憧ちゃんに媚びよう!R

832 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 21:35:09.43 ID:IEQK+np0o

 月曜日がやって来た。

 波乱の――いや別にトラブルとかなかったけど――デートから一夜明けた、新しい週の始まり。

 カレンダーがなんと言おうが、学生にとって週のスタートは月曜日だ。

 と、いうのに、

京太郎「教科書忘れた」

 よ。

京太郎「……」

 オーケー落ち着け京太郎。まだ慌てるような時間じゃない。

 第一、うろたえる必要なんてどこにもないじゃないか。

 だって憧がいる。

 教科書忘れた→憧に見せてもらう

 という、極めてシンプルな構図が成り立つのだ。

 憧と友達になり、デートまで経験し、俺達の絆パワーはより強固なものとなった。

 そんな二人の間に今や遠慮は無用。問題など何もありはしない。

 強いて気掛かりを挙げるとすれば、憧がまだ来てないってとこかナ――

京太郎「……」

 来るよね?

835 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 21:49:50.60 ID:IEQK+np0o

ガラッ

京太郎「お」

穏乃「おっはよー!!」

京太郎「おぉ?」

 穏乃じゃん。

 朝なので制服姿の穏乃が、元気良く教室に入ってきた。

 入り口の傍にいた数人の女子と挨拶を交わしている。

 馴染んでんなー。クラス違うのに。

穏乃「おはよ京太郎っ!」

京太郎「おっす。鞄も置かずにどうした? お前の教室は隣だぞ?」

穏乃「知ってるよ!? 間違ったわけじゃないから!」

 じゃあなんで、と質問を重ねようとしたところで。

京太郎「……お?」

 穏乃の小さな身体の背後に縮こまって隠れる何者かの存在に気が付いた。

 ていうか憧だった。

837 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 22:09:39.94 ID:IEQK+np0o

京太郎「穏乃、どうしたソレ」

穏乃「いやー、私もわかんない。今朝いきなりメールで「迎えに来て」って言われて……」

 ぽりぽりと頬を掻く穏乃。

京太郎「ふーん……? まーいいや。おはよう憧」

憧「ッ!」ビクッ

 呼び掛けると、憧の肩が大きく跳ねた。

 そしてゆっくり、本当にゆっくり、穏乃の背中から顔だけを覗かせて、



憧「お、ぉ、おっ、お……おは……ょ……」カチコチ



京太郎「……」

穏乃「……」

_人人 人人人人_
> どもりすぎでは <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

840 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 22:30:45.13 ID:IEQK+np0o

穏乃「ま、いいや。じゃあ私自分の教室行くね!」ドヒューン

憧「えっ!? 待っ、ちょっ、しずっ!?」

京太郎「あ。憧ー」

憧「ひえっ!?」ビクゥッ

 え、すげー怯えられてる?

 止める暇もなく穏乃が走り去り、俺と憧の間に障害物は何もない。

 物理的にも、精神的にも。

 うん、その筈だ。

憧「な、なな、なにっ?」ビクビク

京太郎「……実は教科書忘れちゃってさ。見せてくれないか?」

憧「えっ!? な、なんで!?」ビクビクビク

京太郎「えっ」

憧「なんで!? ねえ!?」ビクビクビクビク

京太郎「なんでって……こういう場合は大抵隣の人が」

憧「み、右にもいるでしょ!!」

_人人 人人人人人_
> 右にもいるでしょ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄



 右隣の人はいつだって優しくしてくれる。

 俺は泣いた。

848 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 22:56:48.42 ID:IEQK+np0o

……
…………
………………

 昼休みになった。

 メシの時間だ。

 俺の心にはひとつの疑惑が宿っていた。

 ――俺、憧を怒らせた?

 どうにも様子がおかしい。

 昨日は、最後の最後こそ遁走されたものの、概ね順調だった筈なのに。

 今日になってあの態度。

 その理由を確かめる為にも、ここは攻める!

京太郎「おーい、憧ー」

憧「ッ……なに?」ジトッ

京太郎「あー、その、なんだ。一緒にメシでもどうだ?……奢りますよ?」ヘヘヘ

 アカン。

 最終的に揉み手でお伺いを立てる風になってしまった。

850 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 23:19:52.73 ID:IEQK+np0o

 ともかく、憧の反応は……?

憧「じょ、冗ッ談じゃないわよ!!」

_人人 人人人人人人_
> 冗ッ談じゃないわよ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

京太郎「」

憧「そんなこと急に言わないでよ!」

憧「こっちにも心の準備があるのよ!」

憧「大体、友達に噂されるとか恥ずかしいし……!///」カァー

京太郎「」

憧「って……京太郎? 聞いてる?」

京太郎「ああ、聞いてるよ……つまり憧は、俺と食事したくないってことだろ……?」

憧「えっ!? そ、そんなこと言ってないでしょ!」

 いや言っただろ。

京太郎「はぁぁぁ……」ドヨーン

憧「あ……えっ、と……その……」ワタワタ

京太郎「……」

憧「し、しず達も一緒でいいなら……いいけど?」

京太郎「わぁい」

854 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/01(日) 23:44:10.90 ID:IEQK+np0o

~食堂~

玄「おまたせー」パタパタ

穏乃「玄さん! 宥さんも灼さんもこんにちは!」

宥「こんにちは~」ポワポワ

灼「お招きありがた……」

京太郎「こんちは。いきなり呼び出してすんません」ペッコリン

玄「気にしないでいいよ。ちょうど今日はおねーちゃんと灼ちゃんと食べる約束だったから」

灼「でもなんで急……?」

京太郎「それは憧が」チラリ

憧「う」ギクリ

宥「憧ちゃん、どうかしたの?」

穏乃「今朝から変なんですよー」

憧「へ、変って何よ」

京太郎「いや変だろ」ズバッ

玄「そういえばデートはどうだった?」ズバァッ

灼「キスとかしたの」ズバァァァンッ

憧「ふみ゛ゃっ!?」

860 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 00:13:38.43 ID:V1ey86lvo

穏乃「鱚?」キョトン

宥「き、キス……///」ハワワ

憧「ななな、なに言ってんの灼さん!?」

灼「デートといえばキスだと思……」ケロッ

玄「そ、そうなの憧ちゃん……?///」ドキドキ

憧「ないない! そんなん全然ないから! ねっ京太郎!?」

京太郎「まあ、流石にキスはなぁ」

憧「それ以外はやったみたいな言い方やめてくれる!?」

玄「じゃあじゃあ、どんなことならしたの?」

京太郎「そーっすねぇ……あ、手とか繋ぎましたよ」

玄「て、手を!? 大人だね……///」キャー

京太郎「え?」

穏乃「いーなー、楽しそうだなー。今度はみんなでデートしようね、憧!」

憧「そうね……もう好きにするといいわよ……いっそ殺して……///」プシューッ

宥「あったか~い」

灼「おにぎり美味し」モキュモキュ

867 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 00:32:15.16 ID:V1ey86lvo

……
…………
………………

~部室~

ガチャッ

京太郎「よろしくお願いし」

レジェンド「寂しかったんだから゛ぁ゛!!!」ガバッ

京太郎「まァッ!?」サッ

スカッ

ゴスッ

ボテッ

レジェンド「」ガハッ

灼「は、ハルちゃーん!!」タタッ

憧「……ナニコレ」

京太郎「俺に質問をするな」

 ドアを開けた瞬間にレジェンドが両腕を広げて泣きながら飛び掛かってきたので回避したらそのまま廊下の壁に激突して轟沈した。

 それは把握してるが、どうしてこうなったのかは皆目検討もつかないし。

870 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 00:51:42.51 ID:V1ey86lvo

レジェンド「うっうっ……ど゛う゛じ゛で゛避゛げ゛る゛の゛ォ゛……?」メソメソ

京太郎「いい大人が床に突っ伏して泣かないでくださいよ」

憧「泣くと婚期が逃げるわよ」

レジェンド「幸せじゃなくて!?」ムクッ

 あ、起きた。

 すかさず鷺森部長が支え……いや抱きついてるだけだわあれ。

灼「」スリスリ

京太郎「……で、今のはなんすか」

レジェンド「なんすかじゃないよ須賀くんよう! メールの件に決まってるでしょ!」ウワーン

京太郎「あー……」

 その件か。その件ですよね。

京太郎「でも謝ったじゃないですか」

レジェンド「メールでね! 申し訳無さそうな顔文字ひとつでね!?」

京太郎「でも謝ったじゃないですか!」クワッ

レジェンド「うわっキレる10代!」ビクッ

872 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 01:08:09.62 ID:V1ey86lvo

京太郎「キレたくもなりますよ……あの膨大な量の未読メールと着信履歴を見たらね」

レジェンド「ぎくっ!」

憧「ぅーゎー……」

 帰ってケータイ確認して、思わず手から滑り落ちたからな。

 一歩間違えればトラウマになるところだ。

レジェンド「だ、だってだって、須賀くんに嫌われちゃったかと思ったんだモン……☆」イジイジ

京太郎「きつい」

憧「きつい」

レジェンド「れじぇじぇ……」

京太郎「流行らない」

灼「れじぇじぇ……」

京太郎「流行らない!」

 もうやだこの師弟。

873 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 01:29:25.56 ID:V1ey86lvo

レジェンド「……ごほん。それで、デートはどうだった、憧?」

憧「ふきゅ」

 レジェンドの質問が憧を襲った。

 今までの流れとか完全無視である。

憧「ど、ど、ど、どうって?」

レジェンド「そりゃ、楽しかったかーとか、そんなんよ」

憧「う、ん……まあ、まあまあ、ね」

レジェンド「なるほどね。すっごく楽しかったんだって、須賀くん!」

憧「んなぁっ!?」

京太郎「オレェ?」

憧「ま、まあまあって言ったでしょ!? ちゃんと耳ついてんのハルエ!」

レジェンド「見ての通りついてるよ?」

憧「だったらなんで……!」

レジェンド「控えめとは言え憧が肯定するんだもん、さぞ楽しかったんだろうなって」ニッ

憧「れ、れじぇじぇ……」

 流行ってる!

875 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 01:54:59.93 ID:V1ey86lvo

レジェンド「そっかそっか、だから憧の様子がおかしかったんだね」

京太郎「へ? 監督、朝から憧を見てたんですか?」

レジェンド「いや、今が初だけど」

憧「え?」

 どういうこっちゃ。

 憧と顔を見合わせ首を傾げる。

 と、レジェンドが、



レジェンド「さっき部室に入ってくる時、二人がいつもより離れて立ってたから。これはなんかあったのかなと思ってさ」ケロッ



 事も無げに、そんなことを。

「「………………」」ポカーン

レジェンド「ん? 二人ともどったの?」

京太郎「……監督って」

憧「……たまにレジェンドよね」

レジェンド「どういう意味だ」

灼「やっぱりハルちゃんナンバーワン!」イヤッホォーゥ

879 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 02:15:05.02 ID:V1ey86lvo

 って、

 ちょっと待て。

京太郎「監督」キリッ

レジェンド「うん? そんな真面目な顔してどうした?」

京太郎「確かに憧は今朝から様子が変でした。俺の言動に大袈裟に反応したり、以前みたいに突き放したり」

憧「ちょ、京太郎!?」アセッ

京太郎「その原因が昨日のデートにある……監督はそうお考えなんですね?」

レジェンド「そだね。そして私はそれが悪いことじゃないと踏んでいる」

憧「は、ハルエまで……!」ワタワタ

 ふむ。

  • 憧は昨日のデートを楽しんでくれたらしい

  • その上で、俺を避けるような態度を取っている

 レジェンドが提示したこれら二点の情報から導き出される答え。

 それはつまり――

京太郎「――――――――――」

 ――どういうことだってばよ……!

881 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 02:44:38.32 ID:V1ey86lvo

 分からない。

 デートを楽しんでくれたなら、普通は態度が軟化するんじゃないのか?

 少なからず好感を持ってくれたなら、関係が進展するんじゃないのか?

 そこんとこどうなの。

 本人に訊きたい。確かめたい。

 ので、

京太郎「……」ジー

憧「な、なによ」タジッ

 まず、見る。

 無意識だろう、一歩後退する憧の表情には警戒の色が浮かんだ。

京太郎「……」ジロジロ

憧「……っ///」モジモジ

 更に見る。

 すると憧の頬に赤みが差し、振る舞いもソワソワと忙しない。

 ここまでは、これまで通りだ。

883 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 03:12:58.01 ID:V1ey86lvo

京太郎「……」スッ

憧「」ビクッ

 次に手を伸ばす。

 咄嗟に身構える様子は、依然として警戒心の強さを窺わせる。

 しかし、拒まない。

 いつもは言葉や行動で拒絶を示す頃だというのに。

京太郎「……」ピタッ

憧「っ……?」プルプル

 となると俺にも戸惑いが生まれる。

 どうしよう。

 目を瞑って小刻みに震えてる憧の、どこを触ったものだろう。

京太郎「………………」

 頭……つまり髪は、駄目だろう。嫌がってたし。

 胸……も、駄目だろう。常識的に考えて。

 腹……は、インパクトに欠ける。

 腿……も、ちょっと冗談じゃ済まされない。

 尻……は、ギリギリだ。後ろに回り込むのが手間だな。

 となると。

京太郎「……よし」

憧「……?」パチッ

 憧が目を開けたタイミングで、

京太郎「そりゃ」バサッ

憧「へ」

 ぺろーん、と。

 スカートめくったった。

887 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 03:29:25.12 ID:V1ey86lvo

 重力に逆らって舞うスカートの奥――あれはシルクの光沢だろうか、淡い紫の布地が見

憧「ドラァ!!」バキィッ

京太郎「お゛ン!!」ドサッ

 殴り倒されました。

憧「死にたいんなら口で言いなさいよ!!」ゼーハー

 吼える憧の息は荒い。

 一撃に全力を込めたのだろうということが、俺自身が受けたダメージからも分かった。

京太郎「ふ――、フフ、フ」

 だからこそ、嬉しかった。

憧「な、なに? 笑ってるの?」

京太郎「ああ。やっぱりお前は元気な方が似合うな、憧」ニッ

憧「ッ!」ドキッ

891 名前:5月27日(月)[saga] 投稿日:2013/12/02(月) 03:48:22.35 ID:V1ey86lvo

 埃を払って立ち上がる。

 正面に憧を捉えて、また笑い掛けた。

京太郎「デートを楽しんでくれたのは嬉しいよ。俺も楽しかった」

京太郎「けど、いつまでも浮かれたり、引きずったりするのは良くないよな」

京太郎「バシッと気持ちを切り替えて、インハイ予選に向けて頑張ろうぜ!」ニカッ

憧「……京太郎……」





憧「でもスカートめくる必要なんてどこにもないわよね?」

京太郎「ウィッス」

憧「今日が救えないゴミの日よ」

_人人 人人人人人人人人人_
> 今日が救えないゴミの日よ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄





 それから穏乃達が来るまでの間、バシッと気持ちを切り替えた憧に7ページ半に亘ってボコられ続けた俺だった。

_人人人人人人人人人人_
>【TO BE CONTINUED...】<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
最終更新:2013年12月02日 16:59