No.23


「……本当に、どういう事なのかしら」


新都オフィス街の中心部に位置する超高層ビル・冬木センタービル。
その屋上に佇む一人の小さな影。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、ここに送られるまでに見た展開に
いまだ納得できず、思案を続けていた。

聖杯戦争。
自身もかつてアインツベルンの代表としてバーサーカーのサーヴァントと共に参加していた
願望機を巡る魔術師達の生死をかけた争い。
その戦いの果てに自身は敗北し、様々な顛末の末に聖杯は破壊され全ては終結したと
思われていた。

だが自分は再び同じ名を持つ戦いに呼ばれる事となってしまった。
しかし腑に落ちない事も多々ある。
この聖杯戦争は自身が知る聖杯戦争とは明らかに何かが違っていた。
かつて自分を聖杯の器として利用しようとした監督役の神父・言峰綺礼。
あの男はシロウに倒されたはずである。
それが何故あの場に再び現れたのか。
死者が蘇るなど―――それこそ第三魔法でもなければ不可能な事象ではないか。

それだけではない。
本来ならば聖杯戦争で呼び出されるサーヴァントは7つのクラスに割り当てられた7人の
はずである。
それがいきなり倍以上の25人も召喚されるとはどういう事なのか。
此度の争いは、それだけの英霊が『英霊の座』に戻ろうとする力が必要だというのか。

考えれば考えるだけ疑問が湧き上がってくる。
そもそも現状では圧倒的に情報が少なすぎるのだ。
果たしてこの聖杯戦争は自分の知るものなのか、はたまた全く違う争いなのか。
それを知るためにも行動を起こさねばなるまい。

既に自身の身は幼い頃に施された調整とサーヴァントの魂を取り込んだ反動で
本来短い寿命がさらに短くなっている。
もしもこの場で不測の事態が起きればそれこそ―――――
「……そんなの嫌。少なくとも、シロウに会う前に死ぬ訳にはいかないもの」
あの場で確実に確かめた訳ではないが、複数のマスターとして呼ばれた者達の中にイリヤは
衛宮士郎らしき影を見たような気がした。
気のせいかもしれないが、もしも本当に彼であればこれほど心強い物はない。
「あれが本当にシロウなら、きっとこの戦いを止めようとするに違いないわ」
だからこそイリヤは不安に駆られた。
彼が他者を救うために己の身を顧みず行動するであろう事は想像するまでもない。
もしも以前のように無茶をするようであれば―――――
もはや彼の肉体には騎士王の聖剣の鞘はないというのに。


「うん、まずはシロウを探そう。後の事はシロウと一緒に考えればいいわ」
行動の指針を決め、彼女はおもむろに後方へと振り返る。
「貴方にも期待してるわよ。お願いね、ランサー」


イリヤの背後に控えていたのは、人の身の丈を超えた巨大な影であった。
全身を堅牢な鎧に包み込み、鹿か鍬形を思い起こす頭部を守りし兜。
そしてその手には螺旋状の―――まるで巨大なドリルを思い起こす巨大な槍が握られていた。
見知らぬ一般人が見れば、鉄の巨人が現れたと驚き逃げ出す者が大半だろう。

「…………」
「……貴方も変なサーヴァントね。バーサーカーでもないのにさっきからずっとだんまりじゃない」
「…………」
「とにかく、まずはエミヤシロウっていう人間を探すために手がかりを集めるわ。ここが冬木市
ならシロウの家があるはずだからまずはそこに行きましょう。案内は私がするわ、いいわね?」
「…………!(コクリ)」

イリヤの言葉を理解したらしくランサーは彼女に傅き、そして頷いた。
イリヤは当初対峙したこのサーヴァントがその巨体からかつてのパートナーであった英霊
ヘラクレスのようなバーサーカーのクラスのサーヴァントかと思ったが、問いかけてみれば
首を横に振ったので消去法で問い続けてみたら、ランサーだという事が判明した。
何故かこのランサーは意思表示はするものの何を語りかけても寡黙なままだったのだが、
イリヤ自身この手のタイプはバーサーカーで慣れていたのであまり負担は感じずに済んだのが
幸運であった。

「…………」
「えっ? 肩に乗れってこと?」
「…………(コクリ)」
ランサーはおもむろにイリヤの前に己の手を差し伸べた。
彼の意図を理解したイリヤは掌の上に昇り、ランサーもそれを確認して自らの肩へと彼女を
優しくエスコートした。

ゴゴゴゴゴゴ……
「な、何この音……って、ええっ!?」
その直後、何やら背後から妙な音がすると思いイリヤが後方を振り返ってみた。
だがそこで見たのは予想を裏切る光景であった。
何とランサーの鎧の背面から俗に言うバーニアのようなものがせり出し、あろうことか
ゆっくりと地面からランサーの足が浮かび始めているではないか。
「ま……まさか貴方、飛べるの!?」
「!!(コクリ)」
力強く頷くとともに、ランサーはイリヤに視線を投げかけた。
まるで『しっかり掴まっていろ』とでも言うように。

ゴォォォォォォォォォォォ!!!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
次の瞬間、巨大な鉄の槍兵は天高く舞い上がり冬木市の上空を華麗に飛翔した。
鳥か、飛行機か、はたまた超人か。
いずれにせよこの鉄の飛行物体が槍兵の英霊だと看破できる者は地上にはいないであろう。
「あああ貴方、本当にランサーなのぉ!? ていうか、本当に人間なのぉぉぉ!?」
「…………」
あまりの事態にそうツッコまざるを得なかったが、相変わらず寡黙なままのランサーに対して
イリヤはそれ以上は言及することなく、振り落とされないように気をつける事に神経を使う
方が賢明だと判断する事となった。

かくして、一人のホムンクルスと一人の槍兵は天駆ける一陣の光となって、しばし冬木の空を
飛び続けることと相成った。


この時点でイリヤ自身は未だ彼の素性を知る事はなかった。
だが、彼を知る者がこの場にいれば間違いなく少女は『当たり』を引いたと思う者も少なく
ないだろう。


かつて絆の力で日ノ本を統一し、争い無き平和な世を築かんと奮迅した一人の三河武士がいた。
人知れず孤独を抱えながらも笑顔と優しさを絶やさず戦いを続けた彼の傍らに、必ず存在した
一人の武将がいた事を知らぬ者はいなかった。
あらゆる勢力からその力を恐れられ、第六天魔王の異名を持つかの人物すらその存在を
警戒し、危険視された武将。


人は彼をいつしかこう呼んでいた。
―――――――――『戦国最強』と。


【参加者No:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
【サーヴァント:ランサー(本多忠勝)@戦国BASARA】




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