究極VS至高

753 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 00:37:09.04 ID:SHa+B8XVo

 熱したフライパンにバターを溶かし、具材を投入。

 具はソーセージ、ピーマン、玉ねぎ。

 こういうのはシンプルな程いい。

 ソーセージは輪切りに、ピーマンと玉ねぎは千切りに。

 大きさに多少のバラつきが出るのは愛嬌ってことで。

 強火で炒める。

 うーむ、バターの香りが胃袋を唆す。

 しかし我慢だ我慢。無心で炒める。

 いくらか火が通ったら塩とコショウ、それから――

京太郎「……ふぅ」

 それにしても、だ。

 まさか俺が日曜の朝っぱらから料理だなんてな。

 こんな面倒なことを毎日やっているのだから、改めてお袋には頭が下がる。

 たまにやる分には楽しいんだけどな。

京太郎「おっと」

 ボケっとしている暇はない。

 ニワカ弁当男子・須賀京太郎の戦いはこれからだ!

755 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 00:55:16.16 ID:SHa+B8XVo

……
…………
………………

~部室~

灼「ロン。7700」パタッ

玄「ズガーン!?」

 決着。

 今の直撃で鷺森部長がトップを奪い取った。

レジェンド「うん、今のは良かったよ灼! 流石だねっ」カイグリカイグリ

灼「は、はるひゃああああああああああん」トローン

 溶けてる溶けてる。

 ちらりと時計を確認すると、正午ジャスト。

 ということは、

レジェンド「よーし、そろそろお昼にしよっか」

穏乃「待ってましたー!」

憧「」ビクッ

 来たか……

756 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 01:16:45.55 ID:SHa+B8XVo

穏乃「ごっはん、ごっはん♪」ゴソゴソ

灼「パンだけどね」ズバァッ

玄「うぅ、勝って気分よく食べたかったなぁ……」シューン

宥「よしよし」ナデナデ

 めいめい持参した食事を用意する。

 俺も、憧も。

穏乃「あ! 京太郎、それってメールで言われてたお弁当?」

京太郎「おー、そうだよ」

宥「お弁当……?」

玄「京太郎くんが作ったの?」

京太郎「そうなんすよ。早起きして頑張りました」ムフー

 へー、という感心の声と好奇の視線。

 悪い気はしないな。

憧「……」

758 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 01:45:02.98 ID:SHa+B8XVo

レジェンド「二人とも忘れずに作ってきたみたいだね。よしよし」

 と、俺達を見て満足気に頷くレジェンド。

憧「……ていうかさ」

 そこに、憧の呟き。

 さっきから静かだったが……なんか機嫌悪い?

憧「なんでお弁当なんて作らせたのよ? しかもいきなり」

レジェンド「えー? いきなりじゃないでしょ、火曜にはメールしたし」

憧「十分いきなりよ!」ガルル

 機嫌悪い(確信)。

京太郎「で、指令に関係あるんですよね? 何するんですか?」

レジェンド「うん、食べさせてもらう」

京太郎「食べさせ……味比べってことですか? 監督が審判で?」

レジェンド「いや違くて」

京太郎「???」



         r―‐⌒ヾ : : : : : : : : : : : : : : : \
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       i{ | ′:.:.'{_|_:.:.:.:| リV:.:.:.:.:.:.:}:.>匕、: :\j--i
        || |/: :.:.:∧}リ≫┘o。v――'’xr示=ミト、:.:.\}、  「二人には、それぞれのお弁当を食べさせ合ってもらいます!」
        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、
           |:.:.:.:.:.「`ヽ《乂_゚ツ        ゞ= '゚ :リ/リ゚。:.:.ト、i
           |:.:.:.:.小   , ,    '    , ,  : /:.:.:.∧:.} リ
           l.:.:.:.:.:| }ゝ-!            jハ:.:.:.:j/}:.|
          :。.:.:.:{ {:j:八    -==ァ     イ }/ j:ノ
            ゚:。.リ  \{≧ュ。.    ィ:jソ  ″ /
           ゞ    イニ}  ` ´  {ニヽ
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「「!?」」



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        || |/: :.:.:∧}リ≫┘o。v――'’xr示=ミト、:.:.\}、   「あーんで!!」
        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、
           |:.:.:.:.:.「`ヽ《乂_゚ツ        ゞ= '゚ :リ/リ゚。:.:.ト、i
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「「!!?」」

765 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 02:18:00.09 ID:SHa+B8XVo

 …………おったまげたな!

 いやまあ、まるで考えなかった訳じゃあないが。

 だが、だ。しかし、だ。

 憧は、

憧「いーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーー!!!」

 こうなるわなぁ。

 そろそろ慣れろよ、とは言えない。

レジェンド「じゃ、早速だけど準備ヨロシク☆」バチコーン

憧「イヤって言ってるの聞こえなかった!? あたし結構おっきな声で叫んでたよ!?」

レジェンド「聞こえたけどさ」

京太郎「そろそろ慣れろよ」

 言っちゃった。

憧「だ……って、だってだって! あーんなんて、そんなの完全に……こっ、恋人同士ですることじゃない!」カァッ

レジェンド「えー? 別に恋人同士じゃなくてもするでしょ。ねえ?」

灼「するする」

玄「するよね」

宥「するねぇ」

穏乃「するー」

京太郎「するだろ」

憧「なんて時代よ!!」ダムッ

770 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 02:54:37.04 ID:SHa+B8XVo

 あれは中学二年の秋だったかな。

 咲が利き手を怪我していて、箸も満足に持てなかった頃。

 およそ一週間に亘って色々と世話を焼いたりした。

 給食の時には勿論あーんもした。しまくった。

 咲は顔を真っ赤にして拒否していたが、たっぷり。

 だから、それぐらいで恋人扱いされたら俺と咲なんてどれだけラブラブなんだって話になる。

 よって憧の主張は却下されるのだ。たっぷり!

レジェンド「さて、あーんの正当性は証明された訳だけど……」

憧「うぅ、納得いかないぃぃぃ……」グズリグズリ

レジェンド「ま、憧の気持ちも汲んであげるとしますか」

憧「ほ、ほんとっ?」

レジェンド「ほんとほんと。一回だけでいいよ、それなら頑張れるよね?」

憧「汲めてない!!」ガーン

レジェンド「出来ないの?」

憧「でっ……、………………。……やるけどさ」ガクッ

レジェンド「決まりね!」ニッ

 わー、と外野から歓声&拍手。

 そんなこんなで、始まります。

798 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 22:08:24.24 ID:SHa+B8XVo

レジェンド「で、須賀くんと憧のどっちからやる?」

 のどっちで(錯乱)。

 誰だのどっちって。

京太郎「俺でいいよな? 憧から出来るとは思えねーし」

憧「む。そんなこと………………あるけどさ」クッ

 悔しいでしょうねぇ。

穏乃「なんか余裕っぽいね京太郎。自信あるの?」

京太郎「まあな」フフン

 スクールバッグから弁当の包みを取り出し、ミーティング用の円卓の上に置く。

 自然、視線はそこへ。

 ちょっと緊張するが、御開帳の時間だ。

京太郎「さあ、これが俺の――」

パカッ



京太郎「――ナポリタン弁当だ!!!」バァーン



憧「なんでっ!?」

803 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 22:33:47.21 ID:SHa+B8XVo

 ケチャップが赤々しく染め上げるパスタ。

 具はソーセージ、ピーマン、玉ねぎ。

 シンプルイズベストを体現したナポリタンがそこにはあった。

京太郎「ちなみに下段は白米だ」パカッ

憧「だからなんでよ!?」

京太郎「なんでって、別に変じゃないだろ?」

憧「いや、お弁当に麺って……変じゃないの? あたしが知らないだけ?」

玄「うーん、私達の家でも見たことないかなぁ」

灼「白米との組み合わせは経験な……」

穏乃「でもおいしそう!」ジュルリ

宥「長野では普通なの?」

京太郎「いやまあ、割とマイノリティではあります。地域とか関係なく」

 咲も驚いてたしな。

京太郎「けど味は確かだぜ? 食べてみれば分かる」ニヤリ

憧「……!」

809 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 22:54:56.62 ID:SHa+B8XVo

 そして俺は取り出す――箸を。

憧「………………そういうお店、都会にはあるらしいけどさぁ」

 諦め半分、呆れ半分な憧の声。

 好き勝手言ってられるのも今の内だ。

 箸でナポリタンを巻き取るように摘む。

 で、

京太郎「あーん」スッ

憧「ふきゅっ」

 差し出すナポリタンの向こうで、ケチャップの赤よりも赤くなる憧の顔。

 下から上へ。もうもうと湯気まで出てる。

宥「あったか~い」ササッ

 すかさず宥さんが近寄って暖を取り始めた。

京太郎「憧、ほれ」ズイッ

憧「ぁ……う……」オドオド

京太郎「口開けろってば」ズズイ

憧「でも、だってぇ……」モジモジ

京太郎「いいから。あーん」アーン

穏乃「」アーン

玄「」アーン

814 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 23:23:27.11 ID:SHa+B8XVo

京太郎「え?」クルッ

穏乃「」ハッ

玄「」ハッ

 気配を感じて振り向くと、穏乃と玄さんが口を開けていた。

 なんつーか、餌待ちの雛鳥とか、そんな感じで。

京太郎「……二人はどういう集まりなんだっけ?」

穏乃「いやー、じっと見てたらつい」アハハ

玄「で、ですのだ……///」エヘヘ

 笑って誤魔化そうとしている。

 まあ実害があった訳でもないし、誤魔化されてやろう。

 気を取り直して、

京太郎「あーこー」ズズズイ

憧「ふぎゅ……わ、分かった! 分かったから! じっと見るのやめて、もっと離れて!///」

京太郎「是非もねえ」パッ

 やや下がる。

 そして改めて、箸を前に。

 そしてそして、

京太郎「ほい、あーん」



.             xァ′ /       |                ヽ {__j__
           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
      /  / /    i |    i  | |     |     i |  i     :,    \ \
      /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \
   .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ
      /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       ,
.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
  ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;
  |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |  「ぁー……、んっ///」パクッ
  |   |          | . . .|  |           ,          |  |  . .|: . |       |   |
  |   |         /:| . . .|  |\i ///          ///  |  |  . .|: . |       |   |
  |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |
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815 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/01(金) 23:54:52.25 ID:SHa+B8XVo

 ぱくり、と。

 箸を咥え込む憧。

 それを頃合いを見て引き抜く。

 唇にくすぐったさを感じたのか、ピクンという反応があった。

 さておき、もぐもぐ咀嚼する憧を見る。それとなく。そこはかとなく。

 他人に食べさせるのは咲に続いて二人目だが、お気に召しますかどうか――

憧「んくっ………………な、なにこれ美味しっ!?」

 ――イエス!

 憧は目をまんまるにして、今しがた自分が呑み込んだものに衝撃を受けている。

 その反応が見たかったんだ。

京太郎「どうだ憧、これが須賀家秘伝の必殺ナポリタンだ!!」バァーン

憧「くっ……京太郎の料理に感動すら覚えるなんて、悔しいっ……!」ギリッ

京太郎「まあもう一口」スッ

憧「」パクッ

憧「お、美味しいぃぃぃ……っ!」レジェジェ...

816 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 00:15:38.41 ID:aGw01MoTo

京太郎「更に、だ。こいつは白米と一緒に食べてもイケるんだぜ」スッ

 そう言って、弁当箱と箸を差し出す。

 憧は躊躇なく受け取り、一心不乱にパクつき始めた。

憧「こ、これは! この味はッ!」

憧「シンプルなご飯にパスタの濃い味付けが絡みつく美味しさだわ!!」

憧「ご飯がパスタを! パスタがご飯を引き立ててる!」

憧「炭水化物&炭水化物なのに、ケチャップが潤滑油になってすごく食べやすいッ!!」

憧「やっぱり肝はこのナポリタン……このまろやかさの秘密はなんなの!?」



京太郎「――それは……『牛乳』、だぜ」



憧「ぎゅ、牛乳……? ナポリタンに?」

京太郎「そうさ。そもそも、『喫茶店で食べたナポリタンの味』を再現しようというのがこのレシピの起り」

京太郎「それを再現する上で、何より欠かせないのが牛乳だ」

京太郎「バターで炒め、仕上げに少量の牛乳を混ぜる。それが喫茶店風ナポリタンを作るにおいて最も重要なファクター……だ」キリッ

823 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 00:37:25.68 ID:aGw01MoTo

穏乃「す、すごい……!」

玄「うん……レシピも確かに良いんだろうけど、それを上手に作れる京太郎くんも凄いよ!」

京太郎「いやあ、実家を出る前にこれだけは身体に叩き込んできたんすよ」

 一番好きな料理だったから。

 ……俺にとってのお袋の味だから、とは言えない。恥ずかしい。

京太郎「ま、お陰でそれ以外の料理や家事はからっきしなんですけどね」タハハ

宥「あらあら」

灼「あらあらた」

レジェンド「うーむ、これは意外な展開になったなー」

 などと和やかなムード――の横で、

憧「」モッキュモッキュ

 まだ食ってる憧がいた。

 てか、

京太郎「ちょっとごめんな」スッ

憧「んぐっ!? な、にゃにっ!?」ワタワタッ

832 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 01:01:33.67 ID:aGw01MoTo

 不意打ちに怯んだ憧の口元を――ぐいっ。

憧「!?」

京太郎「ソース。ついてたぜ?」

憧「!!?!??///」ボフンッ

 あ、爆発した。

 やっと引きつつあった顔の赤みがカムバック。

 単純に恥ずかしいんだろうな。

京太郎「さて……」

 俺の指には今、拭い取ったソースが付着していた。

憧「きょ、きょきょきょ、京太郎! まさか、そ、その指を、な、ななめなめ舐め――」



 京太郎「」ゴシゴシ

 ティッシュで拭こ。



憧「――へ?」

京太郎「ん? どうかしたか?」

憧「や、今、ソース……」

京太郎「ああ。汚れたからな」

憧「…………………………舐めたりしないの?」

京太郎「え? そんなことしたら怒るだろ?」

憧「お、怒るけど……」

京太郎「だろー? いつも怒らせてばっかだしさ、たまにはキメるぜ」フフン

憧「………………けど、けどさぁ、少女漫画だったらこういう時はさぁ………………」ブツブツ

京太郎「?」

838 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 01:20:11.06 ID:aGw01MoTo

憧「……はぁ。とりあえず、ごちそうさまでした」ナム

京太郎「あいよ、お粗末さま」

憧「………………」

京太郎「………………」

憧「完食しちゃったわ!?」

京太郎「完食しちゃったよ!?」

 オーノーだズラ。

 俺の昼飯がなくなっちまったズラ。

レジェンド「あらー。よっぽど美味しかったんだねぇ」

憧「う……うん」コクリ

レジェンド「ま、幸い今日の趣旨は『食べさせ合い』だからね。憧のお弁当を全部須賀くんにやれば問題ないでしょ」

憧「そ、そっか。そうよね! じゃあはい京太郎、これ――」スッ

レジェンド「ただしあーんはしてもらう」

憧「」チッ

京太郎「おう舌打ちやめろや」

905 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 22:15:18.66 ID:aGw01MoTo

 憧が手にしている包み。

 弁当箱があれに収まるサイズだとしたら……小さい。

 恐らく、普段から自分が使っている弁当箱だろう。

 小さい(確信)。

 こんな事態になると想定していなかったのなら仕方ないか。

 でも物足りないだろうなぁ。

 ま、贅沢言っちゃいけないぜ。

 なんせ美少女の手作り弁当にありつけるんだからな。

 しかし、

京太郎「……憧? どうした?」

憧「ん……いや、うん」

 様子がおかしい。

 さっきまで俺に押し付けようとしていた弁当の包みを、今度は逆に胸に抱いて離すまいとしていた。

 まるで食べさせたくないように――見せたくないように?

911 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 22:38:17.01 ID:aGw01MoTo

憧「ぁ、の、」

京太郎「もしかして、上手く出来なかったのか?」

憧「っきゅ」

 図星か。

 目に見えて落ち込んでいる憧を、茶化す気にはなれないな。

京太郎「あー、まあアレだ。料理の達人だろうが鉄人だろうが、たまには失敗もするさ。気にすんなよ」

憧「……違うの」

京太郎「へ?」

憧「たまにじゃ、ないの」

 絞り出すような声で。

 また一層、弁当をきつく抱き締めて。

 嘘や悪戯がバレて叱られる子供のような顔で。

憧「あたし……本当は、料理とかしたことなくて……」

憧「でも、あの時は京太郎やしずに馬鹿にされたくなくて……」

憧「だから、慌ててお姉ちゃんに教わったけど、あんまり上達しなくて……」

913 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 22:53:37.51 ID:aGw01MoTo

 そんなことを、憧は心底深刻そうに吐露した。

 更に続けて、

憧「……元から自信なんてなかったけど、今じゃ粉々よ」

憧「こんなの、恥ずかしくって出せない。笑われちゃう」

憧「京太郎とハルエには悪いけど、今日の指令は失敗ってこ――」



京太郎「笑わねーって」



憧「――と、に……?」

 憧の言葉を遮ってハッキリと宣言する。

 まだポカンとしている憧の手から、包みを引ったくった。

憧「あっ、返――」

京太郎「返すよ」

 引ったくって、憧の前に置いた。

憧「――、………………何がしたいのよ、アンタ……」

京太郎「したいんじゃなくて、されたいんだよ。あーんって」

憧「っ」

京太郎「絶対だ。絶対笑ったりしねーから、憧自身の手で蓋を開けてくれ」

917 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 23:11:10.20 ID:aGw01MoTo

憧「ほ、ほんとに笑わない……?」

京太郎「長野県民ウソツカナイ」

憧「そこでボケると信用なくす」

京太郎「すみません」

憧「……言ったからね。笑わないでよ」スッ

 そう言って包みから弁当箱を出して、蓋の留め具を外す。

 予想通り小さなその容器の中身は――

京太郎「!」

 ふりかけご飯。

 ちょい焦げ卵焼き。

 申し訳程度のプチトマト。

 タコさんになりたかったウインナー。

 残ったスペースには、覇気のない野菜炒め。

 何の変哲もない、普通に作って普通に失敗した弁当だ。

京太郎「お、おう」

 コメントしづれえ。

924 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 23:26:38.20 ID:aGw01MoTo

憧「今、あたしのこと笑った……?」ズモッ

京太郎「いや笑ってない笑ってない! 思ったよりまともで拍子抜けしたってだけだから!」アセアセ

憧「ぅ……そ、そう?」

京太郎「そうそう。なあ?」

穏乃「うん、私が作るよりちゃんとしてると思うよ!」

灼「炭の塊とか出てこなくて安心し……」

宥「冷めててもあったか~い」

玄「今度一緒にお料理しよう?」

 口々に憧を励ます女性陣。

 ちなみにレジェンドは一歩下がった位置で腕組みをして満足気に頷いていた。

 なんかコメントしろや。

憧「それで……ど、どれ食べる?」モジモジ

京太郎「そうさなぁ」

 中々に難儀な選択肢だ。

 しかし長々と迷うのも悪手である。

926 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/02(土) 23:48:59.09 ID:aGw01MoTo

京太郎「じゃあ、卵焼きかな」

憧「ん……」

 手にしたフォークを卵焼きに刺す。

憧「……ん」

 それを、俺の目の前に差し出す。

京太郎「……」

憧「な、なに? なんで黙ってるの?」

京太郎「あーんしてくれなきゃ食べないもん」プイッ

憧「か、可愛くない!!!」ガーン

 そんな力いっぱい否定しなくても。

京太郎「ほれほれ、あーんはよ」

憧「く、っうぅぅぅ……」プルプル

 フォークが、その先端にくっついた卵焼きが震えている。

 こちらからあーんした時と同様、憧の顔が次第に紅潮していく。

 それでも、憧は意を決して、

憧「あ、あ、ぁ、あ、………………あーん……///」カァーッ

932 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 00:19:03.55 ID:z+6VoE0Ro

京太郎「あーん」

 ここで焦らすのも可哀想だし、さっと口に含む。

京太郎「むぐむぐ」

 さっさと咀嚼。

京太郎「ごくん」

 ざっくり嚥下。

憧「ど……どう?」

京太郎「うん、うまくない」

憧「んなぁっ!?」ズガーン

京太郎「あ」

 つい本音が。

 いや、もとより嘘を言うつもりはなかったんだけど。

 もうちょっとオブラートに包んでやるつもりだったのに。

憧「あっそう……そうね……そうよね……」ズズーン

 しかし手遅れでござる。

935 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 00:53:19.10 ID:z+6VoE0Ro

憧「別にいいけどね……分かってたしね……あんな見た目で実は、とかあるわけないもんね……」ドヨヨン

 あーあーあー。

 やっぱりハッキリ言い過ぎたよな。

 覚悟はしてても堪えるだろ。

穏乃「……」ジトー

玄「……」ジトー

宥「……」ジトー

灼「……」ジトー

レジェンド「……」ジトー

 ほら、みんなの咎める視線が辛いし!

憧「ま、これでノルマは達成したし残りはあたしが……」

京太郎「待て、待て憧」

憧「……なによ」

京太郎「弁当。食うからこっちにくれよ」

憧「えっ?」

936 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 01:23:49.49 ID:z+6VoE0Ro

 意外にも意外そうな顔をされた。

京太郎「いや、俺に全部くれるって話になってたろ?」

憧「そうだけど、でもこんな失敗作……」

京太郎「食えない程じゃねーよ。まずいとは言ってないだろ」

 上手くはないし、美味くもないけど。

京太郎「ほら、寄越せっての」パッ

憧「あっ」

 引ったくる。

 今度は返さない。

 フォークでタコさんになりたかったウインナーを刺して口に放り込む。

京太郎「うん……うん」

 うまくない。

 形が歪だし、もう少し焼いた方がいいな。

 皮のパリッと感が出ていない。

942 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 01:34:01.44 ID:z+6VoE0Ro

憧「……」

京太郎「さて、お次はっと」

 覇気のない野菜炒めかな。

 キャベツと人参、それとピーマンか。

 あ、豚肉の切れ端。

 まとめて一口。

京太郎「うーん」

 うまくない。

 油が多いんだな。

 初見で感じた弱々しさの原因だろう。

京太郎「ふむ」

 ご飯が欲しいな。

 ふりかけは嬉しい気遣いだ。

 もぐし。

京太郎「うーん!」

 水っぽーい!

 ご飯までうまくないというのは予想外だった。

 今日の新子家の食卓が偲ばれる。

945 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 01:59:17.10 ID:z+6VoE0Ro

 まあ、でもうまくないだけだ。

 まずくはないよ。まずくはな。

 だから食う。

京太郎「うん。うん。うん」ガツガツ

 本当にうまくないけど。

憧「京太郎……」

京太郎「んー?」バクバク

憧「……そ、そんなのがあたしの本当の実力だなんて思わないでよね!」

京太郎「おもっへはいへほ」モグモグ

憧「食べながら喋らない!」

京太郎「ふぁい」

 ごっくん。

 飲み込んで、改めて憧を見る。

憧「こ、今回は……まだ不慣れで、失敗しちゃったけど……」

憧「アンタはそれでも食べてくれた訳だし……」

憧「だから、その、えっと……」

948 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 02:07:30.90 ID:z+6VoE0Ro

憧「――っ」グッ



.             xァ′ /       |                ヽ {__j__
           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
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      /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \
   .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ
      /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       ,
.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
  ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;  「いつか、もっと美味しいお弁当を食べさせてあげるから、覚悟しなさい!」
  |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |
  |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |
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  |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |
  |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |
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  |   |       | | . . . :\ Vi:i:i:i:i:i:i:|. : j>--<. : .{: |:i:i:i:iV //   廴_|       |   |
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  |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   |



京太郎「――!」ニッ



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       / /    |    |__ | |   | |  |  :   l :l:  /|  |   :|   | |
.      ///     |    |\ |‐\八 |  |  |    |__,l /-|‐ :リ   リ  | |
     /  /   - 、     :|   x===ミx|‐-|  |:`ー /x===ミノ//  /  :∧{
       /   |  :.八   _/ {::{:::刈`|  |  l:  /´{::{:::刈\,_|  イ  /ー―‐ ..__     
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     / _,/:.:..|  ::| \ !           j/        ′/:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:.
        / :.:.:.:.:{  ::|\ハ_,          ノ            ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧   「望むところだ!!」
.    /:.:.:.:.:.:.:.::′ ::|:.:.|\圦                       / j/l/.:.:′:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./:.:.:.∧
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 まるで少年漫画の主人公とライバルのように。

 強く再戦を誓う俺と憧だった。

京太郎「俺も更にナポリタンの腕を上げておくぜ」

憧「いや他の料理も覚えなさいよ」ズバァッ

【TO BE CONTINUED...】

952 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 02:24:04.04 ID:z+6VoE0Ro

【おまけ】

京太郎「……っふう。ごちそーさん」ナム

憧「お、おそまつさ……ん?」

京太郎「」ギクリ

憧「京太郎、プチトマト残ってるわよ」

京太郎「」ギクリギクリ

憧「…………………………もしかして?」

京太郎「プチトマトは食べ物じゃないから。だから残すとか残さないとかって問題じゃないから(震え声)」

憧「なんてこと言うのよアンタは!? プチトマト農家に謝りなさい!」

京太郎「ノゥ! 絶対にノゥ!! 普通のトマトは食べてるからノーカン!!」

憧「別問題でしょそれ! プチトマトの何が嫌なのよ!」

京太郎「全部だよぜ・ん・ぶ! どうやっても中身が弾けるあの食感が無理!!」

憧「子供みたいなことを……こうなったら!」

953 名前:5月19日(日)[saga] 投稿日:2013/11/03(日) 02:30:28.94 ID:z+6VoE0Ro

(フォークを取り出す音)

(プチトマトに突き刺す音)

(プチトマトの悲鳴)

憧「無理矢理にでも捩じ込んでやるわ……!」

京太郎「ひぎぃ!? そ、そんなおっきいの入んないよぅ!!」

憧「プチだから平気よ! 観念なさい!」ダッ

京太郎「冗談じゃねえ! 逃げるんだよォォォーーーーーッ」ダッッッ

ワーギャー

ドッタンバッタン

ガシッ

オラァ!!

ズボッ

ウボァー!?

ガクッ

穏乃「あれ、憧ってばまた京太郎にあーんしてる」

レジェンド「特訓の成果だね!」フンス

灼「いや、たぶん本人は自覚な……」

もいっこ【TO BE CONTINUED...】



【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
 称号:ミスターメシウマ(ただしナポリタンに限る)(new!)
 憧への印象:...→郷土愛っていいよな
  →うまくない(new!)

【新子憧のステータスが更新されました!】
 称号:ミスメシマズ(ただし発展途上)(new!)
 京太郎への印象:...→野外ダメ。ゼッタイ。
  →いつか見返してやるんだから!(new!)
最終更新:2013年11月03日 13:45