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 かつての、古き時代。
ほとんど誰もが、神を忘れ、信じることをやめた時代。

 

  この世は、いや少なくとも人間の世は、「魔法」という存在が全ての価値を決めていた。

 魔法を使えぬ者は「人間」とみなされることは無かった。
それを行使できること、それがまず人間であることの大前提だった。

 魔法を扱える人々は、魔法を扱えぬ人々よりも、その格差だけ力を持てる、当然の摂理。その残酷なまでに自然で純粋な格差が、次第に人の世を分けた。

 すなわち、使う者と使われる者。
支配する者と、される者とに、だ。

 魔法を扱える人種は次第に選民意識に目覚め、特権階級を持つようになり、様々な権利と富を有していった。
そして魔法を扱えぬ人々は、代を重ねるごとに、それに対して当たり前なのだという諦めを抱いていった。

 助けてくれる神などいない。それが現実だと、誰もが祈ることをやめていた。

 

 そうして、魔法を使う王侯貴族が魔法を使えぬ一般市民を虐げ奴隷のように、いやそれ以上に酷い家畜のような扱いをすることに慣れていた時代。

 一人の少女が、立ち上がることとなる。

 彼女の名前はエミリア。
神を信じることを、いや存在をも否定していたこの人の世にあって、いまだ世界に偏在する神々のうちの人柱、「真実の女神」を信奉していた「シャーマン」の部族の少女だった。

 彼女は、好奇心からたまたま商人の馬車に乗った。
結果、平和であった自分の村を離れ、その惨状を目の当たりにすることになったのである。

 神々が作ったこの世界がこんなことになっていることに納得できるはずもなく、彼女は近くを巡回していた青年に食ってかかろうとする。

 彼こそが後に「イカロス王」と呼ばれる存在なのだが、当事者たちは知る由もない。

 そこを一般市民のマリアージュという女性に助けられ、エミリアはこの惨状の真理を知るため、そして正すべく行動を開始した。
マリアは、今の世にしては珍しく、神を信じていた。
敬遠なる秩序の神の信徒であったのだ。
 

 魔法は誰にでも使えるわけじゃない神秘の力。
その常識を、エミリアはマリアージュに魔法の概念を教えることで市民に克服させた。

 魔法には二種類がある。それはこの国の人々が使う、補助具による魔術。
もうひとつは、神を信じる者に貸与えられる力による魔法だ。
敬遠なる神の信徒のマリアは、シャーマンであり真実の女神を深く信奉するエミリアと「神を信じる」という意味では同等の素質を持つ。
よって、マリアが秩序の神からの力を、神聖魔法を使えるようになるのにそう日はかからなかった。

「やり方と一定の条件さえ揃えば、魔法は発動する。
それは血筋に依ったものでも、身分に依ったものでもない」

 エミリアとマリアのこの証明と演説に、市民たちは、次第に自ら武器をとり始め、自らの尊厳と自由を選び取ることを決意した。

 こうして自由解放軍が、次第に整っていくこととなる。

 

 

 エミリアが出会った青年イカロスは、魔法大国タイタニアの国王の末息子だった。

 しかし、その身分が災いしてか、はたまた上の兄弟の争いが激しいせいか。
彼は、騎士隊長という位を当てられ、そのまま飼い殺しにされることとなる。

 結果、彼もまた他の王侯貴族や特権者のように、魔法を使えぬ者はゴミ以下だと感じるような価値観の持ち主となっていた。

 しかし、彼の価値観が変わる一瞬があった。

 エミリアと出会った時、彼女はシャーマンの魔法で体の一部を変形させて、彼から身を守った。
彼にとって、「クズ以下」が初めて魔法を使ったのを見た瞬間だったのだ。
そうして彼は、「もしかしたら、魔法が使えなくても、人間は人間なのかもしれない」という悩みに苦しむことになる。

 そこで、エミリアとマリアージュによる、市民の扇動と、革命の戦い。

 イカロスは、かねてより数度やりあってきたエミリアとここで同盟を持ちかける。
既にもう、彼にとっては、エミリアもマリアージュも自分と等しい人間であった。もちろん他の一般市民もだ。血を流したくはなかった。

 だがその時には全てが遅く、国の鎮圧部隊が結成され、動き出していた。
こうなってはもう止まらない。

 イカロスは全てを受け止める覚悟を決め、策の練り方のなっていない一般市民に策を授け、それに抗しうる手段を授けた。そして、いくつかの魔法も授けた。

 彼はもう、この国の市民のことを見捨てられるほどの冷血漢ではなくなっていた。

 そうして、国の鎮圧部隊がいざ動き出す。
対して、イカロスとエミリアの自由解放軍も動き出した。
もう止められぬ争い。
国は、血と煙の匂いで溢れた。

 

 

 全てが落ち着いた頃、もう死者の数は数え切れなかった。
イカロスが盃を酌み交わした友も、マリアージュも、その中に数えられた。

 ただ、「人間」として認められた者は、確実に以前より増えていた。何百倍にも。

 王の素質たりえる者は、もうすでにイカロスしか生き残ってはいなかった。
ブクブクと太っただけの兄たちも、私欲だけに頓着する叔父たちも、みんな死んでいなくなっていた。

 市民たちの支えもあり、自由と解放の象徴としてイカロスは王位につくことになった。

 そして、エミリアの進言により、神々を信じる者と信じないかつてのタイタニアの市民の間の溝を埋めるべく、周囲のシャーマンや、残り少なくなっていた神殿と同盟を結んだ。また、監視の意味合いを兼ねてエミリアはずっとイカロスの傍にいることを決意。

 そしてそれが婚礼の儀へと辿りつくことになるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 そうして、魔法がこの世を支配する時代は終わった。

 数百年経つ今は、魔法の素質の有無のみならず、人は全て平等に権利と義務を与えられている。