提督×伊勢4-212

夜の鎮守府は昼とは打って変わって静まり返る。
昼間は鎮守府内はどこもかしこも騒がしく、近海でも訓練でこれまた騒がしいのとは対照的に動いているものと言えば警備の連中と、
時折夜戦訓練に向かう部隊が葬式の様に静かに出航することがあるぐらいで、誰もいなくなったかのように静かなものだ。
そんな夜、艦娘用営舎の一室で物音をたてないように伊勢は起き出した。
(日向は……寝てるね)
隣で寝ている妹は自分に背中を向けているが耳を良くすますと静かな寝息が聞こえてくる。
(よし…)
寝付きの良い妹を起こさないように慎重に布団を離れ、物音ひとつ立てずに扉を開けると、これまた細心の注意を払って扉を閉める。
廊下では意外に響くチャッという扉が閉まる際の音に一瞬どきりとするが、誰も気づいていないのか、世界は静まり返ったままである。
消灯時間から一時間も経っていない筈だが、何とも寝付きの良い艦隊である。
そんな寝付きの良い艦隊の唯一の例外は足音を忍ばせ営舎の端にある女子便所に向かっている。
当然と言えば当然だが、途中誰にも見られることなく女子便所に辿り着いた伊勢は、中に誰もいないのを確認すると個室に潜り込んで鍵をかけた。

さて、普通夜中に用を足すだけでなら、ここまでこそこそと盗人のように忍んだりはしない。
せいぜい迷惑にならないように大きな音をたてないようにするぐらいだろう。
こそこそ忍ぶにはそれなりの理由がある。

(これは不調を直す為に仕方なくだ。あくまでそれだけの為だ……)

伊勢は己にそう言い聞かせながら下を脱いでその場にかがみこむと、右手の人差指をゆっくり自分の秘所に這わせる。
「んっ…!」
突き刺さるような衝撃が股間から脳髄へ迸る。その衝撃は今の伊勢にとって競走馬に鞭をくれたのと同じ。指を這わせ、こすり、くすぐるスイッチとなった。

「くふっ……はぁ、はぁ……提督……」
息を荒げて愛しい者の名を呟きながら自慰を続ける。彼女がこれを提督で行うのは今回で二回目となる。
今まで自慰をした事は何回かあったが、その際に提督の姿が頭から離れなくなってきてからは暫く禁欲していた。
それは踏み込んではならない聖域の様に思えていたし、艦隊の中では既に古株である自分を信頼してくれる提督への背信の様に思えたし、
何より愛しく思えば思う程にそうした行為に対して不潔だと思うようになってきた。
最初はそれで良かった。

しかし伊勢は仙人ではない。欲求を忘れていることなど、そう長くは出来ないものだ。
そしてある時、欲望は理性を超え、いてもたってもいられず他の一切が手につかなくなり、
溜まりに溜まったものをぶちまけてそれまでとはケタ違いの快楽と、凄まじい後悔の念とに苛まれることとなった。
その二つのどちらが大きかったのかは、同じ言い訳をしながら再び行ったことで説明できるだろう。

「んっく……ふっ…うん」
右手が股間を往復しながら、左手で自分の胸を愛撫する。この手が提督のそれだったらどれほどよいか等と思いながら。

「うっ……提督……私は変態です」
右手の指についた液体がぬるりと指の付け根にたれるのを感じながら伊勢は呟く。
「はぁ、はぁ、……申し訳ありません」

荒い息をつきながら虚空に詫びる。
しかし興奮の後に来た脱力感の中で、聖域を侵犯したという罪の意識ですら今は快楽となっていた。
いつまでもこうしていたかったが、流石にそんな訳にもいかない。
頭が急激に醒めていくにしたがって、脱力感が興奮とは反比例に大きくなって行く。
「……寝るか」
けだるい体を引きずり起こして自室へ戻り、これまた日向を起こさないように慎重に布団に潜り込むと脱力感が後悔に変わる前に眠りに落ちた。

伊勢が執務室に呼ばれたのはその翌日の夕方の事である。
「失礼します。伊勢出頭いたしました」
普段なら秘書艦もいる筈の執務室には提督ひとり、西日でオレンジ色に染まる室内に黒い柱の様に立っている。
「……よく来てくれた」
いつにもまして重々しい口調でそう言うと、伊勢を近くに呼び寄せる。

「ちょっとお前に聞きたい事があってな」
「えっ、はい。何でしょうか」
伊勢は違和感を覚えた。
この若い提督は、普段はその性分なのかかなりフランクに彼女達に接しており、軽口をたたき合う事もあり、今の様に緊迫した空気を出す事は作戦行動中以外にはありえない事だった。

「女にこんな事を聞くのは失礼だし、気を悪くするかもしれないが、お前昨日の夜便所で何してたんだ?」
「!?」

伊勢は目の前が真っ暗になった。
どうして提督は昨夜の事を知っている?あり得ない。あり得る筈がない。
確かに営舎の艦娘用の女子便所には併設された男子便所があるが、あそこを使う者など誰もいない。
第一、執務室のすぐ隣に男子便所がある。何故提督があそこにいる?

伊勢の頭の中で様々な言葉が回り始める。
「なっ、何言ってるんですか!?トイレでする事なんて一つしかないじゃないですか!!」
「お前、用を足すときに俺を呼ぶ癖があるのか」
「!!!!!!」

「お前は知らないかもしれんが、あの便所は壁が極めて薄くてな、隣の音が筒抜けになっている。
もっとも、男子便所は基本的に誰も使わないから放置されていた訳だが、ここの隣が昨日から壊れていてな」
提督は昨夜伊勢が自慰している時に営舎の男子便所を使用し、伊勢の声を聞いている。
提督だって子供では無い、用をたす以外に便所でする行為と言えば何の事かすぐに分かるだろう。

「なんだ……知ってたんだ」
伊勢は呟いて、自分を見つめている提督の顔を見つめ返し、無理やりに笑顔を作った。

「そうです。私は、多分提督が今考えている様な事をしました。その……提督で」
「…」
「ごめんなさい。私こういう奴です。折角信頼してくれた提督をそんな風に考えている様な変態です」
「なあ伊勢」
「こうなった以上覚悟は出来ています。どんな処分だろうと異論はありまむぐっ!」
「聞いてくれ」

ぎこちない笑顔のまま泣きながら告白する伊勢の口を手で塞ぎ、若い提督は語りかける。
「俺は昨日、お前の声を聞いた後自室に戻ってお前と同じ事をした。その……お前で」
「えっ…」
「お前があれをやっている姿を妄想してな。お前が変態だというのなら、俺はそれに輪をかけた最低野郎だ。申し訳ない」
深々と頭を下げる提督と、きょとんとしている伊勢。

「その、何だ。お前さえ嫌でなければなんだが、ある意味ではお互いの気持ちも分かった訳だ。だから……変態同士付き合ってくれないか」
お互いがお互いのおかずだったからお付き合いましょうという、おそらく人類史上初めての告白。
これに対し伊勢は何も言わず俯きながら提督の胸元へ飛び込んだ。

「無言は肯定ととってもいいか?」
何も言わず首を縦に振る。髪の毛の間から覗いている耳は端まで真っ赤になっていた。

執務室の奥は扉一枚で提督の私室と繋がっているが、当然ながらここに普段艦娘達が入る事はない。
初めて入った提督の私室は、予想以上に質素なものだった。
若い独身男の一人暮らしらしくやや乱雑ではあるものの、伊勢が思っていたよりは整っている。

「本当に良いんだな?」
「……はい」
二人でベッドに腰掛けると、提督は伊勢に最後の確認をする。
伊勢が返事をすると、彼女の両肩をつかんでベットに寝かせ、そのまま上に乗る様に彼女の唇を奪う。
最初は伊勢の柔らかな唇を楽しむように、そして次には口から一体化しようとするように舌を滑り込ませ、お互いの舌を絡み合わせる。

やがて、最初はされるがままだった伊勢が提督の背中に腕を回して彼を求め始めた。
暫くの後、二人の口が離れると伊勢は閉じていた目を開き、熱がある様なうるんだ瞳で提督を見つめた。

提督は一度身体を離すとカチャカチャとベルトを外すとズボンを下げて一物をさらけ出す。
伊勢はぼうっとする頭で目の前の現象から判断し、スカートを脱ぐ。

「下穿いてないのか」
「戦闘で蒸れたり濡れたりしても作戦行動中は着替えられない事も多いですから、気持ち悪いまま長時間つけておくよりは…って」
白い直垂を脱ぎ、インナーシャツに手をかけながら説明する。

「成程、それは夢が拡がるな。ああそうだ、それは脱がないでくれ。そっちの方が好みだ」
「……変態」
「お互い様だろう」

二人は顔を見合わせて少し笑い、再びベッドに倒れ込む。
「うふっ……ふひゃ!」

先程濃厚なキスをした提督の舌は、今度はシャツをたくし上げた伊勢の胸を舐め上げるとその頂を舌先で弾くように触る。
その間、右手は伊勢の股間に滑り込み、彼女が昨晩していた行為を再現しはじめる。
「くぅ!…ひぅ…てい……と…ひゃん!!」
あるいは舐め、あるいはこすり、あるいは弾き、あるいは入れ、
玩具を与えられた子供か、はたまた楽器の調律のように伊勢の反応を都度確かめる提督。

「そろそろ頃合いか」
いきり立つそれを伊勢のピンク色の入口にあてがうと、ピクンと伊勢の身体が動く。

「行くぞ」
「はい……お願いします」
ゆっくりと伊勢の中に挿入する。
指で十分いじったからか強張ってはいないが、吸いつくように締められている。
「ッッ~~~~~!!!」

脱いだ直垂を口にくわえ、伊勢は無言の絶叫を上げる。下手に叫び声をあげれば、誰か来ないとも限らない。
血が潤滑油のように二人の隙間に拡がって、滴り落ちる。

「ぷはっ!あっ、ああ!あんっ!」
再び口が開いたのを再開の合図に、提督は伊勢を突き、中で動かし始める。
やがて――

「ありがとう。伊勢」
「やめてくださいよ提督。お礼だなんて」
伊勢は既に来た時の姿に戻り、提督もまたいつもの姿に戻って執務室への扉の前に立っている。
「また今度お願いしますね」
「勿論だ」
扉を開け、既に暗くなった執務室へ出るとそこからはもういつもの関係だ。

もっとも、「また今度」はすぐに訪れる事になるのだが。

最終更新:2013年11月13日 02:42