男のニオイに慣れよう!

692 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 01:14:54.67 ID:6dfmb1xao

憧「はあああああああぁぁぁ……」

 午前中のみの授業を終え、部室へ向かう道すがら。

 新子さんが盛大な溜め息を吐いた。

京太郎「どうした? なんか元気ないな」

憧「気にしないで……15年生きててこんなに憂鬱な週末は初めてってだけだから……はあ……」

京太郎「あー……」

 あれか、『指令』か。

 前回から今日でちょうど一週間が経つ。

レジェンド曰く指令は週一で実行しなければならない。

 そして昨日までなんの音沙汰もなかったのだから、つまり、今日。

 必ず指令が下される。

 それが新子さんの憂鬱の原因だ。

694 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 01:57:36.39 ID:6dfmb1xao

京太郎「新子さんも大変だな」

憧「なんで他人事なのよ……ていうか誰のせいよ」ジロッ

京太郎「え、オレェ?」

憧「……ハルエのせいね」

 だよな。

 とは言え確かに俺も無関係ではない。

 なんせ“憧係”である。

 隣を歩く美少女から、男に対する苦手意識を拭い去るべく粉骨砕身する立場である……らしい。

 何気に責任重大である。

 が、

 初回の指令内容は『仲直りの握手』だった。

 俺からすれば楽勝――ぶっちゃけ役得でしかない。

 こんな指令なら大歓迎だ。

 何だって何度だって喜んでやる。

 そしてその後しっぽりむふふといきたいものですな――とか考えながら、部室の扉を開けた。

695 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 02:00:54.61 ID:6dfmb1xao

 がちゃり。



                / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄../i
          /              /::::::|
         /               /:::::::::::.|
           i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄i:::::::::::::::::|  「やあ! 待ってたよ二人とm」
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           |       .......::::::::::::::|:::::::::::::::::|
     . . .. ..:.:::|   l二二:: 二 i.:::::::::|::::::::::::/::..
  . . : :..:..:.:.:::::::|    ...:::::::::::::::::::::::::::::|::::::/::::.:.:.:.
     ...:.:.:::::|________|/::::::::.:.:..



 ばたむ。

701 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 02:45:36.41 ID:6dfmb1xao

 なんか目の前で箱が喋り出したから扉を閉めた。

レジェンド「うぉおい! まだ話の途中でしょ!?」ガチャッ!

 なんか小脇に箱を抱えたレジェンドが扉を開けた。

 どうやら顔の前に箱を持ち上げていただけだったらしい。

 箱人間かと驚いて損した気分だ。

憧「なにやってんのよハルエ」

レジェンド「いやー、あんたら待ちで暇してたから」

京太郎「ああ、俺らが最後ですか」

 言いつつ部屋の中を覗くと、部屋の中央に集まっていた穏乃達と目が合った。

穏乃「おっ。やほー京太郎!」

玄「こんにちはー」

宥「いらっしゃあい」

灼「今日は何握りやしょう」

 寿司屋かな?

706 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 03:10:57.71 ID:6dfmb1xao [6/11]

憧「おつでーす」

京太郎「お疲れ様です」

 挨拶を交わしながら俺達も室内へ。

 最後尾にはレジェンド。

 箱を手に、満面の笑顔の、レジェンド。

京太郎「……あのー監督。つかぬことをお訊きしますけど」

レジェンド「ん? なに?」

 俺はゆっくりと箱を指して、

京太郎「いつやるか?」

                 --……--
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 やっぱりぃ。

708 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 03:47:27.18 ID:6dfmb1xao

憧「今ぁ!? ぶ、部活はどうしたのよ部活は!」ガー

 案の定、至極真っ当なツッコミが新子さんから入る。

レジェンド「もちろん部活もやるよ? ただ今日は半ドンだったし、コレをいつやるかって考えると……今でしょ」キリッ

憧「やかましい!」

 この二人の言い合いも流石に見慣れたなー。

 しかし本当に年上にも容赦ないな新子さん。

 これで最終的にはレジェンドに言いくるめられるんだから不思議だ。

レジェンド「逆に考えるんだ憧、指令をクリアすれば練習が出来ると」

憧「ふぬぬ……!」

 ほら早速。

 新子さん自身、言っても無駄というのは分かっているのだろう。

 昨日の、誰が俺に麻雀を教えるかを決める時と同じ流れだ。

 それでも食い下がらずにはいられない辺り、つくづく負けん気の強い女の子である。

709 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 04:19:15.27 ID:6dfmb1xao

レジェンド「という訳で、早く練習したけりゃ引いて引いて」スッ

憧「うっ……」タジッ

レジェンド「それとも須賀くんに引いてもらう?」ニヤリ

憧「じ、自分で引くわよ! 人が引いたお題をやらされるなんて冗談じゃないわ!」

 そう言って勢い良く箱に手を突っ込む新子さん。

 あ、今の衝撃で全体が少し歪んだ。

 明らかに手作りなんだからもう少し優しく扱わないと……レジェンドもショック受けてるし。

 そんなことはお構いなしに新子さんは箱の中をまさぐる。

 がさがさ。がさがさ。

憧「……これっ!」ズボッ

レジェンド「オッケー。じゃあこっちに渡して」

 引き抜かれた紙は回収され、レジェンドの手によって開かれる。

レジェンド「おっ、これかぁ……」

 紙と、新子さんと、最後に俺を見て、にんまりと笑うレジェンド。

レジェンド「それでは発表します! 今回のテーマは――!」

 新子さんの男嫌いを治す為の試練。そのテーマは――

 俺の“憧係”としての二度目の仕事。そのテーマは――

710 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/15(月) 04:22:23.14 ID:6dfmb1xao



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        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、   「――『男のニオイに慣れよう!』に決定~!」ドンドンパフパフー
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憧「」チーン

 あ、死んだ。

736 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 01:06:30.73 ID:VTa7D3tBo

 ていうか、

京太郎「監督……なんすかそのふざけたお題」

 絶句している新子さんに代わって尋ねる。

レジェンド「えー? 至って大真面目だけど?」

京太郎「出来れば悪ふざけだと言って欲しかった……」

レジェンド「いやマジで。説明するからちゃんと聞きなって、ほら憧も」

憧「うぅぅ……」フラフラ

 既に消耗しきってるじゃねーか。

 そんな新子さんと俺を並んで立たせ、レジェンドが改めて口を開く。

レジェンド「まず、憧の男嫌いについて私なりに考えたんだ」

レジェンド「こんなに過剰に拒絶するのには何か理由がある、ってね」

レジェンド「じゃあその理由は何か? 次はそれを考えた」

737 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 01:28:11.32 ID:VTa7D3tBo

レジェンド「とはいえ推測には限度がある。私も憧達とずっと一緒だった訳じゃないしね」

京太郎「え、そうなん?」

 ちょっと意外だ。

憧「そうよ。ハルエとは去年の冬に三年ぶりに会ったの」

京太郎「へー」

レジェンド「おーい、続けていい?」

京太郎「あ、すいません。どうぞ」

レジェンド「オホン。……で、理由を考えても分からないなら原因を探ろうと決めたのよ」

憧「理由じゃなく、原因?」

レジェンド「そ。つまり、男のどんな部分に嫌悪を感じるのかってこと」

レジェンド「見た目? 声? 匂い? あるいは別の何か?」

レジェンド「この指令はそれを調べる為に必要なんだ」

京太郎「ふんふむ」

 びっくりするほどもっともらしい。



レジェンド「という訳で憧には須賀くんに真正面からぎゅーっと抱き付いてその匂いを肺一杯に吸い込んでもらうから」

憧「ふきゅっ!?」



 安定の前言撤回。

745 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 01:59:27.58 ID:VTa7D3tBo

京太郎「監督監督、いくらなんでもハードル高過ぎやしませんかね」

 俺は嬉しいけど。

レジェンド「えー、そう?」

京太郎「そうですよ。新子さんを見て下さい」

憧「あわわあわわ」アワワアワワ

京太郎「めっちゃあわわあわわしちゃってるじゃないですか」

レジェンド「本当だ、すごくあわわあわわしてる」

 ただ眺めてる分には可愛いんだけどな。あわわあわわしてるあわわしさん。

 失礼、噛みました。

レジェンド「憧ー? どう、出来そう?」

憧「む、むり!」

 だろうな。

751 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 02:48:13.29 ID:VTa7D3tBo

京太郎「どうすんですか監督?」

レジェンド「そうだなー、流石にいきなり過ぎたかなー」

 頭をぽりぽり掻きながら、レジェンドの視線は俺の後ろへ。

 そこには穏乃達が立っている。

レジェンド「……そうだ!」

 何か閃きましたとばかりに表情を明るくしたレジェンドが、また新子さんへ向き直った。

レジェンド「ねえ憧、いきなりじゃなきゃ平気?」

憧「へ?」

レジェンド「先にお手本があれば自分もやれる?」

憧「え、っと……どうだろ。分かんないけど、ほんの少しくらいマシなんじゃない……?」

レジェンド「それを聞いて安心した」ニッ

 またよからぬことを企んでる時の顔だアレェ……

757 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 03:30:45.05 ID:VTa7D3tBo

レジェンド「おーいしずー! こっちおいでー」カムカム

憧「え? しず?」 京太郎「なんで穏乃?」

穏乃「はーいっ!」トテテッ

 同時に声を上げた俺と新子さんの間を通り抜け、穏乃が前に出る。

穏乃「どーしたんですか?」

レジェンド「うん。しず、ちょっとそっち向いてみ? 須賀くんの方」

穏乃「? はい」クルッ

 言われるがまま振り向く穏乃と目が合った。

 なんだろう、何がしたいのかさっぱり分からん。

 それは穏乃も同じらしく、首を右に左に傾げている。

穏乃「せんせー、これからどうするんですか?」

レジェンド「抱き付く」

京太郎「へ?」

レジェンド「しずが須賀くんに、ぎゅーっと抱き付く」

憧「は?」

穏乃「あ、はい。分かりました!」

「「ええええええええええっ!!?」」

760 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 04:22:14.04 ID:VTa7D3tBo

穏乃「わっ、なに二人とも急に大声出して」

京太郎「いやそりゃ大声も出すだろ!」

憧「ハルエの無茶振りも大概だけどしずもしずよ! なに簡単に頷いてんの!?」

穏乃「えー? ただ抱き付くだけでしょ? 別にいいじゃん」

憧「よ、よくないわよ! 年頃の男女が抱き合うなんてそんなの絶対にダメったらダ――」

レジェンド「憧ーちょっと静かにしてようなー」ガシッ

憧「――メも゛!? むぐー!」

いつの間にかレジェンドが新子さんを後ろから羽交い絞めにしていた。

口に手まで押し当てて完全に身動きを封じている。

レジェンド「さ、今の内にやっちゃえしずー」

穏乃「はーい」

憧「む゛ー! む゛ー!」ジタバタ

761 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/16(火) 05:00:53.24 ID:VTa7D3tBo

穏乃「京太郎は準備いい?」

京太郎「お、おお……まあお前がいいならいいけどさ」

 まだ若干ながら困惑気味の俺に、とてとてと歩み寄る穏乃。

 そして至近距離から俺を見上げる。

穏乃「あー、ちょっと腕上げて?」

京太郎「こうか?」ヒョイ

穏乃「うんいい感じ! そんじゃ行くよー」

 そう言うと、両腕を上げてがら空きになった俺の胴体に――



穏乃「えいっ!」ギュッ



京太郎「――!」

灼「わ」

玄「わっ」

宥「わぁ~」

レジェンド「わはぁー」

憧「ン゛ーーーーーーーーーー!!」

793 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/17(水) 00:37:00.91 ID:ylq8IfQZo

 様々な声が飛び交う中で穏乃が抱き付く。

 背が低いので、その頭は俺の胸の辺りまでしか届いていない。

 まんま大人と子供みたいな構図だ。

穏乃「先生ー、こんな感じでいいですか?」

レジェンド「んー……もうちょい強く抱き付ける? 顔を須賀くんの胸板に埋めるように」

 いや好き勝手言い過ぎだろ。

穏乃「わかりましたー」

 お前も素直に聞き入れ過ぎだろ。

穏乃「むぎゅ~」

 とか口で言いながら、更に俺と密着する穏乃。

 真正面から抱き付かれる経験なんて咲相手でも滅多にない。

 流石に少し緊張する。

 こんなチビでも女の子だし、女の子だから柔らかいし。

798 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/17(水) 01:02:29.41 ID:ylq8IfQZo

 これで仮におもちでもあったらヤバかったが、その点は心配無用だ。

 身長同様に小学生並である。

 掠りもしない。

 琴線にも、物理的にも。

 途端に余裕が出てきた。

京太郎「あのー監督、俺はこの間どうしてたらいいんでしょう」

 何気に上がりっぱなしの腕が疲れる。

レジェンド「抱き締め返しちゃえば?」

憧「モ゛オオオオオオオオオ!!!」

京太郎「遠慮しときます」

 雄叫びを上げてる人がそろそろ怖いし。

 次は新子さんの順番ということになっているが、ベアハッグで殺されたりしないだろうな。

803 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/17(水) 02:28:32.96 ID:ylq8IfQZo

 仕方なく両腕はだらんと横へ垂らす。腰に回された穏乃の腕の上に来る形だ。

穏乃「ほうほう……これはこれは……」モゴモゴ

 などと、俺の胸板に顔を埋めたまま呟く穏乃。

 そこまでレジェンドの指示に忠実じゃなくてもいいだろうに。

 息が篭って熱くすぐったいし。

レジェンド「どうよしず、くっついてみての感想は?」

穏乃「そーですね……なんていうか、不思議な匂いがします」クンカクンカ

京太郎「え゛、もしかして汗臭かったか?」

 半日授業だったし、激しい運動をした覚えもなかったが。

穏乃「んーん、そういうんじゃなくて。なんかね、お父さんみたいな感じ」

京太郎「お、お父さん?」

 もしかして:加齢臭!?

805 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/17(水) 03:19:16.93 ID:ylq8IfQZo

穏乃「うん。ハッキリは分かんないけど、なんとなくお父さんっぽい」

京太郎「それって褒められてるのか?」

穏乃「悪く言ってるつもりはないよ?」

京太郎「ならいいけど」

 お父さんみたいな、か。

 レジェンドの言う、男特有の匂い、というやつだろうか。

 穏乃にとっては不快なものではないらしいが……

 にしても、

京太郎「なあ穏乃、そろそろ離れていいんじゃないか?」

 お手本には充分な時間が経ったはずだ。

 そう思って声を掛けたが、

京太郎「……穏乃?」

 反応がない。何故だ。肩を掴んで身体を離す。

 と、



穏乃「………………むにゃ……?」zzZ



憧「アンタはなに男に抱き付いたまま安眠しようとしてんのよ起きろーーーーーっ!!!」

穏乃「フゴっ!?」ビクッ

 とうとうレジェンドの戒めから逃れた新子さんの怒声が、寝落ち寸前の穏乃の意識を現実に引き戻した。

846 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 00:33:29.35 ID:w5rXdEDto

穏乃「なっなに!? もう朝!?」キョロキョロ

憧「とっくの昔に朝よ! てか部活中!」

穏乃「ぶかつちう!? なんで部活中に寝てんの私!?」

憧「覚えてないの……!? 前見てみなさいよ、前!」

穏乃「まえ……?」クルッ

 前――俺の方を向く穏乃。

 至近距離で目が合う。

京太郎「よう」

穏乃「………………京太郎だ!?」

京太郎「リアクション遅いな!?」

穏乃「ど、どうして京太郎が……あ、そう言えば」

憧「思い出した?」

穏乃「うん、京太郎に抱き付いてたら段々ふわーっと気持ち良くなって、つい眠っちゃったんだった」テヘッ

 なんだそりゃ。

850 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 01:04:52.17 ID:w5rXdEDto

憧「ったくもーアンタは……ていうか、いつまでくっついてんのよ! そろそろ離れなさいっ!」グイッ

京太郎「ぅおっと」

穏乃「あぁー、もうちょっと~」

憧「だーめ! しずは危機感足りてなさすぎ!」

穏乃「ききかん……? どゆこと?」

憧「うぇ!? どういうって、それは……その」モゴモゴ

穏乃「?」

 新子さんのお説教も穏乃には暖簾に腕押しといったところか。

 まあ、穏乃にまで危機感を持たれて思春期の娘みたいに振る舞われたら、割とガチで不登校になる自信があるよ俺。

レジェンド「はいはい、そろそろ本題に戻ろうかー」パンパン

憧「う゛」ギクリ

 賑々しい雰囲気をレジェンドが遮った。

 それに最も大きく反応したのは、当然というべきか、新子さんだった。

855 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 01:35:00.74 ID:w5rXdEDto

レジェンド「しずがバッチリお手本を見せてくれたことだし、これで憧も出来るよね?」

憧「そ、それは……えっと……」キョドキョド

 目が泳いでる。

レジェンド「そーれーとーもぉー。まさかしずにあそこまでやらせておいて自分は逃げちゃうのかなぁー?」

憧「し、しずにやらせたのはハルエでしょ!? あたしは頼んでないし……!」

レジェンド「え? なに? 聞こえない」

憧「~~~っなんでもない! いいわよやるから! それで文句ないわね!?」

レジェンド「最初っから素直にやればいいのに」ニヤニヤ

憧「ハルエはもう黙ってて!」

レジェンド「はーい」

 この人こそ“憧係”に相応しいんじゃないだろうか。そんな気がする。

 かくして、まんまとレジェンドの口車に乗せられた新子さんが俺と対面した。

856 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 01:47:24.61 ID:w5rXdEDto

 ザッ。

 屋内なのに、荒野で土を蹴ったような音が聞こえた。気がした。

憧「……」

京太郎「……」

 対面。沈黙。緊張。

憧「………………」

京太郎「………………」

 静寂が重い。ていうか痛い。

京太郎「あのー……」

憧「しゅ、しゅがきゅん!」

 噛んだ。

京太郎「……あのー?」

憧「……………………………………………………///」

 照れた。

 こういう展開になると途端にポンコツだなこの子。

857 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 01:57:03.83 ID:w5rXdEDto

憧「す、須賀くん!」キッ

京太郎「は、はいっ」

 睨まれた。

 先の失態をまるごとなかったことにしたいらしい。

憧「い、今から……その………………やるから!」ゴッ

京太郎「ひぃぃ」

 殺られそう。

憧「……っ」

 じり、と。

 一歩未満、距離を詰める新子さん。

憧「………………」

 それ以上は無理っぽかった。

京太郎「……監と」

憧「待って!!!」

 めっちゃ必死に止められた。

859 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 02:20:26.15 ID:w5rXdEDto

憧「ちゃんとやるから! ちゃんと……ちゃんと、上手くやるから……」ブツブツ

京太郎「ひぃぃ」

 普通に怖い。

 足は前後に行ったり来たり。

 手も伸びては引っ込んで。

 恐る恐るという言葉を全身で全力で体現してる新子さん。

 当然外野はじれったい。

穏乃「ねー憧ーまだー?」

憧「う、うっさい! 今いいとこなんだから話かけないで!」

 いい……とこ……?

穏乃「ていうかこないだ抱き付いてたじゃん」

憧「あれは事・故! それにあの時は須賀くんの方があたしを……あ、あたしを、抱き、し、め……っ///」カァァッ

 新子さんの顔が下から上へと赤く染まる。

 恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。

865 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 03:00:16.58 ID:w5rXdEDto

京太郎「なあ、本当に大丈夫か? 前も言ったけど無理だけはしないでくれよな」

憧「だ、大丈夫よ……! 一度やるって決めたんだから、後ろ向きでなんていられな――」

 ピタリ。

 言葉の途中で新子さんが止まった。

 ピタリと、ものの見事に。

憧「――そうか、後ろ向き……」ボソッ

 そして動き出す。

憧「須賀くん!」

京太郎「どうした?」

憧「後ろ向いて!」

京太郎「どうしてそうなった!?」

 いきなり過ぎて戸惑うしかない。

866 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 03:22:59.57 ID:w5rXdEDto

憧「いいから早く!」

京太郎「わ、分かった」クルッ

 謎の気迫に押されて新子さんに背中を向ける。

憧「っ……」

 そこに感じる無言のプレッシャー。

 じり、じり。

 さっきよりも近くなる気配。

 そして、



 きゅっ、と。



 制服の上着の――裾を掴まれた。

京太郎「……え?」

867 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 03:49:19.77 ID:w5rXdEDto

憧「こ、これで充分近いでしょ……?」

 背中越しに新子さんの声が聞こえる。

 弱々しい、か細い声が。

京太郎「あー……まあ、俺はいいんだけど、」

 言葉を区切ってレジェンドを見る。

レジェンド「んー……まあ今はそこまでが限界かな。いいよ、認める!」

憧「――」ホッ

レジェンド「んじゃ嗅いで☆」

憧「」ピシッ

 あ、固まったな。

869 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 04:42:26.05 ID:w5rXdEDto

レジェンド「あくまで目的は男子の匂いを確かめることだからねー。さ、はよ」

 鬼かアンタ。

灼「嗅ーげ。嗅ーげ」パンパン

 鬼かアンタ!

憧「う、ぅう……」スッ

 今にも泣きそうな声が近付く。

 ……ん?

 えーと、それって、つまり、これから、



憧「……すんっ」



京太郎「ぅ、お……っ」

 嗅がれた。

 今、確かに嗅がれた。

 間違いなく新子さんに嗅がれたなう。

874 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 05:20:17.28 ID:w5rXdEDto

憧「すん、すん」

京太郎「おふぅ……」

 うわうわうわ。

 すぐ後ろで美少女が俺の匂いを嗅いでいる。

 なにこの未体験ゾーン。

憧「ちょ、変な声出さないでよ!」

京太郎「んなこと言われてもな……」

 どうしようもなく、こう、ゾクゾクする。

 物理的にな!

 嗅げよオラァという嗜虐的な意味でも、

 嗅いじゃらめぇという被虐的な意味でもないので、くれぐれも誤解なきよう。

 ……誰に言ってんだ俺。

875 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 05:45:48.56 ID:w5rXdEDto

京太郎「ていうか監督、これ俺も普通に恥ずかしいです!」

 穏乃とは違うのだよ、穏乃とは。

レジェンド「それぐらい我慢しな男の子ー」

玄「須賀くんがんば!」

宥「顔が赤くてあったかそう……」

憧「っていうか絶対あたしの方が恥ずかしいでしょ!? 文句言わないでよ!」

 孤立無援!

 仕方がないのでされるがままになってみる。

京太郎「早く済ませてくれなー」

憧「わ、わかってるわよ……すん、すんすん」

京太郎「あひぃ……」ビクンビクン

憧「だから声!///」

 ていうか、これどうやったら終わんの?

 そこんとこレジェンドは……決めてないんだろうなぁ。

877 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 06:47:14.23 ID:w5rXdEDto

憧「すんすん……すん、すんっ……」

 嗅ぐ動作に合わせて、制服を摘む手にも力が入るのが分かる。

憧「ん……ふぅ……っ」

 吸うと同時に強くなり、吐くと同時に弱くなる。

 それを繰り返す新子さんは今、どんな顔をしているのだろう。

 後ろを振り返りたいような、振り返りたくないような。

 好奇心がビシバシ刺激されるが、やはり命は惜しい。

 マグロ継続。

穏乃「どう憧、どんな感じ?」

憧「ど、どんな……って言われても、そんなの分かんないわよ」

穏乃「えー? 良い匂いか悪い匂いか、ちゃんと考えなきゃダメじゃない?」

憧「そうだけど……」

 むしろ今までよく漫然と嗅いでいられたな。

878 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 07:05:56.05 ID:w5rXdEDto

憧「じゃ、じゃあ、よく考えてみる」スッ

 そう言って、更に近付く気配。

京太郎「――」

 すん。

憧「ん……別に、臭くはない、かな」

 すん。すん。

憧「でも、ちょっとだけ汗っぽい……」

 すんすん。すん。――きゅっ。

京太郎「!?」

 すんすん。すんすん。

憧「ぁ……なんか、しずの言ってたお父さんみたいな感じっての、分かる……かも?」

 すん。すん。すん。――ぐいっ。すんすん。

京太郎「!!?」

886 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 07:44:50.38 ID:w5rXdEDto

 最初の「きゅっ」で空いていた方の手も制服を掴んで。

 次の「ぐいっ」で両手に力が込められ、身体が引っ張られる。

 俺達はほぼ密着する形となった。

 正確には、新子さんが、俺に、密着する形だ。

 これは……まずい。

 ここまで近付かれると、新子さんの匂いも俺に伝わってくる。

 花のような、果実のような、ほのかに甘い香り。

 すごくいい匂いで、だから、まずい。

 そのことに新子さんは気付いていない。

憧「すん……もっと……すんすん……も少し嗅いでみれば……すんすん……ハッキリ……すん」

京太郎「あ、新子さん! 近い、近い!」

 結局、堪らず声を上げるのは俺の方になった。

憧「、え?」

 ピタッと止まるクンカ行為。

 そして沈黙。

 そしてそして、



憧「…………………………ふきゅっ!?///」ボフンッ



 当然こうなる。

888 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 08:37:57.89 ID:w5rXdEDto

 シュバッ!

 と鋭い音を立てて、俺から一気に距離を取る新子さん。

                -‐…‐-
            /: ∪: : : : : : : : : : :`丶、
           /.: : :/: : : :|: : : : : : \: : :ヽ-
           ,:': //: / :|:|: : : |'、: : : :\: :∨ Y\\
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         八|l: : l 〃ヽ \l 〃ヽ ヽ|: :|: :′|:|   ',: :    「な、ななな、なぁっ///」
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         |:|/{: : : :/ゝイ ∨\      \\: :∨:/
          |/: : : /  イ {,∠‘,         \',:|:|
       //: : /  {⌒YY´   人        \|:|
.     /  ′:/   /l_/Т\_i: : :\         ̄ヽ
     /    |: : |{/   \/|/|_ | : : : ∧          |
.    /   八: :|′    o    八: : : { \        |
  _/_彡   ヽ{           \: :\ |:\       /
 /       人                ̄ |: : :l>―┬
./       /  }     o         |: : :l : : : : |

 先週も見たようなポーズで狼狽している。

穏乃「あ、憧……?」

玄「これはなかなかのなかなか……」

宥「あこちゃー……」

灼「はしたな……」

レジェンド「」ニヤニヤニヤニヤニヤニヤ

憧「ぅあ、その、あの――」

 一様に何か言いたげな部員と顧問に囲まれて。

 新子さんは、



憧「――れ、練習再会よっ!!」バァーン



 今の失態をも全力でなかったことにしようとした。

889 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 09:06:05.57 ID:w5rXdEDto

京太郎「ぅぇぇぇいやいや流石に無理がないか!?」

憧「む、無理? なにが? よくわかんない(震え声)」

京太郎「うわあ厳しイィー!」

 逆に感心してしまうレベルである。

 真っ赤な顔に涙目で言い張られては強く追求することも出来ないし。

 それは穏乃達も同じで、「じゃあ……うん、練習しよっか……」みたいな雰囲気になりつつあった。

 恐るべし新子さん。

京太郎「えーっと……そーゆーことでいいっすかね、監督」

 俺は一応お伺いを立ててみる。

レジェンド「そうだね。そろそろ時間も時間だし、今日の指令はクリアってことで」

憧「」グッ

 無言でガッツポーズしとる。

レジェンド「匂いが原因じゃないってのはハッキリしたしね?」ニヤリ

憧「ふきゅっ……も、もういいでしょハルエ! ほら練習するわよ練習!」

レジェンド「はいはい。それじゃあ気合い入れ直して行くよー!」

「「「「「おーっ!」」」」」

890 名前:4月20日(土)[saga] 投稿日:2013/07/19(金) 10:00:53.80 ID:w5rXdEDto

 そうして――

 ひとたび練習が再会されれば、彼女達が麻雀に取り組む姿勢は真剣そのものだ。

 ただただ打ち、ただただ学ぶ。

 『全国優勝』。

 穏乃が語った夢に向かって、阿知賀学院麻雀部は邁進する。

 しかし、

 部員数ギリギリの阿知賀で、どうしてここまで必死に全国を目指すのか。

 何が彼女達をインターハイへ駆り立てるのか。

 それを俺は知らない。



 俺はまだ、何も知らない。



【TO BE CONTINUED...】



【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
 称号:グッドスメル須賀(new!)
 憧への印象:...→手がすべすべだった(小学生並の感想)
  →いい匂いがした(new!)

【新子憧のステータスが更新されました!】
 称号:匂いフェチ容疑者(new!)
 京太郎への印象:...→手が大きかった(小学生並の感想)
  →不思議な匂い……(new!)

【高鴨穏乃のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:...→憧をよろしくね!
  →なんか落ち着く匂い(new!)
最終更新:2013年10月16日 00:44