真・松実京太郎サスペンス・序章

355 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/10(土) 21:58:01.65 ID:ev0dTFkMo

京太郎「今日天気悪いなー」

 部室の方が空には近かったが、校舎を出ると改めてそう思った。

 圧迫感のある、厚ぼったい雲を皆で見上げながら話す。

憧「結局降りそうで降らなかったわね」

玄「でもこれから降るかも」

宥「雨が降ったらあったかくない……」

穏乃「じゃあ急いで帰ろう! ダッシュで!!」

灼「そこまで焦る必要な……」

 とは言え立ち止まっている余裕がある訳でもなさそうだ。

 夕空には見る見る内に暗雲が立ち込め、折り重なり、本来あるべき茜色を遮っている。

 心なしか空気も重苦しい。

 今日も今日とてハードなマネージャー業だったが、息切れを起こす程ではないのに。

 妙なプレッシャーと共に不安を覚える。

 不安?

 違う。

 これは、もっと別の。

 ――――――恐怖のような。

356 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/10(土) 22:11:24.13 ID:ev0dTFkMo

 その時。

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

京太郎「!?」

憧「な、なに!?」

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

穏乃「笑い声!?」

灼「けたたまし……」

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

玄「この声って……」

宥「まさか……」

ザッ

京太郎「!」

 音のした方を見る。

 そこには――




















                  , - ─ ='''´|     l´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ,
                   ,r' ´ : : : : : : : : : : : |     `|: : : : :r''ヽ: : : : : : : : /
               l: : : : : : r'´`l : : : : |    ,ィ: : : : :ゝ-': : : : : :r、/
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                 ',´: : : : : : : : : /  _ ,-`ニヽ: : : : : : : :,‐--‐'
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          O|: : : : : : : : : : : : : : : : : l´`ヽ: : : : : l、__ノ: : : : : : : : : : : : : : : / ',
           ` ー 、: : : : : : : : : : : : :' =': : : : : : :  ̄: : : : : : : : : : : : : : : :/   ヽ
             / /: : : : : : : : : : : : : : : :, 、: : :, -'´ヽ: : : : : : : : : : : : : /`´      ',
           /  l、: : : : : : : : : : : : : :,r'、‐,____r'ニl ノヾ/l ̄`ヽ、: : : : ',        ヽ   「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」
             /   ヽ、: : : : :/"`ヽ/i `ー{   }‐'´ ィ´::::l    `ヽ/         ヽ
          /      l__/      ヾi  i  i、,,,/´::::::::/                 ヽ
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京太郎「ダレェ!?」

玄「お、お父さんっ!?」

京太郎「アイエエエエエエエエエエ!!?」

361 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/10(土) 22:40:32.32 ID:ev0dTFkMo

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

宥「お父さん……どうして……」

京太郎「ま、マジっすか!? マジで玄さんと宥さんのお父さん!?」

憧「ほんとだ、松実のおじさんだ」

灼「この笑い声、間違いな……」

穏乃「ほぇー、はじめて見た!」

 俺も。

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

 この人が、松実姉妹の父親?

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

 この、なんか、笑ってる人が。

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」

 いつまで笑ってんだ。

363 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/10(土) 23:02:23.08 ID:ev0dTFkMo

「……」ピタッ

京太郎「」ビクッ

 急に止まった。

「……」ジー

 そして凝視。

 俺達を――俺を中心に?

 校門の外から、微動だにせず。

 身内の保護者だと知らなければ事案待ったなしな光景だ。

 ていうか、こちらとあちらで結構な距離があるな。

 よく笑い声が届いたもんだ。

 ではなく、ともかく。

京太郎「あ、あのー……何か御用ですか?」ビクビク

 言葉を失ってる松実姉妹に代わって問い掛けた。怖い。

 すぐさま重厚な声が返ってくる。

「見て分からんかね? お茶の誘いだよ、須賀京太郎くん」

京太郎「すみません分かりません!」

367 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/10(土) 23:42:39.97 ID:ev0dTFkMo

憧「ていうか今、京太郎の名前……」

京太郎「あ」

 そう言えば。

 初対面なのに何故――と考えていると、

「キミのことはよく知っているよ。娘から聞かされているからね」

 再び松実父の声。

「一度じっくり話がしたいと思っていた。まずは会えて光栄だよ」

京太郎「こ、こちらこそ光栄です、はい!」

「そうか、ではまた後ほど。楽しみにしているよ、須賀京太郎くん」

京太郎「こ、こちらこそ楽しみにしています、はい!――はい?」

「玄。宥。一緒に帰ろう。支度を手伝ってくれるかな」

玄「うわわ、了解ですのだ!」タッ

宥「ま、待って~」タタッ

京太郎「玄さん!? 宥さーん!?」

「ハッハッハッハッハッ! ハッハッハッハッハッ!」ズズズ...

京太郎「いやハッハッハーじゃなくて!」

 姉妹を連れ、哄笑を残し、松実父は去ってしまった。

 よく見えなかったが、まるで忽然と消えたようだった。

 残された俺達は、ただただ唖然とするばかりだった。

368 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/11(日) 00:05:22.87 ID:4/VBHmbTo

灼「……」

穏乃「……」

憧「……」

京太郎「……なんで!?」

憧「知らないわよ」

穏乃「知らなーい」

灼「知る由もな」

京太郎「いやマジなんで!? マツミナンデ!?」

憧「落ち着きなさいっての」

京太郎「これが落ち着いてられるかよ! なにあの人めっちゃ怖いじゃん! 今更ながら膝が大爆笑だよ!」ガクガクガクガク

穏乃「うわっほんとだ!」

憧「写メ撮っていい?」

京太郎「お前そうやって人の身体のトラブル写真に収めたがるのやめてくれる!? てか静止画じゃ分かんねーだろ!」

灼「●REC」

京太郎「おいカメラ止めろ」

370 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/11(日) 00:35:55.97 ID:4/VBHmbTo

憧「それで? なんか誘われてたけど、どうするの?」

京太郎「どうしよう……ぶっちゃけ行きたくない……怖い……」ブルブル

穏乃「よしよし」ナデナデ

京太郎「穏乃ー!」ガバッ

穏乃「うきゃあ!?」

 メチャメチャ厳しい状況で不意に優しくされてア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます!

 気付けば穏乃を抱き締めていた。

京太郎「穏乃マジ天使……」ムギュー

穏乃「ふゎ……う、ぅー……///」ギュッ

憧「はいそこ離れようねー」グイッ

 即座に引き離された。

灼「早く決めないと失礼……覚悟を」

京太郎「行くの前提っすか!?」

憧「まあ断る理由もないんじゃないの?」

京太郎「誘われた理由も分かってないんですけど!」

401 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/11(日) 21:46:40.09 ID:4/VBHmbTo

灼「行く理由も行かない理由もないなら相手の顔を立てるのが無難だと思……」

憧「そうそう。それに、今日行かなくても多分また呼ばれるわよ?」

京太郎「マジで!?」

憧「マジで。押しが強いからねー、松実のおじさん」

京太郎「マジか……」

 言われてみれば確かにそんな雰囲気だ。

 あの有無を言わせぬ迫力。

 NOと言える自信はない。

憧「ていうか、なんでそんな怖がってるの?」

京太郎「え? いや、なんつーか……本能?」

穏乃「おお、野生の勘!」

灼「それ違……わないか」

京太郎「なんでか知らんが身の危険を感じるんだよ……とても一人で行くなんて――」

 あ。

 そうだ。

 『赤信号、皆で渡れば怖くない』だ。

京太郎「――頼む! みんな、俺と一緒に来てくれ!!」ペッコリン

404 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/11(日) 22:26:22.04 ID:4/VBHmbTo

穏乃「えっ?」

憧「な!?」

灼「り」

 アンダー150cmズに頭を下げる俺(182cm)。

 同じ学校の制服を着ていなければ、これもまた事案だろうか。

 誕生日で言えば俺が一番年下なのに。

憧「ちょっと、なんでそうなるのよ!?」

京太郎「そう言わずに頼むよ! この通り!」ペコペコ

 大の男が情けない――なんて先刻承知だ。

 それでも必死に懇願する。

灼「悪いけど、うちでおばあちゃんが待ってるから行けな……」

穏乃「うー……ごめん京太郎、私も今夜は家の手伝いが……」

憧「灼さん!? しず!?」

京太郎「……憧様……」ジー

憧「さ、様付け禁止!」

406 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/11(日) 23:10:58.19 ID:4/VBHmbTo

京太郎「なあ、どうしてもダメか……?」

憧「う……そ、そんな目で見ないでよ」

京太郎「憧……」

憧「そんな声で呼ばないで!」

灼「ついてってあげれば? このままじゃ埒が明かな……」

穏乃「私からもお願い憧! 京太郎を助けてあげてよ!」

憧「二人まで言うの!? 他人事だと思って――」

京太郎「――憧!」ガシッ

憧「ひゃうっ!?」



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憧「」ズキューン

京太郎「……頼む!」

憧「ぁ……ぅ……~~~っ///」パクパク

憧「――」

憧「………………しょ……しょうがないなぁ……///」フニャ

 わぁい。

411 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/11(日) 23:45:29.46 ID:4/VBHmbTo


テクテクテク...

京太郎「なあなあ、ネクタイ曲がってないか?」ソワソワ

憧「曲がってないわよ」

京太郎「手土産とか持ってかなくて平気かな……」ソワソワ

憧「しずんちなら和菓子売ってるけど」

京太郎「ちょっと行ってくる!」ダッ

憧「冗談に決まってるでしょ! 戻ってきなさい!!」クワッ

京太郎「ウィッス」クルッ

 返した踵をまた返し、憧の隣に。

 文字通り浮足立ちそうになるのを抑えて歩く。

憧「ったく、結婚の挨拶じゃあるまいし大袈裟なのよ」

京太郎「そうは言うがな大佐」

憧「誰が大佐かっ」

 てし、と憧の手の甲が胸板を叩く。

 こんな他愛もない遣り取りが、今は心からありがたい。

 目指す松実館はもうすぐ近くに迫っていた。

415 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/12(月) 00:36:21.99 ID:bT09BznUo

~松実館~

 程なく到着。

 GW以来の松実館だ。

憧「ほら、入るわよ」

京太郎「お、おう」

 意を決し、正面玄関から中へ。

京太郎「誰かが出迎えたりは……ないみたいだな」

憧「予約客とかじゃないしね」

 二人でロビーを見回す。

 派手さはないが、暖かな風情を感じさせる館内の様子に少しだけ気分が落ち着いた。

 このまま何事もなければどれだけいいか――



「見事だろう?」



京太郎「オアアアーーーッ!!?」ビクゥーッ

 ――そうは問屋が卸してくれないらしい。

416 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/12(月) 01:19:37.58 ID:bT09BznUo

 背後からの声。

 驚き飛び退る。 

 松実父が立っていた。

「当旅館支配人、松実琉兵衛(仮名)です。自己紹介が遅れて済まなかったね」

京太郎「す、須賀京太郎です。どうぞお気になさらず……」

「ありがとう、今後ともよろしく頼むよ。……ところで須賀くん」

京太郎「は、はい!」

「どうかな松実館は。中々の中々だろう?」

京太郎「そ、そうですね。大変結構かと……」

「素晴らしいよね、まるで地球の歴史が詰まっているようだ」

 それは大袈裟ではないでしょうか。

 なんて言えない。口が裂けても。

「おや? 憧くんじゃないか。久しぶりだね」

憧「ご、ご無沙汰してマース……」

「ああ。しかしどうして君がここにいるのかね?」

憧「いやぁ、松実館が懐かしくなっちゃって。遊びに来たんですけど……迷惑でした?」

「ふむ……いや、構わないよ。折角来てくれたんだ、ゆっくりしていくと良い」

憧「ありがとうございます」ペッコリン

 本当にありがとうございました。

435 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/12(月) 22:34:18.97 ID:bT09BznUo

「では、悪いが裏口に回ってくれるかな」

京太郎「裏口ですか?」

「そうだ。君達は私達家族の客人だからね。家の方で歓迎させてもらうよ」

 ふんふむ。

 裏口の場所は憧が分かるということで、松実父は旅館の奥へと消えていった。

 例の笑い声を館内に響かせながら。

 いいのか支配人。

憧「さ、行くわよ京太郎」

京太郎「そだな」

 憧に連れられ屋外へ。

 旅館の外周に沿って歩く。

京太郎「つーかさ、憧はあの人怖くないのか?」

憧「おじさんのこと? 別に怖くないけど」

京太郎「すげえな男嫌いの癖に!」

憧「癖にとかゆーな。小さい頃から知ってるんだもん、他とは違うわよ」

京太郎「はあ……そーゆーもんか」

憧「そーゆーもんよ」

 そーゆーもんらしかった。

437 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/12(月) 23:07:47.82 ID:bT09BznUo

京太郎「お」

 雑談してたら裏口が見えてきたぞ。

 裏口と言っても、家としての玄関であるから狭苦しい感じはしないが。

 鉢植えの木や積まれたビールケースが裏口っちゃ裏口っぽい。

憧「どうする、入っちゃう?」

京太郎「いや無断はマズいだろ……ごめんくださーい」

 勝手知ったるにも程がある憧に代わって呼び掛ける。

 はーい、と返事が聞こえた。

 よく知った声だった。

 ぱたぱたという足音。

ガラッ

            /   . . . . . . . : : : : : : : : . . .   \
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            i . .:.|:八.:.|ヽ{  _    \   ,z≦ミ、| :.: :.!:. |!  「ようこそお越しくださいました、京太郎くんっ!」
            | : /|.::.:.:.::! ,ァ= =ミ     ´   `'^| :. : |:.小
            |.:/ :! .:.:.:.ハ ′             /i/, | :. : |:.|i
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      / . . .:.{     ヽ   }  ∧__/ }ハ ≧7.:.:.:./     /     {:∧
.     / . ./..:.:}      . | く    /  }  ;:.:.:.:.:′ .′/     {:. .‘.
    / . ./..:.:.:.i      ∨ }    `≧-ヘ ∧ノ}:.:.:.:.{ . { .′     }:. . ‘.
  / . :/′:.:.:.}  ‘.     V|         ∨   |:ノ}:.:}  j /    /  {:.:. . ‘.

 砂漠でオアシスを見つけた気分だ。

446 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/12(月) 23:44:15.49 ID:bT09BznUo

京太郎「――!」

 ただ、それだけの理由ではなく息を呑んだ。

 何故なら、

玄「え、あれ、憧ちゃん? どうしてここに?」

憧「どうしてっていうか……玄こそ、どうしてそんなにオシャレしてるのよ?」

 そう。

 憧の言う通り、玄さんはめかし込んでいた。

 まさか部屋着ではあるまい。

 何度か見た私服の中でも抜群だ。

 つい見惚れてしまう。

玄「私はお父さんに言われて……も、もしかして変だった?」

京太郎「とんでもないっす! 綺麗ですよ、玄さん!」ズイッ

玄「わっ……わぁ……/// ありがとう、京太郎くんにそう言ってもらえると嬉しいな///」テレテレ

京太郎「でへへ」

憧「……帰ろっかな」ボソッ

京太郎「なんで!?」

449 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/13(火) 00:36:24.27 ID:vw52IHDDo

玄「立ち話もなんだし入って? ご案内いたします!」

京太郎「お邪魔しまーす」

憧「……お邪魔します」

 促されるまま松実家の敷居を跨ぐ。

 松実館とは地続きの筈だが、旅館の部分よりも家庭的な雰囲気があった。

 廊下を先導する玄さんに、俺と憧が横並びで続く。

玄「それにしても、ごめんね京太郎くん。こんなことになっちゃって」

京太郎「あー……まあ、気にしないでください。確かに驚きはしましたけど」

玄「私もおねーちゃんも同じだよ。お父さんってば急なんだもん」

憧「どうしておじさんは京太郎を家に呼んだりなんかしたの?」

玄「うーん、GWのお礼じゃないかな? 前からそういう話はしてたし」

京太郎「えぇ? 大したことしてないのにな……」

玄「そんなことないよ! すっごく助かったもん!」

憧「玄の言う通りね。おかげで部活に集中出来たし、それはあたしも感謝してる」

京太郎「お、おぉう」

 照れる。

453 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/13(火) 01:24:50.84 ID:vw52IHDDo

京太郎「でも、それなら怒られたりはなさそうだな」ホッ

憧「はぁ? アンタそんなこと心配してたの」

京太郎「だって怖いんだもん!!」

憧「もんって気持ち悪いわね……」

玄「えー、お父さん優しいよ?」

京太郎「すみません、初対面なんでイメージ先行っす」

憧「確かに迫力はあるよね。うちのお父さんに負けてないもん」

京太郎「え、憧んちの親父さんも怖いの?」

憧「怖いっていうか、礼儀とかに厳しいかな」

玄「真面目な人だよねー」

京太郎「そうかぁ……こりゃ挨拶する時はまた緊張するだろうなぁ」

憧「ふきゅっ!?」

京太郎「ん?」

憧「あ、あああああ挨拶ぅ!? 挨拶で緊張って……一体うちの親に何を言うつもりなのよ!?///」

京太郎「いや、普通に娘さんにはお世話になってますって言うだけだけど……顔会わす機会があったらな」

憧「お、お世話に……!?/// ふきゅぅぅぅぅぅ……///」プシューッ

京太郎「なんなのお前」

471 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/13(火) 22:12:13.03 ID:vw52IHDDo

ガラッ

玄「おねーちゃーん、京太郎くん来たよー」

 憧もいるよー。

 と、

宥「……むにゃ……?」

玄「おねーちゃん!?」

京太郎「コタツ!? 7月に!?」

憧「あー、一年ぶりに見るわコレ……」

 我が目を疑った。

 襖の向こうには宥さんがいた。

 コタツに肩まで入っていた。

 見ているだけで汗が噴き出すッ!!

玄「お、おねーちゃん起きるて! 京太郎くんが来てるよ!」ユサユサ

宥「あとごふん~」スピー

 (コタツ入ろ)

478 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/13(火) 22:58:35.97 ID:vw52IHDDo

玄「だーめーだーよ、ほら、コタツから出て~!」ズリズリ

宥「ゃぁぁぁ……」ペローン

京太郎「ぶっ!?」

憧「く、玄! 宥姉おなか見えてるって!!」

 おなかどころの騒ぎじゃねえ。

 とにかくコタツから出してしまおうと躍起になる余り、服が際どい位置まで捲れ上がっている。

 ていうかチラチラとなんか見えてる! レース地っぽい何か見えてる!

憧「ハッ!? きょ、京太郎は見ちゃダメ!」ヒュバッ

京太郎「甘い!」サッ

憧「かわした!?」

京太郎「フフフハハハハ(悪い声)! もはや貴様では俺を止められはしない! さあ玄さん、そのまま一気に御開帳――」

ガラッ










                  , - ─ ='''´|     l´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ,
                   ,r' ´ : : : : : : : : : : : |     `|: : : : :r''ヽ: : : : : : : : /
               l: : : : : : r'´`l : : : : |    ,ィ: : : : :ゝ-': : : : : :r、/
               ∨_r、: : :ゝ-': : : : : :`l   l: : : : : : : : : : : : : : `l
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           /  l、: : : : : : : : : : : : : :,r'、‐,____r'ニl ノヾ/l ̄`ヽ、: : : : ',        ヽ   「何を御開帳しようと言うのかね?」
             /   ヽ、: : : : :/"`ヽ/i `ー{   }‐'´ ィ´::::l    `ヽ/         ヽ
          /      l__/      ヾi  i  i、,,,/´::::::::/                 ヽ
            /                ',゛゛i二i::::::::::::/                   ヽ
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       /              _, ィ ´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`::ー--..、                ',
.       /           ,..ィ:::´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ヽ、              ',
      /          /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',               ',
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    /          l::::::::::::::::::::l:::::::::::::::::::_,r'、 ,ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::l'ヽ、::::::::::::::l                 ',
.   /           l__,,- ‐' ´ l:::::::::::_,ィ;;;i、,,,,,,,,ノ:::`ヽ、::::::::::::::::::::::l ',::::`ーー-ヘ              ',
  /             /::::::::::::::::l:::::/:::::::::/川| |||::::::::::::\::::::::::::::::l ',::::::::::::::::::',                ',

京太郎「」

488 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/13(火) 23:37:27.80 ID:vw52IHDDo


京太郎「……」

憧「……」

玄「……」オロオロ

宥「……」ポケー

                  /´〉,、     | ̄|rヘ
            l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/   ∧      /~7 /)
「………………」   二コ ,|     r三'_」    r--、 (/   /二~|/_/∠/
             /__」           _,,,ニコ〈  〈〉 / ̄ 」    /^ヽ、 /〉
             '´               (__,,,-ー''    ~~ ̄  ャー-、フ /´く//>
                                           `ー-、__,|     ''
 わぁ気まずい。

 現実逃避の側面もあったが、ハシャぎすぎた。

 その分こうして揺り返しを受けているんだから世話ねーや。

 こうして、沈黙の食卓に招かれているんだから――

京太郎「――あれ?」

「どうかしたかね?」

京太郎「あの……確かお誘いはお茶だけだった筈では……」

「何か問題でも?」

京太郎「ありませんねー」ガタガタガタガタ

493 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/14(水) 00:41:43.81 ID:mfWEzrUIo

憧「……えーっと、こうなるとあたしもちょっと図々しい感じが……」

「なに、気にすることはないさ。一人増えたところで大した手間ではなかったよ」

憧「え、もしかしておじさんが作ったんですか?」

「板長の料理でなくて残念だったかな?」

憧「そんなことありませんけど、ちょっと意外だなーって」

「今日は従業員の皆に我儘を聞いてもらったからね。このくらいはするとも」

玄「お父さん、おしゃべりもいいけど折角の料理が冷めちゃうよ?」

宥「あったか~いの早く欲しい……」プルプル

「おお、それもそうだ。では須賀くんも、遠慮なく食べてくれたまえ」ニッコリ

 こんなに笑えない笑顔初めて見た。

京太郎「イタダキマス」ニ゛ッ゛ゴリ゛

 こんなに笑えてない自覚も初めてだった。

 憧がいてくれて本当に良かった。

 松実父の話し相手になってくれるだけでも値千金、いやプライスレスだ。

497 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/14(水) 01:24:52.47 ID:mfWEzrUIo

 松実父、玄さん、そして宥さんが食事に箸をつけるのを確認してから、憧とタイミングを合わせて一口。

京太郎「……ん!」

憧「わ、おいしー」

「口に合ったかね?」

京太郎「は、はい!」

憧「うちの父にも見習ってほしいくらいですよ」

「ハッハッハッ! 君のお父上は相変わらずか」

 よし、いい調子だぞ。

 お世辞でなく料理は美味いし、対面には美人姉妹が座っているし。

 松実父は憧が相手をしてくれているし、もう何も怖くないぞ。

 和気藹々とまではいかないが、平穏無事に切り抜けられれば上等だ。

「ところで須賀くん」

京太郎「はい?」





「娘とはいつ籍を入れるのかね」





京太郎「」

憧「」

 さらば平和。

524 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/14(水) 22:54:15.45 ID:mfWEzrUIo

玄「ふえ゛っ!?///」カァッ

宥「ふぁっ!?///」カァー

京太郎「………………な、ナンノコトデショウ」

「ハッハッハッ! なぁに、隠すことはない」

 ナンノコトデショウ!

 マジに身に覚えがない。

 しかし分かることがひとつだけある。

京太郎「いやぁ、隠すも何も、俺まだ15歳ですよ?」

「おっと……そうか、男は18からだったね。これは失念していた」

京太郎「意外とうっかりしてらっしゃるんデスネ!」

「ハッハッハッ!!」

京太郎「アハハハハハハハ!!」

 この局面、一手でも誤れば――死ぬ。

535 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/15(木) 00:08:04.43 ID:MOqp1Wz/o

玄「も、もー! お父さんってば、京太郎くんに変なこと言わないでよぉ!///」プンスカ

「ハッハッハッ。別にいいだろう、大事な娘達のことを話すぐらい」

宥「だからって、け、結婚なんて……あったかいけど……///」モジモジ

「ふむ、では質問を変えよう。須賀くん、娘達は学校ではどんな様子なのかな?」

京太郎「様子、ですか?」

「ああ。この子達も年頃だ、今みたいに親の前では見せない顔もあるだろうと思ってね」

京太郎「そうでしょうか……結構こんな感じですよ?」

「ほう?」

京太郎「お二人とも優しくて頼りになる先輩で、いつもお世話になってます」

 言外に、松実父の教育の賜物だというニュアンスを漂わせる。

 二人を褒めて間接的に松実父もリスペクトするという、実に高度な作戦である。

 もちろん嘘は言っていない。

京太郎「特に玄さんとは気が合って、よく共通の話題で盛り上がるんですよ」

 もちろん嘘は言っていない。

 物は言いようである。

 まさか玄さんも父親に自分が巨乳好きだと公言してはいないだろうし。

「ふむ……つまり、」

京太郎「はい?」

「つまり君も女性の大きな胸が好みというわけだね」

 公認かよオオオオオオオオオオ!!!

539 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/15(木) 00:53:49.53 ID:MOqp1Wz/o

「ということは、だ。どちらかと言えば玄より宥の方が好みなのかね」

玄「えぇっ!?」ズガーン

宥「えぇぇ……///」ポッ

憧「籍!?」ガタッ

 おはよう憧っち。

 だが足りない。速さが足りないぞ。

 現代は高度情報化社会であり、現実は非情である。

 今も世の中荒れ放題、ボヤボヤしてると後ろからバッサリだ。

「そして君は、胸の大きさで私の娘を天秤に掛けるというのかね」ズモモ...

 俺がな。

京太郎「だ、断じてそんなことは! そもそも玄さんのも十分立派ですし!」

「そうかね?」

京太郎「はい! 適度なボリューム感と弾力を兼ね備えた至高の乳かと!」

「まるで実際に見て触ったかのような言い草だね」

 オアアアアアアアアアア。

588 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/15(木) 22:59:00.25 ID:MOqp1Wz/o

玄「はわわわわわわわ……///」

「玄」

玄「は、はひっ!///」

「彼に胸を見せたり、触らせたりしたのかね?」

玄「そ、そんなことしてないよぉ!///」

宥「そうだよお父さん……玄ちゃんはそんな子じゃないよ……」プルプル

京太郎「宥さんの言う通りです! 俺と玄さんは先輩と後輩として清く正しい友人関係を築いているんです!」

「清く正しい友人関係にある先輩と後輩は一緒に風呂に入るものなのかね?」

京太郎「」

 松実。

 どこまで馬鹿正直に父親に話して聞かせてんの。

「清く正しい友人関係にある後輩は、先輩の下着を見て似合っていると褒めるものなのかね?」

京太郎「」

 松実。

 どこまで素直なんだ。

 勘弁してくれ。

594 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/16(金) 00:05:11.96 ID:DoqkkKm3o

「こうして夕食の席でその日の出来事を聞かせ合うのは我が家の習慣のようなものでね」

 と、松実父。

 俺の心を見透かしたような言葉だ。

 その声に重圧が増しているのは、気のせいではないだろう。

「言っただろう? 娘から聞かされて、君のことはよく知っていると。ハッハッハッ!!」

京太郎「」ガタガタガタガタ

 こわい。

 防衛本能が思考を放棄してしまいそうだ。

「この分だと、胸も触っているのだろうなぁ」ギロッ

京太郎「ひっ……」

玄「ま、待ってお父さん!」

「玄?」

京太郎「玄さん!」

玄「京太郎くんは悪くないの、悪いのは私だよ!」

玄「私がドジで京太郎くんの前で恥ずかしいとこばかり見せちゃうから……」

玄「でも、そんな私を京太郎くんは受け入れてくれたの!」

玄「この前だって、私なんかの胸を立派なおもちだって褒めてくれて……びっくりしたけど、とっても嬉しくて……///」モジモジ

 気を失えたらどれだけ楽か。

601 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/16(金) 00:43:46.30 ID:DoqkkKm3o

玄「だからねっ、もし京太郎お兄ちゃんが望むなら今度は私からでもがもがもがもが」ジタバタ

宥「玄ちゃん、しー」キュッ

「……娘と随分仲良くやってくれているようだね? お兄ちゃん」ズゴゴゴゴゴゴゴ...

京太郎「あわわわわわわわわわわ」

憧「お、おじさん!」ガタッ

「ん? なんだね憧くん、今は彼と大事な話を……」

憧「その話に夢中で料理が冷めちゃってますよ? 宥姉も困ってますし」

宥「え?」

憧「ね?」パチッ

宥「ぁ……う、うん……お料理があったかくないの、いやだなぁ」プルプル

「ああ、すまない宥。私としたことが……須賀くんにも失礼をしてしまったね」

京太郎「滅相もございません!」

「まずは食べよう。宥、皿を貸しなさい。温めなおしてきてあげよう」

宥「ありがとう、お父さん」

京太郎「……」

コソコソ

京太郎「ありがとう憧、本当にありがとう……」

憧「これも貸しだかんね」

京太郎「ああ、愛してるぜ憧!」

憧「ふきゅっ!?」ガタッ

宥「ゎわ!?」ビクッ

608 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/16(金) 01:26:46.58 ID:DoqkkKm3o


 その後の食事は至って平和に進んだ。

 玄さんが落ち着きを取り戻したお陰だ。

 それは憧のフォローのお陰でもある。

 やっぱり憧は面倒見がいい。

 今日だって、本当は俺に付き合う義理なんてない筈なのに。

 こうして傍にいてくれて、的確に助け舟を出してくれている。

 この借りは早く返さないとな。

「「「「ごちそうさまでした!」」」」

 そんなことを考えている内に完食だ。

「お粗末様。綺麗に食べてもらえて嬉しいよ」

 松実父も、発するプレッシャーはピークを過ぎたようで一安心といったところか。

 今度こそ切り抜けられる。そう確信していた。

 ら、

「須賀くん、憧くん」

京太郎「ひょ?」

憧「なんです?」

 二人の名が呼ばれ、



「折角だ、是非とも風呂に入って行きたまえ」



 一人は星を、もう一人は泥を見た。

654 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/16(金) 22:09:51.49 ID:DoqkkKm3o


カポーン

 ……という音、あれって銭湯の効果音だよな。あるいは鹿威し。

 露天風呂では鳴らない筈だが、何故か時として聞こえてくることがある。

 風呂+野外というシチュエーションに脳味噌が錯覚を起こすのかな。

 まあ身も蓋もない話をすると書いてる人が勘違いしてたりするだけなんだけど(メタ並の感想)。

京太郎「……ふぅぅぅ……」チャプン

 温泉なう。

 松実館の自慢の温泉だ。

 支配人である松実父の厚意によって、二度目の入浴と相成った。

 が、

京太郎「……はぁぁぁ……」

 疲れていた。

 本来なら身も心も安らぐ至福の一時であるべき瞬間も、今はただただ憂鬱だ。

 風呂から出れば松実父が待っている。

 詰問が待っている。

 憂鬱だ。

ガラッ

京太郎「ん?」










                  , - ─ ='''´|     l´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ,
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           /  l、: : : : : : : : : : : : : :,r'、‐,____r'ニl ノヾ/l ̄`ヽ、: : : : ',        ヽ   「お邪魔するよ」
             /   ヽ、: : : : :/"`ヽ/i `ー{   }‐'´ ィ´::::l    `ヽ/         ヽ
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       /              _, ィ ´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`::ー--..、                ',
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      /          /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',               ',
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  /             /::::::::::::::::l:::::/:::::::::/川| |||::::::::::::\::::::::::::::::l ',::::::::::::::::::',                ',

京太郎「アイエエエエエエエエエエ!!?」

659 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/16(金) 22:48:45.32 ID:DoqkkKm3o


アイエエエエエエエエエエ!!?

憧「うるさいなぁ……せっかくのお湯がぬるくなるっての」

宥「なるの?」

玄「今お父さんの声がしたね、入りにきたのかな?」

憧「え? おじさんがこんな時間から?」

玄「普段は絶対にないことだけどね。京太郎くんと話したいことがあるって言ってたから」

宥「なんだろうね~」ポカポカ

憧「……」

ザバッ

ペタペタ

ピタッ

玄「憧ちゃん? 垣根の傍で何してるの?」

憧「しっ! 静かにして、玄もこっち来なさい」

玄「なんで?」ペタペタ

宥「いってらっしゃ~い」チャプチャプ

憧「……京太郎、生きてお風呂から出られるのかな……」

665 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/16(金) 23:29:32.46 ID:DoqkkKm3o


京太郎「……」チラッ

                  /´〉,、     | ̄|rヘ
            l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/   ∧      /~7 /)
「………………」   二コ ,|     r三'_」    r--、 (/   /二~|/_/∠/
             /__」           _,,,ニコ〈  〈〉 / ̄ 」    /^ヽ、 /〉
             '´               (__,,,-ー''    ~~ ̄  ャー-、フ /´く//>
                                           `ー-、__,|     ''
京太郎「」ブクブクブクブク

 風呂から出るまでもなかった。

 向こうから来た。

 ラスボス自らお出ましとか、そんなんアリかよ。

 しかも一言も喋らない。

 湯船に沈黙という名のアヒル隊長を浮かべているかのようだ。

 気まずい……いっそ殺せ……それでも僕はやってない……

「……ハッハッハッ」

京太郎「!?」ビクゥッ

「そんなに怖がることはない。何も取って食おうという訳ではないんだ」

670 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/17(土) 00:30:54.43 ID:mUBk6Dh5o

京太郎「え……?」

「違ったかね? どうも私を恐れているように見えたが」

京太郎「あ、はい。……じゃなくて! そんな失礼なこと――」

「ハッハッハッ! 取り繕う必要はないよ。私も少々力が入りすぎていた、君が怯えるのも無理はない」

「はあ……」

 笑う松実父。

 その声からは確かに険が取れて、穏やかなものとなっていた。

「どうも娘達のことになると周りが見えなくなってしまうようだ。改めて、迷惑を掛けてしまったことを詫びよう」

 ただね、と。俺のリアクションを待たずに続く。

「父親にとって娘とは宝だ。何よりも大切な宝なのだよ」

「何よりも……そう、命よりも」

「私にはもう、あの子達しか残っていないのだから」

京太郎「――!」

 そうだ。

 玄さんと宥さんはお母さんを亡くしている。

 それはつまり、この人にとっての――

671 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/17(土) 01:30:11.40 ID:mUBk6Dh5o

「もう一度訊こう。須賀くん、娘達は学校ではどんな様子なのかな?」

京太郎「様子……ですか」

「ああ。頑張りすぎてはいないだろうか、無理に自分を演じてはいないだろうか」

「私が知れるのは、あの子達が語る、あの子達が見た風景だけだ」

「だから教えてほしいのだよ。その風景の中に必ずいる君にね」

京太郎「俺が……?」

 松実父が頷く。

「5月の連休辺りからかな、玄は君のことをよく話すようになった」

「玄ほど口数の多くない宥も、何か話す時の多くは君の話題だ」

「だとすれば、どうしても気になるのは親の性というものだ。違うかね?」

京太郎「違わ、ないです」

「ありがとう。なら聞かせてもらえるかね、君の風景を」

京太郎「……分かりました」

676 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/17(土) 02:13:16.90 ID:mUBk6Dh5o

京太郎「――まず玄さんは、優しくて明るくて、裏表のまるでない純粋な人です」

京太郎「ちょっとドジなところもありますけど、いつでも誰かの為に一生懸命で」

京太郎「そんな玄さんを優しく包み込む宥さんは、立派なお姉さんだと思います」

京太郎「少しだらしないけど、あの笑顔で帳消しっていうか、俺も癒やされますし」

京太郎「二人とも、ぶっちゃけ年頃の女の子にしては無防備すぎるくらいですよ」

「……そうか、それは困ったな」

京太郎「ええ。困っちゃうくらいに天然で、ありのままなんです」

「……」

京太郎「心配しないでください。もし二人が無理をしていても、仲間がいます」

京太郎「憧は友達思いで気のつくやつだし」

京太郎「穏乃は周りにおすそ分け出来るくらい元気だし」

京太郎「部長も監督もいざという時は頼りになるし」

京太郎「俺も、微力ながら何かの役には立てるつもりです」

京太郎「二人を悲しませたり、寂しがらせたりはしません」

京太郎「ですから――」





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683 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/17(土) 02:43:24.49 ID:mUBk6Dh5o


憧「……」

玄「お、お父さん……!」エグエグ

宥「玄ちゃん……おいで」

玄「おね゛ーちゃあぁあぁぁあ゛~!」ザブーン!

憧「(おじさんの話ばっかり聞いてて京太郎の言葉の意味までは理解してないみたいね……よかった)」

憧「(………………ん? よかった?)」

憧「(なんで……あたし今、何に安心した?)」

玄「ううぅ、おねーちゃぁん……」ギュー

宥「……」ギュッ

憧「……ま、今回は見逃してあげますか」

憧「さ、気を取り直してお風呂はいろーっと♪」イソイソ

685 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/17(土) 03:02:12.44 ID:mUBk6Dh5o


「……そうか。任せて良いのか」

京太郎「はい!」

「ハッハッハッ! 大した自信じゃあないか。先程までとは態度が大違いだ」

京太郎「あ……すみません」

「謝ることはない。頼もしい限りだ、嬉しく思うよ」

京太郎「お父さん……」

「あの子達が気に入る訳だ。君は中々の中々に見どころがある」

京太郎「あ、ありがとうございます!」

「フッ――ああそうだ、ひとつ大切なことを訊き忘れていた」

京太郎「なんでしょうか?」





「結局、君は玄と宥のどちらと交際しているのかね?」

京太郎「え? 別にどっちとも付き合ってませんけど」





686 名前:7月8日(月)[saga] 投稿日:2014/05/17(土) 03:13:26.80 ID:mUBk6Dh5o

「」

京太郎「お父さん?」

「……」

京太郎「あのー」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………」

京太郎「……あのぅ」

「須賀くん」

京太郎「は、はいッ」ビクッ

「取って食おうという訳ではないと言ったね」

京太郎「はい……」

「あれは嘘だ」

京太郎「はい?」










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           /  l、: : : : : : : : : : : : : :,r'、‐,____r'ニl ノヾ/l ̄`ヽ、: : : : ',        ヽ   「君は噛み砕いて差し上げよう! 物理的にね!!」
             /   ヽ、: : : : :/"`ヽ/i `ー{   }‐'´ ィ´::::l    `ヽ/         ヽ
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  /             /::::::::::::::::l:::::/:::::::::/川| |||::::::::::::\::::::::::::::::l ',::::::::::::::::::',                ',

アイエエエエエエエエエエ!? テラー!? テラーナンデ!?

ハッハッハッハッハッ!! ハーッハッハッハッハッハッ!!

【TO BE CONTINUED...】
最終更新:2014年05月23日 00:04