衆 - 大蔵委員会 - 22号 昭和25年02月28日


出席政府委員  大蔵事務官(主税局長)  平田敬一郎君

平田政府委員 
 直接税と間接税の比率に関しましては、いろいろな議論があろうと存じますが、今回の税制改正におきましては、
取引高税とか織物消費税、通行税、それから物品税の一部等につきましては、相当廃止または軽減をはかつたのであります。
つまりシヤウプ勧告によります税制の建て方としましては、

大衆課税的な性質の多い間接税は、廃止または縮減するという方針になつておりまして、さような考え方で私どもも立案いたしておるのでございます。

 ただ一面におきましては、酒の数量が相当増加いたしましたし、タバコの消費が何と申しましても相当多額に上つておるといつたようなところからいたしまして、酒とタバコだけでそれぞれ千二百億及び千三十億という巨額な収入をあげておりますので、間接税がなお相当多くの部分を占めております。今御指摘になりました比率は、地方税を入れない比率でございまして、地方税を入れますと、さらにもう少し直接税の比率が多くなるようであります。すなわち大体五六%程度が直接税でありまして、間接税が三七%、その他が七%になるかと思います。しかし附加価値税は一応その他で計算しておりますので、これを直接税に入れますとさらにふえまして、六〇%前後が直接税に入るということに相なつております。これは今申しましたように、大衆課税的間接税は極力なくしますが、酒タバコの間接税が相当多くを占めて来たということが大きな原因でありまして、税制自体の表面から見ますと、実はこの表の示すものよりもさらに一層間接税が減りまして、直接税が多くなるわけでありますが、比率として申しますと、改正前に比べますと、それほど直接税は増加いたしておりません。むしろ二十四年度に比べますと、若干直接税の方が減つております。これは所得税等におきまして、五百億円程度の減税を行つたからでございます。さような状況でございます。日本も戦前におきましては、これに対しまして直接税は五〇%以下でございまして、大体四五%かそこらを占めていたのでございます。間接税がむしろ多くて五〇%前後を占めていたのでございますが、戦争中を通じまして、直接税について相当増税をし、また戦争中は法人の事業所得が多くて、法人税が相当入つて来ましたために、直接税がふえて来たのであります。それが戦後は逆転しまして今申しますような事情によつてまた間接税が増加して来たというのが現況であろうかと思います。外国の場合と比較しますと、アメリカは非常な直接税中心主義でありまして、御承知の通り八〇%以上も直接税でまかなつております。
イギリスも昔からあまりかわりませんが、やはり直接税中心主義であります。
これに反しドイツ、フランス等の大陸諸国におきましては、むしろ日本と同じように直接税の方が少いのであります。ことにフランスドイツにおきましては、その他に属する売上げ課税が相当多く占めておりまして、ドイツでも二〇%前後売上税が占めております。フランスにおきましても取引高税、生産税等の流通課税が約三〇%以上も占めておるような状態でございます。直接税の比率は比較的少くなつております。

しかし税収入といたしましては、シヤウプ勧告は特にその点強調いたしておるのでありますが、やはり直接税の方が理論上よい。

従つてやはり理論上よい税金をまともに徴収しまして、それによつてほんとうにデモクラシーの原則に即応する政治をやるのがよいのだ。

これは負担力の点からはもちろんのこと、あらゆる見地からしましてその方がよいという意見のようであります。
 従いまして今回の改正案も大体そのような傾向を持つておるのでございまして、考え方としまして、最近だけの現状をとらえますと、あるいは間接税の方に依存した方が相当よいのではないかというふしもございまするが、たびたび説明しておりまするように、税制はたびたび改正するのはどうも関心しないのでございまして、なるべく一旦改正しました税制は、その情勢が著しき変化がない限り、ストラクチユアはあまりかえない方がよいという前提に立つておりますので、
やはり直接税を中心とした税制ということに結論がなつたものだと考えておるのでございます。
 さような状態から考えますと、日本の税制はむしろドイツ、フランス、イタリア等の大陸の国よりも、さらに一歩進んだ米英のシステムに近いものになつたということができるのではないかと考えるのであります。御指摘の、法人の業績がもう少し振いまして、この方の税金が相当ノーマルな状態に帰つて来ますれば、もつと直接税の比率が多くなつて来るような税制になつております。そういう点から申しますと、相当理想を追つた課税制度ということは確かだと考えるのであります。最近は大きな法人が、実際の仕事のボリウムに対しまして利益が少い。資本金もまだ再評価しない昔のままの資本金でございますので、増加はしておりますが、固定資産の実質から申しますとまだ少い。従つて利益も相対的にまだ少いものになつております。これが法人の税金の多くない最大の原因だと考えますが、私はおそらく今後経済が徐々に平常化し、発展するに伴いまして、法人の税金というものは相当急激にふえて来るのではないか、またふえて来るようでなければ、ほんとうの経済の発展は期せられない、かように考えておるのであります。そういうことになりますと、さらに一層直接税が多くなつて来るような税制になつております。そういう税制を実は今回全体として作成して提案しておるような次第であります。
北澤委員 
 お話のように、税制の理想から申しますと、大衆課税である間接税を避けて、直接税にした方がよいということはその通りであります。しかしながら日本の実情から申しまして、特に終戦以来の日本の実情から申しますと、残念ながら国民の道徳が非常に頽廃しておる。従いましてせつかくアメリカ式の申告納税主義をとりましても、なかなかまじめに申告しない。またアメリカ人やイギリス人に比べまして、どうも日本人は公徳心に欠けておる点が相当多い。従いまして税金はなるべく免れた方がよろしいというふうな空気が非常に多いのであります。こういう国柄あるいはこういう国民性の国において、英米流の直接税中心主義をとるということに行つてよいかどうか、私は疑問を持つておるのでありますが、これもだんだんと日本の経済も安定し、国民の道義心も高まり、国民の公徳心も高まつて、ほんとうに国家の税金を進んで負担するということになりますれば、もちろん米英流の直接税中心主義でよいと思うのでありますが、何分にも日本の国民性、特に終戦以来の道義の頽廃した日本におきまして、そういうふうな直接税中心主義をそのまま急にとるということにつきましては、私は疑問を持つておるわけでありますが、政府のお考えもわかりましたから、この点に関する質疑はこれで打切ります。
 もう一つ伺いたいのは、やはり直接税中心主義でありますが、国の状態がインフレの場合と、デフレの場合と、この二つの場合において一体直接税中心主義をどうとるか。インフレの場合には、御承知のように通貨の下落によつて国民大衆は税金をとられるのと同じような状態でありますので、私はインフレの時代には直接税中心主義もよいと思うのでありますが、デフレになつて、国の経済が不況になるというふうな状態になりますと、多少そこに手心を加えて、やはりある程度間接税というものを用いる必要があるのではないか。インフレの場合とデフレの場合について、直接税中心主義をとるにつきましても、手心を加える必要があるのではないかと考えますが、この点に関する御所見を承りたい。
平田政府委員 
 なお先ほどの説明に若干つけ加えておきたいと思いますが、
税制の理論から申しますと、やはり直接税の方がよいということの疑問の余地のないことは、お話の通りでございます。
 そういたしまして今の日本の実情から申しますと、たとえば申告所得税等はたしかに徴収成績が非常に困難をきわめておりまして、納税者も納めにくいし、政府の方もなかなか適正な徴収に手を焼いておるというのが現状であります。しからばこれを捨てて何かほかの方法によるかということになりますと、やはりそれではいけないのじやないか。どうせ戦後におきましてはいろいろ条件が悪くなつておりまするが、しかし向うべき方向はやはり
民主主義の原則に従いまして、正しい財政なり、正しい政治を運用して行くということにあるといたしますれば、やはり税制の面におきましても、そういうことに即する税制を打立てて行くか、税制を通じてあるいは税制自体の中におきましても、正しい理想的な方向に向つて進んで努力して行くというのが、行くべき方法じやなかろうかというのが、シヤウプ博士の強い見解
のようでございます。それは決して不可能の道ではなくて、相当お互いにめんどうではあり、あるいは過渡的に困難であり、トラブルもあるだろうが、努力次第では十分できるのではなかろうか、またそういうことにならなければ、ほんとうに健全なる民主主義に基く財政及び政治の運用はできないのじやなかろうか、こういう考え方のようでございます。ことに市町村等におきましては、特にそのことが強調せられておりまして、市町村はほとんど固定資産税を、新しい住民税で九〇%以上まかなうことに相なるのであります。これは納税者からまともに納めてもらう税でありまして、そのことによつていろいろ税自体に対しましても文句がございますし、こういうことを通じて市町村税等に対しましても、住民が非常に強い関心と批判が生れて来る。それによつて初めて市町村税等も民主主義の原則に適合して非常によいものになる。それに合格しなかつたらほんとうによい政治はできない。こういう考え方が大分あるようでございます。これは私どもも理想といたしましてはまさにその通りでございますので、方向としましてはこういう方向に向うことにいたしたのでございます。
 それからいま一つの論点でございますが、インフレの場合は直接税がよくて、デフレの場合は直接税だけでは不十分ではないかという御議論でございますが、この点に関しましても、実はこれは私政府の考えというのではありませんが、最近の有力な考え方は、
インフレの際には税の収入がふえまして、インフレをチエツクするという作用を営む。財政におきましても税の収入がふえ、剰余金を生じて、国債等は返すというような租税制度が理想的である。
そうなりますと、相当インフレを押えるという力がありますから、そういうような税制がよい。その点から行きますと、ことに
累進所得税が一番よいという考え方のようでございます。

累進税率でありますと、所得がたとえば一割ふえますと税収入は一割五分ふえる。所得が二割ふえますと、税収入は三割もふえるというような関係になるのでございます。

そういうような状態でございますから、やはり累進所得税がよいのではないか。その反対にデフレの場合におきましては、これは一つの相当進んだ考え方だと思いますが、むしろ相当はげしいデフレになりそうな場合、あるいはなつた場合におきましては、税収入は相当減つてもよいのではないかという考え方のようであります。そうしまして場合によりましては、国庫は赤字を出しましても、必要な公共事業等を行いましてそれによつて投資を促進し、購買力を増加して、景気の回復をはかり、デフレからの回復をはかる、そういう財政政策がよいのではないか、こういう有力な学説がございます。そういう説に従いますと、累進所得税の場合、所得税が二割減りますと税収入が三割も四割も減るという関係になりますし、また実際納税者の負担から行きましても、デフレで所得が減つた場合におきましては、税率は所得が減つた以上に税の負担が減ることになりますれば、かえつていいのではないか、こういう見方があるのでございます。そういう点から行きますと、やつぱり個人所得税、ことに累進所得税を中心に考えた方がよいのではないかという有力な説でございます。しかしこの辺につきましては在来の常道論から申しますと、デフレがあつて、国庫財政が非常に収入が少くなるという点から申しますと、あるいは直接税よりも間接税の方がいいのだということも言い得るかと思いますが、この辺のところにつきましては、いろいろ今後検討に値する問題があろうかと思います。一説を御紹介しておきます。

最終更新:2013年07月23日 10:36