No.9


聖杯より与えられたマイルーム、マンションの一室。
主の私室であるその部屋のベッドに二人の男女が存在した。
互いに会話はない。真名を除けば最低限の来歴、クラス名の交換程度は済ませた。
互いに抱きしめあうわけでもない。まだそのような仲ではないし、二人はあまりにも違いすぎる。

男はベッドに寝転がり、どこからか持ってきたのか美術書を読みふけり、
少女は膝を抱き、終わることなき苦悩に目を伏せていた。

アーチャーのサーヴァント、ディオ・ブランドー。そしてその主――鹿目まどか。


「――なぁ……マドカ。君はいつまで悩み続けるつもりだい?」


サーヴァント……アーチャーが美術書を閉じ、マスターである少女に語りかける。


「君の友達のことは、とても残念なことだったと思う。
 マミ、サヤカ、キョウコ――彼女たち魔法少女の戦いは、私にはとても想像がつかないほど過酷なものだったのだろう。
 それが自分の友達だったら私だって傷つく。もう立ち直れなくなるかもしれない」


――アーチャーの言葉はあくまで甘く優しい。


「魔法少女となり、不幸になった彼女たちを救いたい……それが君の願いなのではないか?
 自分で言うのもこっ恥ずかしいんだが、私は最強のサーヴァントだと自負している。
 君の命令さえあれば一晩で全員を倒すことも可能だろう。
 それなのになぜ君は迷うんだい? 願いはすぐにでも叶うというのに」

「――わからない。わからないよ……。 だってそれは、他の人をみんなやっつけて、そうやって叶える願いだよ!?
 そんなこと……ダメだよ……。ぜったい……よくないよ……」


少女――鹿目まどかは決意しきれていない。
夢のようであった聖杯戦争への誘いに応じても、そこからのさらに一歩が踏み出せない。
他者を殺戮することで願いを叶える。 友達思いの心優しき少女にはとても踏み出せる道ではなかった。
きっと多分それは――正義の味方を志した親友、美樹さやかを裏切ることになってしまうと思うから。

アーチャーはまどかの傷だらけになりながらも、今だ壊れぬ心に敬意を持って接する。
だからこそこの話をするのだ。 彼が今だ抱き続ける夢を――。


「『天国へ行く方法』があるかもしれない――」

『天国』。神や天使などがいて、清浄とされる、天上の理想の世界。
信者の霊魂が永久の祝福を受ける場所。
死後到達できるという理想郷。


「――死ねってことなの……?」

「いや、違う。私の言ってる『天国』とは『精神』に関する事だ。
 テレビや宗教なんかのインチキじゃない。本当だぞ?
 そもそも死んで『天国』に到達できるなら、私は今だこうして未練がましく英霊なぞやっていないさ」


アーチャーはようやく顔をあげたまどかに向き直ると穏やかに、夢を語る少年の声音で続ける。


「死ねって事じゃあないんだ。
 精神の「力」も進化するはずだ。
 精神の向かう所……そしてそれの行きつく所って意味さ。
 本当の幸福がそこにはある……『天国』へ行く事ができればな」

「……マミさんや杏子ちゃん、さやかちゃんも幸せになれるの――?」

「あぁ……君も含め、彼女たちも必ず救われる。私はこの方法こそが唯一全人類を幸福に導く方法だと確信している。
 ――幸福とは、無敵の肉体や、大金を持つ事や、人の頂点に立つ事では得られないというのはわかっているね?
 真の勝利者とは、『天国』を見た者の事だ…………。
 聖杯を手に入れ、私はそこへ行く」


アーチャーの『天国』の話は、聖職者でもないまどかには難しすぎたかも知れない。
何度もアーチャーの『天国』という言葉を半濁し、ようやく理解しかけたもののまどかは苦悩し続ける。

わからない。わからない――。わからない……。 

自分の成すべきことは? 自分は正しいのか? どうすればいいのか?
答えは出ない。長い思慮の果てにそれは見えない。


「だがマスターからの命令がない以上、私もその夢を諦めざるえまい。
 まぁ、幸い……君はさほど目立つ容姿をしていない。普段通り昼は学校に行き、夜はここで就寝する。
 それならば他のNPCと見分けもつかず、他の参加者に狙われることもないだろう。
 かえって私が近くにいては、マスターと悟られるかもしれんしな……。
 ……そう急ぐこともない。ゆっくりと考えてみればいいさ――」


それだけ言い残すとアーチャーは霊体化しまどかの前から姿を消した。
まどかは広くなってしまったベッドに横たわり、明日のことについて考える。

学校――聖杯戦争――サーヴァント――天国――。
さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃん、ほむらちゃん――。

戦いという非日常に身を置きながらも、まどかは今だそれに染まることもなかった。
さほど仲がいいわけでもない、黒髪の少女のことをなぜか思い出しながら、少女はまどろみの中に沈んでいく。


………………………………………



まどかが居を置くマンションの屋上……給水塔の上に立ち、吸血鬼DIOは夜の街を眺める。
――よく出来ているが全てが偽物。昼の賑わいも夜の星々の灯りも全てが虚構。
実を言うとDIOは……まどかに対しほとんど自分のことを話してはいない。
せいぜいが幼少期貧民街で生まれ育ったこと、そして父親に恵まれなかったということぐらいだ。
あまり話したくない過去だった。だがもちろんいくつか虚言も交えているし、あれはまどかの同情を引きたかったという面が大きい。
あの優しすぎる少女からの信頼を勝ち取るには、こういう手段も必要になろう。

魔女、魔法少女という異能の世界を垣間見たという点以外は、ただの少女に過ぎないまどか。
とてもじゃないが戦いに向いているとは思えない。ああいう人種は利用され骨の髄までしゃぶられ捨てられる類の人間なのだ。
マスターの乗り換えも考えたが、かえってああいう女は躾ければ素直に言うことを聞くようになるかもしれない。
それに聖人のように清らかであり続ける彼女が、いったいどのような道を選びとるかも興味はある。しばらくは退屈しのぎ程度にはなろう。

夜はマスターの就寝を待ち、、有象無象の輩を早いうちに減らしておくこととする。
単独行動は弓兵の得意分野……。アーチャーはマスターを伴わず、ただ一人で夜の戦場へと跳ぶ。



【参加者No:鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【サーヴァント:アーチャー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】




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