非エロ:提督×比叡5-829

「っあー…終わったァ~…」
「今日もお疲れ様でした、司令」

夜も更けて、書き上げた遠征計画書を放り出し、大きく伸びをする。
突如として下った、深海棲艦の飛行場破壊命令から始まったあの激戦から半月。
苦難の末なんとか飛行場の破壊に成功し、ピリピリした空気から一転、作戦成功に沸いた鎮守府も平静を取り戻しつつある。

「どうよ比叡、この資源の数字!ほとんど作戦前の水準にまで戻ったぜ」
「おー…遠征計画を綿密に練った甲斐がありましたねえ」

予備もほとんど使い果たした資源を補充すべく、飛行場破壊作戦からこっち、遠征にかかりきりだったのだ。

「今日で一段落着いたし…そうだな、比叡、一杯付き合え」
「お酒ですか?珍しいですね…え、私もですか?」
「たまに呑んだって悪くあるまい。それに、女の子がいれば酒はもっと美味い」
「や、やですねえ司令。それなら金剛お姉さまとかをお誘いした方が」
「それには及ばん。第一、彼女ももう寝ているだろう」
「そ、そうですね…では、気合、」
「いいよいいよ入れなくて」

苦笑しながら琥珀色の液体が入った瓶を取り出す。以前、一人酒用に買ったものだ。
ついでにお茶用の湯のみを2つ手に取り、執務机の上に置く。
そこへ、食堂からおつまみを失敬してきた比叡が戻ってきた。

「湯のみですかぁ?」
「しょうがねえだろ、グラスはひとつしか無いんだ。どっちかが湯のみになるんならどっちも湯のみの方がいい。それに…」
「え?」
「イヤ…なんでもない」

比叡とお揃いの方が気分がいい、とは言えない。

「比叡はどうする?」
「そうですね…水割りで」
「ん、俺はロックだ」

かくして、小さな酒宴が始まった。
飲んでいるうちに、自然と話題はこの間の鉄底海峡での戦い、正確にはそこでの金剛姉妹の話に移っていく。

「いやーしかし、この間の作戦じゃお前ら大活躍だったなぁ」
「いやあ、ずーっと出撃しっぱなしでしたからねえ…金剛お姉さま、凛々しくて素敵だったなあ」
「ああ、何しろうちのエースだからな。俺は戦ってる姿は見れないが、出撃するときの姿は惚れ惚れするよ」
「戦闘する姿を見れないなんて司令は損してますねえ。超カッコいいんですから!」
「だろうな。残念だ」

からん、と湯のみに似合わぬ音を立てる中身をぐいっと空ける。
合わせるように比叡も湯のみを傾ける。

「お注ぎします」
「ああ、ありがとう」

芳醇な液体がとくとくと注がれ、中の氷が丸みを帯びて小さくなっていく。

「活躍具合で言えば霧島と榛名も変わりませんけどね。自慢の妹です」
「ずっとローテだったしな。霧島は…頭脳も含めて頼りっきりだ]
「私もよく頼ってます」
「美人だしな。しかし、あまり構ってやれてないなぁ。
あいつは有能なのにいろいろ損してるよな。どこかで報いてやらなきゃならんな」
「榛名もお願いしますよ」
「ああ…あいつ、なんであんなに控えめなんだろうな。あれだけ活躍してるんだからもっと胸を張ってもいいんだが」
「あれはもう性分ですから…私も何度か言ってますが、多分変わらないでしょうね」
「いい娘だよなー…可愛いし」
「そうですね…」

ちらりと比叡を盗み見ると、なんとなく面白くなさそうな顔をしている。ま、こんな話をすれば当然か。
ある意味チャンスか…?酒の力も借りられることだし、もうちょっと踏み込んでみるか。

「ま、一番可愛いのはお前なんだけどな」
「んな!?なな何を言ってるんですか突然…!」
「え?何って、いつも思ってることを言ってるだけだけど?」
「そんな心にもないこと言って!もう!少し飲み過ぎなんじゃないですか!?」
「まあちょっと飲み過ぎなのは否めんが、お前が一番可愛いってのは本当だぞ?」
「ちょっと、かかからかわないで下さい…だいいち、お姉さまの方が―」
「金剛は確かに可愛らしいし俺を慕ってくれるのは嬉しいんだが、俺の好みで言えばお前だし」
「そそそんな!嘘ばっかり!」
「あのなあ…なんで俺がお前を秘書にしてると思う?ちょっと考えりゃ分かるだろ」
「……!」

比叡は俯いて黙ってしまった。酒のせいにできることだし、この際最後まで言っておこう。

「まあ何だ、平たく言えばお前に惚れてるんだよ。素面じゃこんなこととてもじゃないが言えないがね」
「…私、は」
「ああ、お前が金剛のことを好きなのは知ってるよ。酔っぱらいの言ったことだと思って忘れて―」
「わ、私は!」
「え?」
「私は…確かにお姉さまのことが大好きですけど…そ、その、司令は別っていうか…」
「…そ、それはどういう… うわっと!」
「わわっ!?」

思わず立ち上がったが酒精で鈍くなった平衡感覚のせいで身体がぐらつき、咄嗟に反応した比叡に抱きとめられる。

「…」
「…」
「しれ、い…近いです…」
「…す、すまん…すぐ、退く…」

言葉とは裏腹に、俺の身体は全く言うことを聞かない。
逆に、酒で火照った比叡の匂いに包まれて、どんどん体の力が抜けていく。
どちらともなくお互いの顔が近づき、やがて…

「…」
「…」

時間にして数秒だっただろうか、しかし確かに俺は比叡の柔らかい唇の感触を感じていた。

「…」
「…」
「…司令、の息、お酒臭いです…」
「お前もな…」
「…」
「…」
「そ、そろそろ寝ましょうか」
「そ、そうだな…飲み過ぎるのは良くないな」

逃げるように比叡から離れ、酒や湯のみを片付ける。お互い無言のままだがこそばゆい時間が過ぎていく。
二人分の片付けはあっという間に終わり、執務室を消灯してドアの前で待つ比叡に声をかける。

「付き合ってくれてありがとう。また明日」
「はい…」

踵を返し、自分の部屋へ向かう。と、

「あ、あのっ」
「ん?」
「今日は、金剛お姉さまじゃなくて、司令の夢を見れたらいいなって、思います…」
「…っ!!」
「お、おやすみなさい!」

思わぬ追撃に振り向いたまま固まってしまった俺を残して、逃げるように去っていく比叡。
その後姿を目で追いながら、俺は明日どんな顔で比叡と顔を合わせたものかと考えていた。
 

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最終更新:2014年01月10日 17:13