366 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 00:24:07.10 ID:M3ziMJFKo
_人人 人人人人人人_
> これまでのあらすじ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
部室で新子さんに麻雀を教わっていた俺
↓
そこにレジェンドから部活中止の報せが舞い込む
↓
帰宅中、酔っ払いに絡まれている新子さんの知り合いを発見!
↓
ハンサムの京太郎は颯爽とトラブルを解決する
↓
我が家へランナウェイ。そこで突如キレる俺。気まずいこと山の如し
↓
雨が降り出したので帰る新子さん
↓
雨が降り過ぎなので戻る新子さん
↓
濡れたブレザーを乾かそうと脱いだらシャツまで透けていたことに気付く新子さん ←NEW!!
↓
それを目撃した俺 ←NEW!!
↓
ビンタ ←NEW!!
↓
痛い ←今ここ
372 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 00:48:30.04 ID:M3ziMJFKo
そして現在――
憧「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた」ブツブツブツブツ
京太郎「……」カチャカチャ
新子さんは部屋の隅で膝を抱えてうずくまり、俺は粛々と飲み物の用意をしている。
ちなみに俺は頬に時期外れのもみじを貼り付けていて、
新子さんは非常手段として俺のTシャツを着ていた。
(最初はYシャツを渡したけど、「は? Tシャツでいいでしょ(真顔)」って言われた。俺は泣いた)
傍らには濡れたブレザーとシャツが無造作に放られている。
………………いかがわしい。
京太郎「」ハッ
イカン。イカンですよ。
無心になるんだ須賀京太郎。
たとえ今この状況がどれほど魅力的なシチュエーションであろうと、変な気を起こしてはいけない。
同級生の女子が俺の部屋でびしょ濡れの制服を脱いで男物のTシャツを着ているからって、決して変な気を起こしてはいけないんだ!
………………出来るか?
374 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:13:00.33 ID:M3ziMJFKo
京太郎「っと」
そうこうしている内にコーヒーの用意が出来た。
先日お袋から届いた補給物資の中に入っていた、ぶっちゃけお歳暮の余りである。
とは言え結構お高い代物らしく、インスタントだてらに良い香りがしてくる。
京太郎「おーい新子さーん。コーヒー入ったぞー」
憧「見られた見られたなんでなんでなんでこんな日に限って無地の可愛くないやつなんてイヤ可愛かったら見せてもいいって訳じゃないけどああもう最悪最悪最悪最悪……え、なに?」
京太郎「……いや……だから、コーヒー」
憧「あ、う、うん。ありがと」
コト、とテーブルにカップを置く。
のそのそと近寄ってそれを手に取る新子さん。
……いけませんよ新子さん。そのTシャツで四つん這いはいけませんよ。
件の「無地の可愛くないやつ」がちらりと……ゲフンゲフン。
378 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:32:36.24 ID:M3ziMJFKo
京太郎「ていうか、コーヒー大丈夫だったか?」
憧「あ、それは平気。……けど」
京太郎「?」
憧「あの、砂糖とミルク……」
あ、そうか。
テーブルの上にはカップが二つ。それだけしかなかった。
京太郎「悪い悪い。俺が使わないから持ってくんの忘れてたわ」
憧「!?」
京太郎「新子さんはいるよな。取ってくるからちょっと待っ」
がしっ。
京太郎「え?」
なんか腕を掴まれた。
掴んだ新子さんは、何やら悔しげというか、強張った表情をしていた。
382 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 01:56:58.32 ID:M3ziMJFKo
憧「い、いらない」
京太郎「へ?」
憧「あたしもいらない。須賀くんが使うんじゃないかと思って訊いただけだから」
京太郎「そ、そうか? それならいいけど……本当にいらない?」
憧「いらない(震え声)」
うーん。
まあ、無理強いするものでもないけどさぁ。
とりあえず座り直してコーヒーを一口。
京太郎「む」
美味い。
ていうか旨い。
普段コーヒーを飲みつけている訳ではないけど、それでも味の違いが分かった。
気の利いたコメントこそ出来ないが、これはハッキリ良い品だと分かる。
サンキューお袋、これなら新子さんも、
憧「>Д<」
ダメっぽかった。
391 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 02:37:46.17 ID:M3ziMJFKo
憧「うぅ……」ソローッ
取り繕う余裕もなく顔をしかめたまま、もう一度カップに口をつける。
憧「>Д<」
ダメっぽかった。
京太郎「……」ズズッ
俺ももう一口。
京太郎「……うわー。なんだこれはー」
憧「えっ」
反射的にこちらを見た新子さんと目が合う。
敢えて気にする素振りは見せずに続ける。
京太郎「初めて飲んだけどこれはハズレだなー。とてもじゃないけど飲めないなー」
憧「す、須賀くん?」
京太郎「ごめんな新子さん、お客さんに出せるもんじゃなかったわー。無理して飲まなくてもいいぞー」
この喋り方、なんかワハハとか言いたくなってくるぞー。
394 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 02:59:29.36 ID:M3ziMJFKo
京太郎「とは言え体が冷えたままなのは良くないよなー。代わりを用意するからちょっと待っててくれー」
憧「ちょ、待っ!」
なにか言いたげな新子さんを華麗にスルー。台所へ。
そこで新しいカップに牛乳を注ぎ、そのままレンジで温める。
適当な時間が経ったら取り出して、仕上げにはちみつを少々。
ちなみにこのはちみつもお袋からの贈り物です。
家で親父と二人じゃ使う機会がないからって送りつけてきたんだろうが、俺だって同じだっつーの。
……あったけどな使う機会。再びサンキューお袋。
戻る。
京太郎「お待たせ、ホットミルクしかなかったけどいいかな?」
憧「あ……」
京太郎「熱いから気をつけろよ」コトッ
そう言って、ほとんど量の減ってないコーヒーの隣にホットミルクを置く。
新子さんは、それをじっと見つめていた。
401 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:24:51.25 ID:M3ziMJFKo
憧「……ねぇ、ホットミルクしかないの?」
京太郎「ないな」
憧「本当に?」
京太郎「本当に」
憧「他に何も?」
京太郎「なーんにも」
憧「水でもいいけど」
京太郎「水もねえ」
憧「水も!? それはそれでどうなの!?」
京太郎「あーもー食い下がるんじゃねえよ! 大人しく飲めばいいんだよ飲めば!!」
くそぅ、どうにも締まらない。
それでも一歩も退かない覚悟でプレッシャーを与え続ける。
すると、
憧「……」ズズ
やがて観念したように、ゆっくりとホットミルクを啜った。
そして、
憧「………………おいし……」ホゥ
ようやく表情を綻ばせた新子さんを見ながら、俺もすっかりぬるくなったコーヒーを口に運んだ。
403 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:45:42.61 ID:M3ziMJFKo
憧「……さっきは」
京太郎「んぉ?」
湯気を立てるマグカップを両手で包んで弄びながら、新子さんがぽつりと漏らした。
視線はホットミルクに落とされている。
憧「さっきはびっくりした」
京太郎「あ……」
さっき。
つまり、雨が降り出す直前の出来事。
憧「元々うるさい人だとは思ってたけど、あんな風に怒鳴られるなんて思ってなかった」
京太郎「う」
憧「……お父さん以外の男の人に叱られたのなんて、はじめてだった」
京太郎「うぅう……」
胸が痛い。
罪悪感と気恥ずかしさ、二つの「やっちまった」が俺を責める。
穴があったら入りたい……
405 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 03:57:04.40 ID:M3ziMJFKo
憧「須賀くん」
京太郎「は、はい」
名前を呼ばれ、どんな恨み事を吐きかけられるのかと背筋が伸びる。
しかし、
憧「ごめんね」
俺の耳に届けられたのは、至極シンプルな謝罪の言葉だった。
京太郎「……はい?」
憧「今まで考えてたけど、やっぱり須賀くんが正しかったと思う」
そう言って新子さんはホットミルクを一口飲む。
またほぅと息を吐いて、
憧「本当にあの子達を助けたいなら、まずあたしだけじゃどうにも出来ないってことを認めるべきだったんだよね」
憧「あの時のあたしには……須賀くんには頼りたくない、って気持ちがあった……んだと、思う」
406 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/30(火) 04:26:19.20 ID:M3ziMJFKo
憧「バカだよね、ほんと。敵と味方の区別がついてなかった」
憧「それであの子達まで危険な目に遭わせてたらって思うと、すごく怖いから」
新子さんの目が俺を見る。
そこに今までの遠慮や抵抗はない。
ただただ、素直な気持ちだけがあった。
憧「だから、ごめんね。心配かけちゃって」
そんな心からの言葉。
それに対して、俺はあくまで冷静に返す。
京太郎「……ふたつ、訂正させてくれ」
憧「訂正?」
京太郎「ああ。ひとつ、危険な目に遭って欲しくなかったのは新子さんも含めた全員だ。自分だけなら良いみたいに言うな」
憧「あ……うん、ごめん」
京太郎「そしてもうひとつ」
さっきから何度も頭を下げる新子さんに向かって、もうひとつ。
京太郎「こういう時は、ごめんじゃなくてありがとうって言うもんだぜ?」ニッ
憧「………………ふふ。じゃあ、ありがとっ」ニコ
――外から聞こえる雨の音が、まるでコンサート会場に響く拍手のように感じられた。
452 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 00:34:12.30 ID:1NtyRWbOo
……
…………
………………
それから、30分ばかりが経っただろうか。
依然雨は降り続け、止む気配を見せない。
俺達はただなんとなく窓の外を眺めていた。
会話こそなかったが、その沈黙は不思議と心地良いものだった。
京太郎「なんか、変な感じだな」
憧「なにが?」
京太郎「こんな風に落ち着いてるのが。初めてだよな、こういうの」
憧「あー……そうね、そうかもね」
色々と騒がしい一日だったが、こんな結末なら大いに意義もあったというものだろう。
憧「あたしも、どうして今まで須賀くんをあんなに目の敵にしてたのか分かんなくなっちゃった」
京太郎「………………」
それは俺がパンツを見たり追い掛け回したり追い掛け回したりパンツを見たり学校中を連れ回したり握手したり抱き留めたり匂いを嗅がせたりしたからだろう。
とは口が裂けても言わないでおこう。
ホットミルクの魔法は偉大だ。
453 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 00:49:37.06 ID:1NtyRWbOo
偉大ついでに、訊きたいことを訊いてしまおうと思った。
折角の、絶好のチャンスだと思った。
ので、
京太郎「新子さん」
憧「なに?」
京太郎「新子さん達は、どうして全国を目指してるんだ?」
訊いた。
ずっと訊きたかったこと。
あの日。みんなで学食に集まった日。
穏乃の口から聞いた麻雀部の目標――『全国優勝』。
じゃあ、そんな大きな目標を立てた動機は?
それが知りたかった。
458 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:51:24.72 ID:1NtyRWbOo
新子さんは目をぱちくりとさせ、
憧「………………言ってなかったっけ?」
と尋ね返してきた。
京太郎「ああ」
何かにつけ訊こう訊こうと思っていたが、今に至るまでタイミングを逃し続けている。
憧「あちゃー……そっか、ごめんね、別に隠してる訳じゃなかったんだけど」
京太郎「俺も怒ってる訳じゃないけどな」
憧「うん。じゃあ須賀くんには一から話すわね」
居住まいを正す新子さん。
俺も釣られて身構える。
憧「って……そんな改まって聞く話じゃないわよ?」
京太郎「あ、そうなん?」
憧「そうよ」
でも、と続いた。
憧「もしかしたら、ちょっと長くなる……かも」
500 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 00:52:46.19 ID:fEvYA2Hlo
降りしきる雨。
その音を聞きながら、新子さんは静かに語り始める。
憧「――友達がいたんだ」
憧「名前は和。原村和」
憧「うちらと同い年で、小六の時に転校してきたの」
憧「その和を、あたしとしずが麻雀教室に誘った」
京太郎「麻雀教室?」
憧「あ、そっか。それも知らないのか」
憧「えーっと……ハルエが昔インターハイに出場したってことは知ってるっけ?」
京太郎「ああ、鷺森部長と喋ってた時に」
憧「そうだったわね。で、その話には続きがあってね」
憧「初出場の阿知賀は一回戦、二回戦を順調に勝ち上がった」
憧「怒涛の快進撃だって、ニュースでも話題になってたくらい」
501 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 01:04:19.62 ID:fEvYA2Hlo
京太郎「へえ、凄かったんだな」
憧「うん。あたしも、しずと一緒にテレビの前で大はしゃぎだった」クスッ
憧「けど」
憧「次の準決勝で、エースのハルエが大量失点して負けちゃったの」
京太郎「え……」
憧「……あれは子供心に悲しかったなぁ。地元一丸で応援してたからね」
憧「でもやっぱり一番辛かったのはハルエで、それからしばらくは牌に触れることも出来なかったみたい」
京太郎「監督が……」
憧「その後ハルエは部を辞めて、レギュラーもほとんどが卒業。そして翌年は初戦敗退」
憧「結局、女子校時代の麻雀部は自然消滅的に廃部になっちゃったって訳」
そんなことがあったのか。
本当に、何も知らなかったんだと実感する。
黙り込む俺を見て、新子さんは困ったように小さく笑った――ような、気がした。
502 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 01:27:03.97 ID:fEvYA2Hlo
憧「話を戻すわね」
京太郎「あ、おう」
憧「そんなハルエに勧められたのが、麻雀教室の先生だった」
憧「近所の子供相手に麻雀を教えるっていう……言わばリハビリみたいなものね」
憧「勧めたのはうちのお姉ちゃん。ハルエのチームメイトだったんだ」
京太郎「へえ」
監督のチームメイトって、つまりインターハイに出場した選手だよな。
そんな凄い人が身内にいたのか。
憧「あたしとしずと玄、それからさっき助けた子達も、その阿知賀こども麻雀クラブの仲間だったの」
京太郎「なるほど、そういう仲だったんだな」
憧「うん。いつも一緒だった」
憧「いつも一緒に遊んで、いつも一緒に麻雀を打ってた」
503 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 02:05:31.19 ID:fEvYA2Hlo
憧「で、そこに和が加わったの」
憧「それからはもっと楽しかったなぁ」
憧「和が前に住んでたのって東京でさ。物知りだし麻雀も強いし、あたし達の持ってないものをいっぱい持ってた」
昔を懐かしむ新子さんの表情は、とても優しかった。
友達との綺麗な思い出。
新子さんの心にはそれが詰まっているのだろう。
憧「でも」
でも、
憧「それも長くは続かなかったんだけどね」
その表情に、陰が生まれる。
504 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 02:50:59.14 ID:fEvYA2Hlo
京太郎「え、なんでだ? 何かあったのか?」
憧「秋口だったかな。ハルエに実業団からスカウトが来たの」
京太郎「スカウト……」
憧「そう。それ自体は喜ばしいことだから、みんなで背中を押してあげたんだ」
憧「お別れ会では玄もしずも涙目で、和なんてボロボロ泣いてたっけ。……あたしは泣いてないからね?」
京太郎「別に疑ってねーよ。ていうか、泣いてもいいだろそこは」
まあね、と返す新子さんは、笑っていたが、笑っていなかった。
すぐに下を向いてしまう。
憧「……まあ、時間の問題ではあったんだけどね」
憧「その頃にはあたしも別の中学に進学することを決めてたし、和だって中二になると同時にまた転校しちゃったし」
憧「残ったしずと玄は学年が違うし……誰も一緒にはいられなくなった」
憧「あたし達はバラバラになった」
506 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 03:21:01.57 ID:fEvYA2Hlo
憧「でも、仕方ないって思った」
憧「これから先、こういうことは何度もあるんだって」
憧「だから前を向こうって」
憧「そうするしかないって」
憧「思ってた」
憧「のに」
憧「あのバカは、そうじゃなかったみたい」
京太郎「あのバカ……って、」
憧「お察しの通り、高鴨穏乃よ」クス
憧「あいつがやらかしてくれたから、あたし達はまた集まることが出来た」
507 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 03:55:33.47 ID:fEvYA2Hlo
憧「キッカケは中三の夏休み」
憧「テレビを見てたらね、和がインターミドルの個人戦で優勝したってニュースが流れたの」
京太郎「え、優勝って……凄いことだよな?」
憧「うん。和はほんとに凄いよ」
憧「しずもそれを見てたらしくって、あたしに電話してきたんだ」
憧「なんて言ったんだっけなぁ……確か、「私もあの大会に出たい!」だったかな」
京太郎「うわぁ」
憧「まさにしず! って感じだよね。もう中三だっての」クスクス
憧「でも、言いたいことは分かっちゃったんだ」
憧「友達が頑張ってる。頑張って、凄い結果を出した」
憧「じっとしてなんかいられない。それはあたしだって同じ気持ち」
憧「しずは、インターミドルが無理ならインターハイに出るって言った」
憧「それも阿知賀で、麻雀部のない阿知賀で全国に行くって」
京太郎「そりゃあ……凄いな。ある意味」
憧「凄いでしょ。ある意味」クスッ
508 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 04:28:40.03 ID:fEvYA2Hlo
憧「……本当はね、あたしは高校も阿知賀じゃなくって、違う高校に進学するつもりだったの」
憧「でも……、なんて言ったらいいかな……。……アテられちゃったのよね、しずに」
憧「しずと一緒なら、って思った」
憧「しずが一緒なら、って」
憧「だからあたしはしずの無茶に乗っかった」
憧「玄も同じで、それから宥姉と灼さんも加わって」
憧「そこにハルエも戻ってきて」
憧「またみんなが揃った。前よりも賑やかになった」
憧「後は和だけ」
憧「全国の舞台で、和の前に立つ」
憧「それがあたし達の本当の目標」
憧「またみんなではしゃいで、」
憧「そして――」
509 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/01(木) 04:29:29.07 ID:fEvYA2Hlo
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/..:..:/ / ! l..:..:..:'./ ! l..:..:..:..|..|v :..:..|..:..:.}..:..i/:}:..:. ゚。:..:。
/..:..:/ ′:..:..:|..ト-.:.、l |..l,:..:..:..:|..| ゚。,.斗-‐.|..:..|/j..:..:| :。.:.:。
:..:..:..′ !..:..:..:..|..|リ、.:{リ\:{ ゚。..:..:{..{/\{ }ノ|..:..|:.:..:..:.| ∨ハ
i..:..:. |..!:..:..:.|..|,.イ芹℡x{ \..{リxrf芹ミト│..:|:.′ :| |:..
|..:..:| リ!..:..:.l..代{:.トil刈 ` {:.トil刈 〉..:.j}:゚. ..,'.| |:.. 「――遊ぶんだ、和と」
|..:..:| |i.:..:.|.. 弋こ,ノ 弋こ,ノ |..:..′:.゚:.| |:..
|..:..:| |i.:..:.|..|:. :.:.:. , :.:.:. |..:。..:.。:.:l |:..
|..:..:| |i.:..:.|..「} /|..:′.:゚:.:.:l |:.:.
|..:..:| |i.:..:.|..|人 ー‐' イ:.゚./..:..:。.:.:.! |.:..
|..:..:| |i.:..:ハ..゚。:.i.≧o。.. .。o≦:|:.://..:..:.:゚:.:.:.:.l |:..
|..:..:| 小..:.:.:.ハ.゚。!:.:.:.-r| ` ´ |=ミ:.:|://..:..:./:.:.:.:.:.l |:..
.:..:..:.| / :|..:..:.:.:.∧{<=「ノ }`iニ/イ..:..:..:___:.:.:.:.l |:..
.:..:..:..:| f¨¨~}..:..:.:./ 乂二|___ ____|=/=′ :.{ニニニ>ュ. |:..
/ :..:..:..| ∧ .′.:.:.′ニニ=|_, -―‐- ,_|ニニj:..:..:..|/ニニニ/、 ::..
/ :..:....:..:| / ∨..:..:./二ニニニl lニニ{..:..:..:|ニニニ// } }:..
557 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 00:44:29.56 ID:X0v+YFCho
語り終えて――
新子さんは長く深く息を吐いた。
憧「はぁぁ……あー、疲れた」
どこかおどけたように言って、僅かに残っていたホットミルクを飲み干す。
憧「ぷはっ」
そして俺を見る。
清々しいような、気恥ずかしいような表情で。
憧「本当に長くなっちゃってごめんね」
新子さんはそう言った。
それに対して俺が何かを言い返すより早く、
言い返す隙を与えないように早く、
憧「軽蔑した?」
と言った。
559 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 00:52:40.69 ID:X0v+YFCho
俺は――
/ / | | | | | : l :l | | :| | |
/ / | |__ | | | | | : l :l: /| | :| | |
. /// | |\ |‐\八 | | | |__,l /-|‐ :リ リ | |
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/ :.:.:.:.:{ ::|\ハ_, ノ ,___/{:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.∧ 「――感動した!!!!!!!!!!」
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:.:.:.:.:.:.:.: }: : : :--:/\: . ノ:r/ / .: .:.:.:.:.|:.:.:.:\ ,/:.:.:. |:.:.:.:.:/:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:./
と叫んだ。
563 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 01:08:57.88 ID:X0v+YFCho
憧「、は……!?」
絶句。
絶句する新子さん。
俺に馬鹿呼ばわりされた時の比ではないくらいに目を見開いている。
京太郎「新子さん!!」ガシッ
憧「ひっ!?」ビクッ
そんな新子さんの手を、握り締めた。
力強く、力強く。
憧「ちょ、手、手っ///」
京太郎「俺は感動した! 猛烈に感動したぞ!」
憧「か、感動って……、軽蔑じゃなくて?」
京太郎「軽蔑? さっきも言ってたけど、なんで軽蔑なんかするんだよ?」
憧「だって、友達と遊びたいなんて理由で全国を目指すなんて……」
京太郎「そこがいいんじゃねえか!!!」グワッ
憧「ひぃぃ……」ビクビク
566 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 01:41:44.57 ID:X0v+YFCho
京太郎「たったそれだけの為に毎日あんなに練習してるんだろ!?」
憧「そ、そうだけど」
京太郎「やっぱすげえ! 俺だったら絶対に途中で投げ出しちまうよ、断言する!!」
情けないが事実だ。
京太郎「全国に行けるかどうかも分からない。行ったって友達に会える保証なんてない」
京太郎「それでも行ける、会えるって信じて努力してる奴を、どうやって軽蔑しろって言うんだよ!!」
憧「ぅ……ぁぅ……」タジタジ
燃えていた。
滾っていた。
迸っていた。
目の前の美少女が、最早女神のように見えていた。
彼女の為に。
みんなの為に。
何かしてあげたい、力になりたい。
無性にそう感じた。
570 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 02:11:43.22 ID:X0v+YFCho
京太郎「なあ、俺に出来ることってないか!?」
憧「は、はぁ?」
京太郎「なんでもいいから! ほら、言ってみ?」
憧「………………じゃ、手、離して」
京太郎「やだよ」
憧「なんでよぅ!?」グスッ
なんか半泣きだ。
まったく男嫌いもほどほどに――
京太郎「――そうだ!!!」クワァッ
憧「」ビクーンッ
京太郎「男嫌いを治そう! 本気で!!」
憧「ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」
新子さんは今日一番の嫌な顔をした。
573 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 02:44:24.55 ID:X0v+YFCho
憧「い、今だってやってるじゃない」
京太郎「俺が本気じゃなかったんだよ! ぶっちゃけ監督に言われるがまま、なあなあでやってた!」
京太郎「でも、もう受け身は卒業だ。これからはガンガン! 積極的に! 全力で協力させてもらう!!」
京太郎「そう! 何を隠そう――俺は特訓(をする方)の達人だぁああああああああああ!!!」ゴッッッ
憧「ッ~~~……あーもーうるさい! それと近い! さっきからなんなのよそのハイテンションは!?」
京太郎「なんなのって言われてもなぁ。俺もアテられちまったんだよ、お前らの夢に」
憧「ちょ、お前呼ばわりって……」カチン
京太郎「あ、悪い」
勢い余って失礼をば。
ちゃんと呼ばないとな――ちゃんと?
京太郎「……新子さん」
憧「な、なによ」
呼ぶ――違う。
京太郎「新子」
憧「!?」
呼ぶ――違う!
ちゃんと呼ぶなら――こうだ!!
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憧「ふきゅっ!!?」
581 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 03:22:21.43 ID:X0v+YFCho
うむ。これだ。
しっくり来た。
だが新子さん――もとい憧はそうでもないらしく、
憧「な、ななな、なん、名前、なんで、なんで……?」パクパク
京太郎「いやぁ、やっぱり呼ぶなら名前だよなと思って」
咲。穏乃。そして憧。
仲良くなった同学年の女子を苗字でさん付けとか、俺のキャラじゃなかったんだよ。
やっと喉に引っかかっていた小骨が取れた。そんな気分だ。
あるいは新しいパンツをは履いたばかりの正月元旦の朝のような。
京太郎「という訳で、改めてよろしくな、憧!」ニッ
憧「~~~~~っ!?」
声にならない悲鳴が上がった。
目をグルグルと回した憧が思い切り後ずさろうとする。
しかし手は俺がしっかりと掴んでいた。
ので、
憧「あっ」ツルッ
京太郎「おっ」グラッ
お 待 た せ 。
587 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 03:57:21.57 ID:X0v+YFCho
憧「きゃっ!?」ドテッ
京太郎「うおっ!?」ドサッ
滑った。
転んだ。
押し倒した。
憧「ったぁ……、」ピタッ
瞑っていた目を開き、憧が現状を認識する。
畳の上に仰向けに倒れた自分。
ばさりと広がる髪。
それぞれ俺に押さえつけられている両手。
トドメは何らかの力によってめくれあがったTシャツから覗く、小さなおへそ。
京ッピー知ってるよ。こういうの、数え役満って言うこと。
591 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:33:54.97 ID:X0v+YFCho
しかし、
やはり今日という日は特別らしかった。
憧「あ、わ、ゎわ」
様子がおかしい。
憧「あわわあわわ、あわわあわわ」
いつもなら罵声なり鉄拳なりが飛んでくるタイミングだというのに、あわわあわわするばかりの憧。
その顔は茹で蛸のように真っ赤だ。
京太郎「――」
よくない。
これはよくない。
ここでしおらしくなられてしまっては、俺も収まりがつかない。
普段ならリセットされていたテンションが限界を突破しつつあるのを感じる。
やばい、テンパる。
憧「な、ゃ、なに、こんな、なんで、なにをっ、」アワワアワワ
京太郎「あ、あのっ、憧――」
憧「ふきゅっ!? ま、また! また憧って!」
京太郎「ちょ、落ち着け憧、頼む、マジで!」
憧「あ! あぁああ! あた、あたしっ、あたし――!」
595 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:46:12.95 ID:X0v+YFCho
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597 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 04:47:02.76 ID:X0v+YFCho
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604 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 05:11:59.38 ID:X0v+YFCho
……
…………
………………
京太郎「じゃあ、気をつけて帰るんだぞ」
憧「……ウン」
京太郎「本当に一人で平気か? 送って行こうか?」
憧「……ダイジョウブ」
京太郎「そっか。傘は学校で返してくれればいいから」
憧「……ウン。アリガトウ」
京太郎「………………本当の本当に一人で平気か?」
憧「……ロンオブモチ」
京太郎「ならいいけど……じゃ、また明日な、憧」
憧「っ!」ビクッ
だだだーっ、と。
小降りになった雨の中を憧が駆け抜ける。
俺はその背中を眺めていた。
正確には、後ろからでもハッキリ見える、赤く染まった耳を。
605 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/02(金) 05:13:18.26 ID:X0v+YFCho
/\-――‐- 、
, --=7 丶 `ヽ
/, ヽ ヽ
∠/ / 、 、 丶 i
/ i ! l. l i. i |
/ ,/ ! ! l|| ! |、 ll ! | ヽ、
/_ -7 , | l ト、| |ヽ! N , 斗 r ,'_ ト--`
 ̄ //! ! Nヽ!\|,//l/ l/! N ,ハ !|
´ / ,i丶 {=== l/ == =l/ ' ノ リ 「……やらかしたなぁ、お互い」
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´ {ハ!ヽ{ ′ /!}/ ′
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ハ:.:.:.i:.,:.:,′:.:i `  ̄ /:.:.:.:.:../:.:.:.:.:.:.:.丶、
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!:.:.:.:.ヽ:.{:.:.l:.:.:.:.:l. i /:.:.:.:.:.:/:.:./:.:.:.:.:.:./:.:.:.i
632 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 00:43:07.58 ID:GYIdsQf8o
◇
……
…………
………………
~憧の部屋~
ガチャッ
憧「た、ただいまー……」フラフラ
ボフン
憧「はあ……やっと帰ってこれた……」
ゴロン
憧「今日は散々だったなぁ……」
憧「須賀くんに怒られたり……」
憧「雨に降られたり……」
憧「須賀くんに、ぶ、ブラが透けてるのを見られたり……」
憧「す、須賀くんに押し倒された、り……」
憧「須賀くんに……しょ、処っ、バレ、言っ、すが、きゅっ、ふ、~~~~~っ!!」カァァァッ
憧「っあ゛ーーーーーーーーーー!/// もうマジなに言っちゃってんのよあたしはぁぁぁぁぁっ!!///」ゴロンゴロンゴロンゴロン
637 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 01:25:51.07 ID:GYIdsQf8o
憧「だいたい須賀くんも須賀くんよ!」ピタッ
憧「あんなにグイグイ迫ってきたら動揺もするっての!」
憧「こっちの気持ちなんてお構いなしなんだから!」
憧「その上どれだけ突き放しても諦めないし」
憧「たまーーーーーにまともなことも言うし」
憧「もう、本当にお節介で……」
憧「……本当に、変なヤツ……」
憧「……」
憧「」ブルルッ
憧「そうだ、早くシャワー浴びなきゃ!」ガバッ
憧「濡れて生乾きの服なんて着てたら風邪ひいちゃうわ」モゾモゾ
憧「ブレザーもシャツも洗濯よね……しずじゃないけど、明日の部活はジャージで出なきゃかなー」プチプチ
憧「よ、っと」ヌギヌギ
バサッ
憧「あ」
憧「そういえばこのTシャツ、須賀くんのだっけ……」
640 名前:4月26日(金)[saga] 投稿日:2013/08/03(土) 02:28:56.84 ID:GYIdsQf8o
憧「……これ、どうしよ」
憧「洗濯して返したいから着たまま帰って来ちゃったけど……」
憧「冷静に考えたら洗濯物に紛れ込ませるのって無理じゃない……?」
憧「バレるよね、絶対バレるよね」カタカタ
憧「けど洗わず返すのも女子として、いや人として流石に……」
憧「やっぱり洗濯機に放り込……んでも干す時に見つかるし……」
憧「やっぱりやっぱりそのまま返……したら匂いとか気になるし……」
憧「……」
憧「……匂い……」
憧「」キョロ
憧「」キョロキョロ
憧「……」
憧「すんすん」
憧「んー……」
憧「あたしの匂いしかしない……かな?」
憧「Σ」ハッ
憧「だからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……///」ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン
【TO BE CONTINUED...】
【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
称号:童貞(new!)
憧への印象:...→いい匂いがした
→憧ー!俺だー!特訓するぞー!(new!)
【新子憧のステータスが更新されました!】
称号:処女(new!)
京太郎への印象:...→不思議な匂い……
→見られた、知られた、叱られた(new!)
最終更新:2013年11月23日 15:22