仲直りの握手

27 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 00:52:51.95 ID:oNHaeokEo

 第二土曜日。

 授業がないこの日は、学校の内外で様々な部活が猛練習に明け暮れる。

 俺達、阿知賀学院麻雀部も例外ではない。

 打って、打って、打ちまくって。

 水分、糖分、リラックス。

 打って、打って、また打って。

 水分、糖分、リラックス。

 朝から延々その繰り返しだ。

 過剰な練習には価値がなく、無為な休息には意味がない。

 大事なのは飴と鞭の使い分け。

 我らが名将が漫画から得た知識は、意外と言えば意外なほど効果的に機能しているようだった。





レジェンド「はーい、全員注もーく」パンパン

 そんな昼下がり。

 昨日の「嫌な予感」なんてすっかり忘れていた頃に、レジェンドが動く。

28 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 01:24:12.00 ID:oNHaeokEo

 新子さん、穏乃、玄先輩、宥先輩、そして俺。

 部員全員の視線がレジェンドに集ま……あれ、鷺森先輩は?

 キョロキョロと辺りを見回すが、レジェンドはお構いなしに言葉を進める。

レジェンド「灼ー、例の物を」

 え?

 扉が開く。

 現れたのは鷺森先輩だった。

 いつの間にか外に出ていたらしい。

 ていうか、なんだあれ。



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 なんか持ってる。

 なんかっていうか、箱だけど。

29 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 01:53:58.85 ID:oNHaeokEo

穏乃「……箱?」

玄「箱……だね」

憧「やけにくたびれてるけど……」

宥「手作り感があったか~い」

 言いたい放題の四人を他所に、鷺森先輩がその箱をレジェンドの下へ運ぶ。

灼「ハルちゃん、ここに置けばいい?」

レジェンド「おー。サンキュな灼」

 そして傍らの机に乗せると、そのままこちら側に合流して着席した。

 残されたのは、箱とレジェンド。

レジェンド「憧、須賀くん、起立。こっちおいで」カムカム

京太郎「オレェ?」

憧「あたし?」

レジェンド「そ。早く来な」カムカム

 突然の指名に戸惑う俺達。

 しかし休憩中とは言え監督の命令には逆らえない。

 のろのろと立ち上がり、二人で並んで前に出た。

30 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 02:41:31.50 ID:oNHaeokEo

憧「もーなんなのよハルエ、人をいきなり立たせたりして」

 膨れっ面で抗議する新子さん。

 ほぼ半日麻雀漬けでそれなりに疲れてる様子だ。

 そんな彼女をフムと見て、

レジェンド「そうだなー……じゃ、憧にやってもらおうかな」

憧「だから何がよ」

レジェンド「こ・れ」スッ

憧「これ……って」

 箱だった。

京太郎「さっきから気になってたんですけど、なんすかそれ?」

レジェンド「ふっふっふ。それは引いてみてのお楽しみってね」

憧「引く? 中におみくじでも入ってるの?」

レジェンド「んー、ちょい惜しいかな。ま、引いてみれば分かるから。さあさあ」ズイッ

32 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 03:44:43.18 ID:oNHaeokEo

憧「え~……」

 渋る新子さん。

 こうもあからさまに怪しいのだ、気持ちは分からんでもないが。

 しかし箱が放つ謎のプレッシャーとレジェンドの期待に満ちた眼差しに押し負けるように、

憧「……一枚引けばいいの?」

 そう言いながら、箱に手を入れた。

 穏乃と玄先輩と宥先輩と鷺森先輩、そして俺とレジェンドが見守る中、ガサガサという音だけが部室に響く。

 何の目的があるのかも分からない謎のクジ引き。

 新子さんはさも面倒臭そうな表情で一枚の紙片を引き抜いた。

憧「引いたよー」

レジェンド「じゃ、中に書いてあることを読み上げちゃって」

憧「はいはい……っと」パサッ

 折り畳まれていたそれを広げる。

 当たり前だが、紙面には何かが書かれていたのだろう。

 それをじっと見つめる新子さん。

 じっ、と。

33 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 03:54:15.67 ID:oNHaeokEo

京太郎「……どうかしたのか?」

 沈黙に耐え兼ねて声をかける。

 が、新子さんの視線は俺ではなくレジェンドに向けられていた。

憧「ハルエ」

レジェンド「んー?」

 すっとぼけた声を出すレジェンドに、新子さんは手にした紙切れを突き出して言った。



憧「『仲直りの握手』……なにこれ?」



 レジェンドは、

レジェンド「あっちゃー! それが出ちゃったかー! 憧クジ運いいなー! いやー参ったわー! それが出ちゃったのは想定外だわー! ぶっちゃけた話で悪いけど想定の外だったわー! っかー!」

憧「ハルエ」

レジェンド「はい」

憧「そーゆーのいいから」

レジェンド「はい、すみません」

 極めて真面目なトーンで陳謝し、くるりとこちらに振り返っ……え、なんで?

35 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 04:08:16.15 ID:oNHaeokEo

レジェンド「須賀くーん」カムカム

京太郎「あ、はい?」

 呼ばれるまま、数歩の間を詰める。

 すると新子さんから件の紙を取り上げたレジェンドが、今度はそれを俺に握らせた。

レジェンド「もっかい読んでみ」

京太郎「え? えーっと……『仲直りの握手』……ですよね?」

レジェンド「うん、それやって」





 は?

京太郎「あの、今、なんて……?」

レジェンド「だーかーらー、その紙に書いてある通りのことを、これから憧とやってもらうって言ったの」










 は?

36 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/04(木) 04:10:21.46 ID:oNHaeokEo

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              「「はああああああああああっ!!?」」



.             xァ′ /       |                ヽ {__j__
           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
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   .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ
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.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
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58 名前: ◆I1DjlWNWjk[saga] 投稿日:2013/07/05(金) 01:37:00.60 ID:Zcm9323qo

レジェンド「おっ、元気いいねー。んじゃ早速――」

「「ちょっと待ったぁ!!」」ズイッ

 ほぼ同時にレジェンドに詰め寄る。

 特に新子さんは物凄い剣幕だ。

 目上で年上なレジェンドの胸ぐらを掴み、これでもかと前後に揺さぶる。

憧「どッ、どどどどういうことなのよハルエ!? なんで急にそんな急に!!?」ユッサユッサユッサユッサ

レジェンド「ぉぅぉぅぉぅぉぅぉぅぉぅぉぅぉぅ」ガックガックガックガック

京太郎「そうですよ監督、ちゃんと説明してください!」ユッサユッサユッサユッサ

レジェンド「だだだだだだっっっってて、ふっふたたたたたりがっああぁぁぁあっ」ガックガックガックガック

憧「なに言ってんのか分かんないわよしっかり喋りなさいよハルエー!!」ユッサユッサユッサユッサ

レジェンド「じゃじゃ、じゃっあ、これっまずこっれ、とめめめええっぇええ」ガックガックガックガック

京太郎「大体どうして部活中なんですか! また悪ふざけだったら怒りますよ!」ユッサユッサユッサユッサ

レジェンド「おっぷ……う゛、むっぐ……げげごぼ……っぷぉえっ……」ガックガックガックガック

灼「ハルちゃんを離してあげて!!!!!」

62 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/05(金) 02:01:24.64 ID:Zcm9323qo

 鷺森先輩の悲痛な叫びにハッとなる。手がパッと離れる。レジェンドがドサッと倒れる。

レジェンド「ぐえぇ」

灼「ハルちゃーん!」

 すかさず駆け寄る鷺森先輩。

 うむ、やり過ぎた。

 見れば新子さんもばつが悪そうにしている。

 しかしゴホンと咳払いを一つ、また厳しい表情を作ってレジェンドを見る。

憧「そ、それでハルエ、どういうことか改めて説明して欲しいんだけど?」

 対するレジェンドは鷺森先輩の助けを借りてフラフラと起き上がる。

 そして彼女もまた、毅然とした態度で俺達二人の前に立つのだった。

レジェンド「……分かったよ、そこまで言うなら説明しようじゃあないか」

 ごくり。

63 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/05(金) 03:05:17.51 ID:Zcm9323qo

レジェンド「まず確認するけど、二人は今ちょっとギクシャクしちゃってるよね」

憧「う゛」

京太郎「まあ……はい」

 自覚はあるが、第三者から言われると悲しくなるな。

レジェンド「その原因は何か、正しく理解出来てる?」

京太郎「……」

憧「……」

 続く問い掛けには、俺も新子さんも答えられなかった。

 これもまた自覚はあるが、言葉には出し辛い。

 恐らく新子さんも同じ気持ちだろう。

 そんな俺達を見て、レジェンドは何かを確かめるように小さく頷いた。

レジェンド「私はね、あれこれ訊いて回っておおよそ把握してるつもりだよ」

64 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/05(金) 03:34:35.52 ID:Zcm9323qo

京太郎「え? 訊いて……回って?」

 ちょっと聞き捨てならない。

レジェンド「うん。昨日キミと話した後、しずと玄と宥と灼にそれぞれ訊いたし、もちろん憧にも訊いた」

 そこでレジェンドはニヤリと笑って、

レジェンド「やるねぇこのラッキースケベ」

 などとのたまいやがりましたよ。

京太郎「い、異議あり! その情報には多分に私見が含まれているものと思われます!!」

レジェンド「それはあるかもね。大半は憧から聞いたことだし」

京太郎「……」ジー

憧「な、なによ。あたしは本当のことしか言ってないんだからっ」

京太郎「本当のこと、ねぇ……」ジロー

憧「こっちジロジロ見ないで!」プイッ

68 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/05(金) 04:35:21.23 ID:Zcm9323qo

 俺から数歩の距離を取ってそっぽを向いてしまう新子さん。

 そんな俺達を見てレジェンドはまた楽しげに笑った。

レジェンド「ま、確かに聞いた限りじゃあ須賀くんの振る舞いにデリカシーが欠けてたのは間違いないかな」

京太郎「ひぎぃ」

 なんという手痛い糾弾。

 小学校の帰りの会を思い出す。

 プレッシャーに喘ぐ俺を横目に、でも、とレジェンドは繋ぐ。

レジェンド「憧もいちいちリアクションが過剰だったとは思わない?」

憧「うぐぅ」

 おお。

 なんて公平な指摘。

 こういう場合、とかく男が悪者扱いされがちなのだが……意外な展開に感動すら覚える。

レジェンド「つまり今回の件はお互いに反省すべき点、改善すべき点があったってこと」

レジェンド「須賀くんの反省すべき点は勢い任せの軽率な行動」

レジェンド「憧の改善すべき点は同年代の男子に対する過度な拒絶」

レジェンド「それが出来れば、二人の間にある溝は埋まるはずだよ」

 そう結ぶレジェンドの姿はまさしく教育者の鑑と呼ぶに相応しいものだった。

 今まで散々々々軽んじてきたが、これからは認識を改め、敬意を払うべきなのかもしれない。




















                 --……--
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       i{ | ′:.:.'{_|_:.:.:.:| リV:.:.:.:.:.:.:}:.>匕、: :\j--i
        || |/: :.:.:∧}リ≫┘o。v――'’xr示=ミト、:.:.\}、  「――そこでレジェンドは考えたッ!!!」クワッ
        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、
           |:.:.:.:.:.「`ヽ《乂_゚ツ        ゞ= '゚ :リ/リ゚。:.:.ト、i
           |:.:.:.:.小   , ,    '    , ,  : /:.:.:.∧:.} リ
           l.:.:.:.:.:| }ゝ-!            jハ:.:.:.:j/}:.|
          :。.:.:.:{ {:j:八    -==ァ     イ }/ j:ノ
            ゚:。.リ  \{≧ュ。.    ィ:jソ  ″ /
           ゞ    イニ}  ` ´  {ニヽ
              ィニ//      ゝ|ニ\_
        ┬==≦ニ/ニ7____    __,.|ニニムニニニニニlヽ
       /ニ|ニニニ/ニニニ|`-―――‐一´|ニニニムニニニニ|ニム
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「「!?」」ビクッ

 前言、保留。

69 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/05(金) 05:15:24.40 ID:Zcm9323qo

レジェンド「須賀くんの反省点は親交の浅さが原因である!」

レジェンド「憧の改善点は男への免疫のなさが原因である!」

レジェンド「この二人の欠点には共通項がある!」

レジェンド「それは、どちらも特定個人との関わり合いによって解消されるということ!」

レジェンド「即ち! 須賀くんの反省点と憧の改善点は同時に解消することが可能ということ!!」

レジェンド「二人が抱えるウィークポイントを同時に、且つ効率的に克服する為に――須賀くん!!!」ビシィッ

京太郎「は、はい!?」



                 --……--
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       i{ | ′:.:.'{_|_:.:.:.:| リV:.:.:.:.:.:.:}:.>匕、: :\j--i
        || |/: :.:.:∧}リ≫┘o。v――'’xr示=ミト、:.:.\}、  「キミを阿知賀学院麻雀部“憧係”に任命します!」
        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、
           |:.:.:.:.:.「`ヽ《乂_゚ツ        ゞ= '゚ :リ/リ゚。:.:.ト、i
           |:.:.:.:.小   , ,    '    , ,  : /:.:.:.∧:.} リ
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京太郎「はいぃ!?」

 前言、撤回。

 それはもう、大撤回だ!

128 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/06(土) 00:07:15.67 ID:lI25BDsyo

レジェンド「説明しよう!」

レジェンド「“憧係”とは――憧の男性恐怖症を治す為に様々な場面で活躍する、阿知賀学院麻雀部の花形であるッ!!」

レジェンド「説明終わり!」

京太郎「短っ!」

 しかもなんだその説明内容は。

 とどのつまりはボランティアじゃないか。

 花型だなんて言葉に踊らされるとでも思っているのか。

 ……いや、まあ、美少女のパートナーになれると考えると、実は魅力的な話なのかもしれないが。

 だが、だ。

 肝心の『美少女』が……

京太郎「」チラッ



           /´〉,、     | ̄|rヘ
     l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/   ∧      /~7 /)
憧「」   二コ ,|     r三'_」    r--、 (/   /二~|/_/∠/
     /__」           _,,,ニコ〈  〈〉 / ̄ 」    /^ヽ、 /〉
     '´               (__,,,-ー''    ~~ ̄  ャー-、フ /´く//>
                                   `ー-、__,|     ''


 アカン。

138 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/06(土) 00:39:47.49 ID:lI25BDsyo

憧「ハ~ル~エ~……!」ズモモモモモモ...

レジェンド「お? どーした憧、なんか顔が怖いよ?」

憧「どーしたもこーしたもないわよっ!! なに勝手なこと言ってくれちゃってんのよバカぁ!!」ガーッ

 幽鬼のような冷たい佇まいから、一転。

 烈火の如く怒り狂ってレジェンドに噛み付く新子さん。

レジェンド「えー、もしかして迷惑だった?」シレッ

憧「大・迷・惑! なによ“憧係”って、そんなの誰が頼んだのよ!?」

レジェンド「そりゃ頼まれてはいないけど。じゃあ憧は男嫌い治したくないの?」

憧「う゛っ……!? そ、それとこれとは話が別!」

レジェンド「別じゃないってー。憧も高校生になったんだしさ、そろそろ彼氏の一人ぐらい欲しくない?」

憧「かかっ、かかか彼氏!? な、なにそれっ、意味わかんない!!」カァァッ

レジェンド「カマトトぶっちゃってコイツ~。年頃の女子なら恥ずかしがることないって」ケラケラ

憧「だから違うってばー!」

163 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/06(土) 14:25:11.67 ID:lI25BDsyo

 おお、部内でも1,2を争うレベルで弁が立つであろう新子さんが完全にペースを握られている。

 そんな光景を安全圏から見ていられるというのは、俺としては珍しい体験だった。

 最近はほら、ほぼ常に渦中の人だから。

憧「大体なんで須賀くんなのよ!」ビシィッ

京太郎「ヴぇっ!?」ビクゥッ

 こんな風に。

レジェンド「おっと、そこ突っかかっちゃうんだ。適任だと思うんだけどなー」

憧「どこが!? ありえないありえない絶対ありえないっ。ちゃんと理由を話してよね!!」

京太郎「泣いていい?」

レジェンド「それ」

憧「、へ?」



レジェンド「だから、それ。憧が男子相手にそんな強気なの、私はじめて見たよ?」ニヤリ

164 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/06(土) 14:26:00.94 ID:lI25BDsyo

憧「ふなっ!?」

京太郎「鮒?」

 ちらりと窺う新子さんの顔が、下から上へと見る見るうちに紅潮していく。

憧「こ、これは違っ……! だって、遠慮してたらすぐヘンなことしてくるから、仕方なく……」ゴニョゴニョ

 耳が痛い。

 悪印象を塗り替えることの大変さを痛感する。

レジェンド「仕方なくでもなんでも、そういう振る舞いが出来る相手って貴重でしょ? だから、私は須賀くんが適任だと思う」

憧「う……でも……」

レジェンド「嫌なら、見ず知らずの男子に頼んでみよっか? “憧係”」

憧「それは絶対無理!……無理、だけどぉ……」

 口ごもる新子さん。

 悩んでいるのだろう。

 困っているのだろう。

 そんな彼女に、



穏乃「――やってみなよ、憧!」



 声が。

165 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/06(土) 14:27:11.58 ID:lI25BDsyo

憧「し、しず?」

穏乃「これってチャンスじゃん! 折角なんだから頑張ろうよ!」

 陰りのない元気一杯な声。

 それが皮切りだった。

玄「憧ちゃんファイト! 私達も応援するよっ!」

宥「一生懸命な憧ちゃん、あったかくて好きだなぁ」

灼「まあ、やってみて損はないんじゃない」

ウォーズマン「コーホー」

憧「玄……宥姉……みんな……」

 こ、これが友情パワーか。

 不安がる新子さんを仲間達が優しく励ましている。

 美しい光景だ。感動的だな。



レジェンド「さ、須賀くんからも一言!」



 だがレジェンドだ。

169 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/06(土) 16:18:31.97 ID:lI25BDsyo

京太郎「この流れで俺っすか……」

レジェンド「おかしい? なんだかんだ言っても最終的には須賀くん次第なんだから、妥当だと思うけど」

京太郎「俺の意思を尊重するつもりがあったことに今とても驚いてます」

レジェンド「失敬な。で、どう? 何か言うことは?」

京太郎「ちょ、ちょっと待って下さい。急に訊かれても……」

 半ば外野気分だったので、意見なんてまとまってない。

 慌てて考える。

 新子さんについて。

 “憧係”について。

 何より俺自身について。

 考えて――

京太郎「」スッ

レジェンド「お」

憧「え」

 俺はレジェンドの横をすり抜け、新子さんの前に立った。

188 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/07(日) 00:44:14.97 ID:+4WZTQTyo

 この場にいる誰もの視線が俺に集中していた。

 真正面からの視線を特に強く感じながら、口を開く。

京太郎「新子さん」

憧「な、なに」タジッ

 言葉にするのは、考えに考えた末の率直な気持ち。



京太郎「俺は新子さんと仲良くなりたい」



憧「――!」

 目を見開き、息を呑む新子さん。

 その後ろでレジェンドがニッと笑う。

レジェンド「ほほぅ……今のが須賀くんの答え?」

京太郎「いいえ、違います」

レジェンド「ひょ?」

 そう、違う。

 まだ続きがある。

191 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/07(日) 01:27:03.76 ID:+4WZTQTyo

京太郎「この状況で俺まで監督側についたら、新子さんに逃げ場がなくなっちゃうじゃないですか」

 それはフェアじゃない、好ましくないやり方だ。

京太郎「無理強いして男嫌いが悪化したら元も子もないでしょう?」

レジェンド「む、それは……そうだね。キミの言う通りだよ」

 頷くレジェンドから視線を移す。

 再び、新子さんに。

京太郎「だから、俺は新子さんが決めたようにする。それが俺の答えだ」

憧「すが、くん……」

 新子さんは――

 悩んでいた。

 困っていた。

 迷っていた。

 それでも、彼女は答えなければいけない。

 他の誰でもない、彼女自身の為に。

 答えを出さなければいけない。

195 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/07(日) 02:06:52.64 ID:+4WZTQTyo

憧「……じゃあ」

 やがて、新子さんがおずおずと口を開く。

 俺はそれをじっと見ていた。

 戸惑うように震える唇から、言葉がこぼれる。



憧「じゃあ……、………………やらない。あたしは、今のままで、いい」



京太郎「……そっか」

 それが新子さんの出した答えなら、俺はただ頷くだけでいい。

 少しだけ残念な気持ちもあるが、仕方ない。

京太郎「監督。そういうことになりました」

レジェンド「うーん……分かった、二人が納得してるんなら、私もこれ以上は言わない」

京太郎「ありがとうございます」

憧「ありがとハルエ……みんなもごめん」ペコッ

197 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/07(日) 02:55:40.36 ID:+4WZTQTyo

 その謝罪を、玄先輩をはじめとした上級生達は笑って受け入れた。

穏乃「ちぇー、残念だなー。チャンスだと思うんだけどなー」ブー

 一人だけ不満を漏らす穏乃をなだめるのは……俺の仕事だろう。

京太郎「まあまあ。きっとまた機会はあるって」

穏乃「そうかもだけどさぁ、なんかもったいないよ」ブーブー

憧「もったいないって何よ……」

 ぬぅ、意外としつこい。

 それっぽいこと言って納得したつもりになってもらうか。

京太郎「あのな穏乃。俺達はまだ高校生になったばかりだ、焦りは禁物だぜ?」

穏乃「そーゆーもんなの?」

京太郎「そーゆーもんだ。大体、別にいいじゃねーか――」





京太郎「男と た か が 握手 す ら 出来なくったって」





憧「」ピクッ

198 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/07(日) 03:16:53.42 ID:+4WZTQTyo

玄「あっ」

宥「あっ」

灼「あっ」

レジェンド「あっ」

穏乃「んっ?」

京太郎「えっ?」

憧「……」

玄「あ、あのー……須賀くん……」オドオド

京太郎「どうかしました?」

憧「………………」ズモモモモモモ...

玄「う、ううん! なんでもないですのだ!」アセアセッ

京太郎「? そっすか。んじゃ話を戻すけどな穏乃――」



宥「くろちゃー……」

灼「玄ェ……」

玄「だ、だってぇ!」

202 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/07(日) 03:59:12.62 ID:+4WZTQTyo

 ――その後も、俺はひたすらに語り続けた。

 粘り強く食い下がる穏乃をなんとか説得しようと、懸命に。

 男が苦手だからって死ぬ訳じゃない、とか。

 人という字は人と人とが支えあって云々、とか。

 そういえばiPS細胞とやらで同性の間にも子供が出来るらしい、とか。

 兎にも角にも新子さんのフォローに努めた。

 その結果、

穏乃「ん~……京太郎がそこまで言うなら心配しなくていいのかなぁ」

京太郎「分かってくれて嬉しいぜ」

 大成功!

 どうだ思い知ったか俺の底力。

 そんな気持ちで新子さんを見た。










           /´〉,、     | ̄|rヘ
     l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/   ∧      /~7 /)
憧「」   二コ ,|     r三'_」    r--、 (/   /二~|/_/∠/
     /__」           _,,,ニコ〈  〈〉 / ̄ 」    /^ヽ、 /〉
     '´               (__,,,-ー''    ~~ ̄  ャー-、フ /´く//>
                                   `ー-、__,|     ''



 何故だ。

229 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 00:21:42.56 ID:rOyHwmpOo

 いやマジで何故だ!?

 今の流れでどうしてゴゴゴってるんだ!?

 機嫌を損ねるような発言をした覚えなんてないというのに。

京太郎「あ、新子さん……? どうしたんだ?」

憧「………………わよ……」ボソッ

京太郎「へ? 今なんて――」



憧「やるわよ! やればいいんでしょ!? やってやろうじゃないの!!」



京太郎「ぇえええどうしてそうなった!!?」

憧「ここまでコケにされて黙って引き下がれないわよ!」ムキー

穏乃「おおっ、憧がやる気になったー!」ワーイ

玄「やったね憧ちゃん!」ワーイ

宥「あったか~い」ワーイ

灼「前フリ長……」イヤッホォーゥハルチャンサイコウ

レジェンド「やるじゃない須賀くん、憧の負けず嫌いな性格を見抜いて利用するなんて!」グッ

京太郎「超買い被られてるんですけどォォォ!?」

233 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 00:53:05.62 ID:rOyHwmpOo

 必死の弁解も虚しく、すっかり俺と新子さんによるマンツーマン握手会が始まる流れになっていた。

 部員達は遠巻きに見物する気満々だし、レジェンドも仕切りたくてしょうがないといった様子だ。

レジェンド「んじゃルール説明と行こうか!」フンス

 仕切り出した。

京太郎「って、ちょっと待ってください。……ルール? 握手に?」

レジェンド「そうだよ?」

京太郎「ガッと掴んでパッと離して終わりじゃないんですか?」

レジェンド「ロンオブモチ! 最低でも1分は握ってもらうから」

京太郎「1分って……新子さんの方は大丈夫ですかね?」

レジェンド「大丈夫なんじゃない? あんなにやる気だったんだし。ね、憧?」チラッ

京太郎「」チラッ





           -――-
       _/        \
     //: :/ :| : : |: :│: : _/{⌒\
    /: /i 仏ィ| : : |ー八-∨ j:|:ト、: : .
    / :/八i庁仆: : 斥允ヵ:∨リ:|い: :i
   : : i |: i:代:ソ \|弋:::ソノ|Y^' |: :|: :|  「……」
   : : | | 从   '__    u. |:|ノ: |: :|: :|
   | : | |:V介: . ‘ ′  イj/: ; : :|: :|
   | : | ∨!:.| i: ≧=  ´ト、∨: /: : : :│
   | : | |_|: リくΥ r'´ /7゙: /i: : :| :│
   | : | /V: /L|人,,/}//: :/ `\l : :|
   | : l |/: /〈 `YY⌒〉/: : :  /│: :|
   | : |/|: :| く__ノ入,ノ>| : : |  '  |: :│
   | : |/|: :|  / /`  | : : |∨/ |: :│
   | : i{ |: :| { {.  \| : : |リ/  :|: :│
   │:从|:八  ○、\八|_八i{  八 : |

京太郎「……」

レジェンド「……憧?」

           -――-
       _/        \
     //: :/ :| : : |: :│: : _/{⌒\
    /: /i 仏ィ| : : |ー八-∨ j:|:ト、: : .
    / :/八i庁仆: : 斥允ヵ:∨リ:|い: :i
   : : i |: i:代:ソ \|弋:::ソノ|Y^' |: :|: :|  「……ロンオブモチ」
   : : | | 从   '__    u. |:|ノ: |: :|: :|
   | : | |:V介: . ‘ ′  イj/: ; : :|: :|
   | : | ∨!:.| i: ≧=  ´ト、∨: /: : : :│
   | : | |_|: リくΥ r'´ /7゙: /i: : :| :│
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   | : |/|: :| く__ノ入,ノ>| : : |  '  |: :│
   | : |/|: :|  / /`  | : : |∨/ |: :│
   | : i{ |: :| { {.  \| : : |リ/  :|: :│
   │:从|:八  ○、\八|_八i{  八 : |

 あ、ダメそう。

236 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 01:28:08.01 ID:rOyHwmpOo

京太郎「なあ、本当に無理しなくても……」

憧「べ、別に無理なんて!」

レジェンド「そうそう、憧なら簡単にクリア出来ちゃうからね。無理なんて全然してないもんなー?」

憧「………………ロンオブモチ」プルプル

 やめたげてよぉ!

 と心の中で言っても誰にも聞こえない。当然だ。

 最早お互いに逃げ場はない。

 握手、するしかない。

京太郎「えっと……新子さん」

憧「は、はいっ」



  `¨ - 、              __      _,. -‐' ¨´
      | `Tー―ーヽ、      (_,_` `ー<^ヽ
      |  !      `ヽ (⌒ー " ,.(    ヽ ヽ
      r /      ヽ  ヽ(⌒r-ー ソ     _Lj
 、    /´ \     \ \_j (⌒r--,,     /ヽ
  ` ー     ⌒ー、ヽ ヽ__j´  ヽ⌒_-ー´"    `¨´
              ゛'^´


京太郎「手、いいか?」スッ

憧「……はい」スッ

 手を伸ばす。

 新子さんもそれに応える。

 ふたつの手が近付いて、

 近付いて、そして――

237 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 01:28:49.97 ID:rOyHwmpOo










                                          _ -―
、_                                   _ -‐
  _ >一ー―――- 、__       , ---―- 、     _ .. -‐
 ̄                }  _ -‐ッ'       `ー--、}
               「 ̄  「   ,.-、        ',
               |     }   /  \       、
                 i     jノ ノ    `丶、    ヽ
              |    `゙´        ヽ     }
              /               ヽ   |
: . . .            /ヽ, -‐-、,r"ヽ         丶 .ィ´:、    . : : : :
: : : : : : : : : : / 〈 ⌒/ ゝ /⌒ヽ    ヽ  ∨ 、: 、. : : : :_ .. -‐  ̄
 ̄ ―-  __: : : : /   `´{  /   ∠、 \  \__ノ  \}_ .. -‐ "
         ̄ ―┘    `¨´、 /- /丶、 >‐'
                    `゙'、__/`--' ̄










242 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 02:06:57.33 ID:rOyHwmpOo

 握手、した。

憧「――ッ!」

京太郎「……」

 うん、握手だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 ただの握手。

 だというのに……

京太郎「新子さん」

憧「な、なによ」

京太郎「手汗凄いぞ」

憧「ほ、ほっといてっ」

京太郎「声震えてるぞ」

憧「ふ、震えてなんかないし(震え声)」

京太郎「顔真っ赤だぞ」

憧「………………ふきゅぅ………………」

 変な声漏れた。

252 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 04:10:48.35 ID:rOyHwmpOo

憧「っ!」カァァッ

バッ!

京太郎「あ」

レジェンド「あー」

                -‐…‐-
            /: ∪: : : : : : : : : : :`丶、
           /.: : :/: : : :|: : : : : : \: : :ヽ-
           ,:': //: / :|:|: : : |'、: : : :\: :∨ Y\\
           i|: //: /  |:|: : : |: \: ノ :||: :|/ |: |:|\\
           i| i∧:{`ー\: : |  ̄\: ||: :| : |:.:|:|  ヽ:ヽ
         八|l: : l 〃ヽ \l 〃ヽ ヽ|: :|: :′|:|   ',: :
         |:| |l\| {{ }}     {{ }}  |: :|/: : :|:|   i: i  「ぁ……」
         |:| || .′ー' ///// ー'   |: :l: : : :l|   |: |
         |:| |l {   __,/⌒\ u |: :|: : :||   |: |
         |:| || 人 レ        \ |: :|: : : |: :   |: |
         |:| |l / : `|/        \:!: : :.|: ∧   |: |
         |:| ||'/ : |/ , <       \:ノ: : ∧ ,: :′
         |:|/{: : : :/ゝイ ∨\      \\: :∨:/
          |/: : : /  イ {,∠‘,         \',:|:|
       //: : /  {⌒YY´   人        \|:|
.     /  ′:/   /l_/Т\_i: : :\         ̄ヽ
     /    |: : |{/   \/|/|_ | : : : ∧          |
.    /   八: :|′    o    八: : : { \        |
  _/_彡   ヽ{           \: :\ |:\       /
 /       人                ̄ |: : :l>―┬
./       /  }     o         |: : :l : : : : |

 いきなり手が離れてしまった。

 新子さんが引っ込めたせいだ。

 その手は今、彼女の口元を押さえる位置にある。

憧「あ、ぅ、ゎ、わ」オロオロ

 一連の動きは完全に無意識だったんだろう。

 彼女自身、この場にいる誰よりもうろたえていた。

憧「う、ぅううっ………………は、ハルエ! 今のってもう1分経ってたよね!?」

レジェンド「いや全然。10秒くらいしか経ってないよ?」

憧「うそっ!?」

 ご覧の有様が証拠だ。

255 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 04:40:18.36 ID:rOyHwmpOo

レジェンド「はーい、それじゃ二回目いくよー」パンパン

京太郎「まだやるんすか」

レジェンド「最低1分つったっしょ? ほら、憧も用意して」

憧「うー、やっぱやめるぅ……もう帰るぅ……」メソメソ

京太郎「新子さん。辛いのは分かるけど、さっさと終わらせる方が楽だと思うぞ?」

憧「須賀くん……」

京太郎「だから、ほら」スッ

憧「……ん……」スッ

ギュッ

 また手と手を握り合う。

 ……うん、やっぱり握手です。

 なんの変哲もなく。

 だっつーのに、

憧「ぅ……く……っ……」プルプル

 どうしてこうなるのか。

 恐るべし、男嫌い。

257 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 05:05:06.03 ID:rOyHwmpOo

 さて、俺も握った手に意識を集中してみる。

 まず白い。

 そして細い。

 何より柔らかい。

 まさに女子、といった風な手だ。

 咲よりも小さい手なんて、本当に血の通った人間のものなんだろうか。

京太郎「……」

 ぎゅ、と。

 ほんの少しだけ力を入れてみる。

憧「んっ……」ピクン

京太郎「あ、わり。痛かったか?」

憧「べ、べつに。急に強く握られて驚いただけよ」プイッ

258 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 06:08:03.02 ID:rOyHwmpOo

京太郎「そっか、なら良かっ――ん?」

 ふと。

 握る手の中に不思議な感触があることに気付く。

 指の辺りだ。

 こちらも指を這わせて確かめる。

サワサワ

憧「んひぅ!?」ピクッ

京太郎「うおぅ!?」ビクッ

憧「な、ななな何すんのよっ!?」

京太郎「え、あ、すまん! なんか固いものに触ったから気になって、つい」

憧「固いもの?……ああ、もしかしてマメのこと?」

京太郎「マメェ?」

260 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 06:51:27.85 ID:rOyHwmpOo

憧「麻雀の打ち過ぎで指にマメが出来てるの。ほら」

 と言って空いてる右手を見せる新子さん。

 なるほど、確かにマメがある。

京太郎「麻雀でも出来るもんなのな」

 運動部だけかと思ってた。

穏乃「私にもあるよ!」ハーイ

玄「私もー」ハーイ

宥「触ると痛いから、あったかくない……」ハーイ

灼「例に漏れず」イヤッホォーゥハルチャンサイコウ

京太郎「わざわざ手ぇ挙げてまで見せてくれなくても……」

 あと鷺森先輩は握り拳を突き上げてるから分からない。

憧「麻雀は好きだけど、こればっかりは困りものなのよね」

京太郎「え、なんでだ?」

憧「なんでって……見てくれが悪いじゃない。女の子としては」

264 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 07:53:01.74 ID:rOyHwmpOo

 言いながら右手をぐーぱーする新子さん。

京太郎「そんなもんかねぇ。俺はいいと思うんだけどな」

憧「……いい?」

京太郎「ああ、頑張り屋の綺麗な手じゃんか。いいと思うぜ」

憧「……………………………………………………」

京太郎「? あたら――」

憧「ふぁっきゅ!?」ガタァッ

京太郎「!?」ビクゥッ

 今Fuck youって言われた?

憧「な、いきな、り、なに、なにを、言いいいっ」オロオロキョロキョロヨロヨロ

京太郎「ちょ、落ち着け。新子さん落ち着け」

 握手したまま目と足でテンパるとか器用すぎる。

 しかしそれはあまりにも不安定な挙動だ。

 だから、

憧「っ!?」グラッ

 自分で自分の足に躓いてしまう。

270 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 08:49:46.07 ID:rOyHwmpOo

憧「きゃ……!」

京太郎「新子さん!」グイッ

 後ろに倒れそうになる新子さんを、繋いだ手に力を込めて引っ張った。

 驚くほど軽いその身体は簡単に方向を変え――ぽすん。

憧「ぇ」

 俺の胸に。

憧「」

京太郎「ふぃー、ビビったぁ……」

憧「!!?!?!!!??!?!???!!?!!?!!!」

穏乃「うわー京太郎ナイスキャッチ!」

玄「今のはすごかったねー!」

京太郎「いやぁ、それほどでもありますよ」キリッ

宥「憧ちゃん大丈夫? 怪我ない?」

灼「ある意味ヤケドしてるけどね」

京太郎「え?」

 下を向く。



憧「っ………………///」プシュー



 茹で蛸がいた。

277 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 09:31:41.18 ID:rOyHwmpOo

京太郎「あ、新子さん!? どうした、なんでそんな真っ赤なんだ!?」ガバッ

憧「あ、ぁの、近、」プルプル

京太郎「もしかしてどこかケガしたのか!? 保健室行くか!?」ズイズイ

憧「ちがっ、その、離し、――」プルプル

京太郎「足くじいたんなら俺がおぶるからほら遠慮せずに乗」





憧「お構いなくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」ダッッッ





京太郎「あれっ元気だ!?」

 俺を突き飛ばして部室から出奔する新子さん。

 猛然と校舎を駆け下りる足音だけが遠雷のように耳に届く。

 残されたのは、俺と愉快な部員達。

 あとレジェンド。

278 名前:4月13日(土)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 09:39:06.86 ID:rOyHwmpOo

京太郎「……どうするんすか?」

 とりあえずレジェンドに指示を仰ぐ。

レジェンド「うん……うむ」

 彼女は神妙に頷くと、俺→穏乃→玄先輩→宥先輩→鷺森先輩の順に視線を移し――こう宣言した。



                 --……--
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        || |/: :.:.:∧}リ≫┘o。v――'’xr示=ミト、:.:.\}、   「練習再開だあああああ!!!」
        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、
           |:.:.:.:.:.「`ヽ《乂_゚ツ        ゞ= '゚ :リ/リ゚。:.:.ト、i
           |:.:.:.:.小   , ,    '    , ,  : /:.:.:.∧:.} リ
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           ゞ    イニ}  ` ´  {ニヽ
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       /ニ|ニニニ/ニニニ|`-―――‐一´|ニニニムニニニニ|ニム
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京太郎「ひっでえ!!!」

279 名前:4月14日(日)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 09:55:17.28 ID:rOyHwmpOo

……
…………
………………

 日曜日。

 奇数週だろうが偶数週だろうが関係なしに授業がないこの日もまた、部活に励む絶好の機会である。

 が、



憧「……」ジー

京太郎「……あのー」

憧「……」ジー

京太郎「新子さーん」

憧「……」ジー

京太郎「おーい」

憧「……」ジー

京太郎「……はあ」



 ドアの陰から俺を睨むばかりの新子さんが部活動に参加するには、もう少し時間がかかりそうだった。

 ……これ、やっぱ悪化してねーか?

【TO BE CONTINUED...】

280 名前:4月14日(日)[saga] 投稿日:2013/07/08(月) 10:02:30.60 ID:rOyHwmpOo

レジェンド「あ、ちなみに当面は週に一回クジで引いた内容を実行してもらうから☆」

憧「今言わないでよ!!」

京太郎「鬼かアンタ!!」

今度こそ【TO BE CONTINUED...】



【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
 称号:阿知賀学院麻雀部“憧係”(new!)
 憧への印象:...→せめて友達になりたい
  →手がすべすべだった(小学生並の感想)(new!)

【新子憧のステータスが更新されました!】
 称号:手負いの野良猫(new!)
 京太郎への印象:...→依然として警戒
  →手が大きかった(小学生並の感想)(new!)

【高鴨穏乃のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:...→また撫でて欲しいな
  →憧をよろしくね!(new!)

【松実玄のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:...→是非おもち談義を……
  →憧ちゃんをよろしくなのです!(new!)

【松実宥のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:...→あったか~い
  →憧ちゃんをあったかくしてあげてね(new!)
最終更新:2013年11月23日 15:21