この狭いナントカの中で


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

504 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 23:02:27.34 ID:s2eDFP4bo

 ロッカー。

 それは聖なる箱。

 ロッカー。

 それは未知への冒険。

 ロッカー。

 それは勇気の証。

 ロッカー。

 それは熱き収納戦士達の戦い。

 ロッカー。

 それは人生の縮図、男のロマン。



 ロッカー。

 そしてそれは、



京太郎「――」

憧「……っ」



 俺達の現在地である。

519 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/29(土) 23:36:43.93 ID:s2eDFP4bo

 「どうしてこうなった」。

 その事情は極めて複雑であり、筆舌に尽くしがたい。

 まさに運命の悪戯としか言いようがなかった。

 そう、あれは今朝のこと――

………………
…………
……

TV『ふくよか占いのコーナー! 今日の水瓶座はロッカーがラッキープレイス! 入って待ってると幸せが舞い込みます♪』

京太郎「マジで!」

……
…………
………………

 ――って。

 ああ、なんたる数奇。

 こんな些細な出来事が発端になるなんて。

 そう、あれは放課後になってすぐのこと――

………………
…………
……

521 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 00:12:37.58 ID:ZrV6bZJ0o

 俺はチャイムと共に教室を飛び出した。

 目指すは今日のラッキープレイス。

 即ち、部室にあるロッカーだ。

 何故わざわざ部室のロッカーを選ぶのか。

 それは教室で奇行に走るのが憚られるからだ。

 やはり奇行に走るなら部室に限る。

 冷静に考えて、人前でロッカーに閉じ籠もって幸運が舞い込む筈がないしな。

 だから俺は誰よりも早く部室に行き、ロッカーに入り、果報を待つのだ。

 なんという論理的な思考。我ながら惚れ惚れするぜ。

ガチャ

京太郎「……」ヒョコッ

 扉を小さく開け、中の様子を窺う。

 よし、誰もいないな。

524 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 00:37:49.15 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「失礼しまーす……」ソローリ

 こちら須賀ーク、阿知賀学院麻雀部の部室に潜入成功。

 なんて、自分が所属してる部活なんだけど。

 とにかく今はロッカーだロッカー。

 手荷物は適当な場所に隠し、作戦を実行に移す。

ガチャッ

 ロッカーの中には申し訳程度に掃除用具が収まっていた。

 箒、ちり取り、バケツ、雑巾。

 それらを端に避け、自らを収納する。

 そして扉を閉めれば――

バタン

 ――準備完了だ。

 が、

京太郎「………………」

 狭い。

 流石の狭さだ。

 微妙に頭を下げないと高さが足りないぞ。

 身長182cmの男子高校生が中に入ることも考慮していただきたい。

 そこんとこ頼んますよ、ロッカー業界の皆さん。

528 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 00:56:18.79 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「……ふむ」

 でも、なんだろう。

 この窮屈さが逆に癖になるような。

 子供の頃、かくれんぼで押入れに隠れた時のような感覚だ。

 狭いとこがおちつくのってなんだろうねこれ。

 もしかして、こうして思いがけず童心に帰ることが出来たのが幸福なのか?

 しかしそれでは「舞い込む」という表現と食い違う。

 あの巨乳アナの言葉を信じるなら、きっと幸福は外部から訪れるのだ。

 そんなことを考えていると、

ガチャッ

京太郎「!」

憧「やっはろー……」

 憧だ。

 言葉の陽気さとは裏腹に、声音は陰気そのものだった。

532 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 01:23:33.79 ID:ZrV6bZJ0o

 通気用のスリットから外を見る。

 と、憧の様子がおかしいことに気付いた。

憧「……」ソワソワ

 やけに落ち着きがない。

 ロッカーの中でリラックスしている俺とは正反対だ。

 しかし室内をキョロキョロと見回す姿は、つい先程の俺と似ていた。

 つまり憧も、人目を避けた結果として部室に足を運んだというのか。

 だとしたら、何故?

 その答えを、



憧「ん……っ」スルッ



 おもむろにカーディガンを脱ぎ出すことで憧が教えてくれた。

 って、

京太郎「おいおいおいおいおい!(小声)」

 なんだ、何が起きた。

 どうして憧は焦った様子でシャツをも脱ごうとしているのだ。

 どうしてロッカーの外で突如としてストリップショーが始まっているのだ。

536 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 01:56:18.04 ID:ZrV6bZJ0o

 ひとつ、ふたつ、ボタンが次々とその役目を解かれていく。

 その度に露になる領域を増す憧の白肌。

 このままでは下着まで見えてしまうのも時間の問題だ。

 そして、あるいはその先まで――

京太郎「……」

 いいのか。

 このまま出歯亀タレ目になっていいのか。

 いやタレ目じゃないけど。

 このまま憧の裸を見ることが幸福なのか。

 いや幸福だろうけど。

 けど、それはあまりにも不義理だ。不誠実だ。

 それに、見るなら隙間からでなく正面から堂々と見たい。

 ああ見たいさ、むっちゃ見たい。

 しかし流儀は守る。

 俺も、ゲスラーの端くれだからな!

538 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 02:13:26.11 ID:ZrV6bZJ0o

憧「しょ、っと……」ヌギッ

京太郎「!!」

 チンタラやってる間にシャツまで脱いじまったじゃねーか!

 最早、一刻の猶予もない。



バンッ!



憧「へっ?」

 ロッカーから飛び出した俺。

 物音に振り返った憧。

 目と目が合う。

京太郎「綾ちゃん、明日って今さ!!」ガバッ

憧「な――むきゅっ!?」

 結着は止まる時よりも『早く』着いた。

 一瞬で距離を詰め、今にも叫びだしそうな憧の口に手を押し当てる。

 ぱさり、と。

 憧が手放したシャツが、床に落ちて広がった。

540 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 02:37:58.39 ID:ZrV6bZJ0o

憧「ッ……ん゛ーーーーーっ!///」ジタバタ

京太郎「暴れんな、暴れんなよ!」

 顔を真っ赤にして抵抗する憧を力尽くで押さえ込む。

 ああ、こんなこと前にもあったっけ。

 デートの時だ。

 望さんに見つからないよう、着替え中の憧の部屋に飛び込んだんだった。

 懐かしいなー。

憧「む゛ー! む゛ーっ!」ジタバタ

 って懐かしんでる場合か。

京太郎「落ち着け憧、これには訳が――」

 と、事情を理解してもらおうと説得を試みた瞬間、

ズドドドドドドド...

「「!!」」

 地響き――否。

 穏乃の足音だ。

 どんどん大きくなってきている。

 やべえ。

543 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 03:05:12.58 ID:ZrV6bZJ0o

 この状況、どう見ても俺が憧に狼藉を働いているようにしか見えない。

 さしもの大天使高鴨先輩といえども今回ばかりは誤解してしまうかもしれない。

 となれば、俺に残された選択肢は――

京太郎「と、とりあえずこっちに!」グイッ

憧「ん゛ー!?」

バタン!





キキーーーッ!!

ガチャッ

穏乃「よろしくお願いしまーっす! って、まだ誰も来てないの?」

京太郎「――」

憧「……っ」

 ――そして、今に至る。

568 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 14:28:49.60 ID:ZrV6bZJ0o

 ロッカー。

 それは本来ならば荷物や用具を収納する為のスペースだ。

 そこに今、二人の人間が入っている。

 窮屈どころの騒ぎではない。

 無理に腕を動かそうとすれば憧の身体に触れてしまう。

 脚も、バケツが邪魔で自由な場所には置けない。

 そして目の前には上半身下着姿の憧。

 辛うじてシャツを掴んでいた手が、両者の間で最後の防衛戦を引いている。

 この態勢を、意地でも維持するしかなかった。

玄「こんにちはー」

宥「今日も寒かったねぇ……」プルプル

灼「いや蒸し暑」ズバァッ

穏乃「玄さん! 宥さんも灼さんもお疲れ様ですっ!」

 何故なら、いよいよ外が賑やかになってきたから。

572 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 14:56:26.38 ID:ZrV6bZJ0o

※以降、ロッカー内での会話は小声で行われています

京太郎「……で」

憧「……」

京太郎「何やってんだよ憧」

憧「それはこっちのセリフよ!」

 真っ赤な顔で睨まれる。

憧「なんでロッカーからアンタが出てくんのよ!? ま、まさか最初から覗くつもりで……!」

京太郎「落ち着け! 普通は誰も部室で脱いだりしねーだろうが!」

憧「でもしずとか」

京太郎「あいつは例外だろ」

憧「……そーね」

 納得してくれた。

 穏乃は部活が始まる前に制服から私物のジャージに着替える。

 入部したての頃は色々と大変だったが、今では見ないよう出くわさないよう立ち回れるようになった。

 これも成長か。あんまり嬉しくないけど。

574 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 15:34:14.87 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「話を戻すけど、なんで部室で脱ぎだしたりしたんだよ? 趣味?」

憧「人を露出狂みたいに言うな! こっちにも事情があるの!」

京太郎「事情って?」

憧「ここに来る途中で掃除してる子とぶつかっちゃって、バケツの水が跳ねて制服に掛かったのよ」

京太郎「あー」

憧「それで仕方なく体操服に着替えようと思ったら……」ジトッ

京太郎「うぐぅ」

 この距離でジト目は辛い。逃げ場がない。

憧「はあ……まさか占い通りになるなんて……」

京太郎「え、占い?」

憧「うん、朝のテレビのやつ。今日の牡牛座、運勢最悪だったのよ」

京太郎「……もしかして、ふくよか占いのコーナー?」

憧「なんで分かるの!?」

京太郎「いや、俺も見てたから。なんとなく覚えてたんだよ」

憧「なにその偶然……あれ? ちょっと待って、アンタって誕生日いつだっけ」

京太郎「2月2日だけど」

憧「………………確か水瓶座のラッキープレイスって」

京太郎「アッ」

578 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 16:19:31.90 ID:ZrV6bZJ0o

憧「<○>三<○>」ズモモ...

京太郎「ひぇぇ……」ビクビク

 逃げたい避けたい痛い痛い。

 しかし首の可動域もタカが知れている。

 刺すような視線の暴力を浴び続ける俺だった。

憧「つまり、アンタは、テレビの占いを信じて部室のロッカーに入ってたってわけ……?」

京太郎「………………はい」

憧「バッッッッッッッッッッカじゃないの!?」ガーッ

 (小声)。

京太郎「はい……仰る通りでございます……」

憧「ばか、京太郎の大馬鹿! 声も掛けずにいなくならないでよ!」

憧「あ、あたしっ、また避けられてるのかと思って……!」

憧「だから急いで追いかけて、そのせいで人とぶつかっちゃったのに、なのに――!」

京太郎「……避けられてると思ったのか?」

憧「ふきゅ」

585 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 16:43:16.63 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「……」ジッ

憧「あっ、や、その、違っ、今のは……!」アタフタ

 今度は俺が憧を見つめる番だった。

 至近距離で百面相を眺める。

 最終的に、上目遣いの潤んだ視線とかち合った。

 ……可愛いなぁこんちくしょう。

京太郎「なんつーか……アレだ。心配させて悪かったな」

憧「だから違うんだってばぁ……///」

 俯いてしまった。

 シャツを持つ手が俺の胸板に弱々しく当てられている。

玄「そう言えば、憧ちゃんと京太郎くんは?」

「「!!」」ビクッ

 その時、外でも続いていた会話に俺達の名前が挙がった。

 にわかに緊張が高まる。

 次いで穏乃の声。

穏乃「それが変なんですよ。二人とも教室にはいなかったんですけど、部室にも来てないみたいなんです」

590 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 17:18:34.65 ID:ZrV6bZJ0o

玄「そうなの? でもそこにあるの、憧ちゃんの鞄だよね?」

穏乃「はい、だから余計に不思議で……」

 あ、忘れてた。

 それが原因で足が付くことはないだろうが、やはり不安は不安だ。

 なので外の様子をじっと見ていると、

京太郎「あれ」

憧「ど、どうかした?」

京太郎「いや、お前の鞄……俺があげたストラップついてなくね?」

憧「っ!」ドキッ

京太郎「もしかして、落としたとか……?」

憧「ち、違う! 失くしたりなんかしてない!」

京太郎「じゃあどうしたんだよ?」

憧「……に……えた」ゴニョゴニョ

京太郎「え? なんだって?」

憧「ッ……だから!」キッ

 顔を上げる憧。

 かと思えば、また視線を僅かに逸らして、



憧「………………こないだ、ケータイに付け替えたの……///」カァァァッ



京太郎「――、お……おぉ」

597 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 17:59:18.85 ID:ZrV6bZJ0o

憧「べ、別に深い意味はないのよ!?」クワッ

憧「ただ、鞄に付けてると本当に落とした時に気付けないかもだし」

憧「その点ケータイなら鞄より目に入る機会も多くて安心するし……」

憧「あ、安心っていうのはそのままの意味だからね!?」

憧「なるべく傍に置いときたいとか、そういう意図はないから! ないから!」

京太郎「分かったから静かにしてくれ」

 小声でも騒ぎすぎだ。

 このロッカーの扉が開いたら試合終了だということを忘れてはいけない。

 諦めようと諦めまいと、そこで試合終了だということを。

レジェンド「ごっめーん遅レジェンド☆」

灼「きた! メインハルちゃんきた!」ガタァッ

宥「赤土さん……」ブルブル

 レジェンドまで来ちゃったよ。

京太郎「こりゃ今日の部活は遅刻確定だな」

憧「ていうか、参加できるの……?」

 さあ。

613 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 21:08:15.11 ID:ZrV6bZJ0o

……
…………
………………

 外からは麻雀を打つ音と声だけが聞こえている。

 いつもは和気藹々とした阿知賀学院麻雀部だが、練習中は真剣そのものだ。

 さっきは遅刻確定とか悠長なことを言っていた俺だが、認識を改めざるをえない。

 これ、出て行くチャンスなんてないぞ。

 大前提にある問題として、まずそれがひとつ。

 そしてもうひとつ。これは目下の問題だ。

京太郎「……」ダラダラ

憧「……」ダラダラ

 暑い。

 身近に宥さんという季節感ブレイカーがいるせいで忘れがちだが、今は6月だ。

 しかも下旬で、暦の上では立派な夏である。梅雨である。

 あっついのである。

 狭く風通しの悪いロッカーの中で散々騒いだ後なので尚更だ。

 俺も憧も、滝のように汗を流していた。

617 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 21:43:16.07 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「これ、思ったよりキツいな……」ダラダラ

憧「そうね……」ダラダラ

 そう言いながら、お互い精一杯に距離を取っている。

 密着していると暑いし、それよりなにより、

京太郎「……ごめんな憧、汗臭いだろ俺」

憧「へっ? ぁ、だ、大丈夫! そんなのお互い様だし……」

京太郎「いや、お前からはなんかいい匂いがするけど」クンクン

憧「ふぎゃ!? か、嗅ぐな変態!///」

京太郎「あッ……わ、悪い! つい反射的に」

憧「反射的に女の子の匂い嗅ぐとか……!」

京太郎「本当にすまん。暑さで判断力が鈍ってるんだ、許してくれ」

憧「……特別だからね」

京太郎「忍びねぇ」

 会話が途切れた。

 その隙に肩で顔の汗を拭うが、気休めにもならない。

 腕を上げられないのが地味に辛かった。

619 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 22:08:06.77 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「あ゛ー……」ダラダラ

憧「……あのさ、京太郎」

京太郎「あん?」

憧「暑そう、だね」

京太郎「お前もな……」

憧「う、うん」

京太郎「?」

 なんだこの会話。

 訝しく感じて首を傾げていると、

憧「え、っと………………汗、拭いてあげよっか?」

京太郎「は? 汗?」

 こく、と頷く憧。

憧「って言っても、ハンカチは出せないから、その……」

 もぞ、と動く腕。

憧「あ、あたしのシャツでよければ、なんだけど……///」

京太郎「」

631 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 22:39:57.23 ID:ZrV6bZJ0o

京太郎「………………え? 「流しのジャズでよければ弾けるけど」?」

憧「この状況で!? わざと間違えてるでしょ!」

京太郎「だってなぁ……お前こそ暑さで判断力が鈍ってるんじゃないか?」

憧「あ、あたしは正気よっ」

京太郎「えー……」

 失礼ながら信じられない。

 だってシャツだぞ。

 憧が両手で持って、胸元を隠すのに使っているシャツ。

 それで俺の汗を拭く?

 あらゆる意味で信じられない。

憧「だ、大丈夫。元から濡れてるところは避けるから」

京太郎「いやそういう問題でもなくて……拭くなら自分の顔だけにしとけよ」

憧「そんなこと出来るわけないでしょ!」

京太郎「男の汗を拭く方が出来るわけないと思うんですがそれは」

憧「だから大丈夫だってば。男って言っても京太郎だし……」

京太郎「いやその理屈はおかし――」

憧「あーもー! いいから黙って拭かれなさいっ!」バフッ

京太郎「ぶッ!?」

637 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 23:12:46.70 ID:ZrV6bZJ0o

憧「ほら、じっとして……」

京太郎「あ、あこ」フガフガ

憧「口閉じて! あと出来れば息も止めてて!」

京太郎「死ぬわ!」

 咄嗟に言い返すが、その後は本当に息を止め、目も閉じた。

 だって、そうしなければ――

 顔に当たる柔らかなシャツ。

 そこから漂った甘い香りと、微かな汗の匂い。

 顔に伸びる小さな手、細い腕。

 そこから遡って白い肩、そして下着に覆われた胸元。

 ――嗅いでしまう。見てしまう。

 そうしたら、もしかすると我慢出来ないかもしれない。

 そうなれば、色々と終わる。憧も傷つける。

憧「ん……ん、しょっ……ふ、ぅ……」ゴシゴシ

京太郎「……!!」

 耐えねば。

641 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/30(日) 23:47:59.36 ID:ZrV6bZJ0o

憧「よし、とりあえず綺麗になったわよ」

京太郎「……ぶはっ!」

 かなり危なかった。

 理性も、呼吸も。

 やたら丹念に拭うものだから時間が掛かったんだ。

京太郎「はあ、はあ……はあ。ま、とりあえず礼は言っとくよ」

憧「素直でよろしい。………………さ、さーてっ」

 と。

 なんだかわざとらしい声を憧が上げた。

憧「あ……あたしも、汗を拭こっカナー」

京太郎「え、そのシャツでか」

憧「そ、そうだけど?」

京太郎「やめた方がいいんじゃないか……? 男の使用済みだぞ」

憧「っきゅ……変な言い方しないでよ!///」

京太郎「事実だもの」

憧「仕方ないでしょ、今は贅沢言ってらんないし……そう、仕方なくよ、仕方なく……」ブツブツ

 そう自分自身に言い聞かせながら、

憧「……んっ」ポスン

660 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/31(月) 00:36:55.93 ID:LvQdPidIo

 まずは首元から鼻先に掛けて。

 布地に汗を吸い取らせるように、ゆっくりと。

憧「すぅ……すんっ……は、ぁ……」

 俺と違って憧は呼吸を止めていない。

 シャツが邪魔で息苦しそうだった。

 そのまま、どんどん顔の上の方に布地を滑らせる。

憧「ぁ……ん、すご、ぃ……」

 すごい?

憧「、はぁあ……ぅ、きゅう……んっ……」

京太郎「……」

 憧さんや。

 汗を拭くのにそこまで色っぽい声を出す必要はあるんですかね。

 拭き方も、ぐりぐりと顔に押し付けるような不自然で不格好なものだし。

 既にシャツは皺だらけで、握り締められるままに表面積を減らして――って、

京太郎「おい、憧――」

憧「――な、何よ何か言いたいことでもあるのあたしは別に普通に汗を拭いてるだけよ他に何もしてなんかいないわよ何かしてるって言うんなら証拠を見せてみなさいよ証拠をほらほら」

京太郎「………………下着、丸見えだぞ」

憧「ふきゅっ!?」ビクゥッ

669 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/31(月) 01:19:00.74 ID:LvQdPidIo

 迂闊だった。

 自分の番が終われば目を開けていても大丈夫だなんて、そんな保証はどこにもないのに。

 そして更に迂闊だったのは、

バサッ

「「あ゛っ!?」」

 憧を動揺させるようなことを言ってしまった。

 そのせいで、憧はシャツを手放してしまった。

 本当に下着を隠すものがなくなってしまった。

憧「……ぁ、~~~っ///」カァァァッ

京太郎「ま、待て憧! 騒ぐなよ、大きな声も出さないでくれ……!」

 ここで暴れられては全てが水の泡だ。

 憧もそれは分かっている。

 だから耳まで真っ赤にしても、必死に声を押し殺そうとしてくれていた。

 白地に小さなピンクの花が刺繍されたブラを、自由の利かない腕で隠して、



憧「み、見ないで……っ///」グスッ

京太郎「ぜ……善処します」ゴクリ



 喉が鳴ったのは見逃して欲しい。

726 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/31(月) 22:11:56.17 ID:LvQdPidIo

……
…………
………………

 今は何時だろう。

 時間を確認することも出来ない。

 身動きも取れないし、正面の憧を直視することも叶わない。

 喋って気を紛らわそうにも、気の利いた話題なんて思いつかない。

 状況が状況だ。

 時たま起きるラッキースケベとは毛色が違う。

 こんな近距離。こんな長時間。

 下着姿の憧と一緒にいて、冷静でいられる訳がない。

 シャツを失い、両腕で肩を抱くように胸を隠す憧。

 しかし隠し切れておらず、ちらちらと見えてしまう。

 白い布地が、柔肌が。

 姿勢のせいで強調された、谷間が。

京太郎「……はあ……」

 後から後から湧き出す雑念を、溜め息に乗せて外に排出した。

730 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/31(月) 22:42:16.58 ID:LvQdPidIo

 しかし、辛いのは憧だって同じ筈だ。

 この狭いロッカーの中で半裸になって男と密着。

 もし俺が逆の立場だったらと考えると。

 この狭いロッカーの中で半裸になって宥さん(指名)と密着したらと考えると。

 ………………ヤバいヤバいヤバい鎮まれ鎮まれ鎮まれ!

 あぶねー! 危うく危険が危ないところだったわ!

憧「……はあ、はあ……ッ……」

 その時、憧の息遣いが聞こえた。

 そこに息苦しさ以外の何かを感じたのは、俺の考えすぎだろうか。

京太郎「憧?」

憧「……なに?」

京太郎「苦しそうだけど、大丈夫か?」

憧「ん……ごめん、ほんと言うと少し辛い」

京太郎「どうしたんだ?」

憧「腕よ。この体勢、そろそろキツくて……」

733 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/31(月) 23:15:41.49 ID:LvQdPidIo

京太郎「そうか、特に窮屈だもんな」

憧「そ、そうね、胸で圧迫されるからね」

京太郎「俺の胸板でな」

憧「あたしの胸でよ!」

京太郎「えぇ……?」

憧「疑わしいような顔すんな!」

京太郎「冗談だよ冗談。でもどうする? その腕どかしたら……」

憧「っ……わ、分かってるわよ。手下ろしたら見えちゃう、ってことくらい……」

京太郎「でもいつ出れるかも分からないし、なるべく楽な体勢の方がいいよな」

憧「うん……、………………あ、あのさ」

京太郎「なんだ?」

憧「えと、あたしが楽で、胸も隠せる体勢があるって言ったら、京太郎は協力してくれる……?」

京太郎「ああ、そりゃ勿論」

憧「……じゃあ」モジッ



憧「背中に腕、回してもいい……?」



京太郎「」

740 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/03/31(月) 23:48:13.53 ID:LvQdPidIo

 待――て。

 おい。

 憧。

京太郎「……お前、自分が何言ってんのか分かってるのか……?」

憧「と、当然でしょ」

京太郎「なら、この距離で背中に腕なんて回したらどうなるかも分かってるよな?」

憧「………………胸が、当たる」

京太郎「だったら――」

憧「――だからよ」

京太郎「え?」

憧「だから、くっつけば見られないし、腕も楽だしっ……」

京太郎「見られないしって……くっつくのは恥ずかしくないのかよ!?」

憧「は、恥ずかしいに決まってるでしょ! だけど色々考えて、一番マシなのがこれなのよ!」

京太郎「……いいのか、本当に」

憧「さっきも言ったでしょ。京太郎なら……たぶん、平気」

京太郎「憧……」

憧「京太郎は?」

京太郎「……分かったよ。協力するって言っちまったし、好きにしろ」

749 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 00:32:33.15 ID:FEJYWcnYo

憧「……ありがと」

 俺の了承を得て憧が動き出す。

 覚悟を決めろ、須賀京太郎。

憧「」スッ

 まず、ゆっくりと腕が下がる。

 本当にゆっくりと、憧の内心を反映した速度で。

 目にも火照りの伝わる肌の上を通過して、そのまま玉の汗が伝う曲線の上を――

京太郎「――ッ!」バッ

 慌てて視線を逸らす。

 ついガン見してしまった。

 しかし視覚から情報を得られないのは怖い。

スルッ

京太郎「――!?」ゾクゾクッ

 こんな風に、脇腹を掠める感触に不意打ちを食らってしまうから。

754 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 01:23:01.02 ID:FEJYWcnYo

憧「ん……ごめん、腕ちょっと浮かせて」

京太郎「おま、いきなりすんなって……変な声出そうになったろうが」プルプル

憧「ふきゅって?」

京太郎「それはお前だけだ」

 軽口で緊張を誤魔化しながら、また息を止めて踏ん張る。

 ぎゅうぎゅう詰めのロッカーの中、憧の腕が通れるコースは限られていた。

 俺の身体の上を、物音を立てないよう蛇のように手が這う。

 やがて両腕が背中に回され、次に控えているのは――

憧「……いくわよ……」

京太郎「おう……来い」

 ――ふにゅん、という感触。

 こちらはシャツ越しだが、それでも確かに伝わった。

 同時に腕が緩く巻きつく。

 最後に横を向いた顔が胸板と接し、俺達はすっかり抱き合う格好となった。

京太郎「……あー、どうだ? 楽になったか?」

 これも誤魔化す為の質問。

 対して憧は、ほぅと熱っぽい息を吐いて、

憧「うん……すっごい落ち着く……」ホワーン

京太郎「落ち着く?」

憧「ふきゅっ……い、今のは間違い! 楽よ、すっごい楽!///」

京太郎「ハァ」

807 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 22:05:37.80 ID:FEJYWcnYo

穏乃「ロン! 3900っ!」

憧「ッ!」ビクッ

ムニュッ

京太郎「………………!!!」

 外で穏乃の元気な声が響いた。

 それに驚いた憧が腕に力を込め、胸が更に押し付けられ。

 殺す気かよ。何ゴラスイッチだよ。

レジェンド「おっ、土壇場でしずが逆転かー。やるじゃないか!」

穏乃「ぃよっしゃあー!」

灼「くやし……」

 どうやら何度目かの対局が終わったらしい。

 すぐに今の局の検討に移る。

 ああ、皆はインハイに真剣に頑張ってるのに、俺は半裸の憧とロッカーで抱き合ってるなんて。

 今更ながら申し訳なさというか、罪悪感がこみ上げてきた。

809 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 22:21:32.42 ID:FEJYWcnYo

レジェンド「しっかし憧も須賀くんも本気で遅いなぁ、何やってんだか」ンモー

「「!!」」ドキーン

 ついに恐れていた展開が来てしまった。

 即ち、俺達の不在を皆が怪しむ展開が。

灼「無断欠席とは珍し……」

穏乃「ですよね……はっ、まさか二人だけで山に!?」ガタッ

京太郎「ねーよ」

玄「おもちめぐりに!?」クワッ

憧「ないわよ」

宥「……二人であったか~いこと、してるのかも」ボソッ

「「ふきゅっ!?」」

 変な声漏れた。

 実際にやらかしてみると分かるが、かなり恥ずかしい。

 そして男がやっても全然可愛くないということも分かった。

 やはりこれは憧の専売特許であるべきだと再認識する。

813 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 22:54:19.23 ID:FEJYWcnYo

 それにしても宥さんには驚かされた。

 さっきまでは確かに熱いぐらい暑かったのが、今やケツの穴にツララを突っ込まれた気分だ。

レジェンド「なんかあったのかもしれないし、メールしてみよっか」

「「!?」」

 メールとな。

 部室の隅に設置されたロッカーの中に緊張が満ちる。

 めるめるとメールを打っているレジェンドから視線を切り、憧と顔を見合わせた。

憧「きょ、京太郎っ、ちゃんとマナーモードにしてるでしょうね!?」

京太郎「ああ、放課後は急いでたから解除してない筈だ。憧は?」

憧「あたしも大丈夫だと思う……よかった、こんなことでバレたらぁあぁんっ///」ビビクンッ

京太郎「!?」

 何、だ。

 憧が、突如として艶めいた声を出した。

 状況を呑み込めずにいると、微かな音が耳に届く。



ヴーッ ヴーッ



 (携帯の) バ イ ブ !

821 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 23:21:11.05 ID:FEJYWcnYo

憧「くっ、ふぅ……!///」ビクンビクン

 するってぇと何かい。

 ケータイをマナーモードにしていたが為に、憧はバイブ責めに遭っているのかい。

 なんという皮肉。なんという悲劇。

 憧、恐ろしい(ぐらい間の悪い)子。

ヴーッ ヴッ

 そうこうしている内にケータイの震えが止まる。

 後に残ったのは、憧の息遣いのみ。

憧「はぁっ……は、ぁあ……っ///」フルルッ

京太郎「――」

 殺す気かよ(二回目)。

 こんな様をまじまじ間近で見せられ聞かされ、生殺し以外の何物でもない。

 残酷だ、残酷です。

レジェンド「ん、送信完了っと。一緒にいるとも限らないし、須賀くんにも連絡しとこうかね」

玄「それなら私におまかせあれ!」

 かみさまー。

826 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/01(火) 23:43:32.44 ID:FEJYWcnYo

憧「きょ、きょうたろう……」

 か細い声。

 憧の、不安に揺れる目と目が合った。

京太郎「……憧」

憧「………………アンタ、ケータイ、どこに持ってる?」

京太郎「……」

憧「……」

京太郎「ズボンのポケット」

ヴーーーーーッ

憧「ひぅっ!? や、っぱ、りぃ……っ///」ビクンッ

 神は死んだ。

 俺のケータイが振動を始め、その衝撃が憧を襲う。

 身長差ゆえ致命的な事態は免れているが、そういう問題でもない。

 こうなった以上、一秒でも早くメールの受信が終わってくれるのを祈るしか――



玄「うーん、京太郎くん出ないなぁ」



 電話かよ松実ァ!!!!!

833 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 00:31:14.13 ID:LuJ0Ixifo

ヴッヴッヴッ

憧「ふ、きゅぅ……んっ///」プルプル

ヴーーーーーッ

憧「っあ!? だめっ、今は、ぁ……///」ピクンッ

ヴッヴッヴッ

憧「ふぁぁ……あ、ぁん、ゃ……っ///」ゾクゾク

 気まぐれで着信時のバイブレーションを不規則に設定した俺死ね!!!

 お陰で憧は大変だ。

 一律でない刺激の波に晒され、為す術もなく身悶えている。

 声が漏れないよう胸板にうずめられる顔。

 背中に回された手は切なくシャツを掴み。

 小刻みに震える脚はすりすりと虚しく彷徨っていた。

 もちろん俺も大変だ。

憧「きょう、たろう……きょうたろうっ……!」

 火傷しそうな憧の体温を、息遣いを、逃げ場もなく受け止め続けなければならないのだから。

839 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 01:18:46.52 ID:LuJ0Ixifo

玄「あ、留守電になっちゃいました」

レジェンド「ダメかー」

 外の会話が、夢とも悪夢とも呼べる時間の終わりを告げた。

 疲労がどっと押し寄せるのを感じる。

 こんな悪趣味な拷問、生涯で何度も経験することはないぞ。

京太郎「……大丈夫か?」スッ

 とりあえず心配なのは憧だった。

 真っ赤な顔で息を整えているその肩に手を置こうとして、

憧「だ、だめっ!」

 拒まれた。

憧「い、今はだめっ……触られるの、やばいから……///」ギューッ

京太郎「あ、はい」

 の割に抱きついたまま離れようとはしない。

 どころか、脚が前より深く絡んでいる、ような。

 俺も理性を保つのに必死で、ちゃんと覚えてはいないが。

841 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 01:42:54.73 ID:LuJ0Ixifo

京太郎「……ん? そうか!」

憧「な、なに?」

京太郎「ケータイだよケータイ! メールで皆を部室の外に誘導出来れば!」

憧「あ……そっか、その間に出れる!」

京太郎「そういうことだ。さ、ケータイ出してくれ」

憧「へ? 自分のを取ればいいんじゃないの?」

京太郎「いや、自分で取ろうとすると肘がロッカーに当たるし」

憧「そんなのあたしだって同じなんだけど……」

京太郎「……」

憧「……」

京太郎「……なあ」

憧「……なによ」

京太郎「どっちがどっちのポケットに手を突っ込むか、選ばせてやるけど」

憧「いやああああああああああっ!?」

 小声ですよ?

845 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 02:02:15.04 ID:LuJ0Ixifo

京太郎「ていうか、もう俺がやっちゃっていいか?」

憧「いくないっ! なんでそうなるのよ!?」

京太郎「お前だと絶対時間かかるし……」

憧「ぐっ……い、言い返せない……」

京太郎「な? 悪いけど、ちょっとだけ触るぞ」スッ

憧「待っ、まだ心の準備が――」

サワサワ

憧「――ひにゃあっ!?/// な、なにお尻まさぐってんのよアンタは!?///」

京太郎「え、スカートって尻ポケットないのか?」

憧「あるわけないでしょ、横よ横!」

京太郎「そっか、すまん。じゃあ改めて」

モゾモゾ

憧「ぅう、もうやだぁ……///」

京太郎「俺も同じ気持ちだよ……っと」

 場合によってはロマンチックにも聞こえるセリフを吐きながら、なんとかケータイを探し当てる。

京太郎「あ、ほんとだストラップついてる」

憧「うっさい! じろじろ見るの禁止!///」

847 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 02:18:17.76 ID:LuJ0Ixifo

 と、憧の片手だけが俺の背中を離れて目の前に来る。

憧「貸して。勝手に開いたら殺すからね」ギロッ

京太郎「んな物騒な……ほらよ」

 くれぐれも落とさないように手渡すと、それを神速で引ったくる憧。

 手にしたケータイを操作し、メールを送る憧。これも神速。

穏乃「ん? あっ憧からメールだ!」

 阿知賀が電波バリ3で良かったと心から思う。

レジェンド「なんて?」

穏乃「た、大変だ! 京太郎が体育館裏の地面にめり込んで動けなくなってるんだって!!」

 おい。

玄「ええっ!? 助けなきゃ!」

宥「土の中ってあったかい……?」

灼「この季節は地上のがマシだと思……」

レジェンド「こうしちゃいられない! 行くよ野郎ども!」

 そんなこんなで、

 驚くべきあっさりとレジェンド達(野郎は一人もいない)は部室を飛び出して行ってしまった。

851 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 02:40:17.18 ID:LuJ0Ixifo

 ので、

「「ぶはぁっ!」」

 俺達も即座にロッカーを飛び出して床に転がった。

京太郎「ッ……あー! 酸素うっめえ!!」スーハー

憧「ほんと、何時間ぶりって気分……」ゼーハー

 生きることの素晴らしさ、自由の尊さを実感する。

 しかし、取り急ぎすべきことがある。

 それは、

京太郎「……とりあえず服着ろよ」バサッ

憧「あっ……///」カァッ

 落としっぱなしだったシャツを回収し、憧に渡すことだ。

 明るい室内で下着姿だと、いよいよマズい。

 なるべく見ないようにと背を向ける。

京太郎「つっても汗で濡れてるから、風邪とかひかないようにな」

憧「む……なによ、なんでもない風に言ってくれちゃってさ」

京太郎「」ピクッ

憧「そりゃあ、玄や宥姉じゃなくてあたしの胸なんて、押し付けられても気にならなかったんだろうけどさ……」ブツブツ

 なん……だと……

853 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 02:59:16.13 ID:LuJ0Ixifo

 この野郎(野郎ではない)。

 「人の苦労も知らないで」とはこんな時の為にある言葉だ。

 呆れた警戒心の薄さだ。

 男に慣れるべきであっても、男を侮るべきではない。

 故に、このままにはしておけない。

 汚れ役は覚悟の上で、言ってやらなければ気が済まない。

 もそもそとシャツのボタンを留めている憧に視線を向けた。

京太郎「おい」

憧「なによ?」

京太郎「俺は大きい胸が好きだ」

憧「ッ……し、知ってるわよ、ヘンタイ」

京太郎「ああヘンタイだよ。ゲス野郎だよ」

京太郎「だがな、それだけじゃないんだ」

京太郎「男ってのは、悲しい程に単純な生き物なんだよ」

憧「……京太郎?」

856 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 03:12:38.30 ID:LuJ0Ixifo

京太郎「憧、お前は可愛い!」ズビシッ

憧「ふきゅっ!?」

京太郎「背が低い割にスタイルはいいし、胸だって大きくないが小さくもない」

憧「な、ななな何を――」

京太郎「そんなお前に抱きつかれた俺の気持ちが分かるか?」

憧「――、え?」

京太郎「あんな密室で、おまけに憧は半裸で、ずっと抱きつかれてた俺の気持ちが分かるかって訊いてるんだよ」

憧「は、半裸ゆーな!///」

京太郎「いいや言うね! もう大変だったよ! 色々やわらけーしあったけーしいい匂いはするし!」

京太郎「胸を押し付けてきたり、挙句の果てにはバイブで喘いだり、もう勘弁してくれってレベルだっつの!」

憧「喘いでない!!///」

京太郎「黙って俺の話を聞け!!」クワッ

憧「は、はいぃ!?」ビクッ

京太郎「いいか、さっきも言ったが男は単純な生き物だ」

京太郎「例え好物とは違っていても、目の前の餌には反応しちまうんだよ」

京太郎「それが極上なら尚更だ。食いつかない理由がない」

憧「え、餌? 極上って……何、どういう――」



京太郎「なあ、俺がロッカーの中で出来る限り腰を引いてた理由、分かるか……?」



861 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 03:25:49.34 ID:LuJ0Ixifo

憧「――」

京太郎「……」

 言っちまった。

 我ながらゲスすぎる。

 自己申告とか、どんな罰ゲームだ。とんだセクハラだ。

憧「…………………………そ」

京太郎「……そ?」

憧「そ……そ、そ……そっ、かー。そか、そーなんだー……」

京太郎「……憧?」

憧「そっかぁ、そーゆーことね……それなら別に、うん。いいんだけど、さ」

京太郎「……」

憧「……」

京太郎「……」

憧「……」

京太郎「……」

憧「……」

憧「…………」

憧「………………」















.             xァ′ /       |                ヽ {__j__
           '   /   ′       / |     |      .         :, `丶 \
      /  / /    i |    i  | |     |     i |  i     :,    \ \
      /  /         | |  ‐-L_ | |     | j |i  | |  |         \ \
   .         |    |:八  人j ト八      i |斗匕|「 | |  |   l: .,        ヽ
      /     |    |  Ⅳj]xぅ妝斥 \    i/≫ぅ妝ミxV|  |   |: .′       ,
.      ′     八  :{  |  |坏´_)「:::ハ   \ ∨  _)「:::ハⅥ  |   |: .        ′
  ;           \乂_|  |八 rヘしi::::}     \   rヘしi::::} オ |  . .|: . i           ;
  |   i        l .⌒|  |   乂__/ソ          乂__/ソ |  |  . .|: . |       i   |   「よくない!!!!!」
  |   |          | . . .|  |    ,,,      ,      ,,,   |  |  . .|: . |       |   |
  |   |         /:| . . .|  |\i ///          ///  |  |  . .|: . |       |   |
  |   |          | . . .|  |:::八     r'ア ̄`ヽ       /::|  |  . .|: . |       |   |
  |   |       i | . . :|  {::::::个:...   ∨     ノ    イ:::::}  |  . .|: . |       |   |
  |   |       | | . .八  V斗ri:i:i:〕ト       ィ:〔:i:i:iTV  八   .|: . |       |   |
  |   |       | | . . . :\ Vi:i:i:i:i:i:i:|. : j>--<. : .{: |:i:i:i:iV //   廴_|       |   |
  |   |     r七i| . . . . : |\i:i:i:i:i:i:i:|: . : . : . : . : . : . :|:i:i:i:/i:i/    // /i:\       |   |
  |   |     ∧ Ⅵ. . . . . :|:i:i:\i:i:i:i:|─-. : . : . : .-─|:/i:i:i:/    // /:i:i:i:i∧    |   |

862 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 03:38:53.21 ID:LuJ0Ixifo

憧「え!? え!!?」

憧「うそ、やだ、どういうこと!?」

憧「アンタって玄とか宥姉みたいな胸が好きなんじゃないの!?」

京太郎「だから、好みの問題じゃねーんだって」

憧「で、でも、いつもあたしのことペチャパイって馬鹿にするし……」

京太郎「悪いけど、あんなん半分は冗談だよ」

憧「冗談!?」

京太郎「憧は一番身近な女の子で、だけど友達だからさ、なんつーか……照れ隠しで」

憧「なにそれ!?」

京太郎「友達をエロい目で見てるとか、そんな自分も嫌だし相手も嫌な気持ちになるだろ?」

憧「だからって……! え、待って、じゃあ、あたしはあたしのことエロい目で見てる相手に胸押し付けてたの!?」

京太郎「……まあ、そうなる」

憧「」

憧「――」

憧「~~~っ」





憧「いやあーーーーーーーーーーっ!!!///」ドヒューン

864 名前:6月24日(月)[saga] 投稿日:2014/04/02(水) 03:45:59.38 ID:LuJ0Ixifo

 行ってしまった。

 全力疾走で、きっと家に帰ってしまうだろう。

 仕方ない。

 あの状態で部活なんて出来そうにない。

 明日ちゃんと学校に来てくれるかすら、今から心配だ。

 それだけのことをしてしまった。



京太郎「……っ」



 ――お互いに。

 ああ、ちくしょう。

 俺だって逃げ出したいよ。

 皆が戻ってきたら、どう言い訳しよう。

 皆が戻ってくるまでに、顔の熱が引かなかったらどうしよう。

【TO BE CONTINUED...】