提督×大井6-683

前回の話

 ――大井――

「北上さん、もう朝よ」

私の一日はまず相部屋の住人を起こすところから始まる。
起床時間になっても起きないのはこの親友のイメージにピッタリだろう。

「……んぁ?」

締まらない寝起きの様子は提督とよく似ている。
提督は目覚まし時計か何かの装備でもあるのか寝坊はあまりないが、
寝起きに見られる締まらない顔は日中ではあまり見られない。
ちなみにセクハラする時は下手に真剣な時よりも顔が引き締まっていたように見える。

「あーおはよー」

「今日も演習艦隊につくんだから、しっかりしてね」

「うーい」

本来このように私達艦娘の士気を上げるのは提督の役目だろうが、
さっき言ったように朝はあまり頼りにならないのでここは親友たる私の役目だ。
のそのそ布団から寝間着のまま出て行くのを見送り、手早く布団を片付ける。



昨晩は北上さんが眠ったのを確認して提督の部屋を訪れ、提督との夜戦を初めて本番込みで行い、そのまま眠った。
心許す親友の北上さんだろうと恥ずかしいものは恥ずかしいので、朝起きて提督と別れ、
昨晩のことを悟られないよう普段通り朝食を1人で済ませようとすると、珍しいことに北上さんがこの時間に食堂に来た。
ちなみに寝巻きのままではない。
北上さんは普段朝食は遅めに取っていたと思うがどうしたんだろう。
相席の誘いを受け入れ、共に盆の食事に手をつける。
まず味噌汁で口内を潤そうと啜る。

「大井っちさー、昨日の夜中どこ行ってたの?」

「ッ! ゲホッカハッ」

「わわっ大丈夫?」

味噌汁を箸でかき回す北上さんからの予想だにしなかった突然の問いかけが私にはクリティカルヒットした。
席を立って私の背中を摩り、咳き込む私が収まるまで待ってくれた。

「ケホッ、ん……北上さん、知ってたの?」

「まーね。というか大井っちが夜中抜け出したの昨日だけじゃないでしょ」

席に戻った北上さんはずずーっと音を立てて味噌汁を啜った。今日の具は大根と人参の短冊切りだったか。
私は返答に困り、とっさに返すことができない。

「えっと……」

「もしかして提督ととうとうデキた?」

「き、北上さん、何を根拠に……」

「だってさあ、あむ、提督だって大井っちのこと、好きって丸分かりだもん。
特に今日の大井っち、朝からいつもより嬉しそうな顔してるじゃん」

「――ッ!」

浅漬けの蕪をつまんで食事を進める北上さんに動揺させられた私は箸を動かすのも忘れて、左手を顔に当てる。
今日の私の顔はそんなに緩んでいるのか?

「あっやっぱり図星?」

「えっその――!」

鎌をかけられたらしい。
北上さんにここまで弄られるなんてそうそうない。
顔には出ていなかったようなのでまだ取り繕う余地はあるはずと考え冷静を努める。
もう取り返しがつかない気もするけど……。

「なっ何もないわよ? 提督はあくまでも上司なんだし……」

「ふーん?」

「……」

今日の北上さんは無駄に冴えている。
ニヤニヤする北上さんと目を合わせているとどんどん私の隠していることを暴かれそうな気がして、私は目を逸らした。
顔が熱くなってきた。

「ま、気のせいってことにしとくよ」

気のせいだと思うならニヤニヤするのをやめてほしい。
それからの私は何とか関心を逸らそうと色々な話題を持ち出すことに努めたが、結果は失敗に終わった。
食事は本来喋りながら進めるべきではないのだがそこは目を瞑っていて、って、私誰に弁解してるのかしら……。


――提督――

午前の演習も済み、もう少ししたら午後の演習に赴こうと思うので、執務を中断し休憩を入れる。
それにしてもたまには茶葉から離れて珈琲を嗜むのも乙なものだ。
日本人ゆえに米や味噌汁に飽きることがないように茶も飽きたわけではないが、
気分で他の嗜好品に手が出るのもまた不思議なことではあるまい。
しかしカフェインは毎日取っている気がする。
過剰摂取でなければいいのだが。

「提督、いかがですか?」

「美味いぞ」

「それは何よりです」

こうは言うがインスタントだし、大井は大した苦労はしなかっただろう。
ところで、味噌汁や煎茶などの日本食を音を立てて食すのは普通だが、そうでないもので音を立てるのはマナーによくないという。

「……はぁ」

もちろん珈琲は日本食なんかではなく、少し冷ましてから音を立てずに飲んでいたので、
今の小さな溜息を聞き取ることができた。

「……どうした」

「あっいえ、大したことじゃないんですよ。その、肩が凝ってきただけで」

この時自分はある重巡の台詞を思い出した。
悪戯心が自分を椅子から立ち上がらせ、秘書席の大井の背後を陣取る。
不審そうに首を曲げてこちらの様子を伺う大井の両肩に両手を置いた。
肩をビクつかせたのがよく分かったが、無視して手と指を動かす。

「……私、肩を揉んでくれとは言ってませんよ?」

「肩が凝ってると聞かされて無視する人間にはなれんなぁ」

「まぁ、提督らしいですね」

その呆れた声には安堵のような調子も見える。
最初は少し警戒こそされたが、手を振り払われないので用意していた台詞を意味もなく得意げに使ってみる。

「愛宕も言っていたように、やっぱり"タンクが大きいと肩が凝る"んだな」

要はセクハラがしたかっただけだ。
そしてそのタンクをさわさわ。

「……」

ピシッという擬音が聞こえた。
ただ触っているだけなので刺激は少ないと思う。
が、拒絶するならともかくこう無反応ではどうしたらいいか分からない。
笑えばいいと思うよ、などと頭の中で何かが、いや誰かに囁かれたがきっと気のせいだ。
おかしいな、多少なりともスキンシップは許されるようになったはずだが空気が死んでいる。
大井のタンクから手を退かすタイミングを見失った。

「……提督?」

張り詰めた空気に突然大井の声色が入れられる。

それはまるで外の冷たい空気を付与させてきたかのような声で、自分の背筋を震わせられる。
大井が今どんな顔をしているのか、分からない。

「愛宕さんの胸も揉んだのかしら?」

「いやそういう意味で言ったんじゃない」

嫉妬深い大井の地雷を踏んだかもしれない。
この苦しい状況から抜け出すべく、自分は素早く手を退かせ思わず早口でまくし立てた。
触ってみて改めて大井も愛宕ほどではないが中々の大きさだと分かる。
それと、大井にも言った通り愛宕のタンクを触るどころか、揉んだという事実はないので誤解しないでほしい。

「過剰なスキンシップはお前にしかやらないよ」

「……ふふっ、二十発撃ちますよ?」

お馴染みの警告台詞を使う――注釈しておくと、秘書の執務席に座るため艤装は全て外されている――が、その口調はいつもの柔らかいものだった。
冷えた空気も冬の寒空へ帰っていったのか呼吸しやすいものへと戻る。
一旦落として上げる、とでも言うのか、
自分の精神は大井の小さく笑ったような声もあってすっかり緩みきり、再びタンクに手を伸ばした。
先よりもスキンシップ度高めで。

「あっ」

「うーん、確かにこの大きさだと肩に来そうだな」

「ちょっ、提督、手つき……っあ、まだお昼、あんッ」

「何食ったらこうなったんだー?」

「知らな……いやっ、ぁ、んん……」

「提督ー……あ」

ノックもなしに入って来られては取り繕うこともできず、タンクを揉まれる大井、揉む自分、
そして扉を開けた北上が固まり、再び執務室は妙な静けさに包まれる。
閉めた窓のさらに遠くの工廠から喧しそうな音が僅かに聞こえ、自分を少しのあいだだけ現実逃避させてくれた。
今日も中々に寒い。
インテリア重視で設置したダルマストーブは管理に手間がかかるが、流石に火を起こすべきだろうな。
ついでにスルメや餅でも焼いてしまえば割に合うだろう。さて。

まだ日は沈んでいないのでこのまま夜戦というか夜伽に突入するつもりはなかったが、
他の艦に見られてはあまり良くないことには変わりないわけで。
見られた相手が北上ならまだよかったかもしれないが、これが例えば金剛だったりしたらどうなっていただろう。
いや、金剛だったらノックはしていた。ノックをしない艦はいないわけではないが少ないので油断してしまったのだ。

「あー……北上、これはな」

「……やっぱりデキてたんだね、大井っち」

「きっ北上さん!!」

急に椅子から立ち上がったので手を退ける。
平手の一つでも飛んでくるかと身構えたがそんなことはなかった。

「あっあのね、これはそのっ――」

どうやら自分以上に動揺しているのか手をわたわたよく分からない動きをさせるだけで弁解はできそうにない。
しかしこちらもパッと都合のいい弁解の言葉が浮かばない。
イレギュラーにはすぐに対処できなければ戦場の艦娘は死ぬというのに。

「あーいいって恥ずかしがらなくても、これからはノックするよ。あたしは後でまた来るからごめんねー」

まずどう助け舟を出すか悩む時間も与えられないままに、ニヤつかせた顔で北上は気を遣って退出していった。
とりあえずノックは至極当然の行動だとツッコミたい。
扉が閉まる音を最後に残るは、嵐が去った後の静けさと、呆然と立ちんぼする大井と自分。

「……提督、演習の準備しましょう」

「……そうだな」

悪戯心を二度も叩かれては流石に起き上がってこない。
意気消沈と少しの罪悪感を胸に、次の演習の相手艦隊の情報が書かれた文書を確認しに行く。
珈琲は冷めていた。デジャヴ。



午後の演習も勝てた。
破損した艦は上から支給される演習用の高速修復材と資源を使って即刻修復される。
大井が工廠で修復を受けている僅かな時間に被弾せずに済んだ北上が声をかけてきた。

「提督ー」

「なんだ」

「昨日大井っちとえっちした?」

「ブッ」

呑気な顔で何を言い出すんだ!?
あまり鋭いイメージのない北上からダイレクトにそんなことを当てられるとは思わなかった。
北上からすれば演習前に大井のタンクを揉んでいたところしか手がかりはないはずなのに。

「……提督。そのリアクションは古典的だよ」

「うるさいっ」

「で、やったの? やってないの?」

元々北上にならあまり明かすことに抵抗はなかったし、興味津々の北上に気圧された自分はポツリと漏らした。

「……やった」

「おっ、昨日で何回目?」

「……三回目かな」

「あれ? 意外と少ないな」

なんだその反応は。

話を聞くと、大井が夜中に部屋を抜け出すところを度々確認しており、
提督、つまり私の様子も最近変わったように見えたのでそのような推測に至ったのだという。
そこで自分は大井が私のためを思って度々工廠を訪れていたということを話した。

「へぇー、提督も隅に置けないね~」

「しかし、大井はともかく私はそんなに分かり易かったか?」

「うん。提督、スキンシップはするけどあっさりしたのばっかりだから本気で手を出そうとしてるようには見えなくてさ。
硬派だと思ってたから分かり易いんだよ。白い画用紙に絵の具で点をつけた感じにね」

なるほど、と、ここで大井が戻ってきた。
小破した大井の服や艤装は綺麗に元通りになっている。

「北上さん、何を話してたの?」

「んー? 大井っちとのえっち気持ちよかったかなって話」

「!?」

ハリケーン北上の一言で大井の顔が瞬時に赤く染まった。湯気でも出ていそうだ。

「ちょっ北上――」

「提督言ったんですか!?」

「うおっ」

顔は赤くしたまま少し怒った顔で自分の服に掴みかかってきた。上目遣いで睨まれる。
勢いが強くて少し後ずさりした。

「あははっ、じゃーねー」

またも取り残される、軍服を掴む大井と掴まれる自分。
しかしここは隅っこながらも工廠なのでそれなりにうるさい。
だから先までの会話が他の者に聞かれていることはないと思うが……。

「もーっ! なんで言っちゃうのよー!」

数秒の硬直の末再起動した大井に突然揺さぶられる。
暴れる視界の中どうにか捉えた大井は少し涙目になっていて、割合可愛かった。

……………………
…………
……

端から、というより主に工廠妖精から見れば巷で言われる『バカップル』にしか見えなかっただろう寸劇の後、
しばらくはつーんと素っ気なくする大井に自分が泣きを入れる羽目となった。
手を合わせて頭を下げる。

「すまん! そこまで恥ずかしがると思わなかったんだ。
今度一緒に出かけて何か欲しいものでもあれば買ってあげよう。
それで許してくれないか」

なにぶん女性の扱い方など素人なので、
言い方を悪くすれば好きな物で釣って機嫌を直してもらうしか思いつかない。
恥を知らず想い人との夜伽の話を人に喋ったり想い人を物で釣ったりと迷走しているな自分は……。
そっぽを向いていた大井がゆっくりこっちを向いてくれた。

「……提督は、今夜もここにいますよね?」

「うん? 確かにいるが夜に出かけ――」

少し思い至るのが遅かったな。
それでも昨日行った夜戦の事が頭になかったら察することのできない朴念仁に成り切るところだった。
思い至ると同時に唇に当てられるほっそりとした人差し指。

「外出しないでください」

「……ああ」

「……それで手を打ちます」

短い肯定だけで顔付きが優しいものへと変わった。
それは普段の顔付きとも少し違う、嬉しさと恥ずかしさを織り交ぜたようで、不覚にも心臓が跳ねた。
大井は離した指を自身の同じところに持っていく。
やはり……そういうことなのか。

明日も北上にからかわれないといいがな。



「提督……っあ……」

「なんだ」

時は更に進み深夜。
大井はベッドに腰掛ける自分の足の間に腰掛け、後ろからタンクを好きなようにされ、縮こまっている。
昼のセクハラのおふざけ気分とは違い、今の自分は至って真剣だ。
静かな情欲が一周回って自分を真剣にさせているのだ。

「ん……や、やっぱり、愛宕さんくらい、あっ、大きい方が、いいん、ですか? っく……」

「胸で選んだんじゃないんだから、大井はこのままでいいんだよ」

「そう……ですかっ……」

昼の戯れで何気無く吐いた台詞を未だに気にしているようだ。
大井のそれは愛宕に及ばないまでもそこそこ、いや結構な大きさだ。触り心地も、服越しでも瑞々しく柔らかいのが分かる。

「て、提督……胸弄るのもいいけど……また、抱きしめてくれます……?」

「……」

出た。甘えたがる大井。
さっきから何度か言われる度にやってあげているのだがまだ足りないらしい。

タンクから手を離し、腕とタンクを包み込むように柔らかい体を抱く。

「はあっ……」

ある程度力を込めて抱きしめられた大井は息を吐き出した。
首筋に顔を近づけて深呼吸してみる。
やはり香水か何かの匂いがするわけでもないのに、癖になりそうだ。
鼻息を当てる度にビクつかせる反応が面白いのもそうだし、
大井の空気を肺に取り入れているという少し変態じみた自分の勝手な妄想もある。
大井も呼吸の間隔が長くなってきた。
またずっと密着していることもあって寒さが和らいできている気もする。
密着部分が体温で温まってきたのか? 体温そのものが上昇してきたのか?

「あの……」

上昇しているのが体温だけではないのも分かっている。
自分のモノには欲望に忠実になった血液が集まり、
ウィンナーの出来損ないから魚雷へと変化を遂げようとしているのだが、大井の尻肉に阻害されていて最早痛い。

「……私がしてあげます」

そう言うので腕を離し解放すると、ゆっくり腰を持ち上げていく。
邪魔だったものが遠ざかるにつれ、ある程度までは魚雷が天を仰いだ。
しかしこれだけではまだ不完全である。
ズボンの股間部に出現した山がそれを表している。
振り返った大井はそれを見るや足の間に跪き、山のファスナーを降ろし、できた火口に手を突っ込みまさぐる。
ひんやりとした手で握られ、外に引っ張り出された。

「あ……、昨日出したのに……」

感嘆の言葉をもらうが、一日も経てばそれなりに回復はするので何も不思議なことではない。
ちなみに聞いた話によると、精液は三日分まで溜められるらしいので満タンではないかもしれない。昨日で出し切っていればの話だが。
見つめるのも程々に愛撫を始めた。
これについては既に二回させられているので口出しする必要はなさそうだ。
この行為以外にも自分が大井に口出しする機会が果たしてあったかという疑問はさておき。

「ん……」

俯いた口から潤滑油を垂らされた。
思えば大井が私のを口でするところを最初から見るのは初めてだった。
なので率直に感心した。
まだ魚雷の方から潤滑油が滲み出ていないうちは口内にある油を使うことで摩擦係数を適度まで落とし、
最初から高度な快楽を与えようというのだ。
早速大井の潤滑油に塗れ、動きが良くなった魚雷を、手が汚れることなどお構いなしに扱き始めた。
ねち、くち、と、淫らな潤滑油による演奏が夜戦の始まりを告げる。
最初はそれを握る手で上下に擦られるだけだが、それだけでも充分な快感だ。

「……」

快感に抗おうと自分の顔には自然と力が入る一方、大井の少し赤い顔はそれをじっと見つめるだけ。
手は扱くだけでなく、落とした潤滑油をカリなどの伝い辛いところも含めて満遍なく塗り広げようと奔走する。
カリに指を這わせられた時は腰がビクついた。
ここまで細かい気の回しぶりに疑問が湧く。

「っ、お前、そういうの何処で覚えてきたんだ……」

「……演習の後の自由時間で聞く機会があるんです」

なるほど。
演習後は艦娘同士の情報交換を目的として相手艦隊と任意で交流する時間が設けられているのだが、その時に聞いているらしい。
というか、そういった情報を交換するための時間ではないのだが。
そして相手艦隊の艦娘がそういうことを知っているということはその艦達の提督は……。
いや、何も言うまい。
やがて扱いていた手が私の腿に添えられた。

「……んくっ、……ぅ……」

心の準備でもしたのか、喉が動いてから顔が近づく。小さな舌をそれに触れるべくおずおずと伸びてくる。
ぺちゃ、と触れると舌を動かした。
舌から逃れようと左へ右へ暴れる魚雷に唇を押し付け離すまいと追いかける。
暴れる魚雷を追うように大井の頭が左に向いたり右に向いたり、偶に上目遣いでこちらの顔を伺う光景は庇護欲を掻き立てられ、穏やかに頭を撫でた。
魚雷と大井の動きが止まる。
とりあえず二撫でのみで終えると口が離れた。

「今の、もっとしてください……」

そんなことをしているくせにその程度の望みを恥ずかしげな声で伝えるとは、
こちらの庇護欲を狙ってやっているんじゃないか?
大井が喜ぶならできることであれば何だってしてやる。これくらいで喜ぶならずっと撫でてやるさ。
大井が自分に尽くし、自分が大井に尽くす相互関係が生まれ、心が満たされていく。
早速茶髪の頭から毛先まで隈なくさらさらした手触りを楽しむ。
大井もそれで満足なのか、微笑んでから次のステップに踏み込んだ。
口を開いて目を瞑り、魚雷はぬめぬめと温かい口内に格納された。
根元までは届かないながらも一生懸命やってくれているのが伝わる。
伝えられる想いと快感が腰や手足を震わせる。

「んー……、んふ、ふっ」

撫でる手が頭からなんとか外れない程度の速度で、前後に動かされる。
咥えたことで明確な声を発することができなくなり、ちゅぷ、ちゅぷ、ちゅく、ぢゅ、といった空気混じりの水音だけが部屋に充満する。

「んぷ、んく、ちゅる、ん~……」

舌もしっかり動かし根元近くから頭までをちろちろ舐められている。
大井としては以前とやっていることは同じだろうが、自分としては仰向けで寝た状態でされた以前とはまた違った景色に映る。
そもそも以前された時はまだ心を交わせていなかった事もあるだろう。
その時の大井には焦りの様子がちらちら見え隠れしていたが、今はとても落ち着いた様子に見える。
頭を撫でる自分のこの手がそれに貢献できているのかもしれない。

「れい、ろ、く……、んくっ、きもひ、いい……?」

「くっ、喋るな……」

「むうっ……、ふっ、んっ、んん、ちゅく、んむっ」

「うっ、あ、はあっ……」

ぶっきらぼうに返してしまったがそれが気に食わなかったのか、先より速度を上げられる。
気持ちいいに決まってる。
その証拠に手がびりびりと震え、足腰ががくがくと留まらない。
少し腰が引けたが、すかさず大井の両手が腰に巻き付き離さない。

「あはっ、逃げないで、我慢しないで……」

優しい声で叱られる。
口を離した代わりに片手で擦られる。
しかし我慢しないでと言われても、自分は、もう――

「ぐっ……」

「え?」

びゅるっ!

「きゃっ!? あむっ」

「くはッ!!」

びゅくっ! びゅっ! びゅっ、びゅる……

魚雷は暴発し、白い油が一発大井の頬に直撃、以降はすぐに咥え直した大井の口内で無事(?)処理された。
手はもうちゃんと頭を撫でてはいなかった。
頭を掴んで押し付けてしまう衝動を抑えていてそれどころではなかったのだ。

「う……ん……んん、んく、ん、ぐっ……」

口内に撒かれたものを、目を瞑って眉を顰めた苦い顔で少しずつ嚥下していっている。
こうして自分の種子が大井に飲み込まれているのだと脳裏で反芻すると、背筋がぞくぞくと震える。

この顔を見るのはこれで三回目だが、ふと、もしかすると自分が知らないだけで、
実際にはこういうことを三回以上はされていたんじゃないだろうかとの考えが浮かぶ。
寝込みを襲われ自分のモノを口で弄ばれた挙句射精しても目が覚めないほど神経は図太くないつもりだが……。

「はーっ……、はー……」

大きく息を吐きつつ頭を撫でる事を再開する。
大井は砲に密着させていた唇を広げ、歯が砲に当たってしまわぬようゆっくりと口を離していった。
荒い呼吸のためか口は完全には閉ざさずに少し開けておき、ぼんやりと惚けた顔で頬に着弾した白いものを指でつまみ取る。
それを目の前に持っていき何を思ったか、それがついている親指と人差し指の腹をくっつけたり離したり。
指と指の間で餅のようにびよびよと伸び、千切れることはない。
大井は、そうして私の種子を弄ぶ。

「……」

「……面白いか? それ」

「……よく見るのは初めてですから……」

それがどんなものか確認せずに今まで飲み込んできたというなら、それは勇気の無駄遣いだと言おう。
少し呆れていると、大井は一頻り観察してもう充分だと判断したのか、その指を口に咥えた。
ちゅる、と指が口から出されたとき、指に付着していたはずの白いものは消え失せていた。
そしてやはり苦そうな顔。
懸命に体内に収めようとするその様を、自分は終わるまで黙って見据えてから、問いかける。

「……なあ、私が大井とこういうことをするのって三回目か?」

「……そうですよ?」

大井は質問の意図が分からない、と言った様子だったが、自分はこれで一つ疑問を解消できた。
私も人並みに繊細さは持ち合わせていたようだ。
そして大井はこの鎮守府で生まれ育ったので、他の男は、という質問はあり得ない。
するとやはり、こういったことは決して慣れているわけではないのだ。
予習だけしていれば大丈夫、というものではないだろう。

「無理して飲まなくてもいいのに」

純潔を散らせた夕べに伝えたように、艦娘として華々しく活躍し、目の届くところにいてくれればそれで満足なのだ。
自分でさえ口にしたいと思わない精液が飲めなかったくらいで嫌いになったりはしないし、
むしろ無理強いさせているようでこちらが不安になる。
しかし大井はこちらの心配などいらないと言うようにこう返した。

「……でも、やっぱり好きな人のだから、ちゃんと受け止めたいんです」

このとき、自分ははっと感動を覚えた。
提督をやっていてなんだかんだ自分について来てくれる艦娘はそこそこいるが、大井は最早特別だ。
私のために体を捧げ、嫌だと思うことも受け入れてくれる。
こんなことをできる人はそうそういまい。
贔屓はしてはいけないことなのに、今ばかりは他の艦娘のことなど忘れて大井のことしか考えられなくなる。
目の届くところにいてくれれば満足と言ったな。ありゃ嘘だ。今嘘になった。
目の届くところでなく、互いに目を合わせられるような、そしていざというときすぐ寄り添えるようなところにいてくれないと駄目だ。

「……提督?」

大井が黙り込んだ私に問いかけてくるが、少し待って欲しい。
今自分の内側からこみ上げてくる熱いものをどうやって発散すべきか頭の中で軍法会議を執り行っているところなのだ。
そのあいだ目の水門を閉じて零れ落ちそうになるものを必死に止める自分の顔は、大井にはどんな風に見えているのだろうな。
水門を閉じているので大井がどんな顔を、反応をしているのかは分からない。
いつの間にか頭を撫でる手を止めてしまっていたが、今は自分のことで精一杯なので許して欲しい。
唇も震え始めたので閉じている口に力を入れてそれを抑えたと同時、大井の頭が不意に上へ上がっていった。
大井の頭に乗せていた自分の手が滑り落ちる。
一体どうしたのかと門を開くと、視界はぼんやりしていてよく分からなかった。
それでも一秒二秒ほどで何とか晴れたとき視界に大井の顔はなく、あるのはクリーム色を基調とした装甲に覆われた二つのタンク。
それがどんどん大きくなって次第に視界を暗くしていき、ぴと、と自分の顔が二つのタンクの間に収められたのが分かった。
自分の頭はふわりとした腕に包まれ、やんわりと柔らかい体に押し付けられる。

「……何が悲しいんですか?」

そう問いかける声はとても優しい。
それはまるで小さな子供でも宥めるかのような声で、大井の持つ「母性」というものを自分は今初めて見つけた。
ただ愛されていると改めて実感しただけで泣き出す子供みたいな自分は、抱かれたままふるふると軽く首を振ることしかできなかった。
そんなことで泣くなんて、大の大人が恥ずかしい。
自分は膝に置いた両拳と顔に力を入れて我慢するのに精一杯で、言葉で返す余裕はなかった。

「泣いて、いいんですよ。ここには私とあなたしかいないわ」

「提督」ではなく「あなた」と呼ばれることでその意味は強調される。
単にこの部屋には、という意味なのに、どうしてか「この世界に二人しかいない」という意味に聞こえる。
やはり言葉で伝えたいことができた自分は、涙なぞ目の前の布地に染みても構わない一心に固まった。
溢れ出る想いは大井と同じように背中へと自分の両腕を回させた。

「ありがとう……」

自分の声は想像以上に掠れて震えていて、正直聞こえているか怪しかった。
背中にやった腕や手も震えていて力が入らない。

「愛してる……」

この言葉を皮切りに水門を閉じたが、意味を成さなかった。
漏れ始めた水のことなど無視して、大井の体の温もりを感じることだけ考える。
大井は聞こえたのか聞こえていないのか頭を撫でてくれるだけだった。
聞こえていなかったら少し残念だ。
しかし聞こえていなかったのなら後で伝えればいいのだから、残念なのは少しだけ。
大の大人の割に中身は人肌恋しい子供だった自分はそれからしばらく涙を流した。

……………………
…………
……

感動の雨が止み、萎んだ自分の下腹部が冷えてきてそういえば夜戦の途中だったことを思い出した。
少し勇気の要ることだが湿った空気にしてしまったまず自分が言葉を発しなければこの状態から動くことはできない。
背中に回した手でとんとんと軽く叩き、合図を送ると頭に巻きついた腕の力が抜けたので顔を上げる。
大井を見上げるのは新鮮だ。優しい眼差しをしている。さながら聖母のよう……は大袈裟か。

「このまま続けたいんだが、いいかな?」

大井は思い出したように一瞬はっとしつつも、優しい顔は崩さなかった。

「提督の好きにしてください」

こんな台詞、日が沈んでないと聞けないだろうな。
受け入れられたことが嬉しくて、遠慮なく大井のスカートの中に手を伸ばした。
いつも怪物と戦っているにしてはすべすべな太腿を撫で回す。小さく震わすも抵抗はされない。
内股の方を触ってみると意外なことに、すぐそこの魚雷発射管から出ただろう潤滑油が既に伝ってきていた。
驚きを隠しつつ管の方へ手を持っていく。
そこを覆うたった一枚のカバーはぐっしょりと湿っていた。でもそんなに熱くない。
自分のを口で愛撫している時に濡らし、自分が泣き出した時に少し鎮まったのかもしれない。
太腿と管のカバーを濡らしている潤滑油をなるたけ掬い取り、手についたそれを口で舐めとる。

「提督! 何して――」

「お前だって私のでやったろう?」

「そ、そうですけど……」

だから御相子だ。
舐めた潤滑油は少ししょっぱかった。
濡れ具合を確認して一度口に運んだだけだが、自分のソーセージもどきが再び魚雷へと改装されるには充分な材料だった。
大井の装甲を外しにかかる。
上着は中央を縦に走る深緑の帯の裏に隠されたボタンを下から外していき、一番上の襟の中を通る白いスカーフも解く。
男にとってスカーフなんてのは無縁な装飾品で――いや、これはただの言い訳だな。
とにかくスカーフの解き方でやや迷った。格好悪くてこっちが恥ずかしくなってくる。
それでも大井は自分の拙い手付きをやや緊張しているような目でじっと見守るだけで、口出しもしてこない。
手際が悪くも時間をかけて前を開けた。
やはりカバーがつけられていない大きなタンクが二つ姿を現した。
顔が緩まないようにと自然と力が入る。
恥ずかしいのを隠すように目を逸らす大井に問いかける。

「……ブラとか、しないのか?」

大井は目を合わせてくれた。

「……肉体が普通の人より強化されているのは知ってますよね?」

それは知っている。
実態がよく分かっていない敵でも砲撃に使ってくる弾は演習とは話が違い、殺傷することしか考えられていない実弾だ。
直径が小さかろうが普通の人間が食らったら即死だ。

「だからブラがなくても垂れたりはしないんですよ」

なるほど。
直接上着に擦れたりして痛かったりしないのかとも思うが、痛くないからカバーをしていないのだろう。
深く考えないことにする。
今世にある常識をもって疑問を解決へ導けないのならいくら考えたって分からない。

「私の胸がそんなに心配だったんですか?」

「……まあな」

「さっきから子供みたいですね」

「男はいくつになっても子供だ」

男はいくつになっても子供らしさを失うことはない。
いくつになってもあれよこれよと色々なものを欲しがる。
それでも大井本人も気にしなかった母性の象徴が垂れるか垂れないか気にするのは子供が過ぎるかもしれない。
うふふ、と面白げに生暖かい眼差しで見下ろす大井を無視して上着を完全に脱がし、スカートのホックに手をかけた。
母性の顔もそれまでで、スカートを下ろし下穿き一枚に仕立て上げた時にはまた女の顔に戻っている。
最後に濡れそぼって使い物になっていない魚雷発射管のカバーにも手をかけようとすると、
流石に恥ずかしさが勝ったのか自分より早くカバーに手をつけた。
色気のない真っ白――だがそれがいい――なカバーが下ろされ、
クリーム色の靴下も下ろされた。
そういえば靴下の存在を忘れていた。
少しの茂みに隠れる入り口を探す余裕も与えられずこちらへと歩み寄ってくる。

「あまりじろじろ見ちゃいけませんよ?」

そう言われても目を逸らすことはできない。なんたって産まれたままの姿を見るのは初めてなのだ。
どちらかといえば白い方の肌色が視界一面に広がる。
こうして見ると本当に普通の女の子のようだ。
もちろんこれは普通の人間でないと愛せないという意味ではない。
特に深い意味もなくそう思った。

「綺麗だな」

綺麗なものはそれがなんであろうと心奪われるだけだ。
自分は大井の裸体を見て感じたことをこの一言に込めた。
が、別に大井の体にもし傷痕があったとしても自分は大井の体を醜いとは感じなかっただろう。
痛々しい、とは思うかもしれないが、それはそれで庇護欲が湧くだけで嫌悪感は絶対に生まれない自信がある。

「あ……ありがとうございます」

大井は緊張していた顔を少し緩め、こちらと同じく短く返す。これ以上の言葉は不要だ。
ファスナーから顔を出しているだけの魚雷を一度引っ込め、ズボンのホックとベルトを外して下腹部を露出させられるくらいまで下ろす。
殆ど脱いでいない自分は大井にとってフェアでないだろうが、そんなことよりも自分は早く大井と一つになりたかった。
準備が整ったので大井の手を取り、やんわりとこちらへ引っ張る。
大井は私の膝に跨り肩に手を置いた。私は自分のモノを掴んで狙いを定める。
そして――

「ん……ぁ、あ、あ!」

自分の魚雷は大井の発射管にとても容易く装填された。
昨日よりはすんなり入ったが締める力は緩んでいない。
自身の体重もかかっているのか、まだ挿れただけなのに少し目線上の大井は喉を見せて啼く。

「はあっ……」

「っ……、まだ痛むか?」

「い、いえ……、昨日ほどの痛みは……」

大井は体を震わせる。
一切の装甲をなくした状態だが、その体は熱く、寒さの心配は無用のようだ。
別に寒くて震えているわけではないことくらい分かる。

「痛くはないんです……お腹の中で提督のが、っん、ビクビク、して……苦しい……ふふ」

苦しいと言うのに笑っている。
女性の心理は自分には分からないが、今の大井を見てやめようとは甚だ思わなかった。
それどころか自身の腹を掌で愛おしげに撫でていてはこちらも我慢できないわけで……。

「あっ!!」

足に力を入れて腰を突き上げると、
ただでさえ大井の体重で入れるところまで入っている自分の魚雷はさらに中を抉ることとなり、
大井は強く息を吐いた。

「ちょ、提督いきなり、いぃっ!」

大井の健康的な体重がかかって速く動かすことはできないが、大井の感度は良好だ。
綺麗にくびれた腰を掴んでぐいぐいと押し付けてみる。

「あはぁっ……、くぅ……ん、や……あっ!」

今度は手を尻にやって持ち上げる。
魚雷の凸部分が内部を抉りながらずろろろろと外気に身を晒し、
潤滑油に塗れた魚雷を再び内部に収めるべくむんずと腰を掴み落とす。

「ふあっ!!」

深く楽しむために速度は求めない。その喘ぎに現れた艶を更に磨き上げるメンテナンスは慌てずに確実に……。

「くっ、……おおっ……」

「はあ……ぁー……」

ずん。

「あんッ!」

ずるう……。

「ぁぁぁああ……」

ずん!

「かはっ!!」

ズボン一枚を挟んで肉同士が軽くパンッと音を鳴らす。
まだこれからだというのに、肩に置かれた手から力でも抜けたかふらりと倒れこんできた。
まあこんなでも一応二回目だ。慣れていないのなら焦らず時間をかけて体をほぐすといい。

「はーっ、ふぅー……」

肩に顎を乗せて息を整えようとする大井の背中を片手間で撫でる。背中に広がるさらさらした後ろ髪も混じえて。
大井の肌は背中も滑らかですりすりしていた。

「はあ……提督も脱いでくださいっ」

やはり抗議されたか。
しかしそうやって目を合わせてまで言われても、右手は大井の腰に、左手は背中にやっていて手が空いていない。
……生憎と空いていない。
しかし、ここで、我、妙案思い付くせり。

「脱がせてくれ」

「脱がせる、ですか?」

「そうだ」

「……私がやることに何の意味が」

「いいから」

「はぁ……」

大井はよく分からないといった具合に、面倒臭いボタンを一つ一つ解いていく。
これはこれで奉仕されているかのような演出だ。
間もなくして腕も袖から出され、真っ白で皺なく整えられた軍服はベッドに放られた。下着は流石に自分で脱ぐ。

「自分で脱げるじゃないですか」

別に脱げないとは一言も言ってない。
ぶつくさ言われながらも、日頃ほとんど鎮守府に篭って全く鍛えていない胸板に豊満なタンクが押し付けられた。
間の抜けたやり取りをしながらも、先ほどから繋がったまま潤滑油は追加され続け、
魚雷の威力を最大限まで引き出す準備が着々と進められていた。
抱きつかれ抱きとめて人肌を交換している状態で、ぐっと腰に力を入れ直した。

「……ぁ、あ、あっ! んっ、ん、ふぁっ!」

動きやすいよう小ぶりな尻を掴んでテンポよく発射管をほぐしていくと、
あまり時間も経たずに下からじゅぷじゅぷと音が聞こえてくる。
漏れた油がぱた、ぱた、と下腹部を中心として周りに飛び散る。

「ふっ、ん、ほら、聞こえるだろっ? 大井の中っ、もうぐちょぐちょだっ」

「んーっ、ん、うぅっ、てい、提督のがっ! ……大きい、から、ぁあっ!」

別に自分の魚雷が大きいのではなく、大井の発射管が小さいだけだと思う。
そういう謙遜する気持ちと、女から見れば至極どうでもいい男の誇りが認められて喜ばしい気持ちが葛藤する。
これまた行為中にどうでもいい議題で開かれた頭の中の軍法会議は、一瞬で後者が可決され気分は高揚。
もっと聞かせてやろうなどと調子づいた自分は、魚雷の更なる性能向上を図る。
発射管の中で魚雷は早く攻撃を放ちたいと疼く。

「んっ! んっ! んん!」

胸板に押し付けられたタンクは熱暴走を起こしていて、部屋の中にも居座ろうとする冬将軍を物ともしない。
先端部なんか自己主張がひどくて形がよく分かる。
一切の装甲を解いた大井の体が熱いのだ。こちらまでその熱に犯される。
密閉された発射管の中なんて熱が篭るから下腹部周りがむれっとする。
軽口とか言葉攻めとかをしている余裕なんかない。
全ての感覚を自分の中心部に集めてひたすらに欲の行き場を求めるだけ。
くらくらしてきて自分の顔の横から発せられる艶めかしい喘ぎさえも聞こえなくなりそうだ。
うるさいくらいの喘ぎよりも自分の心臓の音のほうがうるさい。
気分も、心拍数も、貪欲も、昇り詰めていく。


「出、そ、っ……」

最低限残しておいた理性をもって、一応知らせておいたほうが何かといいだろうと考えたのはいいが、
体が強張ってちゃんとした言葉にならなかった。
しかし聞こえていたらしく、すぐにその啼き声に心の底から叫ぶような懇願を乗せられ、
結果、ずん! と大井の体を勢いをつけて落とし込み、最奥で魚雷はスクリュー全開で炸裂することとなる。

「中にっ! 下さ、くらさいっ! 提督っ! ていとくぅっ!!」

びゅっ! びゅるっ! びゅくびゅくっ!!

「ふぁぁぁああああ……!!」

自分と大井の体は震わせて共鳴しあった。
射精が終わり、自分は大井を抱きしめたままゆっくりとベッドに倒れこんだ。
大井の体重がのし掛かるがその苦しささえも心地よく感じる。

「抜かないで、ください……このまま……」

抜こうとしてないし、体を動かしたくないし、何より大井と同じく行為の余韻をまだ感じていたかった。

……………………
…………
……

体を重ね合ったまま、互いの息が整うまでに短くとも五分以上は要したと思う。
昨日と違い服を纏わない状態で――自分はズボンだけ履いているが―― 一枚の布団を被った。
寒くないかと問いても提督がいるから大丈夫と言う。畜生、一々つぼをついてくるな、こいつは。

「提督……私も愛しているわ」

「どうした、急に」

「さっき言われた時、言いそびれてしまいました」

「聞こえていたのか?」

「提督の声を聞き漏らすはずがないもの」

ソナーか何かをつけているわけでもないのに何を根拠に、とは返せなかった。
あの時は息が詰まるほど嬉しくて苦しくて、絞り出すように発したので聞こえていないだろうと本気で思っていたのに。

「提督が泣き出すなんて初めて見ましたから」

「……艦娘の前で泣いたのは今日が初めてだね」

「今日の提督、本当に子供みたいでした」

クスクスと笑い始めた。からかわれているこの状況から機転を効かせ話題をすり替える。

「……お前もここに来た頃とはまるで正反対だ、あの時はぐちぐち言われて結構……」

「そ、それは……」

ほら、狼狽え始めた。
こいつも時が経つにつれ初期からは想像できない面も見せるようになったものだ。

「男性にはあまり素を出したくない、って考えるのが私ですから……、今提督にそうは思っていませんけど、今更態度も変え辛くて」

「……」

「……変えたほうがいいですか?」

なんだ。大井はそんな悩みを持っていたのか。
しかし、自分は大井の内面は充分、とまでは行かなくとも半分くらいは理解しているつもりだ。
答えは聞かれる前から決まっている。

「無理して変えなくていい。私は今の大井も好きだし、本当は優しい いい子なのも分かっているから」

そう言って儚げに見つめる大井の頭を撫でることで不安を拭おうと心掛けた。
自分は時が経つにつれ、一見キツそうな性格の中から優しい面が垣間見られるところに魅力を感じていくようになったのだ。
そもそも大井は別に人をいびるのが大好きとかいう性格の悪い子じゃない。
あくまでも大井は歯に衣着せぬ一面もあるだけに過ぎず、こうして気にしすぎなまでの気配りもできる一面だってある。
他提督から聞いた話ではこれを確かギャップ萌えとか言うんだったか。

「まあ、大井がどうしても変えたいなら止めはしないが……」

「分かりました、このままで行きます」

なんだよ。その掌の返しようは。

「やっぱり私は、今の関係が一番気に入ってますから。山や谷がないと飽きちゃいます」

「……私もそう思うよ」

顔が緩んで、笑みが零れる。
やはり大井も同じ考えだったのだ。
悪友のように言葉遊びで互いを突っつき合う関係もよし、愛を求め合う関係もよし、自分はその両方の関係が好きだ。
どちらも欠けてほしくない。

「……提督」

「うん」

「ここまで育ててくれて、感謝しているわ。これからも、ずっと……」

そうだ。大井に惹かれていくようになったのは最終的な改装を施してからだ。それも随分前の話。
過保護な提督ならば戦闘に行かせずに隠居させるかもしれない。
しかし限界まで練度を極めた大井は現在最高の戦力だし、大井も艦娘としての誇りを持っているはず。
ならば最前線まで送り出して、華々しく活躍させてやるのが提督の役目。
別に敵陣地へ特攻を仕掛けろなどと言っているわけではない。
伸び伸びとやりたいことをやらせてやるが、必ず帰って来いということだ。
色々言いたいことはあるが、自分は大井を抱き寄せるだけの返事にそれらを込めた。
大井もそれ以上は何も言わなかったし、何も求めては来なかった。
そして、泥のように眠りについた。

……………………
…………
……

流石にほぼ全裸で布団一枚は寒く、幸か不幸か寝過ごすようなことにはならずに済んだ。
装甲を着込んだ大井が起こしてくれたおかげもあるがさておき。
開き直って二人で顔ぶれの少ない――いずれも珍しいものを見たような反応をされた――朝早くの食堂に顔を出し、単横陣でカウンターに座る。
しかしやけににっこりとした間宮にお勧めの一膳を出すと言われたので甘んじ、出てきたものを見て固まった。
大井も同じものを出されて顔を引きつらせている。

「あ、あの……何かな、これは」

食べ物は聞いて判断してないで何でも食べろと両親から教育されたが、
それでも、この四角い箱に盛られた主食料理を指差して聞いてみる。
他には――

「はい。鰻重、滑子のお味噌汁、餃子、秋葵と若布の御浸しと、北上さんの計らいでお二人のために特別に考案した精力料理でございます」

「それはまた朝から濃いものを……」

あれこれがどういう料理だなんてそんな眩しい笑顔で説明されなくても見れば分かる。
ちらと横目で見ると、大井は寒いはずの冬の朝どきに顔から火どころか炎上している。

「それと……夕べも、お楽しみでしたね?」

おのれ北上。しばらくの間アイスクリン供給過多だ。

「だ、ダメです! 提督の自業自得ですっ!」

むう。大井に言われちゃ仕方が無い。
大井に免じて大目に見てやった優しい提督に感謝するんだな北上め。

こちらを見る間宮の生暖かい眼差しと生暖かい問いかけを流し、自分は鰻重にかけるための山芋のとろろを追加で注文した。
大井、いつまでも顔赤くしていないでさっさと食べなさい。今日も第一艦隊の旗艦をしてもらうんだからね。

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最終更新:2014年01月10日 19:44