メイド・イン・長野

634 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 21:32:19.55 ID:FHah61uNo

京太郎「ハッ!?」ガバッ

 飛び起きる。

 広い部屋の中だった。

 大きなベッドの上だった。

 見覚えも、身に覚えもなかった。

ガチャッ

ハギヨシ「おや、お目覚めですか京太郎くん」

京太郎「ハギヨシさん?」

 ますます分からない。

 俺は風呂場にいた筈なのに。

 窓からは日光さえ差し込んでいる。

 と、いうことは――

京太郎「………………夢オチっすね!?」

ハギヨシ「京太郎くんが透華お嬢様の裸を目撃する寸前に新子様と国広様に袋叩きにされたことなら、紛れもなく現実ですよ」ニッコリ

 あ、はい。

639 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 22:01:15.35 ID:FHah61uNo

京太郎「……え、その割には身体とか全然痛くないんですけど」

ハギヨシ「修行の成果ですね」ニッコリ

 あ、はい。

京太郎「マジか……」

 これには自分でもビックリだ。

 突貫工事じみた修行も、十二分に成果はあったらしい。

ハギヨシ「さて、目が覚めたのなら早く身支度を済ませることをお勧めしますが」

京太郎「え?」

ハギヨシ「予め聞いておいた阿知賀の皆様の起床時間を、もう一時間ばかり過ぎていますので」サラリ

京太郎「えっ!?」

 反射的に枕元にあった携帯電話を引っ掴む。

 確認した時刻は、ハギヨシさんの指摘と合致していた。

京太郎「うっわ……すんません、すぐ着替えますから!」

ハギヨシ「準備が出来たら食堂へお越しください。朝食を用意しています」

京太郎「ありがとうございます!」

ハギヨシ「いえ。頑張ってくださいね」ニッコリ

645 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 22:27:46.83 ID:FHah61uNo


タッタッタッ...

 長ーい廊下を、やむをえず走っていた。

 とは言え小走り程度だ。

 片手には、着替えの傍に置いてあった邸内の見取り図。

 メモ紙に手書きで主だった部屋の名前が記されている。

 食堂の他には風呂場と、あと『わたくしの部屋』。

 何の情報だよ。

 誰の部屋だよ。

 さっぱり分からない。

 まあ食堂までの道筋が分かれば文句はない。ボケは流す。

京太郎「次の突き当りが左で、そこから二番目のドアか……」

 曲がって視認。

 あそこだな。

 校舎以上に豪奢な装飾のドアノブに手を掛け、捻る。

650 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 22:36:54.96 ID:FHah61uNo

ガチャッ

京太郎「すみません、寝坊しました!!」















玄「お帰りなさいませ、ご主人様っ!」ニコッ















京太郎「」

バタム

658 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 22:49:05.15 ID:FHah61uNo

京太郎「……」

 メイドがいた。

 玄さんだった。

京太郎「……いや」

 玄さんがいた。

 メイドだった。

京太郎「……いやいや」

 見間違いだろう。

 もう一度ドアを開ける。



純「だからよー、「お帰りなさいませ」じゃねーんだって」

玄「はい……」

一「メイド喫茶か何かと勘違いしてない?」

玄「いえ……」

智紀「同じミスは許さない」

玄「はい……」



京太郎「……」

 見間違いじゃなかった。

 ガチで叱られてた。

668 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 23:11:30.11 ID:FHah61uNo

京太郎「……あのー……」

 恐る恐る室内に踏み込む。

 すると長身メイドと手錠メイドと眼鏡メイドに囲まれていた黒髪メイド(涙目)が駆け寄ってきて、

玄「お、おはようございます、ご主人様っ!」ペッコリン

 大袈裟に一礼。

 うん。

 なにこれ。

京太郎「おはようございます……あの、玄さん?」

玄「はひっ、なんでございますでしょうか!」カチコチ

京太郎「いや、普通でいいです。普通にしててください」

玄「そ、そう?」ホッ

 露骨にホッとしてる。

京太郎「それで……どうしたんすか、その格好」

玄「メイドさんですのだ!」キリッ

京太郎「それは把握してます」

675 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 23:26:46.11 ID:FHah61uNo

玄「えへへ、どうかな? 似合う?」クルンッ

京太郎「パンツ見えましたよ」

玄「ふえ゛っ!?///」バッ

 慌ててスカートを抑える玄さん。今更である。

 そんな短いスカートで回ればパンチラは道理だ。

 本当にありがとうございました。

京太郎「つーか、だから何故にミニスカメイドですか」

一「それはボクが説明するよ」ガチャガチャ

 手錠メイドが近付いてきた。

京太郎「是非お願いします」

玄「そ、そのくらい私が……」アセアセ

一「松実さんはお説教ね」ニコッ

純「おう、ちょっとツラ貸せよ」クイッ

智紀「……」メガネクイッ

玄「ずがーん!?」

678 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/16(木) 23:58:07.93 ID:FHah61uNo

 長身メイドもとい井上さんと眼鏡メイドもとい沢村さんに連行される黒髪メイドもとい玄さん。

 俺は改めて手錠メイドもとい国広さんと向き合う。なにその手錠。

一「まず松実さんがメイド服を着てる理由だけど」

京太郎「はい」

一「彼女が着たがってたからだよ」

京太郎「想像以上にシンプルだった!」

一「で、仮にもメイドの格好をするならってボク達で指導してたんだ」

一「ちなみにミニスカなのは透華の悪ふざけだよ」

京太郎「ああ、納得です……ところで龍門渕さんは?」

一「透華に何の用?」ギロッ

京太郎「いっ、いえ別に!」

 やだ急に怖っ。

 そう言えば昨夜ボコられたんだっけか、俺。

 ダメージが残ってないから記憶からも消えかけていた。

679 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 00:21:16.57 ID:VPMMejw3o

一「……透華なら別の部屋でみんなの着替えを手伝ってるよ」

京太郎「え? みんな?」

 俺が聞き返したタイミングで、



透華「お待たせしましたわーーーーーッ!」バァンッ!



 龍門渕さんが現れた。

 が、

透華「ッ!///」カァッ

京太郎「え?」

透華「わ、わたくし……まだ準備が残ってましてよーーーーーッ!///」ドヒューン

京太郎「え!?」

 俺と目が合うや否や、また部屋の外へ飛び出してしまった。

 やっぱり気まずいのだろうか。

 まあ、

一「……」ジロォ...

 国広さんの非難の視線に晒される俺も、負けじと気まずいけどな。

687 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 00:56:11.61 ID:VPMMejw3o

 龍門渕さんが立ち去った後には、

宥「あ、あのぅ……」オズオズ

 宥さんがいた。

 メイドだった。

宥「へ、変じゃないかなぁ……ごしゅじん、さま?」

 (結婚せざるは勇なきなり)

京太郎「変じゃないっす! メチャクチャ似合ってます!」

 玄さんと違ってオーソドックスなメイド服だ。

 そりゃミニスカは穿けまい。

 穿いたら是非とも見せて欲しい。

宥「ゎわ……でも、手袋とマフラーだよ……?」

京太郎「それがいいんじゃないですか! すっげー可愛いですよ!!」

宥「ふぁ」

宥「……」

宥「あったかーい」ポワ

699 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 01:24:51.87 ID:VPMMejw3o

ツンツン

京太郎「ん?」

灼「」チョコーン

 鷺森部長だった。

 メイドじゃなかった。

 和服だった。

京太郎「……なんで!?」

灼「龍門渕さんが、こっちの方が似合うだろうって」

京太郎「ああ、まあ……」

 確かに似合っている。

 コケシ的な意味で。

灼「ど?」

京太郎「ええ、似合ってますよ」

灼「そ。じゃあハルちゃん(二日酔い)にオレンジジュース持ってこ……」トコトコ

 コケシじゃなかった。

 茶運び人形だった。

 ていうかレジェンドは出先で何やってんだ。

703 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 01:36:22.34 ID:VPMMejw3o

ツンツン

京太郎「ん?」

 今度は背中をつつかれている。

 順番からして憧か穏乃か。

 振り返る。




















































      / : : : : : : : : : : : : : : : : :\
.     / : :/: : : : : : : : : : : : : : : : :.
    /. . : / .: : : : : : : : : : :|: : : : : :. . ..
    .: : : .::  .: : : : : : /: : : : |: : : : : : : : ::.
    |: :.:::| : : : / : : /|:. :. :. :| : |: : : : : ヽ::
    |: :::::| .: : :/7ハ:「`|: : : : :ハ:.ハハ: : : |: :
    |: :::::|: : :/ r≠ミ : : :/}| r≠ミ |: : :|: |
    |ハ:::f|: : :ィう//i|`|:// う//iハ|: : 八:  「お、お久しぶりです……///」
    i{ i :::|: : | 弋/ソ    弋/ソノj/: : i
    八 :|: : |_  ,,    '    ,, 从: :./
      ヽ: :| `    r ,    イ |:./
        N />..    イ、r―j/、
   r――r-rく     7    V|__,  〉、
   lj>――|  ―― 、    ソ_   }
  / \ / `ヽ_       ノ   _rV ‘.
. /    <>、_,  7⌒―く ´ \ \{i |

京太郎「」

744 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 21:32:24.91 ID:VPMMejw3o

 憧じゃなかった。

 穏乃でもなかった。

 綾ちゃんだった。

 メイドだった。

 国広さん達と同じオーソドックスなデザインだ。

 そのシンプルさが綾ちゃんの素朴な可愛らしさと上手く噛み合っている。

 持ち帰りたい。

 家に置きたい。

 そして掃除とか料理とかしてるところを眺めたい。

 きっと凄まじい癒やし効果が見込めると思う。

 って、

京太郎「綾ちゃん!? なんでここに……つーか、いつから!?」ズイッ

綾「わ、わっ、近っ……/// あのあのえっとこれはその……」アヤヤヤヤ

一「昨日からいたよ?」ケロリ

京太郎「マジで!?」

749 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 21:57:57.00 ID:VPMMejw3o

玄「私達も驚いたんだけどね」

 会話に混ざりながら玄さんが歩み寄ってきた。

玄「実は綾ちゃん、荷物に紛れ込んで付いてきてたんだよ」

京太郎「はぁ!?」

 なんだそれは。

 今明かされる衝撃の真実ゥ。

京太郎「荷物って……え、俺達の荷物にですか!?」

玄「うん。京太郎くんが積み込んでくれてたよね? その時は気付かなかった?」

京太郎「まったくもって!」

一「それはそれでどうなのさ」

京太郎「いやほんとに。綾ちゃん軽いんで」ヒョイッ

綾「ひやあ!?///」

 論より証拠と持ち上げてみせる。

京太郎「ほら、たかいたかーい」ヒョーイ

綾「あややややややややややややややややややや」

 うん、やっぱり羽のように軽い。

 両手で触れる脇腹にも余分な脂肪は一切ない。

 まったく中学生は最高だぜ。

759 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 22:40:34.05 ID:VPMMejw3o

綾「ぉ、おにーさんっ! おろ、おろしてください~っ」アヤヤヤヤ

京太郎「あ、悪い」ストン

 いつまでも宙ぶらりんじゃ怖いよな。

 真っ赤な顔で息を荒げる姿に罪悪感を覚える。

京太郎「大丈夫か?」

綾「は、はひ……」ハァハァ

京太郎「ごめんな、まさか荷物の中にいるなんて思わなかったから、乱暴に扱ってたかも」

綾「そんな、気にしないでください。私、おにーさんになら乱暴にされても……///」ポッ

京太郎「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、無理だけはしないでくれよ? 痛かったんなら正直に――」

綾「ほ、本当ですっ! 私(が入ったバッグ)を抱いてくれた時のおにーさん、すごく優しかったです!」

京太郎「綾ちゃん……」

綾「……えへ」ニコッ

 ええ子や(真顔)。

一「……ねえ、なにこれ?」

純「オレに聞くなよ……」

智紀「ハイセンス」

764 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 23:00:59.34 ID:VPMMejw3o

京太郎「ところで玄さん、監督はこのことを?」

玄「もちろん知ってるよ」

綾「荷物に隠れるよう提案してくれたの、ハルちゃんなんです」

 おい。

 赤土。

玄「ほら、最初のサービスエリアで京太郎くんに買い出しお願いしたでしょ?」

京太郎「ああ、はい」

玄「その時には、もう私達は綾ちゃんのこと知らされてたんだ。黙っててごめんね」ペッコリン

綾「ご、ごめんなさいっ」ペッコリン

京太郎「……そんな無茶な話、よく綾ちゃんも乗っかったな」

綾「えと、桜子とひなにけしかけられて……」

京太郎「……き、桐田さんは!? あの子は常識人だった筈!」

綾「あ、凛はむしろ応援してくれました」

京太郎「マジか!?」

綾「はい! 「あー、うん。いいんじゃない? もうどうでも」って、生暖かい目で!」

京太郎「それ投げられてるよ匙ィ!」

767 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/17(金) 23:35:57.19 ID:VPMMejw3o

 と、

 ついつい跳ね上がってしまうテンションを押さえつけ、

京太郎「……そもそも、どうして綾ちゃんは遠征に付いてきたんだ?」

綾「ッ」ドキッ

京太郎「前は、憧達の迷惑になるから部室には来ないって言ってたよな?」

京太郎「なのに今回はかなりの無茶をしてまで長野にいる」

京太郎「どうしてなんだ?」

綾「……ごめんなさい……」シュン

京太郎「あ、いや、別に責めてるわけじゃないんだけどな」

綾「ごめん、なさい」

 いかん。

 すっかり萎縮させてしまった。

 JCメイドを詰問とか、どんなイケナイご主人様だよ。

 シチュエーションとしては嫌いじゃないが、当事者になってみると悪趣味以外の何物でもない。

775 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/18(土) 00:07:29.72 ID:IqeAXVL6o

 と、

玄「きょ、京太郎くんっ」

 声。

 振り向けば、玄さんと国広さん達が一箇所に集まっていた。

玄「出来れば綾ちゃんを怒らないで欲しいな……」

一「その子、須賀くんのいないところで色々頑張ってたんだよ?」

智紀「牌譜を取る手伝いもしてくれた」

純「根性あるよな。オレは気に入ったぜ」

京太郎「皆さん……」

 熱いフォローの嵐だった。

 重ねて言うが、俺に綾ちゃんを責めるつもりは毛頭ない。

 悪ノリであっても悪気はなかったんだろう。

 迷惑になると分かっていても、せめて邪魔にならないようにと頑張ったのなら、

スッ

綾「ひうっ」ビクッ

京太郎「本当に怒ってないから。な?」ナデナデ

綾「お、おにーさん……」

京太郎「メイド服、似合ってるぜ」ニッ

綾「ぁ……ありがとうございます、ご主人さまっ!」ニパッ

870 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/20(月) 21:28:57.16 ID:krQTuekMo

キィ...

京太郎「ん?」

透華「お、おじゃましますわ……」ソローリ

一「透華が未だかつてなく静かにドアを開けた!?」

純「つーかお前んちだろ」

智紀「借りてきた猫……」

透華「だ、だまらっしゃい! 私にも事情というものがありますのよ!」

 メイドで部員な御三方を怒鳴りつけ、龍門渕さんがこちらに向き直る。

 そして、

透華「ごきげんよう須賀さん。昨晩はよく眠れまして?」ウフフ

京太郎「え?」

 まるで本日最初の顔合わせであるかのようなセリフだ。

透華「ごきげんよう須賀さん。昨晩はよく眠れまして?」ウフフ

京太郎「いや、あの」

透華「ごきげんよう須賀さん。昨晩はよく眠れまして?」ウフフ

 村人Aか。

 察するに、龍門渕さんは昨夜の一件をなかったことにしたいらしい。

 ならば俺も敢えて適当に返すのが人情だろう。

京太郎「えーっと……はい、お陰様で」

透華「お、お陰様ぁ!? そそっ、それは私の裸を見たお陰様でという意味ですの!?///」ドカーン

京太郎「えええ自分から突っ込んできたよ!!」

875 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/20(月) 21:58:57.82 ID:krQTuekMo

玄「は、裸……!?」

宥「あったかくない……」ブルッ

綾「おにーさん、どういうことですか……?」

京太郎「しかも玄さん達は知らなかったんですか!?」

一「萩原さんが誤魔化してくれてたからねー」

純「オレ達は聞いてたけどな」

智紀「この淫乱」

透華「ごっ、誤解ですわ!///」

京太郎「そう、誤解なんですよ! 風呂場でちょっとしたToLOVEるがあってですね……ねっ、りゅーもんぶちさん、ねっ!?」

玄「お、お風呂……!?」

宥「あったかそう……」ポワ

綾「おにーさん、どういうことですか……?」

京太郎「あああ次から次へと! 誰かタスケテー!」

<オーイ

京太郎「!」

 この声は……

穏乃「おーい!」

京太郎「し、穏乃ー!」クルッ





穏乃「おーい、京太郎ー!」
※参考資料






: : : : :/ : : : : : :| : : : :|.. : :. ゙、: . ゙、゙、. \
: : : : : |. : : : : :i |: : : :i:|. : : : ∧: :、.i. .i: : . ` 、
.: : : : : !: : : : : | |、: : :| | : : i | !: :|:| : |:、: : : : : : >
: : : : : :| : : |: i 「! ヽート!、: : リ  !: |ハ: ト : | ̄ ̄
.: : :,..-、|: : :i: :|: !゙、 _、!二゙、-| イ: リ ! |ヽ:|
: : / へ.゙、 :丶ヾヽ<´{::::i` ヽ! 1!|:/| :!ノ゙、リ
: :ヽ    \ : :!丶   ̄     Vイ:ハ |\:i
.: : 丶    \゙、        `> リ  `
ヽ: : :`┬ 、  ヾ          /
  i: ;ィノ    U     ,....-ィ /
,,:‐レリ    _       ̄ /
゛=!_    \ `ー-、_  _/
::::::゛== 、 \   / ̄ヽ、
::::::::::::::::::::::゛===-、    >

884 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/20(月) 22:22:05.29 ID:krQTuekMo

 穏乃だった。

 メイドだった。

 水着だった。

 メイド水着を着た穏乃だった。

 バッカじゃなかろうか。

穏乃「おはよっ!」

京太郎「むしろお前が目を覚ましてくれ」

穏乃「ぅ?」キョトン

京太郎「キョトンじゃねーよキョトンじゃよ。なんだその格好!」

穏乃「ああこれ? 透華さんが貸してくれたんだー」

京太郎「なに考えてんだアンタ!」クワッ

透華「可愛いでしょう?」

京太郎「そうじゃねーだろ!」

透華「あら、もしかして可愛くないと仰いますの?」

京太郎「だからそうでもなくて……ああもう!」

888 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/20(月) 22:57:29.78 ID:krQTuekMo

透華「ああもうはこっちのセリフですわ! 可愛いのか可愛くないのかハッキリしてくださいな!」

京太郎「そりゃ可愛いですけど!!……ハッ!?」

透華「でしょう」フフン

京太郎「クソぉ……言わされた……」ガクッ

穏乃「京太郎?」

 くずおれ膝をつく俺に、穏乃が声を掛ける。

穏乃「この格好、私にはよくわかんないけど……かわいい、の?」

 なんて、小首を傾げてみせる穏乃。

 その頭にはネコミミ風ホワイトブリム。

 首から下も、本当にメイドで水着としか言いようがない。

 相当に着る人を選ぶと思う。ともすれば下品だ。

 しかし穏乃は見事に着こなして……というか、受け入れている。

 照れや恥じらいがない分、持ち前のあどけない雰囲気が勝っているのだ。

 なのに何故だろう、健やかさの中に色気まで感じてしまうのは――

京太郎「……」

穏乃「京太郎ー?」

京太郎「よしよし」ナデナデ

穏乃「わ……えへへー♪」

 誤魔化した。

898 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/20(月) 23:31:56.45 ID:krQTuekMo

玄「すごく可愛いよ穏乃ちゃん!」

綾「うん、似合ってるー」

穏乃「ありがとうございます玄さんっ。綾もありがと!」

宥「寒くないの……?」

穏乃「動けば全然へーきですっ!」ピョンピョン

純「よくそんなカッコ出来るなぁ」

智紀「ハイセンス」

一「もう少し露出が欲しいね」

 と、和気藹々の両麻雀部+中学生。

京太郎「……あれ?」

 何かおかしい。

 何か足りない。

 何かっていうか、誰か――あ。

京太郎「穏乃、そういえば憧は?」

 よく見たらいなかった。

 右も左もメイドばかりで気付くのが遅れてしまった。

908 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 00:02:59.14 ID:lsB4ak/Fo

穏乃「え? あれっ? 憧? 憧ー?」キョロキョロ

透華「おかしいですわね、高鴨さんと一緒に着替えてましたのに」

京太郎「………………なぬ?」

 一緒に着替えて……だと……?

 それはつまり、憧もメイド服を着ているということか。

 その憧が食堂に来る前に姿をくらましたということか。

 ということは――

京太郎「」クルッ

 視線を食堂の入り口に。

京太郎「!」

 発見。

 半開きの扉の陰から憧の髪の触覚部分がはみ出していた。

 やっぱり、途中で怖気づいて隠れてやがったな。

 抜き足&差し足で忍び寄り、

京太郎「なーにコソコソしてんだ、よっ――」グイッ





憧「ふ、きゅ……っ!?///」
※参考資料






: : : : :/ : : : : : :| : : : :|.. : :. ゙、: . ゙、゙、. \
: : : : : |. : : : : :i |: : : :i:|. : : : ∧: :、.i. .i: : . ` 、
.: : : : : !: : : : : | |、: : :| | : : i | !: :|:| : |:、: : : : : : >
: : : : : :| : : |: i 「! ヽート!、: : リ  !: |ハ: ト : | ̄ ̄
.: : :,..-、|: : :i: :|: !゙、 _、!二゙、-| イ: リ ! |ヽ:|
: : / へ.゙、 :丶ヾヽ<´{::::i` ヽ! 1!|:/| :!ノ゙、リ
: :ヽ    \ : :!丶   ̄     Vイ:ハ |\:i
.: : 丶    \゙、        `> リ  `
ヽ: : :`┬ 、  ヾ          /
  i: ;ィノ          ,....-ィ /
,,:‐レリ    _       ̄ /
゛=!_    \ `ー-、_  _/
::::::゛== 、 \   / ̄ヽ、
::::::::::::::::::::::゛===-、    >

919 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 00:25:46.36 ID:lsB4ak/Fo

    __,.ィ ̄ ̄`ヽ/ヽ__
      > ´ ̄  /   `   `、  、
、 -  ´    /   '     } ヽ ヽ\  \
 `  ̄ >'  /   ,: |    ∧/! |   } ヽ  ヽ
   /,ィ  / ' / /|   _/,.ム斗}-/  ハ   :.
  {/.'   ,| ,.|-}/-{ | / ,ィチ斧ミ }/ }  |    .
  /  イ/{ : ! ィ斧从}/   Vzソ ノ /イ ,:       「……」
<__  ´// 从{ Vソ /         / イ- 、  |
     {'{  { ,    '           /' ⌒ }  |
      从Ⅵ              /.: ノ  |
       叭   v_ ̄ヽ      ,rー'   从
         、           イj   / /
            :.          < |'  /}/
            、__   ´    } イ从/
               |        |/
              「 ̄|     「 ̄ ̄ ̄ ̄}
              |//l|     |//////// 、
        ,. <// ∧      |//////////> 、

: : : : :/ : : : : : :| : : : :|.. : :. ゙、: . ゙、゙、. \
: : : : : |. : : : : :i |: : : :i:|. : : : ∧: :、.i. .i: : . ` 、
.: : : : : !: : : : : | |、: : :| | : : i | !: :|:| : |:、: : : : : : >
: : : : : :| : : |: i 「! ヽート!、: : リ  !: |ハ: ト : | ̄ ̄
.: : :,..-、|: : :i: :|: !゙、 _、!二゙、-| イ: リ ! |ヽ:|
: : / へ.゙、 :丶ヾヽ<´{::::i` ヽ! 1!|:/| :!ノ゙、リ   「!?」
: :ヽ    \ : :!丶   ̄     Vイ:ハ |\:i
.: : 丶    \゙、        `> リ  `
ヽ: : :`┬ 、  ヾ          /
  i: ;ィノ    U     ,....-ィ /
,,:‐レリ    _       ̄ /
゛=!_    \ `ー-、_  _/
::::::゛== 、 \   / ̄ヽ、
::::::::::::::::::::::゛===-、    >

憧「ぅう……///」モジモジ

 思わず二度見する。

 ドアを全開させた先には確かに憧が立っていた。

 メイドだった。

 水着だった。

 ジャージだった。

 メイド水着の上からジャージを羽織った憧だった。

 もう言葉もない。

 だが、敢えて言うなら、

京太郎「……」ジー

憧「きょ、京太郎……?///」ポヨーン

京太郎「……」ジィー

憧「……ちょっ!? どこ見て……!///」バッ

京太郎「憧、お前……」ジィーッ

憧「な、なによ……」ドキドキ



京太郎「………………盛ったなぁ! 胸!」



憧「死ねぇ!!」バキィッ

京太郎「すみれっ!」グハァッ

925 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 01:01:11.40 ID:lsB4ak/Fo

憧「アンタって本っ当にデリカシーがないのね!」

京太郎「だ、だって明らかに普段よりデカ……」ピクピク

憧「な、なに言ってんのよ! 普段からこれくらいあるでしょ!」

京太郎「えぇ……?」ジロー

憧「ちょ、じろじろ見るの禁止!/// とにかくあたしはこれがデフォなの! ねっ、とーかさん、ねっ!」クルッ

透華「その通りですわ! 龍門渕家に代々伝わりし寄せて上げるテクニックなんて使ってませんわ!」キリッ

憧「透華さあああああんっ!?」ズガーン

透華「口が滑りましたわー!?」ガビーン

 隠し事の出来ない人だった。

京太郎「ふーん……寄せて上げちゃいましたかぁ……」ジローリ

憧「だからじろじろ見ないでってば! うぅう……///」

 耐えられない、とばかりにしゃがみ込む憧。

 そうすると余計に胸が強調されるのには気付いていないらしい。

 谷間か……

京太郎「ぐへへ」

綾「おにーさん、鼻の下伸びてます……」ジトー

玄「ぐへへ」

宥「くろちゃー……」シラー

930 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 01:44:42.63 ID:lsB4ak/Fo

穏乃「てゆーか、なんで憧は私のジャージ着てんの?」

宥「あったかいから?」

憧「だ、だって……」

玄「だって?」

憧「いざ着てみたらこの格好、ほんと恥ずかしいし……」

憧「こんな格好で京太ろ……人前に出るとか、ありえないし……///」モジモジ

憧「だから引き返して、なんか羽織れそうなものを探して……」

京太郎「で、穏乃のジャージを発見した、と」

憧「」コクコク

京太郎「お前アホだろ」

憧「んなぁっ!?」

京太郎「憧の為を思って言うけどな。その格好、逆にエロいぞ」ズバァッ

憧「ふきゅっ!?」

 事実である。

 下半身は穏乃と同じデザインだが、上半身が違う。

 胸のサイズに合わせたのか、より水着風で、ニアリーイコール下着風なのだ。

 それをジャージで半端に隠すものだから、かえって扇情的に見せてしまっている。

 隠すなら完全に隠せばいいものを。

 まあ、隠したら隠したで興奮するが。裸Yシャツっぽいし。

 侮るなかれ、餓えた男のエロへの嗅覚。

931 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 02:00:03.95 ID:lsB4ak/Fo

京太郎「しかしまあ……」

 見回す。

 ジャージ水着メイド。

 ネコミミ水着メイド。

 ミニスカ黒髪メイド。

 マフラーメイド。

 JCメイド。

京太郎「身内がことごとくメイド化してるって、相当カオスだな……」

透華「それで須賀さん、誰にご奉仕してもらいますの?」

京太郎「そうですねぇ……」

京太郎「……」

京太郎「は?」

透華「それで須賀さん、誰にご奉」

京太郎「聞き取れなかった訳じゃねーよ村人A」

936 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 02:26:40.83 ID:lsB4ak/Fo

透華「誰が村人Aですって!? 私はこの世界の中心、ヒロインでしてよ!?」ムキー

京太郎「それはどうでもよくて……なんすか、ご奉仕って」

透華「言葉通りの意味ですわ」サラリ

京太郎「………………わっかんねぇ~」

一「あー、ボクが説明しようか?」

 と、

 遅々として進まない会話に痺れを切らした国広さんが助け舟を出してくれた。

京太郎「ありがとうございます、お願いします」

一「えっと、まず松実さんがメイド服を着たがってたって話はしたよね?」

京太郎「はい」

一「実はそれは建前で、メインはキミを労うことにあったんだよ」

京太郎「オレェ?」

一「感謝の気持ちだってさ。自分達の為に萩原さんの修行に耐えてくれた須賀くんへの」

943 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 02:53:58.16 ID:lsB4ak/Fo

憧「……まあ、メイドはやりすぎだと思うけどね」プイッ

穏乃「いつも助けられてる分、今日は私達が!」ムンッ

玄「そうだね、張り切って恩返ししちゃうよっ」フンス

宥「京太郎くんがあったかくなれるように、頑張るから……」プルプル

綾「わ、私もおにーさんの為なら、なんでも……なんでも……///」アヤヤヤヤ

ウォーズマン「コーホー」

京太郎「みんな……」ジーン

純「おーおー、愛されてるなぁ」

智紀「この種馬野郎」

京太郎「みんな……」ジーン

 感動の邪魔なので無視した。

一「でも、時間的にもそろそろ対局したいし、出来て朝食のお世話ぐらいだと思うよ。いい?」

京太郎「はい。もちろんスケジュール優先で構いません」

透華「それなら、阿知賀の皆さんにはジャンケンで代表者を決めてもらいましょう!」

憧「ジャンケン?」

透華「そう! 勝ち残った一人だけが須賀さんのお世話をするのですわ!」バァーン

「「「「「!!」」」」」

 なんちゅう贅沢者だ俺は。

 しかし憧達は既に臨戦態勢。

 謎の緊張が辺り一帯を包んだ。

 そして、



「「「「「じゃーんけーん――!」」」」」



23 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 21:36:58.34 ID:lsB4ak/Fo


 で、

          /: : : : : : : : 、: : : : : :\         r三ミY_ソ
ヽ         _/:/ : : /:/: : :/ ヽ: : : : : : :ヽ      /::::::::::iソ
::::\      ///: : : /<: :ハi  Vハレ: !: : ハ    /::::::::::::/
:::::::::\   /:ハ: !: :ハ! V\  イ´Vハ: : :ハ   /:::::::::::::::/
::::::::::::::\ /: :i :V:ハ:{ r≠ミ    r≠ミ }:ノ: :リ ,.´:::::::::::::::/
:::::::::::::::::::::\: :V : i:ゝ 、、   丶  、、イ: レ´ /:::::::::::::::::/
、:::::::::::::::::::::::::\⌒{: {     /⌒ ┐  !:} /::::::::::::::::::/   「やったー! 私の勝ちだー!!」
 \::::::::::::::::::::::::\{:.{     i    ′ ィ: レ::::::::::::::::::::::/
   \:::::::::::::::::::::::::{:.ト\  ー  ´ / ,.}: }::::::::::::::::::::/        ※AAはジャージですが実際はメイド水着です
   /: :\:::::::::::::::::::V{:Y::::: ̄::Ti::´} _/:::}:.j::::::::::::::::::/
.  /: : : : :\::::::::::::::::V:::゙三:ニ:〉〉彡:::::::レ::::::::::::::::/
  i : : : : : : :{\:::::::/:::::::::::::::::ヽ《::::::::::::::::::::::::::::::/
  Vi: : : : :ハ:{ ヽ:::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::ヽ:::::::; ´
  ハ: : : :ハ{   V:::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::V:/
    V: : :{ \ {:::::::::::::::::::::::::::::}}::::::::::::::::V
    V\:、    !:::::::::::::::::::::::::::::}}::::::::::::::::',
        `:ゝ   }:::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::;
           l::::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::i
.             }::::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::'
              !::::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::}

 という結果になった。

玄「そんなぁ……」

宥「……あったかくない」

綾「おにーさん……」

憧「………………」

京太郎「おおぅ」タジッ

 負けた面々の反応に、なんだか胸が痛くなる。

 気持ちは嬉しいが、そこまで俺に奉仕したかったのだろうか。

25 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 21:48:37.35 ID:lsB4ak/Fo

透華「では、高鴨さんが須賀さんの朝食係で決まりですわね」

穏乃「はいっ!」

 元気よく返し、ててっと俺に駆け寄る穏乃。

穏乃「じゃあよろしくね! 京太郎――じゃないや」

京太郎「?」

 京太郎ダヨ?

穏乃「おほん!」

                     _
                   / 二>───
             /´ ̄          `
             /                  \
            .         . : : : : : : : . . . . .      \
         /   / . . : : : : :/.: : /ヽ: : : : : : : . .
           /  .: / . :. :.:./: : :.:.′ :.′ l:.ヽ: : :ヽ: ヽ: : .
        l\.: .:.′:.:.:.l: ′|: :.:| : : |   |:__l__:.:|: : |: : : ヽ:.i
        ト、: \!    |:i .斗‐┼!: :l   jノ人|:.:.`ト、:.|. . .. ..| |
        个x: : :|: : :. イト、人_∧\!   __ |: :/|:i!:.|: : :. :.| |
.        / . ト、: \!l!: :. :.レ    ¨´         レ' レiノ:.|: : :.ハj
       /   l:.:.\:从: : : |              ___ |: : :ハ/
.      /   \ : \l\_j xzzzzz        ⌒¨^'ムイ
     /    .: :\/^Y T ^゚´      ,   、、、 l:.:.:|   「よろしくおねがいします、ご主人さまっ!」
.    /     .: : : : {.⌒i: :|  """            l:.:.:|
   /    .: : : :. :.:.丶 l: :|       i ¨´` T     !:.        AAはジャー(ry
.  //    .: : : : : :.:. __/!:.:| > .      、__ ノ   イ:.:.:/
 //   .: : : : : :./^ヽ∨iト、三>   .,,_ . <ニ.|.:./
.//     .: : : : : .:      vヘ三三三三Y三ニi}三ニレ'^ヽ
      .: : : : :/       'vヘニ>─ ┴く/ x─‐‐く |
|| i!   : : : : :′   ⌒ヽ V´ ,       Y /      v
リ |   : : : : :レ'        ∨ ({        i !     i!
l  |   : : : : :|       /   リ..... ____  iノ    _〕
l  |   : : : : :l        /   ヽr'´ ̄ ̄`YY─==ニニX′
.\ト、   : : : : |      /      ! ______.| {       | |ヽ

 可愛いなチクショウめ。

35 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 22:14:00.84 ID:lsB4ak/Fo


 で、

穏乃「おっとっと……おーっとっとっと……」ヨロヨロ

京太郎「」ハラハラ

 ふらつきながら朝食の載ったトレイを運ぶ穏乃を、椅子に座って待っていた。

 危なっかしい穏乃もだが、背後に控える龍門渕さんと七人のメイドの視線も気に掛かる。

 気に掛かって気が気でない。息が詰まりそうだ。

穏乃「お待たせっ……しました~」ガチャン

 少々上品さに欠ける音を立ててトレイがテーブルに置かれる。

 メニューは至って普通の洋食セットだ。

穏乃「ふー、いい仕事したなぁ」

京太郎「まだ始まってもいねーよ」

穏乃「えっ」

京太郎「えっ」

37 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 22:40:17.75 ID:lsB4ak/Fo

穏乃「朝ごはんのお世話って、他にどんなことするの?」

京太郎「えっ……えー……」

 訊かれるとは。

 確かに、配膳が済めばそこで試合終了な気もする。

 だが、それではあまりにも味気ないのではないだろうか。

 大々的にジャンケンまでして代表を決めたのに。

京太郎「他に……他になぁ……」ウゴゴゴ

穏乃「そうだ、憧に訊いてみよう!」

京太郎「えっ」

憧「えっ!?」

穏乃「ほらこっち来てー」グイグイ

憧「え、ちょっ……えっ!?」オロオロ

 問答無用で引っ張られ、憧が俺の横に立たされた。

穏乃「ついでにジャージも脱いでー」バサッ

憧「きゃああああああああああっ!?///」

 で、脱がされた。

53 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 23:14:44.69 ID:lsB4ak/Fo

憧「し、しず! ジャージっ、ジャージ返して!」ワタワタ

穏乃「いや私のジャージだし」

 ごもっとも。

 しかし今の憧の格好を見ると、少し気の毒に……

憧「それでも返して~!///」ポヨヨン

 ならない。

 やるじゃん憧。

 やるじゃん龍門渕さん。

 いい光景だ。感動的だな。実に有意義だ。

穏乃「だーめ。ほら、憧も考えようよ!」

憧「な、何をよ」

穏乃「京太郎へのご奉仕!」

憧「ふきゅっ!?」

穏乃「何かないかな?」

憧「ご、ご奉仕って……それって、手とか口とか使って……ふきゅう」グルグル

 おい。

 後ろに中学生もいるんだぞ。

 何を口走ってやがるんだこの処女。

65 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/21(火) 23:53:57.55 ID:lsB4ak/Fo

穏乃「手? 口?」キョトン

憧「わぁっ!? な、なんでもないなんでもない!」

穏乃「んー………………あっ、分かった!」

憧「分かっちゃったの!?」

穏乃「うん! あーんでしょ!」

憧「へっ?」

穏乃「だから、私達が手を使って朝ごはんを京太郎の口に運ぶんでしょ? 確かにメイドっぽい!」

憧「あー……そうね、そうだよね……しずにはまだ早いもんね……」アハハ

憧「……ん?」

憧「私達ぃ!?」

穏乃「うん! 憧と私でっ!」

憧「なんであたしまで巻き込むのよ!?」

穏乃「え、憧は京太郎に恩返ししたくないの?」

憧「そ、それは……」モニョモニョ

穏乃「せっかくアイディア出してくれたんだし、一緒にやろうよ!」

憧「ぅ……うぅ~~~~~~~~~~っ……」

憧「……分かった。やるわよ、やればいいんでしょ」

穏乃「やたっ!」

 俺そっちのけで話が纏まっていた。

69 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 00:25:50.53 ID:ORNdrAdXo

穏乃「というわけで!」

 右に穏乃。

憧「あ、あたし達が食べさせて……あげる」

 左に憧。

 両側に水着メイドを侍らせての朝食が、やっと始まる。

京太郎「お、おう」

 俺も流石に緊張していた。

 際どい格好をした美少女二人に挟まれているのだ。

 仕方ない。無理もない。

穏乃「ご主人さま、どれから食べたい?」

京太郎「んー……じゃあ、まずサラダかな」

穏乃「合点承知!」

 メイドの言葉遣いじゃない。

72 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 00:49:16.20 ID:ORNdrAdXo

 穏乃が手に取ったフォークでレタスを何枚か重ねて刺す。

 それを俺の口元まで近付けて、

穏乃「はい、あーん」

京太郎「あ、あーん」パクッ

 咀嚼シャクシャクいい歯触り。

 なんとなく、新鮮な野菜だということは分かった。

 ドレッシングも手作りだったりするのかな。

穏乃「おいしい?」

京太郎「ん、美味いよ。ありがとな」

穏乃「へへー。じゃ、次は憧の番ね!」

憧「わ、分かってるってば」オズオズ

 す、と半歩だけ前に出る。

京太郎「憧は……そうだな、ソーセージを――」

憧「こっ、このセクハラご主人様!!」

京太郎「なにが!?」ビクッ

81 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 01:31:31.48 ID:ORNdrAdXo

憧「ぁ、ご、ごめん。つい反射的に……」

 お前の反射神経どうなってんだ。

憧「えっと、ソーセージだっけ」

京太郎「ああ、頼む」

憧「ん……」

 ぱり、と皮が破ける音がして、ソーセージにフォークが刺さった。

 穏乃がそうしたように、憧も俺に身体を寄せて、

憧「どうぞ……ご、ご主人、様……///」カァー

京太郎「あ、あー……ん」パクッ

 まだ熱いソーセージを口の中で転がす。

 頃合いを見て噛み締めると、内側から旨味が溢れ出してきた。

 粗挽きの、いかにも肉って肉だ。 

憧「お、おいしい……?」

京太郎「美味いよ。憧もありがとな」ニコッ

憧「……どういたしましてっ」プイッ

83 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 02:14:09.57 ID:ORNdrAdXo

 その時、

透華「そこまで!」バーン

「「「へ?」」」

透華「もう対局を始める時間ですわ。よって須賀さんの朝食タイムは終了!」ババーン

京太郎「うええ!?」

穏乃「京太郎、まだ全然食べてませんよ!?」

透華「それは貴女方がチンタラやってるからですわ」ズバァッ

憧「も、もうちょっとだけ待ってもらえませんか?」

透華「と言われましても……他の方達は痺れを切らしているのではなくって?」チラッ

玄「ふえっ!? わ、私は……あの……」ソワソワ

宥「ゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎゎ……」プルプル

綾「あ、憧ちゃん穏乃ちゃん。もしよかったら、私が代わりに……///」モジモジ

透華「ね?」

透華「……私も、何故か昨日ほど見ていて楽しい気分ではありませんし……」ボソッ

87 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 02:34:04.26 ID:ORNdrAdXo

穏乃「ど、どうしよう憧! 私達のせいで京太郎が……」

憧「くっ……こうなったら最後の手段よ、しず!」

京太郎「あー、憧? 穏乃? 俺のことは気にしなくても――」



憧「すごい勢いで食べさせる!!」ズボッ



京太郎「――むぐぉ!?」

穏乃「おおっ、その手があった!」

憧「どんどん行くわよ! パン入ります!」ズボッ「ふごっ!?」京太郎

穏乃「オムレツ入ります!」ズボッ「ぼはっ!?」京太郎

憧「スープ入ります!」ズボッ「あづぁ!?」京太郎

穏乃「マッシュポテト入ります!」ズボッ「ひぎぃ!?」京太郎

憧「ミニトマト入ります!」

京太郎「待ッ、それだけはやめ」

ズボッ

京太郎「んっほお゛お゛おおおおおおおお!?」

88 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 02:55:14.51 ID:ORNdrAdXo

……
…………
………………

 その後――

 鷺森部長(お茶運び人形)がレジェンド(二日酔い)を連れて戻ってきて、

 ハギヨシさんが盛大に寝坊していたらしい天江さんを連れてきて、

 ようやく二日目の対局が始まって、

 阿知賀の皆はメイド姿のまま打って、

 勝ったり、負けたり、いずれにしろ一生懸命戦って、

 皆で昼飯を食べて、やっと制服に着替えて、

 (偶然にも綾ちゃんの着替えを目撃して)

 国広さんの私服に度肝を抜かれて、

 また打って、打って、何度も打って、

 そして――

……
…………
………………

レジェンド「えー、龍門渕高校の皆さん。この度は本当に――」

「「「「「「「「お世話になりました!」」」」」」」」

 俺達の最初の遠征は、終わりを迎えた。

114 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 22:02:07.71 ID:ORNdrAdXo

透華「こちらこそ、有意義な経験をさせてもらいましたわ」

 微笑む龍門渕さん。

 天江さん達も横に並んでいる。

純「楽しかったぜ」

玄「私もですのだ!」ニコッ

智紀「また打ちたい……」

宥「は、はい。きっと……」プルプル

一「中堅同士、ユニフォーム交換とかする?」

憧「え゛っ。い、いえ、気持ちだけで嬉しいです」ヒキッ

透華「座敷童さん、塩せんべい食べます?」

灼「いただきま……」ポリポリ

衣「ばいばい、たかかもしずの! 戦えて嬉しかったぞ!」

穏乃「はい! 私も天江さんと勝負が出来て良かったです!」グッ

122 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 22:36:56.41 ID:ORNdrAdXo

ハギヨシ「京太郎くん」

京太郎「ハギヨシさん!」

ハギヨシ「頑張ってください。私も応援しています」スッ

京太郎「はいっ! 俺、ハギヨシさんに教わったこと忘れません!」グッ

 固い握手を交わす。

 久しぶりだ、こういう男の友情。

衣「キョータロー!」ガバッ

京太郎「うわっ!?」

衣「きょ~たろ~」グリグリ

京太郎「あ、天江さん?」

 抱きつかれた。

 リボンが乱れるのもお構いなしに頭を押し付けられた。

 そのまま天江さんは俺を見上げて、

衣「もう行ってしまうのか……?」

133 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 23:12:17.65 ID:ORNdrAdXo

京太郎「そうですね、奈良に戻らなきゃ」

衣「どうしてもか?」

京太郎「はい。学校もありますし」

衣「あ、衣も明日は学校だ……」

京太郎「はい。だから戻らなきゃ」

衣「ぅー……」

 寂しげに目を伏せる天江さん。

衣「……じゃあ」

京太郎「じゃあ?」

衣「もういちどだけ、頭を撫ぜて……ほしい」

京太郎「……、分かりました」

 胸の高さにある天江さんの頭に、そっと手を乗せる。

 さっきのグリグリでくしゃくしゃになった金髪を、丁寧に梳いていく。

衣「ん……」

 最後にリボンを整えて、俺も名残惜しいが手を離した。

 僅かな沈黙。

衣「……ありがとうキョータロー! また逢おう!」ニコッ

 また顔を上げた時の天江さんは、太陽のような笑顔だった。

139 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/22(水) 23:38:35.08 ID:ORNdrAdXo

透華「す、須賀さん」

京太郎「はい?」

 天江さんと抱き合うようにしていると、龍門渕さんに声を掛けられた。

透華「須賀さんは長野の生まれでしたわね?」

京太郎「ええ、そうですけど」

透華「でしたら、長野に帰ってくることがあったら」

透華「……また遊びにいらっしゃいな」

透華「その、こど……衣も喜びますし!」プイッ

京太郎「……」

 そっぽを向いて髪の先を指に巻きつけてる龍門渕さんを見ながら、

 なんか離婚した夫婦みたいだ。

 とか思ってしまった。

衣「ん? 今こどもと言わなかったか?」

透華「失礼、噛みましたわ」

衣「本当か?」

透華「かみまみたわ」

衣「本当だ!」

146 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 00:18:56.03 ID:rudyCClao

レジェンド「須賀くーん、そろそろいいかな?」

京太郎「あ、はい。お待たせしました」

憧「本当よ、かなり待ったわ」ムスー

綾「おにーさん、遅いです」プクー

京太郎「悪い悪い……そんなに待った?」

 返事はなく、似た背丈の二人の不機嫌そうな表情だけが並んでいた。

 ……綾ちゃんの方が大きいな。いや背がね?

レジェンド「じゃっ、本当にお世話様! また機会があったらその時は」

透華「ええ、是非よろしくお願いしますわ!」

灼「こちらこそ……」

ハギヨシ「連絡をお待ちしております」

 部長同士、大人同士が挨拶を交わし、今度こそ長野での遠征が終わりを迎えた。

 あっという間の濃密な二日間を振り返りながら、俺達はレジェン号へ向かって歩き出す。

 その途中で、

レジェンド「ところで綾は帰りの席どうする?」

京太郎「俺の膝にでも座るか?」

綾「へゃあぁぁぁぁあ!?」

京太郎「!?」ビックゥーッ

 ウルトラマンかな?

150 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 00:39:24.36 ID:rudyCClao

……
…………
………………

レジェンド「あれれ~? 困ったな~?」

 そんなレジェンドの声で目が覚めた。

 最悪か。

京太郎「どうしたんすか……?」

 隣で俺の肩に寄りかかって眠る綾ちゃんを起こさないように体勢を整える。

 車内である。

 しかし動いてはいないみたいだ。

レジェンド「あ、須賀く~ん☆ミ 丁度よかった♪」

京太郎「……なんすか、その気色悪いキャラ」

レジェンド「いやね、実は道に迷っちゃって」

京太郎「はぁ?」

レジェンド「どうかな? この辺、見覚えない?」

京太郎「いや、見覚えって……長野どんだけ広いと思って――」

 言いながら、窓の外に目を向けた。





 どこまでも見慣れた景色が広がっていた。

159 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 01:04:11.35 ID:rudyCClao

京太郎「……は?」

レジェンド「悪いんだけどさ、車を降りて誰かに道を訊いてきてくれない?」

 そんなことを言うレジェンドに、

京太郎「……なんで……」

 そう返すのが精一杯だった。

レジェンド「教師だからね。ちょっと調べれば分かることだよ」

京太郎「けど、俺は帰るつもりはないって」

憧「そうまで意地を張らなくたっていいじゃない」

 声。

 後ろの席からだった。

京太郎「憧?」

憧「あたし達みんなでハルエに頼んだのよ」

憧「ほら、朝は結局……ご奉仕、出来なかったし」

憧「これはその埋め合わせ」

レジェンド「パワーアップした須賀くんの頑張りで、スケジュールも完璧以上にこなせたしね」

レジェンド「だからご褒美。行っといで!」

163 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 01:33:18.21 ID:rudyCClao


 僅かばかりの緊張と共に、門扉を押し開ける。

 すぐ目に入る位置にある駐車場には車が停まっていなかった。

 休日のこの時間にいないということは、夫婦揃って買い物だろうか。

 残念なような、安心したような気持ちになる。

 会えば話が長くなるし、万が一にも里心が芽生えては厄介だ。

 家の鍵も持っていない。だから、家の中には入れない。

 ならば、と庭に回る。

 慣れた足取り。

 何度も通った道のり。

 目指す先は――温室だ。

 小規模のプールを覆うガラス張りの施設である。

 入り口をくぐると、母が趣味でやっているガーデニングや家庭菜園の草花が出迎えた。

 それらの間をすり抜けるように歩いた先には、





「きゅ?」





 俺の家族がいた。

171 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 01:56:14.88 ID:rudyCClao

「きゅー!」

 鳴き声も、駆け寄ってくる姿も。

 何もかもが懐かしかった。

 足元をうろちょろする様子が愛おしかった。

 屈み込んで、その頭を、体を撫でる。

 暖かかった。

 相も変わらないゴワついた手触りだったが、それでも心地良いと感じた。

京太郎「……よう。久しぶりだな」

「きゅ!」

京太郎「ごめんな、急にいなくなっちまって」

「きゅ~」

京太郎「俺も寂しかったよ」

「きゅっ!」

京太郎「はは、お前は元気だなぁ」

「きゅう」

178 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 02:13:02.43 ID:rudyCClao

京太郎「俺もさ、元気でやってるよ」

京太郎「奈良でやりたいことが見つかったんだ」

京太郎「……彼女は見つからないけどな」

京太郎「それをやり遂げるまでは、まだ「ただいま」は言えないから」

京太郎「だから、また行ってくるな?」

京太郎「ちゃんと帰ってくるから、それまで怪我とか病気とかすんなよ」

京太郎「長生きしてくれよ」

「きゅう!」

京太郎「ん、良い返事だ」

京太郎「今度はお前に会いたがってる友達も連れてくるよ」

京太郎「じゃあな。元気でな」

「きゅー」

京太郎「……ばーか、ついてくんなよ」

京太郎「歩きにくいだろ」

「きゅう」

京太郎「ったく、ほんとにしょうがねーなぁ、カピは」

179 名前:6月9日(日)[saga] 投稿日:2014/01/23(木) 02:28:22.64 ID:rudyCClao


京太郎「戻りました」

 レジェン号に乗り込むと、さっきまで寝ていた連中も全員が起きていた。

 全員が、俺を見ていた。

憧「おかえり、京太郎」

京太郎「おう」

レジェンド「道は分かった?」

京太郎「はい――」

 そして、

 俺は答える。

 今の俺の居場所へ続く、その言葉を。





京太郎「――このまま、まっすぐ行きましょう!」





【TO BE CONTINUED...】
最終更新:2014年01月24日 01:07