせている。
亡くなった電信官には筆者も現役時代に仕事でお世話になった。中国公安当局の罠にはめられ、死という形でしか問題を解決できなかった彼の気持ちを思うと胸が締めつけられる。
ご冥福をお祈りするとともに、ご家族、近親者の皆様に衷心からお悔やみ申し上げる。
外務省はこの事件をこれまで公表しなかった理由について「遺族の強い要望」(昨年12月28日、鹿取克章外務報道官会見)としているが、これはすり替えの論理だ。
本件は電信官に対する人権侵害であるとともに日本の国権に対する攻撃なのだ。北朝鮮による拉致事件と同じ次元の問題だととらえる必要がある。
 本人の脇が甘く、行動に問題がある場合でも、外交官は日本国家を代表している。中国公安が「女性問題」で電信官を脅し、情報提供を求めたことは、「接受国は、相当の敬意を持って領事官を待遇するとともに、領事官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害も防止するためすべての適当な措置をとる」(第40条)と定めた「領事関係に関するウィーン条約」に違反する。
軍人、外交官は状況によっては無限責任、つまり国益のために自己の生命を捧げることもあるというのが国際基準だ。従って、今回の事件に関しては、個人の人格権の枠組みを越えた対応が国権の観点からなされなくてはならない。

本件について、我々日本人は本気で怒るべきだ。

感情的にならず中国政府に非を認めさせ、謝罪させる戦術を組み立てることだ。日本が被害者で中国が加害者であるにもかかわらず、中国側は「1年半たった今、日本側が古いことを改めて持ち出し、さらに館員の自殺を中国側関係者と結び付けているのは、完全に下心を持ったものだ。われわれは、なんとかして中国のイメージを落とそうとする日本政府の悪質な行為に強い憤りを表明する」(12月30日、奉剛中国外交部報道官発言)と開き直っている。
中国側は明らかにウソをついている。
しかし、川口順子外相 - 竹内行夫事務次官時代に、外務省からインテリジェンス専門家が一掃されたため、日本側の交渉技法が稚拙になり中国につけ込む隙を与えてしまっているのだ。
日本政府はまず、中国公安が電信官に情報提供を強要したことを裏付ける動かざる証拠を突きつける。そして、「中国側からの回答を待ちたいと思います」(鹿取外務報道官)などの寝言ではなく、48時間あるいは72時間の回答期限を一方的に通告し、中国側を追い込んでいくのだ。
中国側は日本世論の性格を熟知している。今後の謀略戦で、日本の有力政治家、幹部外交官の中国におけるセックス・スキャンダルがリークされるであろう。
中国側の意図は、日本国民の怒りを日本国内に向け、中国の違法行為から目を逸らさせることだ。
 中国筋からのリークであろうとも、それが事実ならば政治家であろうが外交官であろうが責任をとるのは当然だ。しかし、責任追及は日本人の手によって、日本国家の名誉と尊厳を棄損しない形で行わなければならない。現在、日中間では目に見えない「情報戦争」が行われていることを認識する必要がある。
http://megalodon.jp/2013-0817-2204-40/cuttingedge.blog18.fc2.com/blog-entry-34.html

最終更新:2013年08月17日 22:04