河水浴に行こう!

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255 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 00:47:46.02 ID:mi0imJI5o キーンコーン カーンコーン   キーンコーン カーンコーン  チャイムが鳴る。  それ自体は普段と同じで、なんの変哲もない。  しかし今日のこのチャイムは、俺達にとって特別な意味を孕んでいた。 「きりーつ、礼ー」 アリガトウゴザイマシター 担任「はい、皆さん気を付けて帰ってくださいねー」 ワイワイ ガヤガヤ  号令が終わり、にわかに喧騒が広がる。  そんな中で俺は、 京太郎「っ~~~~~~~~~~テスト終わったぁーーー!!!」  叫んだ。 憧「うるさい」 京太郎「ウィッス」  怒られた。 256 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 01:12:31.40 ID:mi0imJI5o 憧「肩の荷が下りて浮かれるのはいいけど、首尾はどうなのよ?」 京太郎「どうなんだろうなぁ……数学が不安だ」 憧「ああ、数学ね……酷かったもんね……」 京太郎「酷かったもんな……」  一転、お通夜ムード。  月曜から水曜まで、憧の熱心な指導で全体的な学力の向上は叶った。  しかし、頭抜けて不得意だった数学ばかりはその限りではなく。  中間テストの全日程を終えた今でも、唯一の気掛かりとなっている。 京太郎「ぶっちゃけギリギリだと思う。ネットに弾かれたテニスボールがどっち側に落ちるのかってレベル」 憧「危なっかしいなぁ……そんなんで大丈夫なの?」 京太郎「ま、なんとかなるだろ! つーかなってくれなきゃ困る。なんせ憧とのデー」 憧「わーーーーーっ!」バッ 京太郎「もがっ!?」  瞬間、憧の手が俺の口を塞いだ。  苦し。 憧「教室で何言おうとしてんのよアンタは!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?」 京太郎「ぼべんばばい」 憧「気を付けてよね、クラスの子に聞かれでもしたら絶対誤解され――」 ガラッ 258 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 01:15:35.58 ID:mi0imJI5o #size(20){#aa{{{           /: : : : : : : : 、: : : : : :\         r三ミY_ソ ヽ         _/:/ : : /:/: : :/ ヽ: : : : : : :ヽ      /::::::::::iソ ::::\      ///: : : /<: :ハi  Vハレ: !: : ハ    /::::::::::::/ :::::::::\   /:ハ: !: :ハ! V\  イ´Vハ: : :ハ   /:::::::::::::::/ ::::::::::::::\ /: :i :V:ハ:{ r≠ミ    r≠ミ }:ノ: :リ ,.´:::::::::::::::/  :::::::::::::::::::::\: :V : i:ゝ 、、   丶  、、イ: レ´ /:::::::::::::::::/ 、:::::::::::::::::::::::::\⌒{: {     /⌒ ┐  !:} /::::::::::::::::::/  \::::::::::::::::::::::::\{:.{     i    ′ ィ: レ::::::::::::::::::::::/    「京太郎ー! 憧ー!! デートしよ、デート!!!」    \:::::::::::::::::::::::::{:.ト\  ー  ´ / ,.}: }::::::::::::::::::::/    /: :\:::::::::::::::::::V{:Y::::: ̄::Ti::´} _/:::}:.j::::::::::::::::::/ .  /: : : : :\::::::::::::::::V:::゙三:ニ:〉〉彡:::::::レ::::::::::::::::/   i : : : : : : :{\:::::::/:::::::::::::::::ヽ《::::::::::::::::::::::::::::::/   Vi: : : : :ハ:{ ヽ:::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::ヽ:::::::; ´   ハ: : : :ハ{   V:::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::V:/     V: : :{ \ {:::::::::::::::::::::::::::::}}::::::::::::::::V     V\:、    !:::::::::::::::::::::::::::::}}::::::::::::::::',         `:ゝ   }:::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::;            l::::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::i .             }::::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::'               !::::::::::::::::::::::::::::::}}:::::::::::::::::} }}}} 「「!!?」」 263 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 01:42:42.64 ID:mi0imJI5o   ざわ...            ざわ...      ざわ... 「デート……?」 「デートって言ったよね?」 「あの子、隣のクラスの高鴨さんだっけ」 「そうそう。よく新子さんと一緒にいる」 「でも須賀くんとも結構おしゃべりしてるよね」 「その高鴨さんが、二人をデートに誘った……ってこと?」  女子のざわめき。 「なあ、デートって三人でするもんだっけ」 「知らない」 「俺も知らない」 「俺の知ってるデートと違う」 「経験者がいるぞ!!! 殺せ!!!!!」 「待て、今はそれより須賀ニキだ!!」  男子のどよめき。  二種類の声が飛び交う教室を、窓際の俺達へ向かってとてとてと横断する穏乃。  その場に居合わせた誰もが、穏乃の動向から目を離せずにいた。 266 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 02:02:07.30 ID:mi0imJI5o 穏乃「やほ、テストおつかれっ!」ニパ 憧「」ボーゼン 京太郎「……あの、穏乃サン?」 穏乃「ん?」 京太郎「聞き間違いかもしれないからもう一度訊くな。今なんつった?」 穏乃「デート。しよ?」 京太郎「………………」 穏乃「京太郎ー?」  ……どうしよう。  多分、穏乃のデートに対する誤った認識を正すだけなら容易い。  しかしあの第一声がマズかった。  既にクラス中に聞こえてしまっている。  そちらのフォローも同時に、となると難易度は跳ね上がる。  やれやれってやつだ。 269 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 02:29:33.04 ID:mi0imJI5o 京太郎「えーっと、だ。穏乃。まず言いたいのは、お前はデートってものを勘違いしている」 穏乃「ぅ?」 京太郎「デートというのはだな。仲の良い男女が、基本的には二人で出掛けたり出掛けなかったりすることを指すんだよ」 穏乃「出掛けなくてもデートなの?」 京太郎「デートなの」  家デート、やってみたい。 京太郎「穏乃は多分、仲良し同士がつるんで出掛けることがデートだと思ったんだよな?」 穏乃「うん。そっか、間違ってたんだね」 京太郎「ハハハ、しょうがないな穏乃は」  いい調子だ。  周囲の気配も、「なんだそういうことか」的な落ち着きを見せている。  このままなら―― 穏乃「でも、憧は京太郎とデートするんだよね?」 京太郎「え゛」 穏乃「憧は良くて私はダメなの……?」 京太郎「ちょっ」 穏乃「なんかずるいなぁ、私も混ぜて欲しいのに」プクー  \(^o^)/ 272 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 02:55:39.62 ID:mi0imJI5o  ま、まだだ!  まだクラスの反応次第では―― 「二股……」 「チャラ男……」 「3P……」 「須賀ニキ……」 「や金糞……」  あ、ダメだわ! もうこうなったらどうしようもねーわ!  弁明して取り返せるもんじゃねーわ!  っべー。マジべーわ。  このままじゃ両手に花のクソゲス王子として阿知賀学院の歴史に名を刻んでしまう結果になっちまうわーべーわー。  何か打開策は――と辺りを見回していた、その時。 憧「ハッ!!!」クワッ  憧が目覚めた! 憧「なななななななに言ってんのよしず! あたしと京太郎がデートなんてする訳ないでしょ!?」 穏乃「でもこないだ約束し」 憧「未定ですー全然未定ですー! 大体アンタこそデートって何よ今から部活だってのにデートなんてデートなんてデートなん――」 ガラッ 275 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 03:00:50.40 ID:mi0imJI5o #size(15){#aa{{{                       ─━━                    ィi〔:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:`:...、                     /:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:\                    ′:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i{:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:゚,                 /:i:i:i/:i:i:i:i:i:i:i:i:ハ:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:.               〃:i:i:i|:i:i:i:i|:i:i:l ||  :i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ハ               |/|i:i:i:|:i:i:i:i|:i:i:| |l  、:i:i:i:i:i:i\:i:i:ハ}i:∧               |l |i:i从:i:i:┼:i:ト|l   \i:i:i:i:i:iУ:i:i:i:i:i:i:.          rヘ __   从:i:i:i/「芹芋ト    イ芋茅.:i:i:i:i:i:i:i:i:゚,  「話は聞かせてもらった。やっぱりハルちゃんはナンバーワン!」           ィ 厂ドrヘ   .:i:i:i:i:i|∧ V)ソ     V)ソ/:i:i:i:i:i:i:i:i:i:ハ .         /ム’::::::::::〈  |i:i:i:i:i∧ ハ ""   ′  "/|i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:i:| .       乂{:/:::::::::〉l  |i:i:i:i:i{:i父ト.    __    |i:i:i:i:i:i:/:i:i:i:iリ           V ̄:::::::|  Vl:i:i:i:「 ̄ ̄℡ュ.   _,. '’|i:i:i:/¨¨¨¨           }::::::::: 《   ¨¨¨  ___/}  / \_¨¨          |::::::[l;:::::|    . ´   / /{\/\  } `   .          Υ ̄ 「___/     {l/ V廴_}/   、/     Y          |  (ニニ \       }:_ ィ’            |          |   V,ハ  ヽ./     /:.:.:′   /__   |          |   {   、  \   /:.:./    /___ \i|          !       /ヽ / \':.:./    {/   冫、 |           .    / ̄ ト、 /\     '    /  ∨ }}}} 「「「な、なんだってーーー!!」」」 281 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 03:13:59.79 ID:mi0imJI5o 穏乃「って灼さん!?」 憧「なんでここに!?」 灼「あ、穏乃もいた。三人に用があったからちょうどい……」  と、一瞬で教室内の視線を攫ってしまった鷺森部長が悠然と歩み寄ってくる。  すげえ。  何がすげえって、穏乃の存在に気付いてなかった=中の様子がどうなってるか知らなかったってこと。  なのに扉を開けるなりレジェキチ発言。  やっぱり鷺森部長は凄い。改めてそう思った。 灼「ハルちゃんからの伝言。今日の部活は休み」 憧「はぁ!?」 京太郎「また急っすね」 灼「テスト終わった直後だから、一度ゆっくり頭を休めてメリハリをつけた方がいいって」  わお、もっともらしい。  レジェンドなのに。 灼「今ハルちゃんのことディスったメーン?」 京太郎「め、滅相もございまメーン!」 282 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/23(水) 03:49:22.11 ID:mi0imJI5o 穏乃「そうだ! 灼さんも一緒にデートしませんか?」  「すわ4Pか!?」と室内が沸いた。 灼「は?」 憧「しずゥゥゥゥゥ!!」 京太郎「お前はまたそうやって……」  少しだけ怪訝な顔をした鷺森部長だったが、すぐに事情を察したようで、 灼「あー……悪いけど、ハルちゃんと約束があるから。気持ちだけありがた……」 穏乃「そですか……」ショボーン 灼「玄も宥さんと家の手伝いがあるって言ってたし、今日のところは三人でいってら」フリフリ 穏乃「そっかぁ、それなら仕方ないですね。そうします!」  がしっ。  と、穏乃が俺と憧の手をそれぞれ掴んだ。  そして、 穏乃「じゃあまずは学食で腹ごしらえだああああああああああっ!!」ダッッッ 「「ギャーーーーーーーーーーッ!!」」  俺達の体が床から浮き上がるぐらいの勢いで走り出したのだった。 「あっ逃げた!」 「駆け落ちだわ!」 「また駆け落ちよ!」 「やっぱり須賀ニキだ!」 「白昼堂々お楽しみなのね!」 「週明けに異端審問待ったなし!」  などと騒ぐ男女混合の声が遠ざかっていく。  きっと俺がクラス全体から受け入れられる日もまた、遠ざかっていくのだ。 302 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/24(木) 00:42:30.73 ID:sZvsrXMjo …… ………… ………………  学食でカツカレーうどん定食を平らげ、一旦解散。  着替えやら準備やら、その為の時間だ。  しかし行き先を聞いていないので、特別に何か用意したりはしない。出来ない。  まあ、ケータイと財布があれば男の外出に不足はないだろう。  俺の場合はハンカチとポケットティッシュ、あと絆創膏も持ち歩くが、これは癖だ。  だってコケるんだもん、咲。  咲と言えば、いつだったかハンカチを口でビーッて裂いて傷口に巻いてやったことがある。  それが無性に気に入ったらしく、以来ハンカチは咲が自腹で用意したものを持たされ、事ある毎にビーッてやらされた。  ハンカチだって安くないだろうに、つくづくポンコツの考えは理解不能だと思い知らされたものだ。 ピーンポーン♪ 穏乃「京太郎ー!」 京太郎「ぬ」  来たか。  薄手のシャツを羽織り、玄関を出た。 317 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/24(木) 01:07:14.81 ID:sZvsrXMjo 穏乃「おっまたせ!」 京太郎「それほどでも」  施錠して振り返る。  穏乃はいつものジャージとボディバッグ。  その後ろに立つ憧は、 京太郎「……ご旅行ですかな?」  と言いたくなるような大荷物だった。 憧「なワケないでしょ」 京太郎「なワケないけどよ」  膨れ上がったショルダーバッグは、ちょっとした外出とか、それこそデートとかには不似合いだ。  憧も行き先は聞いていなかった筈だが…… 憧「ま、幼馴染みの勘ってやつよ。多分当たってるから」 京太郎「はあ。とりあえずそれ貸せよ」 憧「え?」 京太郎「いや、持つから。重いだろ」 憧「…………………………漁らない?」 京太郎「おまえーっ!!」 327 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/24(木) 01:26:59.77 ID:sZvsrXMjo …… ………… ……………… ザッザッザッ...  やまのなかにいる。 穏乃「ふんふんふーん♪」 京太郎「デートとは一体……うごごご」 憧「こんなこったろーと思った」  三者三様、歩みは止めず。  かれこれ小一時間、我ら高鴨穏乃探検隊は山道を進んでいた。  そうだよね。三人の中で一番山寄りな俺の家に集合した時点で予想しておくべきだよね。  更に言うなら、穏乃の発案である時点で。 穏乃「もうちょっとだからね! がんばろー!」オーッ  一人テンションうなぎ登りの穏乃。  その後ろを並んで付いて行く俺と憧。 329 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/24(木) 01:47:08.68 ID:sZvsrXMjo 京太郎「こうなると読んでた訳か、お前は」 憧「まあね。あと、お前って言うな」  どこか得意げに憧が返す。  よく見ればその格好も、動きやすく涼しげな軽装だ。  山歩きには向いてないかもと思うが、先行する山歩きの大ベテランがあの様なので何も言うまい。 憧「しずと言えば山、山と言えばしずだからね。最近は部活で前ほど入ってはいないみたいだけど」 京太郎「なるほどなぁ」  山、か。  視線を落とす。  今歩いているこの道は舗装こそされていないが、平らで傾斜もゆるい。  だから普通のスニーカーを履いている俺でも難なく登れる。  それは穏乃が選んだ道だから、なのだろうか。  俺や憧でも無理なく進める道を選んでくれているのだろうか。  戻した視線の先、揺れるポニーテールは何も語らない。 穏乃「見えたっ! 二人とも、こっちだよ!」ダッ  代わりにポニテの主が声を上げ、急に駆け出した。 京太郎「あ、おい!」ダッ 憧「ここって……」ダッ  追って小道へ分け入る。  すると、段々と大きく聞こえる音があった。  この音は―― 330 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/24(木) 01:51:48.67 ID:sZvsrXMjo ザザッ #size(20){#aa{{{        V:::::::::ヘ                        __r‐ァ        V::::::::::ヽ    . .―:―<:ヘ         ..-<::ヽ \        V::::::::::::\ /: : : : :/ ヽ : :\      /::::::::::i/⌒'┘        V::::::::::::::ヽイ: 7:ヽ:/  ノ: : : : :\ ..―:´::::::::::::/ .         \:::::::::::ハ V:i,_{_ `  ノフヽ:ノ:}:/::::::::::::::::/             V::::::::::V: i,,, _` ' ⌒゙ !ィ/::::::::::::::/    「うおお川だーーーーーっ!!」            ヽ::::::::{:八 (  ̄i ''' /:/::::::::::::/:\               ヽ::::::::::::zト .二 イ.レ':::::::::ィ: : : :ヽ:\                V:/:::::::::〃 ̄::::::i:::::/ ヽ: : :ヽヽ )             V::::::::::〃::::::::::://   Vハ: :ハ              /::::::::::〃::::::::::::/    ノハ: :ハ             /::::::::::〃::::::::::::/         ∨             /:::::::::::::》:::::::::::::′             /::::::::::::〃::::::::::::{              /:::::::::::::〃::::::::::::::l          /〃:::::::::〃:::::::::::ヾ:ヽ           〈〃:::::::::::《::::::::::::::::::》:::〉         /三三三〃三三三ミY         └┬―‐ Tニl ̄  ̄!:>'            {   /  l    }´             {   l  l    l             |    l  、   l             {   ,′  !   ,′  r 、           !  ,′   ',  ├  ̄  \           }  l     !   -<\_ミ}           |   |    └ '´ }}}} 京太郎「うわ凄ぇ!? でかッ!!」 憧「ここかぁー……!」 338 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/24(木) 02:20:52.63 ID:sZvsrXMjo  穏乃が叫んだ通り、開けた視界一杯に広がるのは川だった。  吉野川、だよな。  上流も下流も果てしなく、雄大だ。  それでいてこの辺りは浅瀬で、流れもさらさらと淀みない。  長野の自然とはまた違う風情がある。そんな気がする。  絶景で、絶好だった。 京太郎「はぁー……こりゃあ……」 穏乃「京太郎ーっ! どう!?」  駆け寄ってきた穏乃が尋ねる。 京太郎「どうって……すげえよ。本当にすげえ。それしか言葉が見つからない」 穏乃「……えへ! 憧はっ?」 憧「うん、懐かしい……小六以来だよね、ここ」 穏乃「覚えててくれたんだ!」ギュッ 憧「当たり前でしょーっ」ギュッ  嬉しそうに抱き合う二人。  どうやら、憧と穏乃にとっては印象深い場所らしかった。 371 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 00:45:46.44 ID:jCzUqY40o 穏乃「ここにはね、和とも来たことがあるんだよ!」 京太郎「ああ、例の昔馴染みの」  そりゃハシャぐ訳だ。  こんな素敵な場所に、そんな綺麗な思い出があるのなら。 穏乃「だから京太郎とも来たかったんだ。今の大切な仲間だからね!」ニコッ 京太郎「……」 ナデナデ 穏乃「ぅわふっ?」 京太郎「サンキュな、穏乃」 穏乃「えへへー」 憧「……ま、いっか」  なんか、スゲーッ爽やかな気分だぜ。  まるで新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~~~ッ。  道中はどうなることかと思ったが、楽しいデートになりそうだ。 穏乃「それじゃ早速――」イソイソ 京太郎「うん?」  声に振り向くと穏乃がジャージのファスナーに手をかけなんの躊躇もなく真っ直ぐ下ろしオイオイオイオイオイオイオイオイ!! 373 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 01:09:59.61 ID:jCzUqY40o 京太郎「お前何してんの!?」 穏乃「何って、せっかくテストから解放されたんだから思いっきり遊ばなくちゃ」ヂィー 京太郎「でもそれはいくらなんでも解放され過ぎじゃねえ!?」  などと言っている間に、ファスナーは終点に到着。  チ、と音を立ててジャージを左右に分ける。  あらやだもう! と目を覆う俺。  相手が穏乃とは言え――否、穏乃だからこそ、か。  あられもない姿を見るのが憚られる。  こうしていれば憧がいつものように穏乃を諌めてくれるだろう。  そう思っていたら――ばふっ。 京太郎「む゛ぉ!?」  これは……布? 顔面に、布らしき感触。  驚いて目を開くのと同時、飛来した物体がずり落ちる。  明るくなった視界の先には、 穏乃「ごめん京太郎、それ預かってて!」  ジャージを脱ぎ捨て――水着姿となった、穏乃。 377 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 01:26:16.88 ID:jCzUqY40o 穏乃「ぃよーっし泳ぐぞーーーーーッ!!!」  と、川の深くへ向けてざぶんざぶんと進行を始めた。  「うおお冷たーーーーーい!!」とか叫んでる。 京太郎「……アホだ……」 憧「知らなかったの? あの子アホよ」 京太郎「慣れてんなぁ……」 憧「まーね。しずー! ちゃんと準備体操するのよー!」 穏乃「分かったー!」  膝まで水に浸かった状態でやるんかい。  しないよりマシだろうけど。  前屈する穏乃の尻を眺めながら、 京太郎「ところで憧」 憧「なに?」 京太郎「憧は水着とか持ってきてないのか?」 憧「アンタが一緒って分かってて持ってくる訳ないでしょ。ていうかまだ水冷たいし」 京太郎「ですよね~」 379 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 01:55:47.91 ID:jCzUqY40o 憧「あたしはとりあえず見学かな……山歩くの久々で疲れちゃった」  そう言って、俺に預けていたバッグをゴソゴソと漁る。  取り出したのは、 憧「よっと」バサァ  レジャーシート。 京太郎「……」  広げたそれを、手近な大きく平たい岩の上に敷く。  そしてバッグを枕代わりに仰向けに寝転がった。 憧「んー……流石に硬い。ま、しょうがないか」ゴロン 京太郎「ほんっと慣れてんな……エスパー?」 憧「だから勘だってば。行き先が山ってことだけは確信があったけどね」ンーッ 京太郎「…………」  寝ても伸びても、揺れぬ八ツ橋。  嘆かわしい…… 憧「ってどこ見てんのよ!?」 京太郎「はあー!? 見てねーしー! ぜんっぜん見てませーん!!」<○><○> 憧「せめて目ぐらい逸しなさいよ馬鹿ぁ!!」 396 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 15:14:52.01 ID:jCzUqY40o  怒られたし、胸は両腕でガードされてしまったし、まったくもって遺憾である。  仕方がないので憧との会話は一度切り上げよう。  お次は穏乃だ。  靴と靴下を脱ぎ、ジーンズの裾をまくり上げて川にイン。  冷たッ。  天気は快晴とは言え、この水温に全身浸かって泳ぐって相当だぞ。  まあ、脚を撫でる水の流れは気持ち良いけどな。 京太郎「おーい穏乃ー」ザブザブ  服が濡れない程度の深さに留まって呼ぶ。  穏乃はすぐに気付いてこちらにやって来た。 穏乃「やっと来た! 遅いよ京太郎ー」 京太郎「悪い悪い。しかしまあ……」チラリ  見る。  濡れた髪。濡れた唇。濡れた肌。濡れた布。  水滴は当たり前に上から下へ、ポタポタと滴る。  曲げた肘の先や指や、それから水着の……オホン。股の部分、なんかからも。 京太郎「………………」  健やかにエロい。そんな表現がピッタリだ。 398 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 15:48:33.58 ID:jCzUqY40o 穏乃「京太郎?」キョトン 京太郎「な、なんでもない! それより、そんなんで寒くないのか?」アセアセ 穏乃「全然! 寒いのにも暑いのにも結構強いんだ、私!」エッヘン  ない胸を張る。……本当にないな! ビビるわ! 京太郎「穏乃は元気だなぁ」 穏乃「えへへ。あ、でも宥さんの『あったか~い』はちょっとキビシイ……」 京太郎「あー……まあアレはな、例外だろ」  これからどんどん暑くなる訳だが、それでもあの人は厚着のままなんだろうか。  ……ままなんだろうな。多分。絶対。 京太郎「しかし本当にいい景色だな。空気がうまいよ」 穏乃「だよね! 長野にはこういう場所ないの?」 京太郎「いや、あるだろうけどさ。俺はあんまり行かないから」 穏乃「そうなんだ」 京太郎「インドアよりアウトドア派だけど、レジャーよりスポーツ派なんだよ」 穏乃「そっかー」  サッカーとかバスケとか、中学時代は見境なくやったもんだ。  どれも部活に入るほど本格的に打ち込みはしなかったけど。  ペットの世話もあるし。 406 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 16:30:13.27 ID:jCzUqY40o 穏乃「長野の山にもいつか登ってみたいなー。凄いんでしょっ?」 京太郎「凄ぇ。日本アルプス半端ねぇ」 穏乃「おぉ~……ね、帰省したりしないの? 私もついてく!」 京太郎「いやいやいや。部活はどうするんだよ」 穏乃「あ」  考えてなかったんかい。  思ったことをすぐ口に出す辺り、らしいっちゃらしいがな。 京太郎「全国大会に行くんだろ? 遊んでる暇なんかないぞー」 穏乃「そうだよねぇ……じゃあじゃあ、インターハイが終わった……ら……」  はた、と。  減速する言葉。  穏乃が顔を伏せた。 408 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/25(金) 17:13:31.52 ID:jCzUqY40o 京太郎「どうした?」 穏乃「ん……あのさ、京太郎も、いつかは帰っちゃうんだよね?」 京太郎「え?」 穏乃「高校卒業したら、ここからいなくなっちゃうんだよね?」  そう言って穏乃は、俺のシャツの裾を掴んだ。  濡れた小さな手で、弱々しく。 穏乃「もちろん、それが悪いことだなんて言わないし、当たり前のことだって分かってるけど、」 穏乃「……けど……その時のことを考えたら、やっぱり……」 穏乃「ちょっと……寂しいな、って……」  そのまま黙り込む。  川のせせらぎの中に立つ俺と穏乃。  彼女に、どんな声を掛けるべきだろうか。  考えて、俺は、 京太郎「脈絡なさ過ぎィ!」ビシッ 穏乃「うぁいたー!?」  チョップしたった。 446 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 00:45:33.99 ID:j0Sgajxmo 穏乃「え、なに、なんで!?」  頭を押さえて狼狽える穏乃。  俺は溜め息を吐いた。 京太郎「なーにいきなりシリアス突入してんだよお前は。どっかにスイッチでもあんのか?」サワサワ 穏乃「わわ、スイッチなんてないよ! ちょ、そんなところっ!?」アワワ  まさぐってみたが、本当にスイッチは見つからなかった。 京太郎「……あのな穏乃、『来年の事を言うと鬼が笑う』ってことわざ知ってるか?」 穏乃「知らない」 京太郎「だろうな。まあ大体言葉通りの意味なんだが……」 穏乃「???」 京太郎「一年後でさえ鬼が笑うんだ。二年後とか、その先のことなんて心配してたら阿修羅が笑い転げちまう……ぞっ」デコピンッ 穏乃「ぁたっ」  かるーくデコピン。  俯き気味だった穏乃の顔を上に向けてやる。 448 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 01:10:49.66 ID:j0Sgajxmo ムニッ 穏乃「ふぁ」  続けてもちもちした両頬を摘む。  ううむ、見かけに違わず中々の弾力。  適当に感触を楽しみながら、 京太郎「心配すんな。当分は一緒だからさ」  笑い掛ける。 #aa{{{     //|: : : : | : : // |:∧/  |/           |八∧/ \ |;ハ: : :| : : : |)〉     |:| |: : : : | : /:   ≫去干气ト         ィ去干气≪   |: :/: : : : |\     |:| |: : : : |: :|:::; 〃 んJ:::::::爿         トJ:::::::::::爿ヾ |:/: : : : :/ : ∧     |:| ∨: : :乂{::::〈{  V辷七歹        V辷七歹  }〉/ : : : : /: : : :∧ .   乂 \{\: Ⅵ  とつ'⌒~ /////// `⌒とつ  /|: : //: : : : : :∧    「っ………………ぅん゛」          / `トh   /////////////////  ハl/Ⅳ: : : : : : : :∧           { |: : :|ハ                     | ! : | }: : : : : : : : :∧ .        八|: : :l }       /~⌒^⌒^ヽ          j | : レ : : : : : : : : : ∧         |: :从,_|      ´           `        厶イ : |: : : : : : : : : : : ∧         |: :|  人                        人 : : : |: : : : : : : : : : : | }|         |: :|   >                 <  |: : : :|: : : : : : : : : : : | ||         |: :|       >          <     |: : : :|: : : : : : : : : : : | ||         人_|       r=≦}___   T爪  {≧=ミ,   |: : : :|: : : : : : : : : : : | ||                     |{      ̄`Y^Y´ ̄      }   | : : / : : : : : : : : : : /∥      __          从  ー---〈 ∥---―=彡〈  ∧/ : : : : : : : : : : / /    /     ̄¨ニ=- _幺  ー―===У===-一  r公=―=ニ¨ ̄ ̄  \:/ }}} 京太郎「あーあーやっぱり寒いんじゃねーか、鼻水出てるぞ」 穏乃「えっわっうそっ!?」  慌てふためく穏乃。  流石に恥ずかしいのか。 452 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 01:33:17.27 ID:j0Sgajxmo 京太郎「ちょっと待ってな」ゴソゴソ  誰かさんのことを思い出しながら、ポケットからティッシュを取り出し穏乃の顔に押し当てる。 京太郎「ほれ、ちーん」 穏乃「ぁ、あいがと……ずびーっ!」チーン 京太郎「よし、綺麗になった」 穏乃「……えへへ」  やっと笑顔が戻った。  穏乃は笑顔が一番だよな、やっぱり。 穏乃「よーし、遊ぼう京太郎! 競争したり、魚獲ったりしよう!」 京太郎「お、いいーねェー。とことん付き合うぜ!」 穏乃「やたっ! じゃあまずはあの岩まで競争ね!」 京太郎「よドン!」ダッ 穏乃「よドン!? 待てー! それズルでしょー!!」ダッ 京太郎「勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」 455 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 01:59:19.64 ID:j0Sgajxmo …… ………… ………………  死んだ。  正確には、死ぬ程疲れた。  なんだあいつ。穏乃あいつ。  疲れるということを知らないのか。  麻雀や勉強では結構ヒーヒー言ってる印象だったのに。  ていうか、俺自身かなり体力が落ちていると実感した。  最近運動してなかったからなぁ……  せめて穏乃にスタミナで負けない程度には鍛え直そう。  そう誓いを立てつつ、川岸へ。  少し休憩しないと、うっかりコケて土左衛門なんて笑えない事態になってしまう。 京太郎「おーい憧ー。穏乃の相手代わってくれー」  岩場に横になっている憧に声を掛ける。  が、 憧「ふ、きゅう……」zzZ 459 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 02:22:04.94 ID:j0Sgajxmo 京太郎「ありゃ、寝てんのか」  疲れてるって言ってたもんな。  テスト期間も俺や穏乃を熱心に面倒見てくれてたし。  起こすのも可哀想だし、そっとしておいてやろうか。  そう思って隣に腰掛ける。 憧「すぅ……すぅ……」zzZ  可愛い寝顔だ。  こういう、女性の無防備な表情って、ジロジロ見るのは躊躇われるよな。  見るけど。 憧「ヴィッカース社……高速戦艦……バーニングラヴ……」zzZ  どんな寝言だ。 憧「舌使い……ご褒美……ふきゅう……」zzZ  どんな寝言だ! 466 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 02:42:10.98 ID:j0Sgajxmo  前言撤回。起こそう、今すぐ。 京太郎「憧。おい憧」ユサユサ 憧「やぁぁ……」ゴロン  とりあえず肩を揺らす。  が、寝返りを打たれてしまった。 京太郎「ぬぅ」  ならば、と回り込む。  覆い被さったりなんかしませんよ?  それで起きた場合、憧の目に俺がどう映るか――うむ。  命、大事。 京太郎「おーい、起きろっての」ペチペチ 憧「うにゃあー……」モゾッ  お。 憧「んん……おはようごじゃいまーす……」ムクリ  起きた。噛んでるけど。 468 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/26(土) 03:13:25.06 ID:j0Sgajxmo  上体を起こし、辺りを見回す。  少し冷えたのか、身体をさすりながら。 憧「あれ……ここどこ? なに、マイクチェックの時間?」キョロキョロ 京太郎「寝ぼけてんなぁ」  なんだマイクチェックの時間って。 憧「あっれぇ……京太郎だ。ウケる」 京太郎「真顔で言われても……」 憧「てかここ山じゃん……なんでこんなとこにいるんだろ」 京太郎「自分の八ツ橋に訊いてみな」 憧「んっと、テスト終わってーしずが来てーデートしよとか言ってー灼さんも来てー」 京太郎「そうそう」 憧「学食行ってーいっぺん帰ってーシャワー浴びてー服選んでー選び直してー」 京太郎「ふんふむ」 憧「しずと合流してー京太郎んち行ってー山歩いてー川に着いてー」 京太郎「もう一息だ!」 憧「あたしは疲れてー、シート敷いてぇ……横になっ、て……」 京太郎「ん?」 憧「………………ぐぅ……」zzZ 京太郎「 お い 」 憧「ハッ!? 寝てません、寝てませんってばぁ!!」ヒェェ  だからなんで敬語? 528 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/27(日) 01:09:04.58 ID:TZFXDMB+o 憧「って京太郎? そんなとこで何してんの?……ナニかしたの!?」 京太郎「起こしてやったのにこの言われようだよ!」  誤解で殴られたりしなかった分マシか、と内心で考えてしまっている辺り、かなり悲しい。 憧「あ、寝てたんだあたし。それで京太郎が起こしてくれて……ごめん、ありがと」ペコ 京太郎「おー、礼ついでに交代してくれ。穏乃が若い身体を持て余してる」 憧「言い方!……ま、そろそろあたしも運動しとこっかな」スクッ  岩の上に立ち、ひょいと飛び降りる憧。  ショートパンツだからめくれる心配もないね! クソッタレが!!!  着地の拍子に乱れた髪を整えながら、 憧「んー、走り回るにはちょっと邪魔よね」  そう言ってポケットからヘアゴムを取り出した。  そして両手でテキパキと髪を束ね始める。 京太郎「……」  もうちょっと暑い季節なら、腋とかブラチラとか拝めたかもしれないのに…… 京太郎「」ギリギリギリギリ 憧「?」 529 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/27(日) 01:43:54.58 ID:TZFXDMB+o  ぎゅ、と。  歯軋りする俺をよそに、憧が髪を結び終えたようだ。 憧「うっし。どう京太郎、結び目偏ってたりしない?」クルッ 京太郎「ん? ああ、大丈夫だと思うぞ」 憧「そ」クルリ  鏡も見ずに大したもんだ。 京太郎「ふむ、ポニーテールか……」ジー 憧「ぅ……ちょっと、もう見なくていいからっ」 京太郎「別にいいだろ? 減るもんじゃないし」ジィー 憧「うー……」ソワソワ  落ち着かない様子の憧(ポニテ)を見る。見る。見る。  いつにも増して勝ち気な雰囲気が強調されていて、これはこれで可愛いよな。  中身は男が苦手な通常営業のままだけど。 544 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/27(日) 11:17:37.64 ID:TZFXDMB+o 京太郎「似合ってるし、普段からこの髪型でもいいんじゃないか?」 憧「えー? しずとモロ被りじゃない。却下」 京太郎「そんな理由かよ……」 憧「これはあくまで応急措置。山で長い髪がこんなに邪魔になるなんて思ってなかったんだもん」  と、ポニテの先っぽを弄びながら。 京太郎「思ってなかった、って……前にも来たことあるんだろ?」 憧「あるけど、子供の頃って言ったでしょ」 京太郎「ああ、あのチンチクリンの頃」 憧「チンチクリン言うな!……その頃なんだけどさ」 京太郎「昔は短かったんだよな。なんか理由があって伸ばしたのか?」 憧「理由?」  ああ、と返す。  憧は腕を組んで考え込んだ。 憧「そうね……単純に長い方が可愛いかなっていうのもあるけど、一番は――」  光り輝く川面を見つめて、言う。 憧「――しずと遊ばなくなったから、かな」 555 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 00:51:46.48 ID:7i7N+xuoo 京太郎「穏乃と……? それが理由になるのか?」 憧「あたしの中ではね」  苦笑。  視線はそのまま、川の流れを見ていた。 憧「昔はさ、ずっとしずの後をついて回ってたんだ」 憧「山の中……森でも川でも、どこにでもくっついて行った」 憧「もちろん、あたしじゃしずみたいには動けなくて、よく転んだりしたわ」 京太郎「へえ……?」  少し意外だと感じた。  写真で見た昔の憧は、確かに今より活発そうではあった。  それでも内面は今と大差ないだろうと――疲れたり、汚れたりすることは嫌いそうだと、勝手に思っていたから。 556 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 01:35:07.83 ID:7i7N+xuoo 憧「そんなだから、自然と髪は短いままにしてたの。邪魔だし、危ないから」 京太郎「まあ、そうかもな」 憧「今にして思うと健気なもんよね。伸ばせばオシャレの幅だって広がったのに」  また苦笑い。 京太郎「――、」  その表情に、見覚えがあった。  そう、確か、  あの雨の日の―― 憧「……そうまでしてでも、一緒にいたかったのにね?」  振り向いて見せた表情も、あの日と同じだった。  楽しいような、寂しいような。  憧は思い出を語る時、決まってそんな表情をする。  決して長くない付き合いだが、そう断じられる程に印象的だった。 557 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 02:25:54.61 ID:7i7N+xuoo 憧「進学したての頃はあたしもしずもバタバタしちゃって、連絡を取り合う暇もなくって」 憧「でも、中学ってそれまでとは環境が一変しちゃうから……やっと落ち着いたって時には、あたしはもう新しい輪の中にいて」 憧「たまには遊ぼうって約束も、守れなかった」  俯いたり、眉根を寄せたりはしていない。  ただ、事実を述べるのみに努めているようだった。  あの日のようには内側を見せてくれないらしい。  だからといって俺から距離を詰めるのも、違う。  流れを見守るしかないか。 憧「それで、中一の冬ぐらいだったかな」 憧「いつの間にか、髪が伸びてても気にしない自分に気付いたのは」 京太郎「、あー……」 憧「微妙なリアクションどーも」クスッ  今度は、からかうような笑み。 憧「……もういいかなって、思っちゃった」 憧「もう、新しい場所で新しい仲間と。それでいいかなって」 憧「思っちゃったから――」 558 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 02:36:27.85 ID:7i7N+xuoo #size(15){#aa{{{                    '" ̄ ̄ ̄: : : . 、                /: : : : : : : /: : : : : : : : : :..              _/: :/:./: : :. :./: : : : : i: : : : : : :\           //′ :/:./: : : :.:/: : : : : : |: : : : : : : : :         / :/ / : //:./: .′:./∧: : : : :.ハ: : :. : :|: :|: :.:. .       / :/ / : //:./」.A--x:′ト、.:.:.:.′ : : : : |: :|: :〔iミx 、 ..      / :/ レv: : :′|! V__ `  ヽ l___!__: : : |: :|: : :| ヽ:ヽ         / :/    i!: |:.|   __     j/- j人`ヽ|: :| |:.:|   . : . .       / :/    |:.:.|:.| ´ ̄`ヾ     _  ヽ:|: :| !:.:!   . : .      .′′   |:.:.|:.|        ,    ¨¨ヾ、. ハ:.:.|:|:.:|    l : l    「――今、こうしていられるのがすっごく嬉しい!」            i!: :! |                 / .′:.|: :!     | : |     .′:.|     .:|: :|:.ト     {    丶     / /: :.′:.:|    | : |    ′.:: !    ′..:|:.|: i 、      /     /イ : /: :|: :|    | : |     |:.′:|   .:.:.:|:.:|:.|:.:|  >、 `¨ ´   . イ:. :.|: /.:.:.:| : |     | : |     |:|: :.:|  ./: : :|: |:.l: :l/ヘ}  ー‐ .iヽ. /: :. :.j/:.:. .:.|.:.:.|     ! : !     li!: : |  ′.:.:.|: |:.|: :レ′ \  ∧ |:. :.: : : |: :. :.:.|: :.:|     lハ : | く`ー‐r.|: |:.|: :ト、   /^V! ∧.l\: : :. | : : : |: : :|   ′:.|      l: :l/  ヽ | |: |:.|: :| \∧ ol  ∧  `ヽ !:. : : | : : |  l:.l : |      |:.:|     ___ハ^i^i ト,〔 ̄`Y¨Y¨¨¨¨i   |: : . :ト: .:.:|   l/!.:.|      | :|     /  ̄レ_// ノ7: : : :l__.ト、: : : l   |.:.:. :.| !: : |    : :|      |:/     l      ヽ〉─‐'l |: :\/ <  |: :. :.| !.:.:.:|    : :      i}    /!      /\: :./  \_/′   |: : : | !:. :.:|   |: |      ′   /        /l  \  、   ′   |: : :.′:. :.:l   |: l    /     /        /. l\  ‘, | .//     : : / |: : : |   V .  /     /        /  |  \ ‘, |//    レ  |: :. :.| }}}}   562 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 03:04:31.93 ID:7i7N+xuoo 京太郎「っ――」  不意打ちだった。  あらゆる意味で。  このタイミングでそんな、満面の笑顔とか。  ショゲてても、ムッとしてても可愛い癖に――じゃなくて。 京太郎「……脈絡なくねぇ?」 憧「え、別におかしくないでしょ。疎遠になってた友達とまた遊べて嬉しいって話だから」 京太郎「いやいや。の割にはシリアスっていうか、えらいアンニュイ入ってたんですけど」 憧「そうかな……まあ、懐かしい場所だから多少はね?」 京太郎「えー」  あっさり流されてしまった(川だけに)。 566 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 03:37:49.54 ID:7i7N+xuoo 憧「しずもたまには気が利くなー。リフレッシュには持ってこいだよね、ここ」 京太郎「それは否定しない」  んー、と伸びをする憧。  倣って俺も深呼吸。  スガスガしい気分になれた(須賀だけに)。 憧「あたしね」 京太郎「ん?」 憧「こう見えて結構、地元に愛着ある方なのよね」 京太郎「ほう」  確かに見えない。  いかにも俺ら東京さ行ぐだって感じの、THE・ギャルである。 憧「確かにとんでもない田舎だけどさ。田舎には田舎のいいところって、当たり前にあるもんだし」 憧「だからね、さっき京太郎がこの場所に感動してたのを見て……何気にちょっと、嬉しかったりして」  アンニュイモードが解除されて気恥ずかしいのか、照れ笑いで頬を掻く。 567 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 04:14:45.61 ID:7i7N+xuoo 憧「自分が好きなものを誰かも好きになるって、『好き』を共有出来るって、すごくいいことよね」 京太郎「俺なんかとでも共有出来たら嬉しいのか?」 憧「ばーか、こんな時に限って卑屈にならないでよ。いくら京太郎が金髪ドスケベクソゲス野郎でも関係ないわよ」 京太郎「アッハイ」  落ちてこない。腑に。  喉の辺りで魚の骨ライクに引っ掛かってるよコレェ。  あと、金髪は関係ないだろ金髪は! 憧「……まぁ、そんなんだからさ。折角の機会だから言っとくけどさ、」 京太郎「ん?」  我に返れば、何やら口ごもっている憧さん。  タイミングを計るように俺の反応を窺っていた。 憧「あ、アンタがいつまでここにいるつもりか知らないけど――」  そして神妙な顔で、 #size(15){#aa{{{                 /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .\                /. : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : . : .ヽ             / : . / : . : . : . ,. : . : . : .i. : . : . : . : .ヽ . : ',           , 'ニ/. : .:,'. : . : . : . :i . : . : . : |. : . : . : . :、. :! : ._{_}ミ ヽ          // /. : . :i: .,' . : . ,':/! . : . : . : |. : . : . : . :.:i .|: イ:|  \: \ .      //  .,' /: . :| :| ./: . |/ | |:ノ: .ヽ、 |: . : . : . : .:.|: |r:{: .|   \: \ .    /:, '    /:/! : .:.| .|/| :|: | ,|イ : . : . : ト:、{ :i:.:| : i: |: |/| : |     \: `. 、     /:/     !:| | :i . :!:.∧.斗匕 圦 : . ト : | ヽ`{:十t}: } :|: !: i |        ヽ: . :i .   /:/     |:!|:| . |.:|:{x示㍉xミヽ\:{ ヽ{xテヤ示xV!: :!,'.: .| |        ヽ:.|   「――もっとたくさん、いろんなものを好きになって欲しいな……って」   ,' :i      {! .|∧: :! 圦 {トイ_刈`    ´{トイ_刈 灯:.:| : . :| |         |.::|   | :|       |:i :ヾ|: :{ 乂こソ      乂こソ |: :!|. : . :l |          !: |   | :|        |.| . : |:从 :xx //////xx  | :|ノ . : . |:.|        |.::|   | :|       |l.|: . : |:.{ム "゙    '     ""゙  | :|: . : . : |: |      |:|   |: |      i| i!: :. :.|: |:.:ヽ.      __       イ:.|: |. : . : . :|: |        |.|   | :|      l|:.:| : . : | :|: .|: > .  ´ `   イ:.:..!.:|: | . : . : . |: |         |.::|   |: |     l|: . !.: . :..|: :i:.:|: . : r‐|`  -‐ ´ |入.:.|:.| :|. : . : . : l: |         !: |   | :|       l|: : |: : . : !_ l:_| _/ \    /   \j :!: . : . : . :|: |       |:|   |: |     |: : ,:|. : . : |ヽ{ |     /`Yバ      ノ/|. : . : . : . l: :|        ! :|   | :|    |:, イl: . : . .|   ヽr──ミ、__彡──y'  |. : . : . : :/ヽ:!     |:|   |: |   /  /. : . : .j    {    { }     } |: . : . :./   \      ! :| }}}} 572 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 04:44:53.95 ID:7i7N+xuoo  そんなことを言うので、 京太郎「ぷっ!」 憧「なぁっ!? な、なんで笑うのよ!?」 京太郎「わ、悪い……幼馴染みって考えまで似るもんかと思っ、て、な……っ」プルプル 憧「なに訳わかんないこと言ってんの! 人が素直に気持ちを伝えたっていうのに……!///」カァーッ 京太郎「えっ素直!? 今ので!?」  俺の知ってる素直と違う。  そこに、 穏乃「おーい! きょーたろー、あーこー! そろそろ一緒に遊ぼーよー!」  穏乃の声。 京太郎「あいよー! 今行くー!」チャプッ  こちらも返して川に再突入。  休憩の為に戻ってきた筈だったが、すっかり話し込んでる内に体力も回復していた。  心なしか足も軽い。 憧「ちょ、待ちなさいよ! まだ話は終わっちゃあ!?」ツルーン  カンフースターかな? 573 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 05:11:35.85 ID:7i7N+xuoo  サインでも貰おうと思って振り返る。  憧が宙を舞っていた。 憧「わっ、ゎ、わー!?」 京太郎「ヮーォ」  なんてことだ、憧はカンフースターだったのか(錯乱)。  いや落ち着け。んなわきゃない。  察するに、初めて入った水の冷たさに驚き、ついでに苔で足を滑らせでもしたのだろう。  で、舞いっちんぐ。  おk、把握。  ちなみにここまでの思考に要したタイムは僅か0.05秒に過ぎない。  では、推理プロセスをもう一度見てみ 憧「ふぎゃあ!?」ドーン 京太郎「ぬわーっ」  着弾。 574 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 05:51:57.54 ID:7i7N+xuoo  だが慌てない。  “憧係”はうろたえない。  両腕を広げ、憧の身体が左右に逸れることを阻止。  わざと片膝立ちになり、足腰に力を込める。  結果―― 京太郎「っ……ふぃー」  ――見事にキャッチ成功。  お互い、足元が濡れた程度で済んだ。  ぐっしょり重いが、被害としては最小限だろう。  ……しかし奈良に来て以来、女子キャッチング能力に磨きがかかっているような。  長野で基礎を身に着けてはいたが。  で、 憧「……」 京太郎「憧?」 575 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 06:18:08.22 ID:7i7N+xuoo  さっきから無反応なのだ。  ちらりと、目を見開いているのは確認出来る。  しかし沈黙。そして硬直。  俺のシャツの胸元に顔を埋めている。  もしかして怖かったのかな。  川に入るなりのハプニングだったし、前のめりに倒れたら顔とか怪我する可能性だってあったもんな。  よし、気を落ち着かせてやろう。 京太郎「憧、ゆっくり深呼吸してみろ」 憧「ふきゅっ!?」  はい「ふきゅっ」いただきました。  これはパニクってますね。うん。 憧「い、い、い………………いいの?」 京太郎「おう、ゆっくりな」 憧「すーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」 京太郎「ゆっくりな!?」 598 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 22:06:38.37 ID:7i7N+xuoo 憧「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ………………は、あぁあっ、ぁ、あぁぁ……っ///」プルプル  震えてらっしゃる。  これは寒いとか怖いとか関係ないな。酸欠だろう。 京太郎「何やってんだよ。吸ってばかりじゃなくてちゃんと吐き出せよな」 憧「きゅっ!? ちがっ、これは……か、嗅いでなんかないわよ!」 京太郎「誰も言ってねえよ」 憧「だって昨日の今日っていうか火曜の土曜でどうしても意識しちゃうじゃないしかもなんか前より匂いがキツくてでも不思議と嫌だとかは感じなくてって別に感じてなんかないったらぁ!!///」 京太郎「ここではリントの言葉で話せ」  そこに、 穏乃「憧ー! 大丈夫ー!?」ザブザブ  また穏乃の声。 憧「へっ、わぁっ!?」バッ  それで我に返った憧が慌てて俺を突き放す。  というか、突き放れる。  俺はしっかり構えていたのでバランスを崩さなかった。  しかし憧は、 「「あ」」 ザパーン 599 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/28(月) 22:54:32.67 ID:7i7N+xuoo  間抜けな音と共に小規模な水柱が上がる。  憐れにも尻から川に突っ込んだ憧だった。 憧「ったた……やだもう冷たー……」  冷たいでしょうねぇ。  穏乃と合流して駆け寄る。 穏乃「憧!」 京太郎「ケガしてな……い、か……」ハッ 憧「それは平気……って京太郎? なに固ま……ってぇ!?///」ハッ  川+転倒=濡れる  服+濡れる=透ける  跳ねた水が憧の胸元を僅かに濡らし、その下の花柄を透けさせていた。  ありがとう大自然。 憧「み、み、み、~~~~~っ……///」プルプルプル  震えてらっしゃる。  これは寒いとか怖いとか酸欠とか関係ないな。  怒りだ。 憧「見るなぁあああああーーーーーーーーーーっ!!!///」バシャーーーン!!  怒りの八ツ橋……もとい、八つ当たりスプラッシュが俺と穏乃に襲い掛かった。 612 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 00:47:20.22 ID:xb4EiLFJo …… ………… ……………… 憧「こ、こっち見たら許さないんだからね! 絶対だからね!?」モゾモゾ 京太郎「分かってるって……」  流石の俺も命は惜しい。  振り向いたりしませんとも。  例え背後で、同級生の女の子が二人も裸で特大バスタオルにくるまっていたとしてもだ!!! 京太郎「………………」  それなんてエロゲだよ……  買うよ。メディオで予約するよ。  憧&穏乃の裸エプロンB5リバーシブル下敷き欲しいよ。  そういえば奈良に来てからエロゲーもすっかりご無沙汰だ。  最後にやったのはなんだっけな。  『炎の生乳幼馴染み』だったか、『先生はハードオナニスト!?』だったか。  買っただけでインストールすらしてないゲームもあったな。  やらなきゃ(使命感)。 618 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 01:07:10.57 ID:xb4EiLFJo 憧「ふぁ……は……ふきゅしょい!」  え、今のくしゃみ? 穏乃「大丈夫?」 憧「ん゛ー。着替え持って来てて良かったわ……」ズビッ  どこまで用意周到なのか。  まあ最終的には全身ずぶ濡れだったからな。  備えあれば憂いなしとはよく言ったものだ。 憧「……てか、なんで京太郎は全然濡れてないのよ」 京太郎「オレェ?」  恨めしそうな声が聞こえた。  つい振り向いたりしないよう注意しつつ、 京太郎「答えは簡単だ。何を隠そう――俺は水遊びの達人だからなッ!!」ビシィ 憧「はいはい」 京太郎「冷たい!」ガーン 622 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 01:27:50.78 ID:xb4EiLFJo 穏乃「でもほんとにすごかったよね。憧の攻撃をこう、シュシュッと避けて!」シュシュッ 憧「コラしず動くな! タオルが落ちるから!」  落ちろ。 憧「じっとしてなさいってば。ちゃんと拭けないでしょ」ゴシゴシ 穏乃「うぇひひ、くすぐったいー」  うーん、声を聞いているだけでも和むな。  やっぱりこの二人は仲の良い姉妹みたいだ。  宥さんと玄さんが実の姉妹で、レジェンドと鷺森部長も……うん、スール。  つまり阿知賀学院麻雀部は三組の姉妹を擁しているんだな。  でっていう。 憧「ぅーゎー、下着までぐっしょり……」  下着までぐっしょり(意味深)。  男に免疫ない癖に、たまにアブない発言するのはやめて欲しい。  いや、免疫ない故に、かもしらんけど。 624 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 01:51:13.47 ID:xb4EiLFJo 穏乃「憧も水着なら良かったのに」 憧「バカ言うんじゃないわよ、風邪ひくっての。それよりアンタ、ジャージは?」 穏乃「え? えーっと……そうだ、京太郎に預けてたんだ!」 京太郎「オレェ?」  言われて思い出した。預かってました。  でも今は手元にない。  どこかに置いたんだ。 京太郎「むむむ………………あっ!」  更に思い出した。  そうそう、近くの背の低い木の枝に引っ掛けてたんだっ―― 京太郎「れ」  ――ない。  何故にWhy?  視野を広げる。  あった。  けど。 京太郎「あっれぇー……」  川の中だった。 625 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 02:01:13.88 ID:xb4EiLFJo 京太郎「……」 穏乃「京太郎ー? じゃーじー」  どうしよう。  とりあえず川に入ってジャージを回収する。改修はしない。  ビチャビチャだった。 穏乃「どうしたの?」 京太郎「………………」  無言で振り返る。  目は瞑って、ジャージを前に突き出して。 憧「あ!」 穏乃「あー」  二人の声が、耳でなく胸に痛い。 京太郎「……すまん穏乃。監督不行き届きだった」 穏乃「気にしないでいいよ、わざとやったんじゃないでしょ?」 京太郎「そりゃそうだが……」 626 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 02:45:06.77 ID:xb4EiLFJo 憧「でもどうするの? あたしも流石に一人分の着替えしか持ってきてないよ?」 穏乃「それは……うーん……」 京太郎「――俺にいい考えがある!」  声を張り上げた。  なんとかしなきゃ――その一心だった。 憧「なんかそれ、すっごいヤな予感がするんだけど……どうするつもり?」 京太郎「こうする!」  ぬぎっ。 憧「ふきゅっ!!?」ビクーッ 穏乃「ゎ」  羽織っていたシャツと、中のTシャツを素早く脱ぎ去る。  初夏の風が素肌に触れた。 憧「うそうそやだっ、あたし達裸なんだよ!?」 憧「ナニ!? ナニする気!? 野外で!?」 憧「こんなところで三人でとか……ダメ、ゼッタイ!!」  なんか憧が元気だった。 634 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/29(火) 05:59:54.00 ID:xb4EiLFJo  だが、お陰で位置が分かった。 京太郎「穏乃!」ポイス  目を開けずにTシャツを放る。  「わわっ」とか聞こえたが、多分キャッチは成功しただろう。 穏乃「京太郎、これって……?」 京太郎「それで良かったら着ててくれ」  今度は「ふきゅっ!?」とか聞こえた。何故だろう。 穏乃「いいの?」 京太郎「ああ。俺は上着のボタンを留めればいいし、これで急場しのぎにはなるだろ」 穏乃「ありがと! よいっしょ……」スポッ 京太郎「どうだ?」 穏乃「いい感じ。見て見て!」  と言われたので目を開ける。  真正面に、俺のTシャツ一枚を身に着けた穏乃が立っていた。 穏乃「えへへ、やっぱ京太郎のはおっきいね」ダボーン 京太郎「ちょっと汗臭いかもしれないけど我慢してくれな」 穏乃「くんくん……うん、大丈夫!」 京太郎「わざわざ嗅がなくていいからな!?」  そんなやり取りをする俺達を、バスタオルを巻いたまま硬直した憧がガン見していた。  はよ着替えろよ。 658 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/30(水) 00:14:00.36 ID:m9ixCsVEo …… ………… ……………… ザッザッザッ...  帰路は三人で横並びになって歩いた。  中心に穏乃、左右に俺と憧。  端から二人を見る。  全身まるっと着替えた憧はいいとして、問題は穏乃だ。  濡れた髪は括らず、服はTシャツのみ。裸足に靴を履いている。  事情があるとは言え、つくづく山でする格好ではない。  ていうか、 京太郎「穏乃?」 穏乃「んー……?」フラフラ 京太郎「……ひょっとして、眠いのか?」 穏乃「んー……」フラフラ  子供か。 662 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/30(水) 00:30:58.24 ID:m9ixCsVEo 憧「危なっかしいなぁ……手握ったげよっか?」 穏乃「んーん、だいじょおぶー……」ウツラウツラ  まるで大丈夫そうじゃない。  放っておけば、今にもブッ倒れてしまいそうだ。 京太郎「しょーがねーなー」ガシガシ  頭を掻きながら前に出て、穏乃に背を向けたまましゃがみ込む。 京太郎「ほら、乗れよ」 穏乃「ぅ? いいの……?」 京太郎「いいよ。ちょっとしたトレーニングになりそうだしな」 穏乃「……えへぇ。ありがとー」 トテトテ ピョンッ 憧「ぶっ!?」 京太郎「ん? どうした憧?」 憧「お、お尻が……。………………ごめん、なんでもない」 京太郎「?」 憧「人気のあるところまで下りたら起こさなきゃ……」プルプル 京太郎「???」 穏乃「ん~……♪」ゴロニャン 668 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/30(水) 00:48:03.76 ID:m9ixCsVEo …… ………… ……………… ザッザッザッ... 穏乃「すー……すー……」zzZ  二つに減った足音と、代わりに増えた耳元の寝息を聞きながら山を下りていく。  つーか、穏乃、軽っ。  仮にも人一人を背負って下山なんて無茶かと心配していたが、杞憂に終わりそうだ。  バカ軽だよ。  手で支えてる太ももだって、こんなに細くて…… サワサワ 穏乃「ゃあ……っ」ピクン 憧「何してんの!!」ズドーン 京太郎「ギャース!!」メコーン  ノーガードの顔面に強烈なパンチを頂戴した。 京太郎「今の゛は俺が悪゛かっだでず」 憧「当然でしょ」フンッ 669 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/30(水) 01:05:46.96 ID:m9ixCsVEo ザッザッザッ... 京太郎「し、しかし今日は楽しかったなー」 憧「露骨に話逸らそうとしてる……」ジトー 京太郎「楽しかったナー!!」 憧「……そうね。あたしも楽しかった」 京太郎「早速ひとつ、好きなものが増えたぜ」ニッ 憧「い、いちいち報告しなくていいからっ」 京太郎「今度はみんなで来たいよな。もうちょっと暑くなってから」 憧「………………水着が目当てでしょ」ジトッ 京太郎「楽しかったナー!!」 憧「誤魔化し方ヘタすぎだから!」ビシッ  ――そんなこんなで。  賑やかに終わりを迎えつつある、三人のデートだった。 670 名前:5月18日(土)[saga] 投稿日:2013/10/30(水) 01:16:34.33 ID:m9ixCsVEo ◇  ――穏乃は――  実は途中から起きていた。  夢と現の中間に留まり、太ももを撫でられた拍子に目が覚めたのだ。  しかし京太郎の背中がとても心地良かったので、  ――そのうち穏乃は考えるのをやめた。 【TO BE CONTINUED...】 ---- #bold(){ 【須賀京太郎のステータスが更新されました!】  称号:金髪ドスケベクソゲス野郎&font(red){(new!)}  憧への印象:...→テスト頑張るな。全力で!   →郷土愛っていいよな&font(red){(new!)} 【新子憧のステータスが更新されました!】  称号:混線電波少女&font(red){(new!)}  京太郎への印象:...→テスト頑張って。ほどほどに   →野外ダメ。ゼッタイ。&font(red){(new!)} 【高鴨穏乃のステータスが更新されました!】  京太郎への印象:...→たまにイジワル   →ずっとみんな一緒だよね&font(red){(new!)} }

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