提督×金剛、提督×比叡2-768


二人の間にだけは特別な絆があると、比叡自身察することはできていた。例えば食事の際、彼女は必ず提督の隣の席へ座っていたし、
あるいは出撃前の作戦会議、司令室に最後まで残るのも彼女であった。視線や交わす言葉、
お互いがただ同じ空間にいるだけで流れだす砂糖菓子のように甘い空気。
上司と部下という関係性だけでは決して説明できない特殊な親密さというものが、確かに二人の間には存在していたのだ。
それでも目の前の光景は、にわかには信じられないものであった。敬愛し憧憬する自慢の姉と信頼し尊敬できる直属の上司が、
慈しむように体を寄せ合い口づけに没頭している。そのような場面など、一体誰が受容できようか。就寝前、
今日の出撃の報告書を出してしまおうと訪れた部屋で、しかし比叡は覗きの行為に没頭していた。
執務室北東の端、狭い物置の中ひっそりと、二人は情事にふけっていた。何故そのような場所でと思いもするが、
きっと流れというものがあったのだろう。扉を一枚隔てた先に、しゃがみこみ隙間に目を凝らす艦娘がいるとも知らず、
二人の行為は激しさを増していった。
露わになってゆく姉の肌。首や鎖骨、引き締まりしかし程よい肉付きを維持したウエストや大腿。
発情した表情や、キスをせがむ媚びたような声。普段からは想像できないその姿は、比叡に衝撃と暗い感情の発露をもたらした。
それは嫉妬というにはあまりに明確さに欠け、さらにその感情が向かう先さえも不明瞭な、説明つかない気持ちであった。
心拍は跳ね上がり呼吸も乱れ、胸の痛みを抱いても尚、見続けることをやめられない。乱れた姉と体躯をかき抱く提督の姿が、
彼女をこの場に留まらせていた。
やがて荒い吐息の中に嬌声が混じり、扉越しにもそれは聞こえ始めた。無遠慮に、
しかしあくまで優しい手つきで提督は金剛を愛撫する。柔らかな胸に指が沈み込んで、秘所が撫でられる度に体は震えていた。
愛液の跳ねる音は静かな部屋に目立って響き、押し殺された喘ぎ声は、キスで口を塞がれているためにくぐもっている。
金剛の瞳はただ提督だけを見つめ、提督は彼女の体の柔らかさだけに意識を向けていた。
二人だけの空間を見つめているという背徳は、しかし苦しさを伴った。胸にあふれる言いようの無い疎外感は、
自分勝手なものであると分かっていてもその流れを留めてくれない。やるせなさと怒りとをごちゃ混ぜにしたような気持ちを抱いて、
スカートの裾を握る手はより力を強めていった。
つと、一段と声が大きくなった。見るといつの間にか金剛は、壁に手をついて自身の秘所へ提督のそれを向かい入れている。
その手馴れ方は、既にこの行為が何回も行われていたということの証明だった。比叡には、その事実が切なく憎い。
思わず視界が霞みだし、慌てて目元を拭った。
徐々に間隔の短くなる水音、嬌声。やめてやめてと心の中で呟きながら、それでも姉の艶美な体を、
提督の必死そうな表情を見ることはやめなかった。頭は沸騰しそうなほどに熱を持ち、心臓の音がやたらに煩い。
永遠とも思えた淫靡の時間の果て、やがて情事の終わりは訪れた。金剛の太ももを白濁が一筋流れ落ちて、
その様を見てようやく我に帰る。自己嫌悪とそれ以上の鬱憤と興奮を溜め込んで、比叡は逃げるように執務室を出た。



部屋の扉をゆっくり開く。窓から差し込む月光だけが室内唯一の照明で、既に榛名霧島の妹二人は就寝したらしかった。
起こさないようにと気を使い、ゆっくりと自身の蒲団に横になる。毛布を被ると先ほどの情事の光景が、
チカチカと鮮明に思い出された。眠れるわけは無く涙が流れるままに枕を濡らしながら、ただただ体を丸めている。
自身がショックだったのは、憧れの姉が提督に犯されていたからなのか、提督が姉を犯していたからなのか。
纏まらない思考の中では、どちらなのか判然としない。ただどちらとてじくじくと焦がされるような辛い胸の痛みだけは、
今たしかに存在していた。
やがて涙も枯れると、ようやく疲労感が体を支配し頭に靄がかかり始めた。苦い思慮から逃げるように、意識が急速に薄れてゆく。
眠りの淵で、金剛が部屋の戸を開ける音を聞いた気がした。月光に照らされたその姿、
満足そうに微笑を湛え目がゆったりと細められた表情が、その日比叡の最後に見たものであった。


妖精たちによる起床のチャイム。それは比叡を覚醒させはしたが、それでも体を起こす気にまではさせなかった。
倦怠は飴のようにべったりと、体に纏わりついている。
「比叡、起きるのデース!」
快活な姉の声、それが聞こえると同時に掛け布団が捲り上げられた。はだけた寝巻きから露出した足が、
ひんやりとした外気に晒されて、その冷たさに背が震える。体を起こし顔をあげるとそこには見知った姉の姿が、
仁王立ちして晴れ晴れと笑う金剛の姿があった。
クロック数が落ちに落ちた脳みそが、昨日最後に見た姉の姿を思い出させた。今目の前の彼女がそれと同一人物であると、
簡単には信じられない。それほどまでに印象が違って見えていた。
「……私の顔に、何かついてマスカ?」
怪訝そうな金剛の視線に気が付いて、慌てて取り繕うように笑顔を作る。
仕度の後、朝食を食べに食堂へと向かう。途中廊下の先に提督を見つけた金剛は、小走りで近づいて腕に抱きついていた。
それは普段となんら変わらない、彼女のいつもの行動ではあった。しかし今の比叡には、
その光景はどうしようもなく苛つきを助長させるものであって、いつもの表情を維持するのにかなりの労をとった。
あるいは食堂についてからも、二人の言動や仕草は見るに耐えない。
例えば金剛が提督の口元に自身の箸を運んでいったりするのを視界に入れると、もう頭は沸騰するのであった。
ただ二人が体を重ねていたと、たったそれだけの事実が分かっただけで、全てが嫌だと思えてしまうのだ。
金剛が体を寄せ、提督は困ったような笑顔で受け答え、榛名は怒った風を装いながら提督から離れて下さいと言い、
霧島はやれやれといった表情で牛乳を飲んでいる。
表面上はいつも通りを演じていても、最早冷静な思考は失われ、気を抜けば目を閉じ耳を塞いで逃げ出してしまいそうになっていた。
臨界点ぎりぎりの所で、なんとか自分を保っていられている。そんな危うさのなかで、ひたすら苛々は増大していったのだった。
食後比叡は、金剛が離れたタイミングを見計らい提督に言った。
「あの、提督。少し相談があるんです。夜、いいですか?」
回答はもちろん是。重い心を引きずって、比叡はその時を待った。



夜、物寂しい廊下にノックの音が響く。くぐもった入れ、という声を聞いて扉を開けた。
提督は、机を前にいつも通りに座っていた。書類は片付けられており、青のテーブルクロスもその全てが露わになっていた。
「それは、酒か?」
開口一番、比叡の手元を指差して提督は言った。純米酒『比叡の淡雪』は、
深緑のビンを輝かせながらそのラベルを提督に向けている。比叡が頷くと苦笑しながら席を立つ。
彼は物置からもう一つの椅子を取り出すと、自身の椅子の横に置いた。
「素面じゃできない相談なら、立ったままではいかんだろう。手酌も寂しいしな」
更に、おいでと言って手招きした。
お互いがお互いの杯を満たし、乾杯する。そうしてしばらくは無言のままに時が過ぎた。一方の杯が空になればもう一方が注ぎいれ、
ビンの重量はどんどんと軽くなっていく。頭はぼうっとし胸は熱くなり、それでも飲むことはやめられない。
急かさない事が、この提督のいい所であった。何杯胃にくだしたのか。酔いがようやくまわったあたりで、比叡は口火を切った。
「提督?」
「ん?」
「先に、謝っておきます。ごめんなさい」
「……意味深だな」
普段、余りある元気が完全に失せていることから、提督とて比叡の異常には気が付いていた。何を言われても、
或いは何をされても許してやる事ができる。彼をそんな気持ちにさせるほど、今の言葉の悲壮感はただならないものであった。
比叡は一回深呼吸した後、覚悟を決めたように口を開いた。
「私、昨日見ちゃったんです」
「見たって、何を?」
「金剛お姉さまと提督が、そこの物置で、しているとこ」
提督は聞くや、絶句し硬直した。場には沈黙が流れ、それが気まずい空気をみるみる作り上げていた。
酔いが醒めフルに回転し始めた提督の頭は、何を言うべきなのか、何と言葉を発するべきなのかを模索しだした。
比叡の表情は変わらず、まったく何も変化はない。自分だけ勝手に高揚しているようで羞恥も沸く思いであったが、
それ以上に既に冷静ではなかった。一体彼女はどんな反応を望んでいるのか、それさえ分からずに、困惑は尚言葉を詰まらせる。
「提督」
比叡が呼びかける。提督は何とか言葉を纏め、だいぶ遅れて反応を返した。
「なんだ? というか、すまない。
君には私達の関係のことを伝えようとは思っていたんだ。まさかこんな形で露見するとは思ってなくてな……」
頬を掻き、ばつが悪そうな表情だった。台詞が耳に入ると、愉快じゃない気持ちが音を立て沸いてきて、
それが最後に残った良心を完全に破壊したようだった。
比叡は決断する。提督の目の前に立つやいなや膝を椅子の開いている所、丁度足と足との間の隙間に滑り込ませた。
「比叡?」
肩を押され、怪訝そうな視線が送られる。それを正面から受け止めて、ついに核心が、相談に赴いた本懐が吐露された。
「提督。私、嫌なんです。何でかは分かりません。でも、とにかく提督が金剛お姉さまと仲良くするのが、
楽しそうに話すのが嫌なんです。体を抱き合わせるのも、キスをするのも、見ると胸がジクジクして、
ひたすら辛くてしようがありません」
その必死さ、凄みのせいでまったく口を挟めない。
感情を言葉に載せていくと、ブレーキが壊れていくかのように自制が効かなくなっていった。理性がかなぐり捨てられて、
感情の歯止めがなくなった。呆然と見上げる提督をよそに、彼女は更に言葉を続ける。
「……性欲は、私が受け止めます。言われたことは何でもします。だから、もう、二度と! 金剛お姉さまを抱かないで!」
言い切られると同時、歯がぶつかりそうな勢いで、唇が強引に塞がれた。状況のまったく飲み込めない提督は、
それでも目を白黒させながら比叡の体を反射的に押しのけようとした。しかしアルコールのせいなのか、手に思った以上に力が入らず、
むしろ抵抗を察知されると逆により強く押さえつけられた。
口腔内に舌が進入する。ひんやりとしたそれは歯を撫でていき、ついに提督の舌を発見すると逃がさずからめとっていった。
しばらく好き勝手に口を嘗め回し、それに飽きると比叡は唾液を送り込んだ。提督がやむなくそれを嚥下したのを確認すると、
一旦口を離してやる。
「ひ、比叡! お前酔っているのか? 今なら全部忘れてやるから、そこをどけ!」
口が自由になった途端、吐き出されたのは警告と命令だった。それは彼女の怒りに火をつけて、益々冷静さを欠かすことになった。
彼女は再び口付けて、手はベルトを外しにかかった。当然抵抗にあうわけだが、しかし大した邪魔にはならない。
酒を呑んだ総量は、圧倒的に提督が上であった。おぼつかない手つきの妨害など、どれほどの効果があるというのか。
ついに金具は外されて、ズボンのジッパーは下ろされる。
比叡は緩んだ隙間から、パンツの中に手を入れた。陰茎は、キスをされていたためかある程度の硬さをもっている。
彼女の細い指が絡みつき、亀頭も根元も刺激されると、益々硬度は増してくる。しばらくは手全体で撫で回して、
抵抗の弱まった瞬間に、一気にそれを露出させた。
羞恥を感じる暇もなかった。あろうことか比叡はスカートの中に手を入れて、自身の下着を脱ぎ払っていた。
「おい、よせ!」
声をかけるも完全に無反応。提督の上に馬乗りになり、膣の入り口に先端が押し当てられた。そこは熱を持っていて、
しかしそこまで濡れているわけでもない。貞操のこともそうであったが、何より身を案じて言葉を掛ける。
「よせ。いまならまだ、取り返しはつくから」
しかしそんな提督をあざ笑うかのように、彼女は笑顔で言ったのだった。
「提督、私実は処女なんです。責任とってくださいね」
柔らかな感触が、徐々に下へと降りてくる。抵抗むなしくついに腰は沈み込み、ひたすらにきつい肉壷に陰茎は包み込まれてしまった。
体が裂かれるような痛みを感じ、しかしそれに満足を得る。比叡の心は言いようも無い背徳と、
そして支配の悦に満たされていた。姉のモノに手を出したという罪悪感さえ、もはやそこに彩を加えるスパイスのようなものだった。
全ては快楽に変換され、思考は取り払われている。今彼女は、ただ悦を貪り食らうだけの動物になっていた。
腰を上げ、再び下ろす。椅子の軋む音を聞きながら、ひたすらそれを繰り返した。時折感じる陰茎の動きは、
何とも可愛らしく思えるのであった。とにかく遮二無二搾り出すように、ひたすら腰を振っていく。
提督の口から漏れる呻き声が、興奮を高めていった。
血と愛液の混合液が潤滑油に、膣の痛みも薄れだした頃合に、腹内に突如温かみが広がった。
それが提督の精だと認知した瞬間の、その幸福、その歓喜。胸に言いようも無い興奮が奔り、その快楽に体を振るわせた。
比叡は興奮冷めやらぬ中、腰を浮かせてずるりと陰茎を引き抜いた。息を整えながら、ゆっくりと椅子から降りる。
顔を上げ、そして提督の視線を感じたときに、つとその感覚は訪れた。
提督の視線。哀れんでいるかのような悲しさと、怒りに燃えた激しさが混在したその視線は、
たしかに比叡の胸を貫いた。暗い沼に引きずり込まれるかのような罪悪感。急に湧き出す後悔に恐怖して、
比叡は逃げ出すように部屋をあとにした。
どうしようもないことをしてしまったと、悔悟してももう遅い。震える膝が崩れ落ち涙は頬を伝っていって、
まだ残る腰の痛みは、罪をひたすら証明していた。




あの一件以来、しかし日常は崩れなかった。あの四姉妹といる中では、比叡は態度を変えなかったし、
提督とて場の雰囲気を率先して崩す人間ではなかったのだ。
提督は金剛との情事について最初躊躇いもあったのだが、しかし彼女の求めを断る理由などありはしなかった。
それについて比叡も何か言うことは無く、いやそもそも二人の間に腹を割った会話の機会など、もう得られはしないのである。
表面上は、何も変わっていない。それこそあの一夜は夢であったと、そう思い込むことさえできそうでもあった。
ただ椅子に付着した血の痕がだけは、言いようも無い事実の拠り所だった。

最終更新:2013年10月21日 01:47