奈良県吉野郡吉野町の巫女さんの手料理

138 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/05(木) 22:13:48.81 ID:bbbcASBTo

玄「それじゃあお先に失礼するね。おつかれさまー」

宥「お、おつかれさま~」

京太郎「お疲れーっす」フリフリ

憧「おつー」ヒラヒラ

穏乃「また明日ー!」ブンブン

 家の用事とかで早々に帰らなければならないらしい松実姉妹を三人で見送る。

 校門の前には俺と憧と穏乃が残った。

 ちなみに鷺森部長はいつものようにレジェンドを待って居残りである。

憧「さて、あたしらも帰りますか」

京太郎「だな」

穏乃「はーおなかすいたー。今日のごはんはなんだろな――っと?」

♪アノブタイヲコロゲマワッテー カナデチャッテヨマイセーレナーデー

穏乃「メールだ」ピッ

 ピコピコと携帯電話をいじくる穏乃。

 そういえばここって山奥の割に電波状態いいよなぁ。

140 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/05(木) 22:35:59.26 ID:bbbcASBTo

穏乃「えっ!?」ピクッ

 と、画面を見ていた穏乃が大きな声を上げた。

京太郎「どうした?」

穏乃「お、お母さんが……」カタカタ

憧「え……おばさんに何かあったの!?」

穏乃「今夜はハンバーグだから早く帰って来なさいって!!」

憧「」ズコー

穏乃「こうしちゃいられない! 私先に帰るね! じゃーねー!」ドヒューン

京太郎「お、おう……はえーな、もう姿が見えないぞ」

 恐るべし野生児。

 俺と、ズッコケた憧がその場に残された。

憧「……っあーもー! なんなのよアレは!?」ムクッ

 おかえり。

京太郎「まあ大事じゃなかったならいいじゃねえか。ほれ、帰ろうぜ」

憧「ん……そうね、帰りましょ」ハァ

141 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/05(木) 23:14:33.05 ID:bbbcASBTo

テクテクテク...

京太郎「しかし、穏乃じゃないけど腹減ったぁ……」グー

憧「あたしも……京太郎は今日も自炊なの?」

京太郎「一応なー。ま、冷凍ご飯と惣菜とかになるかと思われる」

憧「ふぅん、じゃあスーパー寄ってくの?」

京太郎「おう、そのつもり。幸い今日は部活も早めに終わったしな」

 上手いこと半額ベン・トーでもあれば御の字だ――と。

♪メールダヨ、チャントミトケヨー

京太郎「あ、俺もメールだ」

憧「なに今の着ボイス……」ヒキッ

 ほっとけ。

 ケータイを取り出して、メールを開いた。

===

From:望さん
Sub:独身美人巫女でーす

突然だけど、今夜空いてる?
約束してた晩ご飯のお誘いだよ。
迷惑じゃなければ是非来て欲しいな♪

P.S.このメールを憧にも見せてあげてね。

===

京太郎「……」

 ふむ。

京太郎「憧ー。メールー」

憧「は? あたしに? 誰から?」

京太郎「望さん」

憧「ふきゅっ!?」

143 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/06(金) 00:01:58.47 ID:hIhx0jm+o

京太郎「今日メシ食いに来いってよー」

憧「ちょ……ちょちょちょ! ちょっと待って!!」

京太郎「あん?」

憧「なんでアンタがうちのお姉ちゃんとメールしてんのよ!?」

京太郎「別にメールしてもいいだろ……人間だもの」

憧「いやいやいや、そもそもいつの間にメアド交換したの!? えっ知り合い!?」

京太郎「お前が風邪ひいた時にお前んちで」

憧「なにその間男みたいな……!」グヌッ

京太郎「そのワードチョイスはおかしい」

憧「う、うるさい!///」

京太郎「まあ、そんな訳で時々メールしてます」

憧「……そうなんだ……ふぅん……」

京太郎「おう」

憧「………………あのさ」

京太郎「おう?」

憧「だ、だ、だ、だったらその、一応……一応ね? あ、あたしともメアド交か」

京太郎「あ、お前のも望さんから教えてもらってるから」

憧「じゃあなんでメールしないのよぅ!?」グワッ

京太郎「おおうっ!?」ビクッ

151 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/06(金) 00:45:08.50 ID:hIhx0jm+o

憧「お姉ちゃんとメールしてるならあたしとも出来るでしょ!? ていうか普通あたしが先でしょ!?」ユッサユッサ

京太郎「ぉうぉうぉう」ガックガック

憧「メアド知ってるならすればいいじゃない! メールすればいいじゃない! ねえ! なによ! ねえ!!」ユッサユッサユッサユッサ

京太郎「ぉ、うお、っち、つけッ……落ち着け! お前そんなに俺とメールしたいの!?」ガックガックガックガック

憧「ッ!?///」パッ

京太郎「げっほげほ……な? 別にしたい訳じゃないだろ?」

憧「そ、そうね……そう言われてみると、そうかな……///」

京太郎「大体、俺とお前は学校で毎日会ってるじゃねーか」

憧「そうでした……///」

京太郎「だろ? それに、お前が直接メアド教えてないのにメールするのも変だろ。怖いぞ多分」

憧「そうかも……///」

京太郎「メアド聞いたって話す機会がなくて今になったのは悪かったよ。落ち着いたか?」

憧「……うん。お騒がせしました」

京太郎「おう」フィー

憧「……」

京太郎「……」





憧「お、お前って言わないでよ!」

京太郎「なんなの」

159 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/06(金) 01:11:49.42 ID:hIhx0jm+o

憧「そうだ、そんなことよりお姉ちゃんよお姉ちゃん!」

 と、憧が自分のケータイを取り出した。

 ピポパと力強くボタンを押して耳に当てる。

憧「……あ、もしもしお姉ちゃん!?」

 相手は当然、望さんだ。

憧「今メール見たんだけど!……そう、京太郎の!」

憧「一緒に晩ご飯って何!? あたし聞いてないよ!?」

憧「あのねぇ、どういうつもりか知らないけど――」

 そのまま物凄い剣幕でケータイに向かってがなり立てる憧。

 うーむ、松実姉妹と比べると新子姉妹の遣り取りはいささか物騒だな。

 それぐらい遠慮のいらない関係と言えば聞こえはいいが。

 ま、兄弟姉妹の数だけ正解があるってことかな。

 そこんところ、一人っ子には分からん感覚だ。

憧「――うん。うん、分かった。じゃあ切るから。はい」ピッ

 あ、終わったっぽい。

京太郎「望さんなんて?」

憧「………………スーパーで食材買ってきてだって」ムスッ

 負けてる!!

206 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/06(金) 22:34:17.56 ID:hIhx0jm+o

……
…………
………………

~スーパー~

京太郎「さーて、買うモン買ってさっさと帰ろうぜ」

憧「そうね。……ってアンタの家みたいに言わないでよ!」

京太郎「ウィッス」

 カゴを取って店内へ。

 こんな季節から冷房効かせまくるスーパーってなんだろうねこれ。

 ギリギリ衣替え前なので助かったわ。

憧「えっと、まずは鶏肉ね」

京太郎「ほほう。今夜はカレーかな」

憧「いや鶏肉=カレーってどういう……え、アンタんちってチキンカレーなの?」

京太郎「えっお前んち違うの!?」

憧「うちはビーフカレーよ」

京太郎「ぶるじょあじぃ……」

211 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/06(金) 23:07:05.19 ID:hIhx0jm+o

テクテクテク...

憧「京太郎、牛乳取って」

京太郎「おう。どれ?」

憧「そっちの生乳(せいにゅう)のやつ」

京太郎「ほう、生乳(せいにゅう)か」

憧「うん、生乳(せいにゅう)」

 取る。カゴにイン。

京太郎「憧って牛乳に拘るタイプ?」

憧「んー? まあ、低脂肪牛乳とかは避けてるわね」

京太郎「だよなぁ。やっぱ味が落ちるもんな」

憧「味の違いとか分かるんだ」

京太郎「失礼な! けど、「脂肪分が多いと太っちゃうにゃ~☆☆☆」とか言わないんだな」

憧「どんなキャラよ……牛乳に関しては気にしてないわ。やっぱり栄養って大事だもん」ウンウン

京太郎「ふーん」

憧「……」



京太郎「牛乳を飲むと大きくなるのかならないのか……結局どっちなんだろうな?」

憧「なッ、何の話かしらぁ!?」ギクーッ

215 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/06(金) 23:44:07.04 ID:hIhx0jm+o

テクテクテク...

憧「はいプッチンプリン(3個パック)。これで最後よ」

京太郎「あいよ。結構な量になったな」

憧「それなんだけど……多分お姉ちゃん、男手があるからって普段買わないものも買わせてるわ」

京太郎「あー……」

憧「ろくでもない姉に代わって謝罪するわね……」

京太郎「まあ気にすんなよ、夕飯ご馳走になるんだからこれぐらいお安い御用だ」

憧「そう?」

京太郎「そうそう。頼りにされて悪い気はしないしな」

憧「……男って変なの」

京太郎「ははは。さ、早くレジ行こうぜ」

憧「ん。行こっか」

京太郎「そして我が家に帰るぞー」

憧「だからアンタんちじゃないって!」

テクテクテク...































綾「」カタカタカタカタ

225 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/07(土) 00:00:46.33 ID:Bz3MBtV1o

スッ

ピ、ポ、パ

prrrr...prrrr...

凛『もしもし?』

綾「……」

凛『あれ、綾?』

綾「………」

凛『おーい、もしもーし』

綾「………………凛~……」グスッ

凛『え、もしかして泣いてるの? どうかした?』

綾「おにーさんが、おにーさんがぁ……」グスグス

凛『先輩が?』





綾「新婚だったぁ~……」





凛『は?』

231 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/07(土) 00:34:04.86 ID:Bz3MBtV1o


テクテクテク...

憧「京太郎、あたしも袋ひとつ持つわよ?」

京太郎「いいっていいって」

憧「でも重いでしょ?」

京太郎「全然。それを言うなら、憧は俺のカバン持ってくれてるだろ」

憧「こんな軽いの、持ってる内に入らないわよ……ていうか本当に軽いわね」

京太郎「だろ」フフン

憧「なにいばってんのよ。教科書は?」

京太郎「全部教室☆」テヘペロ

憧「期末前に泣いても助けてやんないわよ」

京太郎「なぬ、それは困る!」

憧「やっぱりアテにしてた」ジトッ

京太郎「頼むよー、またデートでもなんでもするから! なっ?」

憧「に、二度とゴメンよ馬鹿ぁ!///」

260 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/07(土) 21:42:48.12 ID:Bz3MBtV1o

~神社~

京太郎「着いたな」

憧「着いちゃったわね……」ドヨーン

京太郎「嫌そうだな?」

憧「嫌って訳じゃ……ただ気が重いだけよ」ドヨヨーン

 何が違うのか。

 言葉を交わす間にも、憧の歩みはどんどん遅くなっていた。

憧「はぁぁ……ていうか、お父さんになんて説明したらいーのよ……」

京太郎「なんか特別な説明が要るのか?」

憧「あ、当たり前でしょ!? いきなり男なんて連れて来て、かか、彼氏だとか勘違いされたら――」



望「お父さん達ならいないわよー」ヒョコッ



憧「うわぁお姉ちゃん!?」ビクッ

京太郎「うわあああああ巫女さんだああああああああああ!!!」

憧「そっち!?」

267 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/07(土) 23:08:09.33 ID:Bz3MBtV1o

 そっちもどっちもあるものか。

 リアル巫女だぞ。こっちだよ。

 俺達の背後に突如として現れた望さん。

 彼女はなんと巫女服に身を包んでいた。

 その神々しさたるや、もはや崇拝しかない。

 ここに神社を建てよう。

 あ、もう建ってた。

 誰だか知らんが仕事はえーなオイ。

望「はーい。巫女さんです♪」

憧「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! なんで巫女装束なんて着てるのよ!?」

望「巫女ですから」

憧「そうじゃなくて、普段はもう私服に着替えてる時間でしょ!?」

望「いやー今日は忙しくってねー」ケロッ

憧「嘘だ……絶対嘘だ……!」グヌッ

272 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/07(土) 23:34:51.35 ID:Bz3MBtV1o

望「京太郎くん、どう? 似合う?」クルンッ

京太郎「はっ。控えめに申し上げて女神かと」ウヤウヤー

憧「こらそこぉ! 年甲斐もなく一回転しない! 京太郎も跪くな!」

望「えー? せっかく京太郎くんに見せてあげようと着直したのに」

憧「さっきと言ってることが違う!? ていうかわざわざ着直したの!?」

望「いつも憧がお世話になってるんだもん、これくらいサービスしなきゃね」

憧「いらないからそんなサービス! あんまり京太郎を甘やかさないで!」

望「なーにー? 憧やきもち?」

憧「はあっ!? そそそんなんじゃないし!///」ワタワタ

望「もー、だったら憧も巫女装束着ればいいのに」

京太郎「!!!」バッ

憧「き……着ない着ない! 絶対に着ないから!」

京太郎「……!!!」ジィーッ

憧「そんな期待の眼差しを向けないでぇー!」

279 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 00:13:56.90 ID:2nYlTOyJo

……
…………
………………

~新子家・居間~

 なんだかんだで新子家に迎え入れられた俺である。

 憧は望さんを手伝うとかで台所へ向かった。

 つまり俺、一人。

京太郎「……」カチコチ

 となれば、この緊張も当然と言えるだろう。

 なにせシチュエーションがシチュエーションだ。

 15歳、男子高校生の俺。

 由緒正しい神社を運営する家。

 そこの美人姉妹と三人きりでの夕食。

京太郎「………………」ドッキンドッキン

 仕方のないことだろう。

 二人が何にも言ってないのに勝手に衣服を脱ぎはじめ、

 「今夜は両親が留守なの」――なんて。

 そう言うことを期待するのも。

 『あなたならどうする……? 最高だった』――なんてな。

346 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 21:16:32.62 ID:2nYlTOyJo

ガラッ

憧「京太郎ー、ご飯出来たからお姉ちゃんが呼んでこいって」

京太郎「ウィッス」

 まあ現実は非常に平凡である。

 そうそうない、そんなオイシい展開。

 しかし美人と食卓を囲めるだけでも十二分に幸運だ。

 文句なんてない。ありのままの幸福を享受しようと思う。

京太郎「、ん」ジッ

憧「何?」

京太郎「いや、エプロン似合うなって」

憧「ふきゅ」

 差し当たって、目の前のラッキーをエンジョイするプレイング。

京太郎「いいよなー女の子のエプロン姿。実にいい」

 エプロンの下に何も着てなかったらもっといいのに。

351 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 21:35:48.07 ID:2nYlTOyJo

憧「お、お世辞とか言われても嬉しくないから!」

京太郎「いやお世辞じゃねーよ。似合うじゃんか、まさに家庭的って感じでさ」

憧「ぅ……うるさいうるさい! 実際には料理出来ないんだし、やっぱり嬉しくない!」

京太郎「そんなに自分に厳しくしなくても……」

憧「なによ、事実でしょ」プイッ

京太郎「でも今だって望さんを手伝ってたんだろ? やる気はあるんだな」

憧「……そりゃあ、男のアンタに負けっぱなしとか、悔しいし」

京太郎「おう、いつでも再戦待ってるぜ」

憧「い、言ってなさい。絶対見返してやるんだから」フンッ



望「おーい、ご飯冷めちゃうわよー」ヒョコッ



憧「ふきゃあ!? お姉ちゃんいつからそこに!?」ビクーッ

望「さっき。あんたがいつまで経っても戻ってこないから」

京太郎「ああ、すいません」

望「ううん、私こそ話し中にごめんね――って憧、そんな隅っこで何してるの?」

憧「な、なんでもない! なんでもないからぁ……!///」ウゴゴゴ

京太郎「?」

352 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 22:08:18.44 ID:2nYlTOyJo

~新子家・ダイニング~

望「京太郎くんはそっちに座ってね」

京太郎「失礼しまーす……おお!」

 促されるまま席に着いた俺は、食卓の中央に据えられた大皿の中身に歓喜の声を上げた。

 視覚に働きかける鮮やかなキツネ色。

 聴覚に囁きかけるジュワジュワという息吹。

 嗅覚に訴えかける醤油の香ばしさ。

 これがッ! これがッ! これが――

京太郎「『からあげ』だッ!」

 そいつに触れることは死を意味したりは、しない。

望「はーい、お味噌汁どうぞ」コトッ

憧「ご飯ここに置くわね」コトッ

京太郎「ありがてえ……ありがてえ……」

 至れり尽くせりじゃないか。

 すぐに新子姉妹も席に着き、準備は完りょ――

望「憧、料理終わったんだしエプロン脱いだら?」

憧「ふぎゅ」

 ――完了だ。

355 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 22:37:39.40 ID:2nYlTOyJo

 で、改めて。

「「「いただきまーす」」」

 食事開始。

 早速だが本日の主役に箸を伸ばす。

 カラッと揚がった、これぞまさにからあげというからあげを口に放り込む。

京太郎「熱ッ!」

 ヒャッハー! 揚げたてだァー!

 必死に口の中で転がして安全圏まで冷ます。

 そして頃合いを見計らって……白米!

京太郎「熱ゥい!!」

 ヒャッハー! 炊きたてだァー!

 口に入れるとクッッソ熱いぜ!! これ!!

 すッッげぇ熱いッ!!

 でも、旨い!

京太郎「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」ガツガツ

360 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 23:06:27.89 ID:2nYlTOyJo

憧「アンタ生き急ぎすぎでしょ……」

望「あはは、流石男の子。いい食べっぷりねー」

京太郎「!……んぐ、っく……ぷは。す、すみません、見苦しいところを」

望「いーのいーの、見てて気持ちいいから。お口に合った?」

京太郎「そりゃもう! 出来立てのからあげなんて久しぶりで最高っす!」

望「そっか。やっぱり予想通りだったみたいね」

京太郎「へ?」

憧「お姉ちゃん、予想って?」

望「京太郎くんは一人暮らしなんでしょ? だから揚げ物なんてしないだろうと思って」

京太郎「ああ、確かに」

憧「なるほど……」

 自分で揚げ物をしようなんて、考えてもみなかった。

 最近は惣菜のクオリティも高いが、やはり揚げ物は揚げたてに限る。

362 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 23:31:23.94 ID:2nYlTOyJo

望「京太郎くんには不肖の妹がお世話になってるし、今日は家庭の味ってやつを堪能していってね♪」ニコッ

 そう言って望さんは微笑む。

 その笑顔には母性――いや神性が確かにあった。

京太郎「……!!」ピシャーン

 雷に打たれたような衝撃が走った。

 震える俺の心には、もはや崇拝しかない。

 ここに神社を建てよう。

 あ、もう建ってた。

 誰だか知らんが仕事はえーなオイ。

望「京太郎くん?」

京太郎「結婚して下さい」キリッ

 告った。感情の迸りのままに。

望「ごめんね、年下は趣味じゃないの」

京太郎「」

 フラれた。

367 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/08(日) 23:53:55.36 ID:2nYlTOyJo

憧「いきなり何を言ってんのよアンタは……」ジトー

 憧にまで呆れられる始末だ。

京太郎「そ、そこをなんとか!!」クワッ

望「えー? でも私、神社の跡取り娘だからなぁ……結婚するなら婿を取らなきゃ」

京太郎「入ります入ります! 新子京太郎待ったなし!!」

 嫁と仕事を同時にゲットとか一石二鳥……は失礼か。

 一挙両得! 濡れ手に粟! 人生勝ち組!

 あれ? やっぱゲスい。

望「んー、そんなに新子京太郎になりたいんなら……」

 と、

 望さんは手を伸ばす。

 その手は隣でムスッとした顔をして白米をパクついていた妹の肩を掴んで、引き寄せて――



望「憧なんてどう? 私の下位互換だけど」



京太郎「は?」

憧「はあぁ!?」

372 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 00:24:38.42 ID:/cLU0xlao

 かぁー、と。

 脊髄反射の叫びに遅れ、憧の顔が紅潮する。

 すぐ隣に望さんの白い顔があるから余計に目立つ。

憧「ッ……な、なに変なこと言ってんのお姉ちゃん!!///」ガーッ

望「ちょっと、耳元で大声出さないでよ……そんなに変?」

憧「変よ変! 大変! 変態!」

京太郎「おう誰が変態だって?」ガタッ

憧「座ってろ駆逐艦マニア!!!」

京太郎「ウィッス」ストッ

 相変わらず言葉の意味はよく分からんが、とにかく凄い気迫だ。

望「ほら。そーゆーところもお似合いだと思うんだけどなー、憧と京太郎くん」

憧「どこが!? こんな煩悩まみれのゲス野郎とお似合いなんて願い下げよっ!」

望「だから、そーゆー風に憧が内弁慶になれるのって、気を許してる証拠でしょ?」ニヤリ

憧「っきゅ!?」

 似たようなことをレジェンドにも言われてたような……

 やはり同世代か。

374 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 00:54:47.39 ID:/cLU0xlao

望「それにしても憧が男の子を家に連れて来るとはねぇ……お姉ちゃん感激」ウンウン

 いやあなたに呼ばれたんですけどね。

望「ま、もうちょっと大人しい方が男ウケはすると思うけど。宥ちゃんみたいに」

憧「ちがっ、あたし、そんなの、ちがくて……っ///」プルプル

 あ、涙目だ。

 そろそろ助け舟を出してやるか。

 口の中のからあげを飲み下して、

京太郎「望さん、その辺にしときませんか」

望「あら、やり過ぎだった?」

京太郎「ええまあ」

望「そっかー、どうも身内だと加減が分からなくってね」アハハ

京太郎「賑やかなのも好きですけど、今は和やかムードでお願いしたいっす。あと、おかわりも」サッ

望「はーい♪」スッ

 お椀を持って望さんが席を立った。

 僅かな時間、食卓には俺と憧だけになる。

憧「………………アリガト」

京太郎「いいってことよ」

 たとえ校外だろうと、俺は“憧係”だからな。

399 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 22:00:01.08 ID:/cLU0xlao

望「はい京太郎くん、おかわりどうぞ」スッ

京太郎「どもです。いただきます!」

 さて二杯目である。

 今度はもう少し落ち着いて、味わって食べよう。

 差し当たって手が伸びるのは手元の味噌汁だ。

京太郎「ずずっ……あ゛ぁ~」ホゥ

 しんみりと美味い。

 味噌がいいのかな、インスタントとは比べ物にならないぞ。

京太郎「こっちの味噌汁って少し甘いんですね」

憧「そう? こんなもんじゃない?」ズズッ

望「京太郎くん、実家は長野だっけ」

京太郎「うっす」

望「じゃあ信州味噌かぁ。そりゃ奈良の味噌汁が甘く感じるわけだ」

憧「ああ、地域差ってやつなのね」

望「出身が離れてると味付けのすり合わせとか苦労しそうよねー。ねえ憧?」

憧「なんであたしに振るの!?」

400 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 22:17:27.34 ID:/cLU0xlao

 姉妹の賑やかな漫才を対岸に見つつ、今度は味噌汁の具を味わう。

 ニンジン、長ネギ、里芋、こんにゃく……やたら沢山入ってるな。

 差し詰め豚汁の豚抜きって感じだ。

 だから単なる汁物で終わらず、おかずのひとつとして成り立っている。

 これならメインのからあげを飽きることなく楽しめるな。

京太郎「ふぅ……」

 しかしちょっと、口の中が熱帯夜だ。

 熱々の味噌汁ばかり飲むのも良くないな。

 俺は次の一手としてサラダに涼を求めた。

京太郎「お、豆腐サラダかぁ」

 ヘルシーだね(適当)。

 色白美人の豆腐ちゃんと、下にはレタスと水菜か。

 上に散らされてるのは炒ったジャコかな。

 豆腐を箸で割って、野菜と合わせて一口。

京太郎「うん」

 さっぱり系の和風ドレッシングと抜群の相性だ。

 口の中が一気に爽やかになったぞ。

409 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 22:47:35.07 ID:/cLU0xlao

望「普段は楽してキャベツの千切りなんだけどねー。お客さんが来るから少し頑張っちゃった」

 と、そんな俺の様子を見てだろう、望さんが言った。

京太郎「わざわざありがとうございます。どれも美味いっす」

望「喜んでもらえて何より。キャベツがない分、繊維質はそっちのきんぴらで補ってね」

京太郎「はーい」

 きんぴらごぼうか。

 こういうの嬉しいよなぁ。

 究極、こんな脇役だけでもご飯って進むものだ。

 が、それでは申し訳ないと自ら身を引く慎ましさがこのきんぴらにはある。

 その敢えて脇役に徹する姿勢に敬意を評し、俺は花道・オン・ステージ。

 舞台の中央に堂々と立つからあげを白米の上へ導くのだ。

京太郎「あぐっ……うん、うん」

 つくづく美味い。

 表面が少し冷めても情熱は未だ冷めやらず、白米との相乗効果でお釣りが来るレベルだ。

 ただ単に久しぶりってだけじゃない。

 新子家の、望さんのからあげの地力の高さが、これだけのパフォーマンスを実現している。

420 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 23:26:19.23 ID:/cLU0xlao

京太郎「いやぁ美味いっす。ほんと美味いっす」パクパク

望「あはは、そんなに喜んでくれると作った甲斐があるわー」

京太郎「これ全部望さんが作ったんですよね。まだ若いのにご立派で……」シミジミ

憧「む」

望「あらお上手。親は何かと忙しいからねー、実家が職場だし、これくらいのフォローはしなきゃ」

京太郎「はー……なんか、すげー大人って感じします」

 態度も、考え方も、柔軟ながら隙がない。

 不用意に押せばヒラリとかわされそうだし、不用心に引けばスルリと潜り込まれそうだ。

 巫女という職業がそうさせるのだろうか。

 フレンドリーにも、ミステリアスにも見える不思議な女性――それが望さんだと、そう感じた。

憧「……ねえ、ちょっと」

京太郎「あん?」

 思考が一段落したタイミングで憧に声を掛けられた。

 けど、その声に怒りの色が混じっているのは何故だろう。

 答えはCMの後!

424 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/09(月) 23:43:24.00 ID:/cLU0xlao

◇ ◆ ◇

       _
     ,'´    ヽ
   ,'´l゚ミliノリlヽ)、
    | | (l|゚ ヮ゚ノ|l | ねえ京太郎
    '' ノ、(|_i茆i_|)、'
        <_i_i_>
       し'ノ
    __,、,-z
.  〃   〉 ス
  ノ ((从从ル
. "ヾ(l ゚ -゚ノ"  どうした憧?
   /i  l:=ト、
  (_ノ_,人_,ゞ.)
    |_l,ハ_l|
       _
     ,'´    ヽ
   ,'´l゚ミliノリlヽ)、
    | | (l|゚ ヮ゚ノ|l | 『咲-Saki-全国編』のアニメが始まるって知ってた?
    '' ノ、(|_i茆i_|)、'
        <_i_i_>
       し'ノ
    __,、,-z
.  〃   〉 ス
  ノ ((从从ル
. "ヾ(l ゚ -゚ノ"  なにそれ初耳
   /i  l:=ト、
  (_ノ_,人_,ゞ.)
    |_l,ハ_l|
       _
     ,'´    ヽ
   ,'´l゚ミliノリlヽ)、
    | | (l|゚ ヮ゚ノ|l | テレビ東京系列で来年の1月5日からスタートするから忘れないでよね!
    '' ノ、(|_i茆i_|)、'
        <_i_i_>
       し'ノ
    __,、,-z
.  〃   〉 ス
  ノ ((从从ル
. "ヾ(l ゚ -゚ノ"  おう、ばっちり録画するぜ!
   /i  l:=ト、
  (_ノ_,人_,ゞ.)
    |_l,ハ_l|
       _
     ,'´    ヽ
   ,'´l゚ミliノリlヽ)、
    | | (l|゚ ヮ゚ノ|l | ちなみに初回最速放送はテレビ愛知です
    '' ノ、(|_i茆i_|)、'
        <_i_i_>
       し'ノ
    __,、,-z
.  〃   〉 ス
  ノ ((从从ル
. "ヾ(l ゚ -゚ノ"  何故に!?
   /i  l:=ト、
  (_ノ_,人_,ゞ.)
    |_l,ハ_l|

◆ ◇ ◆

430 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/10(火) 00:05:23.78 ID:CjOxT34Ho

憧「あたしも少しは手伝ったんですけど? さっきから聞いてればお姉ちゃん一人の手柄みたいに言って……」ムスッ

京太郎「あー……悪い悪い。そうだよな、憧もサンキュー。美味いよ」

憧「そんな取ってつけたような褒め言葉、嬉しくないわよ」プイッ

 しまった。

 すっかり機嫌を損ねたっぽい。

京太郎「なあ、そんなに怒んなって。本当に美味いぞ? このからあげ」

憧「……それあたしじゃない」

 ぅゎーぉ。

京太郎「じゃ、じゃあこの味噌汁? それともきんぴら?」

憧「」フルフル

京太郎「………………サラダ?」

憧「お豆腐切った」

京太郎「おうナメんなよ小娘」

439 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/10(火) 00:44:44.56 ID:CjOxT34Ho

憧「な、何よ! 仕方ないでしょ、お姉ちゃんがやらせてくれなかったんだもん!」

望「だってあんたに任せて失敗でもしたら京太郎くんに悪いし」

憧「ほらね!」

京太郎「いやそんなほらねって言われましても……」

憧「大体お姉ちゃんも、どうして揚げ物なんてするのよ! 油が怖いじゃない!」

望「いやそんなどうしてって言われましても……」

憧「家庭の味っていうなら普通は肉じゃがとか、煮物じゃないの!? 漫画にはそう書いてあったんですけど!」

 ソースは漫画。

 と、

望「違うわね、間違ってるわよ憧」チッチッチッ

憧「え?」

 望さんが憧の言葉を否定する。

望「実は煮物って作るの簡単なのよね。基礎さえ覚えたら一人暮らしの男の子にだって余裕よ」

憧「そ、そうなの?」

望「そうなの。だから地味に面倒な揚げ物にしたのよ。女子力アピールよりも、相手のことを考えなきゃ」

京太郎「結婚してください」

望「お断り♪」

憧「ぐぬぬ……!」

450 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/10(火) 01:34:15.97 ID:CjOxT34Ho

……
…………
………………

望「そう言えばさぁ」ズズー

 騒々しい晩餐が終わって。

 食後のほうじ茶を啜りながら望さんが、

望「二人は日曜デートしたんだよね」

憧「」ブホォ

 憧に追い打ちをかける。

 つーか憧、お茶口に含んでなくて良かったな。

 それでもゲッホゴッホとむせつつ望さんを睨む。

憧「な、なんで知ってるの!?……ハッ!」

 あ、誤魔化し損ねたな。

望「そりゃ勿論、ハルエから聞いたのよ」

京太郎「なるほど」

憧「ハルエェ……!」グヌッ

470 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/10(火) 22:10:34.44 ID:CjOxT34Ho

望「で? で? どんなデートしたの?」ワクワク

京太郎「ええと、まずは服屋で」 憧「言っちゃダメー!」バッ 京太郎「もがっ!?」

 飛び掛かった憧に口を塞がれてしまった。

 更に鋭い眼光で睨まれる。

憧「アンタねぇ……! なに人の姉にぺらぺら語ろうとしてるのよ!」

京太郎「もがもが」

 いかんのか。

望「えー、教えてくれないの?」

憧「当たり前でしょっ!」

望「そっか、二人だけの秘密かぁ~」

憧「へ、変な言い方しないでくれる!?///」

 望さんの発言の全てを迎撃する憧。

 そこまで必死になって隠すものだろうか。

 まあ、あの日の憧は色々ブッ飛んでたからな、家族にはバレたくないのかも。

望「じゃあ、ひとつだけ。質問してもいい?」

憧「………………なに?」



望「デート、楽しかった?」



471 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/10(火) 23:00:23.66 ID:CjOxT34Ho

憧「な、なにその質問」タジッ

望「いーから答えなさい。どう、楽しかった?」

 今度の望さんの言葉には、有無を言わせない力強さがあった。

 憧も、勢い任せに拒絶出来ないでいるようだ。

憧「ぅ……えと、その……」シドロモドロ

望「楽しくなかった?」

憧「そんなこと!……は、ない、けど、さ……」ゴニョゴニョ

望「じゃあ楽しかったのね?」

憧「た、楽しいとも言ってないし」

望「楽しくなかったんだ」

憧「だから楽しくなくはないってば!」

京太郎「どっちだよ」

憧「きょ、京太郎は黙ってて!」

望「ああもうハッキリしないわねぇ……」





望「どっちかハッキリしなさい、昨日の晩ベッドの上で見慣れないストラップを眺めてニヤニヤしてた憧!」

憧「ぎゃあああああなんで知ってるのなんで見てるのなんで言っちゃうのおおおおおおおおおおっ!!?」





478 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/10(火) 23:44:26.47 ID:CjOxT34Ho

京太郎「なーんだ気に入ってくれてたのか学校に持って来てないみたいだからひょっとして趣味じゃなかったのかと心配してガハッ」ドサッ

憧「アンタも言うな! お願いだから!///」ゼーハー

望「あーこ」

憧「なによ!?」キッ

望「楽しかったんでしょ、デート?」

憧「ッ……あーはいはいそうよその通りよ楽しかったわよデート! 不本意ながら大満足!」

望「そっか」

憧「なによぉ……笑いたいなら好きなだけ笑えばいいでしょ……」

望「笑わないってば」

憧「嘘。声がもう嬉しそうじゃない」

望「それは仕方ないでしょ? 嬉しいんだから」

憧「はぁ? なにそれ、どういう――」



望「憧が楽しくやってるなら、私はそれだけで嬉しいってこと」ニコッ



憧「――こ、と……?」

483 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/11(水) 00:21:57.81 ID:sDJID7fqo

望「ほら、あんた中学の時とか大変だったじゃない」

望「男嫌いの癖に共学で生徒数の多い阿太峯に通ってたから」

望「一時期は男を見るのも嫌ってレベルだったのにね」

憧「う゛」

望「それで高校は阿知賀だからって安心してたら、今度は阿知賀も共学化でしょ?」

望「つくづく運っていうか、間が悪いなーって、ついつい笑っちゃったわよ」

望「……でも、やっぱり心配は心配だったのよね」

憧「お姉ちゃん……」

望「高校って、中学以上に色々な人がいるのよ。良い人も、悪い人も」

望「もし憧が悪い人に、悪い男に捕まったらどうしようって、それなりに心配してたんだけど」

望「」チラッ



京太郎「」チーン



望「」クスッ

望「どうやら良い――面白い男の子に捕まったみたいで、姉として安心したわ♪」

490 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/11(水) 01:00:30.52 ID:sDJID7fqo

憧「なッ、ちょ、捕まったって何よ!? 京太郎はそんなんじゃ……!」アタフタ

望「はいはい、分かってる分かってる」

憧「その言い方は全然分かってない!」

望「あっそうだ、貰い物のメロンがあったんだったわ。デザートに切ってこよっと」トテテー

憧「こらー! 逃げるなー! お姉ちゃーん!?」

ガラッ ピシャッ

憧「……ったく、あの姉は本っ当に……!」

京太郎「お前も元気だなぁ。疲れないか?」ムクッ

憧「お前ゆーな。疲れるわよ。けど言われっぱなしは癪だもん」

京太郎「負けず嫌いめ」

憧「うっさい京太郎」





憧「京太郎!?」ギョッ

京太郎「麻雀部のアイドル、京ちゃんだよー☆ よっろしくぅ!」

496 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/11(水) 01:44:46.03 ID:sDJID7fqo

憧「あああアンタ、いつから起きてたの……!?」ハワワ

京太郎「いつからって、別にハナから落ちてないぞ」ケロッ

 その寸前だったけどな。

憧「じゃ、じゃあじゃあじゃあ……聞い、てた……?」

京太郎「ああ、まあ普通に」

 いい話だった。

 喧嘩する程仲が良いってのはこの姉妹のことだな。

 妹を想う姉の美しい心。何よりのご馳走だ。

憧「ふきゅうぅ……」プルプル

 が、何やら憧が微振動を始めた。

 そのまま立ち上がると、

憧「あ、あたしお姉ちゃん手伝ってくる!」

京太郎「え? 待てよなんでいきなり――っとぉわッ!?」ズルッ

憧「へ――きゃぁあっ!?」バタッ

望「はーいメロンお待ちどうさま――あら?」ガラッ

499 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/11(水) 02:06:45.01 ID:sDJID7fqo

 三者、フリーズ。

 望さんは切り分けたメロンを盆に乗せ、戸を開けたまま。

 憧は尻を突き出すような格好で床に這いつくばったまま。

 俺は――その憧の後ろから覆い被さるような体勢のまま。

 三者、フリーズ。

望「……」ジー

憧「っ……」カァァッ

京太郎「」カタカタ

望「………………」

望「ふむ」コクリ





望「デザートはそっちをご所望?」





「「違います!!!」」

501 名前:5月28日(火)[saga] 投稿日:2013/12/11(水) 02:29:12.62 ID:sDJID7fqo

……
…………
………………

京太郎「ふぅ……」

 やがて、俺はゆったりと新子家を後にする。

 手には望さんに持たされたお土産がずっしりと重い。

 改めて至れり尽くせりだったと、そう思った。

 巫女服。

 エプロン。

 手料理。

 メロン。

 尻。

 ここまでされては、もはや崇拝しかない。

 ここに神社を建てよう。

 俺は数メートル歩いたところで振り返った。

 もう建ってた。

 誰だか知らんが仕事はえーなオイ。

【TO BE CONTINUED...】
最終更新:2013年12月11日 20:45