フタリノ夜

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287 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/18(水) 22:07:50.01 ID:P9jGEkUXo

 一学期が終わった。

 週が明けたら遂に夏休みだ。

 俺が奈良に来て、阿知賀に来て初めての夏。

 憧。穏乃。玄さん。宥さん。鷺森部長。レジェンド。

 皆と過ごす、きっと最初で最後の夏。

 その始まりだ。

京太郎「はぁ……暑ぃ」テクテク

 今日の部活は早々にお開きとなった。

 レジェンド曰く、週末の遠征と『その次』の準備で忙しいらしい。

 ので、一度帰宅してから再度外出。夕飯の買い出しなんぞ済ませて帰路なう。

 8月も間近の太陽が照りつける道を歩く。

 と、

♪デンワダヨ、チャントデトケヨー

 ケータイが鳴った。

288 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/18(水) 22:30:04.03 ID:P9jGEkUXo

京太郎「望さんからか」

 メールでなく電話とは珍しい。

 急用ってことかな。

ピッ

京太郎「もしもし、あなたの須賀京太郎です」

望『そっちに憧いる?』

 スルーされた……って、

京太郎「憧ですか? いませんけど」 

望『ほんとに?』

京太郎「本当ですって、今外ですし」

望『ありゃ。ヨミが外れたかー』

京太郎「どうかしたんですか?」

望『んーん、別に大したことじゃないのよ。憧が家出したってだけだから』

京太郎「家出!?」

291 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/18(水) 22:57:24.30 ID:P9jGEkUXo

望『そっかー京太郎くんのとこじゃなかったかー』

京太郎「な、何を暢気に言ってますか!」

望『だって稀によくあることだし』

京太郎「あるの!?」

望『あるよー。高校入ってからは初めてだけど』

京太郎「あるのか……」

望『だから行き先だけ把握しとけば後は放置ってのが定番かな』

京太郎「はあ……いやいや、やっぱマズいですって」

望『そぉ?』

京太郎「そうですよ。オレも部屋に荷物置いたら探しますから――」

 話している内にアパートの前に着いた。

 足早に階段を登る。

 と、

京太郎「あ」



                     -――─-
                  . . : : : : : : : : : : : : : : : : :` : 、
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           ': :/:|: V、、 ,       r' ..:j必イ|: |:ー=/: : : : : : :│   : : i  「あ」
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296 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/18(水) 23:28:55.56 ID:P9jGEkUXo

 いた。

 俺の部屋の前、扉に背を預けて座り込んで。

 憧が。

京太郎「……」

憧「……」

 沈黙。見つめ合う。

 と言っても色気はない。

 ある種の緊張があった。

 憧は私服で、ボストンバッグをたすき掛けにしている。

 お陰で慎ましやかな胸もいくらか強調されていて……ゲフンゲフン。

 その時。

望『おーい、京太郎くーん? もしもーし』

憧「ッ!」

 ケータイからの声で瞬時に状況を把握した憧が動き出――

ガシッ

京太郎「もしもし望さん? 被疑者を確保しました」

憧「裏切り者ぉー!」

 失敬な。

301 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/19(木) 00:10:00.23 ID:b6/phh3So


京太郎「……」

憧「……」

望『……』

 とりあえず部屋に上げた。

 憧も、望さん(ケータイ越し)も。

 ケータイはハンズフリーにして卓袱台の上に。

 そして俺と憧は正座していた。

 さながら携帯電話に説教されるような構図だ。なんで俺まで。

望『で、確認なんだけど……帰ってくる気はないんだよね?』

憧「」プイッ

京太郎「サー、そっぽ向いてますサー」

望『もー、いつまでもお子様なんだから』

憧「ッ……そうやって大人ぶるのやめてよ!」

望『はいはいごめんごめん。まあ居場所が分かればいいや』

京太郎「サーッ!?」

309 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/19(木) 00:45:17.89 ID:b6/phh3So

望『お父さん達には上手いこと言っとくから、明日の朝には帰ってきなさいよー』

憧「……ふんっ」

望『じゃ、そゆことで――』

京太郎「ちょ、ちょっと待ってください!!」

望『うん? どうかした?』

京太郎「どうかしかしてないですよ! 連れ戻さなくていいんですか!?」

望『いいよー』

京太郎「軽っ!?」

望『無理に連れ戻してもまたすぐ喧嘩になるからねぇ。ほとぼりが冷めるまでは顔合わさない方がいいのよ』

京太郎「そんなもんですか……?」

望『そんなもんですよ』

京太郎「……でも、あの、俺一応男なんすけど……」

望『大丈夫! 全然心配してないから!』

京太郎「逆にひでえ!!」

望『あぁ違う違う。そっちじゃなくて』

京太郎「え?」



望『心配してないのは憧の方。ちゃーんと一番キワドイ下着を持ってったみたいだから♪』



京太郎「ぶっ!?」

憧「ふきゅっ!?」

316 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/19(木) 01:28:52.80 ID:b6/phh3So

望『それじゃ、改めて愚妹をよろしくねー♪』プツッ

京太郎「あっ、ちょっと!?」

ツー、ツー

京太郎「……」

 切れた。

 部屋には俺と憧の息遣いだけが残った。

憧「お……お姉ちゃんのばかぁ! なんでそーゆーこと言うのよ、もうっ!///」

 通話の役目を終えたケータイに向かって怒鳴っている憧。

 まあ男の前で自分の下着のチョイスをバラされたら当然か。

 だが、今の問題はそこじゃないだろう。

京太郎「……憧」

憧「ッ」ビクッ

京太郎「まさかとは思うけど、うちには泊まらないよな?」

憧「……」

京太郎「うちに来たのは望さんの追跡を逃れる為とかで、本当は今から穏乃んちにでも行くんだろ?」

憧「……」

京太郎「……憧?」





                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\
               /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ
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    /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i
.   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|
  ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|  「……だめ?」
  | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |
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京太郎「」

349 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/19(木) 22:09:25.59 ID:b6/phh3So


京太郎「タオルケットは予備があるからいいとして、寝る場所と枕は……」

憧「床でいいわよ。枕はクッションで」

京太郎「……なあ、やっぱ俺のベッド譲ろうか」

憧「い、いいってば! 泊めてくれるだけで十分!」

 結局、NOと言えない俺だった。

 だって仕方ないだろ、嬉しいんだよ。

 いや憧が泊まることがではなく、憧に頼られることが。

 こう、誇らしいというかなんというか。

 “憧係”として見過ごせないだろ、うん。

 まあ幸い(?)憧は男嫌いだ。

 男と一夜を共にすることに深い意味が付帯することはない筈。

 となれば俺が気を付ければいいだけの話である。

 憧に指一本とて触れなければいいだけの話であるのだ。

京太郎「……」

 指、一本くらいなら……

356 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/19(木) 22:44:03.68 ID:b6/phh3So

憧「よっ、と……」ドサッ

 玄関先に置きっぱなしにしていたボストンバッグを壁際に移動。

 これだけで準備らしい準備は終わってしまった。

 つまり。

 これから明日の朝まで、憧と二人っきりということだ。

京太郎「……」

憧「……」

 はい気まずーい。

 知ってたよー分かってたよー。

 どれだけ建前を並べたところで高校生男女がひとつ屋根の下なのだ。

 意識するなというのが無理な相談である。

 しかし後には引けない。

 「楽しく過ごす」。「間違いは起こさない」。

 「両方」やらなくっちゃあならないのが“憧係”の辛いところだな。

 覚悟はいいか? 俺は……微妙だ。

357 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/19(木) 23:20:35.44 ID:b6/phh3So

京太郎「あー……憧」

憧「な、なにっ?」

京太郎「暇、だよな。なんかしようぜ」

憧「ぅ、うん。どうする? 何する?」

京太郎「そうだなぁ、ゲームは携帯機しかないし……」

憧「麻雀とか」

京太郎「ウチに卓はねーよ」

憧「ネトマなら出来るんじゃない?」

京太郎「片方は見てるだけになるだろ。それに、たまには麻雀から離れようぜ」

憧「難しいこと言うわねアンタ……」

京太郎「そこまで難しくないだろ……」

憧「だって毎日麻雀漬けなんだもん、急に切り替えられないわよ」

京太郎「まあなあ……でも、うーん……テレビも何かするって感じじゃないから……あ!」

憧「何か思いついた?」

京太郎「ああ。憧、漫画は好きか?」

363 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/20(金) 00:01:50.85 ID:OzTjGXUZo

憧「漫画? 少女漫画なら結構読むけど」

京太郎「じゃあ少年漫画は未経験か……」

憧「ふっきゅ」

 何を連想したやら言葉を詰まらせる憧に背を向け本棚の前へ。

 そこから一冊の本を抜き取って、また憧と向かい合う。

京太郎「これ読んでみないか?」

 そして差し出したのは、

憧「……ジョジョの奇妙な冒険?」

京太郎「おう」

憧「これを読むの? あたしが?」

京太郎「おう!」

憧「……え~」

京太郎「おうおう、なんだそのリアクション。面白いんだぞ?」

憧「でも……」

京太郎「でも?」

憧「絵が気持ち悪い」

京太郎「もっとオブラートに包めや」

375 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/20(金) 00:42:40.55 ID:OzTjGXUZo

憧「だって~」

京太郎「だってじゃない! そりゃあ人を選ぶ画風なのは事実だが」

憧「ファンでも否定しないのね……」

京太郎「だがそれを補って余りある程に魅力的なんだ! 読もう!」ズイッ

憧「う、ウザい! そういう押し付けって本人が思ってるよりウザいのよ!?」グイッ

京太郎「おうっ……そ、そうか……すまん」

 確かに憧の言う通りだ。

 ファン故の盲目、ファン故の傲慢は時として新参者を遠ざけてしまう原因となる。

 謙虚さを兼ね備えなければ、清く正しく作品を愛することは出来ない。

京太郎「悪い、つい熱くなっちまった」

憧「あ、うん。別にいいけど……」

京太郎「憧と共通の趣味で盛り上がれたら楽しいと思ったんだけどな……」

憧「」ピクッ

390 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/20(金) 01:12:57.93 ID:OzTjGXUZo

京太郎「でも無理強いは良くないよな……すまん」ペッコリン

憧「……ね、ねえ、京太郎?」

京太郎「あん?」

憧「それ、本当に面白いの?」
                                     保証
京太郎「ああ。ちょっとグロいけど、面白さ自体は保証する」OK

憧「……ひょっとして、アンタが灼さんと時々話してる漫画って、これ?」

京太郎「ああ、そうそう。鷺森部長も読んでるんだよ」

憧「すっごい楽しそうに語ってるわよね」

京太郎「実際楽しいからなー。巻数も多いから好きになるポイントも様々でさ、ファン同士で意見を交わすのは醍醐味だよ」

憧「へー……」

京太郎「まあ普通の女の子にはキツいかもな。他の漫画と交換するから返してくれるか?」

憧「……」

京太郎「憧?」

憧「あ、あたしも読んでみよっかな……」

京太郎「わぁい」

433 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/21(土) 21:57:32.32 ID:J1+uw4LFo

……
…………
………………

 そこそこの時間が経過した。

 俺は俺で読書中。

 憧は憧で、

憧「……」ペラッ

 絶賛読書中だ。

憧「……」ペラッ

 黙々。読々。

 何度も顔をしかめながら、それでも夢中になってくれていた。

 喜ばしいことだ。

 が、

京太郎「……」チラッ

憧「」ペローン

 夢中になりすぎてパンツ見えてる。

443 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/21(土) 22:33:56.54 ID:J1+uw4LFo

京太郎「……」

 ありがとうございます。

 間違えた。

 どうしよう。

 憧は、それが定番の読書スタイルなのか、壁にもたれて膝を立てている。

 スカートで。

京太郎「……」

 このバカ!

 あまり意識されても困るが、されすぎないのはもっと困る。

 今夜一夜を共にしようという男に、そんな無防備にピンクの……

 ……ていうかピンク好きだなお前。髪もピンクだからか。

 俺が初めて見たのも桜色だったし、なんだか感慨深い。

京太郎「……」

 このバカ!

 パンツ見て感傷に浸ってるんじゃあねーよ!

 どうしよう。どうにかしよう。

 どうしようか――

 ①直接指摘する

 ②男は目で語る

 ③婉曲に伝える

450 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/21(土) 23:26:59.73 ID:J1+uw4LFo

憧「~♪」ペラッ

京太郎「……」

 まず①。『直接指摘する』。

 これは――

京太郎『ヘーイ憧ゥー! パンチラもいいけどサー、時間と場所は弁えなヨ!』

憧『ふきゅっ!? みみみ、見ないでよバカぁーーーーー!!///』

 ――となる。間違いなく。

 となると、気まずくなる。間違いなく。

 そしてこれは勘だが、それでも憧は俺の部屋に泊まる。

 となるとなると、すごく気まずくなる。間違いなく。たっぷり。

 では②、『男は目で語る』。

 これは――駄目だろうな。

 何故かって? 帽子がない。

 男の目元の冷たさと優しさを隠す帽子がなければ、俺の心は1/3も伝わらない。

 男の目元のスケベさとやらしさが視線に乗って憧に届き、後は①と同じ展開だ。

 残るは――

京太郎「……憧」

憧「なにー?」





   /  /     |  ハ       |  | i 、 ヽ  \     \_
.   i  /     |  | |       |  | |、 i  ゙、 、 \_     _>
   |  i   | i  |  | |       |  ハ ハ _i!_ i   \ ヽ` ̄ ̄
   |  |   |+--|、_|! |   | i! ,/.ィ'|"i´ ハ  | i  ヾ 、 ヽ
   |  |   |.|ヽ |、_|王!ー  |./i .;"´/=、!/ | ! |   \ 、i      人
.   !. r|   i.|、!,,ィ'":::._iミi!  |/ /彳:::: r:!ヽ,| ,イ | 、_   \      `Y´
.   | |^!.  N 《 _、o;;;;i_ 丶、/ / ┴゜‐'"´ !イ | λ i` ー--ヽ
    ! | i、i、 ゙、  ` ̄ ̄   メ(        /^|イ `、|
   ノi \ヾi:.、、         i!      i ノリ   `
    |  ヽ__i                 |イ|/       「ご覧、窓の外を。空の青。雲の白。山の緑。どれも夏の色をしているよ。なのにキミは春のように柔らかく優しげに咲いた名も無き小さな花のようにパンツ見えてるぞ」
    ヽ i、  i    ____....,     |/
      ヽ!、  i\   `ー-- ―'´  /、!
       i !i 、 \     ̄´  /!/       人
         |ハ,i、! 、 \      / ./.|       `Y´
         ト、! ゙、  `ー---'′ /|V





憧「ふきゅっ!?///」

 口下手でした。

458 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 00:14:13.14 ID:a/VMzrwco

憧「みみ、みみみみみみみ――」

 ああ、結局①か。

 慣れというのは怖い。俺は既に次の展開に対する用意をしていた。

 何が飛んでくる?

 本か、コップか、拳か、リモコンか。

 なんでもいい。なんでも避けられるし受け止められる。

 が、ここは敢えて一発貰うことで憧の怒りを発散させよう。

 ああ、こんな自己犠牲の上に成り立つ処世術なんて身に付けたくなかった。

 そんなことを考えていたら、

京太郎「……あれ?」

 来ない。

 本も、コップも、拳も、リモコンも。

 憧は真っ赤な顔で俺を睨むのみだった。

 そして、

憧「………………見ないでよ、ばか……っ///」

京太郎「」

 いっそ殴ってほしかった。

463 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 00:42:09.21 ID:a/VMzrwco

……
…………
………………

 またそこそこの時間が経過した。

 依然として憧は読書中。

 ただし、脚はピシッと正座をして完全防御。

 パンツのパの字も見えやしない。

 その状態で先の失態を忘れようと、なかったことにしようと読書に耽る憧。

 巻数から察するに、そろそろシーザーがアレする場面だろう。

 話し掛けて水を差すのは躊躇われる。

 なので憧の邪魔にならないよう静かに取り込んでおいた洗濯物でも畳――

京太郎「あ」

 やべえ、卵買うの忘れた。

 ちょうど切らしてて一個もないんだ。

 買ってこなきゃ。

京太郎「悪ぃ憧、ちょっと出てくるな。すぐ戻るから」

 返事を待たず部屋を出た。

469 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 01:10:12.89 ID:a/VMzrwco


憧「ふぅ……」パタン

 本を読みかけのまま閉じた。

 胸が一杯で、とてもじゃないけど読み進められなかったから。

 まさかあのキャラクターがあんな結末を迎えるなんて……

 金髪で、長身で、キザで女ったらしだけど友情に厚いあのキャラクターが。

 読んでてどんどん好きになってきていただけに、ショックが大きい。

憧「……ん?」

 なんだろう、誰かに似てるような。

 気のせいよね。そんな漫画みたいな人、現実にいる訳ないし。

 それにしても一気に読んで疲れちゃった。

 京太郎にお茶のおかわりをお願いしようかな。

憧「……ん?」

 京太郎がいない。

475 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 01:45:24.20 ID:a/VMzrwco

 なんで?

 さっきまで確かにいた筈で、あろうことかパンツまで見られた筈なのに。

 忽然と姿を消していた。

 京太郎が座っていた場所には今、畳まれていない洗濯物が積み上がっていた。

憧「……」

 落ち着けあたし。冷静に考えろ。

 多分、京太郎は出掛けたんだ。

 それにあたしが気付かなかっただけ。

 情けない話だけど、そう考えるのが妥当よね。

 だとしたら、慌てず騒がず待っていればいい。

 そう、例えば居候のお礼に洗濯物でも畳みながら。

 うん、いいかも。女子らしく几帳面で家庭的な面をアピール出来るし。

憧「……」

 いや別に京太郎に対して何かアピールする必要性なんて全然ないんだけれども。

憧「……」

 でも、ちょっと、お嫁さんみたいだ――とか、思ってない。まったく。これっぽっちも。

477 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 02:30:28.97 ID:a/VMzrwco

 は、早く作業に取り掛からなくちゃ。

 無心でやれば雑念も消える筈。

 この京太郎のシャツとか、京太郎のタオルとか、京太郎の靴下とかを畳めば――

憧「ふっきゅ」

 無理。

 意識しちゃうに決まってるじゃない。

 京太郎が袖を通したシャツ。京太郎が汗を拭ったタオル。

 例え洗濯済みだとしても。

憧「………………」

 これらの衣類があるってことは。

ゴソゴソ

憧「!」

 やっぱりあった。

 京太郎の、

 パ










ガチャッ

京太郎「買い物しようと外まで出たのに財布を忘れてどうすんだっつーの。誰の頭が愉快なサザエさんだっつーの――って、憧?」

483 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 02:53:47.46 ID:a/VMzrwco


 とんぼ返りした俺の部屋で、憧が俺のパンツを握り締めていた。










憧「ち、ちがうのっ! これは洗濯物を畳んであげようとして、それで……だから……ちがうから! ぁ、あたし、そんなんじゃ……」グスッ










 べそかきながら弁解された。

 なんも言えなかった。

500 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 21:44:23.53 ID:a/VMzrwco

……
…………
………………

 またまたそこそこの時間が経過した。

京太郎「……」

 流石に不毛というか、空虚さを覚える。

 若い男女が部屋で二人っきりという極上のシチュエーションを割と全力で浪費してる気がする。

 漫画だけ与えて放置とか、まるで男友達にする仕打ちだ。

 しかし、結局こうするしかなかったようにも思う。

 下手を打って昼の内から険悪になったり、意識しすぎず済んでいるだけ上等だ。

 空はすっかり茜色。

 いよいよ夜が来る。

 本当の戦いはこれからだ。

京太郎「憧ー、晩飯だけど」

憧「あ、うん。もうそんな時間? 任せて、泊めてもらうお礼に今夜はあたしが――」

京太郎「もう出来てるから冷めない内に食っちまおうぜ」サラリ

憧「えっ!?」

504 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 22:23:56.38 ID:a/VMzrwco

 驚いた憧が漫画から顔を上げる。

憧「で、で、で、出来てるって……出来ちゃったの!?」

京太郎「おう、出来ちゃった」

 なんかいかがわしいな。男女逆だけど。

 俺の即答を受け、憧は表情を悲壮なものへと変えていく。

憧「い、一体いつの間に……?」

京太郎「そりゃあ、お前が漫画読んでる間に」

憧「……!!」ガクッ

 そして手を突く膝を突く。

憧「何やってんのよあたしはぁぁぁ……! 一人暮らしの男子高校生の部屋に転がり込んで、家事も手伝わず漫画読んでるだけとか……!」

京太郎「あー……まあ気にすんなよ。声掛けなかった俺も悪いしさ、うん」

憧「気付かなかったあたしの方が悪いに決まってるじゃないバカぁ!」ウワーン

京太郎「罵倒された!?」

508 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 23:07:42.17 ID:a/VMzrwco

憧「ああもう、ほんとばか……あたしのばか……」ブツブツ

京太郎「そんなに落ち込むなって。上げ膳据え膳は気が引けるってんなら、後で皿でも洗ってくれよ」ポンポン

憧「京太郎……」

京太郎「な?」ニッ

憧「……ありがと。それにしてもいい匂い……つくづく気付けなかったのが情けないわ」スンスン

京太郎「メインは肉じゃがだぞ。最近練習してるんだ」

憧「………………トドメ刺された気分だわ」ドヨーン

 どないせーと。

 もう構わず皿を並べてしまおう。

 肉じゃがの他には、玉子焼きとほうれん草のおひたし。それと味噌汁。

 おひたしと味噌汁は昨日の残りだが、まあ気付かれまい。

 という訳で、

「「いただきまーす」」

 夕食の時間だ。

513 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/22(日) 23:41:43.16 ID:a/VMzrwco

パクッ

憧「……」モグモグ

京太郎「どうだ?」

憧「……悔しい」グヌッ

京太郎「褒め言葉として受け取っておくぜ」フフン

憧「はいはいせいぜいありがたく受け取っときなさいよ! まったくおいしいんだから!」パクパク

京太郎「味付け濃かったりしないか?」

憧「ん、別に平気だけど」

京太郎「そか。こういうのは地域差じゃなくて個人差なのかな」

憧「そっか、アンタ長野出身だったわね」

京太郎「忘れてたんかい」

憧「だって高校入学から毎日顔合わせてるし……」

京太郎「まあなあ……よく飽きもせずって感じだな」

憧「ちょっと、面と向かって飽きるとか飽きないとか失礼じゃない?」

京太郎「だって言うだろ、『美人は三日で飽きる』って」

憧「ふ、きゅ……っげほ! ごほごほっ!」

515 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/23(月) 00:06:07.75 ID:/VPhDb8fo

京太郎「おぉう、大丈夫か? ほれ麦茶」スッ

憧「あ゛りがど……んっく、んっく……ぷはっ!」

京太郎「がっつくから喉に詰まらせるんだよ」

憧「アンタが恥ずかしいこと言うからでしょ!?」

京太郎「オレェ?」

憧「あーストップ読めたわアンタどうせアレでしょ、「俺は思ったことを言っただけなんだけどなぁ」とか言うんでしょ、ライトノベルみたいに!」

京太郎「そこは「次にお前は、「俺は思ったことを言っただけなんだけどなぁ」、と言うッ!」と言ってほしかった」

 「」が多い。

憧「ハッ……し、しまった、不覚だったわ」グヌヌ

京太郎「面白かったか? ジョジョ」

憧「うん、意外と……って言ったら失礼か。京太郎の言う通り、魅力的な漫画だったわ」

京太郎「気に入ってもらえて何よりだよ。ちなみに俺は4部が好きなんだ」

憧「え、まだ読んでないんだけど」

京太郎「そらそうだ」

 半日足らずで30冊弱読めたら凄い。

526 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/23(月) 00:52:17.29 ID:/VPhDb8fo

憧「じゃ、じゃあ食べ終わったら続きを」

京太郎「待て待て。もう今日はやめとけ」

憧「でも……」

京太郎「いくらでも機会はあるだろ。なんなら貸してやるし」

憧「うー……仕方ないわね、家主の意向には従うわ」

京太郎「そこまで大袈裟な話でもないんだけどな」

憧「けど漫画がダメならどうやって時間潰そうかしら……他に何かない?」

京太郎「他にかぁ……中学の卒業アルバム見たりとか定番じゃないか?」

憧「えっ卒アルあるの? 見たいかも」

京太郎「ないけど」

憧「ないの!?」

京太郎「ないよ」

 実家に置いてきたのだ。

 咲とのツーショット率が脅威の9割を超えるので、手元にあるとホームシックを引き起こしそうだから。

534 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/23(月) 01:17:15.29 ID:/VPhDb8fo

憧「なによ期待させといて……」プクー

京太郎「じゃあ代わりに憧の卒アル見せてくれよ」

憧「いや家にあるんだけど」

京太郎「近所なんだから取ってくればいいじゃん」

憧「あたし家出してるんだけど」

京太郎「」ハッ

 忘れてた。

憧「……なによ、あたしの中学時代の写真とか見たいの……?」モジモジ

京太郎「まあ興味はあるわな」

憧「だ、だったら今度、見せてあげても……いいけど?」

京太郎「マジか。楽しみにしとくわ」

憧「その代わり、京太郎のもいつか見せてよね」

京太郎「その為には一度帰省しないとなー。いつになるやら……」

 夏休み、帰れるだろうか。

 予感だが、無理そうな気がする。

548 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/23(月) 22:17:38.19 ID:/VPhDb8fo

……
…………
………………

♪ピロリロリーン

「「!」」

『オ風呂ガ沸キマシタ』

「「……」」

 ついに。

 ついにこの時が来た。

 否が応でも緊張が高まる。

 今までは憧が漫画に熱中していたお陰で何事もなく過ごすことが出来た。

 しかし、ここからは夜のステージだ。

 誤解を招くことを承知で、この須賀京太郎の人生と経験と魂を込めて敢えてここで公言しておこう。

 ToLOVEる、不可避。

 それでも避けなければならない戦いが、ここにある。

550 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/23(月) 23:00:06.21 ID:/VPhDb8fo

京太郎「……さて」

 黙っていても始まらない。

 切り出すのは俺の役目だろう。

京太郎「風呂、どっちから入る?」

 なるべく平静を装って、なんでもない風に。

憧「そッ、そそそ、ソウネッ!」ガタガタ

京太郎「……」

 こいつはもう、本当にもう。

京太郎「憧から入れよ。俺は後でいいから」

憧「だ、ダメよ! そんな厚かましい真似出来ないって!」

京太郎「じゃあ俺が浸かったお湯に入れるのか?」

憧「ふぎゅ……へ、変なこと言わないでよ!///」

京太郎「しょうがないだろ、事実だし」

憧「せめて言い方ぐらい配慮してくれたって……」

京太郎「雄のエキスが染み込んだお湯に肩まで浸かれるのか?」

憧「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!///」

560 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/23(月) 23:45:29.05 ID:/VPhDb8fo

京太郎「そんな訳で、だ。お前が京ちゃん汁に浸かれないのは織り込み済みだから、気にせず先に入れよ」

憧「段々言い回しが気持ち悪くなってきてるんだけど!?」

京太郎「俺なりのユーモアだ」

憧「センスないからやめた方がいいわよ……」

京太郎「」ガーン

 どちらか片方、あるいは両方が一日ぐらい風呂を我慢出来れば手っ取り早く解決するのだが。

 生憎夏だし、生憎憧だ。入らずにはいられまい。

 必然、俺が先か憧が先かのどっちかだ。

 のどっちで(錯乱)。

憧「………………あの――」

京太郎「お前は次に、「だったら一緒に入ればいいじゃない!」と言うッ!!」

憧「……言わないけど?」

京太郎「」ガーン

 この時アコギ、意外に冷静。

566 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/24(火) 00:18:34.09 ID:fLRn1Pylo

憧「い、一緒に入るとかそれこそありえないでしょっ……やっぱりアンタが先でいいって言おうとしたの」

京太郎「へ? でも」

憧「平気よ……多分。あたしが先だとどうしても長風呂になっちゃうから京太郎に悪いもん」

京太郎「気にすることねーのに」

憧「そこまで恥知らずじゃないわよ。お願いだから先に入って。あたしの為と思って、ね?」

京太郎「うーん……」

 憧の為。

 そう言われると断りづらい。

 “憧係”の弱点を突かれたな。

京太郎「仕方ない。お言葉に甘えるとしますかね」

憧「うん。ゆっくり浸かってきなさい」

京太郎「へーい」スタスタ

 憧に見送られ、風呂場へ続く洗面所兼脱衣所へ向かった。

ガチャッ

バタン










ガチャッ

京太郎「ふぃーさっぱりした」

憧「早っ!?」

586 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/24(火) 21:43:54.99 ID:fLRn1Pylo

 タオルで髪を拭きながら部屋に戻ると、目を丸くした憧に出迎えられた。

憧「あ、アンタお風呂早すぎじゃない!? 前世何? カラス!?」

京太郎「失礼な……いや失礼か分かんねーか。でもとりあえず失礼な」

 カラスじゃないとも言い切れない。

 ひょっとしたらダークフレイムマスターかもしれない。

憧「だってお風呂って最低でも一時間は入るでしょ!?」

京太郎「それは長すぎだろ」

憧「普通よ普通!」

京太郎「いやいやいやいやまあいいや。とりあえず次は憧の番だぞ」

 問答は時間の無駄だと判断し、無理矢理にでも風呂に押し込んでしまおう。

憧「ちょちょ、そんなに押さなんひゃっ!? ど、どこ触ってんの!///」

京太郎「背中だよ! ああ、それとな憧」

憧「なによ、またダシがどうこう言うつもりじゃ――」

京太郎「俺シャワーしか浴びてないから。遠慮なく湯船に浸かってくれ」

憧「え」

ピシャッ

京太郎「……ふぃー」

 ミッションコンプリート。か?

594 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/24(火) 22:16:21.83 ID:fLRn1Pylo


 振り返るより先に、扉を閉められてしまった。

憧「……」

 なによ、京太郎のやつ。

 結局こういうことするんじゃない。

 こういうことをして、あたしには全然気を遣わせてくれない。

 ほんとやなやつ。いいやつすぎていやなやつ。

憧「あたしは別に、アンタが入った湯船でも平気なのに……って!」

 なに言ってんのあたし!?

 他意はないけど口に出すことじゃないでしょ。他意はないけど。

憧「…………」

 なんかもう、考えるの疲れた。

 京太郎の厚意に甘えて、お風呂でリラックスしよう。

憧「………………ん?」

 お風呂に入る。

 イコール裸になる。

 京太郎の部屋で。

憧「~~~~~~~~~~ッ!?///」ボフンッ

597 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/24(火) 22:48:56.52 ID:fLRn1Pylo

 う、わ。

 やばいやばいやばい。

 今更恥ずかしくなってきた。

 あたしと京太郎を隔てるものは一枚の扉だけ。

 そんな状態で服を脱ぐなんて。裸になるなんて。

 咄嗟に思い出すのはGW合宿の二日目。

 ハルエのアホな提案で行われた脱衣麻雀。

 玄の暴走や京太郎の無知が重なった結果の大敗北。そして混浴。

 あの時は……皆が一緒だったから赤信号でも怖くなかった。

 けど今は一人。京太郎と二人。

 比べ物にならない。

憧「……っ///」ドキドキ

 顔が熱い。

 胸が痛い。

 この状況をどうにかする為にも、一刻も早くお風呂に入らなくちゃ。

 覚悟を決めて、扉の向こうの気配に細心の注意を払いながら服を脱いだ。

599 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/24(火) 23:42:22.51 ID:fLRn1Pylo

ガラッ

 本当の本当に裸になって、恐る恐るお風呂場に足を踏み入れる。

 京太郎の部屋のお風呂場。

 アパートだから当然だけど、うちより手狭だ。

 裸のままで突っ立っているのが恥ずかしくて、急いで桶に汲んだお湯を浴びた。

憧「んっ」ピクンッ

 うちより熱めの温度設定みたい。肌がピリピリする。

 同じ行程をもう一度繰り返して身体に馴染ませる。

 そして、

チャプン

憧「ッ……はぁあ……♪」

 湯船に肩まで浸かって、ようやく人心地がついた。

 この至福の瞬間は、どんなお風呂でも変わらない。

 自分が今どこにいるかを忘れさせてくれる。

 警戒心まで忘れちゃダメだから、ちょっとくらい気に掛けておかなきゃだけど。

607 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/25(水) 00:27:56.11 ID:4nXoGnXro

 温かいお風呂のお陰で心に少しだけ余裕が出来た。

 浴室の中を見回す。

憧「……」

 ここで京太郎も裸になっぶくぶくぶくぶく。

憧「ぷはっ!」

 待って待ってやめてやめて。

 変なこと考えないで、あたし。

 のぼせて倒れたりでもしたら、それこそ乙女の一大事だ。

憧「……」

 でも、ここが京太郎の暮らしている場所なのは間違いなくて。

 今、あたしがその場所にいるのが、自分でも不思議だった。

 まるで夢か冗談みたい。

 でも現実で、しかも自分で決めたことだから。

 だから、余計に不思議な気分だった。

 でも、

憧「……」ブクブク

 嫌な気分じゃあ、なかった。










コンコン

京太郎「憧ー」

憧「ぶばあっ!?」ジャバジャババシャーンザブンザブーン!!

610 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/25(水) 01:13:04.93 ID:4nXoGnXro

京太郎「おおっ? どうした、すげー音したけど大丈夫か!?」

憧「ばっ、だっ、大丈夫! 大丈夫だから!」ゲホゲホ

 水を飲んだぐらい、この状況に比べたら大したことじゃない。

憧「そ、それより何!? なんのつもり!? あたし今裸なのよ!?」

京太郎「はだッ……そのことだけどな、お前着替え持っていくの忘れてたろ」

憧「あ゛」

京太郎「だから持ってきたんだけど、脱衣所まで入っていいか?」

憧「ちょっ!? やだ、持ってきたって下着を!?」

京太郎「バッグをだよ!! まだ風呂だよな、腕だけ入れるから中に置いとくぞ!」

 脱衣所の扉が僅かに開く音。

 どさっ、という物音が続いて、扉が閉まる。

 嵐が過ぎて、静まり返る浴場。

憧「……焦ったぁぁぁ」

 アレを見られたかと思った。

 アレを見られたら恥ずかしくて死んじゃうと思う。

 アレを――

憧「………………」

 ――穿くの? アレを?

613 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/25(水) 01:51:00.32 ID:4nXoGnXro

憧「……!」

 アレ。

 家を出る時、勢い任せに選んだアレ。

 アレ。

 店で買う時、まんまとお姉ちゃんの口車に乗せられて買ったアレ。

 穿くの? 着けるの?

 京太郎の前で?

 いやいや直で見せる訳じゃないけど。断じて。

 もちろんパジャマは着る訳だけども。

 けど、だからって、流石に気後れする。

 今夜は京太郎と二人きりだから。

 何か神懸かり的なToLOVEるに見舞われる可能性だって無視出来ない。

 あれ? だったら逆に着けるべき? 着けないべき?

 一応、地味というか普通の下着も持ってきている。

 あたしには選ぶ余地がある。

 いや、余地も何も、常識的に考えて選ぶべきは――

614 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/25(水) 02:01:47.30 ID:4nXoGnXro

……
…………
………………

ガラッ

憧「お、おまたせ~……」

京太郎「マジでな……予想を遥かに上回る長風呂だったよ……」

憧「ご、ごめんごめん。中々踏ん切りがつかなくて……」

京太郎「踏ん切り? なんだそりゃ、って……憧?」

憧「な、なに?」

京太郎「いや――なんでそんな内股なんだ?」





          ./               \
                              ヽ
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  .:.:.|    \ハ 《 _)汽   \イ忙汽トミ|:│7: : : : :|   |.:.|
  |: :|     |.:.i   乂ツ      乂)ツ彳: |^|.:.:.,..┴  .|.:.|
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  |: :|     i.:.: :.:.丶   ヽ つ   ィリ: : /       
  |: :|     |.:.:..:.,ィ≦> ._  _.. ´ Ⅳ: :./





京太郎「?」

636 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/25(水) 22:45:28.17 ID:4nXoGnXro


 風呂から出てきた憧は何故か内股気味だった。

 顔も火照っている……のは湯上がりだからか。

憧「京太郎、ドライヤー貸してくれる?」

京太郎「ああ。ほい」スッ

憧「ありがと」

ブォォォー

 ドライヤーの温風が憧の髪をふわりと持ち上げる。

 すると、こちらにまでシャンプーの香りが漂ってきて。

憧「~♪」

京太郎「ッ」

 あれ。

 うちのシャンプーってこんなにいい香りだっけ。

 自分で自分の匂いは分からないとか、そういうレベルじゃないと思う。

 だから、つまり、これは憧の匂いということか。

 やべえ。

 無性に恥ずかしくなってきた。

639 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/25(水) 23:51:36.87 ID:4nXoGnXro

 髪の間を指が通る度に、花が咲くように香りが広がる。

 ドライヤーが吐き出す熱気と相まって、目眩さえ覚える蠱惑的な香りだ。

京太郎「……っ」

 GW合宿でも週末遠征でも、風呂上がりの憧の近くにいたことは何度だってある。

 けれどそれは、もう髪も乾かしてしまった後の、香りの残滓に過ぎなかったのだと知る。

 凄いぞ、アイエヌジー。

 なんか、なんていうか、

京太郎「……エロい」

憧「ふきゅっ!?」

京太郎「え?」

憧「ふ、っきゅ、急に何を言うのよアンタは!?」

京太郎「オレェ? なんか言ったか?」

憧「言ったわよ! ぇ……エロいって!」

京太郎「秘書がやったことです。身に覚えがありません」

憧「もうちょっとマシな言い訳しなさいよ!!」

644 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/26(木) 01:06:37.52 ID:kS3LZvd9o

京太郎「いやマジで無意識だった。憧が髪乾かすとこ見てたら勝手に」

 ヒショ(上の口)ってか。ガハハ馬鹿野郎。

憧「なにそれ……ってか見ないでよ変態!」

京太郎「変態呼ばわりは酷くねえ!?」

憧「だって女の子の身支度をジロジロ見るとかデリカシー……が……」

京太郎「憧?」

憧「……やっぱ、見てていい」

京太郎「へっ?」

憧「やっ、違、無理して見ないようにしなくていいって意味だから!」

京太郎「ああ、まあ、もうジロジロは見ねーけど……いいのか?」

憧「無理言って泊めてもらってるんだもん、京太郎に不自由させるのは違うと思うし……」

京太郎「んな気を遣わなくてもいいのに。らしくねーぞ?」

憧「らしく……」

京太郎「うん?」

憧「な、なんでもない。じゃあ早く済ませちゃうから」

654 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/26(木) 21:50:17.89 ID:kS3LZvd9o

……
…………
………………

 夜も更けて――

 俺と憧は、リビングと寝室の境目で向かい合っていた。

京太郎「……準備はいいか?」

憧「う、うん……」コクリ

京太郎「……」

憧「……」



京太郎「俺は寝る! お前も寝る! 部屋は別々! 何も問題はない! はい!」

憧「アンタは寝る! あたしも寝る! 部屋は別々! 何も問題はない!」



京太郎「よし! ここの戸は朝まで開けないから安心して眠ってくれ!! 以上ッ!」

憧「了解! 気合! 入れて!! 寝ます!!!」

 いえーい、と無駄にハイテンションでハイタッチ。

 そのままそそくさ、引き戸を閉めて視界から隔離。

 電気を消す。向こうでも同じように動く気配があった。

憧「……おやすみ、京太郎」

京太郎「……ああ。おやすみ憧」

659 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/26(木) 22:53:54.94 ID:kS3LZvd9o

 タオルケットを胸の位置まで掛ける。

 冷房は一時間後に切れるようタイマーをセット。

 本来ならスウェットも脱いでパンツ一丁になるのだが……リビングには憧がいる。

 よって着衣。気を付けるに越したことはない。

 やや寝苦しいのは我慢して、今日のところは大人しく眠ろう。

京太郎「……つっても」

 困った。眠くない。

 不慮のToLOVEるを避ける為に早く就寝しようと決めたのだが。

 自覚した途端に手持ち無沙汰が加速する。

 ごろんごろんと寝返りを打っていると眠気はますます遠のいて。

 よせばいいのに、頭が考え事を始めてしまう。

 憧のこと。今日一日のこと。

 振り返れば、意外と平和だった気がする。

 俺と憧なのに。

 それだけ成長したということだろうか。

 憧も、俺も。

660 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/26(木) 23:33:33.46 ID:kS3LZvd9o

京太郎「う」

 なんて、湿っぽいこと(?)を考えていたら本当に水分が溜まってきた。一箇所に。

 寝付けないと僅かに催しただけで落ち着かなくなるのは俺だけだろうか。

 この時間から朝まで尿意を耐える自信は……ない。

 が、

京太郎「……」

 上体を起こした俺の視線の先には、扉。

 固く閉ざされた扉。

 別に鍵が掛かってる訳ではない、扉。

 憧のいるリビングへ繋がる扉。

 そしてリビングはトイレに繋がっている。

京太郎「……」

 背に腹は代えられない。

 起きていれば事情を説明出来るが――

コンコン

憧「ひやあっ!?」

 全然起きてた。

665 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/27(金) 00:22:44.27 ID:WUuPVj0mo

 ていうか、大分声が近かったぞ。

ガラッ

京太郎「あ」

憧「あ……」

 いた。

 目の前に。

 今までそこにあった扉に耳を当てていたような格好で。

京太郎「……何やってんだお前」

 見れば分かるけど。

憧「だ、だって……」ゴニョゴニョ

京太郎「……あー、とりあえずどいてもらっていいか。トイレ行きたい」

憧「え、ぁ、ごめんっ」サッ

京太郎「サンキュー。それと、もうひとつ頼みたいんだけどさ」

憧「え?」





     , ´   /  .' / .'  '        | l  | l |  |
   /    / '   |  | | l|  |    l | ,  } l |  |
 _/    イ /   l|  |_,∧_{  :.   ,-|-}-/、 ,  |  {   _   ___,-、 __
  ̄ ´   / /    {  |、{ l∧  {、   | }/イ/},イ /  l_、  { Y´ /  '   }- 、
      {〃   r∧ |ィ斧ミ从 、Ⅵ , イ斧ミ、 } /l|  l、r  ̄ {   {  |  / _ }、
      /    /{ 从{、 Vzリ  \Ⅵ/ Vzり /イ } / |   乂_人_/、_/   / \
       /   //从 l∧\       ,\        | /イ/   }==   ̄ ̄ ̄ ー く
     /  イ'  {/l∧ ∧      、        ,イ/j'  /             \
    ̄ ̄        ー∧         _,     从    ,                
               ヽ 、    ` ¨  ̄   ィ }/    /     「牛乳。鍋で温めといてくれるか?」
                 ∧ \       / |/>  ,     
                  {(从_|     --  ´ 「/// |  {
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684 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/27(金) 22:23:16.17 ID:WUuPVj0mo


京太郎「ほれ。熱いからゆっくり飲めよ」コト

憧「うん、ありがと」

 あの雨の日と同じ、はちみつ入りのホットミルク。

 せいぜい三ヶ月前のことなのに、もっとずっと昔のことのようだった。

京太郎「ま、緊張するなって言う方が無茶だわな」

憧「うん……ごめんね」

京太郎「謝ることねーって。それが普通だ」

 ソースは咲。

 あのポンコツでさえ初めて俺の家に泊まった時は緊張で眠れなかったんだ。

 その時も、こうして隣同士に座ってホットミルクをちびちびと啜ったものだ。

憧「大丈夫って何度も自分に言い聞かせたんだけど、電気を消したら急に不安になっちゃって……」

京太郎「扉の前で聞き耳を立てていた、と」

憧「ごめんなさい」ペッコリン

京太郎「だから謝んなって。逆にこのシチュエーションで爆睡とか憧らしくないだろ」

憧「……あたし、らしく……」

京太郎「ん?」

689 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/27(金) 23:01:37.41 ID:WUuPVj0mo

憧「……ねえ。今日のあたし、変だよね」

京太郎「うぇっ? あー、いやー……」

憧「誤魔化さなくていいわよ、自覚はあるから」

京太郎「……まあ、ちょっと調子狂う感じはする、かな」

憧「あたしも」クスッ

 なんか変なんだよねぇ、と繰り返した。

 それからぽつりと、

憧「なんであたし、京太郎のとこに来たんだろ」

 俺が訊きたい。

憧「ほんとなら、最初に京太郎が言ったみたいにしずんちにでも泊まるのが普通なのにね」

京太郎「少なくとも俺んちに泊まるよりは普通だな。同い年だし、女同士だし」

憧「うん。だけどお姉ちゃんとケンカしてカッとなって、家出してやるって考えた時に――」



憧「――真っ先に浮かんだのが、京太郎の顔だったの」



693 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/28(土) 00:05:06.34 ID:ZxEjISoCo

京太郎「ッ」

憧「ケンカ自体は大した原因じゃなかったんだけどね」

憧「よくある、くだらない姉妹喧嘩だったんだけど」

憧「やっぱりケンカの直後はすごくイライラしてて」

憧「誰かに愚痴りたい、愚痴ってスッキリしたいって思ってたの」

京太郎「……ん? でも、そんな話してないよな」

憧「うん。なんかどうでもよくなっちゃった」

京太郎「おい」

憧「言ったでしょ、くだらない姉妹喧嘩だって」

京太郎「だからってなぁ……」

憧「アンタの顔見てたらなーんか気が抜けちゃったのよ」

京太郎「……褒め言葉として受け取っておくからな」

憧「いーよ、褒めてるもん」

698 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/28(土) 01:11:10.41 ID:ZxEjISoCo

京太郎「へいへい……つーか、いい機会だから言っとくけどな」

憧「なに?」

京太郎「最近お前、ちょっと危機感が足りてないんじゃないのか?」

憧「う゛」ギクリ

京太郎「その反応を見る限り、心当たりはあるみたいだな」

憧「まあ……その……はい」

京太郎「だったら気を付けろよ」

憧「わ、分かってるわよ。自分でもとんでもないことしてるって思うもん」

京太郎「ほんとにな。男には慣れてほしいけど、もっと節度ってもんを――」

憧「だから分かってるってば!……こんなこと、京太郎くらいにしか……」

京太郎「え?」

 ことり。

 手にしていたマグカップをテーブルの上に置いた。

 その温もりを惜しむように、ゆっくりと指を離し――憧は、

憧「……ねえ、やっぱりあたし変みたい」

 そう言った。

702 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/28(土) 02:20:37.97 ID:ZxEjISoCo

憧「男の子の家に泊まるなんて、前までのあたしじゃ考えられなかった」

憧「でもね、今こうして京太郎と一緒にいても、ぜんぜん怖くないの」

京太郎「けどお前、さっき不安になったって」

憧「それは……その、多分……多分なんだけど……」

 ひどく言い辛そうに、



憧「京太郎が見えなくなった……から?」

京太郎「ッ!?」



 爆弾発言。

憧「だ、だって! 寝る前までは本当に平気だったんだもん! なのに……」

京太郎「……扉を閉めたから不安になったと?」

憧「……///」コクリ

 馬鹿正直に頷くし。

 危機感が足りていないと忠告したのは果たして何秒前だったか。

782 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/30(月) 22:12:15.75 ID:sBaUK8H3o

憧「……どうしてこんな気持ちになるんだろ……京太郎は分かる?」

京太郎「え゛」

 俺に振るかよ、普通。

 こんな状況で、そんな疑問を。

 人の本当の気持ちなんて分かる筈がないのに。

 だから俺は、俺の都合でしか答えることが出来ない。

 つまり俺は、俺の言葉で憧の心を捻じ曲げてしまうことが出来る。

 そして俺は、俺の選択が正しいか否かを知る術を持っていない。

 権利と責任。

 天秤が揺れる。

京太郎「………………それは……」

憧「それは?」





京太郎「もちろん、俺が“憧係”だからだろ?」





789 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/30(月) 22:50:49.73 ID:sBaUK8H3o

憧「……そう、なのかな」

京太郎「そうだよ。それとも他に思い当たる理由でもあるのか?」

憧「ないけど……」

京太郎「じゃあそういうことでいいじゃねーか。俺は嬉しいぜ、頼りにしてくれて」

憧「……ん、分かった。そういうことにしとく」

 まだ何か引っかかるものがあるようだが、ひとまず飲み込んでくれたようだ。

 胸を撫で下ろす。

 違う話題へ移ろう。

京太郎「そうだ、“憧係”と言えばさ。どうして指令を止めたいなんて言い出したんだ?」

憧「へっ!?」

京太郎「かなり急だったろ? 反対する訳じゃないけど、ちゃんと理由を聞きたいんだ」

憧「そ、それはその時ちゃんと話したじゃない」

京太郎「あれ嘘だろ」

憧「あぅ」

 図星っぽい。

 勘だったが。

790 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/06/30(月) 23:26:26.23 ID:sBaUK8H3o

憧「あ、あの……ね? そのぉ……」モジモジ

 やたら言い淀んでいる。

憧「ほら、指令って毎度毎度おかしな内容じゃない?」

京太郎「ああ」

憧「それであたしが躊躇しちゃって、しずや皆を巻き込んじゃって」

京太郎「よくあるよくある」

 思い出されるのは二人羽織やままごとだ。

 巻き込んでしまうのも忍びないが、巻き込まれてくれる皆の度量もパない。

憧「……が、嫌なの」ボソッ

京太郎「え?」

憧「だ、だから嫌なんだってば」

京太郎「あー……穏乃達に迷惑を掛けるのがか? そんなん今更だし、気にすることないと思――」



.             xァ′ /       |                ヽ {__j__
           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
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      /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \
   .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ
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.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
  ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;
  |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |  「そうじゃなくて! 京太郎があたし以外にヘンなことするのが嫌なの!!」
  |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |
  |   |         /:| . . .|  |\i                 |  |  . .|: . |       |   |
  |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |
  |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |
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京太郎「ヘアッ!?」

801 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/07/01(火) 00:15:52.80 ID:2OaTY093o

憧「」ハッ

憧「ちちち、違うわよ!?///」

憧「アンタってすぐ調子に乗るから気をつけなさいって意味で!」

憧「部内ならまだしも外だとアンタ自身の評判まで落としちゃうんだから!」

憧「そうならない為にもそういうことする対象は一人に絞っておくべきで!」

憧「あたしなら冗談だって分かってるから平気ってだけで、別に深い意味とかないから!」

憧「わかった!?///」

京太郎「お、おう」

憧「ッ……ああもうなにいってんだろあたし……///」

京太郎「……」

 頭を抱える憧。

 俺の位置からは真っ赤な耳だけが見えた。

京太郎「……憧」

憧「なによぉ……」



                ,. --- 、        ____
                  /,  ´ ̄ ̄` '⌒´     \
           、_/_/⌒ヽ , /            ヽ
            ,---、  / //    :       ヽ :.
           ,  / ̄-/ /' {   | |       | :
          / __   ̄,./ /-' l| l | |___ l |    |
            .:' /   ,イ _| | |ア__l { { | / }`| |    |
       /       ,:´ | { | l\{从 ∨ィ斧ミ、 |    |  「俺のベッドで寝るか?」
    /\'´        /{  | 从{__,. \∨Vソ }イ ト、 ∧{
    ////\ r---  ´八 !∧  ̄   ,:  :.:.:  }/ノ/ リ
.   ///////\      \}∧         u 八/
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憧「ふきゅっ!?」

808 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/07/01(火) 00:55:21.37 ID:2OaTY093o

京太郎「」ハッ

京太郎「ち、ちげーからな!?」

京太郎「これは単に寝る場所を交換しようって意味で!」

京太郎「ほら憧さっき俺の顔が見えないと不安とか言ってたから!」

京太郎「同じ部屋で寝るのは流石にヤバいからせめて環境だけでもマシにしてやろうと思って!」

京太郎「明日は遠征だし女の子が寝不足は良くないし今度こそ絶対扉は開けないし!」

京太郎「分かったな!?」

憧「う、うん……いいの?」

京太郎「そうしてくれた方が助かる……」

 色々とギリギリだった。

憧「……それじゃ、お言葉に甘えちゃおっかな……?」

京太郎「っ……ああ。今度こそおやすみ、憧」

憧「おやすみ、京太郎……ありがとね」

 空になったマグカップを律儀に洗って、憧は俺の寝室へと消えていった。

 すっかり冷めてしまったミルクを飲み干すと、深い深い溜め息が出た。

811 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/07/01(火) 01:38:04.89 ID:2OaTY093o

京太郎「……」チラ

 扉に目を遣る。

 向こう側に憧がいる。

 それを意識して、声を掛ける。

京太郎「なあ、憧」

 ベッドの軋む音。

憧「なに?」

京太郎「あのさ、もう――、……」

憧「京太郎?」

 続く筈の言葉。



 「もうひとつ質問がある」。

 「どうして男嫌いになったんだ?」。



 それだけの言葉が、

京太郎「……もう夜更かしせずに寝ろよ。明日は早いからな」

 続くことはなかった。

憧「分かってるってば。おやすみなさい」

 おう、と返事をして、臆病な自分に辟易しながらタオルケットを被った。

815 名前:7月19日(金)[saga] 投稿日:2014/07/01(火) 02:17:41.52 ID:2OaTY093o


 で、

京太郎「…………………………寝れん」

 ドツボに嵌っていた。

 原因は憧。

 の、残り香。

 本人がいないからこそ、余計に際立って感じられてしまう。

 タオルケットを被ったのは失敗だった。

 ドライヤーを使っていたのもこの部屋なので逃げ場がない。

 どこからも憧の匂いがして、本人は薄い扉の奥で今頃は寝息を立てている。

京太郎「はあ……」

 明日は早く起きて憧を家まで送り返さなければいけないのに。

 眠れるのは何時になることやら。

 目覚まし時計をひとつ多くセットするが、気休めにもならないだろう。

 そんな予感があった。

【TO BE CONTINUED...】

818 名前:7月20日(土)[saga] 投稿日:2014/07/01(火) 02:27:53.96 ID:2OaTY093o

【おまけ】

 朝になって。

 携帯電話と目覚まし時計の音に無事叩き起こされた俺。

京太郎「憧~」

 寝室への扉をノックしながら呼び掛ける。

 しかし返ってくるのは憧のケータイのアラーム音のみ。

 仕方がないし時間もないので、恐る恐る扉を開けてみると。

憧「すぅ……すぅ……」

 爆睡している憧がいた。

 ベッドの中心で。

 タオルケットに包まって。

 俺の枕を抱いていた。

憧「きょお、たろぉ……むにゃむにゃ……」

京太郎「………………」

 顔洗お。

もいっこ【TO BE CONTINUED...】



【須賀京太郎のステータスが更新されました!】
 称号:憧断ちぬ(new!)
 憧への印象:...→憧の傍にいてやりたい
  →俺は憧に…(new!)

【新子憧のステータスが更新されました!】
 称号:京太郎断ちぬ(new!)
 京太郎への印象:...→目を離さないでほしい
  →この気持ちって……(new!)