入学式

34 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 00:46:01.61 ID:R/834AKjo 

~通学路~

テクテクテク...

京太郎「んー、いい天気だ。入学式日和ってヤツだな」

京太郎「それに……」チラッ

       ザワ...  オハヨー  オッハヨー!   キャッキャウフフ

        オハヨーゴザイマース   ザワザワ...   アサダヨ?

    ザワ...ザワ...   ゴキゲンヨー  グッドイブニングデスー  ザワ...

     オハヨー  ウフフ キャッキャ   オハヨーオハヨー   ザワ...

      キャッキャ  オハヨウノドッチ!   ザワワ... マムシーマムシー  キャッキャ

         ザワ...  ダレガノドッチダ  ウフフ  ザワザワ...

京太郎「……いい景色だ」グヘヘ

京太郎「流石は元お嬢様学校。どっちを向いても女子ばかりだ」

京太郎「男子もいないじゃないけど……少ないよなぁ」

京太郎「ま、ただでさえ生徒数の少ない阿知賀で男子は新入生だけな訳だし、仕方ないか」ウム

ヒソヒソ「ねぇ見てあれ、一人でブツブツ言ってる~」ヒソヒソ
ヒソヒソ「うそやだきもーい」ヒソヒソ「死ねばいいのに」ヒソヒソ
ヒソヒソ「ヒくわァ」ヒソヒソ「これだから男子って……」ヒソヒソ

京太郎「………………うん。この珍獣扱いも仕方ない。慣れだ慣れ」

35 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 01:51:43.93 ID:R/834AKjo

 (とは言え不審者として通報されても困るのでモノローグに)切り替えていく。

 引き続き好奇の視線を浴びながら桜並木の下を歩いていると、

京太郎「ん?」

???「……」

 前を行く一人の女子高生に目が留まった。

京太郎「あれ、あの子って――」

 我々はあの少女を知っている!

 いや! あの髪型と、あの尻の形を知っている!

京太郎「やっぱり昨日の子……、………………だよな?」

 呟き、しかし自分の言葉に首を傾げる。

 なにやら様子がおかしい。

 容姿だけ見れば間違いないのだが、態度が。

 昨日と違い過ぎる。

 コソコソ? ビクビク?

 とにかく挙動不審に、人の流れを右へ左へ漂っていた。

36 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 04:00:05.87 ID:R/834AKjo

???「っ……」

 小尻の君は今日も俺の視線に気付くことなく、忙しなく歩道を行き来している。

 ふらふらと右端に寄ったかと思いきや、ハッとして左端へダッシュ。

 そこで一息ついたのも束の間、また慌てたように真ん中、右端へと移動。

 うーむ……

京太郎「面白ぇ」

 目が離せない。主に翻るスカートから目が離せない。

 思わず立ち止まり、腕を組み、桜吹雪の中を駆け回る美少女という格別の花見に興じる。

 女の子が前進するスピードは極めて遅い。

 だだっ広い道を端から端へと走っているのだから自明だ。

 ので、

 これ幸いとばかりに堪能させてもらいました。ギリギリで見えなかったけど。

38 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 04:55:54.03 ID:R/834AKjo

京太郎「……ん? んん?」キョロキョロ

 ふと気付くと、俺達以外の通行人の姿は影も形もなくなっていた。

 いかん、つい熱中し過ぎたっぽい。

京太郎「時間は……うげ」

 結構ヤバい。

 走る必要まではないが、流石に天下の往来で仁王立ちしている余裕はなさげ。

 もうちょっと粘ってたら見えそうな気がするんだけどなぁ……パンツ。

 見たかったなぁ……パンツ。

 見えないかなぁ……パンツ。

京太郎「………………はっ!?」

 だからボーッとしてる暇はないんだっての!

 しゃーない。今日は諦めよう。パンツ。

 深く長く大きく溜め息を吐いて、涙の一歩を踏み出――そうとした、その時。

39 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 05:49:27.50 ID:R/834AKjo

「やっべー! 遅刻遅刻!」ダッ

「オイちょっと待てって!」ダッ

 背後から声。そして影。

京太郎「うおっ?」

 堪らずよろめく。

 なんとか持ち直して顔を上げると、他校の学ランを着た二人の男子高校生が走り去るところだった。

 確か阿知賀より少し離れた位置にある高校の制服だったな、あれ。

 なるほど、この時間にまだこの場所にいるなら、彼らこそ全力疾走でなければ間に合わないだろう。

 しかし人がコケそうになったのに気にも留めないとは……

 俺が若者の礼儀離れに嘆いてる間にも、モブ顔ダブル男子は猛然と走り続け――

京太郎「!」

 危ない、と声を上げる間もなく。

 野郎共は懲りずにド直進、道の真ん中で少し前の俺みたいに溜め息をついているあの女の子の両脇をすり抜けた。

40 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 06:30:35.46 ID:R/834AKjo

 と、



???「――――――――――――――――――――ッ!!!」



 そこから先は一瞬の出来事だった。

 女の子は声にならない叫びと共にその場で盛大に跳び上がり、着地の拍子に蹴躓き、蹴躓き、蹴躓きに蹴躓いて……とうとう歩道の端まで辿り着き、そのまま植え込みに頭から勢い良く突っ込んだ。

 って、

京太郎「ええええええええええ!!?」

 どんだけオーバーリアクション!?

 凡々に生きていては中々お目にかかれない珍事に焦る。

 駆け寄る。

 覗きこむ。

 パンツ。

 ……

 パンツ!

 桜色の、名状しがたい小洒落た柄の、パンツだ!!!

41 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 07:38:34.01 ID:R/834AKjo

京太郎「おおおおおお……!!」ゴクリ

 ここに来て俺のテンションがうなぎ上りである。

 しかも! しかもだ。

 この子が着てる制服……今はスカートしか見えないが……阿知賀の制服じゃあないかッ!

 主に脚とか、肌が露出してる部分に目を奪われていたせいで気付かなんだ。

 ……待てよ? つまり? これは?

 入学式の朝+美少女との再会+同じ学校=マジで薔薇色の高校生活が始まる!?

 なにやだこわい。順調過ぎてこーわーいー。昂る。

???「ぅ、うーん……」モゾッ

京太郎「!」

 身動ぎする度に太ももが震えて……げへへ。

 とか言ってる場合じゃねぇ。

 ここはあくまで紳士的に――紳士的に、全力で!

 フラグを立てに往く!!

42 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 08:06:44.67 ID:R/834AKjo

京太郎「お嬢さん、大丈夫ですか」キリッ

???「……っ」

 女の子が息を呑んだのが分かった。茂みから手が伸び、何かに捕まろうと宙を掻く。

京太郎「おっと、これは失礼」キリッ

 その手を素早く掴んで、

???「ひ――ッ」

 引き起こす。……なんか妙な反応? まあいいや、続行。

京太郎「いやはや災難でしたね。お怪我はありませんか?」キリッ

 視線を頭から爪先まで巡らせる。

???「ぅ……」タジッ

 自分の身体を庇うように抱きしめている女の子。腕を打ったのかと心配したが違うっぽい。

京太郎「む、膝を擦り剥いていますね」キリッ

 右膝に血が滲んでいた。転んだ時に傷がついたんだろう。

京太郎「ちょうど絆創膏を持っています。どうぞ使ってください」キリッ

 内ポケットから取り出した絆創膏を二枚、女の子に握らせる。

???「ぁ……う……!」パクパク

 ああ、ありがとう咲! 何もない所で転ぶお前と長年一緒だったおかげで持ち歩くクセのついた絆創膏が今、素晴らしい活躍をしているぞ!!

43 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 08:59:18.72 ID:R/834AKjo

???「あ、のっ!」

京太郎「はい?」キリッ

 脳内お花畑で咲と手を取り合ってアハハウフフと踊っていたところに声をかけられ、振り返り、

 ギョッとした。

 この子すっげー顔色悪い。

 赤? 青? 白?

 目まぐるしく変化してるし、目もぐるぐるしてるし。

 更によく見れば身体は小刻みに震え、手渡した絆創膏は握り潰されてる。

???「……ぁの。その……」プルプル

 一体どうしたっていうんだ。

 なんだ。アレか。感極まってるのか。

 もしかしてこのまま「キャー素敵! 抱いて!」みたいな、そんな展開が待ち受けているのか。

 上等じゃないか!!

???「あゎ、あのっ、えと、う、ぅう~~~っ……!」スゥーッ

京太郎「大丈夫ですよお嬢さん。俺は全て理解しています! さあ恥ずかしがらずに思いの丈をぶちま――」

44 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 09:02:39.70 ID:R/834AKjo

.             xァ′ /       |                ヽ {__j__
           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
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   .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ
      /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       ,
.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
  ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;
  |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |
  |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |
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  |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   |

       「もうあたしに話しかけないでくださいっ!!!」

京太郎「」

45 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/05/30(木) 09:13:27.82 ID:R/834AKjo

……
…………
………………

京太郎「」

 あれから――

 あの女の子が走り去ってから、どれだけの時間が経っただろう。

 俺は立ち尽くしたままだった。

 何秒? 何分? それとも何時間?

 分からない。

 分かるのはたったふたつ――

リーン... ゴーン...
   リーン... ゴーン...

            リーン... ゴーン...
               リーン... ゴーン...

 今、聴こえているこの音が阿知賀学院の鐘の音だということと、



 俺が入学式に遅刻したということだけだ。

56 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/03(月) 00:27:32.45 ID:k1T/2tyjo

……
…………
………………

~職員室~

京太郎「本っっっ当にすいませんでしたー!!」ペッコリン

 THE・平謝り。

 あの後、俺が放心状態を脱するまでに要した時間はジャスト1時間。

 その結果、入学式を丸々サボタージュする形となってしまった。

 ので、

 THE・平身低頭。

担任「ま、まぁまぁ。頭を上げてください須賀くん」

京太郎「けど……!」

担任「急な体調不良じゃ仕方ありませんよ。むしろ休まず登校してくれて嬉しいです。もう大丈夫なんですか?」

京太郎「………………すんませんっしたー!!!」ペッコリーン!

担任「あれ!? 今の流れで更に深々と!?」ギョッ

 言えない。

 「下心満載の親切を拒絶されたショックで遅刻しました」なんて。

58 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/03(月) 01:20:36.54 ID:k1T/2tyjo

担任「とにかく教室に行きましょう? 最初のホームルームを始めますから」

京太郎「そ、そっすね」

 古き良きRPGよろしく先生の尻を眺めながら移動した。

~教室~

ガラッ

担任「はーい、皆さん席についてくださーい。須賀くんもね」

京太郎「りょーかいでっす」

 先生の手招きに応じて俺も教室に足を踏み入れる――と、

  じろ...
           じろ...
      じろ...

京太郎「おぉう」タジッ

 視線……なんだろう見られてる確実に、明確に、俺の方を。

 って、HRからのうのうと顔を出せば当然か。

 本意ではないにしろ、入学式をサボったのは印象悪いよなぁ。

61 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/03(月) 02:23:22.35 ID:k1T/2tyjo

担任「どうしました須賀くん? 早く席につきましょう」

京太郎「あ、はい。でも俺の席ってどこっすかね?」

担任「あそこですよ。ほら、一番後ろの、窓際から二番目」

京太郎「ふんふむ」

 それって中々の好立地じゃなイカ?

 出来ればズバリ窓際が良かったけど、贅沢は言わないでおこう。

 しかし何よりご近所の顔触れが気になる。

 いそいそと視線を先生の示した辺りへ。



???「」

京太郎「」



 マジかよ神様。

62 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/03(月) 03:09:27.47 ID:k1T/2tyjo

京太郎「えー……っと。先生?」

担任「はい?」

京太郎「俺の席なんですけど……一番後ろの?」

担任「窓際から二番目ですよ」

京太郎「………………」

担任「?」

京太郎「それは、あの、世界の終末が訪れたみたいな表情してカタカタ震えてる女の子の隣の席で間違いないですか?」

担任「そうですよー。あの、お通夜とお葬式が一緒に来たみたいに悲嘆に暮れてる女の子の隣の席で間違いありません。ちなみに彼女は新子憧さんです」

京太郎「へぇ~」

 思いがけず有益な情報をゲットした。

 昨日から何かと(一方的な)縁がある女の子。

 彼女の名前は、新子憧。

 覚えておこう。

担任「さあ、そろそろ本当に席についてくださいね。ホームルームが始められませんから」

京太郎「あ……はい。分かりまし、た」

63 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/03(月) 03:28:31.05 ID:k1T/2tyjo

 一歩。

 指定された俺の席に近付く。

 もう一歩。

 また一歩。

 そうする度に、視線の先で女の子……もとい、新子さんがビクリと大袈裟に首を竦める。

京太郎「……」

 しかし教室のド真ん中に突っ立っている訳にもいかない。

 無心に足早に歩を進め、

 到着。

 着席。

憧「っ……」

 新子さんが息を呑む。

 チラリと窺った表情は、緊張の一色。

 俺も釣られてしまいそうだ。

64 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/03(月) 04:10:32.32 ID:k1T/2tyjo

担任「はーい、それじゃあホームルームを始めますよー」

京太郎「……」

憧「……」

 ……よし。

 気持ちを切り替えろ、俺。

 ここからでも今朝のミスを挽回して、友好的な関係を築いてみせるんだ!

京太郎「なぁ」ボソッ

憧「!」ビクッ

京太郎「新子さん……で合ってるよな? 名前」

憧「……」

京太郎「俺は須賀京太郎。通学路では色々あったけど……今日から同じクラスで隣の席っぽいから、改めてよろしく!」ニカッ

憧「…………」

京太郎「……」



憧「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」プイッ



 メゲそぅ。

98 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/05(水) 03:38:45.14 ID:gYNja5Deo

……
…………
………………

 で、

キーンコーン カーンコーン
  キーンコーン カーンコーン

 放課後。

担任「はいっ、では明日も元気で会いましょうね。きりーつ、礼」

「「「ありがとうございましたー」」」

  ざわ...
           ざわ...
     ざわ...

 挨拶を終えると、教室中が一気に賑わいを見せる。

 俺もその勢いに乗じて――

京太郎「あたら」

憧「」ドヒューン

京太郎「し……惨」ガクッ

 ダメだった。

 まさに脱兎の如く。新子さんは教室……というか、俺の隣から離脱してしまった。

117 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 00:49:24.57 ID:QuVAYfj4o

京太郎「やだこれもー……」グデーン

 メゲた。完全にメゲた。

 机に突っ伏し、その体勢から室内を眺める。

 ほとんどのクラスメイトはまだ帰る素振りも見せず、三々五々に集まって親睦を深めているようだった。

 教壇の近くで先生を囲んでいるのは高校からの編入組。

 部屋の真ん中に陣取って談笑する一団は恐らくエスカレーター組だろう。

 そして男子はそのどちらにも属さず、ごく少人数で隅っこに固まっているという有様だ。

京太郎「――」

 本来なら俺も仲間に加わるべきなのだが……どうにも尻込みしてしまう。

 だってあいつら、明らかに俺のこと怖がってるんだもん!

 俺を見る目が紛れもなく不良を見るソレなんだもん!

 つくづくダイナミック重役出勤が悔やまれる。

 悪目立ちする金髪(地毛)への警戒を解く最初で最大のチャンスを棒に振ってしまった。

 目当ての女子には逃げられ、数少ない男子からも避けられ。

 このままでは俺の薔薇色の高校生活が……うごごご。

119 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 02:28:06.29 ID:QuVAYfj4o

担任「あッ、いけない!」

 その時、先生の声が教室に響いた。

「わ、ビックリした!」

「せんせーどうしたんですか?」

「朝ちゃんと部屋のカギ閉めたか急に不安になった?」

担任「いえカギは閉めましたけど……皆さんすみませーん! 実はプリントを配るのを忘れていましたー!」

 なんだそんなことか。

 意外とリアクション過剰だよな、あの人。

担任「ごめんなさい、これをお願いしてもいいですか?」

「「「はーい」」」

 先生がいくつかに分けた紙束を周りの生徒に託し、彼女達がそれをクラス中に配って回る。

 幸い大半が尚も教室に留まっていたようで、先生もおっぱ……胸を撫で下ろしていた。

 俺はそれを見て唾を飲み込んでいた。

120 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 03:00:35.52 ID:QuVAYfj4o

 ていうか、

京太郎「先生ー。新子さんがいませーん」

担任「えっ、本当ですか須賀くん?」

京太郎「はい。そういえばチャイムが鳴ってすぐに飛び出して行ってました」

 メゲてて言うの忘れてた。

担任「え~……困りましたね。どうしましょう」

京太郎「明日の朝イチで渡せばいいんじゃないですか?」

担任「プリントをよく見てください。これ、保護者の方のサインが必要なんですよ」

京太郎「マジすか」

 俺はどうすればいいんだろう。ややこしくなるから言わないけど。

担任「校内放送で捕まえられるでしょうか……でも職員室に戻るくらいなら脱靴場に直行した方が……?」ウゴゴゴ

京太郎「うごごご」

 あれこれ考えてる間に誰なりと脱靴場に向かわせればいいじゃないかと思いながら、先生と二人仲良く悩んだ。

121 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 04:52:51.70 ID:QuVAYfj4o

「新子さんなら麻雀部にいるんじゃない?」

京太郎「へ?」

 そこに声をかけてきたのはエスカレーター組の女子だった。

「だから、麻・雀・部」

担任「麻雀部……ですか? でも新子さんって外部受験ですよ? 部活案内もまだですし……」

「先生知らないの? 新子さん、去年の夏頃から放課後はウチに入り浸ってたんだよ」

担任「し、知りませんでした」

京太郎「じゃあ今日もそこにいるのか?」

「多分ねヤンキー」

京太郎「ヤンキーじゃねーよ!」

担任「でも良かったです、まだ校内に残ってる可能性が高いみたいで!」

 確かに。

 もし新子さんが一直線に帰宅なんぞしてたら、入学初日から先生が家庭訪問する羽目になっていたかもしれない。

担任「というわけで須賀くん」

京太郎「あ、はい?」

担任「このプリントを新子さんに届けてください」

京太郎「は?」

123 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 06:14:26.87 ID:QuVAYfj4o

担任「このプ」

京太郎「いやいや聞き取れなかった訳ではなくて」

担任「そうなんですか? じゃあ、はいっ」つ プリント

京太郎「……いやいやいや。なんで俺?」

担任「そこに須賀くんがいたからです」

京太郎「ここにもう一人いますよね!?」

「え、私? 行かない」

京太郎「即答!? それが通るんなら俺だって――」

担任「須賀くんに拒否権はありませんよー」

京太郎「だから何故!? っあーもー……」チラッ

「?」

京太郎「先生、先生」チョイチョイ

担任「はいはい?」

124 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 06:19:29.99 ID:QuVAYfj4o

 先生に至近距離まで来てもらって(すごくいいにおいがした)、内緒話のトーン。

京太郎「あのですね、お願いですから他を当たってもらえませんか」ヒソヒソ

担任「どうしてですか?」ヒソヒソ

京太郎「……それは……」モゴッ

担任「新子さんと会うのが気まずいからですか?」ヒソッ

京太郎「え」

 今。

 なんて言った?

 目を丸くして先生を見ると、彼女はにっこりと笑った。

 なんつーか、負け戦なんだと察した。

京太郎「………………分かっちゃうもんなんですかね?」ヒソヒソ

担任「もんなんですねぇ。教壇からの眺めって須賀くんが思ってるよりずっと良いんですよ?」クスクス

京太郎「はあ……」

「?」キョトン

125 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 07:16:43.48 ID:QuVAYfj4o

担任「とにかくですね。先生的には、鉄は熱い内に打て! という言葉を須賀くんに送りたいと思います。ので!」つ プリント

 俺から顔を離し、笑顔でプリントを突きつける先生。

 改めて、負け戦だ。

京太郎「……分かりました。分かりましたよ。ご命令とあらば地の果てまでも行きましょうとも」

担任「はいっ、よろしくお願いします♪」

 溜め息混じりにプリントを受け取る。

京太郎「なんかこの短時間にすっげー疲れた気がします」ゲッソリ

担任「あら、大丈夫ですか? まだ放課後になって10分も経っていませんよ?」

京太郎「そうなんですよね、まだ放課後になって10分も経ってないんすよね」

「さすが高校は密度が高いよね。まだ放課後になって10分も経ってないなんて」

 つれーわー。まだ放課後になって10分も経ってないからつれーわー。

京太郎「ところで麻雀部の部室ってどこにあるんですか?」

 部活の邪魔をするような事態は避けたいし、出来れば移動中の新子さんに追いつきたい。

 なんせまだ放課後になって10分も経っていないから、不可能ではないはずだ。

128 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 08:19:04.06 ID:QuVAYfj4o

担任「えぇと、確か隣の校舎の最上階だったと思います」

京太郎「ふんふむ」

 結構遠いな。

 先生と情報提供者である名も知らぬ女子(名前は聞きそびれた)に礼を告げ、教室から立ち去る。

担任「あれ? でも名義は部でなく同好会だったような……?」ハテナ

 背後から先生の呟きが聞こえてきたが、割とどうでもいいので無視。人通りの少ない廊下を走り出す。

 走りながら、頭では新子さんのことを考えていた。

 新子憧。

 昨日見かけて、今日出会った美少女。

 昨日と今日で、印象が180度も違う女の子。

 その豹変には何か理由があるのか。

 こうして一心に走っていると、今まで気の回らなかったところにまで考えが及ぶのが分かる。

 そうだ。

 まだ入学初日なんだ。

 取り返しのつかない失敗なんてあるもんか。

 誠心誠意。心の底から相手を思って行動すれば、きっと良い方向に転がってくれるはずだ。

 だから今はひたすら、新子さんのことだけを考えろ。

 新子さん……新子さん……

 新子さん――!

129 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/06(木) 08:21:02.32 ID:QuVAYfj4o

~廊下~

憧「……」テクテク

憧「…………」テクテク

憧「………………」テクテク

ピタッ

憧「……はぁ……」

┣¨┣¨┣¨...

憧「、ん?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨...

憧「え? え?」キョロキョロ

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨...

憧「な、一体なに――」



京太郎「ウオオー! 新子さーん!! ウオオー!!!」ズドドドド!



憧「」

189 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 00:52:34.00 ID:9jGZIv/ko

 見つけた!

 20メートル前方に新子さんを捕捉する。

憧「な、なな、なぁっ!?」

 なにやら慌てふためいている様子の彼女へ向け、声を限りに叫ぶ。

京太郎「うおお新子さん俺だー!! 須賀京太郎だああああああああああ!!!」

憧「ぃ――イヤああああああっ!!?」ダッ

 するとどうしたことだろう。

 新子さんは血相を変えて、踵を返して、悲鳴を上げて走り出したではないか。

 本当にどうしたことだろう。さっぱり分からない。

 とりあえず見失うのはまずい。

 ので、

京太郎「さぁ……振り切るぜ!!」グンッ

 俺も負けじとアクセルを全開させる。

 その様は風。放課後の学び舎を駆け抜ける、まさに一陣の風だった。

191 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:01:31.74 ID:9jGZIv/ko

 俺は走った。

憧「キャー! キャーーー!!」

京太郎「待てェい!!」

 流れる汗もそのままに。

 階段を下りては上がってまた下りて。

憧「こっち来るなぁ!」

京太郎「ノゥ!」

 この手の中のプリントを渡す為に。

 この胸の中の熱い思いを伝える為に。

憧「あっち行って~!!」

京太郎「絶対にノゥ!!」

 走り続けた。

 ていうか、

京太郎「いい加減止まれよ! なんで逃げるんだよ!!」

憧「そっちが追いかけてくるからでしょ!? 止まって欲しかったら先に止まりなさいよ!!」

 おお、キャラが昨日の状態に近付いてきてる。

 やはり激情の性格であったな。

 しかし人の所為にするとは小癪な。俺は激怒した。

京太郎「俺はこんな所で止まる訳にはいかない! 何故なら、俺には絶対止まれない理由があるからだああああああ!!!」

憧「意味わかんないいいいいいっ!!!」

192 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:09:18.97 ID:9jGZIv/ko

 やがて俺達の追いかけっこは大詰めを迎える。

 舞台は最上階。

 長い廊下の先、とある一室の前に吊された表札には、『麻雀部』の三文字。

憧「っ!」グンッ

 刹那、新子さんが仕掛ける。

 残された力の全てを振り絞っているのだろう、驚くべきスピードだ。

 このまま逃げ切るつもりか――!?

京太郎「さ・せ・る・かぁぁあああッッ!!!」グンッ!

 力を温存していたのは彼女だけじゃない。負けじと俺もスパートをかける。

 新子さんとの距離は見る見る内に縮まり、ついに手を伸ばせば届く位置にまで迫った。

憧「ひッ……ぅ、ぐすっ……もうやだぁ……!」ヨロッ

 半べそ状態の新子さんが僅かに体勢を崩す。

 その隙を見逃さなかった。

 俺は――強く床を蹴る――ダメ押しの加速――そして――追い付き――そして――追い抜き――憧「ぇ?」――そして――!!

バタンッッッ!



京太郎「ゴォォォーーーーール!!!」



196 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:17:07.45 ID:9jGZIv/ko

 勝った。

 俺は戦いに勝利した。

 長かった。

 苦しかった。

 それでも諦めなかった。

 そうして掴んだ勝利が今、疲弊した俺の肉体に、そして魂に、得も言われぬ達成感となって満ち満ちていた。

憧「……」

???「……」

???「……」

???「……」

???「……」

 ほら、周りを見れば新子さんが、知らない人達が、この場に居合わせた全員が俺に祝福の視線を送ってくれている。

京太郎「……」

 ん?

「「「「……」」」」

 誰この人達。

201 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:24:48.40 ID:9jGZIv/ko

 状況を整理しよう。

 俺は新子さんとの一騎打ちに勝利してここにいる。

 ここ――は、麻雀部の部室だ。

 雀卓があるし、見れば分かる。誰にだって分かる。

 では、麻雀部の部室で雀卓を囲んでいる彼女達は何者か。

 一人一人をじっと見る。

???「……」ポカーン

 まず、ポニーテールの美少女。ちんまい。

???「……」オロオロ

 次に、黒髪の美少女。おっぱい。

???「……」プルプル

 更に、マフラーの美少女。……マフラー!?

???「……」ジトー

 座敷童かな?

京太郎「………………あぁ~」ポムッ

 理解した。

 なんだ、天使か。

202 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:32:22.27 ID:9jGZIv/ko

黒髪天使「あのぅ、どちら様でしょうか……?」

ポニ天使「ていうか、憧はそこで何してんの?」

京太郎「」ハッ

憧「」ハッ

 黒髪さんの声で我に返る。斜め後ろでは新子さんもポニテっ子の声に反の

憧「しず危ない! こっち来ちゃダメ!」

 ぅえええええ。

ポニ天使「えっなに!? なんで!?」

憧「いいからそこにいなさい!」

 そう言った新子さんが俺の横をすり抜ける。

 驚くポニテっ子の手を取り、そのまま黒髪さんの背中に隠れるように回り込んだ。

黒髪天使「わわ、憧ちゃんっ?」

ポニ天使「ほんとにどうしたの? この人となんかあった?」

 オレェ?

憧「あれよあれ! ほら、今朝話した!」コソコソ

 アレェ?

 一体どんな会話があったというのか。

 ポニテっ子は促されるままにムムムと考て――ピコーン。



ポニ天使「あっ、噂の変質者!?」



京太郎「変質者!!?」ガーン

203 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:44:14.50 ID:9jGZIv/ko

 まさかのレッテル貼りである。

 流石に傷つくわ。

 そこへ背中の二人を庇うように、黒髪さんが一歩前に出る。

黒髪天使「えっと……変質者の方なんですか?」オソルオソル

京太郎「違います! どんなに丁寧な言い回しでも断じて違います!」

ポニ天使「でも、だったら憧はなんで変質者って?」

京太郎「それは俺が聞きたいよ……」チラッ

憧「!」ササッ

京太郎「隠れるなそこ! 納得のいく説明を要求する!!」

憧「ぅ……」

ポニ天使「憧?」

憧「だ、だって……」

黒髪天使「だって?」

憧「……だって、通学路で急に話しかけられたから……」

京太郎「声かけ事案か!!!」

205 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 01:57:44.35 ID:9jGZIv/ko

黒髪天使「憧ちゃん、それだけで人様を変質者だなんて言っちゃいけないんだよ?」メッ

憧「だってぇ~」

ポニ天使「じゃあ、この人は憧に用事があっただけ……?」

京太郎「用事っていうか、目の前で転んだんだよ。だから助け起こして――あ、それ!」

憧「?」ビクッ

京太郎「その膝の絆創膏、俺があげたやつだろ?」

憧「あっ」ギクリ

京太郎「使ってくれてたんだな。あれから大丈夫だったか? 痛むようなら保健室で看てもらわないとダメだぞ?」

憧「へ? ぁ、うん……大丈夫、です」

京太郎「そっか、なら良かった」ニカッ

 地味に気になってたんだよな。やっと一安心といったところだ。

ポニ天使「……」ジー

黒髪天使「……」ジー

206 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 02:04:10.56 ID:9jGZIv/ko

京太郎「おぉう」タジッ

 視線……なんだろう見られ以下略。

京太郎「な、なにか?」

ポニ天使「もしかして、良い人?」

京太郎「悪い人なつもりはないけど……」

黒髪天使「ちなみにここへは何をしに?」



京太郎「えっと、先生に頼まれてプリントを渡しに」ピラッ



ポニ天使「良い人だ!」

黒髪天使「良い人だね!」

座敷童かな?「人が良……」

マフラー天使「あったか~い」

 後半は褒められてんの?

207 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 02:16:51.80 ID:9jGZIv/ko

ポニ天使「あ~こ~?」クルッ

憧「う゛」ギクギクッ

ポニ天使「話が違うじゃん! こんなに良い人を変質者呼ばわりとか!」

黒髪天使「そうだよ、ちゃんと謝ろう?」

憧「でもぉ……」ウジウジ

ポニ天使「もーっ! 相変わらず男子が苦手だなぁ憧は」

黒髪天使「憧ちゃん、親しき仲にも礼儀ありなのです」

憧「べ、別に親しくないからっ!」

 なんか俺そっちのけで盛り上がってる。

京太郎「あの~……」

黒髪天使「はい?」

京太郎「俺も話に混ぜてもらっていいですか?」

黒髪天使「あ、ごめんなさい! さっきから大変な失礼ばかり……」ペッコリン

ポニ天使「私もごめんなさいっ!」ペッコリン

京太郎「いや、俺は全然」

 気にしてないと言えば嘘になるが、根に持つほどのことでもない。

212 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 02:48:36.10 ID:9jGZIv/ko

京太郎「んで今、男子がどうとか聞こえたんすけど……新子さんって、もしかして?」

黒髪天使「はい……お察しの通り、実はちょっと男の人が苦手なのです」

憧「うーわバラすなー!」カァッ

ポニ天使「特に同年代が苦手なんだよねー」

憧「あんたも便乗しないっ!」ポカッ

ポニ天使「痛ぁ!?」

黒髪天使「こんな風に、同性の友達には強気なんですけど……」アハハ

京太郎「典型的な内弁慶ってやつですね」

黒髪天使「ですのだ」

 なるほど。

 避けられてたのは俺個人じゃなく、男全体だったのか。

 意外っちゃ意外だが、今までの言動からすれば納得だ。

213 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 03:23:13.28 ID:9jGZIv/ko

 となると、

京太郎「新子さん」ズイッ

憧「な、なにっ?」タジッ

 俺は新子さんの正面に立つ。

 ポニテっ子と黒髪さんが空気を読んで左右に退いてくれた。

 おかげで遮るものは何もない。

 ので、

京太郎「――すまん!!」

 真っ直ぐ、謝罪の声が届けられる。

憧「、へ……?」パチクリ

京太郎「いや、男が苦手なんて知らなかったからさ。思い返したら朝の件とか怖かっただろうなって。本当に悪かった!」ペッコリン

 深々と頭を下げる。

 最初は大袈裟だと思いツッコんだ声かけ事案も、事情を知れば俺にも非があった訳だし。

 心の片隅にあった僅かな憤りも、今はすっかり鳴りを潜めていた。

214 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 03:30:45.11 ID:9jGZIv/ko

憧「ぁ、いやその、あたしの方こそ、あの……ぅう」シドロモドロ

ポニ天使「憧」ポム

黒髪天使「憧ちゃん」ポンポン

憧「っ……、……うん」

 両隣の二人に背中を押され、今度は新子さんが前に出る。

憧「あ、あのっ!」

京太郎「は、はい」

 そして緊張の面持ちで息をすぅと吸い込んで――

215 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 03:31:40.04 ID:9jGZIv/ko

                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\
               /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ
            / : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',
          , 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ
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.      //  .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .|   \: \
.    /:, '    /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : |     \: `. 、
    /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i
.   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|
  ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|
  | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |
  | :|        |.| . : |:从 :xx //////xx  | :|ノ . : . |:.|        |.::|
  | :|       |l.|: . : |:.{ム "゙    '     ""゙  | :|: . : . : |: |      |:|
  |: |      i| i!: :. :.|: |:.:ヽ.      __       イ:.|: |. : . : . :|: |        |.|
  | :|      l|:.:| : . : | :|: .|: > .  ´ `   イ:.:..!.:|: | . : . : . |: |         |.::|
  |: |     l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|`  -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: |         !: |
  | :|       l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \    /   \j :!: . : . : . :|: |       |:|
  |: |     |: : ,:|. : . : |ヽ{ |     /`Yバ      ノ/|. : . : . : . l: :|        ! :|
  | :|    |:, イl: . : . .|   ヽr──ミ、__彡──y'  |. : . : . : :/ヽ:!     |:|
  |: |   /  /. : . : .j    {    { }     } |: . : . :./   \      ! :|
「今朝はごめんなさいっ! それと……バンソーコー、ありがと」

218 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 03:50:21.51 ID:9jGZIv/ko

京太郎「――」

 なんだろう。

 救われたって感じがする。

 何度か心が折れそうになって、それでも諦めずに行動し続けた。

 だからこそ、この言葉を聞くことが出来た。

 それが無性に嬉しかった。

 とても清らかな気分だ。

 今ならもっと新子さんと仲良くなれる気がする。

 そうだ、俺からも更に歩み寄ろう。

 新子さんがしたみたいに、伝えるべきことを伝えよう。

 そうと決まれば即行動だ。

 俺は息をすぅと吸い込んで――

219 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 03:53:26.19 ID:9jGZIv/ko

   /  /     |  ハ       |  | i 、 ヽ  \     \_
.   i  /     |  | |       |  | |、 i  ゙、 、 \_     _>
   |  i   | i  |  | |       |  ハ ハ _i!_ i   \ ヽ` ̄ ̄
   |  |   |+--|、_|! |   | i! ,/.ィ'|"i´ ハ  | i  ヾ 、 ヽ
   |  |   |.|ヽ |、_|王!ー  |./i .;"´/=、!/ | ! |   \ 、i      人
.   !. r|   i.|、!,,ィ'":::._iミi!  |/ /彳:::: r:!ヽ,| ,イ | 、_   \      `Y´
.   | |^!.  N 《 _、o;;;;i_ 丶、/ / ┴゜‐'"´ !イ | λ i` ー--ヽ
    ! | i、i、 ゙、  ` ̄ ̄   メ(        /^|イ `、|
   ノi \ヾi:.、、         i!      i ノリ   `
    |  ヽ__i                 |イ|/
    ヽ i、  i    ____....,     |/
      ヽ!、  i\   `ー-- ―'´  /、!
       i !i 、 \     ̄´  /!/       人
         |ハ,i、! 、 \      / ./.|       `Y´
         ト、! ゙、  `ー---'′ /|V
「俺こそパンツ見てごめん。そしてありがとう」










憧「は?」

226 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 04:26:41.30 ID:9jGZIv/ko

京太郎「え?」

憧「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」

京太郎「いや、だから、パンツ。今朝コケた時に見えたから。本当にありがとうございました」

 脳内保存余裕でした。

憧「///」プルプル

 黒髪天使「え、えーっと……」ススス

 顔を真っ赤にして小刻みに震え出した新子さんの前に黒髪さんが立つ。

 困惑したようなぎこちない笑顔を浮かべている。

 一方ポニテっ子は新子さんの後ろに付き、その位置から俺に声をかける。

ポニ天使「憧のぱんつ……って、どんなのだった?」

黒髪天使「しずのちゃん!?」ギョッ

京太郎「どんな? そうだなぁ……色はピンクで、柄は派手っていうか洒落てるっていうか……とにかく素晴らしかったのだけは覚えてます!」

憧「//////」プルプルプルプル

黒髪「あ、あのっ! もうそのへんにしておいた方が……」アセアセ

ポニ天使「ふんふむ」

 焦りまくる黒髪さんをよそに、ポニテっ子はひとつ頷くと本当になんでもないような気安さで新子さんのスカートを、

ポニ天使「えりゃ」バサッ

 めくった。

227 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 04:28:46.33 ID:9jGZIv/ko [21/23]

京太郎「!?」

黒髪天使「!!?」

憧「!!?!?!??!!!?!?」

ポニ天使「あ、本当にピンぶほッ!?」ドサッ

憧「あ、あああああんたは何してくれてんのよ!?///」

ポニ天使「ぃや゛……もしかしたら見間違いかもしれないと、思っ……て」ガクッ

憧「だからって実際にめくる必要ないでしょ!!」

京太郎「そうだ! どうせなら俺に見える位置からめンゴッ!?」ドサッ

憧「あんたはもう喋るなっ!!」

黒髪天使「ま、まあまあ憧ちゃん落ち着いて! ねっ?」

憧「ドラァ!」バキィッ

黒髪天使「ぶべらっ!?」ドサッ

マフラー天使「くろちゃー!?」

座敷童かな?「もう手に負えな……」ハァ

231 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/13(木) 05:00:22.95 ID:9jGZIv/ko

 死屍累々。

 気付けば麻雀部の部室には死体の山が築かれていた。

 かく言う俺もその一部だ。

 下敷きにしてしまっているポニテっ子には悪いが、上に乗る黒髪さんの柔らかな感触が素晴らしいので犠牲になってもらおう……犠牲の犠牲にな……

 視線だけを動かすと、まずは怒りに我を忘れた新子さんが目に入る。

 次に雀卓の傍でうろたえているマフラーさんと……あれは……座敷童かな?

 どちらにも状況の打開は望めなさそうだ。

 どうしよう。どうしたらいいだろう。

 例えば頼り甲斐のある大人が現れてこの場を収めてくれたら、それは理想的な展開と言える。

 あー、どこかに頼り甲斐のある大人はいないかなー!

 その時。

 ガラッ

京太郎「!」

 まさか、本当に頼り甲斐のある大人が――!?



???「ごっめーん、遅レジェンド☆」



京太郎「ダメっぽい!!!!!」

253 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 05:45:07.42 ID:/0B7h6NOo

???「お、聞き慣れない声。誰か来てんの?」

 扉を開けて現れたのは、鋭い前髪が特徴的な女性だった。

 第一声から便宜上「レジェンド」と呼ぶことにしよう。

 部室内を見回し、声の主である俺を探すレジェンド。

レジェンド「あっれぇ、いないなー……」キョロキョロ

京太郎「おーい、ここでーす」

レジェンド「勘違いだったかな?」

京太郎「ここですってば。おい。足元」

レジェンド「確かに聞こえたと思ったんだけどなぁ……」

京太郎「だからここだっつってんだろ! いい加減にしろ!!」ウガー

 叫んだ。初対面で年上とか関係なく叫んだ。

レジェンド「うわぁビックリした。急に大声出さないでよ」

京太郎「わざとらしっ!」

254 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 05:50:21.02 ID:/0B7h6NOo

レジェンド「まあまあ。とりあえず立とっか?」スッ

京太郎「あ……ども」ガシッ

 差し伸べられた手を頼りに死体トリオから脱退する。その拍子に黒髪さんが床を転げて「ぎゃふん」と呻き、またマフラーさんが「くろちゃー!?」と悲鳴を上げていた。

レジェンド「キミ、男子ってことは新入生だよね。ここで何してんの?」

京太郎「それは俺も知りたいです」

 何がどうなれば入学初日に知り合ったばかりの同級生からグーで殴られる事態に発展するんだろうね。

レジェンド「ならば私が教えてしんぜよう」

 そう来るか。

 眉間にシワを寄せて考えるレジェンド。どんな珍回答が飛び出すのか身構える俺。

レジェンド「男子……新入生……麻雀部……。……部活……っは、そうか!」

京太郎「――」ゴクリ



レジェンド「ずばり、入部希望ね!」キリッ

憧「冗談じゃないわよっ!!!」ウガー



「「うわぁビックリした」」

 急に大声出すなよ。

255 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 05:55:28.98 ID:/0B7h6NOo

レジェンド「どーした憧、そんなにハッスルして」

憧「ハルエこそなに言ってんのよ! だ、男子が入部なんて絶対反対だから!」

京太郎「あー」

 新子さん的にはそうだろうなぁ。

レジェンド「おいおい、ウチは今年から共学になったんだから、当然部活も男女一緒だぞ?」

憧「それはそうだけど……でも麻雀部は男子禁制! 百花繚乱なの、女の園なのっ!!」

レジェンド「ワガママ言わない」ビシッ

憧「ぁたっ! ぅう~……」

 涙目の新子さん。よほど俺に、というか男に入部して欲しくないらしい。

 ちょっと助け舟を出すか。

京太郎「あのー、俺は別に入部希望とかじゃないっすよ」

レジェンド「そうなん? じゃあ尚更なんでここに?」

京太郎「ちょっと新子さんに用があって」

 もう済んだけど。

256 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 06:00:34.18 ID:/0B7h6NOo

レジェンド「ほっほーぅ?」ニヤリ

 あ、悪い顔。

 俺と新子さんを交互に見比べて笑っている。

レジェンド「憧に用事、ねぇ……」

憧「な、なによハルエ」

レジェンド「別にー? ただ、二人はどういったご関係なのかなー……ってさ」ニヤニヤ

京太郎「いやただの同きゅ 憧「どどど、どうもこうもないわよッ!!」 ぉぉぅ」

 普通に答えようとする俺を押しのけて新子さんが絶叫。

 それがレジェンドのレジェンド☆ゲス顔に拍車をかけているとは気付かず、更に声を荒げる。

憧「ハルエったらほんとになに言ってんのよあたしとこの人はたまたま通学路で会ったりクラスが同じだったり席が隣同士だったりするだけで関係なんて大層なもの全然まったくこれっぽっちもないんだから妙な勘ぐりしないでよねっ!」

レジェンド「へー(笑)」

憧「ムキーーーーーーーーーー!」

黒髪天使「憧ちゃん落ち着いて!」ガシッ

ポニ天使「どうどうどう!」ガシッ

 いつの間にか復活していたゾンビ天使ズが新子さんを羽交い絞めにする。

 するとこれ幸いとばかりに、レジェンドが俺へと向き直った。

257 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 06:05:39.20 ID:/0B7h6NOo

レジェンド「で、どう? 本当に入部してみる気ない?」

京太郎「……マジで言ってます?」

レジェンド「大マジだよ?」

京太郎「俺、ルールとかほとんど知らないんすけど……」

レジェンド「気にしなくていいって! 初心者歓迎」ニカッ

京太郎「でもなぁ……」チラッ

憧「」ガルルルル

レジェンド「ああ、あの子のことも気にしないで。キミがやりたいかどうかが一番大事だから」

京太郎「……」

 麻雀部、か。

 考えたこともなかったな。

 でも確かに、こんな美少女達に囲まれた環境で出来るんなら麻雀も悪くない。むしろ大アリだ。

 が、



京太郎「……すみません。やっぱり俺、入部は出来ません」

258 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 06:16:48.24 ID:/0B7h6NOo

ポニ天使「え、どうして!? 本当に遠慮なんて……」

京太郎「違うって。誘ってもらえたのは嬉しいけど、他に入りたい部活があるんだ」

黒髪天使「他の部活……」

京太郎「はい。だから、麻雀部には入部出来ません」ペッコリン

レジェンド「そっか……そういうことなら仕方ないか。うん、別に無理強いはしないよ」

京太郎「すんません」

ポニ天使「ちぇー。せっかく新しい仲間が増えると思ったのにー」ブーブー

黒髪天使「まあまあ穏乃ちゃん。ところで、なんの部活に入りたいんですか?」

京太郎「ゲスリング部です」

黒髪天使「へー」

ポニ天使「……」

マフラー天使「……」

座敷童かな?「……」

レジェンド「……」

憧「……」





憧「は?」

259 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 06:18:49.34 ID:/0B7h6NOo

京太郎「ん?」

ポニ天使「……」

黒髪天使「……」

マフラー天使「……」

座敷童かな?「……」

レジェンド「……」

憧「……レスリング部?」

京太郎「ゲスリング部」

憧「……」

ポニ天使「……」

黒髪天使「……」

マフラー天使「……」

座敷童かな?「……」

レジェンド「……あのー、さ」

京太郎「はい?」

261 名前:4月5日(金)[saga] 投稿日:2013/06/14(金) 06:23:18.74 ID:/0B7h6NOo

        ,'        \   _..-‐i          /  そ 
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      ,'-''"´r==-、__  `丶、  ,'     ,-――-、_.|  も 
       rヘ:::::/ ィ=rュ ゝソ r:::..ヾ<    /        l|  の  
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      i、ヽ,        、'‐ノ`  ト   /    い チ    .|フ r―
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//、 | .|ミ      i  / ̄ /
i i ヘi! .| \::...    / /   /-、 ____
ヽi ヾ 丶 `   /  i_  /゙iヘ `ー-   `ヽ
     ↑レジェンド

京太郎「えっ」















 俺は麻雀部に入部した。















【TO BE CONTINUED...】



【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
 称号:見せかけヤンキー
 憧への印象:かわいい→かわいいパンツ→かわいい→かわいい

【新子憧のステータスが更新されました!】
 称号:びっちじゃないよー
 京太郎への印象:こわい→やばい→パンツ見られたパンツ見られたパンツ見られた→殺

【高鴨穏乃のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:第一声が「ゴォォォーーーーール」の人

【松実玄のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:第一声が「ゴォォォーーーーール」の人

【松実宥のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:第一声が「ゴォォォーーーーール」の人

【鷺森灼のステータスが更新されました!】
 京太郎への印象:第一声が「ゴォォォーーーーール」の人
最終更新:2013年10月16日 00:40