歯・車・始・動

820 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/15(火) 22:01:01.30 ID:hAOW58k+o

 事件は、月曜の朝に起きた。

 その日は偶然にも麻雀部全員が登校中に顔を合わせた日だった。

 折角だからと、通学路では色々なことを話した。

 穏乃が今朝起きたら全裸になっていたことだとか。

 宥さんが今朝起きたら胸に玄さんが噛みついていたことだとか。

 ある朝、俺ゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいたことだとか。

 そんな取り留めのない雑談を楽しんだ。

 そして昇降口で一旦別れて、また揃うのを待った。

 校舎に入ったら後はそれぞれの教室に向かうだけなのだが、まあなんとなくだ。

宥「おまたせ~……あれ、玄ちゃんと灼ちゃんは?」

京太郎「まだ来てませんよ」

憧「宥姉より遅いなんて珍しいよね」

穏乃「何かあったのかな?」

 と、口々に疑問を並べていた時だった。

826 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/15(火) 22:34:21.62 ID:hAOW58k+o

玄「お、おねーちゃあぁあ~~~!!」ビエーン

宥「くろちゃー!?」

 玄さんが、何故か泣きながら走ってきた。

 後ろには平常運転の鷺森部長が無表情で歩いている。

 そのギャップが俺達を更に混乱させた。

玄「どどどどうしよう! どうしようおねーちゃん!」ヒシッ

宥「ゎわ……よ、よしよし……?」ギュッ

穏乃「事件ですか!?」

憧「いや事件って」

京太郎「でも、本当にどうしたんですか玄さん? 何があったんです?」

玄「あ、あのね、今ね、私の靴箱を見たら、見たら……」

京太郎「カビの生えた餅でも入れられてましたか?」

憧「ピンポイントに悪趣味ね!?」

穏乃「食べ物を粗末にするなんて許せない!」

宥「み、みんな……玄ちゃんの話を聞いてあげて――」



灼「らぶれた」ズバァッ



玄「ほわぁ!?///」

京太郎「は!?」

憧「ふきゅっ!?」

宥「ふぁっ!?」

穏乃「ぅ?」

831 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/15(火) 22:52:46.58 ID:hAOW58k+o

……
…………
………………

~部室~

京太郎「……」

憧「……」

穏乃「……」

宥「……」

玄「……///」

灼「……ではこれより、阿知賀学院麻雀部による第一回ラブレター対策会議を始めたいと思……」

玄「だ、第一回!?」

穏乃「第二回もあるんですか?」

灼「そこは深くツッコまないでほし……」

京太郎「緊張感ないなぁ」

憧「そうよ! もっと真剣に考えるべきよ!」クワッ

宥「ゎゎゎゎゎゎ……」プルプル

832 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/15(火) 23:15:02.97 ID:hAOW58k+o

 昼休み。

 俺達は示し合わせて部室に弁当を持ち寄っていた。

 勿論、今朝の件について話し合う為だ。

 円卓を囲み食事をしながらも、一同の表情は険しい。

憧「で……どうするのよ玄?」

玄「ど、どうしよう……」プルプル

宥「くろちゃー……」プルプル

 姉妹揃って震えてらっしゃる。

 おもちも一緒に震えているから姉妹愛って本当に美しい。

 ぐへへ。

穏乃「京太郎?」

京太郎「ハッ!? お、オホンっ……ところで、そもそも差出人は誰なんですか?」

玄「え、えっと……一年生の、男の子」

 そりゃそうだ。

 今年から共学化した阿知賀に、男子は一年生しかいない。

842 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/15(火) 23:40:06.82 ID:hAOW58k+o

京太郎「ん?」

 待てよ。

 男子は一年生しかいない。

 と、いうことは……

京太郎「下手人はうちのクラスのアホどもってことですか!?」ガタァッ

憧「えっそうなの!?」

 なんということだ。

 まさか俺の目が黒い内にこんな狼藉を見過ごすとは。

 いや、誰が誰にラブレターを送ろうが本人の自由なんだけど。

 送られた相手が玄さんでも同様である筈なんだけど。

 でも、

京太郎「んんんんんー、許るさーん!!!」ゴッ

玄「ま、待って待って! 違うよ、一年生だけどA組の人みたいだから!」

憧「なんだ……」ホッ

京太郎「んんんんんーーーーーッ!!」ゴッッッ

憧「おすわり」

京太郎「ウィッス」ストン

851 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 00:09:47.06 ID:xC2FjUK3o

穏乃「え、つまりうちのクラスの男子ですか?」

灼「そうなるね」

宥「もしかして知ってる人……?」

玄「こ、この人なんだけど」スッ

 と、玄さんはずっと手に持っていたラブレターを穏乃に向けた。

 当たり前だが中身は見せず、差出人の名前を確認させているのだろう。

穏乃「ふぅ~む、なるほどなるほど」

憧「ど、どうなのしず? どんな人なの?」

穏乃「一言で言うと体育会系かな。スポーツの話題で何度か喋ったことあるよ」

京太郎「あ~」

灼「なにそのリアクション」

京太郎「いや、ちょっと納得しちゃって」

憧「どういう意味よ?」

京太郎「体育会系っつーか、男臭い男には玄さんや宥さんみたいなのが理想のタイプなんだよ」

玄「そ、そうなの?」

宥「わゎ、私も……?」

憧「」ムッ

860 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 00:37:43.15 ID:xC2FjUK3o

京太郎「そりゃもう! つっても、俺の主観ですけどね」

玄「ええっ!? 京太郎お兄ちゃんは大人なのに玄みたいな女の子が理想のタイプなの……!?///」カァッ

宥「ゎ、わ、私、も……///」モジモジ

京太郎「なんで?」

 俺の理想のタイプではなく、俺が勝手に考える体育会系男子の理想のタイプやっちゅーに。

 まあ、俺も大好きだけどな! おっぱい!!

憧「……ねえ、脱線してるんじゃない?」ジトッ

京太郎「おっと、そうだったな」

 つい調子に乗ってしまった。

 これは休み時間の馬鹿話とは違う。

 事と次第によっては、玄さんの今後の高校生活に大きく影響する問題なのだ。

 真面目に考えなければ。

京太郎「それで、結局のところ玄さんはどうするつもりなんですか?」

玄「あ……うん。そうだね」

 玄さんは自身の黒髪の、一箇所だけ結った房の端を摘んでいじりながら考え込む。

 真剣な表情で。

 その中に、迷い以上の戸惑いが見て取れるのは、こういった事柄に対する経験が乏しい証拠だろう。

867 名前:7月1日(月)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 01:16:22.98 ID:xC2FjUK3o

 やがて、玄さんが顔を上げて、

玄「私……お付き合いは出来ませんっ!」ペッコリン

京太郎「」ガーン

 なんか俺がフラれたみたいでショックを受けてしまった。

宥「玄ちゃん、いいの……?」

玄「うん。インハイ前の大切な時期だし、それに相手の人のこともよく知らないし……」

憧「まっ、妥当な結論よね。やっぱり恋愛ってのはお互いに歩み寄って理解し合うところから始めないと」ウンウン

京太郎「処女乙」ボソッ

憧「聞こえてるんですけど!?///」

穏乃「じゃあ私が伝えてきましょうか? 「告白? お断りだぜ!」って」

玄「なんで「だぜ」!? いいよっ、お断りは私がやらないと」アセアセ

灼「ひとりでできるもん?」

玄「できるもん!……で、できるもん」カタカタ

宥「玄ちゃん、私が後ろで見ててあげるから……」ギュッ

玄「あ、ありがとうおねーちゃん~」ギュー

 ――斯くして、月曜の朝に起きたラブレター事件は、その日の放課後に幕を下ろした。

 遅れて部活に参加した玄さんだったが、流石に十全な実力を発揮するのは難しいようだった。

871 名前:7月2日(月)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 01:42:32.39 ID:xC2FjUK3o

……
…………
………………

 翌日、放課後。

 穏乃を除く五人までが部室に集まっていた。

京太郎「それにしても昨日はお疲れ様でした」

玄「ううん、私は何も。けど、相手の子には悪いことしちゃったかなって……」

灼「気にしてたらキリがな……」

憧「そうそう。これから何度もあるんだから」

玄「あるの!?」

憧「そりゃあるでしょ、玄可愛いし」

玄「えぇぇ……!? こ、困るよぉ……」

京太郎「可愛いですよ、玄さん」キリッ

玄「困るよぉ~///」イヤンイヤン

憧「はいはい」イライラ

 しかし、憧の言うことにも一理ある。

 玄さんを筆頭として、うちの部には美少女が多い。美少女の幕の内弁当だ。

 告白だって一度や二度じゃ済まないだろう。

 そんな彼女達の傍に立つ身としては、勝手ながら複雑な心境である。

872 名前:7月2日(月)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 01:49:59.57 ID:xC2FjUK3o

 そんな時だった。

バタンッ!

穏乃「憧ーっ!」

京太郎「穏乃?」

憧「どうしたの、ずいぶん遅かったじゃ――」





                 __
             . : :´: : : : : : : : :`: .
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           .´: :/: /: : : :∧: : :ヽ: : : : : ヽ
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        ': !: : !: _ハ:{: : ハ!   }ハ: :_:レ: :}}: : : ! : ヽ
        {:i: : :{: :/Tニヽ {!   jイ:ノハハハノ : !:}: :ヽ:ヽ
        i:ハ: :ハ: i/ん:ハ`   ゙ん:ハヽi: :i :ハ}i: : : ヽヽ  「ラブレターもらった!」
           iハ: ハゝ 辷ソ    辷ソ "ハ:レ: ノ: : : : ヽ:ヽ
             /人 !       '       /.ィ:}: : : : : : : ハ:.}
             {:{  ', "" r――┐ "" ′V}: : : : : : : } }:}
          {:{  ゝ,  ヽ  ノ   イ  ∧: : : : : : :/:/
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         /:::::::へ┐::::::\:::l l::::/::::::::::::::::j:::V : ノ
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      ノ::ィ::ヽ::`<´,.)::::::::::::l l::::::::::::::::::::::::!:::::::ハ
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 新たな事件が起きたのは。

913 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 22:07:39.67 ID:xC2FjUK3o

玄「――」

宥「――」

灼「――」

 玄さん、宥さん、鷺森部長。

 絶句する三人の間をすり抜けて、

「「マジで!!?」」グワッ

穏乃「うわぁ!?」ビクゥッ

 穏乃に詰め寄る俺と憧。

憧「本当なのしず、本当にラブレター貰ったの!?」ガシッ

京太郎「一体どこのどいつからだ!!」ガシッ

穏乃「えっと、今度も私のクラスの男子だけど……」

憧「また!?」

京太郎「サカりすぎだろクソァ!!」

憧「アンタに言われたくないけどね!」

京太郎「ほっとけ! とにかく俺は認めないぞ、穏乃を嫁になどくれてやるものかー!!」ユッサユッサ

憧「そうね、それには同感! しずをどこの馬の骨とも知れない男に渡したくなーい!!」ユッサユッサ

穏乃「ぁうぁうぁうぁうぁうぁうぁうぁう」ガックガックガックガック

918 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 22:35:33.89 ID:xC2FjUK3o

玄「や、やめるのです京太郎くん憧ちゃん! 穏乃ちゃんに手を出さないように!」

京太郎「」ハッ

憧「」ハッ

 背後から飛んだ制止の声に我に返る。

 眼前では穏乃が目を回していた。

穏乃「うきゅ~……」グルングルン

憧「うわ、しず大丈夫!?」

京太郎「ごめんな、悪りい、すまねえ、許せ!」

穏乃「それは謝りすぎ……ていうか、なんか勘違いしてるみたいだけど、私ラブレターなんて貰ってないよ?」

京太郎「は? いや貰っただろ?」

憧「そうよ、さっき言ってたじゃない」

穏乃「よーく思い出してよ、私がなんて言ったのか」

京太郎「え……「ラブレターもらった」って」

穏乃「その前」

憧「前? なんか言ってたっけ……」ウーン

京太郎「何も言ってないよな。確か「憧ーっ」って叫んで入ってきて……」ウーン

穏乃「そうそれ」

憧「へっ?」





                     _
                   / 二>───
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           /  .: / . :. :.:./: : :.:.′ :.′ l:.ヽ: : :ヽ: ヽ: : .
        l\.: .:.′:.:.:.l: ′|: :.:| : : |   |:__l__:.:|: : |: : : ヽ:.i
        ト、: \!    |:i .斗‐┼!: :l   jノ人|:.:.`ト、:.|. . .. ..| |
        个x: : :|: : :. イト、人_∧\!   __ |: :/|:i!:.|: : :. :.| |
.        / . ト、: \!l!: :. :.レ    ¨´         レ' レiノ:.|: : :.ハj
       /   l:.:.\:从: : : |              ___ |: : :ハ/
.      /   \ : \l\_j xzzzzz        ⌒¨^'ムイ
     /    .: :\/^Y T ^゚´      ,   、、、 l:.:.:|  「憧に渡してほしいって、ラブレターを預かってきたんだよ」
.    /     .: : : : {.⌒i: :|  """            l:.:.:|
   /    .: : : :. :.:.丶 l: :|       i ¨´` T     !:.
.  //    .: : : : : :.:. __/!:.:| > .      、__ ノ   イ:.:.:/
 //   .: : : : : :./^ヽ∨iト、三>   .,,_ . <ニ.|.:./
.//     .: : : : : .:      vヘ三三三三Y三ニi}三ニレ'^ヽ
      .: : : : :/       'vヘニ>─ ┴く/ x─‐‐く |
|| i!   : : : : :′   ⌒ヽ V´ ,       Y /      v
リ |   : : : : :レ'        ∨ ({        i !     i!
l  |   : : : : :|       /   リ..... ____  iノ    _〕
l  |   : : : : :l        /   ヽr'´ ̄ ̄`YY─==ニニX′
.\ト、   : : : : |      /      ! ______.| {       | |ヽ
.    \ : :. :.:.|     ′     └─ッ マ¨:l `ー== ‐┘!(
.     \: : : 、   /        /vvヘ.::|       | }





「「え゛えええええええええええええええええええええええええええええ!!?」」

929 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 22:55:42.09 ID:xC2FjUK3o

……
…………
………………

ガチャッ

レジェンド「遅レジェンド~……あり?」

京太郎「……」

穏乃「……」

玄「……」

宥「……」

憧「///」プルプル

レジェンド「なにこの集まり」

灼「阿知賀学院麻雀部による第二回ラブレター対策会議」

レジェンド「なにその集まり」

 ごもっともである。

 まさか本当に、しかもこんなに早く二回目が開かれるとは思ってもみなかった。

 あまつさえ、憧が議題に挙がるなんて。

 どうしてか、まるで考えていなかった。

937 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 23:16:01.03 ID:xC2FjUK3o

灼「かくかくしかじか」

レジェンド「把握した」

 師弟の絆って凄い。

レジェンド「で、それが問題のラブレター?」

 円卓の中央に置かれた手紙を指さす。

 今も未開封のソレが、異様な気配を発しているような気がした。

京太郎「そっすね」

レジェンド「開けてないんだ」

憧「だ、だって……」

レジェンド「開けてないのにラブレターだって分かるの?」

 その一言に目から鱗が落ちた。

 確かに、誰も手紙の中身を見ていない。

 これをラブレターだと言ったのは、

穏乃「いやー、昨日玄さんが貰ってたから、これもそうかなーって」

京太郎「オイコラ」

945 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/16(水) 23:42:58.67 ID:xC2FjUK3o

宥「じゃあ、これはラブレターじゃないの……?」

玄「憧ちゃん、読んでみたら?」

憧「そ、そうね……そうよね、きっとしずの早とちりよね!」

 どこか祈るような口ぶりで憧がラブレター(仮)を手に取る。

 そして恐る恐るといった手つきで封を開ける。

 中から出てきたのはシンプルで清潔な印象を与える便箋だった。

京太郎「………………やっぱりこれって」

憧「ぽ、ポエムかもしれない(震え声)」

京太郎「なんで隣のクラスの男子がお前にポエム贈るんだよ!?」

憧「そんなのあたしが訊きたいわよ! いいから黙っててよ!」

 バッ、と。

 半ばヤケクソ気味に憧は手紙を広げた。

 円卓を囲む全員は、紙面でなく憧の顔を見つめる。

 見つめて、手紙を読む憧の反応を窺う。

 憧は、



憧「……めっちゃハッキリ好きって書いてあるぅ……///」プルプル



 深く観察するまでもないリアクションを披露してくれた。

949 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/17(木) 00:14:54.17 ID:gSjZmQeko

憧「ど、どうしよう京太郎!?」

京太郎「俺に訊くのかよ!?」

 よりにもよって、だ。

 普段は穏乃とか宥さんとか、そっちに泣きつくだろう。

憧「だって……アンタは、ほら、あたし係……だし」

京太郎「う゛」

 それを言われると弱い。

 しかし状況が状況だぞ。

 まるで、俺が憧の恋愛にまで干渉する権利を持っているかのように錯覚してしまうじゃないか。

灼「それにしても、今時ラブレターとか珍し……」

レジェンド「だねー。昨日は玄が貰ったんでしょ? なに、1Aは恋文ブームなん?」

穏乃「よく分かんないです!」キッパリ

憧「そこ! 他人事だからって私語は慎む!」

玄「でも、どうするの?」

宥「告白、受けるの……?」

憧「ふきゅ」

953 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/17(木) 00:59:11.45 ID:gSjZmQeko

 こんな風に、真面目に話し合ったら合ったで憧はすぐ変な声を漏らす。

 会議の長期化が容易に予想された。

憧「そ、それは、そのぉ……いきなり訊かれても……」ゴニョゴニョ

灼「待ち合わせの時間とか指定されてないの?」

憧「えと、明日の放課後、体育館裏で……」

レジェンド「うはーベタだねー」

憧「ほんとよっ。こんなベタな、漫画みたいなことが、あたしに……」ソワソワ

京太郎「……お前、ひょっとして喜んでる?」

憧「よ、喜んでなんかない! 困ってるの!」

レジェンド「まあ確かに、今の憧にラブレターってのは刺激が強すぎるかな」

憧「……うん……」

レジェンド「でも、言い換えればこれはチャンスだよ」

憧「チャンス?」

レジェンド「そ。もしかすると、憧の男嫌いを劇的に改善出来るかもしれない」

京太郎「え」

 それはつまり。

 憧が告白を受ければ、ということか。

 けれど、

レジェンド「とにかく大事な部員の一大事なのは間違いない。どうするべきか、皆で意見を出し合ってみようか」

憧「ごめんねみんな、力貸してください」ペッコリン

「「「「「はーい」」」」」

京太郎「……はい」

 それは、つまり。

39 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/17(木) 22:16:48.95 ID:gSjZmQeko


 人数分のお茶を淹れ直し、会議が再開された。

レジェンド「しっかし……ラブレターかぁ。昔を思い出すなー」

灼「!?」ガタッ

穏乃「赤土先生も貰ったことあるんですか?」

レジェンド「阿知賀のレジェンドは伊達じゃないってね。学校中からモテモテだったよ」フフン

玄「あれ……おねーちゃん、赤土さんが学生の頃の阿知賀って……」ヒソヒソ

宥「玄ちゃん、しー……」プルプル

 早速ダレとる。

京太郎「あのー、皆で意見を出し合うって話はどうなったのでしょうか」

レジェンド「ん? 勿論ちゃんと覚えてるよ?」

京太郎「じゃあ出しましょうよ、意見」

レジェンド「うるさいなー! そう言う須賀くんこそ意見を出したらどうなのさ!」ムキー

京太郎「突然の逆ギレェ!?」

 なんてことだ。

 レジェンドはレジェンドだった。

 冷静に考えてみれば、俺を含めて揃いも揃って恋愛に疎い面子である。

 まともで建設的な意見交換など、元より望むべくもなかったのかもしれない。

41 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/17(木) 22:42:28.51 ID:gSjZmQeko

レジェンド「取っ掛かりが欲しいんだよ。なんでもいいから言ってみ言ってみ」

京太郎「ん? 今なんでもって……」

 言われても困る。

 ノーヒントは困る。

 取っ掛かりの取っ掛かりが欲しくなるが、そんなものはどこにも――

京太郎「あ」

 あった。

 ていうか、いた。

京太郎「玄さんは、昨日はどうしたんですか?」

玄「えっ? わ、私?」

京太郎「はい。どういう対応をしたのか、差し支えなければ教えてもらえませんか」

玄「いいけど……私の話なんかで憧ちゃんの助けになるかなぁ」

京太郎「勿論ですよ。なあ憧?」

憧「うん。お願い玄、今は玄だけが頼りなの」

玄「わわっ……分かったよ、ここはこの松実玄におまかせあれっ!」フンス

52 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/17(木) 23:36:05.97 ID:gSjZmQeko

 お決まりのセリフで意気込んで、玄さんは居住まいを正す。

 釣られて俺も憧も座り直した。

玄「えっと、私が呼ばれたのは屋上だったよ」

玄「元々放課後はあまり人が来ない場所で、昨日も私達だけだったんだ」

玄「階段のところでおねーちゃんに待っててもらって、その人とは一人で会いました」

玄「顔を見ても、やっぱり知らない人で、お互いに初めましてって挨拶したの」

玄「それからちょっと黙っちゃって、次に口を開いたのはその子の方」

玄「手紙、読んでくれましたか……って。すっごく真剣な表情だった」

玄「私がはいって答えたら、返事を聞かせてもらえませんかって」

玄「それで私は……その、ごめんなさい、って」

玄「……うぅ、今思い出してもドキドキしちゃうよぉ……///」カァー

宥「よしよし、がんばったね玄ちゃん」ナデナデ

京太郎「……」

憧「……」

玄「あれ? 二人とも黙ってどうしたの? 私の話、どこか変だった?」

京太郎「いや……」

憧「変っていうか……」

「「オチは?」」

玄「ないよ!?」ズガーン

60 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/18(金) 00:29:03.76 ID:1+jVDKxUo

憧「せっかく何が来ても大丈夫なように身構えてたのに……」

京太郎「率直に言うと拍子抜けッス」

玄「う……ぅわあああああんおねーちゃあああああああ!!」ダキッ

宥「憧ちゃん……京太郎くん……」ジトー

「「すみませんでした」」ペッコリン

 でも咎めるようなジト目の宥さん可愛い。

レジェンド「ふむ。確かに今の玄は滑っちゃったけど、しっかり得るものもあったね」

玄「や、やっぱり滑ったんだ……」グスッ

宥「赤土さん……」ジトー

京太郎「監督、得るものって?」

レジェンド「こっちには突拍子のない出来事でも、相手は勇気を振り絞って手紙を送ったってこと」

憧「あ……」

レジェンド「告白を受けるにしても断るにしても、よく考えないとね」

憧「……うん」



                 --……--
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        リ {: :.:.:.:.|!:‘, ィ芹≧ュ    ’|イi//| 》、:。:.:.:.ぃ、  「というわけで、告白シミュレーションやってみよー!」
           |:.:.:.:.:.「`ヽ《乂_゚ツ        ゞ= '゚ :リ/リ゚。:.:.ト、i
           |:.:.:.:.小   , ,    '    , ,  : /:.:.:.∧:.} リ
           l.:.:.:.:.:| }ゝ-!            jハ:.:.:.:j/}:.|
          :。.:.:.:{ {:j:八    -==ァ     イ }/ j:ノ
            ゚:。.リ  \{≧ュ。.    ィ:jソ  ″ /
           ゞ    イニ}  ` ´  {ニヽ
              ィニ//      ゝ|ニ\_
        ┬==≦ニ/ニ7____    __,.|ニニムニニニニニlヽ
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憧「ふきゅっ!?」

京太郎「アンタ本気で考える気あんのか!?」

レジェンド「ロンオブモチ★」キャルルーン

 胡散臭ぇ……

120 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 21:01:23.58 ID:6/wk7Kg+o

レジェンド「だって須賀くん、憧が初対面の男子を前にテンパらずにいられると思う?」

京太郎「思いませんけど」

憧「思ってよ!?」

レジェンド「なら事前にシミュレーションしておくのは悪いことじゃないでしょ?」

京太郎「それは……まあ……」

レジェンド「決まりだね!」

 決まっちゃったよ。

 これで本人は真面目なのだから質が悪い。

 ……真面目だよな?

レジェンド「さて。まずお手本だけど、須賀くんと……」チラッ

 視線が横にスライドしていく。

 憧を通り過ぎ、穏乃、玄さん、宥さん――そして、

レジェンド「灼、頼める?」

灼「え?」

京太郎「えっ!?」

憧「灼さん!?」

124 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 21:31:49.01 ID:6/wk7Kg+o

 トップバッター・鷺森灼。

 まさかの指名だった。

灼「なんで私……?」

穏乃「また私だと思ってた」

レジェンド「いつも通りならね」

 腕組みをしたレジェンドは意味ありげなことを言う。

レジェンド「いつもやってる指令は、単なる異性とのスキンシップ練習に過ぎないからさ」

レジェンド「だから性別を意識しないしずや、ついでに男に慣れさせときたい玄や宥も巻き込んできたけど」

レジェンド「今回は訳が違う。今回の発端はラブレターだ」

レジェンド「恋愛感情っていう、とてもデリケートなものが絡んだ事柄だ」

レジェンド「だから今日のしずは勉強する側。いい機会だから、一緒によーく考えてみな」

穏乃「わ、わかりまし……た?」ウーン

京太郎「……」

憧「……」

レジェンド「あれ? 二人とも黙ってどうした? 私の話、どこか変だった?」

京太郎「いや……」

憧「変っていうか……」

「「オチは?」」

レジェンド「ないよ!?」ズガーン

132 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 21:54:03.41 ID:6/wk7Kg+o

憧「あー……ごめんハルエ、シリアスな空気に耐えられなくって」ペッコリン

京太郎「憧に同じく」ペッコリン

レジェンド「……まァ、そういうわけで、ここは部で一番クールな灼が適任かなって、ハルちゃんは思ったのでした」イジイジ

 露骨にいじけた。

灼「ハルちゃんの頼みなら是非もな……」スクッ

京太郎「え、鷺森部長本気ですか」

憧「本気ですか!?」

灼「誰の為だと思ってんの」ジトー

憧「う゛……スミマセン、ヨロシクオネガイシマス」

灼「まったく、部長の仕事も楽じゃな……」

 普通は部長の仕事に告白シミュレーションは含まれない。

 とは言え、協力してくれるのは素直にありがたい。

 穏乃や玄さんや宥さんを相手に擬似告白とか、確かに色々マズい。

 よく分からないが、そう直感した。

135 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 22:22:06.53 ID:6/wk7Kg+o

 俺も席を立ち、鷺森部長と向かい合う。

 憧達がそれをかぶりつきで見ていた。

レジェンド「じゃあ須賀くんが灼に告白してみて、灼はそれに対して自分の判断で返事を」

灼「らじゃじゃ」

京太郎「そんなれじぇじぇみたいに」

 ていうか俺のハードル高くない?

 告白なんてしたことないのに。

 あくまでシミュレーションだし、雰囲気さえ掴めればいいかな。

憧「」ジー

京太郎「えー……鷺森、さん。手紙は読んでもらえましたか?」

 無言で頷く鷺森部長。

京太郎「よければ、返事を聞かせてほしいんですけど……」

灼「……は……」

京太郎「「は」?」

 もしかして「はい」か?

 嘘でもOKが貰えるとは。

 まさかの展開に緊張する。

 と、

灼「ハルちゃんも養ってくれる?」

京太郎「なんでだよ!!」

 盛大な肩透かしを食らった。

140 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 22:46:49.06 ID:6/wk7Kg+o

灼「養ってくれるの? くれないの?」

京太郎「え……いや、無理です」

 無理でしょう。

 そんな経済力、高一男子に求められても困る。

灼「無理なら告白は受けれな……」

京太郎「かぐや姫もかくやな無理難題でふるい落とされちゃったよ!」

レジェンド「はいそこまでー」

 非情にもホイッスルが鳴った。

レジェンド「うん、無茶な要求で相手を諦めさせるのは有効な手段だけど、ちょっと誠実さに欠けるかな」

灼「その発想はなかった」

レジェンド「次は考慮してみようか。じゃあ須賀くん、ワンモアプリーズ」

京太郎「またっすか!? あー……鷺森さん! 好きです、付き合ってください!!」

 ヤケクソだよ。

灼「ご……」

京太郎「「ご」?」

 「ごめんなさい」か。

 直球すぎる気もするが、さっきよりずっとマシ――

灼「ご一緒にハルちゃんはいかがですか?」

京太郎「だからなんでだよ!!!」

145 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 23:11:38.18 ID:6/wk7Kg+o

 俺は激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐の座敷童を除かねばならぬと決意した。

京太郎「なんで1コ上の先輩に告ったのに10コ上のアラサー押し付けられなきゃなんねーんだよ!!」

レジェンド「二十代半ばだよ!!」

灼「それでもハルちゃんはティーンエイジャー!!」イヤッホォーゥ

 もうやだ。

 こんな思いをするのなら花や草に生まれたかった。

 告白って難しい。

レジェンド「っと、そうじゃなくて……ダメだろ灼、私ばっか引き合いに出したら」

灼「ごめんなさ……でも、ハルちゃんの幸せが私の幸せだから……」

レジェンド「あ、灼……」ジーン

灼「ハルちゃん……」

レジェンド「灼ぁー!」ガバッ

灼「ハルちゃーん!」ギュッ

京太郎「……」

 もうやだ。

148 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/19(土) 23:34:56.58 ID:6/wk7Kg+o

 しばらくの間、熱く抱き合う師弟を冷めきった目で見ていた。

 怒鳴り散らさずに堪えた自分を褒めてやりたい。

 やがて二人は名残惜しそうに離れ、レジェンドは、

レジェンド「インターミッション!」

 と叫んで、俺は、

京太郎「は?」

 と返した。

レジェンド「いんたーみっしょん。休憩や、物事の間って意味だよ」

京太郎「それは把握してます」

憧「え、なに、休憩するの?」

レジェンド「するよー。休憩っていうか、今のシミュレーションを受けての話し合いかな」

京太郎「今のを受けてって……」

レジェンド「どうよ憧、なんか掴めた?」

憧「なんも」

 ですよねー。

158 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 00:14:23.67 ID:D1POWtJFo

憧「強いて言うなら、京太郎の告白が陳腐だったってことぐらいかしら」

京太郎「まさかの俺批判!?」

レジェンド「いい着眼点だね!」

京太郎「褒めて伸ばすタイプ!?」

灼「実際もっとロマンチックが止まらない告白だったら一考の余地ぐらいあったと思……」

京太郎「マジかよ!!」

 でも鷺森部長をときめかす告白って、やっぱりハードル高いだろ。

 それこそ自発的にレジェンドごと嫁に貰うような侠気を見せる必要があるのではないだろうか。

 どのみち詰んでるじゃねーか。

 各種丼物が男の好物であるということを否定はしないが、妄想でお腹いっぱい、フィクションで必要十分だ。

 ……姉妹丼に関しては、身近な該当者を見てると流石に心惹かれることもあるけど、これは仕方ない。

 部内一、いや校内一、いや県内一の性的な姉妹だ。欲情するなというのが無理な話だ。超法規的ノーカンだ。

 そんな二人を前に過ちを犯さずに済んでいるのは、やはりこれがアニメじゃないアニメじゃない本当のことだからだろう。

 現実問題、ハーレムとかぶっちゃけありえない。

 物理的精神的法律的見地から不可能だ。

 よりミクロな理由を挙げると、親御さんに殺されるから不可能だ。

 手塩にかけて育てた娘を同時にいただいちゃうとか、そりゃもう殺されますよ。

 二人の親御さん――お父さんか――と面識はないが、そういう前提で会えば間違いなく殺される。

京太郎「……」ブルッ

 『そういう前提』では断じてないのに、想像しただけで背筋が凍る思いだった。

162 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 00:48:16.68 ID:D1POWtJFo

レジェンド「確かに須賀くんの告白はイマイチだった!」ズバァッ

 死体蹴りが続く。

レジェンド「もっとこう、自分がしてみたい・されてみたい告白をイメージしなきゃ」

京太郎「自分が、ですか……」

 難しい。

 俺は元来、何事も広く浅く嗜むタイプなのだ。

 巨乳は好きだが、好きになる女性の条件と必ずしもイコールではない。

 そんな風に、好みのタイプすら絞れないのだから、告白も具体性に欠けるのだろうか。

 いや、さっきの告白に限れば大体レジェンドが悪いと主張したいけど。

レジェンド「もちろん自分の気持ちを伝えるのが第一だけど、それを相手に伝わりやすい形に加工するのも大事だよ」

京太郎「ふんふむ」

憧「ハルエのくせにいいこと言うわね……」

レジェンド「くせに、は余計だっての。ロマンチストの憧が甘い言葉に騙されないか心配してあげてるのに」

憧「ろ、ロマンチストなんかじゃないわよ! あたしはれっきとしたリアリスト!」

京太郎「ハハッ」

憧「なによその乾いた笑いは!?」

 言わせんなよ。

182 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 15:09:48.49 ID:D1POWtJFo

レジェンド「玄と宥は? 理想の告白ってある?」

玄「ふえっ!?」ドキン

宥「わ、私達ですか……?」プルプル

レジェンド「うん。特に玄は告白されたてだからね。かなり意識してるんじゃない?」

玄「それは……た、たしかに色々考えてみたりみなかったりしましたけど……///」モジモジ

憧「色々って?」ズイッ

玄「訊いちゃうの!?///」

京太郎「むしろ訊かなくてどうすんですか。その為の話し合いでしょ」

玄「うぅう……/// あの、あのね? 笑わないで聞いて欲しいんだけど……」

玄「私にとっての理想の告白って、やり方や言い方は多分あんまり重要じゃなくて」

玄「大切なのは、きっとタイミング」

玄「この人なら一緒にいて安心できる、この人とならずっと一緒にいたい、そういう人に必要とされたら……」



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            i . .:.|:八.:.|ヽ{  _    \   ,z≦ミ、| :.: :.!:. |!  「それはとっても、素敵なことだと思うな」
            | : /|.::.:.:.::! ,ァ= =ミ     ´   `'^| :. : |:.小
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         ○: :′.:.:.ト. .           ,      八:.:..:}:. l:.‘
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         / . rヘ´ ヽ \  |   ∧   ∧'ィ斗v′:.:/       ヽ
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      / . . .:.{     ヽ   }  ∧__/ }ハ ≧7.:.:.:./     /     {:∧
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    / . ./..:.:.:.i      ∨ }    `≧-ヘ ∧ノ}:.:.:.:.{ . { .′     }:. . ‘.
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189 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 15:46:56.10 ID:D1POWtJFo

京太郎「……」

憧「……」

玄「あ、あれ? 二人とも、また黙って……もしかして、またオチがないからダメだった……?」ビクビク

京太郎「いえ……」

憧「ダメっていうか……」

「「……ありがとう?」」

玄「お礼!?」

灼「なんで疑問形……」

 それは戸惑っているからです。

 でも、玄さんの言うことはよく理解できた。

 結果に繋がるのは直前の手段ではなく過程。

 なるほど正論だ。言われれば、言われるまでもないことのように思える。

 そんな当たり前のことを、玄さんのおかげで再確認することが出来た。

 「ありがとう」。

 それしか言う言葉が見つからない。

 きっと憧も同じ気持ちだろう。

レジェンド「ふんふむ……宥は?」

宥「わ、私はあったかい人がいいです……平熱が39度ぐらいの」

レジェンド「いないよ!?」

 言う言葉が見つからない。

192 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 16:19:27.00 ID:D1POWtJFo

レジェンド「まったく宥は……せっかくの美人がもったいないよ?」

宥「び、美人なんて……」プルプル

憧「いや美人だって」

京太郎「めがっさ美人ですにょろ」

宥「ぁ……あった、かぁい……///」ポワ

 ほんと、寒がり故の厚着さえなければなぁ。

 この美貌が人目に触れ、引く手も数多あるだろうに。

 宥さんの性格を考慮すると、変な男が近寄らないだけラッキーとも言えるが。

レジェンド「さて。それじゃあ残るは……しずー」

穏乃「」ビクッ

 呼ばれると、穏乃は素早く反応を示した。

 ずっと黙っていたので寝ているものと思っていたが、違ったらしい。

 俯いていた顔が上がると、まずハの字に曲がった眉が見えた。

 快活の代名詞とも呼ぶべき穏乃には似つかわしくない、当惑の表情だった。

196 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 16:53:19.71 ID:D1POWtJFo

レジェンド「かーなーり悩んでたね。どう? 答えは出た?」

穏乃「そ、それが全然……」

 と、困り果てた様子の穏乃。

 頬をポリポリ、脚をパタパタ。

 どうにも落ち着かない心情が態度に出ていた。

レジェンド「ありゃ。ダメかー」

穏乃「ごめんなさい、玄さんの話を聞いてもさっぱりで……」

憧「ま、しずにはちょーっと早いかもね」

穏乃「むっ。そう言われるとなんか悔しい」

憧「だって、LikeとLoveの違いなんて分かんないでしょ?」

穏乃「わ、わかるよ! 排気量が違う!」

憧「ほら分かってない」

京太郎「バイクとカブなんて区別の仕方はねーよ」

穏乃「うぐぐ……」

200 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 17:41:00.11 ID:D1POWtJFo

玄「穏乃ちゃん、なんとなく感じたことでもいいんだよ? 私も上手く説明は出来ないけど……」

穏乃「なんとなくですか……うーん……」

 また難しい顔で考え出す。

 まあ難しい顔と言っても、

       ,. :´: : : : : : : : : : : : :`:ヽ、-.、
      /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ:\
    /: : : : : : : : ∧: : : : : : : : : : 、 : : :ヽ:ヽ
   / : : : : : : : : : / ヽ: : : }: : : : : : ヽ: : : ヘ: ヽ
  /: :/ : : : : / : /  ヽ: : :}: : : : : : :ヽヽ: : }: : :ヽ
  {: /: : : ト、ハ: /    '; :人: :_レ: : : ',V/: }: : : :ヘ
  {:ハ: : : :i: i`'ト:L__  vi:,レへ:{\: : : }:!: :/: : : : :ヘ
   ハ: : :ハ! V      レ   ` V: /:}:./: : : : : : ハ
    ヽ: ハ 三三      三三三 i:V: :.ハ: : : : : : : : :ヽ
     V: } ww       ww   }: : : レi: : : : : : : :ハ:ヘ
       i:{     、_,、_,、_,    u イ: : :/ !: : : : : : : :ハ:i
      V>. 、_ ー―'  z≦  !:. :/  }: j : : : : : :} ヽ
        ヽヽ: ヽ {::::エニ彡:::::ニ:}_/l: :/  |:∧: : : : /:}
          _ゞくトニiiニニ-:´ノ::::レく   レ i: : : :ハi
        /::::::::::::ヽjj:::―::: ̄:::::::::::::::::ヽ   }: : / ノ
        /:::i:::::::::::::《::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i   !: /
      j::::::!:::::::::::〃:::::::::::::::::::::/:::::::::::}  レ'
       l::::::V::::::::::ll::::::::::::::::::::::/::::::::::::::::;
.      j:::::::{:::::::::::ll:::::::::::::::::::::/:::::::::::::::/

 この程度 (↑) だが。

 それでも穏乃が眉間にシワを寄せて考え込むなんて貴重な光景だ。

穏乃「ん~……先生の言う『好き』って、私が憧や京太郎を好きだって思うのとは違うんですよね」

レジェンド「そうだね」

憧「そ、そうね」

穏乃「じゃあ」

 ぐるりと周りを見回して、



穏乃「憧や玄さんや宥さんや灼さんが京太郎を好きだって思うのとも違うんですよね?」



京太郎「おうっ!?」

憧「ふきゅっ!?///」

玄「ふえ゛っ!?///」

宥「ふぁっ!?///」

灼「( ´_ゝ`)」

231 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 21:16:30.55 ID:D1POWtJFo

レジェンド「それは……どうかな~?」ニヤニヤ

憧「ち、違う違う違う違う! 友達としての『好き』に決まってるでしょ!!///」

玄「お、同じく違うのです! 私の『好き』はお兄ちゃん的な意味ですのだ!!///」

宥「わ、私は……私も、違います……あったか~い意味の、『好き』……です……///」

灼「私はハルちゃんが好きだから(ちくわ大激怒)」

京太郎「………………全方位まっこう否定ですか………………」

穏乃「ぅ?」

 自分の爆弾発言に気付く素振りもなく、穏乃は愛らしいキョトン顔を披露している。

 いつだって台風の目は穏やかだ。

 そして俺ばかりがダメージを負うのだ。

憧「しず! アンタいくらなんでも恋愛に疎すぎ!」

穏乃「そんなこと言われても……」

憧「前に漫画とか貸してあげたでしょ。読んでないの?」

穏乃「読んでると眠くなるんだよー」

憧「どんだけ!?」

234 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 21:40:55.24 ID:D1POWtJFo

京太郎「……ん?」

 待て待て待て。

 さっきの憧の発言、聞き捨てならんぞ。

 音もなく近付き、肘で脇腹をつつく。

京太郎「……」ツンツンッ

憧「ひゃんっ///」ピクンッ

 感じさせてしまった。

憧「なにすんのよ!?///」

京太郎「お前穏乃に漫画とか貸してんの」

憧「え? そうだけど……中学の頃好きだったやつとか」

京太郎「……エロいのじゃねーだろうな。穏乃の教育に悪い」

憧「か、貸す本くらい選ぶわよ馬鹿ぁ! 普通のラブコメだから!」

京太郎「そっか、そいつは一安心……ん? 選ぶ必要があるってことは……」ジッ

憧「………………黙秘権を行使します(震え声)」

京太郎「おい」

239 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 22:27:09.41 ID:D1POWtJFo

穏乃「憧? 京太郎? なんの話してるの?」

憧「な、なんでもないわよ!? うん、気にしないで!」アセアセッ

穏乃「……?」

京太郎「ほら穏乃、それより『好き』の話だろ。続けようぜ」

穏乃「あ、そだね。でも……うーん」

 唸り声と共に悩みの沼に沈んでいく。

 それは穏乃にとって余程の難問らしかった。

穏乃「好きは好きでも特別な『好き』、かぁ」

 誰に宛てたでもない言葉。

 まるでシャボン玉のようだった。

 それから散々沈黙した末に、

穏乃「………………やっぱり分かんないー!!」

 椅子を倒す勢いで立ち上がり叫んだ。

 今度こそはと期待していたが、嘆息する。

 憧の為の話し合いが、今はすっかり穏乃中心になっていた。

240 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 22:54:36.61 ID:D1POWtJFo

穏乃「好きな人ーって考えると、どうしても憧や京太郎の顔が出てきちゃうんだよ……」

 ほとほと困り果てた表情で、そんな嬉しいことを穏乃は言ってくれる。

 隣の憧を見ると、照れ臭そうにに破顔していた。

穏乃「だから、考えれば考えるほど分かんなくなる! すっごくモヤモヤする!」

憧「……じゃあ、具体的に誰か思い浮かべてみたら?」

 うぎゃーと頭を抱える穏乃を見るに見かねてか、憧が助け舟を出した。

穏乃「誰か……って?」

憧「………………きょ、京太郎とか」

京太郎「オレェ!?」

 泥船だった。

穏乃「え、京太郎?」

憧「そう、京太郎を特別に『好き』な相手としてイメージしてみるの」

穏乃「えぇえ……?」

 ほら見ろ。

 穏乃も露骨に戸惑ってる風じゃねーか。

243 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 23:31:37.86 ID:D1POWtJFo

憧「自分が……あ、あたしが、京太郎のことを好き……だとしたら」

憧「どうすれば気持ちが伝わるか、考えてみるの」

憧「そうしたら――」

 呟く中で、憧は目を閉じた。

 イメージしているのだろうか。

 俺との恋模様、その在り方を。

 奇妙な緊張に包まれる部室。

 その時、憧がクワッと目を見開いて、

憧「――どうすれば伝わるのよこの鈍感野郎おおお!!!」

京太郎「俺に質問をするなァアアアアアアアアアア!!?」

 急に胸ぐらを掴んできた。

 そんな騒々しい俺達をスルーして、穏乃は何度目かの思索に耽っていた。

穏乃「私が……京太郎を……?」

 ちら、と横目で視界に捉えた穏乃は、今まで見たこともない表情をしていた。

248 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/20(日) 23:57:03.98 ID:D1POWtJFo

 くすぐったいような。

 むずがゆいような。

 うれしいような。

 かなしいような。

 そんな色々が綯い交ぜになった表情をしていた。

玄「穏乃ちゃん、どう?」

宥「なにか分かった……?」

穏乃「んー……はい、ちょっとだけ」

京太郎「え、マジで?」

憧「えっ、マジで!?」

 おい。

穏乃「えと、私って頭よくないし、言葉も知らないから」

穏乃「だからごちゃごちゃ考えたりするのも苦手で」

穏乃「そんな私が、特別な気持ちを伝えるとしたら――」



                              ────  __ ─ 、
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                     八::{|!: !::| ,r_芋ミ    !',r示/ミ' !::/:::::::′:
                       〉!.〉:乂' ト::::::}       ん:::::::;ハ,':/:::::::/::::::|   「好きだよ」
                       /':::〃:、_! 乂_ソ       乂__,ソ,jイ:::/`::}::::: |
                    /:ノ:l:ハ :::|! ,,,,,   '     ,,,,,  /::::゙ ノ:''!::::::|
                   /::/::::|!::!::∧    ー─,     /:::/'':::/j:::::: |
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        r 、  r,_.    〃 ,/:::::::::::::,r七´ ̄' / ヘ ,r<´/ ,/''<:::::/ /:::::::/
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        { .{/ / / /) ./:::::::::::::::::/  j ィ7`ヽ',Y /,∧,ノ   /   \:/
        | / / ,//::::::::::::::::::::::::/   / ! {   `-/´⌒}   \     ヽ
          ヘ    (--`ヽ::::::::::::::Y{  /  |〈!  ノ-{    /    /       }
        ,人__ ,,,)〈' ∧:::::::::::ノ !  ′ .! 乂 / { ゝ イ)  /      /
      /:>、    \ ヘ::::::ノ   l   !  `|  ゝ- ' ´ ./       〈



穏乃「――って、ただそれだけしか言えないかなぁ」エヘヘ

250 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/21(月) 00:23:55.56 ID:J5AR2FIto

京太郎「ッ」ドキッ

憧「……ん? ねえ、それって結局普段と変わらなくない?」

穏乃「えっ?……あ、そういえば!」

京太郎「」ズコー

 ここまで引っ張ってそんなオチかよ。

宥「でも、穏乃ちゃんらしくていいと思うな……」

穏乃「そ、そうですか?」

玄「うん! そんな風に穏乃ちゃんから言われたら、きっと男の子も嬉しいと思うよー」

穏乃「やー……うぇひひ、なんか恥ずかしいですねっ」ソワソワ

憧「でもなー、しずは女子力足りてないからなー」ニヤニヤ

穏乃「そんなことないよ! 私の女子力は53万だよ!」

憧「その桁数がもう女子らしくないから」

 穏乃が一応の解答を得、元の賑やかさを取り戻した麻雀部の面々だった。

 人の脳内で告白されたりされなかったりした俺だけが、なんとなく釈然としない気分だった。

278 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/21(月) 22:17:48.95 ID:J5AR2FIto

レジェンド「さーて、いよいよ本命だね」

 と、

 満を持して舵を切るレジェンド。

 鷺森部長とのデモンストレーション。

 玄さんと宥さんが思い描く理想の告白。

 穏乃の拙い恋愛観に対する講釈。

 それらを経て、ようやく準備万端といったところか。

レジェンド「憧、考えは纏まった?」

憧「いや、落ち着いて考える暇なんてなかったんだけど……」

レジェンド「でも気持ちぐらい決まってるんじゃない?」

憧「そ、それは……」ゴニョッ

 口ごもる憧。

 レジェンドの言う通り、もう答えは出ているということか。

 告白を――受けるのか、断るのか。

 その答えが。

レジェンド「それじゃあ須賀くん相手に予行演習といこうか」

京太郎「はあ!?」

憧「ふきゅっ!?」

280 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/21(月) 22:42:29.46 ID:J5AR2FIto

 またか。

 薄々分かっちゃいたが、またこのパターンか。

 何度目だナウシカ。もといレジェンド。

憧「な、ななななんで!? 京太郎なんで!? え!?」アワワアワワ

レジェンド「いやほら、お約束だし」

 自覚あんのかよ。

 そして憧は憧で毎回リアクションが新鮮すぎる。

 よく飽きもせず騒げるものだ。

 なんて。

 心の一面ではクールぶっている俺も、違う面では奇妙な緊張を覚えていた。

 なんか、ドキドキしていた。

レジェンド「段取りはこうだ。須賀くんが告白する。憧が返事する。OK?」

 「OK!(ズドォン)」とやれたらどれだけ楽だろう。

 しかし、部活の時間を削ってまで続けられた話し合いの総決算を、無下には出来ない俺と憧だった。

284 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/21(月) 23:33:52.70 ID:J5AR2FIto

レジェンド「須賀くんも、灼にしたみたいな適当な告白じゃダメだからね?」

 俺達の渋面を確かに見ておきながら、尚もレジェンドは平然と話を進める。

 わざわざ取り合っていてはキリがないだろうと、分かってはいるけど。

 促されるまま、向い合って立つ俺と憧。

 穏乃達はレジェンドの左右に並んで見学だ。

京太郎「あー……憧、最初に言っておくぞ」

憧「な、なによ」

京太郎「これは演技だ。お前の為にやってる練習だ」

 それは、同時に自分にも言い聞かせる言葉だった。

 こうでもしないと、自分自身に振り回されそうだと思ったから。

 一体なんなんだ、この感覚は。

憧「わ……分かってるわよ。あたしだって、仕方なくアンタに告白されてやるんだから……」

京太郎「あーそうかい。じゃあお望み通り一回しか言わないからな、よく聞いとけよ」

憧「う、うん……」

287 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/22(火) 00:19:56.73 ID:OGMi1IJNo

 息を呑む。

 喉がカラカラに乾いているのを感じた。

京太郎「……俺は」

憧「っ……」

京太郎「俺、は……」

 俺は、何を言おうとしているんだろう。

 急に何もかも分からなくなった。

 目が回る。

 膝が笑う。

 とても立っていられない。

 だから、

京太郎「――、俺は!」ガシッ

憧「ひぁっ!?///」

 憧の肩に手を掛けた。

 がっしりと掴んで、倒れないようにする。

 ああ、これなら大丈夫だ。

京太郎「憧! 俺、俺は――!」ズイッ

憧「ぃ――」



   ∧∧.∩      ∩_ ・∵’、
  (    )/ ⊂/"´ ノ )     「いやあああああっ!!///」
 ⊂   ノ   /   /vV
  (   ノ    し'`∪         「ぐわあああああっ!!?」
   (ノ



ウーワーウーワーウーワー...

「YOU LOSE」

 そんな声が聞こえた。気がした。

319 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/22(火) 22:11:45.17 ID:OGMi1IJNo

京太郎「ごフッ」ドサァ

 体感時間にしてたっぷり五秒は滞空し、部室の床に大の字で倒れる。

 空間を静寂が支配した。

憧「はあ、はあ、はあ……はっ!?」

京太郎「」チーン

穏乃「憧……」ジトー

玄「憧ちゃん……」ジトー

宥「あこちゃー……」ジトー

憧「ち、違っ! 今のは、あの、その、わざとじゃなくて!」シドロモドロ

灼「急にボールが来たので?」

レジェンド「そんな急でもないし、ボールじゃなくて須賀くんだけどねー」

憧「ぁ、ぅ………………ハ、ハンカチ濡らしてくるー!!」ダッ

 逃げた。

 居た堪れなくなったのか、憧は部室を飛び出してしまった。

 俺は、その遠ざかる足音だけを聞いていた。

320 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/22(火) 22:37:16.04 ID:OGMi1IJNo

穏乃「京太郎、大丈夫?」

京太郎「おー。舌とかは噛んでないし……大丈夫だ、問題ない」

レジェンド「しかし憧には参ったね」

京太郎「まったくもって。なかなかのなかなかですよ、こいつァ」

 もう三ヶ月も経つのに。

 それとも、たった三ヶ月で結果を求めるのが間違いだというのか。

 憧の男嫌いは、それ程までに根の深いものだというのか。

 それこそ三ヶ月が経つというのに。“憧係”だというのに。

 改めて考えてみると、俺はまだ何も知らないのかもしれない。

レジェンド「でも告白された」

京太郎「ッ」

レジェンド「いつまでも自分のペースで、って訳にもいかないんだよね。残念ながら」

京太郎「……ですね」

324 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/22(火) 23:33:51.24 ID:OGMi1IJNo

レジェンド「須賀くん的にはどう?」

京太郎「は? どう、って」

レジェンド「憧のこと。告白、受けるべきだと思う?」

京太郎「なっ……!?」

レジェンド「忌憚ない意見が聞きたいな」

京太郎「ど、どうして俺が……これは憧の問題ですよ?」

レジェンド「それはそうだけども。参考にする分にはさっきからしてたじゃん」

京太郎「いや、だからって俺が口出しするのは……」

レジェンド「気が引ける?」

京太郎「当たり前でしょう。仮に俺が受けるべきだと言って、それで憧が傷付くようなことがあったら――」

レジェンド「私はね、ショック療法も手段の内だと思ってる」

京太郎「――、……は?」

レジェンド「やってみなくちゃ分からないことは、とりあえずやってみるタチだからさ、私」

 そう言ったレジェンドが、俺にはあまりにも無責任に映った。

343 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 00:22:49.84 ID:dbbyUbudo

京太郎「な、にを……監督のポリシーがどうだろうと、当事者は憧なんですよ?」

レジェンド「その通り、これは私の持論だ。だから憧に強制はしない」

 でもね、と継ぐ。

レジェンド「もしかしたら、形から入ってみるのが正解なのかもしれない」

レジェンド「憧が考えているより、男っていうのは怖い生き物じゃないのかもしれない」

レジェンド「恋人という特別な距離が、関係が、憧にそれを気付かせてくれるかもしれない」

レジェンド「その可能性は、キミ自身が証明してるよね?」

京太郎「それは……」

 否定出来なかった。

 知り合った頃はあれだけ俺を毛嫌いしていた憧と、今では良好な関係を築いていると自負している。

 人は変われる。

 どれだけ僅かな歩みでも、前に進めるのだ。

 憧の成長を間近で見ている俺が、一番分かっていた。

レジェンド「だから、憧が告白を受けようと思うんだったら、私は止めるつもりはないよ」

レジェンド「もちろん、最低限のフォローはするけどね」

351 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 00:54:50.99 ID:dbbyUbudo

京太郎「……」

 レジェンドの並べる理屈には、一応の筋が通っていた。

 だからこそ歯痒い。

 感情のままに言い返せないことが、堪らなく歯痒かった。

 そんな俺の胸中を見透かしたようなタイミングで、



レジェンド「止める権利があるのは須賀くんだけだよ」



 レジェンドが言った。

京太郎「………………俺、ですか?」

レジェンド「うん」

京太郎「なんで……」

レジェンド「“憧係”だから」

 断言するレジェンド。

 俺も、今度こそは馬鹿げた理由だと断定出来た。

 馬鹿馬鹿しすぎて、思わず脱力してしまう程だった。

京太郎「……なんでそんなに自信満々に言い切れるんすか……」

レジェンド「信用してるからね。キミも、憧も」

368 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 01:33:53.42 ID:dbbyUbudo

京太郎「そりゃどーも……けど、俺が言ったって憧は聞く耳持たないと思いますよ」

レジェンド「そう? 意外と素直に従うんじゃないかな」

京太郎「ないっすね。2ポンド賭けてもいーよ」

レジェンド「2ポンドはいらないけど、じゃあ憧には内緒で須賀くんの意見を聞きたいな」

京太郎「え」

レジェンド「憧に言わなくていいから、憧は告白を受けるべきか否か。どう思ってる?」

京太郎「いや、言わなくていいなら俺も言いませんよ……」

レジェンド「どうして?」

京太郎「どうしてって……さっきも言ったでしょう、俺に口出しする権利なんてありませんよ」

レジェンド「私もさっき言ったよ、キミには止める資格があるって」

京太郎「……やっぱりそんなのありませんよ。“憧係”でもなんでも」

レジェンド「ふーん?」

 不満気な声を上げるレジェンドを見た。

レジェンド「そんな怖い顔しないでよ」

 してない。

375 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 02:12:17.24 ID:dbbyUbudo

穏乃「きょ、京太郎? なんか怒ってる?」

 怒ってない。

玄「お、おねーちゃん……」ギュッ

宥「くろちゃー……」ギュッ

灼「おっかな……」

 なんだなんだ皆して。

 本当に怒ってないし、そもそも怒る理由がない。

レジェンド「須賀くん、今ぐらい本音で話してもいいんだよ?」

京太郎「だから本音ですって。本心ですよ」

京太郎「いくら“憧係”と言っても、憧の全てを知ってる訳じゃないし、全てに関われる訳じゃない」

京太郎「特に恋愛とか、そういうデリケートなことなら尚更だ。そうでしょう?」

京太郎「でも、憧が誰かと付き合おうって思えるようになったんなら、それは俺としても喜ばしいことですよ」

京太郎「その為に俺も、他でもない憧も頑張ってきたんですから」

京太郎「……そりゃあ、俺に言わせれば憧の奴の男嫌いはまだまだちっとも治っちゃいませんけどね」

京太郎「クラスの男子ともうまく話せないし、移動教室は女子の群れからはぐれたら俺が付いててやらないとダメだし」

京太郎「そんな状態で知らない男と付き合わせるとか無謀としか思えないし“憧係”としての責任を感じないかと言えば嘘になるし」

京太郎「やっぱり憧には男嫌いを完全に克服した上で幸せになって欲しいっていうか幸せにしなきゃっていうかラブレターとかふざけんなっていうかまあ俺がとやかく言う筋合いなんてないんですけどねマジで」

穏乃「……」

玄「……」

宥「……」

灼「……」

レジェンド「……須賀くんさぁ、本っ当に告白を受けた方がいいと思ってる?」

京太郎「………………」










                ,. --- 、        ____
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           、_/_/⌒ヽ , /            ヽ
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       /       ,:´ | { | l\{从 ∨ィ斧ミ、 |    |
    /\'´        /{  | 从{__,. \∨Vソ }イ ト、 ∧{
    ////\ r---  ´八 !∧  ̄   ,:  :.:.:  }/ノ/ リ   「……受けてほしくない……です」
.   ///////\      \}∧         u 八/
  //////////〉        込、  __    ,.: /
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377 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 02:15:33.77 ID:dbbyUbudo


~廊下~





         , r '´ ̄ ̄)`ヽ      ./´     .|     1    \
        /   , r ',´`ゝイ      /       i|     .|     ヽ
       ./  ,r'彳 /   .|     ./ ./    , /|     |   ヽ.  ヽ
      /// /  ./   ト、 ヽ   ./ /    / /|    i .ハ    1  ヽ
     ./  / ./  ./    |ヾ  ヽ / /i-、,_  /j ./ |    .ル.j |   .|1.   1
     ./  ./ ./  ./    .| ヾ  ヽj /.i  .>ト,/ j    /i j .|.ハ  | |.   |
    /  / j  i     |  ヾ /j j | / ./ '、` j   /ノ/ .|.j |  .j .|   .i |
    ./  / .|  .|    | |  >'´i |rt== ミ、 、 ./ / /' r t/'ー-/ |   .| |
   ./  .| .j  .|    | | V´  | .| .ク心:::::ミヾ ' '´   '  - ' j /j |   ルj
   j   .| .j  .|    .| |    | .| 毛:::::::ゝ       r==ミ,tノ/j j i  .从'   「……もー、しょうがないなぁ」
   /   .| /  .|    | |   | .| ヾ:::::リ'       .ク:::C }./イ .|.j //' 1
   |  | .| /   .|     i. |   | .| ,,,,,         .レ:::リ './ iイ i/ノ |'  ,1
   |  1 .|./   |     ヽ.ト   | .|           ''ヾ / |'j j´  |  |1
  .|  1 |'    .1ヽ    ヽ》、  | .|         '  ,,,,, /  |j /   .|  |.|
  .|   、|    ヽ、ト    ヽ \| .|    ヽ、       /  .j ./    1 |.|
  .|   ,V     ゝ 、、    \ i .|、      ´    ノ   /./    .| | |
  .|   1、     .》、\ヽ    ゝ | ヽ、      , r ' ´   ././     | j |
  .|   .1ヽ    / `ー-ヽ、、_   ゝi、./ `ヽ- j ' ´  .i   ./.イ      |.j .|
  .|   1.ヽ  ./       ` ゝ 、 ` \'  ./ i   1  // 1|     .|.j  |





402 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 22:24:58.54 ID:dbbyUbudo


穏乃「京太郎! だったら憧にそう言おうよ!」

京太郎「でもなぁ……」

玄「正直に話したら憧ちゃんも思い直してくれるよ!」

京太郎「そうかなぁ……」

宥「うん、きっとそうだよ」

灼「保証はどこにもないけど」

レジェンド「(そりゃそうじゃ)」

京太郎「わ……分かった。憧が戻ってきたら――」

ガチャッ

憧「おまたせー」

 ぅゎはゃぃ。

 しかし勢い付いた心は、体は止められない。

 憧を目掛けてまっすぐ歩き出していた。

京太郎「あ、憧! あのな、告白の件モゴォ」

 そして覚悟が変わらない内に伝えようとした言葉は、濡れたハンカチに遮られてしまった。

403 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/23(水) 23:13:17.72 ID:dbbyUbudo

憧「ごめんね、痛かったでしょ?」サスサス

京太郎「い、いや……」

 ひんやりとした感触が、改めて顎から頬にかけてを優しくなぞる。

 そうしてくれる憧の声もいつになく上機嫌な、穏やかなものに聞こえた。

 さっきまでとは大違いだ。戸惑いを禁じえない。

憧「ところで、今なにか言おうとしてなかった?」

京太郎「あっ……そうだ! あのな憧、その、ラブレターの件なんだけどな――」

憧「ああ、断るわよ」

京太郎「こんなこと俺が言うのも変だってのは重々承知してるんだけどそれでも敢えて言わせてくれ頼むから今回は断っ断るゥ!?」

憧「断るわよ?」ケロッ

京太郎「な、なんで!?」

憧「玄と同じ理由よ。インハイ前だし、よく知らない相手だしね」

京太郎「憧……」

憧「……それに、」

京太郎「ん?」





                _. .-. . . . ̄. .゙. . . 、
             , '´: . . . . /. . . . . . . . . .ヽ
            /:;ィ´: : : : :/: : : : : : . . . .ヽ. .\
        _,-─tァヽゝL:_/_:,': : : : : :|: : : : . . .゙ . . ヽ
      ,〃,r‐'7ハ: レ!__,'_ : ;イ | : : : /!!: : : : : ヽ. l . . .、
      /:〃  l: ト、|:.|: ハ Tハ!:|: : : :{ ||: : : :.|: |:゙. .!_l |ミヽ、
     ,':./   !: |: :|::LL_ヽ| !:||: : : ! |'T:‐:-|、: :|: ト、 !| \:ヽ
     ,':/    .|:.:|: :| ハチ≧ト、|ハ: : :!土_ヽ: :|: |: !:.|. .ヽ!!  ヾ.、
    ,'/     λ:.r=|: |.{:;;::Cヾ  ヽ|チ不≧!/! |: !. ./,'|    ヾ:、
    |l     ハ: | (!: !`ー''     { {゚:;;:C |>|:.!:.|,:'./|j     ヽl  「今は京太郎に面倒見てもらってるんだもん、そっちが優先」
    ||    |: :|ヽト、!:.!"""   '   ` ー'' ,イハ|: |:/.:l      ||
    |:!.    |N:l:.ミト、!:.|  、     """ /ノノ !:.|: _;|      |:!
    |:l  r、 .N:.ト {ヽ: !、    ー    ,イf.l´.:.:|:.j//ハ      l:.|
     i!:|  \\:|:゙、| |:ヽ:|:>、_ .... -≦|:.:.:.| !:.:.:.|,.'/:.:∧      .|:.|
.    从!   l\\:| |: :l: !:|      |ヽ|: !:.:.:.| |: :/ ,イ|:゙、:ヘ      !:.|
    ハ:ト:l   Lf~ヽ `_ヽ_:!|ヽ    ||、-、ヽ:_L`_r"∠!: :!:∧    |:.:!
   ,' :|::!ミ、 | >、ゝ.|´ヽ ヽヽ:ヽ-、 ,.r!::>‐'{ | |ノ|ノ7: |:.:.ヘ.   ,':.:|!
   |,' |!| ヾ,へ.ヽハノ、/ ̄`ヽヾ´ ̄`|::::\_ヽ_!__! .| /|: :.!:.: ∧ ./:.:.:!i!
   |i| !:|  |\,ゝ       |: :ヽ  |::::/´   /` ̄ヽ: |:.: :.∧/:.:.:.:||i!

411 名前:7月2日(火)[saga] 投稿日:2014/04/24(木) 00:00:15.64 ID:XwRwlAUYo

京太郎「――っ」

憧「ぁ……なによ、なんか言いなさいよっ」カァッ

京太郎「お、ぉお……いや、恥ずかしがるぐらいなら最初っから言うなよ」

憧「うっさい! アンタこそそんなことしか言えないの!?」

京太郎「言えない訳じゃねーけど……そうだな、そうか、断るのか、そっか」

 俺に面倒を見てもらっているからとか、つくづく義理堅い奴め。

憧「なんで嬉しそうな顔してんのよ」

 してない。

京太郎「待ち合わせは明日の放課後だっけか」

憧「え、うん。体育館裏」

京太郎「ついて行こうか?」

憧「なんでよ!?」

京太郎「だって男と二人きりになるんだぞ?」

憧「ふぎゅ……だ、大丈夫よ。そこは筋を通さなきゃ」

レジェンド「うんうん。それじゃあ憧も答えを出したことだし、話し合いは終了かな!」

「「「「「はーい」」」」」

 女子五人の声が重なり、対策会議の終わりが告げられた。

 そしてまた部活が、俺達の日常が始まる。

 今はまだ代わり映えのしない、俺達の日常が。





京太郎「も、もし何かされたら俺が38回ぶん殴ってやるからな!」

憧「なにその半端な数字」

416 名前:7月3日(水)[saga] 投稿日:2014/04/24(木) 00:46:05.09 ID:XwRwlAUYo

……
…………
………………

 また翌日。

 放課後の部室には、俺と穏乃と玄さんと宥さんと鷺森部長とレジェンドがいた。

 つまり憧以外が揃っていた。

 揃って、憧が現れるのを待っていた。

京太郎「……」

ガチャ

京太郎「!」

憧「遅れましたー」

 そして現れた憧は、自然だった。

 いっそ不自然なぐらい自然体だった。

 とても人生初であろう告白を体験してきた直後とは思えない程に。

422 名前:7月3日(水)[saga] 投稿日:2014/04/24(木) 01:09:37.22 ID:XwRwlAUYo

穏乃「憧!」タタッ

玄「憧ちゃん、どうだった?」

憧「うん、なんとか無事に断れました」フゥ

 肩の荷が下りたとばかりに息を吐く憧。

京太郎「無事に、か……それなら良かったよ」

憧「ありがと。アンタには心配かけちゃったわね」

京太郎「皆にもな。でもいいって、一番大変だったのはお前なんだし」

憧「まーね。流石に緊張したぁー」

京太郎「どうせ顔真っ赤にしてたんだろ? 相手に勘違いさせちゃったんじゃないのか?」

憧「ま、真っ赤になんてしてないわよ! 顔熱くならなかったもん!」

京太郎「え、マジ?」

憧「大マジよっ。ちょっと言葉に詰まったりもしたけど、ちゃんと丁寧に返事もしたし」

京太郎「マジか……でも確かに今も割と平気そうだし、実は結構成長してるのかもな」

 それは素直に喜ばしい。

 そう言えば許可を貰っていたことを思い出して、

京太郎「よく頑張ったな、偉いぞ」ポン

 憧の頭に手を置いた。

 ら、





                -‐…‐-
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423 名前:7月3日(水)[saga] 投稿日:2014/04/24(木) 01:34:50.48 ID:XwRwlAUYo


京太郎「あれ? なんだよ全然すぐ赤くな」

憧「うっさい馬鹿ぁ!」ゲシッ

京太郎「るジャン↑!」ゴフッ

 余計な指摘をしようとした京太郎を、脚を蹴りたくって黙らせた。

 まったく、本当に余計なお世話なんだから。

 本当の本当に、告白自体はそつなく断れたのに。

 ただ。

 問題があったとすれば、その後。

 あたしが告白を断った、その直後のこと――

………………
…………
……


憧「――だから、ごめんなさい。あなたとは付き合えません」ペッコリン

「……そっか。そういうことならいいんだ、俺の方こそ急にごめんね?」

憧「……」

「あの、新子さん。最後にひとつだけ訊いていいかな?」

憧「は、はいっ?」



「やっぱり須賀のことが好きなの?」



憧「ふきゅっ!?」

424 名前:7月3日(水)[saga] 投稿日:2014/04/24(木) 01:58:53.93 ID:XwRwlAUYo

憧「な、ななななななな何が!? やっぱりって何!?」アワワアワワ

「あれ、違ってた?」

憧「違う違う違う! 京太郎はただの友達!///」

「本当に?」

憧「本っ当に!」

「でも、今の新子さん、さっきまでとはまるで別人だよ?」

憧「、え」

「俺が遠くから眺めてた新子さんよりもずっと感情的で……うん、こっちの方が素敵かな?」

憧「いや、ちょ、違」

「でも須賀くんには敵わないか、当然だけど。だからまあ、なんていうか、お幸せにね?」

憧「だから違うんだってば!」

……
…………
………………

 なんなのよ、もう。

 結局あたしの言い分は無視してばかりだった隣のクラスの男子A。

 その捨て台詞が今も胸の奥に引っ掛かっている。

 あたしが、この脛を抱えて床を転げ回ってる馬鹿のことを、



 好きだなんて。



 絶対にありえない、から。

憧「――ッ///」ドキン

【TO BE CONTINUED...】
最終更新:2014年04月24日 21:07