憧は鎹

41 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/04(金) 22:50:21.09 ID:VKpq6cDpo

憧「やっはろー」ガチャッ










穏乃「京太郎なんて――大っ嫌い!!」

京太郎「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

     ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」










憧「!?」ビクゥッ

49 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/04(金) 23:28:49.55 ID:VKpq6cDpo


 日直の仕事が長引いた放課後。

 遅れて行った部室で。

 とんでもない光景に出くわした。

 しずが――京太郎に「大嫌い」って?

 聞き間違い、だよね。

 そう思う。思いたかった。

 けど。

穏乃「……ッ!」ダッ

 あたしの横を走り抜けるしずの目から、光る雫がこぼれるのを見てしまった。

 そして残された京太郎が、

京太郎「――」ガクッ

 その場に膝から崩れ落ちる様を見てしまっては、もう間違えようもない。



 京太郎が――しずに、嫌われた。



81 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/05(土) 21:45:40.34 ID:Z87/D5Heo

京太郎「ア……ア……」ウツロメ

憧「ハッ……ちょ、どうしたの!? 何があったのよ!?」

 我に返って質問を投げるのは京太郎……にではなく。

 部室に居合わせた玄と宥姉。二人の目撃者に。

 きっと、今の京太郎は使い物にならないだろうから。

玄「それが……えっと、その……」ゴニョゴニョ

宥「ゎゎゎゎゎゎゎゎ」プルプル

 こっちも使い物にならなかった。

 言葉を濁す玄と、いつも通り震えてる宥姉。

 これじゃ何があったのか分からない。

 京太郎としずに、あんなに仲の良かった二人に何があったのか。

京太郎「おれがわるいんだ」

憧「えっ?」

85 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/05(土) 22:29:01.37 ID:Z87/D5Heo

京太郎「おれがしずののしんらいをうらぎった」

京太郎「しずののきもちをふみにじるようなことを」

京太郎「さいていだ……まねーじゃーしっかくだ……」

憧「ま、マネージャー失格!?」

 どういうこと?

 それに、信頼を裏切ったって。

 気持ちを踏みにじるようなことって。

 それって。

憧「ま、まさか――!」



京太郎『穏乃っ!』ガバッ

穏乃『きゃっ!?』

京太郎『はあ……はあ……!』

穏乃『きょ、京太郎?』

京太郎『穏乃……』

穏乃『どうしたの? 目が怖いよ……?』

京太郎『俺、俺……!』スッ

穏乃『え、なに近――んむっ!?』

94 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/05(土) 23:11:44.49 ID:Z87/D5Heo

穏乃『んっ、んちゅ、んぅ……!』

穏乃『はぁっ……ふあ、ぅ……ぁん』

穏乃『……んっ!? ん、れるっ……』

穏乃『ちゅ、ちゅう、っぷぁ、ゃ、っあ、は』

穏乃『ぁー……れろ、じゅるっ、んく……っ』

穏乃『――っはあ……! は、っあぁ……!』

穏乃『きょう、たろう……』

穏乃『どうして……どうして、こんな』

穏乃『、えっ? だ、だめだよ!』

穏乃『やだ、そんなっ……んっ』

穏乃『ちゅっ……ぁ、ファスナー、下ろしちゃ……だ、めぇ』

穏乃『だめだってばぁ……、……もっと、やさしく、して――』



憧「ふ、ふきゅきゅきゅきゅ……!」プルプル

宥「憧ちゃん……?」

憧「サイテー! アンタって本当に最低の屑だわっ!!///」

玄「憧ちゃん!? 追い打ちかけちゃダメだよ!」

103 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/05(土) 23:56:15.95 ID:Z87/D5Heo

京太郎「はい……きょうたろうほんとうにさいていのくずです……」ブクブク

玄「はわぁ!? 京太郎くんが泡吹いてる!」ワタワタ

宥「ゎゎゎ、マフラーで拭く……!?」オロオロ

憧「……あれ?」

 でも待てよ。

 現場には玄と宥姉もいたんだった。

 いくらなんでも人前では、その……シないわよね。

 例え一時の感情に身を任せたとしても、最低限の時間と場所ぐらい弁える、筈。

 男子の心理なんて分からないけど、あたしならそうする。

 や、やっぱり初めてはムードを大切にしたいし。

憧「……」

 じゃあ、何があったんだろう。

 きっと知る必要がある。

 知る為には、調べる必要がある。

 だから、

憧「玄、宥姉、京太郎のことよろしく!」ダッ

玄「えっ!?」

宥「憧ちゃん!?」

 二人にフォローを任せて、あたしは部室を飛び出した。

111 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 00:31:45.19 ID:DlPT6HLFo

~鐘楼~

穏乃「……」

 思った通り、一発ツモ。

 風になびくポニーテールを見つけた。

憧「おーい」

穏乃「え、あ、憧!?」

憧「やっぱりここにいたんだ」

穏乃「なんで分かったの……?」

憧「幼馴染みの勘、かな」

 嘘だけど。

 本当は、前にあたしがされたことのお返し。

 しずが人の考えを見透かしてくれたから、逆もまた然りと考えただけ。

憧「で、どうしてこんなとこにいるのよ。もう部活始まるわよ?」

穏乃「うー……」グズグズ

憧「……京太郎と何かあったの?」

113 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 00:53:30.26 ID:DlPT6HLFo

穏乃「ッ」ビクッ

 京太郎の名前を出した途端、しずが首を竦めた。

 うん、何かあったのは間違いなさそう。

穏乃「……私は悪くないもん」プイ

 ありゃ。

 この反応は珍しい。

 あたし相手ならともかく、玄達には素直に非を認めるタイプだし。

 そのしずが、こんな風に意地を張るなんて。

 いつの間にか京太郎は、しずの中であたし並の存在になっていたらしい。

 なんて言い方、ちょっと自惚れかな。

 でも、だとしたら、尚更ほっとけない。

 もしくだらない理由で喧嘩してるなら、なんとかしてやりたいし。

憧「じゃあ、京太郎呼んでこよっか」

穏乃「えっ?」

憧「しずが悪くないなら京太郎が悪いんでしょ? 謝りに来させるから、しずはここで待ってなさい」タッ

穏乃「いや、ちょ、憧っ!?」

 呼び止めようとする声はまるで無視して、あたしは部室へと引き返す。

 はあ、なんて無駄な労力。

115 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 01:01:50.27 ID:DlPT6HLFo

~部室~

憧「京太郎ー今から鐘楼まで行」ガチャッ










京太郎「あー……宥さんの膝枕、ふかふかで気持ちいいっす……」スリスリ

宥「んっ……ふふ、あったか~い///」ポワポワ

玄「お、おねーちゃん! そろそろ交代の時間ですのだ!」ピョンピョン










憧「何やってんの!!!!!!!!!!」

136 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 20:59:00.69 ID:DlPT6HLFo

玄「あっ、おかえりなさい憧ちゃん」

宥「何って、言われた通り京太郎くんとよろしくしてるよ……?」

憧「意味がちがーう!!」

 確かに傷心の京太郎には覿面だろうけどさ。

 だからって、そんな全力で甘やかさなくてもいいじゃん。

 京太郎、すっごい締りのない顔になってるし。

 宥姉も玄も、母性っていうかなんていうか、幸せそうな顔しちゃってるし。

 ……なんだろ、またモヤモヤが膨らんできたかも。

憧「とにかく! 京太郎をこっちに渡して」

 そのせいで語気が荒くならないよう注意しながら言う。

玄「でも、私がまだ膝枕してないのに……」

憧「あ゛ぁ?」

玄「なっ、なんでもありませんですのだ!!」ビシィッ

憧「よろしい。行くわよ京太郎」グイッ

京太郎「んあー……」ノロノロ

 うん、穏便に済ませられたよね。

 ね?

140 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 21:30:20.88 ID:DlPT6HLFo

~鐘楼~

 で、

憧「なんでいなくなってんのよあいつは……!?」

 待ってなさいって言ったのに。

 「待て」も出来ない駄犬だったっけ、しずって。

 というよりは、京太郎に会いたくなくて逃げ出したって感じかな。

京太郎「ぅ――ああぁあァァア!!」ガクゥッ

憧「!?」ビクゥッ

 突然、ここでも京太郎が膝を突いて叫び声を上げた。

京太郎「やっぱり俺は穏乃を傷つけたんだ……もう顔も見たくないんだっ……!」

憧「んなワケないでしょ……大袈裟だってば」

京太郎「じ゛ゃ゛あ゛な゛ん゛で゛い゛な゛い゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛お゛!!」

憧「急にうるさっ!?」

京太郎「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

憧「うるさいってば!!」スパァン

145 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 22:00:46.59 ID:DlPT6HLFo

 堪らず頭を引っぱたくと、そこで京太郎はピタリと動きを止めた。

 そのまま、ガクンと項垂れて何も言わなくなってしまう。

 どんな時でも打てば響く奴だと思ってたのに、意外な反応だ。

 しずに避けられてるのが、そんなに堪えてるんだろうか。

 なんて――当たり前じゃない。

 親しい人に突き放されるのは、すごく辛い。

 あたしにだって覚えはある。

 自分が突き放す側だったことも。

 そして、その時の突き放される側は――京太郎だった。

 今程に親しくはなかったけど、それでも一ヶ月。

 それだけの時間、勝手な都合で京太郎を拒み続けた。

 その事実が消えることはない。

 後から何かをしてあげても、帳消しにはならない。

 なかったことにしてはいけない。

 でも、

 それは何もしない理由にはならない。

146 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 22:35:32.89 ID:DlPT6HLFo

憧「京太郎、顔上げなよ」

京太郎「……」

憧「上げなって」

京太郎「……」

憧「ッ……あーもー!」グイッ

京太郎「ふげっ!?」

 痺れを切らして、両手で京太郎の頬を押し上げる。

 折角の男前……げふん、それなりの顔立ちが台無しだ。

 けど、気にせず言いたいことを言うことにしよう。

憧「あのねぇ、情けない顔してんじゃないわよ」

京太郎「ひや、ほれはあこが」

憧「言い訳すんな」グニー

 引っ張る。伸びる。面白い。

 って、楽しんでる場合じゃなかった。

150 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 23:07:21.04 ID:DlPT6HLFo

 手を離す。

 赤くなった頬をさする京太郎に、続けて言葉を掛ける。

憧「あのさ、しずがほんとにアンタのこと嫌いになると思う?」

京太郎「だって現に」

憧「これはアンタの話。しずの気持ちを考えろとか、そんな文系じゃないんだから」

 全国の文系の人ごめんなさい。

憧「京太郎に、本当に嫌われるような心当たりがあるかどうか、って話」

京太郎「……」

憧「わかんない?」

 こくり、と頷いた。

憧「そっか、わかんないか」

京太郎「でも……嫌われたと思う。泣かせたし」

憧「……ねえ。ひとつだけ、一回だけ言うからね」

京太郎「え――」





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           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
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.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
  ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;
  |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |
  |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |  「あたし達の中に、京太郎を嫌いな人なんて一人もいないから!」
  |   |         /:| . . .|  |\i                 |  |  . .|: . |       |   |
  |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |
  |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |
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156 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 23:24:44.76 ID:DlPT6HLFo

京太郎「――っ」

憧「~~~っ///」カァァッ

 言っちゃっ、た。

 やだ、やばい、恥ずかしい。

 別に他意なんてないのに。

 別に、京太郎が好きとか、そういうんじゃないのに。

京太郎「……本当に?」

憧「え、ええ……本当よ」

京太郎「穏乃も?」

憧「そ。しずも」

京太郎「玄さんも? 宥さんも?」

憧「当たり前じゃない」

京太郎「鷺森部長は?」

憧「灼さんは……た、多分」

京太郎「じゃあ、憧も?」

憧「ふきゅっ」

京太郎「……」

憧「……」

京太郎「……やっぱり嫌」

憧「き、嫌いじゃないわよっ!!」

161 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/06(日) 23:52:02.60 ID:DlPT6HLFo

京太郎「そうか……」ホッ

憧「……ぅう」

 そんなに露骨に安心しないでよ。

 なんか、悪い気しなくなってくるじゃない。

憧「と、とにかくっ! しずの件は今ならまだ取り返しがつくと思うから!」

憧「踏ん切り付かないなら、あたしが手伝ってあげるから」

憧「……だから、元気出しなさいよ」

 むに、と。

 もう一度、今度は片手でだけ頬を摘む。

 間抜けな顔の京太郎を見て小さく笑って、あたしは立ち上がった。

憧「じゃあ、しずを連れ戻してくるから。それまでに心の準備をしときなさい」

京太郎「ああ……憧」

憧「何?」

京太郎「すまん。面倒かける」

憧「ほんとよ」

 また笑って、あたしは鐘楼を後にした。

163 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/07(月) 00:20:38.40 ID:sStoSM+Yo

~廊下~

テクテクテク...

憧「はあ……」

 ああは言ったものの、実際どうしよう。

 ノーヒントで体力馬鹿のしずを捕まえろとか、かなり厳しい。

 一応ケータイで連絡を取ってはみたけど、電話もメールも両方無視されてる。

 こりゃ本当に怒ってるか、そうでなければ引っ込みがつかなくなってるか。

 あたしの勘だと、多分後者だとは思う。

 昼休みまで学食で仲良くおかずの取り替えっこしてたような二人の仲が、放課後の僅かな時間で壊れるなんて。

 普通に考えればありえないことだし。

憧「………………」

 普通に考えて、仲良すぎじゃない?

 何、おかずの取り替えっこって。

 しかもあーんよ、あーん。

 平然と。当然の如く。

 あいつら、本当に健全な高校一年生なの?

172 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/07(月) 01:13:44.64 ID:sStoSM+Yo

 改めて振り返ってみても、やっぱりしずは京太郎へのスキンシップが過剰だと思う。

 教室でも校内でも遭遇する度に抱きついたり飛びついたり。

 食事の席では先述の通り。

 部活中も暇さえあればくっつくいてるし。

 なんていうか……妬ける。

 いやしずにじゃなくて。京太郎によ、京太郎に。

 まるで京太郎にしずを取られたみたい。

 昔はあたしがずっと、あの子の隣に立っていたのに。

憧「――ま、自業自得かぁ」

 中学で離れて、高校で戻って。

 あたしの知らない三年間に、しずは変わった。

 昔はもっと、今よりずっと、感情を表に出す奴だった。

 それがいつの間にか、ほんの少しだけ嘘をつくのが上手になってた。

 それとも、一度距離を置いたから気付けただけで、昔からそうだったのかな。

憧「あ……」

 そんなことを考えながら歩いていたら。

 あたし達の教室にしずの姿があるのを、見過ごすところだった。

210 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/07(月) 22:06:43.24 ID:sStoSM+Yo

憧「しーずっ」

 意識して気安い調子で名前を呼ぶ。

 しずは窓際のあたしの席に腰掛けていた。

 何やってんだか。

 真っ直ぐ近付いていく。

穏乃「ぁ……ぅ」オドオド

憧「ぷっ」

 つい吹き出してしまった。

 しずってば、悪戯がバレた子供みたい。

憧「なんて顔してんのよ」

穏乃「だって……」

憧「怒られると思った?」

穏乃「……うん」

憧「どうして?」

穏乃「え、だって鐘楼で待ってなかったから……」

憧「分かってるならなんで逃げたのよ、コイツ~」グニーン

穏乃「ごめんなふぁい~」ビヨーン

212 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/07(月) 22:40:08.23 ID:sStoSM+Yo

 うーん、相変わらずの餅肌。

 やっぱり触るなら女の子よね。

 男の身体とか、触っても嬉しくなんて……ふきゅ。

穏乃「あこ?」フガフガ

憧「っと、ごめん」パッ

 慌てて手を離すと、ぅーと唸って赤くなった頬をさするしず。

 京太郎も似たような仕草をしてたけど、可愛らしさは比べ物にならない。

憧「オホン。それで、京太郎だけどさ」

穏乃「っ」

憧「とりあえず、今度はあいつを鐘楼で待たせてるけど。どう? 行けそう?」

穏乃「……ごめん。むずかしい、かも」

憧「おろ……そんなに深刻なんだ」

穏乃「深刻っていうか、なんていうか……」ゴニョゴニョ

憧「京太郎のこと、本気で嫌いになったの?」

穏乃「そ、そんなわけないっ!」

 即答ですか、しずさん。

216 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/07(月) 23:19:35.23 ID:sStoSM+Yo

穏乃「私が京太郎のこと嫌いになるとか、絶対にないよっ!」

憧「だったらどうして避けるのよ?」

穏乃「それは……あんな酷いこと言っちゃって、私の方が嫌われちゃったかも、って……」

 怖くなったってことか。

 変なところで考えが似るのね、この二人。

憧「あたしが見る限り、京太郎はしずのこと嫌ってなんかないよ?」

穏乃「ほ、ほんとに?」

憧「ほんとほんと。むしろ避けられてることにショック受けてたわね」

穏乃「えっ!? どど、どーしよ!?」オロオロ

憧「ちゃんと会って話せば丸く収まると思うけど」

穏乃「そ、かな……でも……」ウジウジ

憧「――でもじゃない!!」

穏乃「!?」ビクッ

憧「京太郎のことが好きなんでしょ!? だったらその気持ちをちゃんとぶつけなさいよ!」

穏乃「あ、憧……」

 あれ?

 なんか恋に悩む親友の背中を押すみたいな感じになっちゃった。

 あれ?

230 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/07(月) 23:59:15.78 ID:sStoSM+Yo

穏乃「そっか、そうだよね……まず自分の気持ちを伝えなきゃだよね!」

憧「し、しず? 穏乃サーン?」

穏乃「ありがとう憧! 私、目が覚めたよ!」

憧「え、あ、うん、どういたしまして……じゃなくて!」

穏乃「うおおお早速京太郎に会ってくるーーーっ!」ダッ

憧「待ちなさいってば!!」ガシッ

穏乃「ぐえっ!?」

 間一髪、ギアが入る前のしずの襟首を掴むことに成功した。

憧「あ、あのさしず。念のため訊いておきたいんだけどさ……」

穏乃「げほっげほっ……なに?」

憧「えっとね、京太郎のこと好きっていうのは、どういう好きなのかなー……って」

穏乃「どういう?」

憧「ッ……や、やっぱなんでもない! ごめん、今の質問は忘れて!」

穏乃「ぅ?」キョトン

237 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/08(火) 00:23:16.16 ID:VcZJkyzPo

憧「それより、しずは部室で待っててよ。あたしが京太郎を連れてくるから」

穏乃「え? 鐘楼に行っちゃダメなの?」

憧「今度は京太郎が移動してるかもしれないし、それに玄と宥姉にも心配かけたでしょ?」

穏乃「ぁ……うん」

憧「だから、ごめんなさいの予行練習! 先に二人に許してもらっときなさい」

穏乃「うん……わかった。憧、本当にありがとっ!」タッ

憧「今度なにか奢りなさいよー」ヒラヒラ

 なんて、適当なことを言いながら手を振って見送る。

 なんだろ、どっと疲れた。

 鐘楼に京太郎を迎えに行かなきゃだけど、ちょっと休みたい。

 少しだけ、椅子に座りたい。

ストン



             _,. -‐…・・=‐- .,_
          , '´             `丶、
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    y㌻‘   /     /         \      〉
    t厶j「 ∨|  . :| : : : :i      ヽ ∨   _㌻v)
    j{     : :|  i : | : : : :|: : : : . . 」  i : :  〉ーく`く
   i    { : :|¬ト「| : : : :|: : : :〔: : :.|: : | : :∨   \ ヽ
   | { ; 〔: :[∧V小| : :¦ト: :¬トi{ |: : | : :, . :  }ハ  ,
   | 八ト | ヽ 笊≧x∨: : ト、〉 \Vj ! |: : |/j〔 : : : : 〕「 |  i
   .: : :八 |: :爪 rしi:iト \|  芹≧x以: : 厂「 : : : :  [ |  |i  「……ふぅ」
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   八: : 乂j: :ハ ,,,,  ,      乂:.ツ イ: : 灯 : : : : i|: : |: :
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 ここ京太郎の席だけど、別にいいよね。

245 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/08(火) 01:02:42.37 ID:VcZJkyzPo

 それにしても、あたしってば何やってんだろ。

 放課後の校舎を駆け回って、友達二人の仲を取り持って。

 未だに喧嘩の理由も教えてもらってないのに。

 自分で自分をお人好しだなんて言う趣味はないけど、らしくないことをしているとは思う。

 ――でも、悪い気はしない、かな。

 少しでも京太郎の為になれたなら、それなりに嬉しい。

 少しでも借りたものを返せたなら、それで十分だと思う。

 机に突っ伏しながら、そんなことを考えた。

憧「……あ」

 そう言えば、京太郎もよくこうして寝てるっけ。

 北大阪で倒れて以来、授業中の居眠りが多くなった。

 まったく、学生の本分は勉強だっていうのに。

 こんな風に、机にべったり顔をつけて……

憧「………………んっ」モゾッ





ガラッ

「WAWAWA忘れ物~……あれ? 新子さん何してるのー?」





憧「ふきゃあっ!? べべ、別にナニもシてないからっ!?」ガタァッ

280 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/08(火) 22:19:57.39 ID:VcZJkyzPo

~鐘楼~

憧「あ、いたいた」

 通りすがりのクラスメイトが誤解しないよう念入りに説明してから訪れた鐘楼。

 ちょっと遅くなっちゃったけど、京太郎は待っててくれていた。

京太郎「憧……」

憧「うわっ、倒れた時より顔色ヒドいわよアンタ」

 前言撤回。単に動く気力がなかっただけかも。

京太郎「し、穏乃……穏乃は……?」

憧「心配しなくても、しずなら部室で待ってるわよ。京太郎に謝りたいんだって」

京太郎「マジでっ!?」

憧「マジよ。だから元気出しなさい」

京太郎「お、おお……ォおオオーーーッ!!!」グワッ

 雄叫びと共に立ち上がる京太郎。

 その目には今まで欠落していた生命力が満ちていた。

 なんて単純な奴。

284 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/08(火) 22:57:54.80 ID:VcZJkyzPo

京太郎「俺、復活!」ビシィッ

憧「はいはい良かったわね」

 ポーズ決めてんじゃないわよ。

京太郎「憧、本当にサンキュな。助かったよ」

憧「いいけど、これっきりにしてよね」

京太郎「おう。命に関わるからな、俺だって二度目は御免だよ」

憧「どんだけショックだったのよ……」

京太郎「だってお前、穏乃だぞ? あの穏乃に面と向かって大嫌いって言われたんだぞ?」

憧「あの穏乃て」

 言いたいことは分かるけども。

 でも、やっぱ大袈裟。

 ここらでビシッと言っておくべきだと思う。

 しずの為にも、京太郎の為にも。

287 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/08(火) 23:22:03.80 ID:VcZJkyzPo

憧「アンタね、しずを何だと思ってんのよ」

京太郎「え? えーっと……裏表のない奴。好きって言ったら好き、嫌いって言ったら嫌いって思ってる奴」

憧「ぶっぶー。大ハズレ」

京太郎「え」

 「意外」。

 そんな顔をした。

 対してあたしは、やれやれと腰に手を当て呆れ顔。

憧「マンガやアニメじゃあるまいし、そんな単純じゃないわよ」

憧「しずだって計算出来ないなりに悩むことがあって、気持ちと言葉が食い違うことだってある」

憧「ペットみたいに可愛がるんじゃなくてさ、ちゃんと一人の女の子として見てやりなさいよね」

京太郎「……憧……」

 あれ?

 なんか親友の恋路を陰ながら支えるみたいな感じになっちゃった。

 あれ? あっれー?

297 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/08(火) 23:46:28.53 ID:VcZJkyzPo

京太郎「………………つまり、普段のフレンドリーな態度も嫌いの裏返しってことか!?」クワッ

憧「そっち!?」

 なに、この。

 なにこの馬鹿野郎。

 安定というか安心というか、とにかく超馬鹿。

 脱力する。

憧「……はあ。もういい、今の話は忘れなさい」

京太郎「で、でも――」

憧「 忘 れ な さ い 」ズモモ...

京太郎「アッハイ」

憧「よろしい。じゃ、そろそろ行くわよ」

 言って、京太郎に背を向ける。

京太郎「なんか釈然としないけど……」

憧「なによ、まだ文句が――」

京太郎「でも、とにかくありがとな、憧」ポンッ

憧「ふみ゛ゃっ!?///」

301 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/09(水) 00:36:56.38 ID:1DcYODQno

 ずるい。

 不意打ちよ。

 こんなの、完全に不意打ち。

 堪らず変な声が漏れちゃった。

 だって――手が。頭に。

 京太郎の、大きくて、ゴツゴツした手。

 あったかい手。

 あたしの髪に触れて、少しだけ滑って。

 それがなんとも言えないムズムズした感覚になって身体の芯に伝わる。

京太郎「あ、悪い。一度OKが出たから、つい」

憧「お、OKとか出してないしっ……」

京太郎「それもそうか。じゃあ尚更ごめんな」パッ

憧「ぁ……」

京太郎「ん?」

憧「………………べ、別に、もう、いやじゃない……から」ゴニョゴニョ

京太郎「え? なんだって?(難聴)」

憧「ッ……いちいち断るのも疲れたから、触りたいなら触ればいいって言ったのよ!! さっさと戻るわよバカァー!」ドヒューン

京太郎「憧!? 待っ……憧ー!?」ダッ

 振り向くことも出来ないまま、部室に向かって全力で走り出すあたしだった。

304 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/09(水) 01:07:34.26 ID:1DcYODQno

~部室~

 で、



穏乃「京太郎ー!!」ダキッ

京太郎「穏乃ー!!」ダキッ



 茶番。

 いや本人達は至って大真面目なんだろうけど。

 でも、そこはかとなく茶番っぽい。

玄「うぅ……よかったね、二人とも」グスッ

宥「あったか~い」ポワーン

 泣くほど?

灼「なにこれ……」

レジェンド「そろそろ部活始めたいんだけど」

 もう来ていた灼さんとハルエに全力で同意したい。

 二人とも、いつまで抱き合ってるつもりなんだろ。

 離れ離れになっていた恋人同士の再会みたいに、力一杯。

307 名前:6月27日(木)[saga] 投稿日:2014/04/09(水) 01:40:26.49 ID:1DcYODQno

京太郎「ごめんな穏乃……俺、穏乃のこと傷つけちまった……」ギュー

穏乃「ううん、私の方こそ! 京太郎にあんな酷いこと言って……」ギュー

憧「――っ」ズキッ

 あれ。

 なんだろ。

 なんでこんな、いやな気持ちになってるんだろう。

 本当なら、ここは溜め息混じりに達成感を覚える場面の筈なのに。

 嬉しそうに抱き合う京太郎としずを見てると――

 チクリと胸が痛む。

 モヤモヤが、広がる。

 どうして?

 それが分からないまま、とにかく二人に声を掛けた。

憧「と、ところで、そろそろ喧嘩の理由を教えてくれてもいいんじゃない?」

穏乃「あ、うん。えっとね――」





京太郎「――俺が穏乃に頼まれてたチョコパイと間違えてエンゼルパイを買ってきちゃったんだよ」

穏乃「これからはワガママ言わずに食べるよ!」

憧「表に出ろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」ゴッッッッッ





レジェンド「部活しようよー」

【TO BE CONTINUED...】
最終更新:2014年04月09日 23:37