非エロ:提督×秋雲3-68

提督×秋雲3-37の続き

 


「じゃっじゃ~ん!秋雲さん特製の晩御飯だよ~」
ちゃぶ台の上には炊き込みご飯、豚汁、ハンバーグとサラダが並んでいた。ハンバーグの少し不恰好な形から、手作りだと分かる。
「なんだ、意外に料理はできるんだな」
素直に感心すると秋雲は右手でVサインを作った。
「どうどう?惚れ直した?」
「さぁ、食べてみないと分からないな」
「もぉー味もいいに決まってるしー」
「じゃあ食べるか」
私が手を合わせると秋雲もそれに倣った。いただきます、と二人の声が重なり、箸を掴んだ。ハンバーグを一口サイズに分けて舌に乗せた。風味も味も申し分がない。歯の圧力を肉にのせると肉汁が中から零れ落ち口内を蹂躙した。さらに噛み締め感触を味わう。そうやって幸せな気分に浸っていると秋雲がややぁと話しかけた。
「っつーか提督ー、いくら偵察で様子見だからって翔鶴をサブ島沖に行かせて良かったの?」
「錬度はまだ高くはないが… 随伴に北上たちがいるから大丈夫だろう。状況によっては即時撤退の命も出している。多少の損傷も経験の内だ」
うーん、と秋雲は浮かない顔だ。
「うちって正規空母も軽空母も少ないよねー」
「そうだな… あわよくば今回の出撃で新しい空母と出会えるといいんだが… 建造は、中々運に恵まれないから」
「二航戦がいたらいいのに~あ、でも××の方がいいかな~」
秋雲はニカッと笑う。
「××がずっと描きたかったしー!」
私は何も言わず、ただ曖昧に笑い返した。先ほどまで美味に感じていたハンバーグが急に味気ないものへと変わった気がした。
コン、コンコン。
無機質な音に体が跳ねた。音の方向へ振り返る。部屋のドアから音は聞こえていた。
コンコンコン。
先ほどよりもさらに強い音が室内に響く。最初に驚いていた私だが、段々と怒りが込み上げてきた。プライベートルームの場所は艦娘には教えてはいるが、何かある場合は携帯による連絡のみを徹底させていたつもりだった。部屋には直接来るなとも分かり易く丁寧に命令したはずだ。ルールを破ることを厭わない音が私の神経を逆撫でする。
ドン!ドン!ドン!
音が益々乱暴になった。私は箸を置くと立ち上がり急ぎ足でドアへ向かう。居間の襖を閉めることは忘れなかった。一体誰だ、私の空間を邪魔するものは。私と秋雲だけのこの居心地のいい空間を――――――理由によっては私はそいつを、
ドアの鍵を解除した。乱暴な音に紛れてカチッと音がした。ドアノブを引く。チェーンロックはつけたままなので五センチしか開けなかったが、怒りで沸騰していた私の頭はその音の正体を見て一気に顔が青ざめた。
「提督さん… 直接お話があるんです。いいですか」
久々に見た顔は怒りを抑え込んでいるように見えた。ここで話すのは不味い、私はそう感じると外で話そうと提案した。相手は了承するとドアから離れて隙間からは見えなくなった。私は急いでチェーンロックを外してドアノブをさらに引いた。極力開けるスペースを狭くして私一人がギリギリ通れる程度にした。そんなことをしなくても居間の襖を閉めているのだから、秋雲からは見えないのに。
部屋から出てすぐに私はドアを閉めた。ペンダントを首から取りドアに鍵を挿して回した。もちろん南京錠も忘れなかった。
「………随分用心深いのね………」
私の徹底ぶりを見て声が僅かに動揺していた。このような姿を誰にも見せたくなかったが、私の部屋を守るためにはこうするしかなかった。
「……外に行くぞ」
ペンダントを再び首にかけてから私は歩き出した。私の後ろから足音がついてきた。
数分歩いて、棟の外へ出た。辺りはすっかり暗い。出入り口に飾られている明かりの下で私たちは立ち止まった。
「話はなんだ」
そう問いかけずとも私には何の話かは察していた。
「……先輩たちから提督さんの話は聞いてる。みんな提督さんのことを信頼しているし、提督さんも艦娘を大事に扱ってるって…ちゃんと分かる」
どうやら艦娘たちの間では私の評判は悪くはないようだ。
「仕事以外だとちょっとそっけないって言われてるけど…でも優しい人だって分かる。新参者の私にも色々教えてくれた――――――最初の頃は」
声のトーンが低くなった。
「提督さんには提督さんの考えがある。それが何なのか分からないけど……信じてた。信じようとしてた。きっとその内前みたいに戻るって思いたかった。だからずっと我慢していた」
目が悔しさと怒りで震えていた。
「自分のことなら我慢できる…でも、でも翔鶴姉は何も関係ない!私の、瑞鶴のことで責めないで!」
怒気を孕んだ声で相手は――――――瑞鶴は私に言った。
「……翔鶴が話したのか」
「…部屋から港を見てたの…何を話しているかまでは分からなかった。でも翔鶴姉の様子がちょっと変だったから…無理矢理問い詰めただけ。翔鶴姉はどうってことない、自分は大丈夫だって言っていたけど……」
瑞鶴は私を真っ直ぐ見ていた。翔鶴と同じ瞳の色だ。
「提督さんは、瑞鶴が嫌いなの?」
「…嫌いではない。艦娘のお陰で深海棲艦と対抗できるんだ、感謝しているよ。もちろん…瑞鶴にも」
「ならどうして瑞鶴を前線から遠ざけるの?演習も、遠征にも出さない。装備もすべて外して、寮外へ出るなって命令して……瑞鶴がここに来た時はちゃんと指導してくれたじゃない。それが突然…こんなことになって…」
瑞鶴が来てからしばらくして、私は瑞鶴から戦う為の術をすべて取り上げて寮棟に閉じ込めた。閉じ込めた、といっても監禁した訳ではない。寮内なら自由に歩き回る許可は与えていた。外出することだけを禁止したのだ。私は明確な理由を伝えず艦娘たちは困惑を隠せなかったが、みな黙って従っていた。不当な扱いを受けた瑞鶴も私の決定に逆らわなかった。瑞鶴には逆らえない理由があったからだ。
「……瑞鶴が気に入らないなら瑞鶴だけを嫌ってください。翔鶴姉には何もしないでください。いっそのこと、」
瑞鶴は迷いなく、言った。
「解体でも素材にでもしてください。瑞鶴は提督さんの命令に逆らったんだから」
最初に瑞鶴に外出禁止を言い渡した時はもちろん瑞鶴は納得しなかった。だから私は反抗の意思を殺がせる為に、命令に逆らえば解体または近代化改修の素材にするとも言ったのだ。瑞鶴はそれを聞いて渋々ながら私に従った。周りの艦娘も私に余計な刺激を与えないように瑞鶴の話題を極力避けた。翔鶴もだ。
瑞鶴は私から目を逸らさなかった。翔鶴と同じ色の瞳には自暴自棄と諦めと反発心が入り混じっていた。私は目を逸らした。
「……寮に戻れ。今回のことは不問にする」
「提督さん…?」
「下がれ瑞鶴。何度も言わせるな」
数秒、数分の沈黙が流れた。足音が聞こえ、ついに遠くなっていった。私はようやく顔をあげて瑞鶴が去ったであろう方角を見つめる。闇が広がっていて、瑞鶴を覆い隠していた。
「………」
私は棟の中へと入った。エレベーターに乗り、十五階のボタンを押した。私を入れた箱が上へ登っていく。高い電子音が一瞬なり、ドアが開いた。私は無音の廊下を靴音を響かせながら歩き、自分の部屋の前に到着した。首からペンダントを外しドアノブと南京錠の鍵を解除した。カチャリ。カチャリ。ドアノブを引いて部屋の中へと帰る。ドアの鍵を閉め、チェーンロックもした。室内を振り返ると襖の僅かな隙間から光が漏れていた。電気はついたままのようだ。しかしまるでここには私以外の誰もいないかのように静かだった。
「秋雲?」
名前を呼んでも何の返事も返って来なかった。
「秋雲」
急いで靴を脱いで襖へと手を伸ばす。手が襖に触れた瞬間音が鳴るほど勢いよく開けた。
「お帰り、提督」
秋雲はいた。いつもの笑顔で私を迎えてくれた。私は思わず安堵の息をはいた。
「……ただいま、秋雲」
食事は私が部屋を離れる前と同じ状態だった。
「私に構わず食べていても良かったんだぞ」
私は自分の座布団の上に座りながら言った。
「折角提督のために作ったんだよー?一緒に食べたいじゃん。あとご飯冷めちゃったねー あっためなおす?」
秋雲は部屋に置いてある電子レンジを指差した。私は頭を横に振る。
「いや、このままでもいい。少しぐらい冷めてもおいしさは変わらないさ。秋雲は使いたかったら使ってもいいぞ」
「ん~いいや!私もこのまま食べる!……あ、ねぇ提督」
「どうした」
「誰と話していたの?」
私は落ち着いて自分の箸を掴んだ。
「――――――鳳翔だよ」
そっかぁ、と秋雲は呟いた。
そして私たちは食事を再開した。
 

---------------------

食事が終わると秋雲が食器を片付けた。流し台で皿を洗っている音を聞きながら私は窓の外を見ていた。星が夜空いっぱいに輝いていた。満月も雲に隠れることなく光を照らしていた。これなら翔鶴や赤城たちの航海にも道を指し示してくれるだろう。
「ねぇ、提督ー」
水と食器の音と一緒に秋雲の声が聞こえた。
「何だ?」
急に水の音が途切れた。蛇口を閉めたのだろう。
「本当はさ、――――――」
ブーブーブー。ブーブーブー。
ちゃぶ台の上に置いていた携帯が震えだした。そしてメロディが流れ出し私は慌てて携帯を手に取った。このメロディは緊急事態が発生した場合に使う回線からの着信メロディとして設定していたからだ。
「一体どうした」
携帯の向こうから「司令」という声がした。霧島だ。
「司令、第一艦隊からの緊急通信が入りました」
霧島の声のトーンがいつもより低い。
「通信…?!何があった」
「襲撃を受けたそうです。敵に気付く前に撃たれて…完全に不意打ちです」
襲撃!いつもなら敵の深海棲艦とは日が沈む前に遭遇して戦っていた。それが夜まで続くこともあったが、夜の襲撃は初めてだった。どうやらサブ島沖海域の敵は今までの海域にいた敵とは違うようだ。
「第一は今どうなってる?!」
夜戦となると正規空母と軽空母は何も出来ない。第一にいる翔鶴と隼鷹は無事だろうか。
「……通信が途切れて繋がりません。現状第一艦隊の安否は確認できません」
(なんてことだ!敵に先手を打たれるとは…!)
焦りが全身を駆け巡る。通信機器がやられてしまったのだろうか。頭の中でこれからのプランを考えようとした時に霧島が再び私を呼んだ。
「司令、通信が途絶える前に不知火が言っていましたが……」
「何だ?さっさと言え」
中々切り出さない霧島に腹を立てた。不知火の伝言に打開策のヒントでも何でもあるかもしれないのに、私は霧島を促す。数秒置いてからようやく霧島は言った。
「――――――翔鶴が沈む、と――――――」

続き

タグ:

非エロ 秋雲
最終更新:2014年03月12日 08:05