「さて、と。これからどうしましょうか」

 新都の一角、蝉菜マンション付近のビル街。そこに一組の少女がいた。
 一人は緑の髪をしたポニーテールの少女。名を園崎詩音。この聖杯戦争のマスターの一人。
 もう一人は狂気に満ち、歪み切った表情をした少女。名を美樹さやか。詩音に付き従うバーサーカーのサーヴァント。
 この聖杯戦争で勝ち残るため、願いを叶えるために契約した者達である。

 聖杯戦争に乗り、他の参加者を全滅させて願いを叶える。それ自体は決定事項だ。
 だが、これからどう動くかはまだ決まっていない。
 他の参加者を積極的に駆逐するか、一時的に手を結んで戦力を増やすか。それともある程度減るまで待つか。

「あなたはどうしたい? バーサーカー……って、答えるわけないか」

 バーサーカーに問いかけるも、真っ当な返事など返って来るはずもない。
 そうなれば、どう動くかは自分で考える他ない。ならばどうするか。
 考えようとしたその時――――

 ――ヒュッ――

「ッ!」

 ――――音とともに、何かが飛んでくる。
 それに気付いた瞬間、ダム戦争での経験からか咄嗟に体が動いた。
 そのおかげで、大した傷にはなっていない。せいぜい右腕にかすり傷が付いた程度だ。
 見ると、飛んできたものの正体は一本のナイフ。それが意味する事はすなわち、他の参加者に狙われているという事。

「バーサーカー、あっちに攻撃して!」

 それを理解する瞬間、バーサーカーに攻撃を指示。
 道具作成のスキルで剣を何本も作り、攻撃が飛んできたとおぼしき方向へとでたらめに投げつける。
 方向はさっき音がした方を指示。攻撃の音がしたという事は、敵はその方向にいるという事だ。
 すると、その方向――――蝉菜マンション屋上から金属がへし折れるような音がした。やはり敵はそこにいる。
 マンション屋上からの精密な投剣をしてくる相手だ。ならば遠距離攻撃ではどうしたって不利。
 ならば、やるべき戦い方は――――距離を詰めての接近戦のみ!

「やっぱりあそこか。バーサーカー、行って!」
「■■■■■■■■!!」

 指示を聞き、投げずに残っていた剣を二振り持ったバーサーカーが駆ける。
 咆哮と共に、バーサーカーが空中を足場に蝉菜マンション屋上へと跳び――――見つけた。
 バーサーカーの視界には、ハートのアクセサリーをつけた金髪の男。場所は一致している。
 周囲に転がっているのは、叩き折られた自身の剣。先程剣を迎撃したのはこいつだという事がわかる。
 そして何より、サーヴァントを前にした彼女の本能が叫んでいる――――詩音の、そして自分の敵はこいつだ!


「まさか避けるとはな。マドカとは違ってただの人間ではないという事か?」

 バーサーカーが空を足場に疾駆する。その姿を見ていた男がいた。
 名をDIO。つい先程詩音を攻撃した張本人であり、アーチャーのサーヴァントとしてこの聖杯戦争に参加した者だ。
 彼の周囲には、先程バーサーカーが投げた剣が数本、叩き折られた状態で転がっている。

 さて、彼がした事を解説するとこうだ。
 まず近くにあった金物屋に行き、ナイフなどの短い刃物を収集する。魔力で作る事も可能だが、その分の魔力消費からまどかに気付かれかねないので真っ先に却下した。
 最初はまどかのいる部屋から手に入れようかと思ったが、刃物は投擲用として使うのだ。無くしでもしたら包丁が減っている事にまどかが気付き、参加者減らしに感づくかもしれない。
 他の部屋から手に入れようとも考えたが、そこにはNPCが生活している。騒がれたせいで他の参加者に気付かれるのは少々厄介だ。
 よって、営業時間を終えて無人になった金物屋から手に入れることにした。次の日には泥棒が入ったと騒がれるかもしれないが、恐らく自分だとは気付かれないだろう。
 次に、マンションの屋上に上り、付近の参加者とおぼしき二人組を探す。
 その際に見つけたのは二人組の少女。片方は狂人の顔をしていたから、おそらくバーサーカーあたりか。
 見つかったのなら後は簡単、マスターらしき緑髪の少女を仕留めるべく、そちらにナイフを投げつけた。
 無論、消耗しないよう時は止めずにだ。承太郎のような同系統のスタンド使いというわけでもない、ただの一般人ならばそれで十分仕留め切れる筈。
 アサシンの真似事のような手ではあるが、アーチャーには一対一の真剣勝負などという思考は無い。過程がどうだろうと勝ちさえすればそれでいいのだ。
 ……誤算があったとすれば、避けられてしまったことか。そのせいでいる方向を知られ、あまつさえ反撃までされたのだから。
 おかげでザ・ワールドを使って迎撃し、音を立ててしまった。真名解放はせずに済んだのだから、ほとんど消耗はしていないのが救いか。

 バーサーカーに目をやると、かなりの速度で向かってくる。
 あの速度なら後数秒もしないうちに自分の前に現れる事は間違いない。
 ここまで来れば、先程のような奇襲なども通じまい。ならばやるべき事は、正面切っての戦闘だけだ。

「■■■■■!」
「いいだろう、相手をしてやるぞバーサーカー!」

 そして今、アーチャーとバーサーカー……否、DIOと美樹さやかは対峙する。
 左手の剣を投げつけ、さらに空中を足場に跳躍。その勢いのままにDIOへと突貫していくさやか。

「無駄ァ!」

 だが、それを読んでいたザ・ワールドを出して正確に剣を叩き落とす。
 先程から投剣で攻撃してきていたのだ、ならばそれを読めないはずがない。
 剣を迎撃し、続けて突っ込んできたさやかを弾き飛ばす。
 が、さやかは空中で素早く体勢を立て直すとマンションの屋上に着地、DIOへと向かって駆けだした。

「フン! 突っ込んで来るしか能のない猪ごときが、このアーチャーに勝てるとでも思ったか!」

 その場を動くまでもないとでも思っているのか、短剣を投げて迎撃する。
 DIOにとっては狂人など、まともに相手する価値すらないという事か。
 だが、今DIOに向かってきているさやかはただの狂人ではない。聖杯戦争の、バーサーカーのサーヴァントなのだ。
 投剣を避け、あるいは迎撃してDIOへと接近、そのまま斬りかかる。
 その剣をザ・ワールドで叩き折り、そのままさやかも叩き潰すべくザ・ワールドの拳を繰り出した。

「無駄無駄――――」
「■■■■――――」

 左の拳で剣を折り、右の拳を繰り出すDIO。
 右の剣が折られた瞬間、左手に剣を作り出して振るうさやか。

「無駄無駄無駄無駄――――」
「■■■■■■■■――――」

 それだけにとどまらず、さらに右、左、右、左と拳を振るうDIO。
 その速度は、さながら拳が大量にあるかのように見える程だ。
 対するさやかも道具作成のスキルを使い、作成・攻撃・破棄のサイクルで剣を繰り出す。
 足元には真っ二つにへし折れた(あるいは砕けた)、ついさっきまで剣だった金属が加速度的に増えていく。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」

 それらはどんどんと速度を上げ、ついには拳と剣の嵐が激突しているかのようになっていた。
 ソウルジェムがいくらか濁ったが、DIOはそれに気付いてはいない。
 また、さやかはさやかで気にも留めない。そもそもバーサーカーになった時点で、力をセーブするという『理性ある行動』は取れなくなったのだから。

 ……お気付きであろうか。この激突、さやかの方が不利であることに。
 確かにさやかはバーサーカーとなったことで、身体能力が跳ね上がっている。ザ・ワールドのラッシュを迎撃できることが何よりの証明だ。
 だが、それでもなお単純なパワーではDIOには敵わない。いくら迎撃できても、受けきれなければ意味など無い。
 攻撃を受けきれなかった分の威力は、さやかの体を蝕み続けている。
 単純なスピードならさやかの方が上なのにも関わらず迎撃だけに甘んじているのも、威力がありすぎて迎撃に全力を注がないとすぐに破られるからだ。
 そして、ついにその時が来た。

 ド ゴ ォ !

 クリーンヒット。
 ザ・ワールドの一撃を胸に受け、さやかの体が吹き飛んだ。
 吹き飛んだ先にある給水塔へと激突し、給水塔がひしゃげて水が噴き出す。
 だが、それでもDIOは容赦しない。用意していた短剣類を次々取り出し、給水塔へと投擲する。
 それに感付いたさやかが避けようとするが、もう遅い。

「もう遅い、脱出不可能よォーーーーッ!」

 ナイフがまず一本さやかの頭に突き刺さり、それに続くかのように大量の短剣が突き立てられた。
 まずは一人、これだけやれば死んだはずだ。
 何せ体中に刃物が刺さっているのだ。承太郎の時のように服の下に雑誌をはさむという手も、こんな薄着では取れはしまい。
 例えサーヴァントとしての補正があったとしても、頭にまで突き刺さったのだ。普通なら間違いなく死ぬ。

「サーヴァントといえど、所詮は考える事すらできん猪か。分かってはいたが、恐れるに「――――■■■■■■■■!」

 ――――そう思いザ・ワールドを消して去ろうとしたDIOに、あるはずのない声が聞こえた。
 咆哮に気付いて振り向くと、給水塔からさやかが手に向かってくるのが見えた。
 全身に刺さった短剣は走る振動で落ち、その直後に傷がふさがっていく。
 それによる魔力消費で腹のソウルジェムが少しずつ濁りを増すが、構わずに仕留めにかかっていった。

 さやかが生きていた理由だが、これは至極簡単なものだ。
 まず、魔法少女の本体は彼女の宝具でもあるソウルジェムであり、これが破壊されない限り死ぬことはない。
 次に、さやかのソウルジェムは変身中は腹部についている。
 ……さて、先程の投剣は一本でも腹部に当たっただろうか?
 答えは否。両腕を腹の前に出し、ソウルジェムだけは死守したのだ。
 ソウルジェムさえ無事なら、痛覚遮断と癒しの祈りによる自動修復でいくらでも戦える。狂っても尚、それだけは理解していたのだ。

「何ィッ!? ば……ばかなッ! 奴は人間ではないのか!?」

 あれで生きているとは思っていなかった。DIOの表情がそう言っている。
 自分のような吸血鬼ですら、頭を破壊されれば死ぬ。ましてや、人間なら例えサーヴァントだとしても頭を破壊されるのは致命傷だ。
 だが、現にさやかは生きている。驚いた一瞬の隙に距離を大きく詰めてきている。
 このままではいくらDIOといえど、直撃は免れない。使いたくなかったが、こうなってしまったら仕方がない。
 迎撃せずに止められる唯一の手――――

「チィッ、仕方がない――――世界(ザ・ワールド)!!」

 ――――つまりは、真名解放を行う。
 その瞬間、世界の全てが静止した。


【新都・蝉菜マンション屋上/深夜】
【アーチャー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康・『世界(ザ・ワールド)』効果発動中

【バーサーカー(美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:回復中・ソウルジェムに濁り(小)


「ん……」

 戦いが始まって少し経った頃、蝉菜マンションの一室。
 そこでは、先程眠ったばかりの鹿目まどかが目を覚ましていた。
 眠っていたはずの体には、何故だか多少の疲労感がある。

「あれ……アーチャーさん?」

 と、そこでアーチャーがいない事に気付くまどか。
 最初は霊体化しているのかとも思ったが、それなら起きた時に気付いて声をかけてきてもおかしくない。
 寝ぼけ眼をこすり、ベッドから降りて部屋の中を探し始めるまどか。

「アーチャーさーん? いないなあ……どこに行ったんだろ?」

 部屋中を探したが、アーチャーらしき姿は見えず声もしない。
 部屋にいないとなると、やはり外だろうか。
 そう考えたまどかは、アーチャーを探すべく外に向かおうとする。

 そして外に出ようとした瞬間、部屋のドアが開いた。


「く……ハァ、ハァ……」

 バーサーカーが走り去ってしばらくした後。詩音は蝉菜マンションに向かっていた。疲労しているのか、その足取りは重い。
 右手にはバーサーカーの剣。先程突っ込んでいった時、道具作成で作ったものが一本だけ残っていたので自衛用に拾っていたものである。

「サーヴァントとの契約って、意外と疲れるものなんですね……ここまできついとは思ってませんでしたよ」

 ――――実は彼女のサーヴァントには一つ弱点がある。それは何か?
 思考力の低下? 否。それと引き換えに身体能力が跳ね上がっているので、それは弱点にはなるまい。
 他と比較しても並程度しかない筋力と耐久力? 否。このバーサーカーなら耐久力は宝具が補ってくれるし、何より高い敏捷性でカバーが効く。
 ならば何か? それは燃費が非常に悪い事。バーサーカーである以上、こればかりはどうしても避けられない弱点である。
 現に過去の聖杯戦争では、バーサーカーの敗因がマスターの魔力切れというケースが存在するくらいだ。
 ましてや、バーサーカーのマスターは元々魔術師でもなんでもないただの少女だった詩音なのだ。当然慣れていない以上、たとえ大したものでなくとも負担を大きく感じてしまう。
 だから、どこかで休むべきだという体からの警告に従わざるを得ない。
 そこでなぜ蝉菜マンションなのかだが、単に近くにあったからだ。

「とにかく、どこかで休まないと……」

 そう呟き、一番近くにあったマンションの部屋に入ろうとする詩音。
 一刻も早く休みたい。その意思は彼女から注意力を少なからず奪っていた。
 アーチャーが警戒した騒ぎを起こすデメリット、それが思考の外に行ってしまっているのが何よりの証明だ。
 それに気付かないままドアを開けた先にいたのは、現在バーサーカーと交戦中であるサーヴァント・アーチャーのマスターである鹿目まどか。
 詩音にとっては現状真っ先に倒すべき相手であった。


【新都・蝉菜マンション一階/深夜】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康(残令呪使用回数:3)

【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:消耗(小)・右腕にかすり傷(残令呪使用回数:3)
※さやかの剣を一本持っています




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