非エロ:提督×北上2-550


「あれ?提督じゃん、何してんの」
 「いや、北上。お前こそ何してんの」
 鎮守府の屋上の扉を開け、一息つこうと思ったら既に先客がいた。

 「あーあたし? サボり」
そう言うと下を見る。
その手摺に近づいて北上の視線をたどると駆逐艦達を率いてランニングしている天龍がいた。

 「あの熱血指導にはついていけないわー」
 「ああ、そういえば今日は天龍と一緒にあいつらの訓練だったか」
まぁ訓練そのものは問題ないだろう、あれで天龍は駆逐艦たちから懐かれているし訓練に手を抜いたりもしない。
 「といってもそれとこれとはまた別な話だと思うんだが」
 「問題なさそうだしいーじゃん別に。それより提督は何しに来たのさ?」
 「サボりだ」
どうだ参ったか、と言わんばかりに胸を張って言ってやる。
 「それ人のこと言えないって、っていうか霧島ネキも災難だねー」
 「自業自得だ自業自得」

 昨晩執務中に中元でもらった黒霧島を秘書艦の霧島が見つけてしまい
仕事終了と同時に他の姉妹も呼んで酒盛りが始まってしまったのだ。
 金剛はいつにもましてやたらと抱きついてくるし比叡はそれに負けじと金剛に抱きついているし
榛名は据わった目で酒を注いでくるかと思えば突然大声で笑い出したり
当の霧島は「かかってこいよサウスダコタァ! レーダーなんか捨ててかかってこい!!」
とか叫び始めるしとにかくカオスだった。
 途中から酒を入れる振りをして水を飲んでいたので助かったのだが
 その後まだ歩けた榛名は金剛と比叡に抱えられて退場。
 高いびきをかいている霧島は仕方がないので執務室の布団に転がしてさっさと部屋に戻って寝た。
で、朝執務室に来たらまだ寝ていたので寝かせておいたら昼近くまで起きないので流石にたたき起こし
昼食抜きで残りの仕事をこなしながら今に至る。

 「酔っ払いって怖いわー」
 「ほんとそう思うわ」
 顛末を聞いた北上の感想に全面的に同意する。

 「そういや大井は一緒じゃないのか」
 「んー大井っち、? 別にいつも一緒ってわけじゃないしそんなに不思議でもないっしょ?」
 「いや、いつも一緒にいるイメージがあるからな」
 「そりゃまぁ確かに親友だから他の子よりは多いだろうけどねぇ」
 不思議そうな顔をする北上。
 「だってお前らデキてるんじゃないの?」
 「え?」
 「え?」
 「なにそれこわい」
 意外な返事にびっくりする、ついでに北上もびっくりしている。
あそこまで百合百合しいといっそ清々しいとさえ思えたのだが。

「いやいや、いくら仲がいいからって百合認定とか変な本の読みすぎでしょ」
 「そうなのか、いやマジで意外だわ」
あっさりと否定する北上に拍子抜けする。
 「じゃあ、北上にも好きな男のタイプとかあったりしたのか」
 「う~ん……そうだねぇ。強いて言うなら提督みたいな感じかねぇ」
 「なるほどねぇ、俺みたいな感じかー」
 「まぁ強いて言うならなんだけどねー」
 「そうかー……ってはい?」
 「ん? どうかした?」
 「え、いやだってさぁ。いきなりタイプとか言われたらびっくりするだろ」

 「北上さん! その飢えた野獣から離れてっ!!」
とっさにしゃがむとさっきまで頭があった空間を砲弾が通過する。
 「おー、大井っちじゃん。どしたの?」
 「いや、『どしたの』じゃないだろ。『どしたの』じゃ」
 息を吐きながら北上との間に割って入ってきた大井を睨む。
 「北上さんを提督の毒牙にかけさせたりはしません!」
むしろ北上じゃなくてコイツの方がやばいんじゃないか
 そう思いながらホールドアップ。
 「というかお前は一体何をしてるんだ」
 「私は屋上倉庫に物を取りに来ただけですよ」
 「いきなりぶっぱなすことはないだろう」
 「うふふ、提督ならきっと避けてくださると思ってましたから♪」
 「いや、洒落になってないから」

 「で、北上さんは何してたの?」
 「訓練サボってたら提督もサボりに来たから話してただけだよ」
 「あら、どんなことを?」
 「あたしと大井っちが百合なんじゃないかとかいうからさー
 んなわけないじゃんって話してたんだよ」
 「えっ!?」
 愕然とした表情で後ずさる大井。
 「大井っち?」
 「そ…そんなことって」
 「ちなみにタイプは俺みたいなのらしいぞ」
 面白いので追い討ちをかけてみる。
 「強いて言うならって言ってんじゃん」
 呆れたような北上の声を聞いていないかのように大井がよろよろとよろめく。
 「な……なんて趣味の悪い……」
 「おい、上官に対して失礼すぎるだろそれ」
 「ふ…ふふ……私は所詮お邪魔虫だったというわけね……さようなら北上さん!!」
ダッシュで走り去る大井を北上と一緒に呆然と見送る。
というかあいつ取りに来た荷物もっていかなくていいのか。

「あーまぁ……こんなこともあるよねぇ」
 北上はというと指で頬をかきながら苦笑している。
 「で、提督は戻んなくていの?」
 「少ししたら戻ろうかと思ってたけど疲れたよ……」
さすがにいきなり撃たれるとは思ってなかったのでどっと疲れた。
 「ほほー、んじゃあたしが膝枕でもしてあげよっか?」
 「また随分とお優しいことで……」
 「まーまー。親友が迷惑かけちゃったってことでさ」
 「あー、んじゃ頼むわ」

あっさりと北上の提案にのって正座した彼女の太ももに頭を乗せる。
なんだかんだで女の子だ、柔らかな感触を後頭部に感じつつ安息の時間を過ごそうとするが……

──5分後

 「提督ー」
 「なんだ?」
 「足痺れた」
 「そんな気がしてた」
 座ってから一分たったあたりで既に足を小刻みに動かしていたのでそうではないかと思ったのだが……

立ち上がって北上を見ると微妙に顔をしかめている。
まぁ珍しい体験も出来たしいいだろう。
そう思って立とうとする北上に手を貸してやる。
 「お、気がきくね提督……ってうわわっ」
まだ足の痺れが取れてなかったらしく、足をもつれさせてこちらにしがみついてしまう。
 「おい、大丈夫か」
 「う~む……さすがのあたしもこの姿勢は恥ずかしいわー」
ちょうど北上がこちらに抱きついてそれを抱えるような形になっている。
 「仕方ないな、痺れが取れるまで座ってろ」
 「あれ、そこはお姫様抱っこで部屋まで送ってくれるとかじゃないの?」
 「そうか、その方がいのか」
そう言うと北上の足を抱えて抱き上げてお姫様だっこをしてやる。
さすがに慌てるかと思いきや……
「おー、楽チン楽チン」
 全くそんなことはなかったのであった。

 抱えてしまったものは仕方がないので部屋まで連れて行ってやる。
 幸い誰にもすれ違わなかった。
 正直大井にでも見られたら今度こそ頭を吹っ飛ばされるんじゃないかとビクビクしていたのだが。

部屋までたどり着いておろしてやると、もう痺れはすっかり取れたようでいつものように床に立つ北上。
 「やれやれ……」
 「いやー助かったよー。案外悪くないもんだねぇ」
 「こっちは今度こそ頭吹っ飛ばされるんじゃないかとビクビクしてたぞ」
 「あーごめんごめん。大井っちにはちゃんと説明しとくからさ」
 「ふう、頼むわ。じゃあ執務室に戻る」
 「あーちょっと待って、一応お礼がしたいからさ」
 「膝枕は五分が限界だろ」
 「うん、まぁそんなわけだからちょっとしゃがんでよ」
 「?? こうか?」

 北上の言葉に従って彼女の頭と同じ高さくらいまでしゃがんでやる。
すると……

チュッ

頬に柔らかな唇が触れる感触
 「へへっ、ありがとね」

 「ガラにもないことするんじゃないよ……まったく」
 「あーひどいなー」
そんな抗議の声を聞きながら足早に執務室へと戻るのだった。
 微妙にドキドキしてる鼓動を北上に悟られないように。
 

最終更新:2014年06月11日 23:12