プロローグ

1 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:00:54.33 ID:31bSCGEDo

 風の噂で、奈良の山奥にある知る人ぞ知るお嬢様学校が来年度から共学化するらしい――と聞いた。



 ので、

 勉強した。

 勉強した。

 勉強した。

 吐血した。

 が、

 勉強した。

 で、

 受験した。

 ら、

 合格した。

 ので、

 須賀京太郎15歳。

 この春から阿知賀学院の生徒になります。



 ヒャッッッッッホホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ。



2 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:05:15.89 ID:31bSCGEDo

……
…………
………………

京太郎「あ゛ー、やっと終わった……」

 そして4月4日。

 入学式を翌日に控えたこの日、俺は奈良への引越しを完了させた。

 最後の荷物を片し、開いた窓から外の景色を眺める。

 山。

 山しかねぇ。

 長野も大概田舎だが、こちらも負けず劣らずといった風情だ。

京太郎「……」

 これまでの15年を過ごした故郷を離れ、独り。

 これからの3年をこの町で過ごす。

 両親には当然の如く反対された。

 でも俺は諦めなかった。

 諦める訳がなかった。

 何故なら、

 この進学は普通の期待値では測れない――俺の薔薇色の高校生活が懸かっているのだから!!

4 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:07:35.41 ID:31bSCGEDo

 俺は戦った。

 やれ自主性がどうとか、やれ人生経験がどうとか。

 己のゲスな本音は包み隠し、もっともらしい言葉を総動員させ、決死の説得を重ねた。

 その結果、渋々ながらも奈良での一人暮らしを認めさせるに至ったのだ。

 もちろん、心残りがないと言えば嘘になる。

 特に心配なのは、長野に置いてきたペットと幼馴染みのことだ。

 京太郎「母さん、ちゃんとエサやってくれてるかな……咲に」

 などとボケてもツッコミは返ってこない。

 どころか、カピも咲も、しばらくは頭を撫でてやる機会さえないのだと考えたら、やはり寂しい。

 しかし何も今生の別れという訳ではない。

 門出にはそれなりの愁嘆場もあったが、出来ればゴールデン・ウィークに、無理でも夏休みには帰省するつもりだ。

 だから、



京太郎「それまで元気で待ってろよ、咲――!」

 春の空に、あの花の咲いたような笑顔を思い浮かべ、俺も笑った。



京太郎「あ、こっち西だ」

 長野と逆じゃねぇか。

5 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:08:43.12 ID:31bSCGEDo

京太郎「……お?」

 その時。

                                        ウオオー! ウオオー!>

 なんか聞こえた。

 これは……声か?

 俺から見て右手――麓の側から聞こえてくる。

 気になってそちらに目を向けていると、10秒も経たない内に音の出所と思しき影が見

???「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」ドヒューン

 えなくなった。

京太郎「………………速ッ!?」

 なにやだこわい。

 今、猛烈なスピードで俺の視界を横断したのは……人? 獣?

 辛うじて二本足で走っていたように見えたから、恐らく人間だろうけど。

 それにしてもなんつー勢い。怖いわもー。

 お陰様で感傷ムードも霧散しちまったし、日用品の買い出しにでも行こうかな。

7 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:10:06.83 ID:31bSCGEDo

 と。

 更に、その時。

                              オーイ! チョットマッテー!>

 またなんか聞こえた。

 今度は人の声だと分かった。

 反射的に、窓を閉めようとしていた手が止まる。

 さっきと同じ方向。距離は近い。常識的な速度で足音が迫る。

 そして、

???「こーらー! 待ちなさいってばー!!」

 声の主は女の子だった。

 しかも、めちゃくちゃ可愛い。

 髪は薄桃色で両側に細い房を作った、いわゆるツーサイドアップ。

 それが明るく春めいたファッションによく馴染んでいる。

 言い方は悪くなるが、こんな山奥にあんな垢抜けた子がいるんだなぁ、という印象を受けた。

8 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:12:17.17 ID:31bSCGEDo

 そんな美少女が今、俺のアパートの真ん前で立ち止まり、乱れた息を整えている。

???「はぁ、はぁ、はぁ……っもー! 一人でどこまで行く気なのよあの体力バカは!?」

 忌々しげに声を荒げる彼女は、多分あの未確認暴走物体の関係者なんだろう。

 俺から見て左手――頂の側を睨んでいる。

???「大体あたしが付き合うって言ったのはあくまで散歩で、ランニングや登山じゃないっての! ったく……」ブツブツ

 耳に届く言葉の端々から、女の子の気の強さがバシバシ伝わってくる。

 見かけによらず結構キツい性格をしているのかもしれない。

 ま、あのルックスならそれでも余裕でお釣りが返ってくるけどな。

???「……はあ。行こ」

 やがて諦めがついたのか、女の子がまた歩き出す。

 もう自分から追いつくつもりはないらしい、のんびりとしたペースで。

 一部始終を見ていた俺の存在にはついぞ気付かないまま、ゆるやかな坂の向こうに去っていった。



 その間、俺の目は小気味よく左右に振られる少女の小尻に釘付けだった。

9 名前:プロローグ[saga] 投稿日:2013/05/26(日) 00:17:52.16 ID:31bSCGEDo

 しばらくして。

 我に返った俺は、ほぅと溜め息をこぼした。

京太郎「可愛い子だったなぁ……」

 地元の子かな?

 歳は俺と同じくらいだろう。

 ちょっと遊んでそうな外見はマイナス要因と言えなくもないが、総合的には十分プラスだ。

京太郎「あんな子と仲良くなれたら……」

 それだけで、俺が理想とする薔薇色の高校生活は約束されたようなものだ。

京太郎「……よし」

 燃えてきた。

 なんせ明日から通うのは元お嬢様学校。

 やまナシ・落ちナシ・意味ナシで幕を閉じた中学時代とは比べものにならないほど恵まれた環境だ。

 あの子レベルは難しくても、無限に近いチャンスと選択肢が待っている! ……はず!



京太郎「頑張るぞ、おーーーっ!!」



 希望に満ちた新生活に向け、俺は気合いの声を上げた。

 ら、

 外を通りかかった幼女に白い目で見られた。

 メゲるわ。

【TO BE CONTINUED...】
最終更新:2013年10月16日 00:37