田所実徳は手に負えない学生だった。
 「つまんねぇなぁ……」
 自分の机の上に足を乗せ、心底退屈そうに椅子を揺らしていた実徳の一言だけで授業中の教室の
空気が一変する。黒板に板書をしている途中だった老教師はピクリと肩を震わせ、殆どの生徒達は
関わり合いは御免だとばかりに背中を丸めて教科書で顔を隠し、同世代の少女の『突然の引っ越し』を
何度も経験した女生徒達に至っては恐怖で全身を硬直させる。
 そして実徳の取り巻きを自称する数人だけが目を輝かせ一斉に腰を浮かせた。
 「だよなぁ、気晴らししようぜ!」
 「じゃあ、この前の店とかどうかよ?」
 「行くよな? なっ?」
 口調こそ対等っぽいが、彼らの声色は皆一様に実徳に媚びるそれだ。地方都市とはいえ繁華街周辺の
土地の利権を握る大地主(儲けのために金に物を言わせ、自分の土地に駅を誘致したとも言われている)で、
叔父が市会議員でもある田所家の一人息子の側で機嫌を取ってさえいれば遊ぶ金に困ることもないし、
上手くいけば何の苦労もなく田所の会社の一つにでも入れるかも知れない。
 そして、そこで実徳の名前を使えば生涯安泰も夢ではないだろう。
 勉強をする気も無い彼らが毎日マメに登校しているのも、出席日数でも勉強でもなく実徳との接点を
持ち続けて濡れ手に粟を狙っているからであり、こういう機会があれば我先にと実徳に便乗して只で
遊ぶために他ならないのだ。
 「そうだなぁ……」細面で全体的に華奢な実徳は、靴の踵でドンドンと数回机を叩いた後に大きな音で
席を立ち、大袈裟なほどの動きで肩を怒らせ教師の存在など気にもしていない大股で教室の外へと向かって
歩き出した「……じゃ、ちょっくら顔でも出してみっか。もう開いてるんだろ?」
 「お、俺オーナーに電話してみるよ!」
 「じゃあ、俺は一年に招集かけっから!」
 おう、と取り巻き連中の慌ただしさに満足そうな声を出す実徳。
 実徳自身、不良を気取ること以上にチヤホヤと持ち上げられ御山の大将気分を味わうのが好きなのだ。



 そんな自由奔放な日々を親の金と七光りで謳歌していた実徳だったが、とある週明けの早朝に彼の
人生は一変してしまう。
 「あ~眠ぃ」
 「ンだよ、もうこんな時間かよ」
 「学校、どうする?」
 「お前らだけ行ってこいよ、俺は帰って一眠りしてから考えっから」
 行きつけのバーで夜が明けるまで騒いだ実徳は眩し過ぎる朝日に目を細めながら大あくび。遊び
疲れた所為で煩わしくなってきた取り巻きを学校に行かせ、タクシーでも捕まえようと重い足取りで
大通りへと一人で向かうことにした。
 「田所実徳さん、ですよね?」
 だが数歩も進まないうちに横合いから声を掛けられ足を止められた。
 「あぁ!?」
 実徳の出した声は返事ではなく威嚇である。この界隈で有名な田所の御曹司に大した用もなく声を
掛けたり、ましてや寝不足で疲れた所に邪魔をするような無知な輩など存在するはずなどないと思って
いたのだから、不機嫌さを隠そうともしないのは当然だ。
 「貴男に非常に大切なお話があって、お待ちしておりました」
 「…………あぁ?」
 次に実徳の口から出たのは何とも間も抜けた声だった。
 彼が振り向いた先に立っていたのは彼自身より少し上らしい年頃の、しかも裾も袖も長い西洋の
給仕服を着込みカチューシャまでつけた場違いにも程があるメイドだったのだ。
 そして彼女の後ろには黒塗りの高級車がアイドリング状態で控えている。
 「ンだよ、朝っぱらから新手の客引きか?」睡眠不足な頭でどんなに頑張って理解しようとしても、
精々その位しか解釈のしようが無い光景である「うぜぇから消えろっつんだよ! つか俺が誰だか
本当に分かってンのかお前!?」
 「ですから最初に確認させて頂きました。田所実徳さんで間違いないと存じますが?」
 荒げた声に全く動じる気配を見せず話す冷淡な口調だけでも腹立たしいが、それ以上に女が自分に
向けて来ている汚物を見るような視線が逆鱗に触れた。
 「だったらなんなんだよ、あぁん!?」
 怒気も露わに、アルコール臭い息を吐きながらメイド少女に詰め寄る実徳。
 「失礼ですが、耳がお悪いのでしょうか? それとも残念なのは頭の中身ですか? 大切なお話が
あるのでお待ちしておりましたと先ほど……」
 「舐めてんのか、このアマぁ!!」
 男と女では体格が違う。年齢では負けていても背丈で勝っている自分にゼロ距離で怒鳴られても
微動だにしない女の胸ぐらを掴んで吊し上げようと腕を伸ばす実徳だが。
 「……どうやら、本当に残念な頭しかお持ちでないようですね」
 はぁ、と目の前の女が呆れ果てた溜息を漏らすと同時に実徳の視界が反転して……



 「……ちゃったんじゃないんですか?」 
 「そんなことは……が……て……普通に……」
 「でも、全然目を……………様に……」
 「その必要は……不足とお酒……から大丈夫……」
 自分を囲んでいる複数の気配と、姦しい話し声で実徳の意識が浮上してきた。
 「…………くそっ!」
 それと共に後頭部の鈍痛を感じ、目を開けるより先に腹立たしげに頭を振るう実徳。
 「あ、動いた!」
 「だから言ったでしょう? この男の鍛え方が足りないだけなんですよ」
 「でもぉ、アスファルトに叩き付けるなんて少しやり過ぎな気もぉ……」
 「先に手を出した訳ではありませんから正当防衛です」
 「……確かにいい気味だとは思いますけど、傷物にしちゃったら……」
 「その程度の分別はあります。か弱い女性に問答無用で手を上げる輩には丁度良い薬と……」
 「……るっせぇなぁ、頭に響く声で何騒いでンだよ……っ!」
 痛む後頭部を手で摩りながら上半身を起こすと、実徳は見慣れない部屋で数人のメイド服に囲まれ
見下ろされていた。
 「目を覚まして早々、悪態がつける程度の元気があれば心配は要りませんね。間違っても歓迎は
いたしませんが、とりあえず儀礼的な挨拶だけはして差し上げます。いらっしゃいませ」
 その中の一人、気を失う直前に実徳が掴みかかろうとした女が汚物を見下すような目で感情の欠片も
篭もっていない声を掛けてきた。『いらっしゃいませ』と言われたと言うことは、この女の家か関係先に
担ぎ込まれたらしいが、それ以外は訳が分からないことだらけだ。
 まだ完全には回復しきっていない頭を回転させながら改めて周囲を見渡すと、実徳いる場所は
四畳半程度の質素な洋室だった。自分を取り囲んだメイド達の隙間から見える室内には小さな衣装箪笥と
簡素な机と椅子のセット以外の家具はなく、綺麗に磨かれたフローリングの床の輝きと相まって生活臭を
微塵も感じさせないモデルルームかビジネスホテルの一室のよう。
 あと分かることと言えば唯一の窓から覗く景色と日差しのお陰で部屋が地上階ではなく、かつ南向きで
比較的過ごしやすいらしいということだけだった。
 「ンだよ、ここは?」
 「そのアルコール漬けで空っぽ同然の頭では理解できないと思いますが、一応は尤もな疑問なので
親切に教えて差し上げます」と口を開いたのは、やはりあの女「勿体なくも貴男如きとご学友であらせ
られる新庄政幸様のお宅の空き部屋です」
 「……新庄? 誰だよそれ?」
 「えぇっ?」
 「知らないって……自分のクラスの委員長の名前も知らないとか……」
 「わかってたつもりだけど……流石にありえないよぉ!」
 と、一斉に騒ぎ始める実徳と同世代っぽい他のメイド少女達。

 「ごちゃごちゃ言うなっ! 知らねぇモンは知らね……っつぅ……!!」
 大きな声を出すと頭が痛む。
 「聞きしに勝る放蕩ぶりですね。まだ野生の猿の方が文明的に見えるほどです」
 他のメイド達も同様に感じているのか、皆一様に冷めた視線を実徳に注ぎつつ黙ったまま。
 「な、なんなんだよ、なんなんだよこれ……くそ……っ!」
 ずっと太鼓持ちという壁に守られ煽てられる人生だけを送り敵地という存在とは長らく無縁だっただけに、
到底好意的とは言い難い目を四方八方から向けられた実徳の気迫は見る見る萎んでしまう。
 まるで丸裸にされてしまったかのような居心地の悪さに俯き、口の中で悪態を繰り返すのみ。
 「お、覚えてやがれ……あとで、必ず……」
 メイド達のリーダーらしい生意気な女はおろか、他の少女達の顔すら怖くて見ることが出来ない。
 「うわ、かっこ悪ぅ~!」
 「女の子相手に『覚えてろ!』なんて、ヘタレすぎだよぉ……」
 「本当に見た目倒しなんだ。政幸様の方が数倍は男らしいです」
 心が折れそうな実徳の背中に容赦ない言葉が次々と突き刺さって胸を貫通する。
 「うるせぇ……うるせぇ……ここを出たら、後で纏めて犯してやる……」
 頭痛が収まって、この家を出たら必ず仕返ししてやる。仲間を集めて手籠めにして輪姦して写真を
動画を世界中にバラ撒いてやる。もちろん、ここにいる女全員だ。二度と表を歩けなくなる位に汚して
孕ませて腹を蹴って……
 「残念ですが、もはや貴男には後も先もありません。反吐が出そうなほど見苦しい現実逃避も大概に
して頂けませんか?」
 「ぐあっ!?」
 茶髪を掴まれ引っ張り上げられた実徳の口から情けない声が漏れる。数に頼っている時ならいざ知らず、
弱い相手を痛めつけた事は数知らずあっても自分より強い者から苦痛を与えられた経験など無いに等しい
実徳は、まるで牙を爪を持たない小動物の様に無意味に藻掻くだけ。
 「いかに政幸様のご所望とは言えど我慢にも限度があります。私の見立てで五体満足と判断させて
頂き、このまま政幸様の御前に引っ立てて参ります!」
 「は、はいっ!」
 リーダーの怒気に恐れをなしたメイド少女達はモーゼの海割りのように慌てて道を作り、中の一人が
弾かれたように廊下に続く扉に駆け寄って恭しく腰を折りながら開く。
 「あなた達も一緒にいらっしゃい。政幸様の御前で、この屑に身の程という言葉の意味を徹底的に
叩き込みます」
 はいっ! と恐ろしいほど見事に揃ったメイド少女達の返事。

 そのままゴミ袋か何かのように廊下を引きずられ、自分の足で立ち上がる暇も与えられず階段を引っ張り
上げられ、全身を汚され服をボロボロにされブチブチと髪を何本も引き抜かれながら生意気なメイド女の
細腕一本で実徳が連れてこられた場所は二階の一室だった。
 ドラマかで見かける学者か医者の書斎を思わせる本棚だらけの広い部屋。飾り気こそ無いが高級そうな
木製の家具に囲まれた室内の一番奥で、これまた年期が入っていそうな大きな机でペンを走らせていた
少年は、ボロ雑巾のようになってしまった実徳の姿に驚きもせず穏やかな笑顔で顔を上げた。
 「ご苦労様でした、佐久間さん」
 いや、それどころか実徳の姿など眼中に入っていないようにメイドの方へと労いの言葉を掛けた。
 「勿体ないお言葉でございます」
 「っつっ!?」
 深々とお辞儀をしながら無造作に髪を解放され、床で頭を打った実徳の口から呻き声が漏れる。
 そして、そんな実徳を佐久間の後ろに控えたメイド少女達がクスクスと嘲笑う。
 「て、てめぇら……!!」
 「さてと……」安っぽい恫喝など聞くに値しない、とばかりに遮って実徳の同級生らしい新庄政幸と
思しき少年が眉一つ動かさず実徳を見下す「……いま詳しい説明をしても聞く耳は持たないっぽい様子
だし、結論から先に言わせてもらうけど……田所君は僕の所有物になったから」
 「はぁっ!?」
 痛む節々に顔をしかめながら床に立ち上がろうとしていた実徳の動きが途中で止まる。
 「要するに売り飛ばされたのですよ貴男は。本当に察しが悪い屑ですね」
 「な、な……!?」
 「と言うわけで僕なりに田所君の処遇について色々考えたんだけど、とりあえず新人のメイドとして
使ってあげるのが一番良いって結論に達したんだ。だって田所君、他に何も出来ないだろ?」
 「め、め……メイドって……何言……」
 「僕の話はこれで終わりだから。田所君をお願い出来ますか、佐久間さん?」
 「……私に一任して頂けるなら……」
 「もちろんだよ。使えるようになるまで存分に躾けてやって構わないですから」
 「そう仰って頂けるのでしたら、必ずご満足頂けるよう仕込んで見せます。あなた達にも協力して
貰いますよ?」
 きゃ~~っ、とメイド少女達が小躍りしながら控えめに歓声を上げる。
 言うまでも無く、全てが実徳の頭上を素通りである。
 「お、おいっ! ンだよそれっ! 訳わかんねぇだろ、ちゃんと説明ぐわっ!?」
 「お目通りは終わりです」細い指で手首を掴まれ軽く捻られただけで、耐えがたい激痛が実徳の
全身を麻痺させる「いまから貴女は新入りの見習い。つまり下働きの中の下働きとして私たち全員の
教育下に入りました。以降、許可が無い限りプライベートはおろか寝食の自由すら与えられないものと
心得て精進して下さい」
 その日、町一番の問題児が忽然と姿を消した。



 その日の空は、果てしなく青く澄み切っていた。
 遙かな上空を緩やかに漂う綿雲と、程よい暖かさを与えてくれる日差し。
 清々しい大気を切って流れ星のように視界を横切るヒヨドリの鳴き声も何処と無く楽しそうで、
この世界の広さと美しさを改めて実感させて、
 「誰も休憩して良いなんて言っていませんが? 只でさえ手が遅いというのに、サッサと片付けないと
昼食の時間を削りますよミノリさん?」
 「うぐっ!?」
 布団たたきで文字通りに尻を叩かれた実徳の口から小さな悲鳴が漏れ、慌てて窓拭きの続きを再開する
背中に、これ見よがしの忍び笑いが幾つも浴びせかけられる。
 言うまでも無く、実徳を監視しているのは佐久間とか言うメイド。
 そして、心底面白そうにクスクスと笑っているのは常に実徳の無様な姿がよく見える場所で掃除を
しているメイド少女達である。
 更に実徳自身もメイド姿だ。
 もちろん好きこのんで小間使いの格好をしている訳ではない。他に着る物を一切与えられていないので
選択肢がないのだ。この屋敷に拉致監禁された日、有無を言わさず放り込まれた浴室でシャワーを浴びて
いる間に衣服はおろか下着から所持品まで全てを奪われ隠されしまったのだからやむを得ない。
 「携帯電話は解約済みですしカードも止められています。持っていても意味が無いでしょう?」
 そう言いながら浴室に押し入ってきて実徳を羽交い締めにし首を絞め意識が朦朧としている間にメイド服を
着せ錠前付きの首輪をはめ、そこから伸びる金属製の鎖を握られ衣食住の全てを掌握されてしまっては、
これはもうメイド達に従うしかない。
 いずれ脱出して仲間と共に報復するにしても、いまは機を伺うかがって耐えるしかない。
 この生意気な女達を犯し尽くす日を夢見ながら。
 「……まったく、掃除はおろか雑巾の絞り方一つ知らないとは使えないにも程があります。まだ
小学生の方が数倍はマシでしょうね」
 「小学生以下だって!」
 「ありえないし~!」
 「そ、そんなに笑ったら……うぷぷっ」
 「………………馬鹿みたい」
 「お前ら丸聞こえなんだよっ! 俺を扱き使いながらサボってんじゃあぐぅっ!!」
 「先輩達に向かって、その口のきき方はなんですか。あと粗暴な男のような下品な言葉遣いも直しなさいと
言ったでしょう?」
 存外に分厚く、重いメイド服越しでも叩かれて痛くないわけがない。下手に動こうとする度に鎖を引っ張られ、
喉が締まりうずくまってしまう。

 いまの実徳は、まるで奴隷だ。
 屋敷の外はおろか、常に鎖で繋がれ邸内でも限られた範囲での移動しか認められない。女に引きずり回され
監視され、辛うじてプライバシーが守られるのは入浴とトイレくらいである。
 もっとも、それすらストップウォッチで時間を計られながらであるが。
 そして朝から晩までの労働。
 勤労経験皆無な実徳に出来るのは簡単な掃除くらいだが、恵まれた環境で温々と暮らしてきた実徳にとっては
下働きの仕事自体が苦痛であり屈辱以外の何物でも無い。
 「くそっ……くそっ……!」
 苦しんでいる自分の視界の隅、和気あいあいとしながらも手際よく仕事を片付けてゆく他のメイド少女達の
姿を恨めしげに睨む程度のことしか出来ない。
 「メイド以前に女の子が『くそ』なんて言葉を使うなど言語道断です。ここまで物覚えが悪いとは、どこまで
頭の出来が残念な屑なんですか貴女という人は」
 「ひぅっ!?」
 ひゅん、と背後で布団たたきを振り上げる気配。思わず竦み上がってしまう実徳。
 「次に下品な言葉遣いをしたら、今晩の入浴の時間を半分にしてしまいますからねミノリさん?」
 「は、はぃ」
 「……何も聞こえませんね。もう一度お願い出来ますか?」
 「はは、はいっ!」
 「やはり何も聞こえませんね。私の耳が悪いのでしょうか?」
 「す、すみません! もう下品な言葉は使いませんっ!!」
 「貴女達はどうですか? 私には風の音しか聞こえませんが?」

 「「「なにも聞こえません~ん!」」」
 「………………ま、ません……」
 この時を待ち構えていたように声を揃えるメイド少女達(約一名を除く)

 「ぐぅっ!」歯ぎしりする実徳。露骨に弱者をいたぶる集団的な悪意に心が折れてしまいそうだ「げ、下品な
言葉遣いはっ! 二度とっ! 使いませんっっ!!」
 全身から火が噴き出しそうな羞恥に耐え一言一言、腹の底から声を絞り出して叫ぶ実徳の情けない姿を冷淡に
見下ろす佐久間と、底意地の悪そうな笑みで鑑賞する他の少女達。
 「……結構です。ただし昼食は窓拭きが終わるまでお預けにしますが、宜しいですね?」
 「はいっ!!」
 ビクン、と弾かれたように姿勢を正した実徳は慌てて作業を再開した。

 そして、やっと迎えた就寝の時間だが……
 「んちゅ、んちゅ、ちゅ~~~っ!」
 「はぅん! あん! んん~~~~っ!」
 新入りの実徳に個室など与えられる筈もなく、女物の上下の下着のみを着せられ部屋の両側に二段ベッドが
鎮座する相部屋に押し込まれる。
 しかも実徳の反対側のベッドではメイド少女が二人、まるで実徳に見せびらかすように全裸で絡み合い、
隠す気など微塵もなさそうな音量で乳繰り合っている。
 「み、未玖ちゃん……それ、強すぎるよぉ……!」
 「だって静っちは少し痛いくらいの力加減で前歯で乳首を甘噛みされるのが好きでしょ? それから歯が食い
込んだ跡を舌で優しく……れろれろれろっと」
 「そ、それは感じすぎるから駄目ぇぇぇ!」
 ほぼ毎晩、この調子である。
 恐らくだが、この二人と相部屋にしたのも『わざと』だろうし、二人が実況さながらの説明を聞かせながら
耽っているのも実徳を苛める為だろう。
 何故なら、ベッドの中の実徳は後ろ手に両手の親指を拘束され鎖の先端を丈夫な鉄柱に固定され目の前で
痴態を繰り広げている二人に襲いかかることも、自分を慰めることも出来ないのだから。
 「ほらほら静っち、次はどうして欲しい? このままクリトリスをコチョコチョしながら乳首噛まれる
だけで良いのかなぁ?」
 「そ、それは……その………………れて、欲しい……」
 「ん? ん~ん?」
 「だ、だからっ! 未玖ちゃんの指で私のおま……お腹の中、掻いて欲しいの……っ!」
 「だよねっ、そうこなくっちゃ! じゃあ静っちも私のアソコ、思いっきり恥ずかしい音を立てながら
たっぷり啜ってくれる?」
 「う、うん……」
 背を向け、見ないようにしていても何をしているのか分かってしまう。最初の数日こそ怒鳴って脅かして
止めさせようとしたが、それが負け犬の遠吠えで手も足も出せないと熟知している二人が聞き入れてくれる
わけもなく、それどころか安全な観客である実徳に全て晒す事で更に燃え上がるという新たなプレイに
目覚めたらしく、以前にも増して大きな音を立てるようになってしまったのだから始末に負えない。
 「うわぁ、静っちの中トロトロでキツキツだよ。どう、私の指、美味しい?」
 「くぅん! い、いいけど……もっと奥……それに一本だけ……足りないよぉ……」
 「おっけおっけ! じゃあ二本で一番奥をぐちゅぐちゅしてあげるね」
 「ひぅっ! ひ、ひぁぁぁぁぁぁっ……!」
 「静っちの中、超熱いって! ねぇ、私の方も早くくぱぁってして! じゅるじゅる吸って!」
 「う、うん……ちゅっ、ちゅるっ……ちぅぅぅぅぅっ!」
 「あはっ! 静っちのバキューム最高だよ、感じるゥ!!」
 「わ、わらしも未玖ちゃんのちゅうちゅうしながら指れされるの……幸せらよぉ……」

 四人用とはいえ所詮は狭い部屋だ、たちまち少女達の淫臭が溢れだして部屋を満たしてしまう。
 そして元々は男を興奮させる為の濃厚なフェロモンを問答無用で嗅がされ吸わされた水っぽい音を
聞かされ実徳の体が反応しないはずがない。
 「ぐっ……!」
 ここに監禁されてから一度も発散させたことのない実徳の性器は瞬く間に充血し、ジンジンと痛みすら
感じるほどに張ってしまう。
 だが目の前でドロドロに濡らしているだろう女達を犯して胎内にまき散らす事は叶わない。
 思う壺だと知りつつ、自分の手で鎮めることも不可能だ。
 「う……うぅっ……」
 勃起がムズムズと疼き、とても眠れそうにない。
 少女達の嬌声が否が応でもセックスを連想させて射精への欲求も高まるばかりだ。
 (くそっ! 出してぇ出してぇ、誰でも良いから女に突っ込んで射精してぇよぉ!!)
 犯した女、金で買った女、行きずりの女。
 多すぎて顔も覚えていない女が殆どだが、その味は全て肉棒に刻み込まれている。その愚息が空気も
読まず女体に挿入する快楽を脳に反芻させるのだから、それこそ溜まったものではない。
 (ヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇヤりてぇ!!)

 「ほらほら見てよ静っち。アイツ、シーツを相手にヘコヘコ腰振ってるじゃん!」
 「…………知らないもん。興味ないもん……」
 「そんなこと言わないで見てみてよ。面白いからぁ!」
 「……………………気持ち悪いだけだもん」
 「あはははっ、女物の下着で床オナとかマジカッコ悪ぅ! 猿みたい!」

 「くっ……!!」
 嘲りの視線と嫌悪の視線をチクチクと感じながらも、他に性欲をいなす方法を知らない実徳は
女物の下着姿でひたすら腰を揺らす。

 「もぅ未玖ちゃんってば……じゅじゅじゅっ、じゅるるるぅ~~~~!!」
 「ひぁんっ! な、なに? そんな急に激……きゅぅぅぅぅん!!」
 「私としてるのに……あんなケダモノのこと……未玖ちゃんの馬鹿っ!」
 「え? なに、ヤキモチ? ごめん! もう余所見しないから待って! ちゃんと静っちのこと
気持ちよくしてあげるから……って中をウネウネ舐めながら両手でお尻の穴引っ張らないで前歯で
クリ苛められたらイグぅぅっ!!!」
 「ちゅっ、ちゅっ、ちぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~!」」
 「いぃ、イッてるのぉ! イッてるからぁ! イッてる最終に強く吸わないでぇ!!」

 (くそっ! くそくそくそくそくそっ!!)
 射精することも出来ないまま、疲れ果てて眠りに落ちるまで実徳は無様に腰を振り続けた。



 そして翌朝の食堂。
 「……それでね? 朝起きたら凄い臭いがして、アイツってば半泣きになってんの!」
 「そんなに臭いんだ?」
 「しかもパンツどころかシーツまでドロドロにしちゃってさ、もう最悪って感じ!」
 「腐った牛乳みたいで気落ち悪かった……」
 「あの年で夢精とか、最低ね」
 「まだオシッコの方が可愛げがあるよねぇ?」
 「どっちもどっちでしょ? もう終わりだよね、男としては」
 意識を失うまで擦っても出なかった精液が、寝てる間に残らず漏れ出して下着を寝具をドロドロに
汚してしまった。しかもそれを未玖と静江に見つかってしまったのだ。
 実徳に聞こえる音量で話に花を咲かせているメイド少女達の明け透けな物言いもさることながら、
上から目線で笑われ小馬鹿にされ何も喉を通らない。
 正に針のむしろである。
 「ところで、本日のミノリさんの仕事についてですが」
 「……はい」
 淡々と朝食を摂る佐久間は知らん顔。普段なら口五月蠅くメイド少女達を躾けている彼女が、
何故か朝食の席に相応しくない話題を遮ることもせず少女達を放置している。
 「状況を鑑みた結果、洗濯の仕方を覚えて貰いたいと思いますが異論はありませんね?」
 「……くっ!!」
 「ありませんね?」
 「…………………はい」
 暗に、夢精で汚した物を自分で洗濯しろと言われているのだ。
 「はいは~い!」その会話を耳に挟んだ未玖が元気よく挙手する「佐久間さん! 私と静っちの
シーツと下着も洗濯して貰っても良いですかっ?」
 憎たらしほど爽やかな笑顔の未玖が言う洗濯物とは、まず間違いなく夕べのレズプレイで汚して
しまったものに違いない。散々見せびらかした挙げ句に、後始末をしろと言っているのだ。
 「くっ……!」
 「構いませんよ。仕事を早く覚えるためにも量は多い方が良いでしょうし」
 「だったら私の洗濯物もお願いしても良いですか? 少しオリモノが多いですけど……」
 「当然、手洗いですよね? だったら私もっ!」
 「靴下とかも良いですか!?」
 「じゃあ私も溜まってる下着を全部!」
 「女同士なのですから遠慮は無用です。私が監視して全て手洗いさせますから、綺麗にして
欲しい物があれば籠に入れて廊下に出しておいて下さい」
 悔し涙を浮かべ体を震わせる実徳の姿を横目でチラチラ見ながら、メイド少女達は我先にと
楽しそうに食堂を飛び出して洗濯物を出しに言ってしまった。


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最終更新:2014年11月15日 16:58