非エロ:電と少年4-391

「お婆ちゃん、コレ下さいな」「ハイ、30円ね」
鎮守府の近くにある今はあまり見なくなった駄菓子屋。電は非番の時良くここにラムネ菓子を買いに行く
第一に駄菓子屋の雰囲気が好きなのもあるが
「よ、久し振り」「あ、お久しぶりなのです」
この駄菓子屋のお婆ちゃんの孫の男の子に合うためでもある。恋愛と言うには幼くただ共に居ると楽しい。そんな関係である
「ばあちゃん、遊びに行ってくるぜ!」「あぁ、行っておいで。電ちゃん、孫を宜しくね」「ハイ、なのです!」
二人は近くの林に駆けて行く。木々に隠れるように出来た子供二人が入れる程の小さな穴蔵。そこは二人の秘密基地
「お菓子、食べますか?」「うん」
先程買った一袋のラムネ菓子を二人で分け合う。シュワっと舌の上で溶けてゆくラムネを一粒づつゆっくりと食べながらたわいもない話に花を咲かせる
学校の事、友人の事、昨日みたアニメの事。平時は鎮守府にいる電には全て新鮮なもので時間を忘れて語りあっていた

その内カラスの鳴き声と夕日が楽しい時間に終わりを告げる。
少年はバイバイと帰ろうとする電の手をとる
「どうかしたのです?」「ばあちゃんから聞いた。お前艦娘って奴何だよな?」「ハイ、あ、その隠していた訳では無いのです」「…怖くないのか?深海なんとかと戦ってるんだろ?」
ギュッと握った手に力が入る
「漁師だった俺の父ちゃんはあいつらに襲われた。お前はそんな奴らと戦うのが恐くないのか?」
「怖くない、とは言えないけれど…電には司令官さんや多くの仲間がいるから。」
にこりと電は笑う
「でも」「…」
俯く少年の額にちゅっとキスをする
「電たちは負けない、なのです」
力の抜けた少年の手から電の手が離れる
バイバイと手を振る電に「また遊ぼうな!」と少年は大きく手を振り返すのだった



「失礼します、電、ただいま戻りました」
と電は元気よく司令室に入る。夕日に照らされた室内にはカップを片手に一息入れている司令官とその傍らで司令官と談笑している重巡洋艦、愛宕。
「あら、電ちゃんお帰りなさい」「ただいま、なのです」「…久し振りの休みだったが楽しめたか?」
優しい笑みを浮かべる愛宕と仏頂面な司令官。
「ハイ!」「そうか、明日からは任務に当たってもらう。気は抜かないように」「了解です」
一礼し退室する電を見ながら愛宕は呟く
「電ちゃん、随分と変わりましたね」「あぁ、人見知りが少しずつ改善している」
司令官はカップの中のコーヒーを飲み干し机の上の書類に手を掛ける
「あれは恋をしてるわ」
誰に言うでもなしに出た愛宕の呟きに動揺したのは司令官だった
「恋?いやまだ幼過ぎる…」「女の子は幾つでも恋をして変わるものですよ?」「しかしだな」
普段のポーカーフェイスが若干崩れた司令官の様子に頬が緩みながらも愛宕は続ける。
「大丈夫ですよ。電ちゃんはいい子ですからきっと素敵な恋になりますから」「いや、しかしだな…」
なお心配する司令官に
「まるで娘に恋人が出来た時の父親状態ですね、ふふ」などと茶化せば
「あまりからかってくれるな」とふいっとそっぽを向かれる
「まぁ変わってアピールしても気が付いてくれない誰かさん見たいな人だと苦労しますけどねー」「…悪かったとは思ってるさ。」
意地悪な笑みの愛宕に少し申し訳なさそうに答える司令官。数秒後、2人の影が重なる

第六駆逐隊にあてがわれた部屋に電が戻ると一人編み物をする雷だけがいた
「ただいまなのです」「あ、お帰りなさい」
雷は手を休めず電を迎える。
「何を作ってるの?」「マフラーよ、そろそろ寒くなるじゃない。司令官も色々外に出たりするし」
黒と白の縞模様が少しずつ編み込まれてゆく。
「マフラー…」「どうかした?」「はわわ!あの、良かったら電にも作り方を教えて欲しいなって…」
雷はそう言う電をじっと見つめ
「ごめん、あたしはまだ教えられる程じゃないの。でも響なら大丈夫だと思うわ。あたしも響から教わったから」「わかったのです。」「そろそろご飯だし皆食堂だと思うわ。先に行ってて」

食堂の人ごみの中、何時も座る席で響と暁が夕食をとっている
「あら、電。お帰りなさい」
と暁が手を振る。
「やあ、外はどうだった?」
と響は何時もの調子だ
「少し寒くなってきたのです。あっ響、電にも編み物を教えてほしいんだけど」
もじもじと頼む電に響は申し訳なさそうに答える
「すまない、今日は先約があって。明日で良いかい?」「ハイ、宜しくお願いします」「やれやれ、電も司令官にプレゼントかな?」「うんん、外の友達にあげたいなって」
はにかむ電に響も頬がゆるむ
「ところで先約って?」
響の目線がちらりと暁を捕える
「レディたるもの編み物位出来て当然よ!」「そのための教えろって…」
そんな姉の会話を余所に電は何を編もうかと思案するのだった

 

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最終更新:2013年11月28日 21:40