提督×瑞鶴(非エロ)1-715

瑞鶴ちゃんインカミング! 第0話


左の山から書類を取ってページをめくる。大事なところはメモを取り、確認のサインをしてから右の山に乗せる。
左の山から書類を取って、以下同文。
それが済んだら左の山から書類を取って、以下同文。

見てるぶんには単調なことの繰り返しでも、提督である俺のデスクに届く書類に、おろそかにしていいものは一つもない。
この鎮守府にある参謀、軍医、主計、造船、兵器、建築の主な6つの部署からの情報はそのまま、いま行われている海の覇権を賭けた戦争のゆくえだけじゃなく、
深海軍と呼ばれる謎の生命体と戦う主戦力である、艦娘たちの命も左右する。
俺がいま読んでいる造船部と兵器部からの技術報告書は、きょう読んだ中ではとくにいい情報だった。

内容は、二人の艦娘に試験的に『改良型本式タービン』と『強化型缶本式缶』を併設する改装は、艦娘それぞれに搭載できる兵器の数が許すかぎり積極的に勧めるとよい、とのことだった。
試験に参加した島風と金剛の2人は弾幕回避訓練で驚くような機動性を見せ、とくに島風は敵役の重巡艦娘6人が本気で速射する模擬弾を髪をなびかせてスピードスケートのようにかわし、
金剛も高速戦艦と言うだけのことはあって、かなり熟練した駆逐艦娘なみの動きを見せたらしい。

(よし、これは覚えとこう。タービンと釜か。待てよ、装備数を制限するなら載せる兵器は火力と質を向上させる方向で・・・・・・)
そんなことを手帳にすばやく書き込んでいる俺の真正面から、わたしは不満ですよというトゲだらけの声がした。

「ねーえー、提督さんってばー」

書く手を止めてその方向を見れば、机のへりに組んだ両腕とあごを乗せ、なんだか怒ったような目つきをした女の子がいた。
淡い鉄灰色の髪を白いリボンでまとめ、薄茶色の大きめな瞳がいかにも不満ですよ、という風情を見せるその子に向かって、俺は答える。

「なんだ、瑞鶴」
「もう、やっと気づいた。なんか瑞鶴、ちょっと退屈なんだけど」
「茶なら、もういいぞ。お前がヤカンでたくさん淹れてくれたしな」

俺の足もとには、麦茶入りのヤカンが置いてある。仕事始めに瑞鶴が「こんだけあれば、午後までもつでしょ?」と言ってこしらえたものだ。
この娘は要領がいい。ふだん茶のうまいまずいを問題にしない俺にとっては、結局ヤカンに水でも茶でも、何かノドを潤すものが入っていれば十分なのだ。

「お茶の話じゃないよ。あ、ねえ提督さん。お茶菓子でひと休みする? 間宮さんのおいしいヨウカンが」
「まだ9時過ぎだ。こんな朝から甘いものは食えん」
「じゃあ、朝ご飯は? お茶漬けとかなら秘書艦室のキッチンで作るよ? 今日はお米がじょうずに炊けたし」
「昼飯までいらん。自宅を出るとき食ってきた」

こう答えながら書き込みを終えた俺が手帳をぱたりと閉じるタイミングで、最高潮のふくれっ面になっていた瑞鶴が小爆発を起こした。
「んっっっも――――ッ! あたし秘書艦なのにぜんぜんお仕事ないじゃない!! ふてくされちゃうぞ!!!」
「退屈のなにが悪い。比叡を見習え。あいつはたいがいそこのソファで寝ているぞ」
「比叡さんはそうでも、あたしは何かしたいの。何か言いつけてよ」

(要するに元気いっぱいという事か。なるほど)
こういう艦娘はとにかくいろいろこなして俺の負担を省こうとしてくれるが、一週間でローテーションする秘書艦の仕事に休養の側面があるのに気づけない娘が多い。

「わかった。それならこの書類を、それぞれの部署へ返しに行ってくれ。この3つは造船、この2つは主計、この4つは兵器。これは軍医と建築だ」
「それだけだとすぐ終わっちゃうよ」
「俺がゆうべ家で目を通した分がある。いまから分けるから、間違えずに持って行け」

と言って、俺が机に置いた風呂敷包みのどっさりした重みを見た瑞鶴が(うっ)という顔をした。

「この5つは参謀部。表紙に赤字でトクヒと書いてある分は参謀長か、いなければ次官に渡す。赤字がない2冊は参謀部出向の大淀に渡せ。この2つは主計局長だ。
さっきの2つといっしょに『裁可済み』のザルに放り込んどけばいい。それから、各部署にある『執務室行き』のザルに入ってる書類を忘れずに持ってこい」

書類と俺の注文の多さに最初はたじろいだ風でも、持ち前の要領の良さと負けん気が顔を出すのか、さっきより生き生きと書類を分けていく瑞鶴。

(これは確かに、ヒマそうにしているよりも動いていたほうがいいタイプらしいな)
そう思う俺に向かってカバンと風呂敷包みを下げた瑞鶴が言った。

「用意できたよ、提督さん。まだ何かある?」
「んー。あると言えばあるな。正午までには戻ってこい。飯を食ったら、俺と造船部に同行だ」
「造船部? あ、そういえばドックで新しい船、作ってたよね。その子のこと?」
「造船妖精の使いが今朝、俺の家に来てな。建造時間が予定を大幅に超えてる。最初は長門級かと思ったらしいが、50時間を超えてもまだ仕上がらないそうだ」
「えっ。それって・・・・・・」
「ああ。お前の姉妹艦かもしれん。だから見せてやろうと思ってな」

最短18時間から最長60時間。艦娘の竣工にはこれだけの時間がかかる。今までこの鎮守府で60時間の建造のすえに完成したのはここにいる瑞鶴しかおらず、
かと言って赤城や加賀、蒼龍や飛龍と同じ時間をかけても造れない空母と言えば、もはや一隻しかない。

「ほんとに・・・・・・翔鶴ねえが来てくれるのかな、ねえ。来てくれるよね提督さん?」
「可能性は高いそうだ。俺にはよくわからんが、姉妹艦ってのは呼び合うらしいからな」
「わかった。うー、すっごい楽しみ! ほんとは今すぐ見に行きたいけど、提督さんの言いつけはちゃんと守るね。瑞鶴、行ってきます!」

それだけ言って元気よく執務室を飛び出してゆく瑞鶴。
窓を開けて、ちょっと短すぎる気がしないでもないスカートのすそとツインテールを揺らしながら鎮守府の建物から走り出していく後ろ姿を見送った俺。

「さて、昼までもうひとがんばり、するかな」

また書類をめくり始める前にひとつ思いついた俺は、電話を取って烹炊部門に回線をつなぐよう頼んだ。今夜はたぶん翔鶴型空母の加入祝いになる。鳳翔さんに頼んで、ちょっとは豪勢な食事を出そう。
新しい艦娘がやってくると、なんだかんだ理由を付けて食事会を企む俺みたいな提督がいるおかげで主計部から文句も言われるが、艦娘たちの福利厚生と思えば安いもんだ。
それが終わったら、昼飯のために腹を減らしておこう。瑞鶴のやつ、米がじょうずに炊けたと言ってたしな。

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最終更新:2014年06月11日 22:40