非エロ:提督×熊野4-530

初対面時の印象は正直悪かった。
高飛車な言葉遣い、貧乏鎮守府を馬鹿にするような物言い。
駆逐艦ならまだ可愛げがあるとも言えるかもしれないが重巡でこれである。
先に着任していた鈴谷が取りなしてくれたから良かったものの
心象の悪さは拭えなかった。

仕事はしてもらうが必要以上に接しない。
そんな関係が続いている間に鎮守府に広まっていた噂があった。

「熊野は一人だと帰ってこられない」

最初聞いたときは、なんだそりゃ子供じゃあるまいし、と思った。
だが、ふと彼女の前世を調べたことで熊野に向ける目が変わったような気がした。
とはいえ彼女の方は相変わらずではあったのだが。

そんな時事件は起こった。
ひどい台風の日、「熊野が帰ってきてない」青い顔をした鈴谷の報告。
本格的に荒れる前に買い物に出かけたがまだ帰ってこないらしい。

最低限の人員を残して自分も捜索に参加する。
確かに気に入られてはいないかもしれないがそれでも熊野も大事な仲間だ。
小一時間も探しただろうか
大きな木の陰に隠れるようにしてしゃがんでいた熊野を発見した。

「熊野!」
声をかけながら駆け寄る。
駆け寄ってくるのを見て熊野はビクッと身を震わせる。
もしかして怒られるのかもしれないと思ったのだろうか。
微笑みながら彼女に向かって手を差し出す。
「ほら、熊野。帰ろう? みんなも待っている」
「え……?」
やはり怒られるかもしれないと思っていたらしい熊野がおずおずとこちらを見上げる。
いつもの自信満々な態度はどこへやら。いや、もしかしたらこちらが本当の彼女なのかもしれない。

どこかしら濁った目で手を取り立ち上がる熊野だが
長時間雨に濡れて体に力が入らないらしくこちらに倒れこんできてしまう。
「っと……大丈夫か?」
体を受け止め尋ねるとコクンと頷き、震える唇から言葉をしぼりだした。
「わたくし……また帰れなくなってしまったのかと……」
なりふり構わず祖国への帰還を願い、そして果たされなかった記憶がフラッシュバックしているのだろう。

胸に抱いた熊野の頭を優しく撫でて落ち着かせる。
「大丈夫、もう大丈夫だから……一緒に帰ろう、な?」
「……はい」
そう言って熊野と歩き出した、熊野は帰るまで決して離さないとでもいうようにギュっと手を握っていた。

それからしばらくして熊野の態度が変わったことに気づいた。
いや、普段の言動は変わってないのだがよくこっちにちょっかいをかけてきたり絡んでくることが多くなった。
ある時など秘書艦の時に一緒ん並んでランチを食べた後うたた寝を始めてしまい
仕方なく膝枕してやったなんてこともあった。
ちょっとヨダレを垂らしつつ平和そうな顔で眠りこける彼女の姿は可愛らしかったので起こす気にもなれずそのままにしていたら
起きた瞬間真っ赤になって抗議されたりもした。

と、自分から熊野に対する感情はこんなところだった
ある日の夜、熊野が自室を訪ねてくるまでは。

 

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最終更新:2013年11月28日 21:58