908 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/28(土) 22:04:41.36 ID:cekZRUO+o
一睡も出来なかった。
俺は自室の窓から白み始めた外の景色を見ていた。
朝が来る。
きっと多くの人にとっては昨日と代わり映えのしない朝。
しかし俺にとっては、何もかもが違う朝。
緊張と、動揺と、一片の興奮。
それらが綯い交ぜになって心を掻き乱す。
原因は自明だ。
憧とキスしてしまった。
京太郎「………………」
言葉もない。
言葉もないまま、記憶が蘇る。
昨夜、あの後の記憶が――
909 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/28(土) 22:29:02.52 ID:cekZRUO+o
………………
…………
……
憧「――ぷは、ぁ……っ」
京太郎「」
穏乃「あ、あ、ぁ、あ……こ……」ポカーン
憧「えっへへー、いいでしょー♪」フフン
京太郎「」
穏乃「ず……るい! 私も!」
憧「だーめ。京太郎はあたしの~」ギュー
京太郎「」
穏乃「えー! いいじゃん代わってよー! ていうかどいてー!」グイグイ
憧「やだったら、ちょ、ひっぱんないでよ! きょうたろぉー!」ジタバタ
京太郎「」
ギャーギャー
京太郎「」
京太郎「」
京太郎「」
京太郎「」
……
…………
………………
913 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/28(土) 22:50:53.55 ID:cekZRUO+o
京太郎「…………………………」
あれから、
走って逃げた。
酔っ払い二人が取っ組み合いになってる隙に。
他の酔っ払いの屍を飛び越えて。
上半身裸で。
振り返ることなく。
幸い時間も遅く、俺のアパートは近所にあった為、誰にも見られずに済んだ。
家に帰った俺は玄関を厳重に施錠し、寝室で毛布に包まって震えた。
もしチャイムやノックの音に起こされたらと思うと、恐ろしくて眠れなかった。
混乱していた。
嬉し恥ずかしその他諸々の感情を塗り潰し、混乱していた。
頭の中をクエスチョンマークが一杯に埋め尽くしていた。
そしてそのまま、俺は朝を迎えたのだった。
919 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/28(土) 23:13:56.06 ID:cekZRUO+o
しかし、いつまでもうろたえてはいられない。
朝が来たということは、学校に行かなければいけない。
その前に、俺なりに頭の中を整理する必要があるな。
京太郎「……よし」
まずは大前提。
『あの時の憧は正気だったか』。
京太郎「……」
これは、まあ、NOだろう。
明らかに酔っていた。
どうやら酒を飲んだら呑まれるタイプらしい。
では次。
『あの時の憧は本意だったか』。
京太郎「……」
これは、
どうだろうか。
ていうか、俺が悩んで答えが出る問題だろうか。
930 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/28(土) 23:52:36.03 ID:cekZRUO+o
だが考える。
俺の問題でもあることには間違いないのだから。
京太郎「………………」
NO、だよな。
憧とは好ましい関係を築けていると思う。
だが、キスされる程かと訊かれれば、やはりNOだろう。
憧の重篤な男嫌いを鑑みれば尚更だ。
即ち、
あのキスは憧の本意ではなく、酔った弾みによるものだ。
俺はそう結論付ける。
京太郎「……………………………………………………」
どーしよ。
934 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/29(日) 00:30:59.47 ID:E/Vhxxigo
やべーよなぁ。
正気でなくても本意でなくても、キスはキスだ。
正気がなくても本意がなくても、記憶もないとは限らない。
憧が覚えてたらどうしよう。
だってキスだ。
多分きっと恐らく間違いなく、ファーストキスだ。
少なくとも俺はそうだ。
そのファーストキスを俺は憧に奪われたし、憧は俺に捧げたという形になる。
少なからず嬉しい俺はともかく。
憧だ。
覚えてたらどうしよう。
はじめてのキスは好きな人と、とか思ってそう。絶対思ってる。
なのに俺だ。
あの少女趣味スイーツ処女が後生大事に取っておくべきファーストキスが、
俺と。
京太郎「――」
まあ、
結局のところ、ネットにはじかれたテニスボールはどっち側に落ちるのか誰にもわからない。
覚えているのか、いないのか。
京太郎「……直接確かめるしかない、よなぁ」
946 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/29(日) 21:38:40.90 ID:E/Vhxxigo
~通学路~
平常心を取り戻すという意味を込めて、いつもと同じ時間に家を出た。
僅かな緊張を残したまま、いつもと同じ風景の中を歩く。
憧もいつも通りなら、この時間に鉢合わせすることはない筈だが……
穏乃「京太郎ー!」
京太郎「!」
聞き慣れた声。
振り返ると、穏乃が手を振りながら駆け寄ってきていた。
穏乃「おっはよ!」
京太郎「お、おー」
ヤバい、そういえば穏乃にもキスされたんだった。
憧のインパクトが強くて忘れていた。
穏乃は覚えているのだろうか。
頬とは言え、俺にキスしたことを。
947 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/29(日) 22:02:54.66 ID:E/Vhxxigo
京太郎「……」ジー
穏乃「ぅ?」キョトン
この唇が、俺の頬に……
京太郎「……」ジィーーーッ
穏乃「きょ、京太郎っ? そんなにじろじろ見てどうかしたの……?」
京太郎「えぁ!? わ、悪い! つい……」
穏乃「つい、何?」
京太郎「あー、いや、えっと」
言葉に詰まりながら辺りを見回す。
近くを誰も歩いていないことを確かめて、穏乃に耳打ちする。
京太郎「なあ穏乃、昨日のことだけど」
穏乃「昨日?」
京太郎「そうだ。憧んちで祝勝会やったろ、その時のこと……どこまで覚えてる?」
穏乃「どこまでって……んー」
腕組みをして考え込む穏乃。
俺は判決を言い渡される罪人の気分だ。
やがて穏乃は俺の顔を見て、
穏乃「ごめん、実は途中から全然覚えてないんだー」
イエス!
954 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/29(日) 22:34:00.31 ID:E/Vhxxigo
そうか、覚えてないか!
言い方は悪いが、都合がいい。
本人さえ記憶していないなら、事故として俺の胸に仕舞っておける。
京太郎「そ、っか。そうか、そうなのかー」
穏乃「うー。やっぱアレかな、お酒……がダメだったのかな」
「お酒」の部分だけ声を潜める辺り、常識も復活しているようだ。ますますベネ。
京太郎「だろうなぁ。まったく、未成年がハシャいでもロクなことねーな」ウン
穏乃「だね。やっぱりお酒は良くないよね、ほんと」ウンウン
頷き合う。
まずひとつ、問題解決だ。
穏乃「あ、そうだ!」
京太郎「ん?」
穏乃「昨日ああだったから宿題出来てないんだよ、学校でやらなきゃ!」
京太郎「うへぇ、そりゃ大変だな」
穏乃「うん、だから先に行くね!」ドヒューン
京太郎「転ぶなよー」
そうして穏乃と別れて以降は、通学路で部員と会うことはなかった。
955 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/29(日) 22:53:00.25 ID:E/Vhxxigo
~教室~
京太郎「……」ゴクリ
ここに来て膨れ上がる緊張。
穏乃の時の比じゃない。
それでも、扉を開けた。
ガラッ
_,. -‐…・・=‐- .,_
, '´ `丶、
/ \
, ´ / `、
y㌻‘ / / \ 〉
t厶j「 ∨| . :| : : : :i ヽ ∨ _㌻v)
j{ : :| i : | : : : :|: : : : . . 」 i : : 〉ーく`く
i { : :|¬ト「| : : : :|: : : :〔: : :.|: : | : :∨ \ ヽ
| { ; 〔: :[∧V小| : :¦ト: :¬トi{ |: : | : :, . : }ハ ,
| 八ト | ヽ 笊≧x∨: : ト、〉 \Vj ! |: : |/j〔 : : : : 〕「 | i 「あ、おはよー京太郎」
.: : :八 |: :爪 rしi:iト \| 芹≧x以: : 厂「 : : : : [ | |i
i{: :! : :〕i 乂:ツ rしi:i:リ狄: :厶j : : : : i 〔|: . |i
八: : 乂j: :ハ ,,,, , 乂:.ツ イ: : 灯 : : : : i|: : |: :
` :,;__] |八 ,,,, ノ: : / i「 : : : : || : : |: : }i
⌒「 乂个 r:.、 _ イ: : :仁ソ : : : : i: : : :リ: :‘
i{: :fマ=-__≧=⊆孑j 〕仇: : :.㌻7 : : : : :i| : : /: : }
V厂`く __,.二ノj「: :≠//.: : : : : 〕: :/,: : 八
_,,i^ ¨㌻´ _rf二二__彡'/ ' : : : : : : :リ //: :/ 丶
_,,-''¨_j ノ 广¨¨ ㍉_ /. : : : : : : :ん /: : ′ \
-''¨ 厂 〈 /⌒ `V{/ : : : : : : {y〈 : : i \
_j 厶斗‐‐ ヽ V: : : :j{: : :_㌻〉: :イ| : \ \
r┴ 「 厂 ∨: : : :八: :__彡': j⌒: : : : : . : . \
辷.才 _ニ¨ 」: : : :ハ )ァ: :___彡: :}:\: : :\ : \ヽ 〉_ -─ 、
^¨了 j「 j|: : ( j厂: :-「: :___ ノ: : : ヽ: : ハ: : \V{ ‐三⌒/i|
¦_,.ィ≠ ,. <才|: : : )/{ : : :i{: : : : : : : : : : j:八⌒i j ‐三⌒/_厂|
{〃〈 ィi〔 i〔: ∨( 〔 : : :i〔: : : : : : : : : : : :V}, ‐三⌒/∠ 」 |
{ __ニ´ 八 八: : v__ : : :八: : : : : : : : : :j: :ノ ‐三⌒// i| |
V _-⌒ ヽ._ \(⌒ ト{ \ : : : }: : 八‐三⌒// | |
、___,. ‐¨ _,,-''¨≧=-、 ¬:jれノ‐三⌒/ | |
セーフ!!!!!!!!!!
962 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/29(日) 23:33:13.71 ID:E/Vhxxigo
決定断定確定特定限定――とにかく、答えが定まった。
憧はキスを覚えていない。間違いなく。
だって、平静でいられる筈がない。
あの憧が、キスをした相手に平然と挨拶出来る訳がない。
こと男関係において、このテンパり赤面娘に演技など不可能だ。
故に安牌だと、憧に昨夜の記憶が残っていないと推理するね。
良かったー、生き延びたー。
憧「……どしたの? ボーっと突っ立って」
京太郎「え、ぉお。別に……」ハッ
待てよ。
憧がキスを覚えていないのなら。
じゃあ、俺だけが覚えたままでいるってことなのか。
あの感触を。
あの、首に回された腕の細さとか押し付けられた胸の控えめな柔らかさとか触れた唇の湿っぽさとか入り込んだ舌の滑らかさとか。
そんな感触を。
俺だけが。
969 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 00:28:56.14 ID:ZLLFM+Vso
京太郎「っ……」
憧「京太郎?」
それは、まずい。
そんな不公平を抱えて過ごせというのか、これからずっと。
憧「ねえ、京太郎ってば!」
京太郎「うぇっ!? な、なんだ!?」
憧「アンタこそなんなのよ、人が挨拶してるのに」ムスッ
京太郎「あ、ああ、すまん。なんでもないんだ。うん、おはよう」
憧「ま、別にいいけど……それより昨日のことなんだけどさ」スッ
京太郎「!」
憧が、穏乃がそうしたように声を潜める。
その上で俺に聞かせる為、体を近付ける。
必然的に視線は憧の唇に吸い寄せられ――
京太郎「ッ……あ、憧!」
憧「へ、何?」
京太郎「……悪い、ちょっと寝不足なんだ。ホームルームまで寝かせてもらってもいいか?」
憧「あ、うん、いいけど……」
京太郎「ほんと悪い、話はまた後でな」
次の憧の返事も聞かない内に、俺は机に突っ伏した。
何も見ないよう、聞かないよう。
憧「……?」
それでも、憧の不審がる気配だけは感じられた。
970 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 00:57:06.50 ID:ZLLFM+Vso
……
…………
………………
キーンコーン カーンコーン
キーンコーン カーンコーン
休み時間になった。
憧「京太ろ」
京太郎「先生トイレー!」ドヒューン
憧「あたしは先生じゃないし先生はトイレじゃないわよ!?」
話しかける暇も与えず教室を飛び出す。
理由はふたつ。
ひとつ、憧といると気まずいから。
ふたつ、他の部員の様子も知りたいから。
そんな訳で、まず俺は二年の教室を目指した。
階段を上り、廊下に出ると、
灼「あ、須賀くん。昨日は酔った拍子に危うく須賀くんの大事なものを奪いそうになってごめ」ズバァッ
辻斬に遭った。
975 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 01:34:47.18 ID:ZLLFM+Vso
灼「ところで用事? 二年の階に来るのは珍し……」
京太郎「あ、はい。用事でした」
過去形である。
京太郎「……鷺森部長は覚えてるんですね」
灼「まあ、家が自営業だと何かと機会はあるから」
京太郎「はあ。お強い方で?」
灼「そこそこ。昨日はハルちゃんもいたから盛り上がっちゃって、ヤバいと思ったけど振動を抑えられなかった」
京太郎「さいですか……あ、ところで玄さん教室にいます?」
灼「いると思。呼んでこようか」
京太郎「お願いします、助かります」
廊下を並んで歩き、そのまま教室に入る鷺森部長を見送る。
しかし鷺森部長が覚えていたとは……
最初の二人が連続してセーフだったので油断していた。
しかし初アウトが鷺森部長だったのは不幸中の幸いか。
そんなことを考えている内に、鷺森部長が窓際の玄さんの席に辿り着いた。
話しかけ、俺を指差す。
振り向いた玄さんと目が合って、
/:..:..:..:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./ |:.:.:.ハ:.:.:.:j:.:.:.:.} ゚。:|\ :.:.:.:.:.|:..:。:..:..:..:.\
/:..:..:..:/:.:.:.:.:.:.:.:/|__;.ム斗:./ |:.:.:.し:.:.;\_}:.:|__ ゚。.:.:.:.|:.:..゚。:..:..:\:.゚。
/:..:..:..:/ :.i:.:.:.:i:.:/│:./ |:.′ |:.:.:.:.:.:./ Ⅵ :。:.:.:|:.:.:..:。:..:..:..:}ⅵ
/.......:.:.,:.:.:.:|:.:.:.:レ彡|:./三ミ:{、 | :.:.:.:./ 彡=リ三ミト、 :.:.|:.:.:.:.:゚:..:..:..:| リ
/:..:..:.:.: ′:.:.|:.:./〃 リ リヾ:、 :.:.:.:./.〃 ヾ:、リ .:.:.:.:i:..:..:..|
/:..:..:.:. イ:.:.:.:.:.| /il{ }li }:.:./ il{ }li | .:.:.:.:|:..:..:∧ 「!!!」
/:..:..:./ :|.:.:.:.:.:リ il{ }li l/ il{ }li | :.:.:.:.|:.:.:..:.∧
/:..:./..:.:.:.|.:.:.:.:.:.| ミト、 ィj/ ミト、 ィj/ | :.:.:.:.|:.:.:.:..:.∧
j:./ .:..:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:| ゞ=====彡 ゞ=====彡 │ :.:.:.|:.:.:.:.:..: ∧
イO/:.:..:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:|////////////////{ :.:.:.:.|:.:.:.:.:.:..:..∧
/:..// .:..:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:|、 r――――― 、 ι ノ :.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.. ∧
/:..:..//:..:..:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:|:.\ ι | | イ:|:.:.:.:.:.|:.:.:.:.゚:,:.:.:..:..∧
/:..:..:..// .:..:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:|:.:.:个:. . ノ ---―‐ ____} . .:个:.:.:.|:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:゚。:.:..:..:∧
〃:..:/|〃 .:..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.ハ:.:.:.≧==- __ -==≦:.ハ.:.:j:.:.:.:.|:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:|i:..:.:.:.:.∧
/:../ l/ :..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:.:.:|:.:.:/ }:.:.:.:.:/ { } \:.:.:.:/ }.:.:.:.:. |:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.:}ト :.:..:..:..∧
ぁー。
32 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 21:19:15.97 ID:ZLLFM+Vso
玄「……!!」ガタッ
勢い良く立ち上がる玄さん。
そのまま教室の外にいる俺に猛然と詰め寄って、
玄「ち、違うよ!!?」クワッ
辺り一帯の注目を集める、大音声。
玄「違うよ! 違うの! 違うからね!? 私、私……!///」ワタワタ
京太郎「わ、分かってます! 分かってますから! もう少し声を落として……」ワタワタ
玄「ほんとだもん! 玄えっちな子じゃないもん! ちがうんだもん!///」
ざわ...
ざわ...
ざわ..
京太郎「ですから落ち着いてくださいって! また幼児退行してますよ!?」
玄「はわっ!? ぅ、ううぅ……///」プシューッ
京太郎「大丈夫ですか……?」
玄「うん……ごめんね京太郎くん……」グスッ
34 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 21:46:22.68 ID:ZLLFM+Vso
人目を避けて階段の踊り場に移動した。
そこで改めて玄さんと向かい合う。
京太郎「えーっと……」
玄「……はい」
京太郎「昨日のこと、覚えてるんですね?」
玄「はい……///」カァーッ
マジか。
憧の次ぐらいに覚えてちゃいけない人が覚えてた。
気まずい、これは気まずい。
京太郎「ちなみに、どこまで覚えてるか……なんて訊いても?」
玄「え、えっとぉ……おねーちゃんにお酒を飲まされて」
その現場は俺も見ていた。
玄「それで赤土さんとか憧ちゃんにも勧められて、つい飲み過ぎちゃって」
あいつら……特にレジェンゴ……
35 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 22:31:00.43 ID:ZLLFM+Vso
玄「それからしばらくして、京太郎おに……くんが戻ってきて」
どんどん境界が曖昧になってませんか。
玄「でね、京太郎くんの顔を見たら急に、なんだろ、嬉しくなっちゃって……」
うん。うん?
玄「それで……だ、抱きついちゃって、押し倒しちゃったりして……///」モジッ
京太郎「あの、玄さん、ちょっと」
玄「撫でたり、触ったり、しかも京太郎くんのおもちを、おもちを……!///」ハワワ
京太郎「玄さん!?」
玄「お、おかしいよね! 京太郎くんは男の子なのに、男の子のおもちなのに、揉んだり頬擦りしたりなんて!///」
京太郎「た、確かにおかしいですけど待ってください! もう十分ですからその辺で止め」
玄「ごめんなさい京太郎くん! おもち舐めちゃってごめんなさいっ!///」ペコペコ
京太郎「話を聞けェーッ!!?」
玄「と、ところで京太郎くん」
京太郎「ひょ?」
′.:.:.:.:.:.:.:.:.:/ .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. \
:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/ .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. |:.:.:.:.:.:.:ヽ:.:.:.:.:.:.:....... ヽ
!:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.′ :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: |:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:|:.:.:.:.:.:.:.:|
|:.:.:.:.:.:.:|:.:.:|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/:. /|:.:.:.:.:.:.:.:|:.:.:.:|:.:.:.:.:.:.:.:|
|:.:.:.:.:.:.:|:.:.:|.:.:.:.:.: /:.:.:.:/}:./ :.:.:.:.:.:.:.:ハ:.\_:.:.:.:.:.:| |
|:.:.:.:.:.:.:|:.:.:|:.:.:.: /:.: / ,:/ |:.:.:.:.ハ/ j:.ハ:.:.:.:./:| |
|:.:.:.:.:.:.:|:.:.:|:.:.:.:.|イう弐笊、ノ7/ ィう笊、 ムイ : |
|:.:.:.:.:.:.:|:.:.:|:.:.:.从 l{///}l / l{///l ∨:.:|:.:.:.| / 「最後のほう、私のおしりに当たってた硬いの、って……///」
|:.:.:.:.:.:.:|:.:.:|:.:.:.:.|とつー" 弋zツ /} : |:.:.:.|,/
|:.:.:.:.:.:.从:.|:.:.:.:.| //// , ///,: :.:.:|:.:.:.|
|:.:.:.:.:.:.:.:.(_|:.:.:.:.| Λ: : :|:.:.:.|
|:.:.:.:.:.:.: /:.|:.:.:.:.|::\ r _, 个:.:.:.:.|:.:.:.|
|:.:.:.:.:.:.,‘ :.|:.:.:.:.K| > .. イ:.:.:.|:.:.:.:.∧: :|
|:.:.:.:.:.:.|:.:.:.|:.:.:.:.| \ |/\ : :.:.:.:.:.:|:.:.:./| |:.:.|
|:.:.:.:.:.:.|:.::八:.:.:.| \__ ∧、 \:.:.:.:.:|:.:/:.:| |:.:.|
|/ :./:.:.|\:| / Y \ |:.:.:.:.j:/: : | |:.:.|
京太郎「ごめんなさいそれ以上は勘弁してください」ゲザァッ
最終的に俺サイドから土下座する結果になった。
42 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 23:10:09.62 ID:ZLLFM+Vso
京太郎「……」
玄「……」
京太郎「ええと、玄さん」
玄「は、はい」
京太郎「……痛み分けということにしませんか」
玄「痛み分け……?」
京太郎「はい。昨日はお互い恥ずかしい目に遭った訳じゃないですか」
玄「う、うん……そうだね……///」カァッ
京太郎「ですから、俺が提案するなんて筋違いかもしれませんけど、金輪際この件には触れないってことでどうでしょうか?」
玄「……いいの……?」
京太郎「もちろん。っていうか、俺からお願いしたいくらいで……」
玄「じゃ、じゃあ……分かった。もう言わない、誰にも言わない」
京太郎「本当ですか?」
玄「うん――」
/ . . . . . . . : : : : : : : : . . . \
, . . . . : : .:. .:..:.:.:.:.:.:. .:. .:.:.:.:.:..ヽ:. . :. ヽ
/ . . . : .:.:.:.:.:.:.:′.:.:.:.:. i{:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..:.:..‘. ∧
/ :/ :/:/ ..:.:.:.:.:.:.:.| :.:.:.:.:.:. | :.:.:.:.:.:.:.:.:.:.∨. ‘.. .
/ .イ ′:.:.:.:.:.:{:.:.:.:,| ...:.:.:.: {∧:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i:.:.:. :. i
././ ′:!.:.|.......:小:.:.ハ__ .:.:.:.:iハ 斗:十:.ト:. .|:.:... i:. :
i:.′} . :|. :! :.:.:斗{:.:「 丁i .:.:.:.ト:.V ヘ:.{\:.:.`!:.:.:. |: :|
|′.′::l .:|.ト:. .::| ヽ 气{\:.:{ \ ヽ. \} :. : |: :{
i . .:.|:八.:.|ヽ{ _ \ ,z≦ミ、| :.: :.!:. |! 「二人だけの秘密、だねっ!」
| : /|.::.:.:.::! ,ァ= =ミ ´ `'^| :. : |:.小
|.:/ :! .:.:.:.ハ ′ /i/, | :. : |:.|i
|:′:} .:.: :| ∨ /i ' .:. :. :.!:. l: {
○: :′.:.:.ト. . , 八:.:..:}:. l:.‘
/:.{: :| .:.:.:. {:: 込 ` ´ /}::.:.:./::. :!:. ‘
/:;:.|:.::| .:.:.:. |:::::::个:..... .イ::∨:.:.:/:/.:.′:∧
i:/{:.! .:| .:.:.:. |:::::::/:::::::::ノ}≧ - ´ {入:/.:.:./i/:.:.′:. . ‘.
|{∧{..:.i:.:{:.:.:‘:.:.::::::::/ 乂 / /:.:.:/V:.:.:.{:.:.:. . . ‘.
.′..:.八:!ム:.七¨⌒} >t_ん /:./「/:.:.: 厂 ̄ ≧ 、
/ . rヘ´ ヽ \ | ∧ ∧'ィ斗v′:.:/ ヽ
. / . :′ 八_{ ̄≧ V__/イ´ {'リ:.:.:.:′ / }
/ . . {⌒ヽ 八 z__{ }___, {.':.:.:./ / |
.′. .:| \ 《 ハ下 . /.:.:.:.′ , 小
/ . . .:.{ ヽ } ∧__/ }ハ ≧7.:.:.:./ / {:∧
. / . ./..:.:} . | く / } ;:.:.:.:.:′ .′/ {:. .‘.
/ . ./..:.:.:.i ∨ } `≧-ヘ ∧ノ}:.:.:.:.{ . { .′ }:. . ‘.
/ . :/′:.:.:.} ‘. V| ∨ |:ノ}:.:} j / / {:.:. . ‘.
京太郎「………………」
なんか、違う。
46 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/30(月) 23:36:15.83 ID:ZLLFM+Vso
……
…………
………………
キーンコーン カーンコーン
キーンコーン カーンコーン
昼休みになった。
憧「きょ」
京太郎「光の速さで明日へダッシュさ!」ダッ
おれは にげだした!
憧「京太郎っ!」
京太郎「何ィ!?」キキーッ
しかし まわりこまれてしまった!
憧「どういうつもり!? 朝からあたしのこと避けてるでしょ!」
京太郎「そ、そんなことねーって」
憧「嘘。いつもならウザいくらいちょっかいかけてくる癖に、今日はそれが一度もないんだから分かるわよ」ジトッ
京太郎「うぐぅ」
日頃の行いこんなところで裏目に出るとは。
侮りがたし、積み重ね。
51 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 00:02:15.45 ID:8S7qeCtIo
憧「で、なんで避けるのよ? あたし何かした?」
京太郎「……避けてねえ」
憧「まだ言うか……あ! もしかしてアンタがあたしに何かしたの!?」
京太郎「してねえっ! 俺は被害者だ!!」
憧「ふぅん」ジロリ
京太郎「ハッ!?」
憧「やっぱり何か理由があるんだ」
京太郎「あ、いやその……」
憧「……はぁ。とりあえず学食行かない? 言いたいことがあるなら聞くから」
京太郎「ッ……、……ない」ボソリ
憧「え?」
京太郎「俺からお前に言うことなんて、何もない」
憧「ちょ、それどういう――」
京太郎「悪いけど、昼も先約があるんだ……じゃあな!」
憧「あっ、京太郎!?」
今度こそ、俺は逃げ出した。
今度は憧にも止められなかった。
そのまま、俺を追いかけることもしなかった。
57 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 00:56:11.17 ID:8S7qeCtIo
……
…………
………………
一人で隠れるように昼食を済ませ、俺は温室へ足を運んだ。
勿論、目当ては宥さんだ。
昨夜の出来事についての確認が済んでいない最後の一人。
ここまで来たら、部活が始まる前に確かめておかねばならない。
そんな気になる。
ザッ
京太郎「宥さん」
宥「わっ」ビクッ
後ろ姿に声を掛けると、その肩が大袈裟に跳ねた。
京太郎「こんにちは、お邪魔します」ニコッ
宥「京太郎くん……? こ、こんにちは、いらっしゃい」プルプル
驚く様も震える姿も、いつも通りと言えばいつも通りだ。
これは判断が難しいぞ。
59 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 01:31:04.23 ID:8S7qeCtIo
京太郎「えー、本日はお日柄もよく……」
宥「うん、肌寒いね……」ブルブル
京太郎「コンボが繋がらねえ!?」
宥「はゎ、ご、ごめんなさい」
京太郎「あ、いや、俺の方こそ大声出してすみません」ペッコリン
うーむ、相変わらずサシで話すと振り回されるな。
かと言って不用意に踏み込むのも悪手だ。
慎重に、慎重に。
京太郎「肌寒いと言えば、昨夜は確かに少し冷えましたね」
宥「ん……そう、だね」
京太郎「宥さんは大丈夫でした? その、寝冷えしたり……とか」
宥「だ、大丈夫。ちゃんとお布団にくるまって寝てたから……」
京太郎「そうですか、そりゃ良かった」
ふぅ~む。
「昨夜」という言葉に反応ナシ。
布団で寝たのなら、ちゃんと家にも帰れたのだろう。
その上で俺と普通に接しているということは、重要な部分の記憶はない……ってことか?
63 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 02:06:03.27 ID:8S7qeCtIo
もうちょっと探ってみようか。
京太郎「それにしても昨日は盛り上がりましたね」
宥「そうだねぇ……」プルプル
京太郎「監督なんか教え子の前で酔い潰れちゃって」
宥「ふふっ」
京太郎「ま、たまにはああいうのも悪くないですよね」
宥「うん。あ、そういえば……」
京太郎「?」
宥さんが身を屈める。
そして、足元にあった手提げバッグの中から取り出したのは、
/: : : : : : : : : : : : : : : :/: : : : : : : : : : : : : |: : : : : : : : : : : : : : ヘ
. /. : : : : : :/: /: : : : : : /: : : : :',: : : : : : : : : |ヘ : : : : : : : : : : : : : ヘ
l : : : : : : :{: :|: : : : : : /: : : : : : l: : : : : : : : |ヘ : : : : : : : : : : : : : :ヘ
. { : : : : : : :|: :|: : : : : : l: : : : : : :.}: : : : : : : : :.l | : : : : : : : : : : : : : : ヘ
i: : : : : : : :|: :|: : : : : : |: : : : : : /: : : : : : : : : } |: : : : : : |: : : : : : : |ハ
| : : : : : : :|:/|: : : : : : |: : : : : :/ : 斗: : : : : :/ | : : : : : :|: : : : : : :| |
| : : : : : : .|:/|.: : : : :ム: : -‐:/´/ |: : : /: / |ヘ/|: : : :}: : : : : : : } |
| : : : : : : :|:/|.: : : : : :|: : :/ |:/ /: :/j / |: :/ | `ト、| : : :|: /| }
{ : : : : : : :レ|: : : : : : |/r=ニ示心 / ===、 |/: : : : |: / |/
. l : : : : : :|_」: : : : : :| /{ {::::::j::::| ∥::}:::ト、/: : : : 〃 /
', : : : : : :|´`l: : : : : :.|《 っ ノ::::ノ {っJ::::} 》: 孑 ´ | 「これ、京太郎くんのだよね……?」
. ∧ : : : : :| |: : : : : :.| ≧ ≦ _ ─ _≧≦ i : : : : |
. /: :V: : : :∧ |:-- へ、 _ -‐//////////////‐- /_: ,、: :|
ム、 V: : : : -‐ 、 ヽ、 ̄|//////////////////////ヽ 、`‐-、
ヽ \: 」 、 \ ヽ |/////////////////////// > }ヽ ヽ
/ \ \ | |/////////////////////// { / } | }
/ ー 、 ヘ ヘ | //////////////////////// レ/ / / /- 、
. -‐/////// \ \ }/ //////////////////////////{ / ///////\
/////////////\ ヽ| /////////////////////////// {_////////////ヽ
俺のシャツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
66 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 02:38:46.78 ID:8S7qeCtIo
えっ。
えっ。えっ。えっ。
覚えてた!?
全部覚えていて、なんでもないように振る舞ってた?
だとしたら、すげーぜ宥さん。まるで女優だ。
宥「京太郎くん?」
京太郎「」ハッ
なんて考えてる場合じゃない。
この場を切り抜けねば。
宥「京太郎くんの……だよね? 違った?」
京太郎「いえ、俺のですけど……」
宥「や、やっぱりそうだったんだね。じゃあ、はい」スッ
震える手で差し出されるワイシャツ。
俺はそれを、恐る恐る受け取った。
77 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 14:05:51.51 ID:8S7qeCtIo
京太郎「あ、あの、宥さん」
宥「?」
京太郎「俺、昨夜は先に帰っちゃったんですけど……何か、ありました?」
この期に及んで何も知らない体で問い掛ける。
宥「えと……私、途中から寝ちゃってたんだよ、ね?」
京太郎「そうですね」
宥「それで、起きたら玄ちゃんも他のみんなも眠ってて、私ははだ……な、なんでもないっ///」カァッ
京太郎「………………」
やべーす。
宥「そ、それでね、私……ちょっとあったかくない格好をしてたんだけど」
物は言いよう。
宥「けど、京太郎くんのシャツがあったから」ポワ
京太郎「オレェ?」
宥「うん……これのおかげで、寒いけど寒くなくて」
宥「京太郎くんがあったかいのをくれてるみたいで……」
宥「だから、そのぅ……お、お世話になりましたっ///」ペッコリン
(結婚、しよ?)
81 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 14:31:50.70 ID:8S7qeCtIo
京太郎「い……いやぁー、そんな、お礼を言われることなんて何も」
本当に。
宥「そぉ? でも、ありがとうね」ニコニコ
癒されるぅー。
やっぱり宥さん最高や! 堕天使マツミエルなんておらんかったんや!
女神の微笑みで心が浄化されていくのを感じる。
京太郎「じゃあ、つまり昨夜は特に何もなかった……ってことでいいですか?」
宥「うん。あ、でも、ひとついいかなぁ?」
京太郎「なんです?」
宥「あのね……」チョイチョイ
京太郎「?」
どうやら内緒の話らしい。
膝を折り、顔を寄せる。
そして宥さんが、そっと耳打ち。
宥「今度はもっと早く止めて欲しい……な」
京太郎「」
109 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 23:29:47.54 ID:8S7qeCtIo
……
…………
………………
部活の時間になっていた。
部員六名は一人の欠席もなく参加している。
の、だが、
憧「……」イライラ ←穏乃・鷺森部長・レジェンドと対局中
京太郎「……」ソワソワ ←牌譜整理中
玄「……」チラチラ ←雀卓の傍から俺を見ている
宥「……」ポワポワ ←俺の隣で放課後ティータイム
状況は混迷を極めていた。
憧は明らかに機嫌が悪いし、
玄さんは明らかに俺を意識してるし、
宥さんは明らかに普段より近いし、
素知らぬ顔で麻雀してる残り三人の方が異質に思えるレベルだ。
113 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2013/12/31(火) 23:58:19.33 ID:8S7qeCtIo
宥「京太郎くん」チョイ
京太郎「あ、はい?」
宥「お茶のおかわりどうかなぁ」
京太郎「え、いいんですか? 宥さんも飲みたいなら俺が淹れますけど」
宥「大丈夫。ポットあったかいから……」トテテ
給湯スペースに向かう宥さん。
その横顔は、どことなく血色が良く見えた。
玄「お、おねーちゃん、私ももらっていい?」
宥「いいよー」コポポ
玄「ありがと。じゃあ京太郎くんの分は先に持って行っちゃうねっ」ソソクサー
宥「え、うん……」
宥さん一人で三個のティーカップは持てない。
だから内ひとつを誰かが代わりに持ってあげるのは自然な流れだ。
が、
玄「きょきょきょ京太郎くん! はいッ、お茶ですのだよッ!!」ガチャガチャガチャガチャ
京太郎「玄さん!? 手が震えまくっててお茶がこぼッチャアン!?」ガターン
123 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 00:47:17.53 ID:4sb9dRZdo
穏乃「京太郎!?」ガタッ
レジェンド「あーあー何やってんの玄ー」
灼「そそっかし……」
玄「ごご、ごめんなさい! すぐ拭くからね!」
そう言って玄さんは布巾を持って俺の股間アカン!
京太郎「玄さんストップ! そこは自分で拭けますから!」
玄「ふぇ? ぁ、あ……っ///」カァァッ
赤面する玄さん。
過剰なまでに、赤面する。
宥「きょ、京太郎くん大丈夫……? あったかい?」
京太郎「そこは「熱くない?」って訊くところでは……まあ平気っす、少しビックリしたくらいで」
宥「じゃ、じゃあハンカチ……」スッ
京太郎「あ、自分のがあるん、でえっ!?」
宥「よいしょ、よいしょ」フキフキ
京太郎「自分で拭けますヨ!?」
手だし。
俺の叫びもお構いなしに宥さんは奉仕の手を止めない。
サービスまでもが、姉までもが過剰だった。
ナンデ? マツミナンデ?
135 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 01:29:59.39 ID:4sb9dRZdo
憧「――ねぇ」
そこに、
投げ掛けられる、冷ややかな声。
冷ややかで、それでいて熱を感じさせる声。
京太郎「あ、憧……」
憧「さっきから見てたらさ、玄も宥姉も変じゃない?」
玄「ふぇ゛っ!?」ドキッ
宥「そ、そうかなぁ……?」ドキドキ
憧「そうよ。いつも以上に京太郎にベタベタして、」
言葉を区切り、俺を見る。
憧「京太郎も拒まないし、絶対に変」
京太郎「こ、拒んでただろ、ちゃんと」
憧「ちゃんと?」
視線が鋭さを増した。
憧「ちゃんとっていうのは、昼間あたしに散々したみたいな拒絶のことでしょ」
142 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 02:05:00.37 ID:4sb9dRZdo
京太郎「っ……」
憧「違う?」
京太郎「そ、れは」
返す言葉が見つからない。
憧の言い分は正しい。
俺は憧だけを取り立てて、一方的に避けていた。
憧「ねえ、本当にどうしたの? あたし、何か悪いことした?」ズイッ
憧が一歩、俺に近寄る。
つまり一歩分、唇も俺に近付く。
憧「もしそうなら……謝る、から。だから、せめて理由を言ってよ」
また一歩。
憧「なんであたしだけなの? しずも玄も宥姉も灼さんも良くて、あたしはダメなの?」
一歩。
憧「ねえ、京太郎――」
――『ん、っ……』――
京太郎「――ッ!!」
145 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 02:12:04.85 ID:4sb9dRZdo
| | ∥ | || ∥ │ | | ∥ |
| | ∥ | || ∥ │ | | ∥,//
| | ∥ | || ∥_,,r--、-,. -"/ ,," ;;
| | ∥.,,. -''" '';;:::;) ゙ 、 ''"",, ゙\
| | .r'"/;;'' i / \; ;; i '''ヽ、 ;;:ヾ
| | .i ,, i '' ! /") )/ ./ヾ' ' 'ヽ ';i
| | { ;;::: i | .i//;;i/_,,ソ) , |!ヾ;: | オレのそばに
| |i.! | |ノY".'>ミ;;"《_;,ノリノ ! ;;:} / 近寄るなああ
| ! ヾ ! ! /゙"..::" 、゙;〉u./ |./ //"'':: ―――――――――‐ッ
|.i;;:: ::;; ヽ ヽ u ,- ‐ヘ u// /' '';:
| .ノ; ヽ;;;\i. 〈""" .{ //! _,,,.....,
-''"ノ ,, ;'ヽ\v ヽ、_)ノ'-―=ニ''''
;;:, :;;''i ノ; \、 u ゙'''/<、>< ヽヽ
_,,.,,="-'",,( \ \ -/,/,,,_ /''\,.へヽ
;'"! | ' ,... .,, \";;ヽi_」 へ /\/ヽ
. ! !/ iヽ.\'' )ヽ!゙'''ト-''!\ /i 〉
'';; { ;" i ヽ \ ./-i"|::;;;,, /\ >'"r
ヽ;;: / : :' i " >,゙''‐''ヽ、>::::''"::<>゚。!
ヽ! / / , :./{ ゙),,r-(,_/ !:::::::::> <! ヘ
Y /= .i , i;;::^'"! :::i:i i
. ゙〈_ /! | ! ! !
ヽ,,)! i
゙-'
↑京太郎
156 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 02:44:01.22 ID:4sb9dRZdo
憧「――」
穏乃「……」
玄「……」
宥「……」
灼「……」
レジェンド「……」
京太郎「あ、あれ……?」
俺は、今。
何を叫んだ?
夢中で、何かを叫んだ。
不意に思い浮かんだ、好きな漫画のワンフレーズだったか。
それがこの沈黙を引き起こしたのか。
憧から、表情を奪ったのか。
京太郎「憧。俺――」
憧は言葉もなく、
/. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\
/. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ
/ : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',
, 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ
// /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:| \: \
. // .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .| \: \
. /:, ' /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : | \: `. 、
/:/ !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i | ヽ: . :i
. /:/ |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| | ヽ:.|
,' :i {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈` ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| | |.::|
| :| |:i :ヾ|: :{c乂こソ 乂こソっ|: :!|. : . :l | !: | 「、っ……」
| :| |.| . : |:从 :xx xx | :|ノ . : . |:.| |.::|
| :| |l.|: . : |:.{ム "゙ ' ""゙ | :|: . : . : |: | |:|
|: | i| i!: :. :.|: |:.:ヽ. __ イ:.|: |. : . : . :|: | |.|
| :| l|:.:| : . : | :|: .|: > . ´ ` イ:.:..!.:|: | . : . : . |: | |.::|
|: | l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|` -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: | !: |
| :| l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \ / \j :!: . : . : . :|: | |:|
|: | |: : ,:|. : . : |ヽ{ | /`Yバ ノ/|. : . : . : . l: :| ! :|
| :| |:, イl: . : . .| ヽr──ミ、__彡──y' |. : . : . : :/ヽ:! |:|
|: | / /. : . : .j { { } } |: . : . :./ \ ! :|
166 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 03:25:09.96 ID:4sb9dRZdo
京太郎「あ、憧!?」
憧「ッ!」
声に、憧は溢れかけていた涙を乱暴に拭って、
憧「京太郎の、ばか……っ」
そう言い残し、部室を飛び出して行ってしまった。
穏乃「憧!!」
穏乃の声でも止まらない。
足音だけが聞こえ、それも遠ざかる。
残ったのは、また沈黙だけだった。
レジェンド「……須賀くんさ、今のはないんじゃないの」
灼「常識が疑わし……」
最初に口を開いたのはレジェンド。次に鷺森部長。
二人とも、咎めるような目で俺を見ていた。
玄「憧ちゃん、泣いてたよね……」
宥「うん……あったかくない……」
松実姉妹も、気遣わしげに言葉を交わす。
174 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 03:45:56.27 ID:4sb9dRZdo
穏乃「京太郎」
声。
静かな声。
それが穏乃から発されたものだと、すぐには理解出来なかった。
俺の視線を認めると、穏乃は言葉を続ける。
穏乃「今の言葉、本心?」
京太郎「え、」
穏乃「答えて」
寒気を覚えた。
短い言葉の端々に感じるのは――怒りだった。
俺は、初めて穏乃に怒りを向けられていた。
穏乃「私、京太郎が嘘や冗談であんなこと言う奴じゃないって知ってる」
穏乃「だったら、あれは本心なの?」
穏乃「本当に憧のことが嫌いで、あんなこと言ったの?」
178 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 04:08:29.62 ID:4sb9dRZdo
その言葉には様々な感情が入り交じっていた。
怒りや悲しみ。期待と、不安と、そして確認。
俺の返答で何かを推し量ろうとする意図が、そこにあった。
それが分かった。
それだけ真剣だということが、伝わった。
京太郎「俺は――」
――俺は、ここに来てようやく頭の中がクリアになった。
同時に、今までの自分が心底から馬鹿らしく思えた。
何をやってたんだ、俺は――
京太郎「――俺は、憧のことを嫌いになんてならない」
言い切る。
向かい合う穏乃の表情は山のように揺るがない。
その真っ直ぐな瞳の深くに、俺を囚えて離さない。
181 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 04:30:20.92 ID:4sb9dRZdo
穏乃「じゃあ、何か理由があるの?」
京太郎「そうだ」
穏乃「その理由って?」
京太郎「それは……すまん、言えない」
穏乃「言えないの?」
京太郎「ああ。それが憧の為だと俺は思ってる」
あこのため、と穏乃が口の中で言葉を転がす。
視線はぶつかり合ったまま、鋭さを残したまま。
穏乃は今、何を思い、何を考えているのだろう。
俺の言葉をどう受け止め、どう受け取るのだろう。
俺には、穏乃の心の内を窺い知ることは出来ない。
そして、やがて、その顔に、
_/: :/: : .:/: : : : : : : : : : : : : : \
//: : /: : : :′ : : : : : : : ハ: : : : : ::\
. /.:.:/: : /: : : : |: : :./ }: : : :/ : : : : : : :ヽ\
/: : : :′:イ: : : : ∧: / /:: :/ |.: .: .:.:|: : :|
. /: : : : :|: : :|八: : | ィ存斥く jハ: : :|: : :|
/:: : : : : |: : : |: :\/r;....ハ x=ミ !: :ノ.: .::|
: : : : : : .:/⌒ヽ: : |弋 ソ r;..ハY: :|: : ハ 「……そっか!」
: : : : : .:∧ :: ::| ,,, , V ソノ: ムイ
: : : : : ,′ \ :.: ::. r- ''' 从 |
: : : : / `ヾ: : :. ノ イ: .:.:| _
: .: .:/ r::\:>... < |: : :八/ )r- 、
: : / |/:::≧:::::不、 .: / /:::::::::\{)
: / /:::::::::::::::::::\__] / r-::::::::::::::::ヽ
/ .::::::::::::::::::::::::::::::\ ノ::::::::\:::::/
,::::::::::::::::::::::::::::::::::::::厂:::::::::::::ヽ::::::Y
|::::::\::::::::::::::::::::::::/:::::::::::::::::::::|:::::ノ
笑顔が、戻った。
185 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 04:54:02.57 ID:4sb9dRZdo
穏乃「うん。京太郎の気持ち、だいたい分かったかな」
京太郎「本当か?」
穏乃「たぶん! 京太郎が、憧のことを大切に思ってくれてるのは伝わったよ」
京太郎「お、おう……」
間違いじゃない。決して間違いじゃないが。
そうストレートに言われると気恥ずかしいな。
穏乃「ごめんね、疑っちゃったりして」
京太郎「いや、俺こそ悪かったよ。考えが足りてなかった」
穏乃「んー、じゃあ引き分けってことにして、京太郎は憧を追いかけて!」
京太郎「でも今からどこを探せばいいんだ……?」
穏乃「鐘楼」
京太郎「え?」
穏乃「きっと憧は鐘楼にいるよ。行ってみて」
京太郎「……分かった。ありがとな、行ってくる!」ダッ
俺は駆け出した。
人気のない廊下を、全力で駆け抜ける。
その最中に、思う。
京太郎「――」
まさか、泣くとは思ってなかった――
187 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 05:35:56.66 ID:4sb9dRZdo
◇
――まさか、泣くとは思ってなかった。
何よりそのことに驚いていた。
そのことばかり考えていた。
だって、なんともない筈なのに。
嫌いで苦手な男から拒絶されただけ。
あたしだって男を拒絶している。
だから、何も変わらない筈なのに。
なのに、どうして。
こんなにも悲しい。
こんなにも苦しい。
こんなにも寂しい。
こんなにも、涙を我慢出来ない。
どうして。
188 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 06:03:42.82 ID:4sb9dRZdo
京太郎なんて嫌いだ。
馬鹿で。
えっちで。
キザで。
スケベで。
金髪で。
変態で。
背が高くて。
馴れ馴れしくて。
お人好しで。
駆逐艦マニアで。
根は真面目で。
いい匂いで。
おもち好きで。
付き合いが良くて。
いつも助けてくれて。
手を差し伸べてくれて。
あたしとデートしてくれて。
なのにこんな辛い気持ちにさせる京太郎なんて。
大嫌い。
顔も見たくない。
声も聞きたくない。
もう、会いたくない。
京太郎「よう、いい景色だな」
なのに、どうして。
197 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 10:39:29.91 ID:4sb9dRZdo
◆
憧「どうしてここが分かったの……?」
顔を見るなり質問が飛んできた。
しかし俺の方が教えて欲しいくらいだ。
どうして穏乃はここが分かったんだろう。
京太郎「ま、幼馴染みの嗅覚ってやつかな」
憧「……しず……」
恨めしげにぼやきながら、また目尻を擦る憧。
まだ、泣いていたのか。
京太郎「憧」
憧「……なによ」
京太郎「悪かった」
憧「ッ……」
200 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 11:32:54.03 ID:4sb9dRZdo
京太郎「さっきは言いすぎた。反省してる」
憧「な、にそれ」
絞り出すように。
憧「いきなり人のこと避けといて、今度はいきなり謝るわけ?」
京太郎「すまん」
憧「そんなに軽々しく謝るぐらいなら、最初から意地悪、しないでよ」
京太郎「……すまん」
憧「あ、あたしっ……本当に、京太郎に嫌われたのかと、思って……」
京太郎「……」
憧「だって、心当たりが多すぎて……あたしなんて、いつ見放されても、と、当然、で」
憧「でも、京太郎は、京太郎なら、大丈夫って、思ってたから……なのにっ」
憧「……急に突き放さないでよ……仲間はずれなんて、やだよ……」
京太郎「憧……」
憧「っめ、めんどくさいかも、しれないけど、もっとがんばるから、近くにいてよ」
憧「約束したなら、最後まで責任とってよ……」
222 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 14:41:02.35 ID:4sb9dRZdo
悲痛。
その一語に尽きた。
後から後から溢れる涙を、もう隠そうともせずに。
憧は俺を見ていた。
時折しゃくり上げながら、じっと、俺を見ていた。
その態度からは普段の憧の勝ち気さは感じられない。
ただただ弱々しい、臆病な子供のようだった。
憧は言葉を待っていた。
黙し、震えて、俺の言葉を。
俺は、
京太郎「本当に、悪かった」
ここに来るまでに考えていた言い訳や方便を、何もかも放棄した。
放棄して、
京太郎「――」
憧「きゃっ……!?」
憧の小さな身体を、思い切り抱き締めた。
227 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 15:21:42.49 ID:4sb9dRZdo
憧「ふ、きゅ、急に何を……!」
京太郎「聞こえるか?」
憧「、え?」
京太郎「聞こえるか。俺の、心臓の音」
憧「京太郎の……?」
言われて、おずおずと。
憧は俺の胸板に耳を当てた。
憧「……っ」
一呼吸の沈黙。
京太郎「どうだ?」
憧「す、すごく、ドキドキしてる……」
京太郎「ああ。今な、すっげー緊張してるんだ」
憧「緊張?」
京太郎「そうだよ」
今だけじゃない。
昨日からずっと続く、うるさい程の高鳴り。
この音に惑わされた。突き動かされたんだ。
239 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 20:42:18.16 ID:4sb9dRZdo
京太郎「あのさ、昨日のこと、覚えてるか?」
憧「昨日の?」
京太郎「そう。昨日の、酒を飲んだ後のことだ」
憧「え、っと……」
京太郎「……」
腕の中で膨らむ沈黙。
しばし考え込んだ憧が、上目遣いに俺を見て、
憧「……ごめん、全然覚えてない」
京太郎「そっか」
やはり事の全貌を知ってるのは俺だけか。
その確認を恐れたばかりに、ここまで話が拗れてしまった。
切り替えた気持ちを言葉に乗せる。
京太郎「憧。これから本当のことだけを話すから、聞いてくれるか?」
憧は、静かに頷いた。
242 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 22:37:30.79 ID:4sb9dRZdo
京太郎「昨日な、俺と憧の間に、覚えていない方がいい出来事が起きた」
京太郎「俺はそれを覚えていたから、つい憧を避けてしまった」
京太郎「……勝手な話だよな。憧からしたら、本当に一方的な話だったよな」
京太郎「憧が覚えていないなら、もう自分一人の問題だと思ってたんだ」
京太郎「自分の感情だけが優先されると思ってた。憧の気持ちを蔑ろにしてた」
だから、
京太郎「ごめんな、憧」
憧「……」
俺の告白を聞き終えて。
憧は何を思っただろう。
何を考えただろう。何を感じただろう。
俺には分からない。
247 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/01(水) 23:17:44.92 ID:4sb9dRZdo
憧「それって、」
分からないまま、しかし憧が口を開く。
憧「その、覚えていない方がいい出来事って、何?」
京太郎「……それは言えない」
憧「どうして?」
京太郎「思い出さない方がいいからだ」
憧「なんで?」
京太郎「お互いの為だからだ」
憧「本当に?」
京太郎「俺は、本当のことだけしか言わない」
つまり、間違ったことは言葉にしない。
しかし、真実を全て伝えるわけではない。
昨夜の出来事を水に流す為の、また今までの二人に戻る為の、
そんな詭弁を――
/. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\
/. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ
/ : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',
, 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ
// /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:| \: \
. // .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .| \: \
. /:, ' /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : | \: `. 、
/:/ !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i | ヽ: . :i
. /:/ |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| | ヽ:.|
,' :i {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈` ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| | |.::|
| :| |:i :ヾ|: :{ 乂こソ 乂こソ |: :!|. : . :l | !: | 「――分かった。分かったわよ、もう」
| :| |.| . : |:从 :xx xx | :|ノ . : . |:.| |.::|
| :| |l.|: . : |:.{ム "゙ ' ""゙ | :|: . : . : |: | |:|
|: | i| i!: :. :.|: |:.:ヽ. __ イ:.|: |. : . : . :|: | |.|
| :| l|:.:| : . : | :|: .|: > . ´ ` イ:.:..!.:|: | . : . : . |: | |.::|
|: | l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|` -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: | !: |
| :| l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \ / \j :!: . : . : . :|: | |:|
|: | |: : ,:|. : . : |ヽ{ | /`Yバ ノ/|. : . : . : . l: :| ! :|
| :| |:, イl: . : . .| ヽr──ミ、__彡──y' |. : . : . : :/ヽ:! |:|
|: | / /. : . : .j { { } } |: . : . :./ \ ! :|
憧は、受け入れてくれた。
252 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 00:07:05.30 ID:SQGSb3qoo
京太郎「憧」
名前を呼ぶ。
するりと俺の腕から抜け出て、憧はしっかりと自分の足で立った。
その様に狼狽はなく、瞳に涙はない。
新子憧が、そこにいた。
憧「アンタの言いたいことは大体わかった。はぁ……」
京太郎「溜め息つくなよ……本当に納得してくれたのか?」
憧「したわよ。失笑モノの出鱈目な理屈だったけど、京太郎のジョークはもっとつまらないもんね」
京太郎「なにをぅ!?」
なんて言い草だ。
怒った穏乃ですら、まだ好意的な評価だったのに。
奇妙な一致と不一致に、俺こそ苦笑する。
京太郎「……まあ、納得してくれたんならそれでいいよ」
憧「うん。泣くだけ泣いてスッキリしたわ」
京太郎「覚えてたから、酷いこと言って悪かった。憧」
憧「覚えてないけど、酷いことしたらしくてごめん、京太郎」
255 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 00:30:29.66 ID:SQGSb3qoo
京太郎「よーし、これで手打ちだな!」
憧「手打ち……手打ち、ね」
京太郎「ん、どうかしたか」
憧「……あのさ、京太郎」
京太郎「なんだ?」
憧「指切りしない?」
京太郎「なんで!?」
憧「ほ、ほら、仲直りのしるしよ!」
京太郎「普通は握手じゃないか……?」
憧「じゃあもうこういうことはしませんっていう約束!」
京太郎「じゃあって言ったろ今!?」
憧「あーもーうっさい! いいから指貸しなさい、よっ!」グイッ
京太郎「っと、だぁ!?」
_
,r´ `ゝ、
|:..`γ `ー-、
_ ,r-┘、:... \
.,r--zー<´ `i ,r‐‐┘:... .\ゞ::::::.... \
/ ./ ヽ/ l:.. \:... ヾ:ゞ,r i, 「ほら、誓いなさいよ」
,i'/ ..::/⌒ヽ, ,r┘、:.. \:::::r-、'i|::: i,
/ .:/ .:;:i, r ''':: x-l `ヽ、:... \__.ノ}::: i, 「えー……」
i':. /,i:...... (_心::... .`ヽ:::::.... \|::: i,
|::::::::..... !、::,ir--‐'γ::::、:::..... \: ( ~).i::: i, 「早く!」
|::::::::::::::::::...... V ::::::::::/:::::::: `メ、:::.... ,r'\´r':: .i,
|:::::::::::::::::::::::::::::...... ..::::/::::::::/:::::::` ヽ、_ ,r':::!::: i, 「へいへい……これからは憧のことをもっと大切にします」
| ::::::::::::::::::::::::::::::::::::......::::::::/\:::::::::::::::::::::::::::: i,
| :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ \:::.. ...:::, !\ 「ふきゅ」
ト、 :::::::::::::::::::::::::::::::::/ \:::.. ..::::/ ,!
`ヽ、 :::::::::::::::::::::::/ `ヽ、::..... ...:::::/ ,! 「これでいいか?」
`ヽ,::::::::::::/ `ヽ、:::::.....::::/:::.... ,!
\/ i ̄ヽ、::::::::::::::::/ 「い、い、い……いいんじゃ、ないっ?」
.> |;;;;;;;;;;;;;` ヽ 、/
/ |;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
/ .|;;;;;;;;;;;;;;;;;;/
/ |;;;;;;;;;;;;;;;/
/ ゝ、;;;;ノ
260 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 00:40:35.66 ID:SQGSb3qoo
京太郎「あいよ。んじゃ……うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます、ゆーびきーった、っと」パッ
憧「ぁ……」
京太郎「さ、部室に戻ろうぜ。みんな心配してる」
憧「う゛。気まずいなぁ……」
京太郎「俺だって気が重いよ」
憧「アンタのは自業自得でしょ」
京太郎「お前だってそうだっつの」
憧「お前って言うな」
京太郎「またそれか……つーか、そもそもなんでお前って呼ばれるの嫌がるんだ?」
憧「そんなの決まってるじゃない。普通に失礼でムカつくし、それに……」
京太郎「それに?」
憧「……「お前」と「アンタ」とか、それなんて熟年夫婦って感じがして恥ずかしいっていうかなんていうか……」ゴニョゴニョ
京太郎「え? なんだって?(難聴)」
憧「耳鼻科行けバカァ!!」
263 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 01:03:32.08 ID:SQGSb3qoo
……
…………
………………
京太郎「はあ……」ゴロン
今日が終わる。
ベッドの上で仰向けになりながら、一日の出来事を振り返っていた。
昨日から一睡もしていないので、実質二日分の情報量である。
色んなことがあった。
憧とキスをしたり、憧を泣かせたり。
色んなことがあって、色んなことを考えさせられた。
京太郎「……」
電灯が眩しくて目を細めると、不意に。
視界に、憧の泣き顔が重なった。
初めて見た、憧の本心からの涙が。
京太郎「――」
電灯に手をかざす。
憧と結んだ小指。
じっと見ていると、胸の奥がじわじわと熱くなった。
京太郎「……」
「憧のことをもっと大切に」――あの時は適当に口にした言葉だった。
けれど、改めて思う。
もっと真剣に、もっと真摯に。
憧のことを見ていよう。
見守ろう。見届けよう。
そして時には、手を差し伸べよう。
京太郎「――」
それが俺の、“憧係”の役目だと、改めて思う。
266 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 01:23:21.68 ID:SQGSb3qoo
◇
あれから――
部室に戻って。
みんなに謝って。
部活を再開して。
下校時間になって。
いつも通りの道を帰って。
シャワーを浴びて。
ご飯を食べて。
お風呂に入って。
ストレッチして。
勉強して。
時間が過ぎて。
今日の終わりに、
憧「ぁ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ゛!///」ゴロンゴロンゴロンゴロン
死にたくなっていた。
272 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 01:46:52.29 ID:SQGSb3qoo
やらかした!
致命的にしでかした!
男の、京太郎の前でマジ泣きとか!
それだけでも死にたいのに、それだけでも死ねるのに。
走って逃げて見つかって、堪え切れなくて本音をぶちまけて。
挙句の果てに、抱き締められ、て……
憧「~~~~~~~~~~っ///」ボフン
枕に顔をうずめでもしなきゃ、近所迷惑も顧みず叫んでしまいそうになる。
ありえない。信じられない。
自分で自分の正気を疑う。
なに大人しく抱き締められてんのよ、あの時のあたし!
憧「……」ゴロン
でも、あの時はそれが心地よく……なんてない!
匂いとか感触とか、思い出したりなんてしてない!
全部ぜーんぶ、雰囲気に酔ってただけなんだから!
276 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 02:29:33.49 ID:SQGSb3qoo
憧「……酔って、か……」
昨夜。
結局、何が起きたんだろう。
京太郎にあんな態度を取らせた原因。
曰く、『覚えていない方がいい出来事』。
あたしは覚えていなかったから平気で。
京太郎は覚えていたから平気じゃなくて。
そんな、多分、事件。
憧「……」
京太郎は、「お互いの為」だと言った。
けど、それは要するにあたしへの配慮だ。
あたしが思い出すと都合の悪い事柄。
憧「…………」
きっと、男絡み。
つまり、京太郎絡み。
憧「………………あれ」
それって、もしかして。
まさか、
あたし。
憧「まさか――」
憧「――酔って京太郎の手を握ったりしちゃったのかも!?」
281 名前:6月4日(火)[saga] 投稿日:2014/01/02(木) 02:48:55.20 ID:SQGSb3qoo
憧「あれ? でも今日だってあたしの方から指……ふきゅっ」
やば、またヘンなこと思い出した。
そうだそうだ忘れてた、忘れてて良かったのに。
指切り、しちゃったんだ。
憧「~~~~~っ!///」バタバタバタバタ
やだ恥ずい。マジ恥ずい!
あたしってば少女漫画に影響受けすぎ!
ていうか少女漫画だって今日び指切りとかやんないから!
憧「、……」ゴロン
ほんと、どうしちゃったんだろう。
京太郎の言葉や振る舞いを、過剰に気にするあたしがいる。
そのあたしが、あたしの知らないあたしみたいで、少し怖い。
憧「――」
けど、
「憧のことをもっと大切に」――って。
約束してくれたのは、ちょっと嬉しかった。
憧「……かも」
【TO BE CONTINUED...】
【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
称号:地雷ランナー(new!)
憧への印象:...→楽しかったな、デート
→気合!入れ直して!行きます!(new!)
【新子憧のステータスが更新されました!】
称号:うたれよわい(new!)
京太郎への印象:...→……ストラップ、大事にする
→不安にさせないでよ、ばか(new!)
【高鴨穏乃のステータスが更新されました!】
京太郎への印象:...→ずっとみんな一緒だよね
→試してゴメン(new!)
【松実玄のステータスが更新されました!】
京太郎への印象:...今度は上も褒めて欲しいなぁ……
→たまには男の子のおもちも……(new!)
【松実宥のステータスが更新されました!】
京太郎への印象:...→おねーちゃんをからかっちゃいけません
→あったかいの、もっとぉ(new!)
最終更新:2014年01月02日 17:55